*ご注意*
このお話は同品集「私のお星さま」の続編となっております。
「こっちだよご主人様」
ダウジングロッドをみょんみょんと動かしながら飛ぶ少女。私の部下であるナズーリン。
生粋のダウザーである彼女は普段は無数の野鼠を操り探し物を見つける。
しかし、例え野鼠を操らずとも、本人だけでもその能力は損なわれない。
今回のような仕事にはもってこいな人材だった。
「近い近いね。私のロッドが、……いや近いね」
「ちょっと待て。今何を言おうとしたのですか」
「流石の私でも乙女が言ってはならぬことくらい把握しているのだよ」
突っ込みてえ。
二か所くらいに突っ込みたい。もっと考えてから発言しろとか、乙女はそんなこと把握しとらんとか。
なんか最近突っ込みキャラとして認知されつつある気がしてならないから控えるが。
嫌なんだ私は。「突っ込みの寅丸星」なんて名乗る羽目に陥るのは。
「ん。見えたよ」
下降する彼女に私も続く。
ナズーリンの先導で辿り着いたのは――大きな穴だった。底など見えぬ、暗い穴。
「これが地底への入り口だ」
「随分と大きい……そういえば、途中見かけた大穴はなんなのですか?」
「ん、妖怪の山の穴かい? あれはまた別の施設らしいよ。河童がなにかしているようだね」
どうも建設中だったようだが、と付け加えられる。
建設中――ね。穴を掘って建設、と言うのはどうもしっくりこない表現だった。
私は頭が固いらしい。
近頃は山の妖怪がなにやら活発になっていた。その一環だとは思うが……
山の技術者たる河童を動員してまでなにをする気なのだろう?
「穴を建設……淫靡な響きだ」
「いや微妙ですよそれ」
というか強引過ぎる。
何考えてたのか忘れちゃったじゃないですか。
「なんです? ネタが尽きましたか」
「聞き捨てならないなご主人様。私の変態性に限りがあるなどと思われるのは心外だ。
侮辱としか言い表せない。訂正を要求するよ」
「では何かそれらしいこと言ってみなさい」
「博麗の巫女が飛んできて修正されるがいいのかい?」
「あなたもアウトラインは弁えていたのですね……」
思い返してみればさっきもそうだったし。まぁそこまで……いや、でも……
……弁えてないよなあ。弁えていたらああまで私が突っ込まずに済んだのだ。
己の主を芸人に仕立て上げて何をしたいのだろうと真剣に悩んだ日もあった。
悲しかった。そんなことで悩んでる自分が。
「そのラインはもう少し下げておきなさい」
「ではギリギリを狙ってみよう」
「頑張らなくてもいい。頑張らない方がいいんだナズーリン」
「私のあだ名はエローリンがいいと思う」
「名まで捧げるな! どこまで捨て身になるつもりだ!」
「ちなみにこれは私がロリ体型であることにもかけているのだよ」
「ああローリってそういう。うるさいよ! 自分を切り売りするな!」
「私は己が変態であることを誇りに思っている」
「捨ててしまえそんなプライドは!」
「しかしご主人、レゾンデートルの放棄など世界への裏切りだと思わないかい」
「悲しくなるような存在証明が必要な世界など滅びればいい!」
仏に仕える者の言うことではなかった。
というか悪魔の台詞だった。
「まぁまぁ。紅茶でも飲んで落ちつこうじゃないか。実はここにティーセットは無いのだがね――」
「話逸らす気すら無いのかあなたはっ!」
「付け加えれば私は紅茶が苦手なのだよ。見るのも嫌だ。飲んだら吐く。
昔ご主人様が氷室に入れておいた紅茶を麦茶と思って飲んで以来トラウマでね」
「そういえば紅茶には付き合いませんねあなたは……」
「いやいや壮絶だよ。麦茶の風味を期待してたらがつんとくるダージリンのあの苦み」
「まぁわからなくもないですけど」
私はそれを蕎麦つゆでやった。未だに蕎麦は苦手である。
「いや流石に蕎麦つゆと麦茶は間違えないだろう……」
「あれぇ!? 呆れられたよ!?」
「私はボケ専なのに突っ込まざるを得ないよご主人様……」
そこまで!? そんな憐みの目を向けるほどに!?
いやそんなまさか。だって黒いじゃない。両方黒いじゃない。
同じ容器に入れちゃえば見分けつかないじゃない。
今脳内シミュレートしたけど見分けつかなかった。
「はっはっは……ご主人様は本当にうっかりだなあ……」
力なくナズーリンが歩き出す。肩を落としてダウジングロッドを引き摺って。
え? なにこの罪悪感。
「あの、ナズーリン?」
「なにかねうっかりしょ……ご主人」
「そこまで言ったなら言い切ってくれた方がまだ救いがある……!」
駄目か! 私はそこまで駄目駄目なのか! うっかりなのか!
ああもう泣きたいなあ!
「元気がいいねえご主人様。ま、そろそろ行こうか。日が暮れるよ」
「マイペースですよねあなたは……」
文句言っても始まらない。ここは従う形で歩き出す。
大穴、洞窟に一歩を踏み入れただけで――そこはもう別世界だった。
異界と表現するべきか――風の肌触りまで、違う。
何百年も前に地上を追われた妖怪たちが辿り着いたと云う……地獄へと続く道。
「ここほど鬼が出るか蛇が出るか、の格言がぴったりなところもありませんね」
「ふむ。正にその両方が居るだろうからね。言い得て妙というより――チープだね」
む、成程。格言ではなくそのままの意味になってしまうか。
「チープ。チープ……ううん……字面はいいのに……」
「必死に汚名挽回しようとしないでください」
そこまで強引に変態を誇示しなくてもあなたは十分に変態だナズーリン。
せっかくちょっとかっこよかったのに。
諦めたのか、肩を竦めて彼女は息を吐いた。
「しかし面倒ったらないね。せっかく無職ライフを満喫していたのに」
「あなたの場合少しくらい働かねば毒です」
無職を気に病み胃を痛めるくらいなら働けというのだ。
「ふふん。私を甘く見過ぎだねご主人様」
「ぬ」
もしかして突き抜けたか? 無職でいることに慣れてしまったのだろうか。
それは困る。上司として。
「先日ついに血を吐いた」
「終いには泣くぞ!」
そこまで無理するな! 明らかに猛毒になってるじゃないか無職ライフ!
お願いだからそこまで追い詰められる前に相談してくれナズーリン!
「今日の布教終わったら病院行きますからね連れて行きますからね!」
「ええ、注射は嫌だなぁ……」
「胃の穴の方がよっぽど痛いですよ!」
胃潰瘍になる程働いてないという事実が辛いというのは喜んでいいのか悲しんでいいのか。
これからはなるべく彼女に頼るようにしよう。彼女の心のケアを心がけよう……
「ならば私はあなたの発情期のケアを心がけよう」
「ないよ! 私発情期なんてないよ!」
「虎だから激しいと覚悟はしているよ。……出来れば、や、優しくして……欲しい、な」
「恥ずかしくなるくらいならボケるな! こっちが恥ずかしくなったわ!」
「しょうがないじゃないか! ご主人は体格もいいし腕力だって凄いんだから!」
「私が酷いことする前提で逆ギレるなっ!」
際限なく話が逸れてしまう。
ええと、目的なんだっけ……布教だ布教。
そう、私たちは布教の為に地底に向かっていた。
聖の教えを広め、妖怪の救済の輪を広げるのが目的である。
聖本人が向かおうとしてたのだが、多忙で動きが取れなかった。
そこで私たちがその任を請け負ったのだ。なにせ暇を極める私とナズーリン。実に腰は軽かった。
……悲しくなんかないヨ?
寺の建立も手伝うことがなかったことを悔いてはいないヨ?
普通の建築なら兎も角ややこし過ぎたのだ、あれは。
なにせ聖輦船を地上に降ろし、その土台部分だけを建てるという無茶な設計である。
遊覧船と寺の両立の為にと考案されたのだが、はっきり言ってダイナミック過ぎる。
空飛ぶ寺(上半分)とかなんの冗談だ。里の子供たちなんて合体寺と呼んでいるらしいし。
いっそ寺は寺で建てて船の置き場を調達してきた方が早かったんじゃないか。
うう、聖が何考えてるのかわからない。
「…………」
わからないと言えば――ナズーリンもわからないのだけれど。
いやに今回の仕事を渋った気がする。
確かに彼女は普段から怠けているが、決して勤労意欲が皆無というわけではない。
言えば働くし、頼めば即動く。それが今回に限ってはいやに――渋っていた。
胸にすとんと落ちない。納得が、出来ない。
今もやる気なさそうに歩いているだけだ。私の先導をするのは入口まで、と決めていたかのような。
この先は危険で、彼女が行きたがらないのも理解できるが――それだけでは納得に至らない。
くるりと彼女が振り返る。
なんとも思考の読めぬ曖昧な表情。赤い瞳は半分閉じられ、まるで私を睨んでいるかのようだった。
「どうしたのかな?」
「あ、いえ」
負い目もないのに気後れしてしまう。
責められていると――感じてしまう。
いつも通りの曖昧な表情に、いつも通りの半目なのに。
「ところでなんで歩いていくのかね。別に飛んでもあなたのスカートを覗いたりしないよ?」
「その前振りだと確実に覗かれるんでしょうけど無駄ですよ。下にズボン穿いてます」
「裏切ったなっ!? 私を裏切ったなご主人様っ!!」
「……予想以上に嘆かないでくださいよ……なんか切なくなりますよ……」
膝をついて天を仰ぐな。岩しかありませんよ天。
……いつも通りのナズーリン、ではあった。無理をしている様子もない。
杞憂であったか、それとも私が自覚していない負い目を感じているのか。
「……まあいい。中身はもう拝んでいる」
「何時の間に!?」
「風呂で昨晩」
「堂々と覗きを告白するたぁ処刑の覚悟が出来てるんだろうな貴様!」
貴様が負い目を感じろ! 私が気まずくなる要素が一片もないじゃないか!
「磔刑の前にもう一度見てもいいだろうか乳尻ふともも」
「目隠しして斬首がお望みのようだな!」
「目隠しプレイは大好きだ!」
「手強過ぎる!」
楽しい会話だった。
まぁ冗談は流すとして――彼女は平気で「昨晩は可愛かったね」などと法螺を吹く――話を進めよう。
洞窟に足を踏み入れた以上、あまり猶予は、余裕は無い。
「まあ、用心ですよ。どんな妖怪が出るか知れたものじゃありませんから」
「ふむ? しかし地底というのは船長たちが封じられていたところだろう?
聞いた限りではそう警戒するような印象は受けないのだが」
「地底と言っても広いですからね――ムラサたちとはまったく別種の妖怪も多い。
まったく桁違いの妖怪も多い。それこそ、未だに語り継がれるほどの妖怪がごろごろ居ます。
ムラサも十二分に強力な妖怪ですが……油断すれば一口で食われますよ」
「そいつは怖い」
「冗談じゃありません。冗談になりません。用心してし過ぎることはない」
重ねた警告に、そいつは怖いと重ねて返し彼女は歩き出す。
まあ、こと用心に関しては釈迦に説法か。それだけは間違いなく私以上だ。
「しかしあれだね。白蓮殿も人遣いが荒いのかそうでないのかわからない」
話を振られ、違和感を思い出す。
――彼女の声には棘が含まれていた。見逃せない、棘が。
「まぁ、遊覧船をしている時は私たちの仕事は無いんですから、寺の時くらいはね」
「それにしたって別にご主人様は彼女の部下ではないだろう。命令を聞く義理は無い筈だ」
「命令というか、まぁお願い事ですから」
「それだって、聞く義理はないだろうに」
「随分突っかかりますね。あなたらしくもない」
語調を強めてしまう。ナズーリンらしく、ないのだ。
いつも飄々として、協調を好まぬ彼女であったが自ら和を乱すような真似はしなかった。
それがなんだ? 険悪にするのが目的かと思えるほどに私に突っかかる。
「ん、ん――」
叱られたと感じたのか、言い難そうにしていたが――言い難そうにしたままに、口を開く。
「ご主人様には悪いが、私は白蓮殿を信用できないのだよ」
「ナズーリン――」
それは。
「いや、すまない。あなたが白蓮殿を信頼しているのはわかっている。理解している。
確かに彼女は人格者だ。あり得ない程に、ね。それは理解しているよ」
私を見ないままに続ける。
「ただ、なんというのかな。私は封じられる前の彼女を知らないからなのかもしれないが……
どうしても、信用できない。時間が足りてないだけかもしれないとは思うのだが、今は無理だ」
歩を緩めぬままに続ける。
「あなたは信頼できても、白蓮殿は信頼できない」
真面目な顔で、言い切った。
「……しかし、あなただって聖の復活に助力してくれたではないですか。
あれは聖の思想を、彼女を理解して信じてくれたから」
違うよ、と彼女は私の言葉を遮る。
「そも、私はあなたの命令で動いただけだからね。私自身は、白蓮殿の復活などどうでもよかった」
労働だった。ただ、働いただけだった。そこに主義信条は含まれていないと、言い切る。
「……率直に言わせてもらえば、どうでもいいのではなく、関わりたくない」
それは――ナズーリンらしからぬ言葉だった。
飄々と生きている彼女らしくない。明確な意思で拒絶するなど、あまりにも彼女らしくない。
苦手意識を誤魔化してもいない――煙に巻いてすら、いない。
「彼女が嘘を吐いているとは思わない。白蓮殿は本気で妖怪の為に動いている。
滅私奉公もいいところだとも思う。ああいうのを聖女というんだろうね」
しかし、と彼女は真っ直ぐに私を見た。
「いいかね、ご主人様。仏法の守護者であるあなたは違うかもしれないが、私は妖怪だ。
ただの妖怪だ。上司が何であれ、目に見えぬ縛りがあれ――人間は食料に過ぎない」
恐ろしく人間味を欠いた無表情で告げる。
「私が人間に感じることは二つだけだよ。敵か、餌か。それだけだ。
第三の選択肢としてなんとも思わない、というのもあるが、それは感じるとは言わないだろう。
突き詰めれば、生きているか死んでいるか、でしかない。他は、無い。
生きていれば敵で、死んでいれば餌だ。抵抗しないのであれば敵ではなく、餌となる死体と同義だ。
自ら近寄ってくる人間など自殺志願の死人としか思えない。つまりは、餌としか思えない。
故に、白蓮殿は胡散臭い。抹香臭く、胡散臭い。あれは人間の思考形態じゃないね」
それこそ死人の考え方だと、彼女は言う。
抹香臭いと――彼女は言う。
「いくら力が強かろうと、人間は本能的に妖怪を恐れる。もしくは、排除しようとする。
彼女にはそのどちらもが決定的に欠けている。本能ではなく――理性だけで動いている。
彼女の考え方は、こういう例えは好きではないが、ネズミが猫を可愛がるようなものだ。
食糧が捕食者を愛でるようなものだ。普通じゃあ、ない。はっきり言って、怖いよ。
彼女は人間を辞めているのにどこまでも人間だ。なのに、人間じゃない。
人間じゃない思考で、人間じゃない理性で、人間らしく動いている。
あまりにも私の埒外だ。とても――怖いよ」
目が逸らされる。
「理解なんて――出来ない」
理解なんて、したくない――そう、彼女は締め括った。
違和感の――正体。
ナズーリンは、聖の為に動きたくなかった。彼女にとって聖はあまりに遠過ぎる。
聖に恩を受け、彼女の為に動いてきた私とは違う。近寄れてすら、いない。
それは――聖に対する、妖怪たちの思いの縮図だ。
どこまでも簡潔に言い表せてしまう、一言。
――信じられない。
「……でも、ナズーリン。聖は」
「やめようご主人様。終わりだ。続けても意味がない。これ以上は水掛け論だよ。
私は聞く気がないし、あなたも私を理解出来ない。この温度差は、埋められない」
その、通りだ。ナズーリンの言う通り。
私がどれだけ信じて欲しいと言っても、私がどれだけ願っても、届かない。
ナズーリンが恐れているのは私ではなく聖だから。
どうしようも――ない。
「――……私は、これ以上あなたに嫌われたくないよ」
ぼそりと、呟かれた言葉に俯いていた顔を上げる。
ナズーリンは私を見ておらず、所在なさげにダウジングロッドをいじっていた。
「……ナズーリン?」
嫌われる? なにを、言っているのだろう。私は彼女が好きなままだ。
例え彼女が聖を嫌っていようとそれは変わらない。
聖を理解出来ないと云うのは、無理からぬことであるし。
「すまない。失言だったよ。忘れてくれたまえ。……いや」
彼女は慌てて言い繕う。
「忘れないで欲しいな、ご主人様。私は、妖怪だ。人間は敵か餌だ。そうとしか思えない。
そして、これが妖怪だよ。土壇場で人間を選んだりは、しない。それだけは――忘れないで欲しい」
そう願う彼女の顔が――いやに目に焼き付いた。
それからは、努めていつも通りの会話を続けた。
私は相応に気負っていたが、ナズーリンはそんな様子は微塵も見せなかった。
終わりだ、という宣言通りに気持ちを切り替えたのだろうか。
そういうところは――私も見習うべきなのかもしれない。
……蒸し返す必要もない。私も、普段通りに振舞おう。
「この先に鬼の町があるそうですよ」
懐に忍ばせておいたガイドブックに目を通す。
記述が正しければそろそろこの縦穴も終わり地底に着く頃合いだ。
「鬼の町……そうか、鬼は群れるんだったね」
「社会性がある珍しい妖怪ですね。はてさて、旧都とはどんな町か」
「…………」
ナズーリンは思案顔を見せる。
特別思い詰めた様子は無いので先程のことには関係なさそうではあるが……どうしたのか。
「ご主人様、あなたは虎の妖怪だったね。ということは決して群れないのかい?」
私のことだった。
「いや私も虎そのものというわけではないので……虎の属性は色濃く現れていますけどね」
己を語ることは苦手だ。
どうにも己に自信を持てなかった過去は、今でも私を蝕んでいる。
彼女に、ナズーリンに救われたが……一朝一夕では変われない。
「私はどちらかと言えば、孤独に弱い性質ですよ。独りは嫌ですね」
「そうなのかい? 昔のあなたは平気そうだったが」
「あーんー。それは」
また、答えにくいことを。
「お堂でずっと一人で経典を読んでいたのを憶えているよ。あれは修行だったと聞いたが。
それでも独りが平気だから続けていられると思っていたのだよ」
「んー……いや、まあ、そのですね」
うう。恥ずかしいなあ。
これがいつもの悪意溢れるボケなら突っ込んで流せるが普通の会話じゃそうもいかない。
いっそボケて誤魔化したかった。ボケ方がわからないので不可能だが。
……言ってしまうか。これは、言わない方が卑怯だろうし。
彼女に、隠したままなんて卑怯千万だろうし。
「あなたが、傍に居てくれましたから」
「…………」
やっぱり、恥ずかしい。
目を丸くされてしまっている。
私と、彼女は――恋人同士だ。先日彼女に告白され、私はそれを受け入れた。
だから、恋人同士だから、言ってしまっても構わないと思った。
恋人同士故に、隠しごとは卑怯だと、思った。の、だけれど。
「…………ふ」
やっぱり、言うんじゃなかった、かも。
「ふっふっふっふっふ。嬉しいことを言ってくれるじゃないかご主人様。
いや本当に嬉しい。今日の仕事は乗り気ではなかったが改めなくてはならないね。
ああ、この気持ちどう表そうか」
喜ばれても――やっぱり、恥ずかしい。
私は、寅丸星は堅物で……こういうことに慣れてないのだ。
「ふむ。そうだね、あなたの為ならチーズ断ちも辞さない」
「はっきり微妙だ!」
喜びたくても喜べんわ! 志が低過ぎる!
大体カレーに入れる以外じゃそんなに好きじゃないじゃないかチーズ!
「ではこう言い換えよう。私はあなたの為ならペスト大流行も辞さない」
「かっこ……! 格好よくない! はっきり怖い!」
あれ!? 脅迫されてる!?
「な、そ、ペスト菌なんてどこから……!」
「いやなに、ここには疫病を操る妖怪が居るらしいじゃないか。
そいつからちょろまかせばペスト菌なんて簡単に……ね」
「脅してる!? 脅されてる!?」
よ、要求はなんだナズーリン!
「なぁに――ちょっと胸を強調する服を着て色っぽいポーズをとってくれればいいのだよ。
天狗からちょろまかしたカメラで撮影しまくるだけさ」
「本格的に脅してたーっ!」
「冗談はこの程度にしておこうか。それはいずれ自力でやる」
「終わらすな! 話し合いましょう! だからやらないでお願い!」
私にお色気求めないでください! 本当に自信ないんです!
千年以上独身は伊達じゃないんです!
「続けてもいいのかい? 私はあなたを隅々まで冒険したい」
「やっぱ終わらしましょうさっさと先に進みましょうそうしましょう」
油断ならぬ。餌を与えるところだった。
「これからはご主人様のことを子猫ちゃんと呼びたい」
「終わってんですよ! 話広げなくていいんですよ! 先進みましょうよ!」
確かに私はネコ科だが、とっくの昔に大人になってるんだ!
なんか突込みどころ誤った気がするがもうどうでもいいわ!
「しかし子虎ちゃんでは語呂が、意外とよかった!?」
「本当だ!? そしてやめろっつってんだろうがあっ!」
一瞬感心しちゃった。
そうか……初めて聞くが子虎ちゃんって語呂ではアリなのか……
「しかし、妙だね」
「はい?」
急に声音が真面目さを帯びる。
「いやほら。件の疫病を操る妖怪はこの洞窟に出るらしいじゃないか」
「えーと……そう書いてありましたね」
「私のロッドが何の反応も示さない。妖怪自体が居ないのだよ」
確かに、おかしい。
ここまで無反応というのは不気味だ。
「ご主人様が言ったのとは違う意味で――警戒した方がよさそうだね」
……異変? いや、そこまで規模の大きなものではないだろうが……
私が見てもさっぱりわからないがナズーリンの持つダウジングロッドはみょんみょんと警戒を続けている。
それでも――反応は無いらしい。ここは妖怪のテリトリーなのに。
先程から手に持ちっぱなしだったガイドブックを開く。幻想郷縁起・第五版(四版は欠番)。
「これによるとこの辺に番人が居るそうなんですが……」
「居ないね。私のロッドにも何の反応もない」
「ふぅむ。一応許可を取ってから通りたかったのですがね」
「居ないものはしょうがない。勝手に通ってもいいだろう」
……まあ、その通りかもしれない。わんさか居るのなら兎も角、居ないのでは対処しようがない。
警戒は続けたままで、とりあえずは鬼の町まで。
程なくして縦穴は終わる。視界が開け――広大な地底世界が見えてきた。
あの薄ぼんやり光ってる山が……旧都。かな。
もう一度幻想郷縁起・第五版を開いて確認する。
縦穴からの具体的な距離は書いてないが、位置関係からして間違いないようだ。
不夜城という表記もあの光る山を見れば納得である。
「あれのことが載ってるのかい?」
「ええ、どうやらあの山が旧都のようです」
幻想郷縁起・第五版の旧都の項目に添えられているイラストは残念ながら街中を描写したものだった。
故に外観では判別付かないが……まあ間違いではなかろう。
「しかし立派な本ですね。うちの経典とはえらい違いだ」
「経典は手作りだしね。これは河童の活版印刷だから。河童の活版印刷。
ぎゃはははははははははははははははははははははははははっっ!!!」
「いきなり大爆笑!?」
ええ、どこで!? もしかして河童の活版印刷!? 駄洒落だよ!?
悪いけどくすりとも笑えない。基本中の基本みたいな駄洒落だ。
いやその前に自分で言った駄洒落で笑うな。しかも大爆笑。
……笑いのツボ、駄洒落なんですか?
「ふぅ」
「ナズーリン」
「うん?」
「ふとんがふっとんだ」
「ぶふぅっ!」
…………そうか。駄洒落だったか。弱点。
憶えておこう。決して、決して忘れないようにしよう。
隙を見ては笑わせてやる。やばい。何かに目覚めちゃった。
「ナズーリン」
「なんだい?」
「こねこにねこみみはえた」
「……猫に耳が生えているのは当然だ。それに猫に耳がなかったら相当に不気味だと思うのだよ」
「諭された!?」
調子に乗ってしまった! 考えてみれば駄洒落でもなんでもなかった……
うう……でも、でも猫は耳がなくなったって可愛い筈だ……!
「ネコ科の擁護は見苦しいね。いい加減ネズミの愛らしさにこそ目覚めるべきだよ」
「つまみ食い減らせば考えてやりますよ。そこだけネズミらしくしおって」
「食べ盛りなのだよ」
「自分の歳を言ってみろ」
「花の14歳。犯罪だねご主人様」
「清々しいまでの嘘だ! その上陥れられた!」
「14歳なのだし食べ頃と称しても――」
「……?」
彼女がボケを中断するなど珍しい――というより、初めてだ。
危ないボケを誤魔化すのではなく、中断。
「ん」
「どうしました」
「妖気だ。それも大きな――」
途端、彼女の顔に険が宿る。
「これは――逃げた方がいい」
しかし、その忠告は遅かった。
言い終えると同時に――ずんっ、と地響きを立てて、砲弾そのものの勢いで妖怪が降ってきた。
こんな――滅茶苦茶な登場をするような妖怪は、私の知る限り一種。
こんな、ハチャメチャな登場に耐えられる妖怪は、千年の記憶の中でただ一種。
――――地底世界の支配者。最強の妖怪。鬼のご登場である。
着弾、否、着地地点の周囲は今すぐにでも耕せそうなほどに粉々だった。
どれほどの勢いで着地すればああなるのかなんて、想像も、出来ない。
巻き上がる土埃から、ぬう、と一本角の鬼が姿を現す。
「バカでかい妖気が降りてくると思えば――」
女性の声。
「面白そうなのが来たもんだ」
人の顔をしているとは思えない、獣の笑み。
幻想郷の頂点に立つ妖怪――鬼。
随分――背が高い。私と視線の高さに差がない。いや、あれは私よりも高い位置から見ている。
「……ご主人より大きい女なんて初めて見たよ」
「……私もそう思います」
「よもや、ご主人のたわわに実った乳よりでかいなんて」
「そっちかよ!!」
別にいいよそこは負けても! 心底どうでもいいわ!
なんで悔しそうな顔して爪噛んでんだあなたは!
「だが、見たところカップに差は無い。純粋に胸囲の差、だね」
「目測でそこまで測るな! ……なんで私のサイズ知ってんですか!?」
「見ればわかる!!」
「言い切りやがった!」
「あっはっは! あ、ごめん。おひねり用意してないや」
「違う! 芸人じゃない!」
しまった。ついいつものノリで突っ込んでしまった。
「縦穴からこっち漫才しっぱなしじゃないかい」
「聞かれてたー!」
「面白かったよ! 次の宴会で本番頼むよ!」
「違う! 本当に違うんですって! 営業じゃ、いや営業みたいなものですけど!」
面白そうなのが来たってそのまんまの意味で言ったのか!
くっ、否定したいけどし切れない道中だった……!
「大山鳴動して鼠一匹」
棘のある声が響く。
「強い妖怪が来ると騒いだ末がお笑い芸人だなんて、締まらないわね」
見れば――少女の姿。
一本角の鬼とは対照的な、華奢な少女。
「美少女だね」
……有体に言って、そうだった。
柔らかに波打つ金の髪。強い意志を秘めた緑眼。花のような――少女だ。
しかし。
私は鬼と対峙した時以上の緊張を強いられる。
彼女は幻想郷縁起に載っていた。地底世界への道を守る番人。橋姫。
水橋パルスィ。
詳細な記述までは読んでいないが、危険な妖怪と紹介されていた。
「いやいやパルスィ。まだわからんさ」
「――諦めの悪い」
「さて、悪いね自己紹介が遅れて。私は元山の四天王、力の勇儀。星熊勇儀だ」
「……どうも」
また――古く、大きな名が出た。
今の彼女がどう論ぜられるかは知らないが、私の記憶では鬼の中でもトップクラス。
こちらも自己紹介をすべきなのだろうが、私の手は幻想郷縁起に伸びた。
「ええと」
幻想郷縁起・第五版を開いてページをぱらぱらと捲る。
あったあった。水橋パルスィと星熊勇儀。イラスト入りだと探しやすくて助かる。
私たちは――欠片も助かっていないけれど。
水橋パルスィ。
星熊勇儀。
共に、危険度は極高。
妖怪相手はどうか知らないが――人間友好度は、最悪。
嫉妬心を操り、怪力乱神を語る。
危険な――封じられた妖怪。
一筋縄では、いくまい。
覚悟を決め一歩を踏み出す。
「私は寅丸星。毘沙門天の代理です」
「毘沙門天? ほう? ほほう。そいつは面白い」
実に楽しそうに笑う。意味は、さっぱりわからないのだけれど。
「? ええと、彼女は」
「ああ、そっちはいい」
途端笑顔は薄れ目線さえも逸らされる。
完全に、関心を失ったと態度で語っていた。
「悪いがそっちに興味は無い。強そうじゃないし、私はネズミってのが嫌いでね。鬼だから」
鬼だから? 鬼とネズミに何の関係があるのだろう。
鬼、鬼――鬼門。丑寅。丑。
……丑。牛か。ああ、そういう意味、か。
鬼の角は牛の角。そう看做される。牛は、丑は――ネズミに利用された。干支の子に利用された。
また古い話を持ち出す。いや、鬼故の、律義さに起因するもの、か。
「つーわけで、私の相手はおまえだ。寅丸」
「は? 相手、とは?」
「白けさせてくれるなよ。喧嘩に決まってるじゃないか」
決まってる、って――何を、言い出すのだろう、この鬼は。
いや、鬼だからこそ、ではあるけれど。
鬼は好戦的で、強い奴が大好き。喧嘩が好き。定説だ。
「ま、待ってください。私たちは戦いに来たのではありません。妖怪救済の教えを説こうと」
「失望させてくれるなよ。言い分は拳で通しな」
……話がまったく通じない。
「図らずも丑と寅だ。丑寅だ。鬼だ。楽しくなりそうじゃないか。楽しい喧嘩になりそうじゃないか。
なあ寅丸。毘沙門天。この私を、この星熊勇儀を、調伏してみせておくれよ」
最初、肩透かしをくらって……甘く、見ていた。
彼女は――純粋に、どこまでも、情け容赦のない、鬼だ。
力を示す以外に、対等に語ることは出来ない。
「そっちは私のツレとやってもらおうか。見た感じの力量ならいい勝負だろ」
「また勝手なことを」
「いいだろ? 何事も騒いで派手に楽しくやらにゃ」
そっちって、ナズーリン?
「な。彼女は――」
「ご主人様」
流石に止めようとした私を、ナズーリンが止める。
「ここは、戦わねば務めを果たせないよ」
「しかし」
「安心したまえ、私を誰だと思っているんだい?」
でも、相手は危険な妖怪だ。はっきりと危険だと称された橋姫だ。
「自慢の逃げ足、如何なく発揮させてもらうさ」
心配では――あるけれど――
「……わかりました。あなたを信じます」
絶対に、死なないでくださいと告げ離れる。
鬼と、対峙する。
「図らずも四天王同士だ。楽しい喧嘩にしようじゃないか」
「私は四天王そのものではないのですが――まぁ、いいでしょう」
言って、手にした鉾を地面に突き立てる。
「うん? その武器は使わないのかい。見れば中々に謂れのある代物のようだが」
「この鉾は降魔調伏の為のものですので――今回は使いません。調伏が目的ではありませんから」
「ふぅん……その余裕、仇にならないといいねぇ」
「喧嘩に武器など、野暮でしょう?」
「…………言うねぇ。楽しめそうだよ、寅丸」
凶相を浮かべ――鬼は拳を打ち合わせた。
――鉄が打ち合うに等しい音が響く。
「虎ってのは強さのバロメーターだ。虎退治が伝説になるくらいにね。
さて、寅丸星。あんたは虎のように強いのかねえ」
刹那、諸手が突き出され一拍遅れた私のそれと組み合った。
ばきりと、それだけで、私が踏み締める地面が割れる。
なんという、怪力――!
一瞬押されたが、足に力を込め堪え体勢を立て直す。組み合ったまま、力比べの格好になる。
そのまま、動けない。
「なんと――私と、互角の腕力とは、な……っ!」
「――っ! 妖力を、使ってないあなたに褒められても嬉しく、ありませんね……!」
力の勇儀。彼女は、本気を出していない。彼女が妖力を解放すればそれこそ――山を崩せるだろう。
今の時点で十二分に怪力の域だが、力自慢の鬼の中でなお「力」の二つ名を得た程では、ない。
「ふ、ははっ! それでも、私と張り合える奴が居なかったんでね……!
悪いが、暫く楽しませてもらうよ寅丸――っ!」
ぐんと力が増す。が、それも純粋な筋力のみ。
ならば私とて――負けはしない。
彼女の言う通り、虎とは、強さの象徴なのだから。
互いの力は拮抗し、力比べの姿のまま微動だに出来ない。
動けぬ私の耳に、ナズーリンの声が聞こえてきた。
「自己紹介は必要かな? 私はナズーリン。彼女の、寅丸星の従者だ」
「別に、興味はないけれど。私は水橋パルスィ。ここの番人よ」
「ははは。怖がられてもいないね。確かに私は彼女と違い木端妖怪なのだが」
「お互い様――でも、あなたはその弱さすら強さの礎にしているようね。妬ましい」
「ふ、弱く小さいからこそ風呂覗きもバレないのだよ」
「犯罪を自慢するな阿呆っ!」
「いい突込みだね。しかし」
「……なによ」
「キレと愛と乳が足りない」
「殴らせて? なんでもいいから5発殴らせて?」
「生々しい数字を言う……」
「なんであんたが呆れてんのよ! 呆れたいのは私の方よ! キレは兎も角後半突っ込みに関係ないでしょ!」
「突っ込みの際に揺れる乳はロマンなのだよっ!!」
「漢らしく言い切りやがった!」
「おや。お疲れのようだね。あと漢女(おとめ)と言って欲しいね」
「……もういい。さっさと始めて終わらしましょう」
「始める前にお願いがある」
「? なによ」
「私の負けでいいからあなたの能力は使わないで欲しい」
「…………負けでいい? じゃあ、あなたは何をしにここまで」
「彼女の付き合いだよ。正直私はこんな務めはどうでもいいのだ。
彼女の傍に入れるから引き受けたに過ぎない。それに」
ナズーリンは――
「あなたの能力を受けて醜い姿をあの人に晒すのは御免なのだよ」
真摯な声で、告げた。
「私はあの人に嫌われたくないのでね」
「――熱烈だこと」
妬ましいわね、と水橋パルスィは、頷いたようだった。
「勝ちを譲られたから、ってわけじゃないけど一つだけ教えてあげる」
「なにかな」
「嫉妬は醜い感情だけれど、決して無為ではないのよ」
――そう、彼女の敗北が聞こえた。
それで――いい。争って傷つくよりよっぽどいい。彼女が傷つくより、ずっとましだ。
「つれないなあ寅丸――」
ぎしりと、
「――私と戦っている時に他の女のことを考えるなよ――!」
腕が悲鳴を上げた。
「ぐ、あ……っ!」
このままでは、折られる――!
わざと膝の力を抜き体勢を崩す。鬼は自身の力のままに飛び出し――その勢いを利用して投げ飛ばす!
「おおっ!?」
両腕が痛むが、この隙を逃してはどうにもならなくなる。
彼女が着地する前に――
「だ、っらああああぁぁ!!」
腰を抱え、鬼の両腕をがっちり固定し頭から地面に叩きつける!
「ぐはあっ!」
「おお! あれはご主人様の必殺『タイガードライバー’91』!」
……よし。決まった。あとそういう技名あるの今知りましたナズーリン。
如何に鬼とて地面に頭が埋まってれば終わったでしょう。
がしりと、足が掴まれた。
「ぬあ!?」
引きずり倒され足が胸に抱え込まれ――いだだだだだっ!?
「ははは! 強い、強いな寅丸! 毘沙門天を、武神を騙るに相応しい!!」
「いっ! あだだだだだだだっ!」
「ほれほれどうしたあ! この程度でぉわっ!」
足首を捻られる方向に体ごと回転し極めに来ていた彼女の足を掴み返す。
何時の間に頭を抜いたんだこの鬼は!
「ぬぐわぁっ!?」
ひっくり返った星熊の両足を両脇に抱え背中に座る。
腰を痛めればもう身動きとれまい!
「いっづ、いでででっ! や、やるなぁ寅丸ぅぅぅぅ!」
「脱出不可能だ! さっさと降参をおっ!?」
腕立て伏せの要領で体勢を崩した!? 馬鹿な、下手すれば腰が折れるぞ!?
ぐ、首を掴まれ、たぁ……!
「そっちこそ降参したらどうだぁ……っ!」
腰に乗られ、顎を背後に引っ張られる……!
だが、両腕が御留守なんですよ鬼!
「ぬあああああああ……!」
「なにぃっ!?」
腕を掴み、強引にロックを外す……!
足を振り回し振り落とす。そのまま転がり距離を取った。
「ぜぇ、ぜぇ……っ」
「や、やるじゃないか……っ」
く、う、腕が上がらない……無理をし過ぎたか……!?
「だが」
「っ! しま」
「勝つのは私だあっ!」
抱き締め、違う! せ、背骨が……!
「ぐあ、あああぁぁぁ……」
「なにぃっ!? ベアハッグだとぉ!?」
「え? どこに驚いてるの?」
「考えてもみたまえ橋姫! 思い出したまえ彼女らの乳のでかさを!!」
主人が苦しんでるのに何ぬかしとるナズーリン!!
「あの乳が、あの乳が! 密着して強烈な圧力でみちみちと! しかもダブル! 素晴らし過ぎる!
エデンはここにあったか! エルドラド? いやそんな程度の低いものではない、ソドムとゴモラだ!
私の憧れるエロスの摩天楼! ソドムとゴモラはここにあったっ!!」
橋姫がなにかとても嫌そうな顔をしているのがちらりと見えた。
「~~~~~っ……挟まれたい……!」
…………あとで関節技フルコースだ……!
「――わ」
「あん?」
「私の腕力を甘く見るなぁ――っ!」
強引に締めていた腕を振り払い掴みかかる。
「ぬう!」
しかし敵も然るもの。がっちりと受け止められ、最初の場面の再現となる。
「ぐぎぎぎぎぎぎ……!」
「ぬぐぐぐぐぐぐ……!」
完全に膠着状態に入ってしまった。
どうにかしたいが……限界だ。ここから素早く技に持ち込むのは不可能……――
…………なんでこんなことをしてるんだろう……?
弾幕戦をすれば……距離を取って弾幕戦に持ち込めばいいのに。
うう、なんか頭が朦朧としてきた。
「うーん。見ててつまらない試合になってしまったね」
「あなた本当にあの人のこと好きなの……?」
「もちろんだとも。歪んだ愛情と自覚しているし問題は無いよ」
「自覚しちゃってるの!?」
部下はあんな力の抜けること言うしさあ!
あーもう今すぐこいつ放り出して殴りに行きたいなあ!
殺気が届いたのかナズーリンが少し引いた。
「……謝った方がいいんじゃない?」
「ふぅむ……よし。ご主人様ー! 勝ったら一緒にお風呂に入ってあげよう!」
「それは私がどう得をするんだ!?」
私の裸を見たいだけだろうおまえ!
「自分で言うのもなんだが、私は見事なまでのロリータ体型なのだよ? 合法ロリだ!」
「自分の上司をロリコンに仕立て上げてなにがしたいんだ貴様ァっ!!」
「見せつけてくれるじゃないか寅丸……!」
「…………え?」
「パルスィー! 私にもなんか褒美くれーっ!!」
「え!? そこで振ってくるの!?」
「具体的にはこいつら以上のエロ!!」
「ふざけんなド阿呆っ!! 後で吊るすからね!!」
ぐだぐだすぎる。
もう帰りたい。
「吊るされても構わん! 春画本でも描けないような際どいのぉっ!」
……橋姫の見事な飛び蹴りが星熊の延髄を撃ち抜いた。
こうして――うやむやのままに戦いは終わりを迎えた――
「おめでとうご主人様。ご褒美、楽しみにしててくれたまえ」
……終わらせてください。なかったことにしてください。
ネズミのくせに獲物を前にした蛇みたいな目をしないでください……
そしてエピローグ。
勝負はうやむやになってしまったが、星熊は潔く己の負けを認めた。
以後は、旧都への出入りは自由だと言ってくれた。
そこで私たちの目的、布教を伝えたのだが――それには、いい顔をされなかった。
当然、だろう。地上を追われた妖怪たちに、今更――元人間が救済を唱えるなんて。
ナズーリンの例を見るまでもなく、そんな人間を信じることは容易ではない。
でも、それでも――星熊は好きにしろと言ってくれた。
私たちの役目は、これで終わったと言っていいだろう。
後は聖本人が出向いてどうにかする筈だ。
ゆっくり、時間をかけて理解し合っていけばいい。
ここは幻想郷。妖怪はもう虐げられてなどいないのだから――――
「などと綺麗にまとめたところ悪いが、ご褒美は強行させてもらうよ」
「それもうご褒美じゃないですよね! 「強」の字が入るようなのはご褒美じゃないですよね!」
橋姫に支えられながら帰って行った星熊を見送り、一息ついたところにこれだ。
心休まらないなあ……
「なんというか、完結した二人だったね」
唐突に出たその言葉に、一瞬首を捻る。
星熊と、橋姫のことだと、それくらいは察しがつくが。
「完結?」
「ん、ええと、だね。お互いに、満ち足りていると云うか、他は要らないと云うか」
それは――私も感じた。
星熊勇儀と水橋パルスィ。
彼女たちは、距離感があるようで――互いに支え合って、補い合っていた。
星熊のわがままに橋姫は付き合い、橋姫の潔癖に見えるところを星熊が受け止めていた。
「きっと、互いの愛だけで満足してしまっているんだろうね」
恋人同士――か。
本人たちはそう吹聴することはなかったけれど、多分そうなのだろう。
彼女たちの繋がりは――深くて、強かった。
「……ああ、そうか」
「ナズーリン?」
「はっは。いや、まったく我ながら――ロマンチックなことを考えてしまったのだよ」
苦笑しながら、彼女は言った。
「きっと白蓮殿は、妖怪から向けられる愛を食べて生きているんだろうね」
聖が――愛を食べる?
「っくっく。やれやれ。捕食者は白蓮殿の方だったか。酷い結論だが、納得が行ったよ。
彼女が妖怪を恐れていないのは、愛しているからだったんだね。愛されているから、怖がらない。
愛し愛されているから――壁なんか無くなった」
彼女が浮かべる表情は、柔らかだった。
聖を拒絶した時とは正反対の、笑み。
「妖怪を心から愛し、妖怪に心から愛される、か。私はそれが理解できなかったから、彼女が怖かった。
まったくたいしたものだよ、白蓮殿は。流石私のご主人様が信頼するだけのことはあった」
「……聖を、認めるのですか?」
「うん。もう、怖くはないね」
「そうですか――ようやく、あなたも聖の」
「だけど」
強い口調で遮られる。
「それでも私は白蓮殿が嫌いだがね」
笑顔で、嫌いだと言う。
「そんな、だって……もう聖は怖くないのでしょう?」
「私は彼女の愛は要らないよ。これっぽっちも欲しくないし、私から愛するつもりなんて毛頭ない。
だってそうだろう? 私のご主人様を取ってしまいそうな女なんて好きになれる筈がない」
「……え?」
「私は独占欲が強いのだよ、ご主人様」
冗談めかして、煙に巻くように――言う。
「あなたが白蓮殿に恩を受けたことは知っている。
それがどんな恩かまでは知らないが、敢えて問い質そうとは思わない。
でも、千年、千年もの間忘れることもなく、今も恩を感じ続けていることも、知っている。
深い恩だと、決して忘れ得ぬ、決して途切れることのない絆であると――知っている。
しかしあなたが義理堅く、情け深いことを知った上で――私は言うのだよ。
最後に選ぶのは、白蓮殿ではなく、私であって欲しいと」
私は、強欲なのだよ――と、彼女は、言い切った。
嫉妬の念を隠すことなく――言い切った。
聖は――恋敵だから、嫌いなのだと。
彼女の言い分は、理解できる。
私は、聖の一番近くに居る。聖の信仰を一身に受け、救済の道を共に歩んだ。
それは千年前から変わっていない。
ナズーリンの知らぬずっと昔からその関係は変わって、いない。
「――まったく」
出るのは溜息。
「やっぱりあなたは馬鹿です」
「随分だね」
「そうも言いたくなりますよ」
ほんの僅かに腹が立つ。
「もう少し、私を信じてくれてもいいでしょう?」
そんな風に、冗談めかして――怯えながら言わなくてもいいでしょう?
私はあなたを嫌ったりしない。そんな嫉妬で、あなたを遠ざけたりしない。
「ねえナズーリン」
不安げにダウジングロッドを握る彼女の手を取る。
「私はあなたを選んだ。私は聖を信頼していますが、これは恋じゃありませんよ」
震える小さな手を、そっと包む。
「私が恋をしているのはナズーリン、あなただけです」
だから、怯えないでください。
そんな辛そうな顔は見たくない。
無理矢理作り上げた笑顔なんて見たくない。
私は――あなたの素直な笑顔を見ていたい。
こんな願いを言うには、私では力不足かもしれないけれど。
「……ふふ、あいらぶゆー、かい?」
「ええ。あいらぶゆー、ですよ」
冗談めかした言葉。
でもそれは、怯えじゃなくて――気恥ずかしさを誤魔化す冗談。
彼女が、素直な笑顔で言える冗談だ。
ようやく浮かべてくれた笑顔に、私も笑顔で応じる。
「ありがとう、ご主人様」
花咲く笑顔で、彼女は言う
「ふふ、私も――あなたの愛を食べて生きてみようかな」
このお話は同品集「私のお星さま」の続編となっております。
「こっちだよご主人様」
ダウジングロッドをみょんみょんと動かしながら飛ぶ少女。私の部下であるナズーリン。
生粋のダウザーである彼女は普段は無数の野鼠を操り探し物を見つける。
しかし、例え野鼠を操らずとも、本人だけでもその能力は損なわれない。
今回のような仕事にはもってこいな人材だった。
「近い近いね。私のロッドが、……いや近いね」
「ちょっと待て。今何を言おうとしたのですか」
「流石の私でも乙女が言ってはならぬことくらい把握しているのだよ」
突っ込みてえ。
二か所くらいに突っ込みたい。もっと考えてから発言しろとか、乙女はそんなこと把握しとらんとか。
なんか最近突っ込みキャラとして認知されつつある気がしてならないから控えるが。
嫌なんだ私は。「突っ込みの寅丸星」なんて名乗る羽目に陥るのは。
「ん。見えたよ」
下降する彼女に私も続く。
ナズーリンの先導で辿り着いたのは――大きな穴だった。底など見えぬ、暗い穴。
「これが地底への入り口だ」
「随分と大きい……そういえば、途中見かけた大穴はなんなのですか?」
「ん、妖怪の山の穴かい? あれはまた別の施設らしいよ。河童がなにかしているようだね」
どうも建設中だったようだが、と付け加えられる。
建設中――ね。穴を掘って建設、と言うのはどうもしっくりこない表現だった。
私は頭が固いらしい。
近頃は山の妖怪がなにやら活発になっていた。その一環だとは思うが……
山の技術者たる河童を動員してまでなにをする気なのだろう?
「穴を建設……淫靡な響きだ」
「いや微妙ですよそれ」
というか強引過ぎる。
何考えてたのか忘れちゃったじゃないですか。
「なんです? ネタが尽きましたか」
「聞き捨てならないなご主人様。私の変態性に限りがあるなどと思われるのは心外だ。
侮辱としか言い表せない。訂正を要求するよ」
「では何かそれらしいこと言ってみなさい」
「博麗の巫女が飛んできて修正されるがいいのかい?」
「あなたもアウトラインは弁えていたのですね……」
思い返してみればさっきもそうだったし。まぁそこまで……いや、でも……
……弁えてないよなあ。弁えていたらああまで私が突っ込まずに済んだのだ。
己の主を芸人に仕立て上げて何をしたいのだろうと真剣に悩んだ日もあった。
悲しかった。そんなことで悩んでる自分が。
「そのラインはもう少し下げておきなさい」
「ではギリギリを狙ってみよう」
「頑張らなくてもいい。頑張らない方がいいんだナズーリン」
「私のあだ名はエローリンがいいと思う」
「名まで捧げるな! どこまで捨て身になるつもりだ!」
「ちなみにこれは私がロリ体型であることにもかけているのだよ」
「ああローリってそういう。うるさいよ! 自分を切り売りするな!」
「私は己が変態であることを誇りに思っている」
「捨ててしまえそんなプライドは!」
「しかしご主人、レゾンデートルの放棄など世界への裏切りだと思わないかい」
「悲しくなるような存在証明が必要な世界など滅びればいい!」
仏に仕える者の言うことではなかった。
というか悪魔の台詞だった。
「まぁまぁ。紅茶でも飲んで落ちつこうじゃないか。実はここにティーセットは無いのだがね――」
「話逸らす気すら無いのかあなたはっ!」
「付け加えれば私は紅茶が苦手なのだよ。見るのも嫌だ。飲んだら吐く。
昔ご主人様が氷室に入れておいた紅茶を麦茶と思って飲んで以来トラウマでね」
「そういえば紅茶には付き合いませんねあなたは……」
「いやいや壮絶だよ。麦茶の風味を期待してたらがつんとくるダージリンのあの苦み」
「まぁわからなくもないですけど」
私はそれを蕎麦つゆでやった。未だに蕎麦は苦手である。
「いや流石に蕎麦つゆと麦茶は間違えないだろう……」
「あれぇ!? 呆れられたよ!?」
「私はボケ専なのに突っ込まざるを得ないよご主人様……」
そこまで!? そんな憐みの目を向けるほどに!?
いやそんなまさか。だって黒いじゃない。両方黒いじゃない。
同じ容器に入れちゃえば見分けつかないじゃない。
今脳内シミュレートしたけど見分けつかなかった。
「はっはっは……ご主人様は本当にうっかりだなあ……」
力なくナズーリンが歩き出す。肩を落としてダウジングロッドを引き摺って。
え? なにこの罪悪感。
「あの、ナズーリン?」
「なにかねうっかりしょ……ご主人」
「そこまで言ったなら言い切ってくれた方がまだ救いがある……!」
駄目か! 私はそこまで駄目駄目なのか! うっかりなのか!
ああもう泣きたいなあ!
「元気がいいねえご主人様。ま、そろそろ行こうか。日が暮れるよ」
「マイペースですよねあなたは……」
文句言っても始まらない。ここは従う形で歩き出す。
大穴、洞窟に一歩を踏み入れただけで――そこはもう別世界だった。
異界と表現するべきか――風の肌触りまで、違う。
何百年も前に地上を追われた妖怪たちが辿り着いたと云う……地獄へと続く道。
「ここほど鬼が出るか蛇が出るか、の格言がぴったりなところもありませんね」
「ふむ。正にその両方が居るだろうからね。言い得て妙というより――チープだね」
む、成程。格言ではなくそのままの意味になってしまうか。
「チープ。チープ……ううん……字面はいいのに……」
「必死に汚名挽回しようとしないでください」
そこまで強引に変態を誇示しなくてもあなたは十分に変態だナズーリン。
せっかくちょっとかっこよかったのに。
諦めたのか、肩を竦めて彼女は息を吐いた。
「しかし面倒ったらないね。せっかく無職ライフを満喫していたのに」
「あなたの場合少しくらい働かねば毒です」
無職を気に病み胃を痛めるくらいなら働けというのだ。
「ふふん。私を甘く見過ぎだねご主人様」
「ぬ」
もしかして突き抜けたか? 無職でいることに慣れてしまったのだろうか。
それは困る。上司として。
「先日ついに血を吐いた」
「終いには泣くぞ!」
そこまで無理するな! 明らかに猛毒になってるじゃないか無職ライフ!
お願いだからそこまで追い詰められる前に相談してくれナズーリン!
「今日の布教終わったら病院行きますからね連れて行きますからね!」
「ええ、注射は嫌だなぁ……」
「胃の穴の方がよっぽど痛いですよ!」
胃潰瘍になる程働いてないという事実が辛いというのは喜んでいいのか悲しんでいいのか。
これからはなるべく彼女に頼るようにしよう。彼女の心のケアを心がけよう……
「ならば私はあなたの発情期のケアを心がけよう」
「ないよ! 私発情期なんてないよ!」
「虎だから激しいと覚悟はしているよ。……出来れば、や、優しくして……欲しい、な」
「恥ずかしくなるくらいならボケるな! こっちが恥ずかしくなったわ!」
「しょうがないじゃないか! ご主人は体格もいいし腕力だって凄いんだから!」
「私が酷いことする前提で逆ギレるなっ!」
際限なく話が逸れてしまう。
ええと、目的なんだっけ……布教だ布教。
そう、私たちは布教の為に地底に向かっていた。
聖の教えを広め、妖怪の救済の輪を広げるのが目的である。
聖本人が向かおうとしてたのだが、多忙で動きが取れなかった。
そこで私たちがその任を請け負ったのだ。なにせ暇を極める私とナズーリン。実に腰は軽かった。
……悲しくなんかないヨ?
寺の建立も手伝うことがなかったことを悔いてはいないヨ?
普通の建築なら兎も角ややこし過ぎたのだ、あれは。
なにせ聖輦船を地上に降ろし、その土台部分だけを建てるという無茶な設計である。
遊覧船と寺の両立の為にと考案されたのだが、はっきり言ってダイナミック過ぎる。
空飛ぶ寺(上半分)とかなんの冗談だ。里の子供たちなんて合体寺と呼んでいるらしいし。
いっそ寺は寺で建てて船の置き場を調達してきた方が早かったんじゃないか。
うう、聖が何考えてるのかわからない。
「…………」
わからないと言えば――ナズーリンもわからないのだけれど。
いやに今回の仕事を渋った気がする。
確かに彼女は普段から怠けているが、決して勤労意欲が皆無というわけではない。
言えば働くし、頼めば即動く。それが今回に限ってはいやに――渋っていた。
胸にすとんと落ちない。納得が、出来ない。
今もやる気なさそうに歩いているだけだ。私の先導をするのは入口まで、と決めていたかのような。
この先は危険で、彼女が行きたがらないのも理解できるが――それだけでは納得に至らない。
くるりと彼女が振り返る。
なんとも思考の読めぬ曖昧な表情。赤い瞳は半分閉じられ、まるで私を睨んでいるかのようだった。
「どうしたのかな?」
「あ、いえ」
負い目もないのに気後れしてしまう。
責められていると――感じてしまう。
いつも通りの曖昧な表情に、いつも通りの半目なのに。
「ところでなんで歩いていくのかね。別に飛んでもあなたのスカートを覗いたりしないよ?」
「その前振りだと確実に覗かれるんでしょうけど無駄ですよ。下にズボン穿いてます」
「裏切ったなっ!? 私を裏切ったなご主人様っ!!」
「……予想以上に嘆かないでくださいよ……なんか切なくなりますよ……」
膝をついて天を仰ぐな。岩しかありませんよ天。
……いつも通りのナズーリン、ではあった。無理をしている様子もない。
杞憂であったか、それとも私が自覚していない負い目を感じているのか。
「……まあいい。中身はもう拝んでいる」
「何時の間に!?」
「風呂で昨晩」
「堂々と覗きを告白するたぁ処刑の覚悟が出来てるんだろうな貴様!」
貴様が負い目を感じろ! 私が気まずくなる要素が一片もないじゃないか!
「磔刑の前にもう一度見てもいいだろうか乳尻ふともも」
「目隠しして斬首がお望みのようだな!」
「目隠しプレイは大好きだ!」
「手強過ぎる!」
楽しい会話だった。
まぁ冗談は流すとして――彼女は平気で「昨晩は可愛かったね」などと法螺を吹く――話を進めよう。
洞窟に足を踏み入れた以上、あまり猶予は、余裕は無い。
「まあ、用心ですよ。どんな妖怪が出るか知れたものじゃありませんから」
「ふむ? しかし地底というのは船長たちが封じられていたところだろう?
聞いた限りではそう警戒するような印象は受けないのだが」
「地底と言っても広いですからね――ムラサたちとはまったく別種の妖怪も多い。
まったく桁違いの妖怪も多い。それこそ、未だに語り継がれるほどの妖怪がごろごろ居ます。
ムラサも十二分に強力な妖怪ですが……油断すれば一口で食われますよ」
「そいつは怖い」
「冗談じゃありません。冗談になりません。用心してし過ぎることはない」
重ねた警告に、そいつは怖いと重ねて返し彼女は歩き出す。
まあ、こと用心に関しては釈迦に説法か。それだけは間違いなく私以上だ。
「しかしあれだね。白蓮殿も人遣いが荒いのかそうでないのかわからない」
話を振られ、違和感を思い出す。
――彼女の声には棘が含まれていた。見逃せない、棘が。
「まぁ、遊覧船をしている時は私たちの仕事は無いんですから、寺の時くらいはね」
「それにしたって別にご主人様は彼女の部下ではないだろう。命令を聞く義理は無い筈だ」
「命令というか、まぁお願い事ですから」
「それだって、聞く義理はないだろうに」
「随分突っかかりますね。あなたらしくもない」
語調を強めてしまう。ナズーリンらしく、ないのだ。
いつも飄々として、協調を好まぬ彼女であったが自ら和を乱すような真似はしなかった。
それがなんだ? 険悪にするのが目的かと思えるほどに私に突っかかる。
「ん、ん――」
叱られたと感じたのか、言い難そうにしていたが――言い難そうにしたままに、口を開く。
「ご主人様には悪いが、私は白蓮殿を信用できないのだよ」
「ナズーリン――」
それは。
「いや、すまない。あなたが白蓮殿を信頼しているのはわかっている。理解している。
確かに彼女は人格者だ。あり得ない程に、ね。それは理解しているよ」
私を見ないままに続ける。
「ただ、なんというのかな。私は封じられる前の彼女を知らないからなのかもしれないが……
どうしても、信用できない。時間が足りてないだけかもしれないとは思うのだが、今は無理だ」
歩を緩めぬままに続ける。
「あなたは信頼できても、白蓮殿は信頼できない」
真面目な顔で、言い切った。
「……しかし、あなただって聖の復活に助力してくれたではないですか。
あれは聖の思想を、彼女を理解して信じてくれたから」
違うよ、と彼女は私の言葉を遮る。
「そも、私はあなたの命令で動いただけだからね。私自身は、白蓮殿の復活などどうでもよかった」
労働だった。ただ、働いただけだった。そこに主義信条は含まれていないと、言い切る。
「……率直に言わせてもらえば、どうでもいいのではなく、関わりたくない」
それは――ナズーリンらしからぬ言葉だった。
飄々と生きている彼女らしくない。明確な意思で拒絶するなど、あまりにも彼女らしくない。
苦手意識を誤魔化してもいない――煙に巻いてすら、いない。
「彼女が嘘を吐いているとは思わない。白蓮殿は本気で妖怪の為に動いている。
滅私奉公もいいところだとも思う。ああいうのを聖女というんだろうね」
しかし、と彼女は真っ直ぐに私を見た。
「いいかね、ご主人様。仏法の守護者であるあなたは違うかもしれないが、私は妖怪だ。
ただの妖怪だ。上司が何であれ、目に見えぬ縛りがあれ――人間は食料に過ぎない」
恐ろしく人間味を欠いた無表情で告げる。
「私が人間に感じることは二つだけだよ。敵か、餌か。それだけだ。
第三の選択肢としてなんとも思わない、というのもあるが、それは感じるとは言わないだろう。
突き詰めれば、生きているか死んでいるか、でしかない。他は、無い。
生きていれば敵で、死んでいれば餌だ。抵抗しないのであれば敵ではなく、餌となる死体と同義だ。
自ら近寄ってくる人間など自殺志願の死人としか思えない。つまりは、餌としか思えない。
故に、白蓮殿は胡散臭い。抹香臭く、胡散臭い。あれは人間の思考形態じゃないね」
それこそ死人の考え方だと、彼女は言う。
抹香臭いと――彼女は言う。
「いくら力が強かろうと、人間は本能的に妖怪を恐れる。もしくは、排除しようとする。
彼女にはそのどちらもが決定的に欠けている。本能ではなく――理性だけで動いている。
彼女の考え方は、こういう例えは好きではないが、ネズミが猫を可愛がるようなものだ。
食糧が捕食者を愛でるようなものだ。普通じゃあ、ない。はっきり言って、怖いよ。
彼女は人間を辞めているのにどこまでも人間だ。なのに、人間じゃない。
人間じゃない思考で、人間じゃない理性で、人間らしく動いている。
あまりにも私の埒外だ。とても――怖いよ」
目が逸らされる。
「理解なんて――出来ない」
理解なんて、したくない――そう、彼女は締め括った。
違和感の――正体。
ナズーリンは、聖の為に動きたくなかった。彼女にとって聖はあまりに遠過ぎる。
聖に恩を受け、彼女の為に動いてきた私とは違う。近寄れてすら、いない。
それは――聖に対する、妖怪たちの思いの縮図だ。
どこまでも簡潔に言い表せてしまう、一言。
――信じられない。
「……でも、ナズーリン。聖は」
「やめようご主人様。終わりだ。続けても意味がない。これ以上は水掛け論だよ。
私は聞く気がないし、あなたも私を理解出来ない。この温度差は、埋められない」
その、通りだ。ナズーリンの言う通り。
私がどれだけ信じて欲しいと言っても、私がどれだけ願っても、届かない。
ナズーリンが恐れているのは私ではなく聖だから。
どうしようも――ない。
「――……私は、これ以上あなたに嫌われたくないよ」
ぼそりと、呟かれた言葉に俯いていた顔を上げる。
ナズーリンは私を見ておらず、所在なさげにダウジングロッドをいじっていた。
「……ナズーリン?」
嫌われる? なにを、言っているのだろう。私は彼女が好きなままだ。
例え彼女が聖を嫌っていようとそれは変わらない。
聖を理解出来ないと云うのは、無理からぬことであるし。
「すまない。失言だったよ。忘れてくれたまえ。……いや」
彼女は慌てて言い繕う。
「忘れないで欲しいな、ご主人様。私は、妖怪だ。人間は敵か餌だ。そうとしか思えない。
そして、これが妖怪だよ。土壇場で人間を選んだりは、しない。それだけは――忘れないで欲しい」
そう願う彼女の顔が――いやに目に焼き付いた。
それからは、努めていつも通りの会話を続けた。
私は相応に気負っていたが、ナズーリンはそんな様子は微塵も見せなかった。
終わりだ、という宣言通りに気持ちを切り替えたのだろうか。
そういうところは――私も見習うべきなのかもしれない。
……蒸し返す必要もない。私も、普段通りに振舞おう。
「この先に鬼の町があるそうですよ」
懐に忍ばせておいたガイドブックに目を通す。
記述が正しければそろそろこの縦穴も終わり地底に着く頃合いだ。
「鬼の町……そうか、鬼は群れるんだったね」
「社会性がある珍しい妖怪ですね。はてさて、旧都とはどんな町か」
「…………」
ナズーリンは思案顔を見せる。
特別思い詰めた様子は無いので先程のことには関係なさそうではあるが……どうしたのか。
「ご主人様、あなたは虎の妖怪だったね。ということは決して群れないのかい?」
私のことだった。
「いや私も虎そのものというわけではないので……虎の属性は色濃く現れていますけどね」
己を語ることは苦手だ。
どうにも己に自信を持てなかった過去は、今でも私を蝕んでいる。
彼女に、ナズーリンに救われたが……一朝一夕では変われない。
「私はどちらかと言えば、孤独に弱い性質ですよ。独りは嫌ですね」
「そうなのかい? 昔のあなたは平気そうだったが」
「あーんー。それは」
また、答えにくいことを。
「お堂でずっと一人で経典を読んでいたのを憶えているよ。あれは修行だったと聞いたが。
それでも独りが平気だから続けていられると思っていたのだよ」
「んー……いや、まあ、そのですね」
うう。恥ずかしいなあ。
これがいつもの悪意溢れるボケなら突っ込んで流せるが普通の会話じゃそうもいかない。
いっそボケて誤魔化したかった。ボケ方がわからないので不可能だが。
……言ってしまうか。これは、言わない方が卑怯だろうし。
彼女に、隠したままなんて卑怯千万だろうし。
「あなたが、傍に居てくれましたから」
「…………」
やっぱり、恥ずかしい。
目を丸くされてしまっている。
私と、彼女は――恋人同士だ。先日彼女に告白され、私はそれを受け入れた。
だから、恋人同士だから、言ってしまっても構わないと思った。
恋人同士故に、隠しごとは卑怯だと、思った。の、だけれど。
「…………ふ」
やっぱり、言うんじゃなかった、かも。
「ふっふっふっふっふ。嬉しいことを言ってくれるじゃないかご主人様。
いや本当に嬉しい。今日の仕事は乗り気ではなかったが改めなくてはならないね。
ああ、この気持ちどう表そうか」
喜ばれても――やっぱり、恥ずかしい。
私は、寅丸星は堅物で……こういうことに慣れてないのだ。
「ふむ。そうだね、あなたの為ならチーズ断ちも辞さない」
「はっきり微妙だ!」
喜びたくても喜べんわ! 志が低過ぎる!
大体カレーに入れる以外じゃそんなに好きじゃないじゃないかチーズ!
「ではこう言い換えよう。私はあなたの為ならペスト大流行も辞さない」
「かっこ……! 格好よくない! はっきり怖い!」
あれ!? 脅迫されてる!?
「な、そ、ペスト菌なんてどこから……!」
「いやなに、ここには疫病を操る妖怪が居るらしいじゃないか。
そいつからちょろまかせばペスト菌なんて簡単に……ね」
「脅してる!? 脅されてる!?」
よ、要求はなんだナズーリン!
「なぁに――ちょっと胸を強調する服を着て色っぽいポーズをとってくれればいいのだよ。
天狗からちょろまかしたカメラで撮影しまくるだけさ」
「本格的に脅してたーっ!」
「冗談はこの程度にしておこうか。それはいずれ自力でやる」
「終わらすな! 話し合いましょう! だからやらないでお願い!」
私にお色気求めないでください! 本当に自信ないんです!
千年以上独身は伊達じゃないんです!
「続けてもいいのかい? 私はあなたを隅々まで冒険したい」
「やっぱ終わらしましょうさっさと先に進みましょうそうしましょう」
油断ならぬ。餌を与えるところだった。
「これからはご主人様のことを子猫ちゃんと呼びたい」
「終わってんですよ! 話広げなくていいんですよ! 先進みましょうよ!」
確かに私はネコ科だが、とっくの昔に大人になってるんだ!
なんか突込みどころ誤った気がするがもうどうでもいいわ!
「しかし子虎ちゃんでは語呂が、意外とよかった!?」
「本当だ!? そしてやめろっつってんだろうがあっ!」
一瞬感心しちゃった。
そうか……初めて聞くが子虎ちゃんって語呂ではアリなのか……
「しかし、妙だね」
「はい?」
急に声音が真面目さを帯びる。
「いやほら。件の疫病を操る妖怪はこの洞窟に出るらしいじゃないか」
「えーと……そう書いてありましたね」
「私のロッドが何の反応も示さない。妖怪自体が居ないのだよ」
確かに、おかしい。
ここまで無反応というのは不気味だ。
「ご主人様が言ったのとは違う意味で――警戒した方がよさそうだね」
……異変? いや、そこまで規模の大きなものではないだろうが……
私が見てもさっぱりわからないがナズーリンの持つダウジングロッドはみょんみょんと警戒を続けている。
それでも――反応は無いらしい。ここは妖怪のテリトリーなのに。
先程から手に持ちっぱなしだったガイドブックを開く。幻想郷縁起・第五版(四版は欠番)。
「これによるとこの辺に番人が居るそうなんですが……」
「居ないね。私のロッドにも何の反応もない」
「ふぅむ。一応許可を取ってから通りたかったのですがね」
「居ないものはしょうがない。勝手に通ってもいいだろう」
……まあ、その通りかもしれない。わんさか居るのなら兎も角、居ないのでは対処しようがない。
警戒は続けたままで、とりあえずは鬼の町まで。
程なくして縦穴は終わる。視界が開け――広大な地底世界が見えてきた。
あの薄ぼんやり光ってる山が……旧都。かな。
もう一度幻想郷縁起・第五版を開いて確認する。
縦穴からの具体的な距離は書いてないが、位置関係からして間違いないようだ。
不夜城という表記もあの光る山を見れば納得である。
「あれのことが載ってるのかい?」
「ええ、どうやらあの山が旧都のようです」
幻想郷縁起・第五版の旧都の項目に添えられているイラストは残念ながら街中を描写したものだった。
故に外観では判別付かないが……まあ間違いではなかろう。
「しかし立派な本ですね。うちの経典とはえらい違いだ」
「経典は手作りだしね。これは河童の活版印刷だから。河童の活版印刷。
ぎゃはははははははははははははははははははははははははっっ!!!」
「いきなり大爆笑!?」
ええ、どこで!? もしかして河童の活版印刷!? 駄洒落だよ!?
悪いけどくすりとも笑えない。基本中の基本みたいな駄洒落だ。
いやその前に自分で言った駄洒落で笑うな。しかも大爆笑。
……笑いのツボ、駄洒落なんですか?
「ふぅ」
「ナズーリン」
「うん?」
「ふとんがふっとんだ」
「ぶふぅっ!」
…………そうか。駄洒落だったか。弱点。
憶えておこう。決して、決して忘れないようにしよう。
隙を見ては笑わせてやる。やばい。何かに目覚めちゃった。
「ナズーリン」
「なんだい?」
「こねこにねこみみはえた」
「……猫に耳が生えているのは当然だ。それに猫に耳がなかったら相当に不気味だと思うのだよ」
「諭された!?」
調子に乗ってしまった! 考えてみれば駄洒落でもなんでもなかった……
うう……でも、でも猫は耳がなくなったって可愛い筈だ……!
「ネコ科の擁護は見苦しいね。いい加減ネズミの愛らしさにこそ目覚めるべきだよ」
「つまみ食い減らせば考えてやりますよ。そこだけネズミらしくしおって」
「食べ盛りなのだよ」
「自分の歳を言ってみろ」
「花の14歳。犯罪だねご主人様」
「清々しいまでの嘘だ! その上陥れられた!」
「14歳なのだし食べ頃と称しても――」
「……?」
彼女がボケを中断するなど珍しい――というより、初めてだ。
危ないボケを誤魔化すのではなく、中断。
「ん」
「どうしました」
「妖気だ。それも大きな――」
途端、彼女の顔に険が宿る。
「これは――逃げた方がいい」
しかし、その忠告は遅かった。
言い終えると同時に――ずんっ、と地響きを立てて、砲弾そのものの勢いで妖怪が降ってきた。
こんな――滅茶苦茶な登場をするような妖怪は、私の知る限り一種。
こんな、ハチャメチャな登場に耐えられる妖怪は、千年の記憶の中でただ一種。
――――地底世界の支配者。最強の妖怪。鬼のご登場である。
着弾、否、着地地点の周囲は今すぐにでも耕せそうなほどに粉々だった。
どれほどの勢いで着地すればああなるのかなんて、想像も、出来ない。
巻き上がる土埃から、ぬう、と一本角の鬼が姿を現す。
「バカでかい妖気が降りてくると思えば――」
女性の声。
「面白そうなのが来たもんだ」
人の顔をしているとは思えない、獣の笑み。
幻想郷の頂点に立つ妖怪――鬼。
随分――背が高い。私と視線の高さに差がない。いや、あれは私よりも高い位置から見ている。
「……ご主人より大きい女なんて初めて見たよ」
「……私もそう思います」
「よもや、ご主人のたわわに実った乳よりでかいなんて」
「そっちかよ!!」
別にいいよそこは負けても! 心底どうでもいいわ!
なんで悔しそうな顔して爪噛んでんだあなたは!
「だが、見たところカップに差は無い。純粋に胸囲の差、だね」
「目測でそこまで測るな! ……なんで私のサイズ知ってんですか!?」
「見ればわかる!!」
「言い切りやがった!」
「あっはっは! あ、ごめん。おひねり用意してないや」
「違う! 芸人じゃない!」
しまった。ついいつものノリで突っ込んでしまった。
「縦穴からこっち漫才しっぱなしじゃないかい」
「聞かれてたー!」
「面白かったよ! 次の宴会で本番頼むよ!」
「違う! 本当に違うんですって! 営業じゃ、いや営業みたいなものですけど!」
面白そうなのが来たってそのまんまの意味で言ったのか!
くっ、否定したいけどし切れない道中だった……!
「大山鳴動して鼠一匹」
棘のある声が響く。
「強い妖怪が来ると騒いだ末がお笑い芸人だなんて、締まらないわね」
見れば――少女の姿。
一本角の鬼とは対照的な、華奢な少女。
「美少女だね」
……有体に言って、そうだった。
柔らかに波打つ金の髪。強い意志を秘めた緑眼。花のような――少女だ。
しかし。
私は鬼と対峙した時以上の緊張を強いられる。
彼女は幻想郷縁起に載っていた。地底世界への道を守る番人。橋姫。
水橋パルスィ。
詳細な記述までは読んでいないが、危険な妖怪と紹介されていた。
「いやいやパルスィ。まだわからんさ」
「――諦めの悪い」
「さて、悪いね自己紹介が遅れて。私は元山の四天王、力の勇儀。星熊勇儀だ」
「……どうも」
また――古く、大きな名が出た。
今の彼女がどう論ぜられるかは知らないが、私の記憶では鬼の中でもトップクラス。
こちらも自己紹介をすべきなのだろうが、私の手は幻想郷縁起に伸びた。
「ええと」
幻想郷縁起・第五版を開いてページをぱらぱらと捲る。
あったあった。水橋パルスィと星熊勇儀。イラスト入りだと探しやすくて助かる。
私たちは――欠片も助かっていないけれど。
水橋パルスィ。
星熊勇儀。
共に、危険度は極高。
妖怪相手はどうか知らないが――人間友好度は、最悪。
嫉妬心を操り、怪力乱神を語る。
危険な――封じられた妖怪。
一筋縄では、いくまい。
覚悟を決め一歩を踏み出す。
「私は寅丸星。毘沙門天の代理です」
「毘沙門天? ほう? ほほう。そいつは面白い」
実に楽しそうに笑う。意味は、さっぱりわからないのだけれど。
「? ええと、彼女は」
「ああ、そっちはいい」
途端笑顔は薄れ目線さえも逸らされる。
完全に、関心を失ったと態度で語っていた。
「悪いがそっちに興味は無い。強そうじゃないし、私はネズミってのが嫌いでね。鬼だから」
鬼だから? 鬼とネズミに何の関係があるのだろう。
鬼、鬼――鬼門。丑寅。丑。
……丑。牛か。ああ、そういう意味、か。
鬼の角は牛の角。そう看做される。牛は、丑は――ネズミに利用された。干支の子に利用された。
また古い話を持ち出す。いや、鬼故の、律義さに起因するもの、か。
「つーわけで、私の相手はおまえだ。寅丸」
「は? 相手、とは?」
「白けさせてくれるなよ。喧嘩に決まってるじゃないか」
決まってる、って――何を、言い出すのだろう、この鬼は。
いや、鬼だからこそ、ではあるけれど。
鬼は好戦的で、強い奴が大好き。喧嘩が好き。定説だ。
「ま、待ってください。私たちは戦いに来たのではありません。妖怪救済の教えを説こうと」
「失望させてくれるなよ。言い分は拳で通しな」
……話がまったく通じない。
「図らずも丑と寅だ。丑寅だ。鬼だ。楽しくなりそうじゃないか。楽しい喧嘩になりそうじゃないか。
なあ寅丸。毘沙門天。この私を、この星熊勇儀を、調伏してみせておくれよ」
最初、肩透かしをくらって……甘く、見ていた。
彼女は――純粋に、どこまでも、情け容赦のない、鬼だ。
力を示す以外に、対等に語ることは出来ない。
「そっちは私のツレとやってもらおうか。見た感じの力量ならいい勝負だろ」
「また勝手なことを」
「いいだろ? 何事も騒いで派手に楽しくやらにゃ」
そっちって、ナズーリン?
「な。彼女は――」
「ご主人様」
流石に止めようとした私を、ナズーリンが止める。
「ここは、戦わねば務めを果たせないよ」
「しかし」
「安心したまえ、私を誰だと思っているんだい?」
でも、相手は危険な妖怪だ。はっきりと危険だと称された橋姫だ。
「自慢の逃げ足、如何なく発揮させてもらうさ」
心配では――あるけれど――
「……わかりました。あなたを信じます」
絶対に、死なないでくださいと告げ離れる。
鬼と、対峙する。
「図らずも四天王同士だ。楽しい喧嘩にしようじゃないか」
「私は四天王そのものではないのですが――まぁ、いいでしょう」
言って、手にした鉾を地面に突き立てる。
「うん? その武器は使わないのかい。見れば中々に謂れのある代物のようだが」
「この鉾は降魔調伏の為のものですので――今回は使いません。調伏が目的ではありませんから」
「ふぅん……その余裕、仇にならないといいねぇ」
「喧嘩に武器など、野暮でしょう?」
「…………言うねぇ。楽しめそうだよ、寅丸」
凶相を浮かべ――鬼は拳を打ち合わせた。
――鉄が打ち合うに等しい音が響く。
「虎ってのは強さのバロメーターだ。虎退治が伝説になるくらいにね。
さて、寅丸星。あんたは虎のように強いのかねえ」
刹那、諸手が突き出され一拍遅れた私のそれと組み合った。
ばきりと、それだけで、私が踏み締める地面が割れる。
なんという、怪力――!
一瞬押されたが、足に力を込め堪え体勢を立て直す。組み合ったまま、力比べの格好になる。
そのまま、動けない。
「なんと――私と、互角の腕力とは、な……っ!」
「――っ! 妖力を、使ってないあなたに褒められても嬉しく、ありませんね……!」
力の勇儀。彼女は、本気を出していない。彼女が妖力を解放すればそれこそ――山を崩せるだろう。
今の時点で十二分に怪力の域だが、力自慢の鬼の中でなお「力」の二つ名を得た程では、ない。
「ふ、ははっ! それでも、私と張り合える奴が居なかったんでね……!
悪いが、暫く楽しませてもらうよ寅丸――っ!」
ぐんと力が増す。が、それも純粋な筋力のみ。
ならば私とて――負けはしない。
彼女の言う通り、虎とは、強さの象徴なのだから。
互いの力は拮抗し、力比べの姿のまま微動だに出来ない。
動けぬ私の耳に、ナズーリンの声が聞こえてきた。
「自己紹介は必要かな? 私はナズーリン。彼女の、寅丸星の従者だ」
「別に、興味はないけれど。私は水橋パルスィ。ここの番人よ」
「ははは。怖がられてもいないね。確かに私は彼女と違い木端妖怪なのだが」
「お互い様――でも、あなたはその弱さすら強さの礎にしているようね。妬ましい」
「ふ、弱く小さいからこそ風呂覗きもバレないのだよ」
「犯罪を自慢するな阿呆っ!」
「いい突込みだね。しかし」
「……なによ」
「キレと愛と乳が足りない」
「殴らせて? なんでもいいから5発殴らせて?」
「生々しい数字を言う……」
「なんであんたが呆れてんのよ! 呆れたいのは私の方よ! キレは兎も角後半突っ込みに関係ないでしょ!」
「突っ込みの際に揺れる乳はロマンなのだよっ!!」
「漢らしく言い切りやがった!」
「おや。お疲れのようだね。あと漢女(おとめ)と言って欲しいね」
「……もういい。さっさと始めて終わらしましょう」
「始める前にお願いがある」
「? なによ」
「私の負けでいいからあなたの能力は使わないで欲しい」
「…………負けでいい? じゃあ、あなたは何をしにここまで」
「彼女の付き合いだよ。正直私はこんな務めはどうでもいいのだ。
彼女の傍に入れるから引き受けたに過ぎない。それに」
ナズーリンは――
「あなたの能力を受けて醜い姿をあの人に晒すのは御免なのだよ」
真摯な声で、告げた。
「私はあの人に嫌われたくないのでね」
「――熱烈だこと」
妬ましいわね、と水橋パルスィは、頷いたようだった。
「勝ちを譲られたから、ってわけじゃないけど一つだけ教えてあげる」
「なにかな」
「嫉妬は醜い感情だけれど、決して無為ではないのよ」
――そう、彼女の敗北が聞こえた。
それで――いい。争って傷つくよりよっぽどいい。彼女が傷つくより、ずっとましだ。
「つれないなあ寅丸――」
ぎしりと、
「――私と戦っている時に他の女のことを考えるなよ――!」
腕が悲鳴を上げた。
「ぐ、あ……っ!」
このままでは、折られる――!
わざと膝の力を抜き体勢を崩す。鬼は自身の力のままに飛び出し――その勢いを利用して投げ飛ばす!
「おおっ!?」
両腕が痛むが、この隙を逃してはどうにもならなくなる。
彼女が着地する前に――
「だ、っらああああぁぁ!!」
腰を抱え、鬼の両腕をがっちり固定し頭から地面に叩きつける!
「ぐはあっ!」
「おお! あれはご主人様の必殺『タイガードライバー’91』!」
……よし。決まった。あとそういう技名あるの今知りましたナズーリン。
如何に鬼とて地面に頭が埋まってれば終わったでしょう。
がしりと、足が掴まれた。
「ぬあ!?」
引きずり倒され足が胸に抱え込まれ――いだだだだだっ!?
「ははは! 強い、強いな寅丸! 毘沙門天を、武神を騙るに相応しい!!」
「いっ! あだだだだだだだっ!」
「ほれほれどうしたあ! この程度でぉわっ!」
足首を捻られる方向に体ごと回転し極めに来ていた彼女の足を掴み返す。
何時の間に頭を抜いたんだこの鬼は!
「ぬぐわぁっ!?」
ひっくり返った星熊の両足を両脇に抱え背中に座る。
腰を痛めればもう身動きとれまい!
「いっづ、いでででっ! や、やるなぁ寅丸ぅぅぅぅ!」
「脱出不可能だ! さっさと降参をおっ!?」
腕立て伏せの要領で体勢を崩した!? 馬鹿な、下手すれば腰が折れるぞ!?
ぐ、首を掴まれ、たぁ……!
「そっちこそ降参したらどうだぁ……っ!」
腰に乗られ、顎を背後に引っ張られる……!
だが、両腕が御留守なんですよ鬼!
「ぬあああああああ……!」
「なにぃっ!?」
腕を掴み、強引にロックを外す……!
足を振り回し振り落とす。そのまま転がり距離を取った。
「ぜぇ、ぜぇ……っ」
「や、やるじゃないか……っ」
く、う、腕が上がらない……無理をし過ぎたか……!?
「だが」
「っ! しま」
「勝つのは私だあっ!」
抱き締め、違う! せ、背骨が……!
「ぐあ、あああぁぁぁ……」
「なにぃっ!? ベアハッグだとぉ!?」
「え? どこに驚いてるの?」
「考えてもみたまえ橋姫! 思い出したまえ彼女らの乳のでかさを!!」
主人が苦しんでるのに何ぬかしとるナズーリン!!
「あの乳が、あの乳が! 密着して強烈な圧力でみちみちと! しかもダブル! 素晴らし過ぎる!
エデンはここにあったか! エルドラド? いやそんな程度の低いものではない、ソドムとゴモラだ!
私の憧れるエロスの摩天楼! ソドムとゴモラはここにあったっ!!」
橋姫がなにかとても嫌そうな顔をしているのがちらりと見えた。
「~~~~~っ……挟まれたい……!」
…………あとで関節技フルコースだ……!
「――わ」
「あん?」
「私の腕力を甘く見るなぁ――っ!」
強引に締めていた腕を振り払い掴みかかる。
「ぬう!」
しかし敵も然るもの。がっちりと受け止められ、最初の場面の再現となる。
「ぐぎぎぎぎぎぎ……!」
「ぬぐぐぐぐぐぐ……!」
完全に膠着状態に入ってしまった。
どうにかしたいが……限界だ。ここから素早く技に持ち込むのは不可能……――
…………なんでこんなことをしてるんだろう……?
弾幕戦をすれば……距離を取って弾幕戦に持ち込めばいいのに。
うう、なんか頭が朦朧としてきた。
「うーん。見ててつまらない試合になってしまったね」
「あなた本当にあの人のこと好きなの……?」
「もちろんだとも。歪んだ愛情と自覚しているし問題は無いよ」
「自覚しちゃってるの!?」
部下はあんな力の抜けること言うしさあ!
あーもう今すぐこいつ放り出して殴りに行きたいなあ!
殺気が届いたのかナズーリンが少し引いた。
「……謝った方がいいんじゃない?」
「ふぅむ……よし。ご主人様ー! 勝ったら一緒にお風呂に入ってあげよう!」
「それは私がどう得をするんだ!?」
私の裸を見たいだけだろうおまえ!
「自分で言うのもなんだが、私は見事なまでのロリータ体型なのだよ? 合法ロリだ!」
「自分の上司をロリコンに仕立て上げてなにがしたいんだ貴様ァっ!!」
「見せつけてくれるじゃないか寅丸……!」
「…………え?」
「パルスィー! 私にもなんか褒美くれーっ!!」
「え!? そこで振ってくるの!?」
「具体的にはこいつら以上のエロ!!」
「ふざけんなド阿呆っ!! 後で吊るすからね!!」
ぐだぐだすぎる。
もう帰りたい。
「吊るされても構わん! 春画本でも描けないような際どいのぉっ!」
……橋姫の見事な飛び蹴りが星熊の延髄を撃ち抜いた。
こうして――うやむやのままに戦いは終わりを迎えた――
「おめでとうご主人様。ご褒美、楽しみにしててくれたまえ」
……終わらせてください。なかったことにしてください。
ネズミのくせに獲物を前にした蛇みたいな目をしないでください……
そしてエピローグ。
勝負はうやむやになってしまったが、星熊は潔く己の負けを認めた。
以後は、旧都への出入りは自由だと言ってくれた。
そこで私たちの目的、布教を伝えたのだが――それには、いい顔をされなかった。
当然、だろう。地上を追われた妖怪たちに、今更――元人間が救済を唱えるなんて。
ナズーリンの例を見るまでもなく、そんな人間を信じることは容易ではない。
でも、それでも――星熊は好きにしろと言ってくれた。
私たちの役目は、これで終わったと言っていいだろう。
後は聖本人が出向いてどうにかする筈だ。
ゆっくり、時間をかけて理解し合っていけばいい。
ここは幻想郷。妖怪はもう虐げられてなどいないのだから――――
「などと綺麗にまとめたところ悪いが、ご褒美は強行させてもらうよ」
「それもうご褒美じゃないですよね! 「強」の字が入るようなのはご褒美じゃないですよね!」
橋姫に支えられながら帰って行った星熊を見送り、一息ついたところにこれだ。
心休まらないなあ……
「なんというか、完結した二人だったね」
唐突に出たその言葉に、一瞬首を捻る。
星熊と、橋姫のことだと、それくらいは察しがつくが。
「完結?」
「ん、ええと、だね。お互いに、満ち足りていると云うか、他は要らないと云うか」
それは――私も感じた。
星熊勇儀と水橋パルスィ。
彼女たちは、距離感があるようで――互いに支え合って、補い合っていた。
星熊のわがままに橋姫は付き合い、橋姫の潔癖に見えるところを星熊が受け止めていた。
「きっと、互いの愛だけで満足してしまっているんだろうね」
恋人同士――か。
本人たちはそう吹聴することはなかったけれど、多分そうなのだろう。
彼女たちの繋がりは――深くて、強かった。
「……ああ、そうか」
「ナズーリン?」
「はっは。いや、まったく我ながら――ロマンチックなことを考えてしまったのだよ」
苦笑しながら、彼女は言った。
「きっと白蓮殿は、妖怪から向けられる愛を食べて生きているんだろうね」
聖が――愛を食べる?
「っくっく。やれやれ。捕食者は白蓮殿の方だったか。酷い結論だが、納得が行ったよ。
彼女が妖怪を恐れていないのは、愛しているからだったんだね。愛されているから、怖がらない。
愛し愛されているから――壁なんか無くなった」
彼女が浮かべる表情は、柔らかだった。
聖を拒絶した時とは正反対の、笑み。
「妖怪を心から愛し、妖怪に心から愛される、か。私はそれが理解できなかったから、彼女が怖かった。
まったくたいしたものだよ、白蓮殿は。流石私のご主人様が信頼するだけのことはあった」
「……聖を、認めるのですか?」
「うん。もう、怖くはないね」
「そうですか――ようやく、あなたも聖の」
「だけど」
強い口調で遮られる。
「それでも私は白蓮殿が嫌いだがね」
笑顔で、嫌いだと言う。
「そんな、だって……もう聖は怖くないのでしょう?」
「私は彼女の愛は要らないよ。これっぽっちも欲しくないし、私から愛するつもりなんて毛頭ない。
だってそうだろう? 私のご主人様を取ってしまいそうな女なんて好きになれる筈がない」
「……え?」
「私は独占欲が強いのだよ、ご主人様」
冗談めかして、煙に巻くように――言う。
「あなたが白蓮殿に恩を受けたことは知っている。
それがどんな恩かまでは知らないが、敢えて問い質そうとは思わない。
でも、千年、千年もの間忘れることもなく、今も恩を感じ続けていることも、知っている。
深い恩だと、決して忘れ得ぬ、決して途切れることのない絆であると――知っている。
しかしあなたが義理堅く、情け深いことを知った上で――私は言うのだよ。
最後に選ぶのは、白蓮殿ではなく、私であって欲しいと」
私は、強欲なのだよ――と、彼女は、言い切った。
嫉妬の念を隠すことなく――言い切った。
聖は――恋敵だから、嫌いなのだと。
彼女の言い分は、理解できる。
私は、聖の一番近くに居る。聖の信仰を一身に受け、救済の道を共に歩んだ。
それは千年前から変わっていない。
ナズーリンの知らぬずっと昔からその関係は変わって、いない。
「――まったく」
出るのは溜息。
「やっぱりあなたは馬鹿です」
「随分だね」
「そうも言いたくなりますよ」
ほんの僅かに腹が立つ。
「もう少し、私を信じてくれてもいいでしょう?」
そんな風に、冗談めかして――怯えながら言わなくてもいいでしょう?
私はあなたを嫌ったりしない。そんな嫉妬で、あなたを遠ざけたりしない。
「ねえナズーリン」
不安げにダウジングロッドを握る彼女の手を取る。
「私はあなたを選んだ。私は聖を信頼していますが、これは恋じゃありませんよ」
震える小さな手を、そっと包む。
「私が恋をしているのはナズーリン、あなただけです」
だから、怯えないでください。
そんな辛そうな顔は見たくない。
無理矢理作り上げた笑顔なんて見たくない。
私は――あなたの素直な笑顔を見ていたい。
こんな願いを言うには、私では力不足かもしれないけれど。
「……ふふ、あいらぶゆー、かい?」
「ええ。あいらぶゆー、ですよ」
冗談めかした言葉。
でもそれは、怯えじゃなくて――気恥ずかしさを誤魔化す冗談。
彼女が、素直な笑顔で言える冗談だ。
ようやく浮かべてくれた笑顔に、私も笑顔で応じる。
「ありがとう、ご主人様」
花咲く笑顔で、彼女は言う
「ふふ、私も――あなたの愛を食べて生きてみようかな」
ナズ星は素晴らしい!勇パルもあって最高です!
そして醤油とコーラを間違えたのは俺だけじゃないはず。ばあちゃん、コーラのボトルに醤油入れんのやめてー。
星のツッコミにニヤニヤするのが止まりませんね。
勇儀の「褒美くれ」発言とパルスィの突っ込みも良かったです。
ナズーリンの聖に対する考え方がなるほどなぁと思った
確かに餌が捕食者を守るだなんだいうのはおかしいよねぇ
それにしても星ナズは最高だな!
人間には強すぎる思想を持った鬼たちの中でも、特に強い『力』をもつ勇儀。
人間の中にある感情でも特に辛い『嫉妬』を能力と性格に宿すパルスィ。
妖怪でありながら毘沙門天の弟子であり、そのために様々な事情を持つ星。
その部下でありながら同時に監視役であるというどこか後ろ暗くもある立場のナズーリン。
そんな彼らが歩み寄ったりおっかなびっくり触れ合ったり冗談を言い合ったりしながら少しずつ仲良くなっていくのは、なんだかとても好きです。
勇パルイズジャスティス!
星ナズイズジャスティス!
続きが気になる!
バカップル万歳!!!(´∀`)
星ナズ素晴らしいです。
白蓮の行動は自分も引っかかっていたところだったので、ナズの論でなんかすっきりしました。
ちょっと途中で誰がしゃべってんのかよくわからなくなったのが玉に瑕、かな?
一人称だし説明しきるのは難しいとは思うけれど。
楽園はここにあったのか
もっともっと脳髄を蕩かす様な発狂幻想を…!!
ああ、エデンが見えた。いやさエルドラド。大いなるバビロン!
シャングリ・ラを拝めてもう心残りはありません。
二人の掛け合いがとても仲良しで好きです。
そしてシリアルパートではナズりんがすごいいい味出しているのがツボです。
ラヴところにより変態、楽しかったよ!
・・・でも思わず某所で叫んでしまった。ミサワァァァァァッ!
'91は本当に危険すぎる。
勝者:パルシィ
星ナズはいいもんだ
心を打たれるってこういう事なの
底知れないですなこの従者は
楽しく読ませて頂きました!
蕩れるじゃないか。