Coolier - 新生・東方創想話

こいしのグルメ~森の雑貨屋のドラ焼きとお茶~

2009/10/10 21:03:28
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……とにかく御腹が減っていた。

見知らぬ獣道を歩いていた。
無意識で行動する私にはよくある事だ。
気付けば知らぬ場所、知らぬ道を歩いている。

別段驚く事でもない。
私にとってそれが日常なのだ。

ただ、無意識で行動する私には一つ困ったことがある。
それは無意識で行動するため、食事を忘れてしまう事だ。

今回もどうやら暫く何も口にしていないのだろう。
御腹が『グー』と間抜けな泣き声を上げる。

ゆえに道に迷っているこの状況にはなんら関心はないのだが
『御腹が減った』その事実だけは捨て置けない状況だった。

その時ふと何かが鼻の頭に当たった。

「ん?」

どうやら雨が降り出してきたようだ。
まったくついていない。

私はペコペコの御腹を抱えながら足早に雨宿りが出来そうな場所を探す。



――



まいったな……、一体ココはどこなんだろう?

まるで雨宿りの出来なさそうな中をペコペコの御腹でひたすら進む。

ああ、焦ってはいけない。
私はただ御腹が減っているだけなんだ。

すると目の前に一件の家屋が見えてきた。
何とか雨宿りが出来そうだ。
しかし、こんな辺鄙な場所にどうしてあんな家屋があるのだろうか?
疑問に思ったが状況が状況なだけに私はその家屋の軒先に急いだ。



――


「ふぅ……」

何とか雨を凌げる場所に来て少し周りを見る余裕が出てきた。
『香霖堂』と大きな看板の出ている事から店なのだろうと思う。
店の表や窓から見える店内には色々な古道具で溢れている、雑貨屋だろうか?
何もこんな辺鄙な所で商いをする事もないだろうに、ここの店の主人はきっと
人間嫌いかよっぽどの変人のどちらかだろう。

『クー』

「……御腹空いたな」

御腹の泣き声で空腹であった事を思い出した。
お金を持ってきていないようだから、あまり気乗りはしないが店の中に入ってみよう。
上手くいけばお茶の一杯くらいなら在りつけるかも知れない。

戸を開けて中に入る。
『チリンチリン』と可愛げな鈴の音が店内に響いたのだが中からの返答はない。

認識されていないのかもしれない。
そう思ったのだが店内には客はおろか店主と思しき人影すらなかった。

「……」

無人の店内には静かな曲のレコードが流れているだけだった。
ここまで物に溢れていて無人と言うわけでもあるまい。

暫く店の品物を眺めていたのだが一向に誰かが現れそうな気配もない。

無用心だ。

御腹も空いたし、お金もないし、誰もいない。
傘でも探し出してかっぱらってしまおうかと思った時カウンターにある物を見つけた。

それは湯呑から湯気を立てているお茶と皿に盛られた二つのドラ焼きだった。

「……」

『ゴクリ』と喉が鳴る。
私は御腹が空いていた。
今私の周りには誰もいない。
私はドラ焼きに手を伸ばした。



『ドラ焼き
 心なしか普段見ている物と比べると一回り大きく感じる。
 餡子が多めで持つとどっしりと重い。
 甘さは思っていたよりもずっと甘い。
 しっとりとした歯触りで美味しい。

 少し濃い目の緑茶
 少し冷めてしまっている様だが冷えた身体には十分暖かく感じる。
 濃さは少し渋めだがドラ焼きが甘いのでちょうどいい。』



私は物を食べる時はなるべく物怖じせずに堂々と食べる。

その方がもしも見つかってしまった場合に『無意識だった』と言い張りやすいからだ。
こそこそ食べていたのでは言い訳なんて通じない。

私は口を開けてドラ焼きに齧り付く、しっとりした歯ごたえがなんとも心地いい。
歯ごたえもさる事ながら餡子の味もいい、これはいい小豆を使っているに違いない。
ただ、甘さが思っていたよりも強いのが気になった。
しかしお茶が少し濃い目に淹れてあるので口の中に残った甘ったるさはお茶の渋みに流されて
すっきりと喉の奥に流れていく。

お菓子とお茶のバランスが実にいい。

もしもドラ焼きの甘さがこれより少しでも控えめであればお茶の渋みが目立ってしまうし
お茶がこれよりも薄かったら餡子の甘さが口の中に残ってしまっていただろう。

このドラ焼きとお茶を用意した人物はその辺りを実に心得ていたようだ。

私はあっという間にドラ焼きを平らげた。
最後の一口をお茶と共に喉の奥流し込み窓から外を見ると雨が止んでいた。
どうやら通り雨だった様だ。
私は満足感に包まれて不思議な森の雑貨屋を後にした。



――



こいしが出て行ってすぐに店の奥から呆れた声が聞こえてくる。

「霊夢、破れた服くらい自分で縫えるようになろうとは考えないのかいキミは?」

その言葉に問われた少女は特に気にする事なくヤレヤレと言った感じで答える。

「いいじゃない、せっかく可愛い女の子が来てるんだから喜びなさいよ」

「それがお客さんだったら僕も諸手で喜ぶよ」

「人付き合いは大切よ?」

「ちゃんとしたお客さん相手ならね、それにキミの場合はお茶時を狙って来ているだろう?」

「こんな辺鄙な所にくるなら、服を直してもらうついでに美味しい思いもしたいじゃない?」

嫌味も聞きやしない彼女の態度に諦めた。

「はぁ、とりあえず僕の分まで食べないでくれよドラ焼き」

「その辺は心得ておくわ、結果は伴わないかもしれないけど」

「努力してくれ、僕はキミの分のお茶の準備をしてくるから」

「はいはい」

炊事場へ向かう背中を見送りドラ焼きが置いてあるカウンターへ向かったのだが

「……さて、ドラ焼きか最近食べてなかったわね、ってアレ?」

来た時はあったドラ焼きの姿は影も形もどこにもなかった。

「どうしたんだい霊夢?」

「ドラ焼きがなくなってる」

「え?そんな馬鹿な?」

二人は呆然とドラ焼きの乗っていた空の皿を見つめた。
自分達がちょっと目を話した隙にいったい誰がどこにやったと言うのだろう?

「こんなくだらない事するのは……」

『紫ね(だな)』

二人は犯人を断定した。

その頃遠くマヨヒガで無実の罪を付けられたスキマの妖怪が二度ほどクシャミをした。
19度目です。
どう見ても食い逃げです。

最近『古明地こいしのグルメ情報』なるものを見つけました。
そして孤独=こいしのイメージで『孤独のグルメ』のパロをやってみました。

パロは初めて挑戦してみたので、原作の文を少し弄ったり、
なるべく原作に近い雰囲気を意識してみました。
特に目立った盛り上がりもオチもない、こいしがドラ焼きを食べるだけの話
いかがだったでしょう?

少しでも楽しめたorドラ焼きが食べたくなったという方がいればコレは成功だったと言えます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。



2様
ありがとうございます。
幻想郷は皆警戒心なくのほほんと暮らしているイメージがあります。
きっとそれも魅力の一つだと思います。

4様
紫様の日頃の行いですね。
きっと彼女の式も主人を疑う事でしょう。

9様
脱字報告ありがとうございます。修正しました。

18様
牛乳!そういうのもあるのか…
でも私は牛乳ならカレーパンを押します、アレの相性も抜群です。

21様
それでもアンタが疑わしい。by霊夢and霖之助

25様
まさかの続編希望とは…、はい、近い内上げれるよう作ってみます。
鼻もげろ?似た話があるのでしょうか?
とりあえず次回も孤独のグルメネタで行こうと思います。

26様
既に先達がいたのですね、知りませんでした。
その同人誌が凄く読んでみたいです。

27様
18様と二人、ドラ焼き食べたいコメントが本当に嬉しかったです。
私の一番大好きな和菓子でした。
次の話の食べ物も食べたいと思ってもらえるようにがんばります。

29様
こいしちゃんウフフ
何だかんだで初めて書いたこいしでした。

45様
やっぱりその同人誌見てみたいですね。私はいいオチが思いつかなかったのですが……
一応また書く予定でいますので次以降でもっといいオチを付けられる様に頑張りたいです。
よろしければまた見てください。

49様
そうなんですか!?知らなかった
えー、じゃあこの間の台風の時北海道は雪降ったみたいですから
ちょっとフライングって事で一つ……


コメントありがとうございました。
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コメント



0.2450簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
うん、上手い。
三人とも警戒心の欠片も無いな
4.100名前が無い程度の能力削除
冤罪すぎる
9.100名前が無い程度の能力削除
誤字?
>しかし、こんな辺鄙な場所にどうしてあんな家屋があのだろうか?

「家屋があるのだろうか」の間違いですか?
18.80名前が無い程度の能力削除
どら焼きは食べたくなりましたが、どら焼きに一番合うのは牛乳だと思うのです。
21.100名前が無い程度の能力削除
それでも私はやってない。 by紫
25.80名前が無い程度の能力削除
続編を是非お願いします
それにしても鼻もげろの方じゃなくて良かった
26.100名前が無い程度の能力削除
まさにそのまんまの題材の同人誌があったなぁ、と思いつつ意識的に無意識を装うこいしにツッコミを入れたくなった(笑。
そして普段の行いが悪いとこんな時にあらぬ罪を着せられる、と。
27.100名前が無い程度の能力削除
どら焼き食べたい
29.100名前が無い程度の能力削除
おなか空かしたこいしちゃんかわいいよこいしちゃん
45.60名前が無い程度の能力削除
俺もそのまんまの題材の同人誌を思い出した。あっちは最後がイイハナシダナーで終わるんだが
これは最後のオチが弱いというか、やや投げっぱなしな感じがするなあ
49.90名前が無い程度の能力削除
ちょっとどら焼きは冬からなんですよ