私は手にもったダウジングロッドをただ観察していた。どんな些細な変化も見逃すまいと注視していたが、ロッドに変化は現れなかった。
「はあ、ここも反応なしか」
溜息をひとつつき、数時間前のことを思い出した。ご主人様に呼び出されて向かってみると、ご主人様が涙目になりながら私に訴えかけた。
「ナズゥ……。どうしよう……」
「いや、どうしようと言われましても。なにかあったんですか?」
状況が読み込めず、私はやや戸惑い気味でご主人様に問い返した。話を聞くと、どうやら何処かで財布を無くしてしまったらしい。ご主人様はよく無くし物をするし、財布を無くすことも珍しいことではない。だが、今回は流石に私はたじろいだ。何せ無くした額が今までとは違うのだから。
この前まで法界に封印されていた聖の復活を祝う祝賀会を聖以外の皆で進めていた。準備も架橋にさしかかるところで、ひとつ誤算が生じた。祝賀会に参加する人数が予定よりも多くなってしまったのだ。当初は私とご主人様、村紗と一輪と雲山だけで行う予定だったのが、神社の巫女や魔法使い、あとはどこからかぎつけたのか宴会好きの妖怪たちが急遽参加することになったらしい。そうなると食料が圧倒的に足りなくなってしまう。本来なら調達担当の村紗に行かせるのだが、あいにく準備で手が離せない状態であり、唯一手が空いていたご主人様が急遽買い足しにいくことになった。
私はご主人様に任せたことに不安を感じていたが、どうやら不安が的中してしまったようだ。大量の食料が必要だったので、財布には結構な額が入っていた。それを無くしたとなったら大変だ。
「だからナズーリン、探してきてくれませんか?」
「断るわけにはいかないでしょう。それで、何処で無くしたか心当たりはありますか?」
「それが、全く……」
「何処まで買い足しに行ってたんですか……。まあいいや、しらみつぶしに探してきます」
すみません、とご主人様は呟いたのを背で聞き、私は早速財布探しに向かった。
それが数時間前の出来事だ。で、今は財布を求めてあちこちへ飛び回っている。今のところ、収穫はゼロだ。
『おかみさん!』
後ろから声がかかった。振り返るとそこには捜索に向かわせていた子鼠がいた。ちなみに鼠の声は他の者には聞こえない。聞き取ることが出来るのは、私だけだ。
「おかえり。で、見つかったかい?」
『くまなく捜索してきましたが、それらしきものは見当たらないッチュ』
「そうか。人里、博麗神社、そしてこの迷いの竹林も収穫なし、か。困ったな。これでは日が暮れてしまう」
『捜索範囲を広げまチュか?』
「そうするしかないな。そうだな、次は湖まで行ってみよう」
子鼠を尻尾にくくりつけた籠に入れ、湖に向かうことにした。空を飛びながらダウジングロッドを使って探したが、反応は見られなかった。太陽は大きく傾き、辺りを赤く染め始めた。もうあまり時間はなさそうだ。私は焦りを覚えながら、捜索を続けた。
ふと、尻尾が震えるのを感じた。尻尾に目をやると、籠の中にいた子鼠が震えていた。何があったか尋ねると、子鼠はある方向に顔を向けた。その先には、1つの人影が見えた。眼を凝らすと、とがった耳に長い尻尾が2本生えた少女の姿を確認できた。どうやら猫型の妖怪のようだ。子鼠は猫を見つけて震えていたのだ。私は特別気にすることはないと思ったが、どこか様子がおかしいことに気付いた。その妖怪は必死になって草むらを掻き分けていた。まるで、何かを探しているかのようだ。
「ちょっと気になるね……。降りてみるか」
『しょ、正気でチュか!?食べられたらどうするのでチュか!?』
「食べられやしないさ。その前に逃げる。それに、探し物をしている奴を放っておけない」
『財布の捜索を急いだほうがいいのでは?』
「急がば回れってね。案外こんなところにあるかも」
こっちは手がかりはほとんどない。ここで見つかったら儲けものだし、たとえなくても手がかりが見つかるかもしれない。この際猫だろうがなんだろうが関係ない。こっちも必死なのだ。
『……そうでチュか。では自分は籠の中でおとなしくしてまチュ』
「すまないね」
私が子鼠の頭を軽く撫でると、子鼠は照れくさそうに籠の中に隠れた。
「さて、あの猫のところに行くか」
私はゆっくりと高度を下げ、地上に着地した。猫の少女は未だに私に気付いていない。そいつの側にまで近づき、声をかけた。
「探し物かい?」
「はにゃあっ!?」
少女はびくっと体を震わせ、慌てた様子で私のほうを振り向いた。驚かせてしまったか?それにしても今の驚きよう、何処かの唐傘お化けにも見せてやりたいものだ。
「な、なんだ、鼠か。脅かさないでよ」
少女は私を確認すると、再び草むらを掻き分ける作業に戻った。それを見ながら、私はもう一度少女に尋ねてみた。
「何を探しているのさ?」
「鼠には関係ないよ。あっちに行ってくれないかな」
迷惑そうな口調で言い放った。まあ、予想はしていたけどね。だがはいそうですかと帰るわけにもいかない。もう少し粘ってみよう。
「まあ話を聞け。私はこれでも探し物を見つけることに関しては誰にも負けない自信と実力がある。もしよければ力になってあげようじゃないか」
「関係ないって言ったでしょ!さっさと行かないと肉片ひとつ残さず喰らいつくよ!」
少女は先ほどよりも強い口調で怒鳴り、私を睨んできた。やはり猫を相手にするのは苦手だ。そう心の中で呟きながらも、私は怯まずに言い返した。
「落ち着きなって。何も金をとろうってわけじゃないんだから。何を探しているのか教えてくれたら、それを私が一発で見つけてあげる。難しい話じゃない」
「そういう問題じゃない。猫が鼠に助けてもらうってのが問題なの。そんなことされたら猫としての面目がたたないし、皆に笑われるに決まってる」
「まあ、君がどう思おうが私には関係ない。でも、もう時間も残されていないようだ」
私は太陽の方へ顔を向けた。既に太陽が山に隠れはじめ、辺りを一層赤く染めた。あと1時間もしないうちに、日が沈みきってしまう。
「日が沈んでしまえば、私でも探すのは困難だ。明日になって探し物が無くなってしまう可能性もある。言うなれば、今が最後のチャンスだよ」
「そ、それはそうだけど……」
たじろぐ少女の手首を掴み、それを私はじっと見た。
「指がぼろぼろじゃないか。これほどになるまで探していたということは、相当大事にしているものなんだろ?」
少女は黙ってしまったが、やがて観念した様子で無言で小さく頷いた。少女はゆっくりとだが事情を説明してくれた。
「……御守りを、無くしちゃったの。私が藍様に初めて出会った日にくれた御守り。藍様とおそろいの、私の大事な宝物。それが、さっき弾幕ごっこしていた時に、紐がちぎれてどこかにいってしまったの。一生懸命、探したんだけど……、全然……見つからなくて……っ」
少女の声は徐々に震え、話し終える頃には大粒の涙を流していた。ランサマという人物は、恐らくこの少女のご主人なのだろう。目の前の少女とご主人をつなぐ、大事なお守り、か。私とご主人様にはそういったものはないから、少し羨ましく感じた。何にせよ、そんな大事なものは早急に見つけなければならない。私は少女の手首を離し、頭を優しく撫でてあげた。
「大丈夫。私に任せな。すぐに見つけてあげるさ」
私はダウジングロッドを草むらに向けて構え、反応があるか注視した。私の能力で探し出せるものは鉱石や水脈、金銀財宝だけではない。強い思いが込められたものも見つけ出せる。あの少女の御守りにこめられた思いはとても強い。ご主人様が無くした財布よりは楽に見つかるだろう。
案の定、すぐに反応が出た。私たちがいるところから遠く離れた草むらからだ。私と少女の二人で一緒に草むらを掻き分けながら探した。太陽が半分以上隠れ、薄暗くなり始めた頃、少女が嬉しそうな声を上げた。
「あった!」
本当かと、私は少女のもとにかけよった。少女の手には、しっかりと御守りが握られていた。多少土で汚れてしまったが、そんなのは些細な問題だ。
「見つかってよかったな」
「うん……うん……っ!」
少女は御守りを胸に当て、大事そうに御守りを握りしめた。少女の頬を一滴の涙が流れた。だが少女の表情は先ほどとは違い、安堵の笑顔を見せていた。そして少女は私の方へ体を向け、小さく頭を下げた。
「手伝ってくれてありがとう。私1人だけだったら見つけ出せなかった」
「私は大したことをしていないさ。それに、見つけ出したのは君が私にちゃんと探し物を教えてくれたからだ。それがなければ私でも見つけ出せなかった」
誰かの形見などを探し出す場合、金銀財宝を探し出すように闇雲に探したのでは、ダウジングロッドは反応しない。反応させるには、それがどんなものなのかをよく理解する必要があり、それにこめられた思いが強くなければいけない。今回はうまく条件があてはまり、見つけ出すことが出来たのだ。
「ねえ、ひとつ聞いてもいい?」
「ん?なんだ?」
「どうして手伝ってくれたの?猫は鼠にとって天敵のはずなのに」
「大した理由ではない。探し物のついでというのもあるが、ただ単にダウザーの血が騒いだだけだ」
「へ~。あ、それとお願いがあるんだけど……」
「わかっているさ。このことは誰にも言わない。ダウザーは基本口がかたいから安心しな」
まあ、聖救出の時は巫女につい喋ってしまったけど。あれは宝塔を無くしたご主人様に嫌気が差しただけで、普段は誰にも秘密を漏らさない。というより、ご主人様はもう少し無くし物を減らす努力をして欲しい。
太陽もほとんど山に隠れ、闇があたりを覆った。結局財布は見つからなかったが、お金なんてまた貯めればいい。食料はどこからか拝借するしかないか。
「それじゃ、そろそろ帰らなくちゃ」
「そうか。もう無くしたりするんじゃないぞ」
「うん。じゃあね、ダウザーさん」
少女は最後に手を振って、飛び去ってしまった。少女の姿を見送ると、尻尾の籠から子鼠が這い出てきた。
『ふーっ、寿命が縮んだかと思ったっチュ』
「付き合わせて悪いね」
『そう思うならチーズ2割増でよろしくっチュ。それにしてもおかみ、なんであんな儲けにならなそうなことをしたんでチュか?』
「そうだね、柄じゃないことをしたものだ。でも、おかげで初心にかえることもできた。その点はあの猫に感謝だ。これで財布が見つかれば万々歳なんだけど――」
そのとき、ダウジングロッドが強く反応した。反応の様子をみると、この近くにありそうだ。慌てて草むらを掻き分けていくと、あった。
『そ、それって探していた財布じゃないっチュか!』
「こりゃ驚いた。もしあの猫を無視して湖に行ってたら、見つからなかったかもしれない」
『急いでても回ってみるものでチュね』
「全くだ。ま、これは報酬として受け取っておくとしよう。それじゃ、急いで食料を買って帰るか」
私は財布を懐にしまい、人里に向けて飛び立った。まだお店をやっているか不安だが、最悪酒場で酒だけ買って帰るとしよう。
今日の祝賀会が終わっても、また私は何かを探しに向かわせられるに違いない。それは十中八苦、ご主人様が無くしてしまったものだろう。それでも私は文句を言わずに仕事を行おう。ご主人様のために、そして、1人のダウザーとして。
「はあ、ここも反応なしか」
溜息をひとつつき、数時間前のことを思い出した。ご主人様に呼び出されて向かってみると、ご主人様が涙目になりながら私に訴えかけた。
「ナズゥ……。どうしよう……」
「いや、どうしようと言われましても。なにかあったんですか?」
状況が読み込めず、私はやや戸惑い気味でご主人様に問い返した。話を聞くと、どうやら何処かで財布を無くしてしまったらしい。ご主人様はよく無くし物をするし、財布を無くすことも珍しいことではない。だが、今回は流石に私はたじろいだ。何せ無くした額が今までとは違うのだから。
この前まで法界に封印されていた聖の復活を祝う祝賀会を聖以外の皆で進めていた。準備も架橋にさしかかるところで、ひとつ誤算が生じた。祝賀会に参加する人数が予定よりも多くなってしまったのだ。当初は私とご主人様、村紗と一輪と雲山だけで行う予定だったのが、神社の巫女や魔法使い、あとはどこからかぎつけたのか宴会好きの妖怪たちが急遽参加することになったらしい。そうなると食料が圧倒的に足りなくなってしまう。本来なら調達担当の村紗に行かせるのだが、あいにく準備で手が離せない状態であり、唯一手が空いていたご主人様が急遽買い足しにいくことになった。
私はご主人様に任せたことに不安を感じていたが、どうやら不安が的中してしまったようだ。大量の食料が必要だったので、財布には結構な額が入っていた。それを無くしたとなったら大変だ。
「だからナズーリン、探してきてくれませんか?」
「断るわけにはいかないでしょう。それで、何処で無くしたか心当たりはありますか?」
「それが、全く……」
「何処まで買い足しに行ってたんですか……。まあいいや、しらみつぶしに探してきます」
すみません、とご主人様は呟いたのを背で聞き、私は早速財布探しに向かった。
それが数時間前の出来事だ。で、今は財布を求めてあちこちへ飛び回っている。今のところ、収穫はゼロだ。
『おかみさん!』
後ろから声がかかった。振り返るとそこには捜索に向かわせていた子鼠がいた。ちなみに鼠の声は他の者には聞こえない。聞き取ることが出来るのは、私だけだ。
「おかえり。で、見つかったかい?」
『くまなく捜索してきましたが、それらしきものは見当たらないッチュ』
「そうか。人里、博麗神社、そしてこの迷いの竹林も収穫なし、か。困ったな。これでは日が暮れてしまう」
『捜索範囲を広げまチュか?』
「そうするしかないな。そうだな、次は湖まで行ってみよう」
子鼠を尻尾にくくりつけた籠に入れ、湖に向かうことにした。空を飛びながらダウジングロッドを使って探したが、反応は見られなかった。太陽は大きく傾き、辺りを赤く染め始めた。もうあまり時間はなさそうだ。私は焦りを覚えながら、捜索を続けた。
ふと、尻尾が震えるのを感じた。尻尾に目をやると、籠の中にいた子鼠が震えていた。何があったか尋ねると、子鼠はある方向に顔を向けた。その先には、1つの人影が見えた。眼を凝らすと、とがった耳に長い尻尾が2本生えた少女の姿を確認できた。どうやら猫型の妖怪のようだ。子鼠は猫を見つけて震えていたのだ。私は特別気にすることはないと思ったが、どこか様子がおかしいことに気付いた。その妖怪は必死になって草むらを掻き分けていた。まるで、何かを探しているかのようだ。
「ちょっと気になるね……。降りてみるか」
『しょ、正気でチュか!?食べられたらどうするのでチュか!?』
「食べられやしないさ。その前に逃げる。それに、探し物をしている奴を放っておけない」
『財布の捜索を急いだほうがいいのでは?』
「急がば回れってね。案外こんなところにあるかも」
こっちは手がかりはほとんどない。ここで見つかったら儲けものだし、たとえなくても手がかりが見つかるかもしれない。この際猫だろうがなんだろうが関係ない。こっちも必死なのだ。
『……そうでチュか。では自分は籠の中でおとなしくしてまチュ』
「すまないね」
私が子鼠の頭を軽く撫でると、子鼠は照れくさそうに籠の中に隠れた。
「さて、あの猫のところに行くか」
私はゆっくりと高度を下げ、地上に着地した。猫の少女は未だに私に気付いていない。そいつの側にまで近づき、声をかけた。
「探し物かい?」
「はにゃあっ!?」
少女はびくっと体を震わせ、慌てた様子で私のほうを振り向いた。驚かせてしまったか?それにしても今の驚きよう、何処かの唐傘お化けにも見せてやりたいものだ。
「な、なんだ、鼠か。脅かさないでよ」
少女は私を確認すると、再び草むらを掻き分ける作業に戻った。それを見ながら、私はもう一度少女に尋ねてみた。
「何を探しているのさ?」
「鼠には関係ないよ。あっちに行ってくれないかな」
迷惑そうな口調で言い放った。まあ、予想はしていたけどね。だがはいそうですかと帰るわけにもいかない。もう少し粘ってみよう。
「まあ話を聞け。私はこれでも探し物を見つけることに関しては誰にも負けない自信と実力がある。もしよければ力になってあげようじゃないか」
「関係ないって言ったでしょ!さっさと行かないと肉片ひとつ残さず喰らいつくよ!」
少女は先ほどよりも強い口調で怒鳴り、私を睨んできた。やはり猫を相手にするのは苦手だ。そう心の中で呟きながらも、私は怯まずに言い返した。
「落ち着きなって。何も金をとろうってわけじゃないんだから。何を探しているのか教えてくれたら、それを私が一発で見つけてあげる。難しい話じゃない」
「そういう問題じゃない。猫が鼠に助けてもらうってのが問題なの。そんなことされたら猫としての面目がたたないし、皆に笑われるに決まってる」
「まあ、君がどう思おうが私には関係ない。でも、もう時間も残されていないようだ」
私は太陽の方へ顔を向けた。既に太陽が山に隠れはじめ、辺りを一層赤く染めた。あと1時間もしないうちに、日が沈みきってしまう。
「日が沈んでしまえば、私でも探すのは困難だ。明日になって探し物が無くなってしまう可能性もある。言うなれば、今が最後のチャンスだよ」
「そ、それはそうだけど……」
たじろぐ少女の手首を掴み、それを私はじっと見た。
「指がぼろぼろじゃないか。これほどになるまで探していたということは、相当大事にしているものなんだろ?」
少女は黙ってしまったが、やがて観念した様子で無言で小さく頷いた。少女はゆっくりとだが事情を説明してくれた。
「……御守りを、無くしちゃったの。私が藍様に初めて出会った日にくれた御守り。藍様とおそろいの、私の大事な宝物。それが、さっき弾幕ごっこしていた時に、紐がちぎれてどこかにいってしまったの。一生懸命、探したんだけど……、全然……見つからなくて……っ」
少女の声は徐々に震え、話し終える頃には大粒の涙を流していた。ランサマという人物は、恐らくこの少女のご主人なのだろう。目の前の少女とご主人をつなぐ、大事なお守り、か。私とご主人様にはそういったものはないから、少し羨ましく感じた。何にせよ、そんな大事なものは早急に見つけなければならない。私は少女の手首を離し、頭を優しく撫でてあげた。
「大丈夫。私に任せな。すぐに見つけてあげるさ」
私はダウジングロッドを草むらに向けて構え、反応があるか注視した。私の能力で探し出せるものは鉱石や水脈、金銀財宝だけではない。強い思いが込められたものも見つけ出せる。あの少女の御守りにこめられた思いはとても強い。ご主人様が無くした財布よりは楽に見つかるだろう。
案の定、すぐに反応が出た。私たちがいるところから遠く離れた草むらからだ。私と少女の二人で一緒に草むらを掻き分けながら探した。太陽が半分以上隠れ、薄暗くなり始めた頃、少女が嬉しそうな声を上げた。
「あった!」
本当かと、私は少女のもとにかけよった。少女の手には、しっかりと御守りが握られていた。多少土で汚れてしまったが、そんなのは些細な問題だ。
「見つかってよかったな」
「うん……うん……っ!」
少女は御守りを胸に当て、大事そうに御守りを握りしめた。少女の頬を一滴の涙が流れた。だが少女の表情は先ほどとは違い、安堵の笑顔を見せていた。そして少女は私の方へ体を向け、小さく頭を下げた。
「手伝ってくれてありがとう。私1人だけだったら見つけ出せなかった」
「私は大したことをしていないさ。それに、見つけ出したのは君が私にちゃんと探し物を教えてくれたからだ。それがなければ私でも見つけ出せなかった」
誰かの形見などを探し出す場合、金銀財宝を探し出すように闇雲に探したのでは、ダウジングロッドは反応しない。反応させるには、それがどんなものなのかをよく理解する必要があり、それにこめられた思いが強くなければいけない。今回はうまく条件があてはまり、見つけ出すことが出来たのだ。
「ねえ、ひとつ聞いてもいい?」
「ん?なんだ?」
「どうして手伝ってくれたの?猫は鼠にとって天敵のはずなのに」
「大した理由ではない。探し物のついでというのもあるが、ただ単にダウザーの血が騒いだだけだ」
「へ~。あ、それとお願いがあるんだけど……」
「わかっているさ。このことは誰にも言わない。ダウザーは基本口がかたいから安心しな」
まあ、聖救出の時は巫女につい喋ってしまったけど。あれは宝塔を無くしたご主人様に嫌気が差しただけで、普段は誰にも秘密を漏らさない。というより、ご主人様はもう少し無くし物を減らす努力をして欲しい。
太陽もほとんど山に隠れ、闇があたりを覆った。結局財布は見つからなかったが、お金なんてまた貯めればいい。食料はどこからか拝借するしかないか。
「それじゃ、そろそろ帰らなくちゃ」
「そうか。もう無くしたりするんじゃないぞ」
「うん。じゃあね、ダウザーさん」
少女は最後に手を振って、飛び去ってしまった。少女の姿を見送ると、尻尾の籠から子鼠が這い出てきた。
『ふーっ、寿命が縮んだかと思ったっチュ』
「付き合わせて悪いね」
『そう思うならチーズ2割増でよろしくっチュ。それにしてもおかみ、なんであんな儲けにならなそうなことをしたんでチュか?』
「そうだね、柄じゃないことをしたものだ。でも、おかげで初心にかえることもできた。その点はあの猫に感謝だ。これで財布が見つかれば万々歳なんだけど――」
そのとき、ダウジングロッドが強く反応した。反応の様子をみると、この近くにありそうだ。慌てて草むらを掻き分けていくと、あった。
『そ、それって探していた財布じゃないっチュか!』
「こりゃ驚いた。もしあの猫を無視して湖に行ってたら、見つからなかったかもしれない」
『急いでても回ってみるものでチュね』
「全くだ。ま、これは報酬として受け取っておくとしよう。それじゃ、急いで食料を買って帰るか」
私は財布を懐にしまい、人里に向けて飛び立った。まだお店をやっているか不安だが、最悪酒場で酒だけ買って帰るとしよう。
今日の祝賀会が終わっても、また私は何かを探しに向かわせられるに違いない。それは十中八苦、ご主人様が無くしてしまったものだろう。それでも私は文句を言わずに仕事を行おう。ご主人様のために、そして、1人のダウザーとして。
それにしても橙ナズとは斬新な
つまり食べちゃ
綺麗にまとまってて面白かったです