Coolier - 新生・東方創想話

咲夜さんがぎゃふんって言うお話

2009/10/06 21:18:23
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紅魔館、主の部屋


「おもしろいお話が作りたいのよ」
「突拍子もない」
「突拍子もなくないわ。世間が私に追い付いていないだけよ」

レミリア・スカーレットは一冊の本を手に持ち、それを咲夜に押し付けた。
「はぁ……何です?」
内心自分の仕事が増える事を確信しつつ、そうではない僅かな望みを未来に託す。

「だから、お話を作ってみたいのよ」
諦めた。



とはいえ瀟洒な従者十六夜咲夜たるもの、そんな簡単に主の願いを華麗にはスルーしては沽券にかかわる。私、紅魔館のメイド長十六夜咲夜は仕方ないなどとは思う事なく、本当に、欠片も思う事なく主の願いの為に動き始めた。扉を開き、部屋を出る。

そして、
「で、やはりきっかけを知りたいのですが」
主の部屋を出た筈の咲夜は次の瞬間レミリアの目の前に現れた。
「何故今部屋から出た」
「外に用があったのです」
「何故今此処に居る」
「お嬢様に用があったのです」
「何だ?」
心拍数が跳ねあがったのを悟られないように威厳(みせかけ)を保ち、レミリアは問いかける。
「いえ、至極妥当な疑問でございます。何故その……お話などをお作りになりたいと?」
「気紛れじゃ駄目?」

一瞬、咲夜とレミリアの間に風が吹いた。冷たくて突き刺すような風が。

「お嬢様」
「は?」
「あんまり調子に乗りすぎてるようですと私にも我慢の限界というものがある事を悟って頂きたくなるので御座いますが何か仰る事はありますのでしょうか?」
「ごめんごめんごめんごめんっ!」
これが最凶の人間十六夜咲夜。後にカリスマブレイクの咲夜と呼ばれる事となる。嘘である。
「い、いや、違うっ!ちょっとしたじょーくだったの!じょーく!」
「嬢苦?」
「怖いっ!何か怖い!ジョークだってば!怒らないで!」
「ああ、jokeですか」
「あ、発音良いわね」
何とも締まらない二人だった。

「では理由を。3行以内に」
「制限付き?しかも1行何文字か分からないし」
「勘でお答えください」
「無茶苦茶ね……そのー……パチェの図書館で本を読んだのよ…」
「なるほど。そういう事でしたか」
「話が早くて助かるわ」
「文字が読めなかったんですね」
「ぶっ殺すぞ」
「jokeですわ」
頑張れば無邪気に見えない事はない笑い方をする咲夜だがお世辞にも無邪気ではない。
当事者には分かる。ちなみに第三者でも分かる。
「パチェの本を読んで、私も書いてみたくなったのよ!」
「諦めて下さい」
「何で!?」
夢を希望をことごとく粉砕する咲夜。
「いくら私が瀟洒だなんだともてはやされようと無理な事もあります」
「何が無理なのよ。私は本を書きたいと言っているだけよ」
「馬鹿につける薬はないという言葉を存じていらっしゃいますか?」
「私が馬鹿だと言いたい訳?」
「それが分からぬほど馬鹿だったらどうしようと思案に暮れていた所でございます」
「もういい分かった!!咲夜、お前にレミリア・スカーレットの本気を思い知らせてやる。お前の考えがいかに浅く、愚かであったかを私の書いた物語を読んでから後悔するがいい!!」
レミリアは威厳を放ちながら言い放ち、勢い良くドアを開けて部屋から出て行った。
久し振りに休めそうだ、と咲夜は大きく伸びをする。瀟洒なメイドは瀟洒に休暇を得るのである。


「と、いう訳で手っ取り早く書いてみたんだけどパチェ、チェックをお願い」
「私も暇ではないのだけれど……どれくらい厳しく?」
大図書館、という名がこれほどふさわしい空間もあるまい、と言いきれる巨大な図書館。
右を見れば本(哲学の書)、左を見れば本(神話、伝説)、パチュリーの奥にも本(魔道書)、レミリアのすぐ近くにも本(物語)、入口の方にも本(官能小説)である。
本ばっかり。本とパチュリーと小悪魔だけが普段ここに居る。
今はその空間にレミリアという存在を加え、いつもの数倍五月蠅い空間となっていた。
「咲夜が私を称賛するくらい」
「じゃあ論外」
友人は非情で容赦なかった。
「って論外なのは分かったけど何処が悪かったのか指摘してよ!初めてなんだから一言じゃ意味ないじゃん!」
「まったく……よく聞きなさいよ?
まず話の根本、動機がない。それから、話の舞台がさっぱり分からない、ついでに登場人物の一人称がしょっちゅう変わる、話の視点はばらばら、漢字ミスが多すぎ、それから……」
「タンマ!いちにんしょうって何よ!」
「『私』とか『俺』とかみたいにキャラクターが自分の事を何て呼ぶかよ。ほら見なさい、ここでは『俺』なのにこっちで『私』になって、ここでは『オイラ』よ?訳分かんない」

つうこんのいちげき!

「う……」
「続けましょうか?」
「いや……とりあえず言われた事から直してくわ……」
静かに閉まる図書館の扉は、物哀しげだった。
「言いすぎたかしら?」
全然心配じゃなさそうにパチュリーは呟いた。


「馬鹿だねえ」
「言うな……」
私、レミリアは、今妹、フランドールの部屋に居た。
「読ませてよ」
「嫌。書きなおすもの」
「見せてよ」
「嫌。絶対よ」
「見せてくれないとドカーンだよ?」
私は逃げた。いやそもそも図書館から近かったからと言ってこの非情な妹の部屋に逃げ込んだのが間違いだったのだ。
というかこの現状を話してはいけない奴に話してしまった私の馬鹿!見せろと迫るは真理だった!考え付かなかった私が悪い……。
逃げた。一目散に。




「出来た……!!」
それから数時間。とくに仕事も何もない私はずっとその作業に没頭していて、やっと短めの話が書き終わったのだ。
「漢字ミスもない筈、いちにんしょうも大丈夫、この本に書いてある『起承転結』も頑張ったし、舞台の設定もしっかりまとめたわ。これで完璧……と言いたい所だけどねパチェ……私だってしっかり準備は整えてから勝負には挑むのよ!」

そう、レミリアが今立っているのは図書館の前ではなく、美鈴のいる門番詰所前。
「美鈴!入るわよ!」
「のわぁ!!」
レミリアが扉を開くと美鈴は椅子から落ちた。
がたーん、と。
「ちょっ!?美鈴何やってんの?」
「こっちの台詞ですよ……お嬢様がここに来るなんて何年ぶりですか」
「1年?」
「その10倍ですね」
「おお。よく覚えてたな。でだ、本題に入っていいか?」
「本題に入ってる間私は門の前に居なくていいんですか?」
「構わん。聞け」
「はーい」
何なんだまったく美鈴という奴は。揚げ足を取るのが好きなのか?
「お話を書いたんだよ。で、パチェに酷評される前にお前に色々指摘してもらいたい」
「珍しいですね。お嬢様が誰かに手を貸してくれと言うなんて」
「お前なっ!悔しいとは思わないのか!?論外の一言で付き返されたら!」
「お嬢様の事ですから。私は全然」
「こいつめ!お前だって文章なんてまともに書けやしない癖に!」
半ば怒りに身を任せた子供のように叫んで、レミリアは拳を机に叩きつけた。
「いや……そりゃ書けませんよ。どうにもこの平仮名と片仮名とを使い分けるのは苦手です」
「やかましい!まるでそういうのが無ければ書けるような物言いじゃないか!」
尤もな主の怒りは、
「書けます。……というか書いてましたし。昔は」
「………は?え?書いてた?何を?」
混乱。
「何を……と申されましても。小説の類ですが。昔……紅魔館に来る前は生活に困っていたので、とりあえず小説で稼いで食費に費やしてましたから。妖怪って分かる人がたまに居るので人前に姿を晒せないんですよね」
その初めて聞いた事実にレミリアは動揺を隠せない。
まさか。
そんな言葉が脳内を駆け巡る。

「よ……よろしい!私の文章をチェックする者としては役不足な気もするが良いだろう!」
「ふぅ……まあ随分と高く評価して頂いてるようですし、しっかりと見させては頂きますが……」
言葉遣いといい意味の間違いといい、先行き不安とは正にこれか、と美鈴は見えないように溜息を吐いたのだった。

「うわーお、また突拍子もないお話ですねぇ」
「突拍子もなくない」

「お嬢様、『一番最初』って何です?一番じゃない最初は何番最初ですか?」
「え?え?何?言ってる意味が分からない」

特訓、というか当人に理解できない丁寧な説明は続いていく。

「うーん、『鏡界』じゃなくて『境界』です。ほら見て下さい!確かに気持ちは分かりますけどねー」
「ああほら、『魔法使い』ですよ!『魔砲使い』じゃありません!だから分かりますけど!トラウマで!ついやっちゃいますけど!」
「あああ!主人公男の子なのに一人称が『あたい』ってどういう事です!?いや理由があるなら良いですけど!その『何か変だった?』みたいな顔を向けないでください!!」
「何の説明もなくいきなり『世界滅亡爆弾』じゃどうかと思いますが……」
「必殺技名がいちいち長くないですか?いえこれは単なる感想ですけど……『スペシャル・ブレイク・クリムゾンドライブスルー・マク・ドーナルード‐Lunatic‐』ってのは如何なものかと……難易度要らないですよね」



計666項目にて美鈴の突っ込みが飛んだ。
レミリアは6個理解出来た。

「うう……私には向いていないのかしら」
凹んだ。正直凹んだ。咲夜の『だから言ったでしょう』という顔を思い浮かべて反論できない自分が切なかった。
「何が根本的な問題なのかしら。幾らなんでも注意項目が多過ぎるもの」
そう、こういう時は冷静に物事を捉え、判断しなくてはならない。
「まず漢字ミス、これは地道に直せばいいのよ。666個の内427個は漢字ミスだったんだから。もともと言葉の違う所から来たんだから仕方ないわ。問題はじゃあ何なのかしら」
廊下を歩きながらぶつぶつつぶやくその様子は考える人ないし考える悪魔。
あんまり様になっていない。
「私は何をすれば咲夜をぎゃふんと言わせられるのかしら」
問いかけるが、答えはない。
「楽しい話を書きたいだけなのに……」
段々悲しくなってきた。そもそも、話を書いてみたいと思ったのは、きっかけこそ言った通り読んだ本が面白かったから、だが、本質は違う。
『どうしたら咲夜達に喜んでもらえるか』
威張っている自覚はあるし、それでも館の主というものは威厳が大事なのだ。それをやすやすと崩す事は色々と困難だ。
でも、咲夜にも娯楽を持って欲しかった。働きずくめでは大変だろうから。
「なのに今や咲夜を見返そうとしてるだけ……浅い考えは私の方か」
項垂れる。
発想に頼ってこんな慣れない事をするものではなかったのかもしれない。
咲夜が言ったように、突拍子もない事を考えていては楽しいものなど作れないのかもしれない。
「でもなぁ」
諦めきれないのも現実。大体ただでさえプライドが高い上にあんな啖呵まで切ってきたのだ。今更『やっぱ言ってた通り無理だった!』じゃスカーレットの名が廃るというもの。
「突拍子もない、か……」

「あ」
少し思った。
「突拍子もなくないお話なら?」
しかし自分は突拍子もなくないつもりで作っていた事を思い出す。
「駄目か……せめて日常的なお話なら……でもインパクト足んないよなぁ面白くないか……」

どうすればいいのだろう。
「インパクトのある日常は……日常じゃないなぁ」
そう言って思い切り溜息を吐いて、
「日常じゃん」
気付いた。
「いや日常って毎日インパクトあるじゃん」
日常、などという悲しくて切なくて面白みのない響きに惑わされていた。
この紅魔館では非日常が日常ではないか。
「何だろ、少し……」
やる気が湧きあがってきた。
今なら、面白い話が書けるかもしれない。




「ど……どうかしら?」
再び大図書館。
既に明け方の4時頃である。尤も睡眠の要らない彼女達にはあまり関係のない話だが、美鈴は珍しく多かった侵入者を追い返して図書館で休んでいた(治癒の陣の中。だけどパチュリーが効き目を実験している事を本人は知らない)。
そこに居る美鈴とパチュリーに今の今まで必死で書いていた原稿を手渡し、読んでもらった所だ。
「レミィ」
「な、何!?」
パチュリーの声が、二人の意見がまとまった事を告げる。
「で、どうだった……?」
「そうね、」
パチュリーは少し意地悪く焦らす様に一拍置いて、
「かなり良くなったんじゃない?」

そう言った。

「ほ……ほんと?」
「ま、相変わらず漢字はミスが多いけど、話自体には無理がないもの。どちらかというと日常を見てる感じかしら」
「見てる漢字ですね」
「美鈴五月蠅い」
レミリアの腕が震える。
やった。
やったのだ。
私はついにやったのだ。

「あ、でも咲夜に称賛されたいなら論外」
「そんなぁ」

まだまだ道程は遠そうだ。

「でも咲夜に見せたらどう?」
「え。嫌よ!笑われるわ!」
パチュリーが不意に手を伸ばしてきたのでレミリアはばっと原稿を持つ手を上げてそれをかわす。
「ありがと」
「へ?」
しかしレミリアの後ろから声がして、するりと原稿は抜き取られてしまったのだ。
「あ、こらフラン!」
「本当に書いてたんだ……ふむふむ」

暴れるのを諦め、レミリアはじーっと妹を見る。怖いくらいに見ている。

「………」
妹の目線が行を辿り、レミリアの力作を読み進めていく。
「………ぷっ……ふふ……」
「ああ!笑った!今私を笑ったな!」
「ち、違うよお姉様!悔しいけどちょっと面白かったの!悔しいけど!」

フランドールのその言葉は、話を書いた者にとって重たいものだった。
何より、嘘の無い笑顔。面白かったと告げるその顔。
「面白……かった?」
「ま、……まあ、少し、ね」
フランドールは姉に優しい妹ではない。どころか、厳しい。

その妹が面白い、と言ったのだ。それも、自分の力作に。
「ねえパチェ………」
「ん?」
「咲夜に見せても平気かな」
「だから言ったじゃない……けど、」
「けど?」
もう怖いものなんてない。この妹を楽しませる事が出来たのだ。
咲夜一人笑わせることなど容易い!もう何も私を止める事なんて出来ない!
「咲夜が起きてからにしなさいな。その間に漢字直して」
「うん」
止める事は意外と簡単だった。


「咲夜」
「はいお嬢様」
日が昇り、紅魔館を真上から照らしている時間帯。
こんな時間まで見せに行くのを堪えていた訳ではない。あまりに疲弊しきった為眠っていたのだ。睡眠要らずも疲れは溜まる。
「言った通り、書き終えたわよ」
「驚きですわ」
相変わらずの咲夜。しかし私はうろたえない。
私には、この自信作がある!


「という訳で見なさい私の自信作!」
「自信裂く?」
「やめてぇ!」



***



しばらく、黙々と読んでいる咲夜。
時折口元に笑みが浮かぶ。
読み終え、原稿をレミリアへと返す咲夜。

「お嬢様……本当にこれをお嬢様が?」
「あ、当たり前じゃない!書いてやるって言ったじゃない!」
「流石に驚きましたわ……あら?」
「ん?どうかしたかしら?」
何かを見つけた咲夜に対し、しかしレミリアはニヤニヤと笑って聞き返した。
「いえ、瑣末な事ではございますが……終わり方が中途半端に思えまして」
「あらそうかしら?この話の主人公は無事に自分の書いた話を見せたかった相手に見せる事が出来たのよ?」
ふふん、と浮かべる笑みは、悪戯の種明かしの機会を待つ子供さながら。
「そうではありますが……いえ、これ以上は野暮ですわね。お嬢様、素敵なお話をありがとうございます」
咲夜は本当に楽しそうに頭を下げた。
「待ちなさい咲夜」
「はい?」
「ぎゃふんと言いなさい」
「……仰る意味が私の頭ではよく分からないのですが」
「分からないと出来ないの?」
「意図を図りかねる事を迂闊には出来ませんわ」
「あら。咲夜らしくないわね」
「咲夜という方を優秀に見てらっしゃいますね」
「最高の従者だからね」
その言葉に咲夜のプライドが揺さぶられる。
訳が分からないのは仕方がない。しかし最高の従者たるもの、主の要望には応えるのが常識。出来て当然。出来ないなんて何それ。

「さて、もう一度聞くけど意図が分からないと出来ないのかしら?」
「jokeですわ」
「宜しい」

「それでは誠に僭越ながら、不肖私、十六夜咲夜がお嬢様の話に一言をば申し上げます」
「宜しい。言いなさい?」


息を少し深く吸い込んで、羞恥からか若干顔を紅く染める。そして普段よりも少し小さい声で、そしてはっきりと言った。

「ぎゃふん」






「よし、これでやっと話の最後が書けるわ!」
「はい!?」
自分の作品を確認しに来てみたら作品が無かった。な、何を言ってるか分らないと思うが(ry
編集時に誤って削除してしまいました。評価をして頂いた方には本当に申し訳ありませんでした。
以下後書き


ああ、やっと書けました。大体1カ月振りです。こんなの初めて。
スランプ明けなので、また話の内容がアレなので誤字脱字はかなり気を使ったつもりですが何か見つけましたらお願いします。
楼閣
http://ameblo.jp/danmaku-banzai
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コメント



0.600簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
冒頭の伏線がパーフェクト
10.100名前が無い程度の能力削除
官能小説の場所入り口付近かよwww
13.100名前が無い程度の能力削除
うん、いい話だった
15.無評価楼閣削除
思い込みって怖い。コメント返事したってずっと思ってました。
ちなみに直前にこのレスを一回消してしまったのは多分罰があたったんだと。

2>
パーフェクトなんて言って頂けるとは!
伏線大好きです。綺麗に張れると変人そのもののように笑います。

10>
入口付近です。何の気なしに手に取って見たらベッドがギシギシいう描写がされてたら帰りたくなるだろう、とぱっちぇさんは考えたのです。……適当な事を言う事に大した定評もない楼閣。

13>
ぎゃふん。
ありがとうございます!


本当に遅くなりすぎました。すみませんでした。
そしてありがとうございました!