紅魔館は常に来客を待っている。
射命丸文は、常連だ。
来客に与えられる掟はただひとつ。
主に楽しみを与えることだけ。
お茶会に招待されれば、思いつくままに質問し。
あるいは主の聞き役に回る。
射命丸文は、山にいた鬼たちが大の苦手であるものの。
この西洋鬼の令嬢には、けっこうな好意を持っているのだった。
多くは他愛ないおしゃべりだけれども。
時として思わぬことを知る時もある。
そしてそれはある日のお茶会に招待されてのこと。
いつものテラスから午後の太陽で輝く湖面を見下ろしてのお茶会。
「よく運命と口にしますが、貴方の目にはそれが見えるのでしょうか?」
真実の鍵穴は思わぬところにあるものだ。
文はいつだって会話でそれをつつこうとする。
「運命というのは、ね。勘違いと言い換えてもいいのよ。紅茶はいかがかしら、カラスさん」
紅い悪魔の館が主、レミリア・スカーレットが答える。
メイド長――咲夜が、文のカップに紅茶のお代わりを注いだ。
どうやら、今日は聞き手を求められているらしい、と文は手帳を開く。
言葉をメモされると、この令嬢は機嫌をよくするのだ。
どこか厳かにレミリアは言葉を紡ぐ。
「この世の全ては茶番と勘違いなの。私は勘違いを司る悪魔ということ」
虚栄も虚飾も衒いもない。
当人がどう思っているかわからないが、レミリアは実に嘘の下手な悪魔である。それがわかる程度には、文とて彼女と交流を重ねている。
きっとこれは、レミリアがレミリアなりに導いた正しい『解』。
すなわち、すばらしき情報であり真実に違いないと。
射命丸文は傾聴する。
「運命を操るということはね、それは要するに人に勘違いをさせるということ。ほんの少しの勘違いで、人はいつもと違う道を歩んで。茶番の人生を劇的に変えるの。喜劇、悲劇、活劇、楽劇、惨劇、寸劇、即興劇に無言劇。でも、茶番劇だけはないわ。勘違いは何の策も何の嘘もない、当然の帰結なんてものもない。予測のつかない、誰にも知ることのできない、その人だけの真実なんだから」
「真実と聞いては黙っていられませんね。しかし心の中の真実なら、あの地霊殿の主が見抜けるのでは?」
地底の妖怪たちについては、レミリアも巫女や魔法使い、文やパチュリーからよく話を聞いている。
「地霊殿――地底、ね。あそこの住人にも気になる子はいるわ。地上が恋しければ、迎えてあげるのにと思う子もね……ふふ、そうそう。心の中が読めるんだったかしら? でも聞いた限りの能力では、私の言う運命――勘違い、は読み取れないわ。だって、勘違いは勘違いであるがゆえに。常に当人の中で変わっていくのだもの」
「言葉として内心を聞くことでは無意味、と?」
「ええ。そんなのはむしろ、勘違いの種。きっとその子は、勘違いに満ちた生き様を描いているはずよ。愛らしいわ。掟も曖昧になったようだし、私も地底に行ってみようかしら」
「おっと、今のは聞かなかったことにしておきますよ。どうして変わっていくのです? 真実なのでしょう?」
中立を自認する文は肩をすくめ、慌てて話を巻き戻す。
「ふふ、さすが社交性が高いわね、カラスさん。紅茶はいかがかしら。今の言葉で察してくれると思ったのだけど? 心の中の真実なんて、要するにただの主観なの。そう、ただの主観。でも、それこそが全てを狂わす怪物なのよ。誰の中にでもいる、どんな妖怪よりも強い怪物、ふふふ」
「大天狗様やスキマ妖怪よりもですか」
「もちろん。外の世界の戦争も、全ての恋も愛も、私たちの起こす異変さえも。あらゆる争い、あらゆる愛、あらゆる事件を産むのは、いつだって主観なのよ」
いつの間にか、レミリアの背後にいた咲夜が紅茶のおかわりを注いでいた。
「主観が勘違いを産む。私は主観を操ることはできないけれど、勘違いなら操れるのよ」
レミリア・スカーレットが酷く、悪魔的な目を見せた。
なるほど、妖怪と悪魔は違う、文は内心でそう頷きながら。
注がれた紅茶を唇に運んでいた。
「貴方は私がここにいるってどうして言えるの? 幻想郷があること、妖怪の山があること、天狗という妖怪がいること、貴方が記者であること、貴方の名前が射命丸文であること、ねえ、どれもこれもどうして証明できるかしら。貴方が見ている夢かもしれない。本当の貴方は人間の里で寝込んでいる死に際の老人かもしれないわ。現実の方の人か、あるいはただの自然現象かもしれないわよ?」
「それは考える意味もないし、答えも出ない議論でしょう」
眉をひそめながら問い直してみる文。どうにも今日は、ただの相槌では流しづらい話が多い。
「もちろん。でも、それを決めているのはとどのつまり、世間の常識とか他人の言葉じゃなくて、あなたの自我なの。この世界そのものが単なる勘違いかもしれない、つまりただの仮定である以上。勘違いを操れば、世界は好きに動かせるのよ」
「……本当ですか? にわかには信じがたい話ですが」
しかし、できないとも言えない。
境界を操る八雲紫の能力がいかに規格外か、その片鱗を文は知っている。
目の前の紅魔館の主は、時には八雲紫に匹敵するとも言われる大妖怪だ。
ごくり、と紅茶を飲み干した。
「ふふ、信じられない? でも、私はこうして、思い通りの世界、都合のいい世界に住んでいる。適度なトラブルやストレスに出会いつつ、館の主としてお嬢様としての生活を満喫しているわ。私はそれだけでも、己の能力を存分に使っているつもりよ。ふふ、紅茶はいかがかしら、カラスさん」
本当に、信じられない話だと思いつつも。紅茶を注がれながら、文はペンを走らせた。
「もちろん、全て私の勘違いかもしれないわよ」
その一言でペンが手帳に無意味な線を一本引く。
「あ、あのぉ……勘違いでは困るんですが」
少しいつもの調子が戻ったと、文は安堵の息をつく。
しかし。
「あら、じゃあ貴方の勘違いかしら? 勘違いなんてどこにでもあるのよ? そう、たとえば――咲夜だってそう」
そろり、と。傍らに戻った咲夜の腕を、レミリアは小さな手で舐めるように撫で上げる。
長身のメイド長が、小さく震えた。
「ねえ、咲夜。貴方も、私を勘違いしたでしょう? 弱い小物、愚かな小娘、傷つきやすい少女、哀れな犠牲者。ふふふ、いくつかは今も真実だと思っているかしら? そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわね。私が弱い時も、愚かな時も、傷つきやすい時も、哀れな時だってあるわ。貴方がそうであるように」
「はい、お嬢様」
こくりと頷く咲夜。
小さく笑うレミリア。
文が知る、いつもの二人とは違う。
「でも咲夜、貴方は私に仕えている。仕えることを志願してきたわけじゃないわ。運命――私への勘違いが貴方を今の居場所へと引き寄せたのよ。おかしな子ね、咲夜。あんなに私に棘だらけで向かって来たのに。あなたの歯車はこんなにも私にぴったりよ。ふふ、欠けていた部分が満たされる感触は心地よいでしょう?」
「……はい、お嬢様」
妖怪以上に冷徹なメイド長が、小さく息を荒くする様子だけでも、いつもなら特ダネと思えたろうが。今の文はただ二人を凝視し、紅茶を飲むことしかできない。
だから、レミリアが再び文に目を向けた時には、心底ほっとしたのだった。
「……ふふ、退屈させたかしら、カラスさん。紅茶はいかがかしら?」
「は、はぁ」
文は咄嗟に頷いた。
瞬きする間もなく、咲夜はいつの間にか文の傍らにいて紅茶を注いでいる。
眉は伏せられ、呼吸も静か。完璧にして瀟洒な佇まいはいつも通り。
「そうね。まだよくわからないようだから、対照的な存在について語ろうかしら。ちょうどさっき貴方も言った、スキマ妖怪――面識も、あるわよね?」
「もちろんです。もっとも、懇意とはいきませんが」
唇を釣りあがらせる。
なるほど、悪魔の笑みと鬼の笑みは随分と違う、などと考えながら。
文は手帳にペンを走らせ、紅茶を口に運ぶ。
「私が勘違いの化身だとしたら、あのスキマ妖怪は茶番の化身よ」
「はぁ、茶番ですか」
気のない返事ねぇ、とレミリアがいつもの苦笑を見せる。
少し場が和んだ気がして。
気が緩めば、文はまた紅茶を口に運んだ。
「茶番に主観はないわ。つまり客観なのよ。何もかも俯瞰して、上から見てわかっているから、何もかも退屈でたまらない。眠って夢の中にそれを見出そうとするけれど、それも彼女にはただの活動停止時間。茶番は絶対の結果を出してくれる。塔から林檎を落とせば地面に落ちるように。それが茶番の強みであり、つまらなさなの。イレギュラーが羨ましくてたまらないのね。異変が起こるたびに誰より苦労して解決しているように見えて、誰より内心で解決を望んでいないのが、あの妖怪よ」
「……すると、今までの異変でも紫さんは本心では解決するつもりなどなかった、と?」
だとしたら、少し聞き捨てならない話だ。
「違うわよ。本心通りに動けないから、あいつは茶番なの。既に決めた役目から逃げ出せないのよ。確かに強力でしょうけど、哀れなかごの中の小鳥だわ。境界を操るなんて言って、私の目にはあいつこそ、己の境界に閉じ込められてるのにね」
そして、レミリアは哀れみの笑みを浮かべた。
文にもなぜか、哀れみの情が湧いた。
「だから、あいつは私以上に面倒ごとに関わりたがる。他人の勘違いを眺めて、精一杯自分がしているつもりになってる。哀れな子だわ。あの子の周りはあんなにも勘違いの喜劇と悲劇に満ちた素晴らしい劇場なのに。ポスターを眺めるだけで、中に入ったことが一度もないのよ?」
くすくすくす、心底見下した笑みを浮かべるレミリア。
文もまた、見下した笑みを浮かべかけて……慌ててティーカップを口に運び隠す。
「ふふ、勘違いは子供の特権。茶番は大人の作法。これは幻想郷の住人たちを見て回る時、面白いキーワードになるわよ。ねぇ、だから思い出してやりなさい。私は永遠に幼い紅き月。けれど、あの女はどうかしら? 茶番に満ちた生き様は、幼さも愛も信頼もない。利用して利用されるだけの、数字。便利だし信用できるけど、そんな生き方はつまらないでしょう? 紅茶はいかがかしら、カラスさん」
「そこまで極端に行かずとも、両者の中間ではいけないんでしょうかね」
傍らでカップに注ぐ咲夜はもう、気にならない。
「もちろん、みんな両者の中道を生きるのよ。私にだって茶番はあるわ。お茶の時間が、この時間でなくちゃいけない決まりなんてないもの。この館にしたって、咲夜もパチュリーも茶番を重視する子たちよ。美鈴は勘違い側だけど。でもね、やはり全てを最後に決断するのは主観なのよ。特に少女なら、ね」
にっこりと、“少女の笑み”を浮かべてレミリアは言う。
「妖精たちを見て? あんなに勘違いに満ちた子たちがいるかしら? 博麗の巫女、白黒の魔法使いを見てみなさい? およそ茶番からはほど遠い子たちでしょう? 山の巫女は知っているわよね? あれも本当に地に足のついていない、かわいい子」
くすり、とまた笑みを深くする。
“少女の笑み”と“悪魔の笑み”に違いがほとんどないことを、文は思い知らされる。
喉が渇いて。
文はまた紅茶をすすった。
「そういえば、あの月の賢者はロマンティックね。勘違いに振り回されて、それに身をゆだねて。私も、あの人には愛を感じるわ。己自身は茶番の塊なのに、勘違いの塊に仕えて。勘違い気分に浸っているのね。あのお姫様には、とてもシンパシーを感じるわ。咲夜と私の関係によく似ているもの。外から眺めるには面白い人たちだわ。長年見ていないけれど、ちょうど鏡を見てるみたい。きっと向こうもそう思っていることでしょうね――ふふ、紅茶はいかがかしら、カラスさん」
そうして。
気がつけば。
夜が更けるまで文は、幻想郷の主だった住人についてのレミリアの評価を聞かされ。
注がれる紅茶をすすり続けた。
話がよくやく終わった時には。
いつの間にか。
紅い満月が空からテラスを見下ろしていた。
「さて、勘違いの化身の言葉はどうだったかしら? 私にふさわしい勘違いに満ちていた?」
“少女の笑み”で、レミリアは尋ねてくる。
「ねえ、貴女は何のために私たちに近づくのかしら、カラスさん? 私だけじゃない、他の子たちにも。天狗というのは山で己の社会にこもっているものじゃないの?」
「そんなことはありませんよ、みんな社交的です」
文はソツなく、天狗の外渉役としての顔で答える。
「貴方は天狗であることに不満なのに、天狗にしがみついているんじゃないかしら。カラスよりもコウモリがふさわしいかもしれないわね」
「…………」
簡単に笑って受け流そうとしたのに。文には、なぜか笑顔が浮かばなかった。コウモリ呼ばわりを不愉快とすら感じなかった。
「勘違いなさいな。この館でもいいし、他の場所でもいい。貴方の居場所はきっとあの山の外にあるのよ。あるいは居場所がないことが、あなたの居場所なのかしら?」
夜の陰りが、紅い月光が、“悪魔の笑み”を浮かべさせる。文の顔に。
「ふふ、そんなかわいい顔をしないで。自由に飛ばせてあげるのが惜しくなってしまうわ。勘違いした迷い鳥はいつでも歓迎してるのよ。ここは勘違いした子たちの館。みんながみんな、勘違いしながら役割を果たすの。勘違いしながら、勘違いした役割に酔いしれるのよ。それが、運命の歯車がかみ合うということ。茶番では得られない、美しい工芸品だわ」
レミリアが席を立ち、テラスの手すりにつま先立つ。
そしてうっとりとした顔で、くるくると踊った。
それは厄神の踊りに似ていたが。
文には己の何かを巻き取って、引き寄せているように思えた。
「真実だの常識だのなんて太陽よ。勘違いという影を照らし消してしまうわ。
あまりに多い情報は流れる水よ。勘違いという澱みを押し流してしまうわ。
だから提案しておきましょう。記者なんてやめて、私の執事におなりなさい。黒い翼の貴女に、黒い執事の服はさぞかし似合うことでしょう。天狗だなんて言わず、堕天使と呼んであげる。美鈴と咲夜は好きに使っていいわ。みんなで楽しく遊びましょう?」
「――――」
それに、何と答えたのか、射命丸文の記憶にはない。
ただ、その時。
射命丸文という名前はなく、丸裸にされた己自身――レミリアの言葉を借りるなら主観――を、レミリアは甘い“悪魔の笑み”で堪能し、嘗め回していた。
「もちろん、私の言葉なんて無意味な飾り。貴方の本質に指一本触れることはできないわよ♪」
そう、彼女がいつもの表情で笑って。
射命丸文は慌てて裸体を隠すように、感情を経験で覆った。常識と倫理で塗り固めた。
「そ、それはそうでしょう。はいそうですか、と貴方の執事になんてなれませんよ」
乾いた笑いをごまかすように、カップの紅茶をあおる。
「だけど」
追い撃ちが悪魔の唇から漏れる。
「今日、貴方がした勘違いは、どんな味だったかしら? 私の血をそれだけ飲んで、もうその翼は半ばコウモリのものなのよ? 今夜くらいは、夜の狩りをいっしょにするのがマナーじゃないかしら?」
目を見開き、カップを見る。
どろりと濁った赤。
口の中に感じる金臭さ。腹の中から侵食してくるような悪魔の――血。
「こんなにも月が紅いんだもの、本気で殺しに行きましょう?」
にっこりと。
少女の笑み。
「どう? 勘違いは素晴らしいでしょう?」
幻想郷最速だから。
射命丸文は、レミリアからも咲夜からも、逃れることができた。
吐き出そうとしても吐き出せない。
空をめちゃくちゃに駆け巡りながら、何度もえづき。
紅い月から逃れるようにぐるぐると。
ぐるぐると。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
紅い月の下、テラスで令嬢とメイドが笑う。
「素敵な勘違いだったわね、咲夜」
「はい」
席に座った咲夜の膝の上、レミリアは幼い子供のように座る。
「逃がしたカラスは大きかったかしら?」
「まだ逃がしたと決まったわけではありませんよ?」
髪をなでる咲夜に、レミリアは目を閉じて包まれる。
「ふふ、そうね」
思案した、というよりは思案したふりをした、様子。
そんな主を咲夜は愛しているし、それが勘違いでも問題など何もない。
「ええ、お嬢様。きっとまたすぐ、明日にでも来ますよ」
やわらかく抱きしめられるのも、レミリアの好みで。
咲夜自身の好みでもある。
レミリアは目を細めた。
「ふふふ――紅魔館は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ…………なーんて、ね」
くすくす
くすくす
少女の笑う声が、紅い月の夜に響いた。
射命丸文は、常連だ。
来客に与えられる掟はただひとつ。
主に楽しみを与えることだけ。
お茶会に招待されれば、思いつくままに質問し。
あるいは主の聞き役に回る。
射命丸文は、山にいた鬼たちが大の苦手であるものの。
この西洋鬼の令嬢には、けっこうな好意を持っているのだった。
多くは他愛ないおしゃべりだけれども。
時として思わぬことを知る時もある。
そしてそれはある日のお茶会に招待されてのこと。
いつものテラスから午後の太陽で輝く湖面を見下ろしてのお茶会。
「よく運命と口にしますが、貴方の目にはそれが見えるのでしょうか?」
真実の鍵穴は思わぬところにあるものだ。
文はいつだって会話でそれをつつこうとする。
「運命というのは、ね。勘違いと言い換えてもいいのよ。紅茶はいかがかしら、カラスさん」
紅い悪魔の館が主、レミリア・スカーレットが答える。
メイド長――咲夜が、文のカップに紅茶のお代わりを注いだ。
どうやら、今日は聞き手を求められているらしい、と文は手帳を開く。
言葉をメモされると、この令嬢は機嫌をよくするのだ。
どこか厳かにレミリアは言葉を紡ぐ。
「この世の全ては茶番と勘違いなの。私は勘違いを司る悪魔ということ」
虚栄も虚飾も衒いもない。
当人がどう思っているかわからないが、レミリアは実に嘘の下手な悪魔である。それがわかる程度には、文とて彼女と交流を重ねている。
きっとこれは、レミリアがレミリアなりに導いた正しい『解』。
すなわち、すばらしき情報であり真実に違いないと。
射命丸文は傾聴する。
「運命を操るということはね、それは要するに人に勘違いをさせるということ。ほんの少しの勘違いで、人はいつもと違う道を歩んで。茶番の人生を劇的に変えるの。喜劇、悲劇、活劇、楽劇、惨劇、寸劇、即興劇に無言劇。でも、茶番劇だけはないわ。勘違いは何の策も何の嘘もない、当然の帰結なんてものもない。予測のつかない、誰にも知ることのできない、その人だけの真実なんだから」
「真実と聞いては黙っていられませんね。しかし心の中の真実なら、あの地霊殿の主が見抜けるのでは?」
地底の妖怪たちについては、レミリアも巫女や魔法使い、文やパチュリーからよく話を聞いている。
「地霊殿――地底、ね。あそこの住人にも気になる子はいるわ。地上が恋しければ、迎えてあげるのにと思う子もね……ふふ、そうそう。心の中が読めるんだったかしら? でも聞いた限りの能力では、私の言う運命――勘違い、は読み取れないわ。だって、勘違いは勘違いであるがゆえに。常に当人の中で変わっていくのだもの」
「言葉として内心を聞くことでは無意味、と?」
「ええ。そんなのはむしろ、勘違いの種。きっとその子は、勘違いに満ちた生き様を描いているはずよ。愛らしいわ。掟も曖昧になったようだし、私も地底に行ってみようかしら」
「おっと、今のは聞かなかったことにしておきますよ。どうして変わっていくのです? 真実なのでしょう?」
中立を自認する文は肩をすくめ、慌てて話を巻き戻す。
「ふふ、さすが社交性が高いわね、カラスさん。紅茶はいかがかしら。今の言葉で察してくれると思ったのだけど? 心の中の真実なんて、要するにただの主観なの。そう、ただの主観。でも、それこそが全てを狂わす怪物なのよ。誰の中にでもいる、どんな妖怪よりも強い怪物、ふふふ」
「大天狗様やスキマ妖怪よりもですか」
「もちろん。外の世界の戦争も、全ての恋も愛も、私たちの起こす異変さえも。あらゆる争い、あらゆる愛、あらゆる事件を産むのは、いつだって主観なのよ」
いつの間にか、レミリアの背後にいた咲夜が紅茶のおかわりを注いでいた。
「主観が勘違いを産む。私は主観を操ることはできないけれど、勘違いなら操れるのよ」
レミリア・スカーレットが酷く、悪魔的な目を見せた。
なるほど、妖怪と悪魔は違う、文は内心でそう頷きながら。
注がれた紅茶を唇に運んでいた。
「貴方は私がここにいるってどうして言えるの? 幻想郷があること、妖怪の山があること、天狗という妖怪がいること、貴方が記者であること、貴方の名前が射命丸文であること、ねえ、どれもこれもどうして証明できるかしら。貴方が見ている夢かもしれない。本当の貴方は人間の里で寝込んでいる死に際の老人かもしれないわ。現実の方の人か、あるいはただの自然現象かもしれないわよ?」
「それは考える意味もないし、答えも出ない議論でしょう」
眉をひそめながら問い直してみる文。どうにも今日は、ただの相槌では流しづらい話が多い。
「もちろん。でも、それを決めているのはとどのつまり、世間の常識とか他人の言葉じゃなくて、あなたの自我なの。この世界そのものが単なる勘違いかもしれない、つまりただの仮定である以上。勘違いを操れば、世界は好きに動かせるのよ」
「……本当ですか? にわかには信じがたい話ですが」
しかし、できないとも言えない。
境界を操る八雲紫の能力がいかに規格外か、その片鱗を文は知っている。
目の前の紅魔館の主は、時には八雲紫に匹敵するとも言われる大妖怪だ。
ごくり、と紅茶を飲み干した。
「ふふ、信じられない? でも、私はこうして、思い通りの世界、都合のいい世界に住んでいる。適度なトラブルやストレスに出会いつつ、館の主としてお嬢様としての生活を満喫しているわ。私はそれだけでも、己の能力を存分に使っているつもりよ。ふふ、紅茶はいかがかしら、カラスさん」
本当に、信じられない話だと思いつつも。紅茶を注がれながら、文はペンを走らせた。
「もちろん、全て私の勘違いかもしれないわよ」
その一言でペンが手帳に無意味な線を一本引く。
「あ、あのぉ……勘違いでは困るんですが」
少しいつもの調子が戻ったと、文は安堵の息をつく。
しかし。
「あら、じゃあ貴方の勘違いかしら? 勘違いなんてどこにでもあるのよ? そう、たとえば――咲夜だってそう」
そろり、と。傍らに戻った咲夜の腕を、レミリアは小さな手で舐めるように撫で上げる。
長身のメイド長が、小さく震えた。
「ねえ、咲夜。貴方も、私を勘違いしたでしょう? 弱い小物、愚かな小娘、傷つきやすい少女、哀れな犠牲者。ふふふ、いくつかは今も真実だと思っているかしら? そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわね。私が弱い時も、愚かな時も、傷つきやすい時も、哀れな時だってあるわ。貴方がそうであるように」
「はい、お嬢様」
こくりと頷く咲夜。
小さく笑うレミリア。
文が知る、いつもの二人とは違う。
「でも咲夜、貴方は私に仕えている。仕えることを志願してきたわけじゃないわ。運命――私への勘違いが貴方を今の居場所へと引き寄せたのよ。おかしな子ね、咲夜。あんなに私に棘だらけで向かって来たのに。あなたの歯車はこんなにも私にぴったりよ。ふふ、欠けていた部分が満たされる感触は心地よいでしょう?」
「……はい、お嬢様」
妖怪以上に冷徹なメイド長が、小さく息を荒くする様子だけでも、いつもなら特ダネと思えたろうが。今の文はただ二人を凝視し、紅茶を飲むことしかできない。
だから、レミリアが再び文に目を向けた時には、心底ほっとしたのだった。
「……ふふ、退屈させたかしら、カラスさん。紅茶はいかがかしら?」
「は、はぁ」
文は咄嗟に頷いた。
瞬きする間もなく、咲夜はいつの間にか文の傍らにいて紅茶を注いでいる。
眉は伏せられ、呼吸も静か。完璧にして瀟洒な佇まいはいつも通り。
「そうね。まだよくわからないようだから、対照的な存在について語ろうかしら。ちょうどさっき貴方も言った、スキマ妖怪――面識も、あるわよね?」
「もちろんです。もっとも、懇意とはいきませんが」
唇を釣りあがらせる。
なるほど、悪魔の笑みと鬼の笑みは随分と違う、などと考えながら。
文は手帳にペンを走らせ、紅茶を口に運ぶ。
「私が勘違いの化身だとしたら、あのスキマ妖怪は茶番の化身よ」
「はぁ、茶番ですか」
気のない返事ねぇ、とレミリアがいつもの苦笑を見せる。
少し場が和んだ気がして。
気が緩めば、文はまた紅茶を口に運んだ。
「茶番に主観はないわ。つまり客観なのよ。何もかも俯瞰して、上から見てわかっているから、何もかも退屈でたまらない。眠って夢の中にそれを見出そうとするけれど、それも彼女にはただの活動停止時間。茶番は絶対の結果を出してくれる。塔から林檎を落とせば地面に落ちるように。それが茶番の強みであり、つまらなさなの。イレギュラーが羨ましくてたまらないのね。異変が起こるたびに誰より苦労して解決しているように見えて、誰より内心で解決を望んでいないのが、あの妖怪よ」
「……すると、今までの異変でも紫さんは本心では解決するつもりなどなかった、と?」
だとしたら、少し聞き捨てならない話だ。
「違うわよ。本心通りに動けないから、あいつは茶番なの。既に決めた役目から逃げ出せないのよ。確かに強力でしょうけど、哀れなかごの中の小鳥だわ。境界を操るなんて言って、私の目にはあいつこそ、己の境界に閉じ込められてるのにね」
そして、レミリアは哀れみの笑みを浮かべた。
文にもなぜか、哀れみの情が湧いた。
「だから、あいつは私以上に面倒ごとに関わりたがる。他人の勘違いを眺めて、精一杯自分がしているつもりになってる。哀れな子だわ。あの子の周りはあんなにも勘違いの喜劇と悲劇に満ちた素晴らしい劇場なのに。ポスターを眺めるだけで、中に入ったことが一度もないのよ?」
くすくすくす、心底見下した笑みを浮かべるレミリア。
文もまた、見下した笑みを浮かべかけて……慌ててティーカップを口に運び隠す。
「ふふ、勘違いは子供の特権。茶番は大人の作法。これは幻想郷の住人たちを見て回る時、面白いキーワードになるわよ。ねぇ、だから思い出してやりなさい。私は永遠に幼い紅き月。けれど、あの女はどうかしら? 茶番に満ちた生き様は、幼さも愛も信頼もない。利用して利用されるだけの、数字。便利だし信用できるけど、そんな生き方はつまらないでしょう? 紅茶はいかがかしら、カラスさん」
「そこまで極端に行かずとも、両者の中間ではいけないんでしょうかね」
傍らでカップに注ぐ咲夜はもう、気にならない。
「もちろん、みんな両者の中道を生きるのよ。私にだって茶番はあるわ。お茶の時間が、この時間でなくちゃいけない決まりなんてないもの。この館にしたって、咲夜もパチュリーも茶番を重視する子たちよ。美鈴は勘違い側だけど。でもね、やはり全てを最後に決断するのは主観なのよ。特に少女なら、ね」
にっこりと、“少女の笑み”を浮かべてレミリアは言う。
「妖精たちを見て? あんなに勘違いに満ちた子たちがいるかしら? 博麗の巫女、白黒の魔法使いを見てみなさい? およそ茶番からはほど遠い子たちでしょう? 山の巫女は知っているわよね? あれも本当に地に足のついていない、かわいい子」
くすり、とまた笑みを深くする。
“少女の笑み”と“悪魔の笑み”に違いがほとんどないことを、文は思い知らされる。
喉が渇いて。
文はまた紅茶をすすった。
「そういえば、あの月の賢者はロマンティックね。勘違いに振り回されて、それに身をゆだねて。私も、あの人には愛を感じるわ。己自身は茶番の塊なのに、勘違いの塊に仕えて。勘違い気分に浸っているのね。あのお姫様には、とてもシンパシーを感じるわ。咲夜と私の関係によく似ているもの。外から眺めるには面白い人たちだわ。長年見ていないけれど、ちょうど鏡を見てるみたい。きっと向こうもそう思っていることでしょうね――ふふ、紅茶はいかがかしら、カラスさん」
そうして。
気がつけば。
夜が更けるまで文は、幻想郷の主だった住人についてのレミリアの評価を聞かされ。
注がれる紅茶をすすり続けた。
話がよくやく終わった時には。
いつの間にか。
紅い満月が空からテラスを見下ろしていた。
「さて、勘違いの化身の言葉はどうだったかしら? 私にふさわしい勘違いに満ちていた?」
“少女の笑み”で、レミリアは尋ねてくる。
「ねえ、貴女は何のために私たちに近づくのかしら、カラスさん? 私だけじゃない、他の子たちにも。天狗というのは山で己の社会にこもっているものじゃないの?」
「そんなことはありませんよ、みんな社交的です」
文はソツなく、天狗の外渉役としての顔で答える。
「貴方は天狗であることに不満なのに、天狗にしがみついているんじゃないかしら。カラスよりもコウモリがふさわしいかもしれないわね」
「…………」
簡単に笑って受け流そうとしたのに。文には、なぜか笑顔が浮かばなかった。コウモリ呼ばわりを不愉快とすら感じなかった。
「勘違いなさいな。この館でもいいし、他の場所でもいい。貴方の居場所はきっとあの山の外にあるのよ。あるいは居場所がないことが、あなたの居場所なのかしら?」
夜の陰りが、紅い月光が、“悪魔の笑み”を浮かべさせる。文の顔に。
「ふふ、そんなかわいい顔をしないで。自由に飛ばせてあげるのが惜しくなってしまうわ。勘違いした迷い鳥はいつでも歓迎してるのよ。ここは勘違いした子たちの館。みんながみんな、勘違いしながら役割を果たすの。勘違いしながら、勘違いした役割に酔いしれるのよ。それが、運命の歯車がかみ合うということ。茶番では得られない、美しい工芸品だわ」
レミリアが席を立ち、テラスの手すりにつま先立つ。
そしてうっとりとした顔で、くるくると踊った。
それは厄神の踊りに似ていたが。
文には己の何かを巻き取って、引き寄せているように思えた。
「真実だの常識だのなんて太陽よ。勘違いという影を照らし消してしまうわ。
あまりに多い情報は流れる水よ。勘違いという澱みを押し流してしまうわ。
だから提案しておきましょう。記者なんてやめて、私の執事におなりなさい。黒い翼の貴女に、黒い執事の服はさぞかし似合うことでしょう。天狗だなんて言わず、堕天使と呼んであげる。美鈴と咲夜は好きに使っていいわ。みんなで楽しく遊びましょう?」
「――――」
それに、何と答えたのか、射命丸文の記憶にはない。
ただ、その時。
射命丸文という名前はなく、丸裸にされた己自身――レミリアの言葉を借りるなら主観――を、レミリアは甘い“悪魔の笑み”で堪能し、嘗め回していた。
「もちろん、私の言葉なんて無意味な飾り。貴方の本質に指一本触れることはできないわよ♪」
そう、彼女がいつもの表情で笑って。
射命丸文は慌てて裸体を隠すように、感情を経験で覆った。常識と倫理で塗り固めた。
「そ、それはそうでしょう。はいそうですか、と貴方の執事になんてなれませんよ」
乾いた笑いをごまかすように、カップの紅茶をあおる。
「だけど」
追い撃ちが悪魔の唇から漏れる。
「今日、貴方がした勘違いは、どんな味だったかしら? 私の血をそれだけ飲んで、もうその翼は半ばコウモリのものなのよ? 今夜くらいは、夜の狩りをいっしょにするのがマナーじゃないかしら?」
目を見開き、カップを見る。
どろりと濁った赤。
口の中に感じる金臭さ。腹の中から侵食してくるような悪魔の――血。
「こんなにも月が紅いんだもの、本気で殺しに行きましょう?」
にっこりと。
少女の笑み。
「どう? 勘違いは素晴らしいでしょう?」
幻想郷最速だから。
射命丸文は、レミリアからも咲夜からも、逃れることができた。
吐き出そうとしても吐き出せない。
空をめちゃくちゃに駆け巡りながら、何度もえづき。
紅い月から逃れるようにぐるぐると。
ぐるぐると。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
紅い月の下、テラスで令嬢とメイドが笑う。
「素敵な勘違いだったわね、咲夜」
「はい」
席に座った咲夜の膝の上、レミリアは幼い子供のように座る。
「逃がしたカラスは大きかったかしら?」
「まだ逃がしたと決まったわけではありませんよ?」
髪をなでる咲夜に、レミリアは目を閉じて包まれる。
「ふふ、そうね」
思案した、というよりは思案したふりをした、様子。
そんな主を咲夜は愛しているし、それが勘違いでも問題など何もない。
「ええ、お嬢様。きっとまたすぐ、明日にでも来ますよ」
やわらかく抱きしめられるのも、レミリアの好みで。
咲夜自身の好みでもある。
レミリアは目を細めた。
「ふふふ――紅魔館は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ…………なーんて、ね」
くすくす
くすくす
少女の笑う声が、紅い月の夜に響いた。
おといれなんか
ひつようないよ
彼女の認識の中では自分が文だったけど、本当に彼女は文だったのか
もしくは、それは魔理沙であったり、まだ見ぬ誰かなのかもしれない
ご馳走さまでした
結局は言葉遊びに過ぎないんだろうけど、まさしく悪魔の甘い囁きですねぇ
話のテンポも良いし落ちもしっかりしてる、
なによりレミリアのキャラが俺のドツボでもうヤッベ
マジヤッベ
私も執事服姿の文が見たいですw
胡散臭い感じがあるし話したがりみたいだしw
カリスマ分補充させていただきました
『勘違い』という表現に上手いなぁ……って思いました。
お嬢様がカリスマ過ぎてワロタw
それすらも勘違いなのですねぇ…
面白かったです。
レミリア「『お願いします』を忘れてるわよ」と応えり。
運命と言う言葉も、全知と有限存在の両方がないと生まれてこない概念でしょうが、結局紫との違いは「自分のために能力を使うかどうか」なのかな。
愛する幻想郷のために少女になりきれない、いじらしい紫の表情が浮かんでとても愛しくなりました。
「紅茶はいかがかしら、カラスさん?」
のフレーズもとてもエレガントでどんどん引き込まれました。
んまあそんなことはこの美味しい紅茶の前にはどうでもいい話ですね。
それにしても文ちゃん、お茶飲みずぎよ。
取材モードの文、深く立ち入りすぎw
しかし、
東洋の天狗に西洋の悪魔がつけば最強に見える。
良いね、こういうの良いね。まだまだ読みたいね。
「勘違い」という独特の視点のおかげで、各キャラの魅力を再確認できました。
これ読んだ後だと、儚月抄や緋想天のレミリアが妖艶な人物に見えます。
内容より文が紅茶飲み過ぎて吹いたww
レミリアが「紅茶はいかが?」とか、もう何回目wwペースはえぇしwwがぶ飲みじゃねーかwww
やべ、なんかツボった
今後の執事に期待
ただレミリアのキャラ付けと言うか話し方が乙女過ぎてそこに大分と違和感を覚えました。
原作や他のSSのようにもっとフランクに話しても良いのでは?
確かにこのような、露骨に嫌らしさを匂わせるレミリアはあまり見かけんな。
連綿とつづくお茶会。繰り返し注がれるおかわりの紅茶。弄するレミリア。呑まれてゆく文。
すると勘違いと茶番が不気味な得体の知れない物に思えてくる不思議(まあ勘違いなのですけど)、
しっかり描かれていたのではと思います。
「紅茶はいかがかしら、カラスさん?」
言葉遊びのSSではありますが、そこがまた不思議な雰囲気を醸し出す良い要素だと思います(単に自分の好みの問題か)。
とにかく、素晴らしい、の一言です。
レミリアを勘違いに、紫を茶番に例えるのが上手いと思いました。
次は文が執事になった話を読みたいですね。
お嬢様のカリスマやお上品さがこれでもかと流れ込んできます
この感覚は勘違い?
文をも怯ませる悪魔の囁きに良い意味でゾクゾクし
ただの主従ではないレミリアと咲夜の掛け合いに2828しました
こんなお嬢様の元で働きたいなあ