E
さらに時はたち、私のメイド稼業もいたについてきたと思う。
そんな中、その知らせは突然にやってきた。
「メイド長が亡くなられました」
メイド長から私の補助として預かっていたメイドに知らされた。
外出中に妖怪同士の戦闘に巻き込まれ、回復不可能なダメージを負ってしまったらしい。
妖力のこもった流れ弾が同行していたメイドに命中しそうになったのを庇った結果、急所に当ってしまったのだ。
不慮の事故と呼べるようなものだったと、後で同行していた他のメイドに聞いた。
ショックを受けた。妖怪である彼女がいなくなるなんてことは、全く想像をしたことがなかったから。
しかし、すぐに気を取り直した。もっと大切なお方のために、落ち込んでいてはいけないと思ったから。
今、メイド長を失って一番悲しい想いをされているのは、誰よりもメイド長を可愛がっておられたお嬢様。
私にはお嬢様をお慰めするような出すぎた真似はできない。
しかもお嬢様は同行していたメイド達を率先して慰めていた。
そしてメイド長に庇われたメイドを、一度も責めるそぶりを見せることがなかった。
お嬢様がそのように気丈な振る舞いをされているのだから、私はお嬢様のためにいつもどおりに業務を遂行していこう。
私はそう心に決め実行した。
なお、お嬢様のお怒りは戦闘していた妖怪達に向けられた。私はその妖怪達がどうなったのかまでは知らないけれど。
メイド長の葬儀は人間の様式で執り行われた。
私はメイド長が人間出身の妖怪だったということを、初めて知った。
館に来たときにはすでに妖怪であったらしいけど。
葬儀が終わると、私はお嬢様に呼ばれた。
「お嬢様、参りました」
「ん、お前を今日からメイド長に任命しようと思うけど、異存はある?」
次期メイド長の人選はメイドの間でも噂になっていた。
その名前の中に私の名前も有力候補として挙がっていることは知っていた。
ただ、実際にお嬢様が人間の私を指名されるとは思っていなかった。
しかし、迷わずに即答する。
「いえ、ございません」
お嬢様は満足そうな表情を見せる。
「そう。それじゃ、お前に名前をあげる。貴方を今このときより十六夜咲夜と命名する」
お嬢様は威厳を示しながら私に名前をくださった。
お嬢様に名前を戴いたことで、私は本当の意味でのお嬢様の従者になれた気がした。
十六夜咲夜、いい名前。ただ、何故東洋風の名前なんだろう?と思うけど。
「それじゃ、咲夜、貴方をメイド長に任命するわ。よろしくね」
と、お嬢様はとても軽く仰った。私が崇拝に近い想いを持っていたメイド長という役職が、そんなに軽いものだったのかとちょっとショックを受ける。
「はい、十六夜咲夜、天地神明に誓ってお嬢様のために尽くさせていただきます」
私はわざと大仰に言ってみた。私にとってはメイド長という肩書きはとても重いものだから。
「そんな大げさなことはいらないよ」
「あら、たかが人間の私が悪魔に仕えるのですもの、これぐらいは大げさでも何でもないと思います」
「まぁ、あんたがそうしたいんならそれでいいけど」
「はい、好きなようにさせていただきます」
今思えば、先代のメイド長も勝手に行動されていた。
お嬢さまがその気になれば、幾らでも命令し縛り付ける事ができるのに。
それに、私も自由にさせてもらっていた。
当時は気がつかなかったけど、ここに来た次ぎの日から自由だったのだ。
メイド長に上手くリードされて選択の余地や逃亡の可能性がないように錯覚していただけだった。
もし、逃亡していても誰も追っかけてきてはいなかったし、メイドになっていなくても追い出されたり処分されたりすることも無かったのだ。
今だからわかることだけど、全てはメイド長の配慮だった。お嬢様の意向と私の立場を両立させるための。
「それでね、咲夜」
お嬢様が話を続けられる。
「これをメイド長就任のお祝いとしてあげる」
お嬢様の手には銀の懐中時計。
「あの、このような高価なものよろしいのでしょうか?」
いかにも高そうに咲夜には見えた。
「私の従者ともあろうものに安物持たせられないよ。受け取ってくれる?」
別に断るべき事情もないので、素直に受け取ることにした。
「はい、喜んで使わせていただきます」
私はその銀の懐中時計を、以前メイド長にナイフ投げ修行修了の証として戴いた銀のナイフと共に片時も放さず身につけていようと思った。
6
咲夜は館内の仕事は片付けた。あと残された仕事は買い物だけだったが、外が雪なので億劫であった。
そこで咲夜は温かい紅茶を飲みながら、また外を眺めていた。門前で美鈴が今度は氷精の相手をしている。
美鈴はわりと人気者で、門番していても暇な人妖がよく遊びに来る。咲夜も別に咎めたりしない。
(そういえば、あの時以降の記憶はぼんやりしているのよね)
メイド長に就任して以降の記憶が咲夜にははっきりしなかった。記憶が消えているわけではない。覚えてはいるがぼんやりしているのである。
記憶のうちはっきり覚えているのは、この時から自分の時間を、正確には自分の年齢に関わる時間を引き延ばすようになったということと、
「咲夜、あなたは人間かしら?妖怪かしら?」
とレミリアに質問されて、
「私は人間です。今までも、これからも」
と答えたことぐらいである。
そして、その直後から完全に記憶がない。次ぎの記憶は既に幻想郷でのものであった。
(最近、昔を思い出すことが増えたわ。これも年のせいかしらね)
咲夜は紅茶を飲み干すと、
「老け込んじゃいやね」
と独り言を言って立ち上がった。
そして、外で遊んでいる美鈴のところへと向かった。
咲夜は美鈴と氷精チルノに声をかけた。
チルノは霧の湖を住処にしている妖精で、美鈴ともよく遊んでいる。
「楽しそうね、何をしているの?」
「あ、咲夜さん。この子がですね、氷の像を作ってくれているんですよ」
咲夜がみるとそこには氷で作られた紅魔館の氷像があった。
まだ完成はしていないようだが、細部までしっかりと作りこまれている。
とても妖精が作ったものとは思えなかった。
「あら、良く出来ていますね」
「ふん、これぐらいは朝飯前。あたいの技術はこんなもんじゃないよ!」
と言うと、チルノは丸めた雪を上に放り投げ、冷気を送る。
その雪の玉は丁度咲夜の手の上に落ちてきた。
氷のナイフになって。
どうやら、雪を冷気でプレスすることで、自分のイメージした形の氷塊を作っているようだ。
「へぇ、妖精とは思えない程の技ですね」
「ちょっとメイド、ふざけた事いわないでよね。妖精だってこれぐらいできるんだからね!」
咲夜は単に感心しただけだったが、チルノには妖精を馬鹿にされたような気がしたのだろう。
チルノとしては、他の妖精を低く見られたと思ったのかもしれない。
「あら、ごめんなさいね。そういう意味じゃないのよ」
「ふん、だったらいいけどさ」
と言うと、チルノは紅魔館像の制作を再開した。
咲夜はそんなチルノを見て思った。
チルノは妖精にしては力が強い。しかも、以前よりもさらに強くなってきている。
最近ではチルノより弱い妖怪も珍しくないくらいだ。
しかし、妖精は弱いことが存在意義でもある。
ただそこにいて自然を表すだけの存在。それが妖精本来の姿である。
妖精としては力が強すぎるチルノは、ひょっとしたら妖精ではない何かになってしまうのではないだろうか。
そして、それはチルノにとって幸せなことなのだろうか?不幸せなことだろうか?と。
そこまで考えて、咲夜は美鈴に聞いてみた。
「ねぇ、美鈴、種族が変わるのってどういう感じ?」
「え?えーとそうですね。私は妖怪になろうと思ってなったわけではなくてですね、強くなろうと想いつづけていたらいつの間にか妖怪になっていたんですよ」
美鈴は咲夜の真意がいまいちわからなかったが、自分の思ったことを素直に話してみた。
「だから、強くなる過程で妖怪になっていたので、特になんとも思いませんでしたよ」
「そんなものなの?」
「私の場合はそうですね。人間であることよりも強くなることのほうが私には重要でしたから」
美鈴は元は人間であったが、鍛錬を続けているうちに妖怪になっていたのだ。
普通、人間が鍛錬を積めば、仙人なり天人なりになりそうなものだが。
美鈴は話を続けた。
「もしかして咲夜さんも妖怪になろうとか思っているとか・・・・・・、はは、そんなことあるはずないですよね」
「あら、どうして?私だって妖怪とか天人とか魔法使いになっちゃうかもしれないじゃない」
「ははは、絶対ないですよ。咲夜さんは人間であることに誇りをもっておられますから。見ていればわかりますよ」
咲夜は微笑んだ。
「ふふ、そうね」
咲夜は今まで悩んでいた事が馬鹿らしくなった。
美鈴がいとも簡単に答えを出してしまったから。
(それに私はあのときお嬢様に宣言したじゃないの、ずっと人間でいるって)
咲夜は人間である事に誇りを持っている。そして、レミリアはそれを許している。
ならば、人間のまま人間に出来る範囲でお仕えしていればいいだけのことだった。
咲夜の能力が落ちたところで美鈴だっているのだ。
咲夜が心配する事など最初から何もないことだった。
「それじゃ人間らしくさせてもらいましょう」
と言うと、咲夜は館へと戻った。
F
目が覚めると、そこは見た事のない部屋だった。
起き上がると、ベッドの傍にお嬢様とパチュリー様、そして、見知らぬ少女が立っていた。
「咲夜、おはよう。気分はどう?」
とお嬢様に問われ、
「はぁ、なんだかよくわかりませんが、とても爽快な気分です」
と答えた。本当にわけがわからなかったが、気分は良い。
「そう、よかったわ。食事の用意が出来てるから、お話はその後にしましょう」
「はい、お嬢様」
見知らぬ少女が食事をベッド脇に並べてくれた。
「じゃ、私達は戻っているから、あとはよろしくね」
お嬢様とパチュリー様が部屋を出ていかれた。
そして、見知らぬ少女が私の世話に残った。
「あの、私、紅美鈴といいます」
「よろしくね」
「はい!宜しくお願いします」
元気ないい子ね。
「それで、あなたはメイドなのかしら?」
「はい、そうです。正確にはメイド長が療養されている間のメイド長代理ですけど」
「そう、メイド長代理なの」
と答えると、私はその紅美鈴という少女をベッドに引き倒し、馬乗りになって服を剥いだ。
乱暴だとは思うけど、これが先代直伝のやり方なのだから仕方がない。決して趣味でやってるわけではない。
少女は驚いたようだったが、抵抗するわけにもいかずされるがままになっていた。
7
咲夜は館に戻ると、今度は熱いコーヒーをいれて飲んでいた。
(そう、あの後お嬢様に聞かされたのよね。)
咲夜はあの部屋で時を止め食事を済ませたあと、レミリアに話を聞いた。
時を止めるのなら美鈴を押し倒す必要などなかったのだが、そこは先代の思い出がそうさせたのである。
咲夜は、ここが幻想郷と呼ばれるところで紅魔館ごと引っ越してきたこと。
当時の紅魔館の住人はほとんど向こうにおいてきて、
ここにはレミリアの他、レミリアの妹フランドール・スカーレット、パチュリー・ノーレッジ、小悪魔、紅美鈴、そして咲夜だけが来たこと。
さらに、咲夜が数年の間あの部屋で病気療養のため寝込んでいた事をレミリアから聞かされた。
また、病気療養の理由をメイド長の激務の中で体調を崩し過労で倒れたからだとも。
ただ過労で倒れたというだけで、自分が何年も眠り続けていたなんてことは説明がつくはずがない。
咲夜はそれが嘘だろうと思っていた。しかし、お嬢様がそう仰る以上そういうことにしておけばいい、とも思っていた。
「さくやー、なにぼさっとしてんのさ」
突然咲夜は現実の世界に呼び戻された。主レミリアの声によって。
「おはようございます、お嬢様。外は寒そうだなと思っていただけですよ」
外の雪は夕日に照らされて赤く染まっていた。
「ふーん、まぁいいけどさ」
「ところでお嬢様。今日は冷えますから、神社の温泉にでも行きませんか?」
「温泉?別にいいよ」
レミリアは別にどうでもよかったが、咲夜が入りたいのだろうと思って快諾した。
ちなみに、レミリアは流れ水を渡ることができないが、水に触れる事自体は苦手でもなんでもない。
風呂ぐらいは入るのである。シャワーだって大好きだ。でも、雨は嫌い。
そこらへんの基準はレミリア本人にもよくわからないらしい。日光とは違って精神的なものなのかもしれない。
「それでは、準備をしてまいります」
咲夜はパチュリーと小悪魔、フランにも声をかけたが、みんな外に出るのを嫌がった。
フランは単に外に出るのが面倒な様子だった。これはいつものことなので咲夜も気にしない。
パチュリーと小悪魔はまだ魔法実験をしていた。
なお、小悪魔は何故か紺の水着を着ていた。そして、胸の布切れには「5-3 こあくま」と書かれていた。
咲夜は時々パチュリーの考えている事がわからなくなる。そんなときは魔法使いというのはそういう生き物なのかもしれないと思うしかなかった。
咲夜はパチュリーが残るなら留守番は必要ないということで、美鈴も連れて行くことにした。
8
夜の博麗神社。その近くにある温泉。
いつかの異変以来、人妖達に人気の温泉である。
しかし、今日は雪のせいか誰も入りにきていなかった。
こんな日だからこそ風情がある上に体もあったたまって心地いいのに、と咲夜は思うのだが。
「お嬢様、いかがですか?」
「うん、気持ちいいね」
「それはよかったです」
レミリアも咲夜もいい気分で湯につかっていると、
「咲夜さん、洗いっこしませんか?」
なんてことを美鈴が言い出した。
「しないわよ」
と言って咲夜は笑う。
「もう、付き合い悪いですね。それじゃ、お嬢様お背中お流ししましょう」
レミリアは、何で私より咲夜が先なのよ、と心の中で突っ込みをいれた。
そこでレミリアはちょっと意地悪を言ってみた。
「そうね、咲夜おねがい」
「はい、お嬢様」
美鈴が大げさに拗ねてみせた。
その様子が子供みたいでかわいらしく、レミリアも咲夜も笑ってしまった。
「もう冗談よ。美鈴、流してくれる?」
「はい、よろこんで!」
と今度は大げさに張り切って、腕まくりをしてみせる。
もちろん裸なのだから、フリをしただけだったが。
咲夜は時々美鈴がうらやましくなる。美鈴はいつも素直に振舞い何をやっても憎めない。
お嬢様も美鈴のそういうところを気に入って紅魔館に置いておられるのだろう、と咲夜は考えていた。
大人しく美鈴に洗われていたレミリアであったが、
「美鈴のは相変わらず大きいね」
と言うと、美鈴の右胸に噛み付いた。
レミリアは吸血しなくても噛み付く。誰の胸にでも噛み付くわけではないので、レミリア流の愛情表現なのだろう。
少なくとも、咲夜や美鈴はそう解釈しているようだ。
「もう、お嬢様。外ではやめてくださいよ」
と美鈴はレミリアを窘めようとしているが、こそばゆいのか声に力が入っていない。
咲夜は以前レミリアに、何故胸に噛み付くのか聞いた事がある。
理由は至って単純なものだった。
やわらかくて食感がいいから、それだけだった。
咲夜はレミリアがそういう趣味の持ち主でないことは知っていたから、
悪魔らしいもっともな理由があるのではないかと思っていたのだが、拍子抜けだった。
でも、普段噛み付くのはいつも右胸。咲夜も左胸に噛み付かれたのは初めて会った日のあの一回だけだった。
だから左胸に噛み付く事はレミリアにとって特別な意味があるのだと咲夜は思っていた。
レミリアは数秒噛み付いて満足したのか美鈴を離し、もう一度湯に浸かった。
美鈴は自分の体を洗い始めた。
そこへ、
「あんた達も来てたんだ」
と温泉に入ってきたのは天人霊夢である。
霊夢は博麗の巫女を引退した後、天人となっていた。
なお、姓は比那名居である。霊夢本人も忘れているのではないかと思われるが。
その霊夢の隣にはまだあどけなさの残る少女がいた。
「あら、霊夢。その子は誰?」
早速興味を持ったレミリアが聞く。
「ん?この子?あんたらの天敵よ」
霊夢以上の天敵なんていないんじゃないかと紅魔館の三人は思ったが、口には出さなかった。
そんな三人の心の内など知ったことではない霊夢が話を続ける。
「新しい博麗の巫女よ」
霊夢は天人になってからは歴代の巫女の後見人を務めている。
主に教育指導したり、異変解決にけしかけたりするのが仕事だ。
霊夢は博麗大結界を守っている妖怪八雲紫の苦労を、自分がこういう立場になって痛感するようになった。
自分が巫女であったときには紫がそのような役割をしてくれていたから。
「ああ、たしかに天敵だね」
「あら、お嬢さまに天敵でも、私にとっては違いますよ」
「咲夜さんは都合のいいときだけ人間ぶりますよね」
「美鈴、おしおきが欲しいの?」
「咲夜さんはどんな時も素敵な人間です!」
「もう、美鈴をいじめないの」
レミリアが咲夜を窘める。
それを面白そうに眺めていた霊夢が質問をした。
「ところでさ、前から気になってたんだけど、咲夜と美鈴って同じ傷があるよね」
咲夜と美鈴には昔から同じところに消えない傷がある。
霊夢の疑問に咲夜が答える。
「この左胸の傷ですか?これはですね・・・・・・」
ここで咲夜が美鈴にウィンクする。
美鈴は両目をキュッと閉じて了解の合図を返す。
咲夜が説明を続ける。
「言いにくいことですが、霊夢にならいいでしょう。これはお嬢様のご寵愛の印です」
美鈴がこれに続く。
「あの、恥ずかしいのですが言っちゃいますと、お嬢様が激しくなさっているときに出る癖なんですよ。強く噛み付かれるのです」
美鈴がいかにも恥らうかのように頬を染めて見せた。
あわててレミリアが口を挟む。
「ちょっ、ちょっとあんたたち何言ってるの!霊夢、嘘だからね!こいつら言ってる事全部嘘だからね!」
慌てふためくレミリアが霊夢のほうに寄ってくる。
霊夢は一瞬咲夜、美鈴のほうに笑みを送ると、
「近寄るな、変態!」
と言いながら、どこに隠し持っていたのか退魔の御札を取り出す。
「ぎゃー、やめて。霊夢やめて!」
逃げるレミリア。
レミリアは置いてあった洗面器に足を突っ込んで滑り、転倒した。
霊夢がこらえきれなくなって爆笑。
咲夜と美鈴も吊られて爆笑した。
レミリアは一瞬唖然としたが、自分が悪戯にひっかかったことに気付き、今度は憮然としている。
博麗の巫女は幻想郷の実力者達のそんなやりとりに始終きょとんとしていた。
霊夢とのおしゃべりも尽きなかったが、レミリアと咲夜は先に温泉をでた。
また、霊夢からの申し出により、巫女の修行のため美鈴を一日貸し出すこととなった。
美鈴は霊夢と一緒にそのまま神社に泊まる事となった。
9
帰り道。
「お嬢様、私も年を取りました」
「そうね」
「あら、否定してくださらないのですか?」
「否定して欲しかったの?」
「いえ、別にそういうわけではありませんが」
「じゃ、いいじゃない。それで?」
「はい、そろそろ隠居しようかと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「いいよ、咲夜がしたいようにしてくれれば」
「ありがとうございます。それで、ひとつお願いがあるのですが」
「なんだい」
「今まで通りお傍においていただければと」
「なんだ、そんなこと?」
「はい、そんなことです」
「咲夜はわたしのなんだから、傍にいるのは当たり前でしょ?」
「そうですね」
「そうよ」
翌日、十六夜咲夜はメイド長の役職を辞し、紅美鈴がメイド長に任命された。