願いは果てへ。
祈りは虚空へ。
やがて飽和して、一瞬の塵になる。
だから私は、後ろの彼女へと言葉を放った。
「―――もう疲れたわ」
叶わぬ願いを身に纏ったまま、生きていたくはなかった。
彼女には、悪いことをしたかもしれない。
でもそれも、すぐに終わりになるだろう。
夢を見よう。
長い永い、祈りの夢を。
私は自分の意識をしっかりと掴んで。
―――闇の底へと、放り捨てた。
***
国外で戦争が始まった、と。
道の端にいる少年たちが新聞の号外を配っている。遠目に見ても分かるように、大きな文字で見出しが付いていた。
「ちょっと、御者さん! 一枚貰って下さいな!」
私は帽子の位置を整えながら、馬車を動かしている御者に声をかけた。あいよ、と気前よく返事をした彼は、少しだけ速度を緩め、貧乏そうな身なりの少年から新聞を受け取る。それから、貰ったそれを二回ほど折って小さくし、それから席に座る私へと放り投げた。
私は財布から金を取り出し、新聞を配っていた少年に投げつけて「ご褒美よ!」と叫んでから微笑む。そして、緩んでいたネクタイを軽く気取って締めてみせた。
余りの美貌に惚れてしまったのか、少年は目を白黒させながらしばらくこっちを見つめていた。美貌というのは冗談にして、おそらく大金を貰ったと思ったのだろう。実際のところ、私もお金持ち、というわけではないのだが、とある金持ちの友人が無駄に恵んでくれることがあるのだ。私には必要ないから、このようにして捨ててしまうことが多い。普段は使わない馬車に乗っているのだって、その一環だ。
ふぅ、と一息ついて、私は手の中の新聞に目を落とした……のだが。
「さすがにここじゃあ、読めないわね……」
馬車の中では、活字を読むと酔ってしまう。数度にわたりそれを経験した私は、あの何とも言えない気持ち悪さを二度と経験しないよう、強く心に誓っていたのだった。
どのみち、東京駅に着けば電車を待つ時間があるだろう。その時にでも読めばいい。
―――私のような妖怪にとって、時間というものは人間よりも遥かに多く用意されている。お金はともかくとして、贅沢に生きることが出来るのだ。
実際には、山奥に住んでいるものだって多いし、人が近寄らない場所に住んでいる妖怪なんて星の数ほどいるから、皆が皆贅沢な訳ではない。むしろ贅沢に人間社会で暮らしている妖怪の方が少ない。
私も、元々は―――まぁ今もだが―――貧乏な妖怪なので、昔のように生活していれば、ひっそりと暮らしていたのだろう、と。今思えば、そう考えることが出来る。
しかし、何故そうならなかったのか。
それはすべて、あのスキマ妖怪の所為だ。所為、と言ってしまっては失礼かもしれないが、真摯に「ありがとう」なんて言うのも癪なので、それはそれで良いことにする。
一昔前に京都に行ったときに偶然出会ってしまった私たち。何を勘違いしたのか、そのスキマ妖怪―――八雲紫は、私をひどく気に入ってしまったようで、以後何かとちょっかいを出してきたりしている。そのちょっかいの一環として、恵まれるお金の件も存在しているのだが……。
そして、私は今、彼女に会いに出かけている途中だった。
馬車で機関車のある駅まで行き、そこから京都へ。前回と変わらないプランだが、何時間かかるのかは既に忘れてしまった。
明治二年の東京遷都で江戸が東京に変わって、この町はゆっくりと変わってきている。京都が首都、政治の中心だった頃が懐かしい、と私は感じてしまう。技術は進歩し、人間は次々と高みを目指しているけれど、その内に欲に溺れてしまうのは目に見えている。そうして絶望した人間たちを取って喰ってやろうと、一部の妖怪は息を潜めているらしいが、日々人間に接しながら生きている私に言わせてもらえば、さすがに人間、そこまでは弱く無い。小手先の妖術が通用しなくなる日も近いのではないかと思わせるほどの進歩ぶりだ、という話さえ最近は聞く。確か、鴉が落していった妖怪新聞にはそんな風に書かれていたような気がする。
「……ちょいと! あんた、着いたよ!」
「はいっ!?」
間抜けな叫び声をあげ、私は現実へと引き戻された。眼を開けば、御者がこっちを呆れ顔で見ている。さらに数人の通りすがりたちがくすくすと笑っているのが見えた。
……あぁ、恥ずかしい。
こんなことが紫に知られたら大いに笑われそうで、そんなことを考えたらどんどん顔が熱くなっていった。
慌てて財布から金を引きずり出し、少しだけ地面に落としてしまい通りすがりの少年に持って行かれ、そんなことはお構いなしに私は御者に金を払った。そのまま席から飛び降りて、駅のホームへ向かう。時刻表を確認すれば、発車はすぐということが分かり、私は再び慌てて列車へ飛び込んだ。
……どうやら、新聞を読む時間は無いようだった。
列車は走る。西へ、西へと。
この機関車という列車の仕組み上、窓を開けるということは極力したくは無いのだが、それでも開けたくなってしまうほど、良い天気だった。視界良好、景色最高。遠くの山は緑に染まっていて、流れる川は空の色。こんなに小さな箱から覗いていても良いのか、と思うくらいに広い世界だ。
それだけ広いこの世界で、私は生きている。
人間も、妖怪も、妖精も。幽霊や神様、その他諸々、この世界はすべてを受け入れて、成り立っているはずだった。
実際には、そうではない。
人間以外は忘れられ、御伽の国の存在と言われてしまう。伝説のようにして物語が作られ、それらは、幻想へと成り代わる。一部の人間のみが覚えていて、誰の為でもなく妖怪退治をしているのだ。
それが顕著に現れている町、京都―――。
東京や他の街には、すでに多くの妖怪はいない。
退治するものもいないし、信じるものさえいない。そんなところではいられない、として出て行くものが多数。私のように人間と親しい者、あるいは信じないものを驚かしたいとして住み着く者など位しかいない。
多くの者は、京都へと去っていったのだ。もともと、京都には妖の類が多かったというのもあるけれど。
「紫……、今頃どうしているかしら……」
少し気になったことを口の中でぼそぼそと呟き、私の意識はゆっくりと下降していった。
やがて、眠る。
いくつか乗り換えなければいけないのは知っているけれど、この重い瞼を持ち上げることは出来そうに無かった。
***
京都の町は、すっかり夜色に染まっていた。昼よりも、いくらか力が湧く時間だ。
列車でいくらか乗り過ごしたのが効いたのか、紫のいるところに着く頃には、いかにも妖怪らしい生活をしている彼女も起きていることだろう。久々に会う友人の顔を想像しながら、私は夜の街を急いだ。
場所は、よく分からない。
妖怪退治の専門家である、博麗の巫女の住む神社―――博麗神社。そんな妖怪にとって危険すぎる場所のすぐ近くに住んでいるというのだ。そんなところにいたら巫女が気づかないわけもないし、気づかれたら、大方退治されるだろう。紫なら逃げ切るなり出来るかもしれないが、そこに定住するというのは無理がある。
まぁ、もともと胡散臭い妖怪なので、細かいことは気にしてはいけない。
そういうわけで、私は山を登っていた。緑の深い、美しい山なのだが、夜になるとその印象は一変する。人間にとっては入りたくもない山。妖怪が現れ、得体の知れない巫女が住んでいて、なおかつ闇が深い。何も見えない獣道は、視覚ばかりではなく五感を狂わせる。……と紫が言っていた。
「……で、着いたのは良いんだけど……」
私は神社を前にして、思わずため息をついた。巫女はぐっすりと眠っているだろうから、私のような下級妖怪ならば、妖力を隠さずともばれることはない。紫はしっかりと力を隠すことが出来るし、いざとなれば巫女に対抗できるだけの力を持っているから見つかっても問題はない。
しかし、なんにせよその彼女が現れてくれないというのだから困る。事前に、来ることを知らせていなかったのが仇となったのか、夜の神社は物音一つさえしなかった。
することがなくなってしまったので、私はいつもの癖で空を見上げた。
午後十一時十五分。空に浮かぶ月と星は、私に正確な時間を教えてくれる。そんな、人間を襲うのに何の役にも立たない能力を持って私は生まれてきたのだ。妖怪なのに、身体強化も、驚かすような力も、圧倒的な妖力も持ち合わせてはいない。
いつだったか、紫が「妖怪は人間を襲うために存在する」と言っていた。そうだとするならば、私は何のために生きているのだろう……?
「―――また何か、難しいことでも考えているのかしら?」
真後ろから、聞き覚えのある声がした。
ようやく聞けたその声に安堵しつつ、私は笑顔を無理矢理作って振り返る。
久々の再会。
空間の隙間から上半身だけ姿を現した金髪の友人は、いつもどおりの妖艶な笑みを浮かべて、私を見つめている。
「午後十一時十七分。おはよう、紫」
「久しぶりね、蓮子」
それから、私はいつものように、その隙間の中へと強引に引きずり込まれ、紫の住む屋敷の前に連れて来られていた。初めてのときは死の恐怖を覚えるほど怖い体験だったが、今となっては当たり前の展開。昼間みた景色よりもいくらかぼやけた風景が、目の前には広がっている。
この世界ではない、世界。境界線のちょうど上に存在する世界の屋敷に、私は幾度となく連れて来られていた。
私を気に入ってくれて、からかいの対象にして、それでいて幾度となく世話を焼いてくれる彼女の家。私の好きな、妖怪の家。
和風で、それでいて清の文化がいくらか取り入れられている様式のこの建物は、いったい誰が作ったのだろう? 彼女は式神という部下を使役することが出来るから、彼らを使ったのかもしれない。この家―――この世界は、私には持ち得ないもので溢れている。
「相変わらず広いよね。こんなに使ってないでしょ?」
「もちろん使ってなんかないわよ? ただ、部屋がないのとあるのではどちらが良いか、と考えてみれば部屋のある理由なんてすぐ分かることね」
未だに理解できないのは、紫が私に執着している理由だ。
もちろん、彼女の交友範囲は広いだろうから、これは私の自意識過剰と考えることだって出来る。しかし、一時期の彼女との遭遇率はすごかった。毎日ほぼ百パーセントと考えても良いくらい。さすがの私も、彼女が何か特別な感情を持っているのではないか、と思い始めるようになった。
しかし、私は大したことのない、一介の妖怪。身体能力は人間より高いし、頑丈さも普通の妖怪並みにはある。ただ、それだけ。彼女の言う亡霊の姫、などのように特別な肩書きもなければ、人間百人喰いを成し遂げたという称号なんていうものも持っていない。
文字通り、「何もない」妖怪なのだ。
「ところで、蓮子はどうしてこっちに? 連絡してくれれば、ひょいひょいっと連れてこられたのに」
「機関車に乗りたかったのよ、久々に。貴女から貰ったお金を使う良いチャンスでもあったし、最近は退屈だったからね」
「生活援助のお金を贅沢に使うなんて……。いかにも蓮子らしいわ」
「謙虚なところが?」
「無関心なところが」
「失礼ね。……それはそれとして」私は今日貰った新聞をバッグから取り出し、紫に差し出した。「清とフランスがとうとう戦争を開始したってさ」
「あらら……また荒れるわね……。勝手に争いごとを繰り広げて、国土を汚すのかしらね、また。平和に生きている私たちのことも考えてほしいものよね」
「まぁ、そうかもね」
紫の式が布団を持ってきて、私たちはだらしなくその上に寝転んだ。東京の話や、京都の話……。くだらないことなど、どうでも良い話題で話は盛り上がっていく。そこに酒が追加されると、二人の宴は私が酔いつぶれてしまった、明け方まで続いた。
眠ってしまえば、夢を見る。
夢とは、理想だろうか?
あるいは、一抹の願い?
失ったものを呼び起こすことが、果たして夢と言えるだろうか……?
***
×月×日
数年振りに、蓮子が京都へとやってきた。
相変わらず難しいことを考えていそうだったが、元気そうでなにより。連絡もなしに訪れたものだから、私は何の準備も出来ていなくて……。結局、二人だけの酒宴を開いて、酒に強くない彼女は酔い潰れて寝てしまった。今、私の横で顔を真っ赤にして布団にくるまっている。本当に、妖怪らしくない妖怪だ。
そういえば、清とフランスが戦争をしているらしい。東京から蓮子が新聞を持って来たので、少しだけ見させてもらったが、大したことではなかった。どこの戦争も、戦争であるがゆえに、碌なものは存在しない。もう少し頭の良い争い方が思いつかないものだろうか? 最近の私はそれを考えている。妖怪たちの未来の為に、不利益しか生まない争い事以外で、何かを模索しなくては。
私も酒が回ってきたみたい。蓮子とは明日たっぷり話すとして、今日はもう寝ないと。外はもう、明るくなってきた。
明るくなってきた後には、一般的に朝が来る。
×月△日
今日は蓮子と友人水入らずの状況でゆっくりとした。蓮子が現れると、このように頭の悪い日記くらいしか書けなくなるのが不思議だ。
そういう妖怪なのだろう、蓮子は。
空を見て時空を知る。一見すれば大したことのない能力かもしれないが、よく考えれば、これほど恐ろしい能力は他に存在しない。私のように境界を操るようなことでもしなければ、すべてのものは時空に縛られて生きているからだ。それを知るということは、極端に言えば、その者の存在自体に干渉することが出来る、ということなのだから。
幸か不幸か、蓮子はそれに気づいていない。気づいてしまったらどうなるか、私にも想像できないから伝えるようなことはしないが、彼女にとってもそれで良いのだ。
もっとも人間に近くて、それでも妖怪として生きている蓮子。彼女が妖怪である所以は知らないけれど……彼女はどうしたいのだろう?
それが、気がかりだ。
気になる。
いずれ分かるんじゃない? なんてあの亡霊は言っていたけれど、私は結局、生前の彼女の言いたかったことすら分かっていないというのに。
×月□日
少し出かけていると思ったら、蓮子はボロボロの状態で帰ってきた。服は破けて、あちこちから血が滲んでいる。意識は朦朧としていて、目の焦点は合っていなかった。
聞けば、博麗の巫女にやられたのだという。
うっかり外に出した私が悪かったのかもしれない。
妖怪退治なんて言葉が幻想になった今も、博麗の巫女だけは健在だった。もう誰も妖怪なんて信じない世の中なのに、その目に見えないものを退治するということは、本当に意味がない。
誰の為でもない、妖怪退治。異能の力を持った博麗ですら、人間のように思われてはおらず、数少ない、妖怪の存在を認めるものたちは巫女をも同義として考えている。人間は、科学という宗教に縛られているだけなのだ。枠に当てはまらないものは、見ようともしない。
「大丈夫? 蓮子」
「そうでも、ないわ」
ありきたりな気遣いの言葉をかけ、私は倒れる彼女を抱きとめた。都合数度にわたり、彼女の身体を抱きしめたことはあったが、この時ほど軽く感じたときは一度もない。
もともと一般の妖怪並みの体力しか持ち合わせていない蓮子が、巫女から逃れてこれたのはどうしてだろうか? そもそも、昼間の神社に行くなんて自殺行為に等しい。そんなことをする必要がどこにあるだろう?
蓮子の考えが私の想像もつかないものであるということは、ずいぶん前から分かっている。私も妖怪の中では相当頭の良い者として通じていたが、蓮子は別格だった。今の私の数学的思考については、ほぼすべて彼女に教えて貰ったものと考えて間違いないだろう。
多分、私のはるか上を行く考えをしているのだろうが、彼女の考えなど想像できるはずもない。人間を喰べていれば良いだけの妖怪とは違い、蓮子は思考する妖怪だ。基本的にどうでも良いことを考えているが、まれに危険なことを考え始める。
前に巨大な境界線を引きましょう、と言ってきたのもそれの一つだが、あれの真意は未だに分からない。境界線を引くということは、概念を二分割するということだから、すべてに影響を及ぼす。必死になって止めたらやめてくれたのだが……。
私はぐったりした彼女に境界線を引き、無理矢理起こして博麗の話を聞いた。不満そうな顔をしていたが、次第に回復してきた蓮子はおもむろに、
「私は人間に生まれたかったのよ」
と呟いた。
は? と私は訊いて、首を傾げる。
意味が分からなかった。
表情は、髪の毛に隠れていて見えない。苦笑をしているのか、泣いているのか、あるいは無表情なのか。いつも通りに抑揚のない声だったから、それも想像できなかった。
結局、蓮子の意識はそのまま途絶えてしまい、無表情の寝顔を見つめることしか、私には出来なかった。
何故、ここまで執着してしまうのだろう?
頭が良いから?
可愛いから?
興味本位で?
私らしくない、本当に。
こんな格好悪いことを考えていたら、式にも亡霊にも叱られる。
「あぁもう……、調子狂うわね」
これが、今の私を説明するのに、余りにも適切過ぎる表現だと思う。
×月◇日
回復した蓮子と共に、山を降りた。
途中で幾人もの妖怪が巫女に退治される瞬間を目にする。私たちは可視と不可視の境界を弄った所為で見つかることは無かったが、さすがは博麗の巫女、私たちの方をずっと睨んでいたのを覚えている。蓮子は本当に怯えていた。
街に出てしばらくすると、彼女はまた、
「能力なんていらなかったのに。人間になれれば良かったわ」
と言って肩を竦めてみせた。
相変わらずわけが分からない。どう考えても人間なんかより、妖怪の方が過ごしやすいだろう。長く生きていられるし、出来ることの幅も広がる。
私の考えがおかしいのだろうか?
「何で? どうして蓮子は人間になりたいのよ?」
「何でだと思う?」
「質問に質問で返すのは卑怯よ」
「むぅ。貴女に言われるとなんか癪だわ……」
頬を膨らませて蓮子は抗議するが、私は無視した。
無視したが、どうすれば良いかも分からずに黙っていると、
「でも、まぁ内緒よ。私は自分が好きじゃないけど、紫は私のことを思ってくれているから。理由は余り言いたくないわ」
蓮子はそう、相変わらず抽象的な回答をよこして、整備された歩道に足を踏み入れた。
たったの数百年で、世界はこんなにも変わったのか、と私は嘆息する。別に嬉しくも悲しくもないけれど、感慨深いものがあるのは確かだ。
そのまま私たちは町で買い物などを楽しみ、深夜に家に戻った。夜間以外の活動は、久しぶりで少しだけ新鮮だった。
×月○日
一瞬の出来事だった。
何が起きたかなんて、認識したのは今になってからだ。
蓮子が、死んだ。
否―――彼女は眠りについたのだ。
生きてはいるけれど、起きる意志のない眠りは死と同義……そういったのは他でもない彼女だ。
「紫、もう疲れたわ」
いつも理解できなかった彼女の言葉が、こうも分からなくなったときは今までにない。抽象的過ぎる言葉で、しかし眠る理由にしては十分。疲れたから、眠る。当たり前のことで、当たり前のことなのだけど……。
―――彼女は目覚める気がないのだと、そうはっきりと悟ってしまった。
闇の中で私に背を向けたまま、蓮子は崩れるように倒れた。ぴんと張り詰めた糸が切れるように、眠るという行為が安息を与えてくれるとでも言うかのように。
そして彼女は、私の布団で今も寝ている。
生きている。
死んでいる。
繰り返される思考が私を混乱させるということくらい分かっているのに、それでも何かを考えていないと狂ってしまいそうだった。
あぁ……、どうして? 蓮子?
心の叫びに答えるものはどこにもおらず、式も、みんな、黙っていた。
闇に落ちていった思考は、緩やかに停止して―――
動かなくなった。
最後の思考で、ここに記す。
×××(墨で塗られており、読むことは出来なかった)
***
一年が経ち、とうとう八雲紫は夢の世界へと干渉する。
現れた自身の分身―――マエリベリー・ハーンは、夢の主が眠った理由を事細かに説明した上で、紫を罵倒した。
貴女がいけなかったのだ、と。
蓮子は忘れられるだけの存在であることを拒絶して逃げてきたというのに、貴女は一年間、何もしてこなかった、と。
伝えなかった蓮子も悪い。思考をやめた紫も悪い。そんな喧嘩両成敗で終わらせられるはずもなく、紫は博麗神社へと向かった。
曰く、「世界を一つ創るだけの境界を張るために、協力してほしい」と。
彼女が目覚めたときのため、幻想郷を創りたい。
そんな本音は隠したけれど。
明治十八年。
後に博麗大結界と呼ばれる境界が張られた、始まりの年―――
***
秘封倶楽部は歩いていく。
素晴らしき、幻想の郷を探すため。
人間の姿で、人間として。
夢を彷徨い続けて、堕ちていく。
了
一年くらいなら待つから結末を見てみたい。
二人がどうなるのか気になるぜ
では?
いいなぁこれ実にいい
昔から蓮子には妖怪になってもらいたいと思っていたがこれもなかなかいい
つ……続き!?
もともと、続きが書けないからこのようになってしまったのですが、これはまずい。三人にこう言われてしまったら、書かざるを得ないじゃないですかwww
期待には応えてみたいものです。
書いてみたいと思います。ひとまず今書いているのが終わったら。
>>15さん
誤字修正しました。指摘ありがとうございました。
これだからIMEは困る(と機械の所為にしてみる
上記の理由により続くと思われますので、妖怪蓮子を引き続きお楽しみください
東方には妖怪っぽくない妖怪がたくさん居るし、確かに蓮子の持つ能力は妖怪の闊歩する時代なら妖怪であると皆思うかもしれませんね。
ちょっとだけ出てきた博麗の巫女の存在意義も切なくていい味が出ていました。
文字の多さにも関わらずこの読みやすさ!良作キタコレ!
って思ったら結局それかよっ!あきらめんなよ頑張れよ!
いやマジでお願いしますガチで。完全版を是非。
>>17さん
これは妄想のままに書き綴りました。普段から秘封については考えているので、その中の一つという形ではありますが。
友人と一緒に考えた設定なんですけどね。
>>19さん
読みやすい!? ありがとうございます!
でも結局それだよ! 諦めないよ頑張るよ!
すいません、現在スランプですw そのうち書きます。
続きを期待させるような終わり方はわざとなのかな?
ここから幻想郷は始まるのですね。