遠い遠い昔の記憶。白と黒で塗りつぶされた思い出の破片。
「なんであんた、そんなに熱心に石ころばかり集めてるの?」
黒猫は、常日頃から腹の内に抱えていた疑問を投げかけた。
「へ?」
黒猫の言葉に勢いよく振り向くのは鴉。そのくちばしに、猫の尻尾の先ほどの大きさの石をくわえていた。
なんでそんなことを聞くの? とでも言いたげに首をかしげる鴉。
「だって――あ」
カラン。
何か答えようとして鴉がくちばしを開くと、その隙をついてするりと石ころが逃げ出した。
カラカラカラ。
石は涼しげな音を立てて弾み、そのままどこかへ転がっていこうとする。あわててそれを追いかけようとする鴉に、黒猫はもう一度問いかけた。
「ねえ、なんでそんなに一生懸命に石ころを集めているの?」
鴉はその言葉に、追いかけるのを止めて振り向くと、首をかしげた。
「だって綺麗でしょ?」
「キレイ?」
今度は黒猫が首をかしげる番だった。黒猫は猫だから鳥ほど器用に首をかしげることはできないが、それでも懸命にひねってみせる。
「キレイ? その石ころがかい?」
黒猫には鴉の言葉が呑み込めなかった。どう見ても変哲もない普通の石ころである。むしろ、ごつごつしている分、武骨な印象さえ受ける。とても小奇麗とは言い難かった。
「うん、綺麗」
鴉は短くそう答えると、とてとてと石ころの転がった方へ歩いていく。そしてお目当てのものを見つけると、器用にくちばしの先でくわえて黒猫の元に戻ってきた。
「ほら」
今度はどこへも転がっていかないように、鴉は慎重に黒猫の足もとに石を置く。
カラン。
さっきと同じように透き通った音を奏でた石はしかし、今度はどこへも逃げずに黒猫の目の前に鎮座した。
「ね?」
あなたもそう思うでしょ?
目で訊かれて、仕方なしに黒猫はその石ころを観察する。
目を見開いて、目を細めて。
近くで見つめて、遠目で眺めて。
まじまじと石ころを見る。
しかし黒猫の目には、そこらに転がっているような小石と何ら変わりないように見えた。
どこがキレイなんだろう?
「綺麗な緑でしょ?」
なかなか同意を返してくれない黒猫に、鴉は噛んで砕いた優しい言葉を投げかける。
しかし、黒猫にはその言葉の意味はやっぱり伝わらないらしく、今度はさっきと逆方向に首をかしげ始めた。
もしかしたら。黒猫は思う。
もしかしたら、イロというやつかもしれない。
黒猫の主人が、ときどきそのイロというものについて話して聞かせてくれることがあった。
ゆったりとしたひじ掛け椅子に腰かけ、黒猫を膝に乗せ、花が野に咲き乱れる情景や木々が生い茂る山々の景色を、背中を撫でながら、ゆっくりと語る。彼女の話の端々に、草花が自由に生い茂る光景や、鼻の奥をつんと刺す木々の匂いを生き生きと思い描くことはできたが、彼女の言う、アザヤカ、だとか、アオだのアカだのといった単語が黒猫にはどうしても解せなかった。
黒猫の何とも薄い反応に、むー、と不満の声を漏らす鴉。鴉は鴉だから表情を作ることはできないが、もし鴉が一般的な妖怪や人間のような二本足で立つあの容姿をしていたなら、きっと眉根を寄せて口を尖らせて、いかにも不満ですとでも言いたげな顔になっていたに違いない。
鴉は、どうやってこの石の魅力を伝えよう、と思い悩みながら、石をくちばしで弄ぶ。
くちばしでつつかれて、コロコロと転がるミドリの石。屋敷の壁に並んだ大きな窓から入ってくる光を一身に浴びて、キラキラと光をまき散らしていた。
鴉はしばらくそうやって石を転がしていたが、どうにも黒猫が自分の意を解してはくれなさそうだ結論付けたらしい。かっぱらうように石をくわえて大きくその翼を広げると、勢いよく飛び立った。
風が巻き起こる。黒猫は思わず目をつむった。
そして黒猫が目を開けたときには、鴉はもう声が届かないほど遠くに飛び去っていた。黒猫は、ただぼうっとしながら鴉の姿を見送った。
壁に行儀よく並んだ大きなガラス窓から差し込んだ光が、鴉の翼を縁取る。力強い翼の曲線が光の粒子をはじく。
黒猫は、その姿をずっと見守りながら、思う。
キレイな石をたくさん集めている鴉は、やっぱり自分もキレイでアザヤカな羽根を持っているのかな。
黒猫は猫だから表情を作ることはできないが、その姿を想像するとなんだか不思議な笑いが込み上げてくるのだった。
>>>>>>>>>>
「あ」
それを自分の部屋の引き出しの奥底に見つけたとき、燐は思わず平手で額を打った。
「あちゃあ、こんなところにあったかー」
渋い顔をして、しかしどこか懐かしそうに引き出しからそれを取り出す。少し手のひらの上で転がしてから、窓から差し込む光へとそれを透かした。
燐の親指の先くらいの大きさのその石は、光に透かされて青みがかった緑色に光ってみせた。
燐は宝石というものには詳しくないが、それなりに高価なものなのではないだろうか。素人目に見ても、かなり値打のある代物であるように見える。
その翠緑色を、色々な角度から光を当てて楽しむ。少し傾けてやる度に、石はちらちらとその表情を変えた。
「うーん」
ひとしきり愛でると、燐はまた渋い顔をした。眉根にしわが寄る。
その昔。
燐も親友の地獄鴉である空もまだ人型へ変身できなかった頃。この宝石を巡って少しばかりもめたことがあった。
もともと空が見つけたものであるこれを、どうして燐が持っているのかと言うと。
そのいざこざの後、空が落として行ったのである。
あんなにこの石の素晴らしさを力説していたかと思ったら、飛び去った地点から十メートルもしないところにこの石を落っことしていった。しかも、当の本人はその事に気付かない。
さすがに燐は呆れた。鳥頭ここに極まれり。
「でも、」
燐も何を隠そう、今日ここで現物を目にするまで宝石のことを忘れていたのだから、空を笑ってはいられない。
あの出来事があった後、しょうがない、持って行ってやるか、と空の元までくわえていこうとした。燐にとってはどうでもいいような石ころだったが、空があんなに気に入っていた手前、さすがにそのまま放っておくわけにもいかない。そんなもんだから、空が居るであろう部屋までくわえて帰ったはいいものの、空はまだどこかに行っているらしく姿が見えず、かといってそこらへんに放り出しておくわけにもいかず、結局さとりに預かってもらうことにした。
燐としては、そのままさとりの手から空へ渡してもらえば一番楽なのだが、
「借りたものは借りた本人が返しなさい」
と、ぴしゃりと断られてしまった。変なところで義理堅いというか、融通が利かないというか(というか借りたわけではないのに)。そんなことを考えていると、その思考を読み取ったらしいさとりが怖い目で睨んできたので、燐はすたこら退散した。
石のその後について燐は知らない。そのまま忘れてしまっていた。
どうやら石を受け取ったさとりは、自分の机の引き出しの奥に仕舞っておいてくれたらしい。燐の部屋にある机は、もともとさとりの使っていたものだから、そこから出てきたということはきっとそうだ。
おそらく、燐が「空に返す」と言うまで仕舞っておくつもりだったのに、燐にも机に仕舞った本人であるさとりにも忘れられてしまっていたのだ。
「これ、どうしようかなあ」
燐はため息をつく。
悩むことはない、持ち主に返してやればいい。持ち主は忘れていたとしても、きっと喜んで受け取ってくれるはずだ。
ただ、問題は――
コンコン。
ノックの音が思考に滑り込んできて、燐は顔を上げた。数刻の後、静かに扉が開く。
「ああ、やっぱりここにいたのね」
開いた扉の影からひょっこり顔を覗かせたのは、燐の飼い主、さとりだった。
燐の姿を見つけると薄く微笑み、部屋の中へ入ってきた。
「まあ、あたいの部屋ですから」
にっこりと屈託無いように笑って、燐は言う。その笑顔とは対照的に、さとりはどこか浮かない顔をしていた。
燐はその顔色の理由にすぐに思い至る。
「やっぱり、ですか」
「やっぱり、よ」
ふう、と細いため息をつくさとり。いつもの達観した落ち着いた表情と違うその顔は新鮮ではあるが、似合わないなと燐は思った。
「……どうしたらいいと思う?」
「ふにゃ!?」
びっくりして思わず変な声が出てしまった。二本の黒い尻尾が、ピンと勢いよく空を向く。
「何を驚いているの」
いやいや、驚きますよそりゃ。燐は心の中で弁解する。
だって、まさかそんなにストレートに相談されるとは、思ってもみなかったんですから。
あのさとり様に。
いつだって周りの人に頼らず寄せ付けず、淡々と一人で物事を片付けてきたのがさとり様。
そのさとり様に、面と向かって相談事を持ちかけられたんですから。
「悪かったわね。冷血漢の鉄仮面女で」
「いやそんなこと思ってませんてば」
燐の鋭いツッコミに、さとりは口元に笑みを浮かべた。が、やはりそれもどこかぎこちなく頼りない。
やはり原因は――
「おくう」
燐がつぶやくと、さとりは神妙にうなづいた。
燐が宝石を返すのをためらっているのも、さとりが思い悩んでいるのも、空が問題なのだった。
◇◇◇
話は少しだけ遡る。
ついこの間のことである。
この地霊殿にずかずかと踏み込んでくる者がいた。
地霊殿と言えば、忌み嫌われた妖怪の住み処である地底の、その中でもさらに忌み嫌われた妖怪が潜む屋敷である。好き好んでわざわざやってくる奴など居なかった。
しかも、驚くべきことにやってきたのは一人の人間だった。ここで乗り込んできたのが例えば鬼などという強力な存在というのならともかく(もちろん鬼すらも近寄ることはないが)、乗り込んできたのは一人の人間の少女ときたものだから、さとりは随分と驚いたものだ。
とは言うものの、それ自体はどうでも良かった。さとりにしてみれば久しぶりの来客。久々に弾幕(や)り合えばストレス発散にもなるというものだ。
ただ問題は、人間の言う地霊殿へやってきた理由だった。
――地上に怨霊を湧かすな。
その言葉を聞いて、さとりは耳を疑った。さらに第三の目で見て、嘘を言っていないことを知ると、今度は第三の目を疑った。
地上に怨霊が漏れ出している?
怨霊の管理をしているのはさとりのペットの燐だったが、さとりはその仕事ぶりを信頼していた。身内に対する贔屓目で見ていることを差し引いても、燐は責任感の強い猫だと思っていた。
その燐が、何か失敗でもして怨霊を外に出してしまったのだろうか?
ここでいくら考えたところで原因などわかるはずもなく、結局その人間を旧地獄跡へと案内して、そのまま調査させることにした。
調査の結果、確かにこの異変が彼女のペットたちの仕業であることが判明した。
どうしてこんなことをしたのか。異変を巡って、ペット二匹に大なり小なりの心情の機微はあったようだったが、理由はどうあれ、さとりは二匹を最終的には許すことに決めていた。
二匹のしたことはもちろん許されるべきことではない。地上を侵略しようとするなんてもってのほかだし、そのことに気付きながら秘密裏に片付けようとするのも問題である。一歩間違えば大惨事を招いたことだろう。その事に対してはしっかりと叱り言い聞かせるつもりであるが、ちゃんと反省しているようであればすぐに開放して、今まで通りの仕事についてもらうつもりだった。
ましてや「処分」なんてことは、毛頭考えていなかった。
だから、燐の心の中に「処分される」などという恐怖を読み取ったとき、さとりは思わず笑ってしまったものだ。
――安心して。
異変の後、初めて燐と対峙したとき、そういう気持ちを込めて、叱るよりも先にまず頭を撫でてやった。
こっぴどい罰が待っていると思っていた燐は、手のひらの感触にビクッと尻尾の先まで体を震わせた。さとりはそれでも、丁寧に燐の頭を撫でてやる。
――大丈夫だから。
やさしく、ゆっくりと。
さとりは、いつかまだ子猫だったころの燐の背中を撫でてやったときのように、優しく撫でた。
やがて燐はその手のひらが自分を傷つけるつもりがないことを感じ取ると、その感触に身を任せた。
幸せそうに目を細め、口元を緩める燐。
(最近こうやって構ってやることもなかったな)
髪を優しく梳いてやりながら、さとりはふとそんなことを思った。
しばらくそうした後、さとりは燐を優しく叱った。
燐は素直にさとりの言うことをじっと聞いていた。反省の色はすぐに読み取れた。
残るはもう一匹のペット。今回の事件で最も派手にやらかそうとしていた地獄鴉。空だ。
事件の中核であり、一番危険なことをしでかそうとしていた彼女だが、やはり彼女に対してもそこまで厳しく灸を据えるつもりはなかった。
――早く叱ってやって、元の関係に戻ろう。久しぶりにみんなで食事でもしようかしら。
そんな軽いつもりでいたさとりだったが、思わぬ壁にぶち当たった。
事件から二週間たっても、肝心の空が帰って来なかったのである。
今までこんなに長い間地霊殿に帰って来ないことなんて……まあ、無いわけではなかった。そもそも、空も燐もさとりのペットではあるが、一匹の妖怪として生きていける程度の力はとうの昔からあったのだ。こんな忌み嫌われた妖怪の傍に居るのが苦痛なら無理に地霊殿に留まることはない、とさとりは思っていた。今まで二匹がそんな素振りを見せなかったのが、さとりにとってはむしろ不思議だった。
だからペットが一週間や二週間家を空けることがあっても、さとりは動じることはなかった。が、今回は時が時である。タイミング的に空に避けられているのは明白だった。どうやらまだ本気で「処分される」と思っているらしい。
その癖博麗のところの神社には顔を出すし、そこで燐と会えば普通に会話もするというのだから困ったものだ。燐に「話があるから戻ってこい」という伝言も頼んである。にも拘らずこの長期無断外泊。さとりにしてみれば、早く叱って、一刻も早く元に戻りたいのだが。
これを見かねた燐は「このままではいけない」と実力行使に出た。
神社の縁側に座り、ゆで卵を口いっぱいに頬張って、幸せそうに「うにゅー」となっていた空を、無理矢理連れ戻したのだ。
抵抗された。そりゃあもう。
しかも「これ核の力で抵抗されたら危なくない?」ということに気付いた時には、すでに作戦決行中で引き返せなかった。乗り掛かった船を降りるわけにもいかず、他にいい方法も考え付かなかった。
なんとか空を地霊殿に連れ戻すことに成功した燐は、大量の冷や汗を拭って安堵のため息をついた。さすがに燐に核の力を使う気はないらしかった。
こんなところにも昔から変わらない、空の友達思いの片鱗を見た気がして少し嬉しかった。
さて、そうやってとにもかくにも地霊殿に空をしょっ引いて来たはいいものの、今度は困ったことに自分の部屋に閉じこもってしまった。声をかけても返事をしない。どうあってもさとりと面と向かう気はないらしい。
さとりは、一度「一人で行って来る」と、燐を置いて一人で空の部屋の前に立ったが、今の拒絶状態の空を説き伏せる術がついに思い浮かばなかった。
◇◇◇
そして今に至る。
さとりはため息をついて、所在無げに目を泳がせた。
はあ。
燐も続いてため息を漏らす。
どうしてこの人は。燐は思う。
どうしてこの人は、こんなことで悩んでいるんだろう。こんな簡単なことで。
もう、おくうはどこにも逃げずにすぐそこに居るのに。
(きっと)
きっと知らないのだ、この人は。自分がどれだけペット達に好かれているか。どれだけ顔を舐めても尻尾を振っても伝わらない程たくさんのペット達の感謝を、さとりは知らないでいる。
だってそれは、第三の目であっても読み取れないものだから。
嬉しい美味しい楽しい痛い苦しい、複雑で色とりどりの上辺の感情の根底に、いつでも息づいている原色。
愛されているということ。
燐は、じっとさとりの目を見据えた。揺れる、アメジストのような瞳。
この人は他人と触れ合うのが下手なのだ。燐は、さとりの目を覗きこみながら思う。
第三の目という、人と意思伝達を図る上でこの上なく有用な能力を持ちつつ、なおも人と関わるのが下手なのだ。人の心が読めるのに。
(いや)
違う。人の心が読めるからこそ。
だからこそ、今まで他の人と触れ合おうとしなかった。心を知りながら、その本当に奥にあるものを知ろうとしなかった。
さとりは知らない。ただ言葉も無しに触れ合えることを。もっと簡単に、会話もせず心も読まずに繋がれることを。
そうやって、燐達とさとりがずっと繋がってきたことを。
燐の目の前に居るのは、真っ白な心を持った少女だ。
今の燐の思いも、きっとさとりは読み取っているはずだった。
しかし、彼女は何も言わずにただ佇んでいた。右手で左手の肘をぎゅっと掴み、口をきっと結び、か細い二本の足で立っていた。
そのアメジストの瞳の奥で、何を思うのだろう。
燐はおもむろに肩をすくめた。
簡単だ。ただあいつの部屋へ乗り込んでいって、コラって言ってあいつの頭を軽く小突いて、抱きしめてやればいいのだ。
だけど、さとりは動かない。本当にそうするだけで事が収まる自信が無いのだろう。
……どうしたもんかね。
話しかけるように、手の中の緑色の石を覗き込んだ。宝石は答えてくれずに、ただ燐の手の中を転がった。
さとりもそれを覗きこむ。
それが何であるのか気付いたさとりが、ふっと相好を崩した。
「あら、懐かしいものを引っ張り出してきたわね」
「ええ。たまたま見つけまして」
二人はその石を眺める。石は燐の両の手のひらの上で転がされると、その手の中いっぱいに緑の光を静かに湛えた。
ころころ。ころころ。
二人でじっと見守る。
その静かな時間は一寸ばかりであったが、燐の心を固めさせるには十分だった。
仕方がない。
燐はその石をぎゅっと右手に握りしめると、部屋の出口に向かう。
「あ……」
何かを言いかけてそのまま言葉を飲み込むさとり。
それに気付かないふりをして。
燐は扉を開けて一歩部屋の外へと踏み出し、そこで思い出したようにくるりと体を反転させてさとりの方へ向き直った。
「今回はあたいがお膳立てしてあげます。けど、最後に何とかするのはさとり様の役目ですからね!」
そう言って、にっこり笑顔。
そして燐はさとりの返事も聞かないまま、部屋を飛び出していった。
◇◇◇
「さて」
ああ言って来たものの、燐は空の部屋の前でやはり尻込みした。特に策があるわけではなかった。
どうやって連れ出そう。
考え始めてみてから、ふと思いついてドアノブに手をかけて回してみる。
「あれ、回る」
どうやら鍵はかけていないらしい。てっきり鍵を閉めて閉じこもっているものだと思ったものだから、燐はちょっぴり拍子抜けした。
まあ、鍵がかかってたところで強行突破するつもりだったけど。
さて、あの利かん坊をどうしてくれようか。燐は腕を組んで考えてみる。
しかし今さらいい案なんて思いつくわけもない。だからこそ、こうやって力ずくでここまで連れて来たんじゃないか。
燐は目の前の扉をじっと見つめた。その先の、見える筈ない空の姿を想像してみる。
この中で何をしているんだろう、扱い悩む神の火は。膝でも抱えてうずくまっているのか。その姿を思い浮かべると、言いようのないもやもやした感情が湧きあがってきた。
ああもう、考えただけでもイライラする!
おくうもさとり様も、どっちもらしくない。おくうはいつものように馬鹿みたいに天真爛漫に笑っていればいいし、さとり様は皮肉たっぷりの微笑を浮かべて泰然と構えていればいい。今の二人はどっちもらしくないんだ!
えいや!
イライラする衝動に任せて、燐はドアを押した。
軋んだ音を立てて、ゆっくりドアが開く。
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大きく重い扉を押し開けて外に飛び出した――そこに初めて辿り着いたとき、そんなイメージを幻視した。突然目の前に迫る新しい世界。俄かに踊り出す大地。
「わあ!」
黒猫は、思わず子猫のようにうきうきした気分になって歓声を上げた。
森の奥深く、鬱蒼と茂る木々の間のぽっかりと開けた場所。
そこはまさに絶景だった。
一面に横たわる緑の草の絨毯に、湧き立つように映える赤、黄色、白、青……さまざまな色の花々。
世界のすべての色がそこにあった。
黒猫はすでに力を蓄え、人の姿に化けることができるまでに成長していた。黒猫はその健康な双脚で花畑を走った。
黒猫の主人は、猫の生態というものについてそこまで詳しくは知らなかったが、うすうす感づいていた。黒猫の見る世界と主人の見る世界が違うことを。
黒猫の生きる世界には色が無いということを。
それはとても悲しいことだ。主人は思った。
こんなにも世界は鮮やかな色に満ちているというのに。幻想郷という、四季の美しさを体中で楽しめる場所に生まれたというのに。
その目には、モノクロの世界しか映らないなんて。
だから黒猫の主人は決めていた。この風景をいつか黒猫に見せてやろうと。きっと人の姿になれれば、私たちと同じ世界が見えるようになるはずだから。
気付くと黒猫は大きく手を振っていた。はじける笑顔を浮かべて。
嬉しい、楽しい、綺麗。
そんな感情の波が主人の頭に流れ込んできて、主人も思わず顔を綻ばせた。
主人も手を振り返す。それを見た黒猫は満足そうにうなずくと、また花畑を元気に走り始めた。
きっと黒猫は知るだろう。
世界には、美しい色がいくつも溢れていることを。
>>>>>>>>>>
軋んだ音を立てて、ドアは開いた。
まず燐の目に入るのは、そこかしこに積まれたガラクタ。何に使うのか燐には皆目見当もつかないが、どうせ持ち主だってわかっちゃいないだろう。
そのガラクタの中にときどき光るものが見えた。
窓から入る光を受けて、その身を赤や青や緑や、最も綺麗な色に見せようと自己主張する存在――宝石だ。
ガラクタの中に埋もれながら、それでも私が一番綺麗な色なんだ、と叫び続けていた。
変わらないな、と燐は呆れる。
昔からそうだ。空は綺麗なものや光るものを見つけると、すぐに拾って集める癖があった。それは鴉の習性から来るものだと思っていたが、人の姿に変身して人の姿のまま行動することが多くなった今でも、彼女の性癖は治らなかった。
そのガラクタの山を横目に見つつ、散らかった床に足の踏み場を探しながら、一歩一歩慎重に歩を進める――
昔、空に訊いたことがある。
「どうしてそんな石ころばかり集めるのか」と。
その時の燐は知らなかった。色というものの存在、綺麗という概念を。
猫の瞳にはモノクロの世界しか映らないから。
しかし、鴉は違った。
空は生まれたときから、その瞳に千紫万紅を映してきた。
そしていつからか、彼女はその美麗な色彩をいつでも自分の傍らに置いておきたいと願うようになった。
紅、翠緑、青、紫。色は彼女の周りに増え、部屋を鮮やかに彩っていった。
そのとりどりの色彩の中で、ただ漆黒の翼を携えた鴉はいったい何を思うのだろう。
燐には解らなかった。
――見つけた。
部屋の一番奥。ガラクタの山に守られるように、こちらに背を向けて座り込んでいる少女。
空。
やっと捕まえた。
燐は、彼女の前で腕を組んで仁王立ちをする。深く息を吐き、吸い込んで、目の前の少女をきっ、と鋭く睨んだ。
相も変わらず、空は膝を抱え込み微動だにしない。その親友の姿に、燐はさっきまで腹の奥底で渦巻いていた感情が再び湧き起こって来るのを感じた。
むかむかむかむか……。
――ったく、どいつもこいつも……!
らしくない。ぜんぜんらしくない。
さとり様もおくうも、ちっともらしくないじゃないか!
そのイライラが言葉になる前に、燐の体は動いていた。
右手を固く握り、左手をそれに添える。体を反らせるようにして大きく振りかぶる。左足を振り上げる。右手の中には……緑色の石ころ。
そして次の瞬間。
燐は思いっきり親友の後頭部目がけて全力投球していた。
「こらぁーーーー!!!」
「うにゅうっ!?」
ゴンッ! という鈍い音。
空の頭にぶつかった勢いでその石は、カラカラカラ、と涼しげな音を立てて弾み、そのままどこかへ転がっていく。
「な、なにするのよっ! 石なんか思いっきりぶつけて!」
「やかましいっ! あんたがいつまでもウジウジしてるのがいけないんじゃないのさっ!」
「怪我したらどうするのよ!」
「そんな大層な神様体の中に飼ってるあんたが、石ころごときで怪我するかっ!」
「馬鹿になったらどうするのっ!?」
「これ以上馬鹿になるかっ!」
売り言葉に買い言葉でどんどんエスカレートする言い合い。燐は内心「しまった」と思いつつも、口から滑り出す言葉を止められなかった。
「ふん! ずっとさとり様を避け続けてビクビクしてる臆病者がよく吠えるもんだ」
「うにゅっ!? べ、別に避けてなんか……」
空が少しうろたえた。しめた、とばかりに燐は一気に畳みかける。
「いーや避けてるね。ご主人様が心配しているのに、当の本人ときたらふらふらと家出ときたもんだ。ご主人様不孝だねぇ。ペットの風上にも置けないねぇ」
「だって……」
「せっかく帰ってきたのに、さとり様にただいまの一言もないんだものねぇ。主人に対する感謝の気持ちも忘れちゃって」
「い、今からさとり様のところに行く予定だったのよ! ふんっ!」
そう言って空はいきなり立ち上がると、燐を押しのけて部屋から飛び出していってしまった。
「ありゃ、こんなに簡単にいくとは……」
もうひと悶着くらいはあるものだと覚悟を決めていた燐は、あまりの呆気なさに呆然とした。頭をポリポリと掻く。
(ちょっと、いやかなり荒っぽいやり方だったが、これで何とかなったか)
あとはさとり自身の問題だ。
もしかしたら、もうとっくに知っていたのかもしれない。
さとりが空を「処分」する気など毛頭ないことを。
ただ、一度逃げ出してしまったものだから、謝るきっかけが掴めないでいただけなのかもしれない。
燐も空を追って、急いで部屋を飛び出した。
空はまだそこに居た。そちらの方が速いからだろう、ちょうど翼を広げて飛び立とうとしていた。
風が巻き起こる。燐は思わず目をつむった。
そのまぶたの裏に、いつかの光景がフラッシュバックした。白黒の思い出。モノクロの記憶。
そして燐が目を開けたときには、空は声の届かない程の距離まで飛び去ってしまっていた。
屋敷の壁に並んだ大きなステンドグラスから、七色の光が差し込む。
黒の翼が、その光を受けて白く縁取られる。
その姿が、あの日の光景と交差して――重なった。
(あ、)
燐は気付いてしまった。
(綺麗だ)
いくつもの色に囲まれて、それでも染められずに力強くあり続ける黒。その漆黒の色を燐は、綺麗だ、と思った。
そしてそれは、ずっと昔から傍にあって、ずっと昔から見ていた色だ。昔から変わらないモノクロの――
――なんだ。
色なんか知らなくても、あたいにはちゃんと見えていたんじゃないか。
モノクロの世界の中でも、ちゃんと。
世界で一番綺麗な色が。
燐はそのことに思い至ると、なんだか不思議な笑いが込み上げてくるのだった。
「なんであんた、そんなに熱心に石ころばかり集めてるの?」
黒猫は、常日頃から腹の内に抱えていた疑問を投げかけた。
「へ?」
黒猫の言葉に勢いよく振り向くのは鴉。そのくちばしに、猫の尻尾の先ほどの大きさの石をくわえていた。
なんでそんなことを聞くの? とでも言いたげに首をかしげる鴉。
「だって――あ」
カラン。
何か答えようとして鴉がくちばしを開くと、その隙をついてするりと石ころが逃げ出した。
カラカラカラ。
石は涼しげな音を立てて弾み、そのままどこかへ転がっていこうとする。あわててそれを追いかけようとする鴉に、黒猫はもう一度問いかけた。
「ねえ、なんでそんなに一生懸命に石ころを集めているの?」
鴉はその言葉に、追いかけるのを止めて振り向くと、首をかしげた。
「だって綺麗でしょ?」
「キレイ?」
今度は黒猫が首をかしげる番だった。黒猫は猫だから鳥ほど器用に首をかしげることはできないが、それでも懸命にひねってみせる。
「キレイ? その石ころがかい?」
黒猫には鴉の言葉が呑み込めなかった。どう見ても変哲もない普通の石ころである。むしろ、ごつごつしている分、武骨な印象さえ受ける。とても小奇麗とは言い難かった。
「うん、綺麗」
鴉は短くそう答えると、とてとてと石ころの転がった方へ歩いていく。そしてお目当てのものを見つけると、器用にくちばしの先でくわえて黒猫の元に戻ってきた。
「ほら」
今度はどこへも転がっていかないように、鴉は慎重に黒猫の足もとに石を置く。
カラン。
さっきと同じように透き通った音を奏でた石はしかし、今度はどこへも逃げずに黒猫の目の前に鎮座した。
「ね?」
あなたもそう思うでしょ?
目で訊かれて、仕方なしに黒猫はその石ころを観察する。
目を見開いて、目を細めて。
近くで見つめて、遠目で眺めて。
まじまじと石ころを見る。
しかし黒猫の目には、そこらに転がっているような小石と何ら変わりないように見えた。
どこがキレイなんだろう?
「綺麗な緑でしょ?」
なかなか同意を返してくれない黒猫に、鴉は噛んで砕いた優しい言葉を投げかける。
しかし、黒猫にはその言葉の意味はやっぱり伝わらないらしく、今度はさっきと逆方向に首をかしげ始めた。
もしかしたら。黒猫は思う。
もしかしたら、イロというやつかもしれない。
黒猫の主人が、ときどきそのイロというものについて話して聞かせてくれることがあった。
ゆったりとしたひじ掛け椅子に腰かけ、黒猫を膝に乗せ、花が野に咲き乱れる情景や木々が生い茂る山々の景色を、背中を撫でながら、ゆっくりと語る。彼女の話の端々に、草花が自由に生い茂る光景や、鼻の奥をつんと刺す木々の匂いを生き生きと思い描くことはできたが、彼女の言う、アザヤカ、だとか、アオだのアカだのといった単語が黒猫にはどうしても解せなかった。
黒猫の何とも薄い反応に、むー、と不満の声を漏らす鴉。鴉は鴉だから表情を作ることはできないが、もし鴉が一般的な妖怪や人間のような二本足で立つあの容姿をしていたなら、きっと眉根を寄せて口を尖らせて、いかにも不満ですとでも言いたげな顔になっていたに違いない。
鴉は、どうやってこの石の魅力を伝えよう、と思い悩みながら、石をくちばしで弄ぶ。
くちばしでつつかれて、コロコロと転がるミドリの石。屋敷の壁に並んだ大きな窓から入ってくる光を一身に浴びて、キラキラと光をまき散らしていた。
鴉はしばらくそうやって石を転がしていたが、どうにも黒猫が自分の意を解してはくれなさそうだ結論付けたらしい。かっぱらうように石をくわえて大きくその翼を広げると、勢いよく飛び立った。
風が巻き起こる。黒猫は思わず目をつむった。
そして黒猫が目を開けたときには、鴉はもう声が届かないほど遠くに飛び去っていた。黒猫は、ただぼうっとしながら鴉の姿を見送った。
壁に行儀よく並んだ大きなガラス窓から差し込んだ光が、鴉の翼を縁取る。力強い翼の曲線が光の粒子をはじく。
黒猫は、その姿をずっと見守りながら、思う。
キレイな石をたくさん集めている鴉は、やっぱり自分もキレイでアザヤカな羽根を持っているのかな。
黒猫は猫だから表情を作ることはできないが、その姿を想像するとなんだか不思議な笑いが込み上げてくるのだった。
>>>>>>>>>>
「あ」
それを自分の部屋の引き出しの奥底に見つけたとき、燐は思わず平手で額を打った。
「あちゃあ、こんなところにあったかー」
渋い顔をして、しかしどこか懐かしそうに引き出しからそれを取り出す。少し手のひらの上で転がしてから、窓から差し込む光へとそれを透かした。
燐の親指の先くらいの大きさのその石は、光に透かされて青みがかった緑色に光ってみせた。
燐は宝石というものには詳しくないが、それなりに高価なものなのではないだろうか。素人目に見ても、かなり値打のある代物であるように見える。
その翠緑色を、色々な角度から光を当てて楽しむ。少し傾けてやる度に、石はちらちらとその表情を変えた。
「うーん」
ひとしきり愛でると、燐はまた渋い顔をした。眉根にしわが寄る。
その昔。
燐も親友の地獄鴉である空もまだ人型へ変身できなかった頃。この宝石を巡って少しばかりもめたことがあった。
もともと空が見つけたものであるこれを、どうして燐が持っているのかと言うと。
そのいざこざの後、空が落として行ったのである。
あんなにこの石の素晴らしさを力説していたかと思ったら、飛び去った地点から十メートルもしないところにこの石を落っことしていった。しかも、当の本人はその事に気付かない。
さすがに燐は呆れた。鳥頭ここに極まれり。
「でも、」
燐も何を隠そう、今日ここで現物を目にするまで宝石のことを忘れていたのだから、空を笑ってはいられない。
あの出来事があった後、しょうがない、持って行ってやるか、と空の元までくわえていこうとした。燐にとってはどうでもいいような石ころだったが、空があんなに気に入っていた手前、さすがにそのまま放っておくわけにもいかない。そんなもんだから、空が居るであろう部屋までくわえて帰ったはいいものの、空はまだどこかに行っているらしく姿が見えず、かといってそこらへんに放り出しておくわけにもいかず、結局さとりに預かってもらうことにした。
燐としては、そのままさとりの手から空へ渡してもらえば一番楽なのだが、
「借りたものは借りた本人が返しなさい」
と、ぴしゃりと断られてしまった。変なところで義理堅いというか、融通が利かないというか(というか借りたわけではないのに)。そんなことを考えていると、その思考を読み取ったらしいさとりが怖い目で睨んできたので、燐はすたこら退散した。
石のその後について燐は知らない。そのまま忘れてしまっていた。
どうやら石を受け取ったさとりは、自分の机の引き出しの奥に仕舞っておいてくれたらしい。燐の部屋にある机は、もともとさとりの使っていたものだから、そこから出てきたということはきっとそうだ。
おそらく、燐が「空に返す」と言うまで仕舞っておくつもりだったのに、燐にも机に仕舞った本人であるさとりにも忘れられてしまっていたのだ。
「これ、どうしようかなあ」
燐はため息をつく。
悩むことはない、持ち主に返してやればいい。持ち主は忘れていたとしても、きっと喜んで受け取ってくれるはずだ。
ただ、問題は――
コンコン。
ノックの音が思考に滑り込んできて、燐は顔を上げた。数刻の後、静かに扉が開く。
「ああ、やっぱりここにいたのね」
開いた扉の影からひょっこり顔を覗かせたのは、燐の飼い主、さとりだった。
燐の姿を見つけると薄く微笑み、部屋の中へ入ってきた。
「まあ、あたいの部屋ですから」
にっこりと屈託無いように笑って、燐は言う。その笑顔とは対照的に、さとりはどこか浮かない顔をしていた。
燐はその顔色の理由にすぐに思い至る。
「やっぱり、ですか」
「やっぱり、よ」
ふう、と細いため息をつくさとり。いつもの達観した落ち着いた表情と違うその顔は新鮮ではあるが、似合わないなと燐は思った。
「……どうしたらいいと思う?」
「ふにゃ!?」
びっくりして思わず変な声が出てしまった。二本の黒い尻尾が、ピンと勢いよく空を向く。
「何を驚いているの」
いやいや、驚きますよそりゃ。燐は心の中で弁解する。
だって、まさかそんなにストレートに相談されるとは、思ってもみなかったんですから。
あのさとり様に。
いつだって周りの人に頼らず寄せ付けず、淡々と一人で物事を片付けてきたのがさとり様。
そのさとり様に、面と向かって相談事を持ちかけられたんですから。
「悪かったわね。冷血漢の鉄仮面女で」
「いやそんなこと思ってませんてば」
燐の鋭いツッコミに、さとりは口元に笑みを浮かべた。が、やはりそれもどこかぎこちなく頼りない。
やはり原因は――
「おくう」
燐がつぶやくと、さとりは神妙にうなづいた。
燐が宝石を返すのをためらっているのも、さとりが思い悩んでいるのも、空が問題なのだった。
◇◇◇
話は少しだけ遡る。
ついこの間のことである。
この地霊殿にずかずかと踏み込んでくる者がいた。
地霊殿と言えば、忌み嫌われた妖怪の住み処である地底の、その中でもさらに忌み嫌われた妖怪が潜む屋敷である。好き好んでわざわざやってくる奴など居なかった。
しかも、驚くべきことにやってきたのは一人の人間だった。ここで乗り込んできたのが例えば鬼などという強力な存在というのならともかく(もちろん鬼すらも近寄ることはないが)、乗り込んできたのは一人の人間の少女ときたものだから、さとりは随分と驚いたものだ。
とは言うものの、それ自体はどうでも良かった。さとりにしてみれば久しぶりの来客。久々に弾幕(や)り合えばストレス発散にもなるというものだ。
ただ問題は、人間の言う地霊殿へやってきた理由だった。
――地上に怨霊を湧かすな。
その言葉を聞いて、さとりは耳を疑った。さらに第三の目で見て、嘘を言っていないことを知ると、今度は第三の目を疑った。
地上に怨霊が漏れ出している?
怨霊の管理をしているのはさとりのペットの燐だったが、さとりはその仕事ぶりを信頼していた。身内に対する贔屓目で見ていることを差し引いても、燐は責任感の強い猫だと思っていた。
その燐が、何か失敗でもして怨霊を外に出してしまったのだろうか?
ここでいくら考えたところで原因などわかるはずもなく、結局その人間を旧地獄跡へと案内して、そのまま調査させることにした。
調査の結果、確かにこの異変が彼女のペットたちの仕業であることが判明した。
どうしてこんなことをしたのか。異変を巡って、ペット二匹に大なり小なりの心情の機微はあったようだったが、理由はどうあれ、さとりは二匹を最終的には許すことに決めていた。
二匹のしたことはもちろん許されるべきことではない。地上を侵略しようとするなんてもってのほかだし、そのことに気付きながら秘密裏に片付けようとするのも問題である。一歩間違えば大惨事を招いたことだろう。その事に対してはしっかりと叱り言い聞かせるつもりであるが、ちゃんと反省しているようであればすぐに開放して、今まで通りの仕事についてもらうつもりだった。
ましてや「処分」なんてことは、毛頭考えていなかった。
だから、燐の心の中に「処分される」などという恐怖を読み取ったとき、さとりは思わず笑ってしまったものだ。
――安心して。
異変の後、初めて燐と対峙したとき、そういう気持ちを込めて、叱るよりも先にまず頭を撫でてやった。
こっぴどい罰が待っていると思っていた燐は、手のひらの感触にビクッと尻尾の先まで体を震わせた。さとりはそれでも、丁寧に燐の頭を撫でてやる。
――大丈夫だから。
やさしく、ゆっくりと。
さとりは、いつかまだ子猫だったころの燐の背中を撫でてやったときのように、優しく撫でた。
やがて燐はその手のひらが自分を傷つけるつもりがないことを感じ取ると、その感触に身を任せた。
幸せそうに目を細め、口元を緩める燐。
(最近こうやって構ってやることもなかったな)
髪を優しく梳いてやりながら、さとりはふとそんなことを思った。
しばらくそうした後、さとりは燐を優しく叱った。
燐は素直にさとりの言うことをじっと聞いていた。反省の色はすぐに読み取れた。
残るはもう一匹のペット。今回の事件で最も派手にやらかそうとしていた地獄鴉。空だ。
事件の中核であり、一番危険なことをしでかそうとしていた彼女だが、やはり彼女に対してもそこまで厳しく灸を据えるつもりはなかった。
――早く叱ってやって、元の関係に戻ろう。久しぶりにみんなで食事でもしようかしら。
そんな軽いつもりでいたさとりだったが、思わぬ壁にぶち当たった。
事件から二週間たっても、肝心の空が帰って来なかったのである。
今までこんなに長い間地霊殿に帰って来ないことなんて……まあ、無いわけではなかった。そもそも、空も燐もさとりのペットではあるが、一匹の妖怪として生きていける程度の力はとうの昔からあったのだ。こんな忌み嫌われた妖怪の傍に居るのが苦痛なら無理に地霊殿に留まることはない、とさとりは思っていた。今まで二匹がそんな素振りを見せなかったのが、さとりにとってはむしろ不思議だった。
だからペットが一週間や二週間家を空けることがあっても、さとりは動じることはなかった。が、今回は時が時である。タイミング的に空に避けられているのは明白だった。どうやらまだ本気で「処分される」と思っているらしい。
その癖博麗のところの神社には顔を出すし、そこで燐と会えば普通に会話もするというのだから困ったものだ。燐に「話があるから戻ってこい」という伝言も頼んである。にも拘らずこの長期無断外泊。さとりにしてみれば、早く叱って、一刻も早く元に戻りたいのだが。
これを見かねた燐は「このままではいけない」と実力行使に出た。
神社の縁側に座り、ゆで卵を口いっぱいに頬張って、幸せそうに「うにゅー」となっていた空を、無理矢理連れ戻したのだ。
抵抗された。そりゃあもう。
しかも「これ核の力で抵抗されたら危なくない?」ということに気付いた時には、すでに作戦決行中で引き返せなかった。乗り掛かった船を降りるわけにもいかず、他にいい方法も考え付かなかった。
なんとか空を地霊殿に連れ戻すことに成功した燐は、大量の冷や汗を拭って安堵のため息をついた。さすがに燐に核の力を使う気はないらしかった。
こんなところにも昔から変わらない、空の友達思いの片鱗を見た気がして少し嬉しかった。
さて、そうやってとにもかくにも地霊殿に空をしょっ引いて来たはいいものの、今度は困ったことに自分の部屋に閉じこもってしまった。声をかけても返事をしない。どうあってもさとりと面と向かう気はないらしい。
さとりは、一度「一人で行って来る」と、燐を置いて一人で空の部屋の前に立ったが、今の拒絶状態の空を説き伏せる術がついに思い浮かばなかった。
◇◇◇
そして今に至る。
さとりはため息をついて、所在無げに目を泳がせた。
はあ。
燐も続いてため息を漏らす。
どうしてこの人は。燐は思う。
どうしてこの人は、こんなことで悩んでいるんだろう。こんな簡単なことで。
もう、おくうはどこにも逃げずにすぐそこに居るのに。
(きっと)
きっと知らないのだ、この人は。自分がどれだけペット達に好かれているか。どれだけ顔を舐めても尻尾を振っても伝わらない程たくさんのペット達の感謝を、さとりは知らないでいる。
だってそれは、第三の目であっても読み取れないものだから。
嬉しい美味しい楽しい痛い苦しい、複雑で色とりどりの上辺の感情の根底に、いつでも息づいている原色。
愛されているということ。
燐は、じっとさとりの目を見据えた。揺れる、アメジストのような瞳。
この人は他人と触れ合うのが下手なのだ。燐は、さとりの目を覗きこみながら思う。
第三の目という、人と意思伝達を図る上でこの上なく有用な能力を持ちつつ、なおも人と関わるのが下手なのだ。人の心が読めるのに。
(いや)
違う。人の心が読めるからこそ。
だからこそ、今まで他の人と触れ合おうとしなかった。心を知りながら、その本当に奥にあるものを知ろうとしなかった。
さとりは知らない。ただ言葉も無しに触れ合えることを。もっと簡単に、会話もせず心も読まずに繋がれることを。
そうやって、燐達とさとりがずっと繋がってきたことを。
燐の目の前に居るのは、真っ白な心を持った少女だ。
今の燐の思いも、きっとさとりは読み取っているはずだった。
しかし、彼女は何も言わずにただ佇んでいた。右手で左手の肘をぎゅっと掴み、口をきっと結び、か細い二本の足で立っていた。
そのアメジストの瞳の奥で、何を思うのだろう。
燐はおもむろに肩をすくめた。
簡単だ。ただあいつの部屋へ乗り込んでいって、コラって言ってあいつの頭を軽く小突いて、抱きしめてやればいいのだ。
だけど、さとりは動かない。本当にそうするだけで事が収まる自信が無いのだろう。
……どうしたもんかね。
話しかけるように、手の中の緑色の石を覗き込んだ。宝石は答えてくれずに、ただ燐の手の中を転がった。
さとりもそれを覗きこむ。
それが何であるのか気付いたさとりが、ふっと相好を崩した。
「あら、懐かしいものを引っ張り出してきたわね」
「ええ。たまたま見つけまして」
二人はその石を眺める。石は燐の両の手のひらの上で転がされると、その手の中いっぱいに緑の光を静かに湛えた。
ころころ。ころころ。
二人でじっと見守る。
その静かな時間は一寸ばかりであったが、燐の心を固めさせるには十分だった。
仕方がない。
燐はその石をぎゅっと右手に握りしめると、部屋の出口に向かう。
「あ……」
何かを言いかけてそのまま言葉を飲み込むさとり。
それに気付かないふりをして。
燐は扉を開けて一歩部屋の外へと踏み出し、そこで思い出したようにくるりと体を反転させてさとりの方へ向き直った。
「今回はあたいがお膳立てしてあげます。けど、最後に何とかするのはさとり様の役目ですからね!」
そう言って、にっこり笑顔。
そして燐はさとりの返事も聞かないまま、部屋を飛び出していった。
◇◇◇
「さて」
ああ言って来たものの、燐は空の部屋の前でやはり尻込みした。特に策があるわけではなかった。
どうやって連れ出そう。
考え始めてみてから、ふと思いついてドアノブに手をかけて回してみる。
「あれ、回る」
どうやら鍵はかけていないらしい。てっきり鍵を閉めて閉じこもっているものだと思ったものだから、燐はちょっぴり拍子抜けした。
まあ、鍵がかかってたところで強行突破するつもりだったけど。
さて、あの利かん坊をどうしてくれようか。燐は腕を組んで考えてみる。
しかし今さらいい案なんて思いつくわけもない。だからこそ、こうやって力ずくでここまで連れて来たんじゃないか。
燐は目の前の扉をじっと見つめた。その先の、見える筈ない空の姿を想像してみる。
この中で何をしているんだろう、扱い悩む神の火は。膝でも抱えてうずくまっているのか。その姿を思い浮かべると、言いようのないもやもやした感情が湧きあがってきた。
ああもう、考えただけでもイライラする!
おくうもさとり様も、どっちもらしくない。おくうはいつものように馬鹿みたいに天真爛漫に笑っていればいいし、さとり様は皮肉たっぷりの微笑を浮かべて泰然と構えていればいい。今の二人はどっちもらしくないんだ!
えいや!
イライラする衝動に任せて、燐はドアを押した。
軋んだ音を立てて、ゆっくりドアが開く。
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大きく重い扉を押し開けて外に飛び出した――そこに初めて辿り着いたとき、そんなイメージを幻視した。突然目の前に迫る新しい世界。俄かに踊り出す大地。
「わあ!」
黒猫は、思わず子猫のようにうきうきした気分になって歓声を上げた。
森の奥深く、鬱蒼と茂る木々の間のぽっかりと開けた場所。
そこはまさに絶景だった。
一面に横たわる緑の草の絨毯に、湧き立つように映える赤、黄色、白、青……さまざまな色の花々。
世界のすべての色がそこにあった。
黒猫はすでに力を蓄え、人の姿に化けることができるまでに成長していた。黒猫はその健康な双脚で花畑を走った。
黒猫の主人は、猫の生態というものについてそこまで詳しくは知らなかったが、うすうす感づいていた。黒猫の見る世界と主人の見る世界が違うことを。
黒猫の生きる世界には色が無いということを。
それはとても悲しいことだ。主人は思った。
こんなにも世界は鮮やかな色に満ちているというのに。幻想郷という、四季の美しさを体中で楽しめる場所に生まれたというのに。
その目には、モノクロの世界しか映らないなんて。
だから黒猫の主人は決めていた。この風景をいつか黒猫に見せてやろうと。きっと人の姿になれれば、私たちと同じ世界が見えるようになるはずだから。
気付くと黒猫は大きく手を振っていた。はじける笑顔を浮かべて。
嬉しい、楽しい、綺麗。
そんな感情の波が主人の頭に流れ込んできて、主人も思わず顔を綻ばせた。
主人も手を振り返す。それを見た黒猫は満足そうにうなずくと、また花畑を元気に走り始めた。
きっと黒猫は知るだろう。
世界には、美しい色がいくつも溢れていることを。
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軋んだ音を立てて、ドアは開いた。
まず燐の目に入るのは、そこかしこに積まれたガラクタ。何に使うのか燐には皆目見当もつかないが、どうせ持ち主だってわかっちゃいないだろう。
そのガラクタの中にときどき光るものが見えた。
窓から入る光を受けて、その身を赤や青や緑や、最も綺麗な色に見せようと自己主張する存在――宝石だ。
ガラクタの中に埋もれながら、それでも私が一番綺麗な色なんだ、と叫び続けていた。
変わらないな、と燐は呆れる。
昔からそうだ。空は綺麗なものや光るものを見つけると、すぐに拾って集める癖があった。それは鴉の習性から来るものだと思っていたが、人の姿に変身して人の姿のまま行動することが多くなった今でも、彼女の性癖は治らなかった。
そのガラクタの山を横目に見つつ、散らかった床に足の踏み場を探しながら、一歩一歩慎重に歩を進める――
昔、空に訊いたことがある。
「どうしてそんな石ころばかり集めるのか」と。
その時の燐は知らなかった。色というものの存在、綺麗という概念を。
猫の瞳にはモノクロの世界しか映らないから。
しかし、鴉は違った。
空は生まれたときから、その瞳に千紫万紅を映してきた。
そしていつからか、彼女はその美麗な色彩をいつでも自分の傍らに置いておきたいと願うようになった。
紅、翠緑、青、紫。色は彼女の周りに増え、部屋を鮮やかに彩っていった。
そのとりどりの色彩の中で、ただ漆黒の翼を携えた鴉はいったい何を思うのだろう。
燐には解らなかった。
――見つけた。
部屋の一番奥。ガラクタの山に守られるように、こちらに背を向けて座り込んでいる少女。
空。
やっと捕まえた。
燐は、彼女の前で腕を組んで仁王立ちをする。深く息を吐き、吸い込んで、目の前の少女をきっ、と鋭く睨んだ。
相も変わらず、空は膝を抱え込み微動だにしない。その親友の姿に、燐はさっきまで腹の奥底で渦巻いていた感情が再び湧き起こって来るのを感じた。
むかむかむかむか……。
――ったく、どいつもこいつも……!
らしくない。ぜんぜんらしくない。
さとり様もおくうも、ちっともらしくないじゃないか!
そのイライラが言葉になる前に、燐の体は動いていた。
右手を固く握り、左手をそれに添える。体を反らせるようにして大きく振りかぶる。左足を振り上げる。右手の中には……緑色の石ころ。
そして次の瞬間。
燐は思いっきり親友の後頭部目がけて全力投球していた。
「こらぁーーーー!!!」
「うにゅうっ!?」
ゴンッ! という鈍い音。
空の頭にぶつかった勢いでその石は、カラカラカラ、と涼しげな音を立てて弾み、そのままどこかへ転がっていく。
「な、なにするのよっ! 石なんか思いっきりぶつけて!」
「やかましいっ! あんたがいつまでもウジウジしてるのがいけないんじゃないのさっ!」
「怪我したらどうするのよ!」
「そんな大層な神様体の中に飼ってるあんたが、石ころごときで怪我するかっ!」
「馬鹿になったらどうするのっ!?」
「これ以上馬鹿になるかっ!」
売り言葉に買い言葉でどんどんエスカレートする言い合い。燐は内心「しまった」と思いつつも、口から滑り出す言葉を止められなかった。
「ふん! ずっとさとり様を避け続けてビクビクしてる臆病者がよく吠えるもんだ」
「うにゅっ!? べ、別に避けてなんか……」
空が少しうろたえた。しめた、とばかりに燐は一気に畳みかける。
「いーや避けてるね。ご主人様が心配しているのに、当の本人ときたらふらふらと家出ときたもんだ。ご主人様不孝だねぇ。ペットの風上にも置けないねぇ」
「だって……」
「せっかく帰ってきたのに、さとり様にただいまの一言もないんだものねぇ。主人に対する感謝の気持ちも忘れちゃって」
「い、今からさとり様のところに行く予定だったのよ! ふんっ!」
そう言って空はいきなり立ち上がると、燐を押しのけて部屋から飛び出していってしまった。
「ありゃ、こんなに簡単にいくとは……」
もうひと悶着くらいはあるものだと覚悟を決めていた燐は、あまりの呆気なさに呆然とした。頭をポリポリと掻く。
(ちょっと、いやかなり荒っぽいやり方だったが、これで何とかなったか)
あとはさとり自身の問題だ。
もしかしたら、もうとっくに知っていたのかもしれない。
さとりが空を「処分」する気など毛頭ないことを。
ただ、一度逃げ出してしまったものだから、謝るきっかけが掴めないでいただけなのかもしれない。
燐も空を追って、急いで部屋を飛び出した。
空はまだそこに居た。そちらの方が速いからだろう、ちょうど翼を広げて飛び立とうとしていた。
風が巻き起こる。燐は思わず目をつむった。
そのまぶたの裏に、いつかの光景がフラッシュバックした。白黒の思い出。モノクロの記憶。
そして燐が目を開けたときには、空は声の届かない程の距離まで飛び去ってしまっていた。
屋敷の壁に並んだ大きなステンドグラスから、七色の光が差し込む。
黒の翼が、その光を受けて白く縁取られる。
その姿が、あの日の光景と交差して――重なった。
(あ、)
燐は気付いてしまった。
(綺麗だ)
いくつもの色に囲まれて、それでも染められずに力強くあり続ける黒。その漆黒の色を燐は、綺麗だ、と思った。
そしてそれは、ずっと昔から傍にあって、ずっと昔から見ていた色だ。昔から変わらないモノクロの――
――なんだ。
色なんか知らなくても、あたいにはちゃんと見えていたんじゃないか。
モノクロの世界の中でも、ちゃんと。
世界で一番綺麗な色が。
燐はそのことに思い至ると、なんだか不思議な笑いが込み上げてくるのだった。
烏の羽は綺麗。これ真理。
今後の作品に大いに期待させていただきます。
レス返しというのは苦手なので、一つ一つのコメに対してのレスは控えさせていただきますがコメントはちゃんと全部読んでます。
皆さんありがとうございます! めっさ嬉しい。
この文章力は凄い。
今後に期待します。
>19さん
「確か犬や猫って色覚ないんだよなー」って発想から始めて最後までバーっと描いたものでよく調べるのを忘れていました。
ざっと調べたところどうやら猫は犬と違ってある程度色の認識は出来るみたいですね(それでも人間に比べたらほとんど見えないようなものですが)。
描き上げる前にきちんと調べるべきでした。済みません。
一応描き始める前にも調べたんですけど勘違いしてたみたいで……おかしいなあ。
猫や犬、カラスや魚は見ている色が違うんですね。
綺麗な作品でした。
素晴らしい作品でした。
これからも頑張ってくださいなっ!
今後も期待してます!
一箇所だけ誤字報告
扱い悩む神の火 → 熱かい悩む神の火
報告ありがとうございます。
指摘のあった箇所なのですが、空の二つ名は確かに「熱かい悩む神の火」なんですが、もともと「熱かい」は「扱い」とかかっている言葉で「扱い悩む神の火」=「核」のことなのだそうです(まんま某wikiの受け売り)。
なので「扱いづらい困った奴」というニュアンスを大きく全面に出そうとした結果、あえてこの表記にしました。誤字と言えば誤字なんですが、意味あってのことなので、申し訳ありませんがこのままにさせてもらいたいと思います。
ともあれ細かいところまで読んでいただけるのはすごく光栄です。コメントありがとうございました!
これが初投稿とは今後に期待
良いお話でした。