「おはよう星。今までご苦労様でした」
爽やかな風が吹き、秋の訪れを感じさせる朝のこと。命蓮寺境内の掃除をしている星に、白蓮がいきなりこう告げた。挨拶を返そうと開けた星の口は「お」の形のまま固まり、そのまま微動だにしなくなった彼女の頭の中を様々な考えが駆け巡る。
聖はいったい何を言おうとしているのだろう。『今まで』ということは、私はもう毘沙門天の代理をしなくてよい、ということを意味しているのか。そもそも、私が毘沙門天の弟子になったのは妖怪達に毘沙門天の信仰を広めるためだ。しかしながら、現在信仰の拠り所となっている命蓮寺は人里のすぐ近くにある。そのため、ここを訪れるのはそのほとんどが人間で、妖怪は再び寺に寄り付かなくなった。つまり、妖怪のための拠り所はもう必要ない、というわけだ。この現状を考えれば、聖が言わんとした事も理解できない事ではない。
ああ、そうか。もう私は毘沙門天の代理にはなれないんだ。私を監視する必要もなくなるのだから、ナズーリンは私の下から去っていくだろう。彼女の事は頼りになる従者程度にしか思っていないつもりだったが、やはり数百年も一緒にいると情が移ってしまうようだ。
溢れる涙を止める術を、星は知らなかった。その場にしゃがみ込み、ただ顔を押さえる事しか出来なかった。
「ど、どうしたの!?」
「うぅ……聖、お役に立てず申し訳ありませんでした……ただ、ナズーリンがいなくなってしまうのが辛くて……」
「ええと……何か物凄い勘違いをしているようですが?」
泣きじゃくる星を宥めながら白蓮は少しずつ彼女の思い違いを確かめていった。しばらくは心配そうに星の背中をさすったりしていたが、彼女の話を聞くうちにその心配は無駄であったと悟ったようで、白蓮は笑顔で星の肩を優しく抱いた。
「あらあら、私の言い方がよくなかったみたいね。星、私は貴女にここでの仕事を続けて欲しいと思っていますよ」
「え?で、でも、私は妖怪のための」
「信仰に妖怪も人間もありません。貴女がこの寺にいてくれて本当に助かっているんですから」
「聖……」
「私はね、貴女に感謝しているんですよ。私が封印され、皆が貴女の傍からいなくなってからも、貴女は一生懸命信仰を集めようと頑張ってくれたでしょう?だから、今日一日くらいは寺の仕事を忘れてゆっくりしたらどうかな、と思ったの」
星はしばらく口をぽかんと開けていたが、やがてうれしそうに笑顔を浮かべて答える。
「な、なんだ、そうだったのですか。私はてっきり、私なんてもう用無しだと言われているのかと……聖がそんな事おっしゃるはずがないですよね」
「もちろんですよ。今日の仕事は私に任せて、貴女はゆっくり羽を伸ばしなさい。そうだ、ナズーリンと買い物でも行ったら?」
「えっ!?あ、あの、私は別に」
「隠さない隠さない、さっきナズーリンと離れるのが嫌で泣いちゃったんでしょう?自分の気持には正直になるべきですよ。さあ、掃除は私に任せて貴女は休みなさい」
そう言うと白蓮は星の持っていた箒を取り、鼻歌を歌いながら境内を掃き始めた。
聖がわざわざこう言ってくれているのだから、今日くらいは厚意に甘えてもいいか。ナズーリンと出かけるなんて初めてだし、いい口実になるし。そう考えて、星はナズーリンの部屋へと向かった。
「ナズーリン!ナズーリン!!」
「はいはい、起きてますよ。なんですか朝早くから騒いで……いったい何かあったんですか?」
星に何度も呼ばれ、ナズーリンは面倒くさそうに襖を開けた。起きたばかりなのだろうか、目を擦りながら主の妙にうれしそうな顔を眺める。
なんでご主人様は朝からこんなにご機嫌なのだろう。それに普段ならこの時間は境内の掃き掃除をしているはずだ。この人は真面目だから、掃除をサボるはずもない。妙にニコニコしているのも気にかかるし、いったいなんなんだ。
ナズーリンがまだ眠そうな顔でそんな事を考えていると、星の様子が少し変わった。それまではうれしそうに笑っていたのだが、急にもじもじしだしたのである。
「ええとですね、ナズーリン、その……もしよかったら、私と……」
「言いかけたのなら最後まで言ってくださいよ。私と、何ですか?」
「わ、私と、おでかけしませんか?」
「……は?」
「実は私、今日はお休みを貰ったんです。だから、今日は貴女の仕事もお休みでしょう?せっかくだから、一緒にお買い物でも行こうかなと思いまして」
「……いいですよ、行きましょう」
「ほ、本当ですか!?」
「偶には息抜きも必要ですから」
本当は、ご主人様と一緒になんて嫌だった。一緒にいたら、今よりももっと彼女を大切に思ってしまうだろうから。
この数百年、私はずっと彼女の傍にいた。毘沙門天の代理を立派に務めている時も、一人ぼっちになって泣いている時も、その悲しみを隠して懸命に信仰を守ろうとしている時も。そうしているうちに、何故だか彼女を放っておけなくなってしまった。悲しそうな顔を見れば慰めてあげたくなるし、うれしそうな顔を見ればこちらもうれしくなってしまう。
しかし、本来私は彼女の監視役に過ぎない。私に許されているのは、彼女を見守ることだけ。それよりも深い関係に踏み込んではいけないのだ。だから、私は彼女とある程度の距離を置こうと努めてきた。
でも、あのうれしそうな眩しい顔を見ると、いつもそんな考えは吹き飛んでしまう。彼女の想いに応えてやりたくなってしまうのだ。今回も、うれしそうに話す彼女に負け、返事をしてしまった。私も甘いな、とは思いつつも、彼女と一緒に出かけることが正直うれしかった。
「じゃあ早速準備してきますね。ちゃんとナズーリンも着替えておいてくださいよ?」
「え、ええ……え!?」
我に返ったナズーリンは、自分が寝間着のまま星と話していたことに気づいた。頬がどんどん赤くなっていくのが自分でもわかる。けれど、鏡に映ったその顔はうれしそうに笑っていた。
二人が身支度を整えて外へ出ると、日はすっかり昇っていた。温かな日差しが境内に満ち、辺りを柔らかく包んでいる。
「では、行ってきますね、聖」
「ええ、気をつけてね。寺のことは私に任せて、楽しんでいらっしゃい」
「はい。それじゃ、行きましょうか」
「あ、星、ちょっと」
「はい?」
「(今日がチャンスよ!)」
「(な、何を言ってるんですか!)」
「ご主人様?」
「な、何でもありません!行きましょうか、ナズーリン」
ナズーリンは主の頬が妙に赤らんでいるのに気づいたが、敢えて何も言わなかった。自分も妙に緊張してそれどころではなかったのだ。
何故か気分が高揚しているから、気を抜くと挙動不審になりかねない。ご主人様に変に思われては困るし、気を引き締めなければ。そう考えて、ナズーリンは唇を噛み締めた。
* * *
人間の里にも、最近百貨店ができた。様々な商品を総合的に取り扱う店は今までなかったというのもあって、里の人間はもちろん珍しいもの好きの妖怪達にも人気であり、連日大盛況だ。
「一度来てみたかったんですよ、このお店!あ、見てくださいナズーリン、あれ!」
「落ち着いてくださいご主人様」
「うわあ、すごいですね!かわいい風船!」
「ああ、あれはバルーンアートと言うらしいですよ」
普段真面目にしている反動なのだろうか、星は子供のようにはしゃいでいた。主のそんな姿にナズーリンは溜息をつきつつも、その笑顔を見ると口元が自然と緩んでしまうのだった。
しかし、あまり浮かれてもいられない。私は彼女に近づきすぎてはいけないのだから、彼女とは一定の距離を保たなければならない。そうしなければ、きっと私は――
ふと我に返ったナズーリンは、隣にいたはずの主の姿が見えない事に気がついた。慌てて周りを見渡すとすぐに彼女は見つかったのだが、なにやら彼女はとある売り場の前で商品を眺めているようだった。やれやれ、というように肩をすくませ、ナズーリンは星に声をかけた。
「気に入ったんですか?」
「え、ええ。でも、私に合うでしょうか……」
彼女がそう言いながら指差したのは小さな装飾のついたペンダントだった。どこかかわいらしいデザインで、おまけに値段もそう張るわけではない。訳ありでもなさそうだし、ご主人様も掘り出し物を見つけたものだ。
「ご主人様が欲しいとお思いなら、買うべきだと思いますが」
「でも……せっかく買っても、つける機会がなさそうです。毘沙門天の代理をしている時にはさすがにつけられませんし……」
星はそう言ったが、どうにも諦めきれずにいるようだ。自分で買わないという結論を導くのに十分な理由を挙げてはいるが、どうしてもそのペンダントの前から離れられそうにない。
やれやれ、本当に世話の焼けるご主人だ。こういう時には、あっちの口調のほうが彼女も喜ぶんだったな。
「君が欲しいなら買うべきだよ。それに、今日みたいにでかける時つけるのは問題ないんじゃないかな」
「そう……ですね。よし、買いましょう!ナズーリン、ありがとうございます」
「いえ、ご主人様が喜んでくださればいいんですよ」
うれしそうに答えた星だったが、ナズーリンが畏まった口調に戻ると少し悲しそうな顔をした。
本当は、いつもの口調のままでいたいと思っていた。でも、それでは距離を置けない。このまま適度な距離を置いて、彼女を支えていければそれでいい。監視役として、彼女を見守っていければそれでいい。今まで何度もそう思ってきたはずなのに、何故か今日は心が落ち着かない。もしかしたら、私はこの距離を縮めたくなってしまうかもしれない。現に、今私は口調を変えたくないと思ってしまった。だから、突き放すことになってしまうとしても、なんとかしてこの距離を守らなければ。
ナズーリンがそう心に決めてからは、楽しいはずの時間がどこかギスギスしたものになってしまった。一緒にいて楽しくないわけではないのだが、どうしても距離を意識してしまい心から楽しむことが出来ない。
いっそのこと、彼女に言ってしまおうか。監視役なんて堅苦しい役目はもうやめにして、ずっと貴女の傍にいたいと。でも、それはできない。ご主人様は私の事を頼りになる従者程度にしか思っていないだろうし、私自身の立場もある。やはり、彼女に近づいてはならない。近づいてこんなに苦しい思いをするのなら、諦めて冷たい関係のままのほうがましだ。
固く拳を握り締めたナズーリンは、それ以来星を見ようとはしなかった。
「なあ、そこの河原で花火大会があるんだって!」
「ほんと!?行こう行こう!」
不意に子供たちのはしゃぐ声が聞こえてきた。どうやら、夏の終わりに里の近くの河原で花火を上げるらしい。すっかり時間を忘れていたが、既に夕方になっていたようだ。
「ナズーリン、行ってみませんか?」
「でも、寺へ帰るのが遅くなってしまいますよ」
「いいんです!聖はゆっくり休めと仰っていましたし、少しくらい遅くなっても大丈夫です!」
「ご、ご主人様がそう言うのなら……」
星の言葉からは彼女の強い意思が感じられた。それに圧されて、ナズーリンは彼女の誘いを断ることが出来なかった。普段からこのくらい強情でもいいのに、などと思いながら、ナズーリンは少し不安そうな顔をする。
普段のご主人様はこんなふうに自分の願望を強く主張したりしない。その彼女がこれほど強く言うという事は、その想いは相当のものだと推測できる。もしかすると、ご主人様も私の事を単なる従者以上の存在としてみてくれているのかもしれない。けれど、所詮私達は代理の様子を監視するという関係で結ばれているに過ぎない。もし彼女が代理役に選ばれなければ、私が監視役に選ばれなければ、二人は出会っていない。二人の間には、絆なんてものはない。そんなことはわかっているのに、ご主人様の気持を推し量ることができた今、夢みたいな事を求めてしまう自分がいる。駄目だと頭ではわかっていても、この気持は心から消えてくれそうにない。
ナズーリンが顔を上げると、星はうれしそうに笑っていた。花火を見に行くなんて初めてだから、楽しみで仕方ないのだろう。その笑顔が眩しくて、ナズーリンは思わず顔を背けた。
二人が河原に着いた頃、辺りは既に暗くなっていた。夏の終わりに、と銘打ってはいるが、最近の夜はもうだいぶ涼しくなってきた。どちらかというと秋の夜といえるだろうが、月に映える花火というのも中々ではないか。夜空に上がる花火はさながら月夜に添えられた華のようで、夏の夜とはまた違った趣が感じられる。
「綺麗ですね」
「ええ」
「……今日は、本当に楽しかったです」
「……はい」
二人とも空を見上げ、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出すように静かに語る。
やがて星は辺りを見回し、近くに誰もいない事を確認した後でナズーリンの手に自分の手を重ねた。
「えっ!?あ、あの、ご主人様?」
「ナズーリン、本当にありがとう。貴女がいなかったら今の私はきっといないでしょう。貴女はいつも私のために」
「やめてくださいよ。私はただ貴女の従者として仕事をこなしていただけです」
「でも、私は貴女を」
「やめてください!」
ナズーリンは星の手を振りほどき、顔を背けた。星はきょとんとしていて、何が起こったのかわからないといった様子だ。
「あの……ナズーリン?なんで」
「私は……私は貴女の監視役に過ぎないんです。貴女が毘沙門天の代理をこなすのをただ見張っているだけの存在。それが私です。だから……だからもう、何も言わないでください。これ以上言われたら私はきっと貴女の傍にいたいと思ってしまう。自分の立場を忘れて、貴女とともに過ごしていたいと思ってしまうでしょう。だから、どうか……」
ナズーリンの頬に一筋の雫が流れる。その儚げな輝きを見て、星は彼女が既に自分の事を大切に思ってくれている事、そして彼女はそれをいけないことだと認識し、その想いを諦めようとしている事を悟った。
暫く続いた沈黙を破り、星が口を開く。
「ナズーリン、監視役がその対象と仲良くしてはいけないと誰が決めました?」
「……だって、親しくなればもしも毘沙門天に報告しなければいけない事態が起こったときに感情移入してしまうかもしれないでしょう?」
「では、私がそんな事をすると思いますか?」
「それは……」
「さっきも言いましたが、私は貴女のおかげで仕事をこなすことができるのです。貴女が見守ってくれるからではなく、実際に支えてくれるから、安心して代理の業務に集中できるのです」
「じゃあ、監視するだけではなく傍にいろ、とでも言うのですか?」
「ええ。もし私が何かまずい事をしたら、大事になる前に貴女が修正してくれればいいのでしょう?」
ナズーリンは何か言い返そうとして口を開けたが、そのまま固まってしまった。
空に咲く華に照らされたその笑顔は今までで一番眩しかったが、何故か顔を背ける気にならなかった。ずっとずっと、その笑顔を守りたいと心から思っていた。
本当にこの人はずるい。どんなに無茶な事を頼まれたって、この笑顔を見せられてはその願いを聞いてあげたくなってしまう。
「……まったく、本当に君は変わらないな。ニコニコして、私なんかよりもずっと卑怯だ」
「ふふ、たとえ卑怯でも貴女と一緒にいられたら本望ですよ」
「ふん。……まあ、これからも宜しく頼むよ、星」
「ええ、よろしくね、ナズーリン」
二人の手は自然と重なっていた。所々で聞こえる虫の音は、秋の夜の静けさを伝えていた。
「ずいぶん遅くなってしまいましたね」
「だから言ったじゃないか。さすがに皆心配しているだろうに」
「あら、おかえりなさい」
夜遅く帰ってきた二人を待っていたのは、いつも以上にふんわりした白蓮と頬の赤い一輪だった。どうやら、夕餉の時に盛大に呑んだらしい。戒律やら何やらはこの際関係ないと騒ぐ命蓮寺の面々が星には容易に想像できた。
「遅くなってすみません、聖」
「いいのよ。うふふ、うまくいったみたいねぇ」
「な、なんの事ですか?」
「隠しても無駄よ、バレバレなんだから。ねえ、姐さん?」
「ば、馬鹿な事を言うな!別に私は、星とは何も」
「あらあら、ついにナズちゃんも星の事を名前で呼ぶようになったのね~」
「え?あっ!」
「後で二人にも教えてあげよっと」
「ところで二人はどこに?姿が見えないようですが」
「ああ、ムラサが悪酔いしてね、ぬえが介抱してるんだよ」
一輪の話によれば、ムラサは暫く静かに呑んでいたが突然杯を持つ手を止めた。ぬえが覗きこむと、ムラサの顔は真っ赤に染まっているではないか。びっくりしてぬえが彼女を部屋に連れて行き、そのまま介抱している、とのことだ。彼女はあまり酒に強いほうではないのだが、久々の宴に気分が高揚してつい呑みすぎてしまったのだろう。白蓮が解放されたお祝いの宴も出来ていなかったし、自制できなかったのも当然か。
「さあ、二人が仲良くなったお祝いに星も呑みなさい」
「はい、いただきます」
「だから別に何も……って駄目だ星、君は一滴でも呑んだら」
ふにゃ、という情けない声とともに星は体を震わせ、その場に倒れそうになった。それを辛うじてナズーリンが支える。
呑む機会が少ないので知らない者がほとんどだが、星は極度の下戸である。ほんの一滴でも口にすると忽ち酔っ払い、その場にしゃがんだり、酷い時にはそのまま寝てしまうのだ。無論星自身もそれはわかっているから偶にある酒の席でも呑もうとしないのだが、やはり誰でも気分が高揚しすぎると普段しないような馬鹿げたことをしでかすものらしい。
「まったく、なんだってこの人は自分の管理も出来ないんだ。白蓮、私は星を寝かせてくる。こっちもちゃんと後片付けしてくれよ?翌朝残っていたら星の手を煩わせることになる」
「はいはい、わかってますよ」
「こよいは おたのしみですね」
「うるさい!」
あらあらうふふと盛り上がっている二人を尻目にナズーリンは星の肩を支えて彼女の部屋へ向かった。
星のにおいがする。そういえば、こんなに近くにいるのは初めてかもしれない。温かくて、なんだか気分が落ち着く。心まで満たされるような感覚は、今まで味わったことがないものだ。ほんとうに、彼女の傍にいられてよかった。
部屋に着くと、ナズーリンは布団を敷き、星を寝かせてやった。しばらく彼女の様子を見た後、ナズーリンは立ち上がる。悪酔いしたわけではないから寝ていれば酔いも醒めるだろうし、自分が介抱する必要もないと考えたからだ。しかし、部屋を出ようとしたその時、不意に星がナズーリンを呼んだ。
「ん……ナズーリン……ナズーリン……」
いつもとは違う、甘えるような撫で声。あんたは猫か、と心の中で小さくつっこみながら、ナズーリンは開けかけていた襖を閉めた。
近寄ってみると、星は静かに寝息を立てていた。どうやら先程のは寝言だったようだ。やれやれと溜息をつきながらナズーリンは星の寝顔を覗き込む。
改めて見ると、本当に綺麗な顔をしている。触れてみたいという欲求を押さえつけながら、彼女は枕元に座り込んだ。
今日は大変な一日だった。結局今日は普段の口調で話してしまったが、明日からどんなふうに接したらいいだろう。まあどちらにせよ、白蓮達にからかわれるのは避けられそうにないが。
どうせ恥ずかしい思いをするなら、心のままに話したほうがいいか。とはいえ、やはり名前で呼ぶのはあまりにも恥ずかしすぎる。呼び方は――そうだ、これでいい。
さて、そろそろ部屋に戻ろうか。ここにいたら理性が負けてしまいそうだ。微笑を浮かべながらナズーリンは星の頬を撫で、彼女の耳元で優しく囁いた。
おやすみ、ご主人。
やれやれ、色々あったがこれで甘い夜もお終いだ。ご主人の傍にいるのも楽じゃないが、このくらいの刺激なら毎日でも歓迎しよう。そんな事を考えながらナズーリンが立ち上がろうとしたとき、不意に後ろから袖をぐいと引っ張られた。思いがけずナズーリンはそのまま布団に倒れ込む。実は星が起きていてふざけたのかとも思ったが、彼女は未だ夢の中のようだ。どうやら寝ぼけてナズーリンを引っ張り倒したらしい。
参ったな。部屋に戻りたいのにこうガッチリと袖を掴まれては動けないじゃないか。仕方ないな、うん。こ、今晩だけは仕方ないよな。そう心の中で何度も繰り返しながら、ナズーリンは星の布団の中に入った。忽ち星の匂いがナズーリンの体を包む。体中が星で満たされていくのを感じながら、ナズーリンは星の寝顔を見つめた。穏やかな寝息を立て、気持良さそうに眠っている。昼間あんなにはしゃいでいたから疲れたのだろう。
しかし、これでは眠れそうにないな。まあ、それもいいか。そういえば、朝起きて自分の布団に私がいたらご主人はどんな反応を見せてくれるだろうか。ふふ、いずれにせよ明日が楽しみだ。一人微笑みを零しながら、ナズーリンは静かに目を閉じた。
モジモジしている星の姿とか可愛かったですし、星を部屋に運んだ場面での
ナズーリンの心情なども面白かったです。
星ナズにゃあほんと参っちまうな
ナズはかわいいなぁ…
ニヤニヤがとまらんww
何か問題が出てきたらすぐさま南無三でひじりんが解決してくれるさw
ニヤニヤしてる俺きめえww
ムラサとぬえの方の話も見たいです、先生
ナズ星が、ジャスティスになりつつあるゼ……