紅魔館。ここには館の主が吸血鬼、その友人の喘息持ちの魔女、吸血鬼に仕える人間のメイド、妖怪の門番その他が暮らす
人妖が跋扈する幻想郷でも異彩を放つ場所であった。そして吸血鬼の友人、図書館の本に埋もれた魔女―――パチュリー・ノーレッジは無表情で読み物に耽っていた。
彼女は生まれながらにしての魔女にして魔法使いである。魔法使いといっても人括りにはできず、様々な分野があり、それぞれに精通している者が居る。
そしてパチュリーは特に属性魔法に長けていた。しかしながら喘息持ちで体調が安定しておらず、更に薬の調合・精製に関しては不得手であったため
肉体増強の調合薬などはさっぱりであった。調合に関しては知識としては理解もできるのだ―――が。
いかんせん薬の元となる素材が幻想郷に存在するかも解らないし、あまり長時間遠出もできない身体のせいで実践はほぼ不可能に近かった。
「・・・ふむ」
今私が読んでいるのは、天狗が発行している漫画である。友人であるレミリア・スカーレット・・・レミィの薦めで読んでみた。
魔法使いの少女が、同じく魔法使いの少女とコンビを組み、強大な敵と戦う最中、恋愛もありという陳腐な内容だ。
初めは読み飛ばそうともしたが、レミィが
『ちゃんと読んだ上で感想よろしく』
などと言うものだから、渋々1ページずつ吟味して読んでいる。正直たかが漫画とは思っていたが、興味深いシーンがあった。
黒幕と思しき敵との戦闘前に、なんと主人公の魔法使いの少女がコンビの魔法使いの少女に告白するというモノだった。
正直同性同士での恋愛などありえないだろうとは思ったが、主人公の少女の台詞に私はどうしても無視できないモノがあった。
~ 幻想永夜翔・君の為に強くなれる ~
・・・魔流沙(まるさ)は白い帽子を目深く被り、赤面している自分を隠すかのように、しかし力強く
『アリサ、私はお前の事が好きなんだ。お前に、恋をしてしまったんだ・・・』
そう、言った。アリサは藁人形をギュっと抱きしめ、口をパクパクとさせていたが、やがて目からは大量の涙を流していた。
『魔流沙・・・。私・・・私も、貴女の事が好き。ずっと、ずっと恋をしていたわ・・・』
『そうか、嬉しいぜ・・・。今の私たちは、恋する乙女だ。恋をする乙女は無敵だぜ!今ならどんな敵が相手でも負けはしない!』
『ええ、いきましょう魔流沙!この戦いが終わったら・・・私たち、結婚しま・・・?!』
アリサの口を魔流沙の指先が閉じた。
『おっと、その先は終わってから言おうぜ?だから・・・今は・・・』
魔流沙は、そう微笑みアリサをそっと抱き寄せる。そして顔を近づけ――――――。
「おえっぷ」
あまりの展開に思考が停止して拒絶反応もでたらしい。幾らなんでも接吻はないでしょうに。
しかし・・・
「恋する乙女、か。・・・眉唾ものね。そんなもので強くなれるだなんて」
私は喘息持ちである。生まれつきの。まあ人も妖怪も得手不得手はある。ならば自分の喘息も弱点の一つとしておけばそれはそれで魅力的であろう
・・・とは思ったものの、やはりつらいものはつらい。
日常生活に支障がでるレベルまでとはいかないが、異変が起きて自分が動かねばならない時に体調不良を起こしてしまっては、悪魔の友人に
「やっぱり日頃から引き篭もってるからそんなんなんだよ」
とか
「えー?パチェが喘息で動けない?じゃあ外の空気吸わせればきっと治るよ!」
とか
「じゃあ美鈴と一緒に門番するってのは?一日じゅう日の光を浴びて美鈴から太極拳?だっけ?を学べばパチェも丈夫になれるんじゃん?」
とか自分を本気で殺しに掛かるに違いない。あの友人は笑顔で無茶ばかり言うから間違いない。ロケット作成の時だってそうだったし。
おっと、思考が反れた。今はこの漫画を一刻も早く読破して、あの吸血鬼の友人に感想を言わねばならない。
なるべく深入りしないように、しかし没頭するように・・・読まなければ。
「パチェー?あの漫画読んだー?」
数日後、深夜のテラスで館の主レミリア・スカーレットは夜の空中散歩を終えて
友人のパチュリー・ノーレッジとメイド長の十六夜咲夜を交えて紅茶を嗜んでいた。
「えぇ、読んだわ。実に興味深い内容だった」
「へぇ~。パチェもあんなの好きなんだ。以外に意外ね」
わざとらしい口調で、レミリアはニヤニヤと笑いながら紅茶を啜る。一方のパチュリーはそんな友人の様子も気にせず、本を読みふけっていた。
パチュリーは空になったカップを見つめ、視線の先を誰も居ない空間についと移す。すぐさまメイド長であり、ほぼこの館の顔でもある十六夜咲夜が姿を現す。
「何をお読みになられているのですか?」
本当は主人と同じく紅茶を注文してくれたほうが手間が掛からず良かったのだが、『今日はコーヒーで』と頼まれてしまった。
まあ、そういう日なのだろうと―――咲夜は珍しい豆を挽いたコーヒーをカップに注ぐ。
「ん、恋愛小説」
「あらまあ。本格的に没頭したのですか、その分野に」
「パチェったら、恋する魔女にでもなる気なのかしらね」
レミリアも咲夜も、冗談めかしてパチュリーをからかう。レミリアが飲み干した紅茶のお代りを催促し、咲夜がティーポッドを傾かせた刹那、
パタム。と、本を閉じた魔女は無表情で。しかし、真剣な目つきで言い放った。
「そうね。今から・・・いえ。あの漫画を読んだ日から、私は恋する魔女になった。恋をする乙女は無敵になれるのよ」
せかいが、とまった。
レミィは口を開けたまま信じられないといった表情で私を見つめ、
一方の咲夜は同じくあいた口がふさがらないようで、更にティーポッドから紅茶を盛大に流している。もったいない。
「あー・・・パチェ?何か変なものでも食べた?それともこれは何かの異変の兆し?」
「恋する・・・乙女・・・ですか・・・」
そしてレミィはこめかみを押さえて、唸り始めた。咲夜に至っては、こちらを見つめてまだ紅茶を垂れ流している。もったいないだろうに・・・。
というか、二人とも失礼である。私そのものは真剣だと言うのにこの態度はないだろう。いや、まだ私の事をからかっているのかもしれない。
ここは一つ、私がいかに真剣かを知らしめてやらないと・・・。
「いい?レミィ。咲夜。仮に何か強大な異変が起こったとしましょう。そしてその解決には貴方たちがいくの」
「う、うん・・・」
「はあ」
「でもその異変を起こした相手には力が及ばない。だとしたら、どうする?」
「そんなの簡単じゃない。ソイツよりもより強大な力を持って屈服させてやればいいわ」
「まあ、どうしても及ばないのであれば神社の巫女に頼りますかねえ」
駄目だ。この二人は解っていない。何も解ってはいない。レミィの言うことは結果論であって過程が省略されている。
強大な力を持った相手により強大な力をもってあたる。これは妥当な線だが、その途中経過が省略されているようでは話にならない。
咲夜も他力本願な時点でお話になっていない。
「・・・二人とも20点よ」
「えー」
「厳しいですわね。ではパチュリー様はどうしたら正解だと?」
「それは至極簡単。しかしとても難題ね」
「もったいぶらずに教えなさいよ。てっとり早く強くなれる方法」
相変わらずせっかちな友人だが、私の次の発言で感動するに違いない。目から鱗という奴だろう。
ついでに咲夜も感動してくれれば猫度を少し上げてもいいかもしれない。
「それは・・・恋をする事よ」
「「・・・へ?」」
「恋よ、恋。恋さえすれば無敵になれるわ。そうね、レミィと咲夜が互いに恋をすれば如何なる異変にだって立ち向かえるわよ。でも恋をするだけじゃ駄目ね。
敵と立ち向かう前、互いに告白しあうの。お互いの気持ちを確認しあう為に」
「こ、こくはく?」
「お、おおおおお嬢様と私が恋で互いに気持ちををを?」
「そうよ。お互いに想い続けていた。つまり相思相愛だった。そして後世でも強く結ばれる事を誓い合うの」
「そ、相思・・・」
「相愛・・・強く結ばれ・・・あふっ」
レミィは壊れたブリキ人形の如く相思相愛という単語を繰り返している。自分の答えを余程気に入ってくれたのだろう。
咲夜に至っては感動の余り鼻血を噴きながら倒れこんでしまった。まったく我ながら完璧である。
「・・・なんか異様に疲れたわ・・・。今日はもう寝る」
「あら、お早い睡眠ね」
「誰のせいよ・・・」
レミィがふら付きながら自室への足を辿る。咲夜は・・・放っておけば目を覚ますか。
私もまだ調べたいことが山ほどあるので、図書館で資料を漁るとしよう。明日には・・・魔法使い同士の繋がりであいつ等に会っておくのも悪くない。
というわけで私はこの漫画、そして様々な恋愛資料本で得た知識を頼りに行動に出ることにした。死なない程度に。
魔法の森。普段は森に入る者をを拒絶するかのように静まり返っていた森は、ここ数日異変の真っ只中であった。
そして今日も今日とて爆音と色鮮やかな弾幕に見舞われている。原因は、普通の魔法使い霧雨 魔理沙と恋する大図書館であった。
「ぜぇはぁ・・・くそっ、いい加減しつこいぜ」
「貴女が観念すればしつこくなくなるわ」
このやりとりもどれ位だろうと、私こと霧雨 魔理沙は異様にテンションの高い(かもしれない)動かない大図書館こと、パチュリー・ノーレッジの
火の弾やら水の弾やら土の槍やら金属の刃物から逃げていた。
数日前、いきなり家に来たかと思えば第一声が
『私に恋をしなさい』
だ。正直開いた口が塞がらなかった。世界が一回転もした。何かの冗談だとも思ったが、ジト目から覗く光の眼差しは本物であったし、
私自身も伊達に『恋』のスペルカードを揃えてるわけではない、恋愛といったものには察しが良い、と思う。
事情を聞いてみればなんの事はない。天狗の漫画に影響されたのだという。どんな恋愛漫画かと見せてもらったが・・・手に負えなかった。
パチュリーが読んだのはよりもよって『百合』という女性同士が恋愛する漫画だった。
しかもあの漫画のモデルは私とアリスだ。ふざけやがって。今度あの天狗にあったら全力でマスタースパークを食らわせてやりたい。とばっちりでもいいから。
そしてパチュリーは始末が悪い事に「恋をすれば強くなれる」ということを実践しようとしている。
私だって人事の恋愛なら応援もしたいしちょっと意地悪もしてみたい。しかしこれは問題だ。問題だらけだ。なんせパチュリーが読んだのは同性愛だ。洒落にならん。
もしアイツの要求を受け入れた日には、漫画に載っていることを実践させられるに違いない。
女同士で接吻とかその先の展開なぞゴメンだ。貞操の危機だ。魔法の森が薔薇一面に咲き誇ってしまう。
私は真っ当に恋愛して真っ当な人生を歩みたい。なのでパチュリーの提案及び要求を断固拒否、逃避することにした。
「逃げても無駄。今日の私は喘息の調子も良い」
「くそ、どうでもいい時に体調が良いなんて贅沢な奴だぜ・・・。それに私はいやだって何度も言ってるだろう!」
「貴女が私に恋をすれば全て丸く収まる事よ」
「全然答えになってない!!」
今のパチュリーにはどんな問答も無理だろう。こっちがどんなに理論的に話したって、帰ってくる言葉は
『そう。なら恋をすればいいのよ』
になる。恋は盲目と言ったものだが、今のアイツは一体誰に恋をしようとしてるんだ。見境がない。知り合った人物全員に告白するつもりか?
それはそれで面白そうだが、被害にあっている私自身はちっとも面白くない。
第一疲れた。これ以上付きまとわれるのは心身共々非常に宜しくない。というわけで、そろそろ他の誰かに押し付けたい気持ちで全力疾走中だ。(飛んでるが)
「ほら、私より恋愛経験のありそうな奴らだっているだろ?そいつらに頼めばいいじゃないか。例えば・・・ええと・・・ええいくそ、こんなときに限って思いつかない!」
「じゃあ貴女が経験豊富になればいいわ。主に私と」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
パチュリーの容赦ない弾幕と口撃に疲弊しきった私は、ついに霊力も枯渇してしまい無様に墜落してしまった。のたのたとふら付きながら立ち上がろうとするも、
いつのまにか目の前に居たパチュリーに組み伏せられてしまった。
積極的すぎるぞこの魔女。あれ?ちょっと薄ら笑い浮かべてないか?本格的に私はピンチなんじゃないのか?
「さあ観念する。大丈夫、本によれば痛いのは最初だけのようだから」
「一体なんの本を読んだんだお前は!!」
「ええと・・・『かぐや姫、従者との愛の果てに』ね。天才的頭脳を持つ従者が何も知らない無垢な姫をあの手この手で自分色に染めr」
「聞いてない、聞いてない!ていうか毒されすぎだ!!もう恋じゃないし!」
「これも一つの恋の形よ」
「うわぁぁぁぁぁ誰かーーー!?」
仏頂面の魔女が目の前いっぱいに迫ってくる。もう駄目だ。誰か助けてくれ。神でも悪魔でも巫女でも妖怪でもいいから。
私は藁にも縋る思いで目を閉じたその瞬間、祈りが通じたのか天の助けが舞い降りた。
「ちょっと、貴女達!人の家の前で何を騒いでるのよ!オマケに森で数日間もドンパチやって!お陰でこちとら睡眠不足なんだか・・・ら・・・」
「「あ」」
ふと周りを見渡せば、人形遣いの家の前だった。必死で逃げて居たんで気が付かなかったぜ。私はアリスに助けを求めようと手を伸ばすが、
当の本人は口をあけたまま固まっている。
おや、体が震えだした。顔もどんどん赤くなっていってる。
「な・・・な・・・な・・・。なにやってるのよあんた達!?ひ、人の家の前で・・・し、しかも女同士で・・・!!」
あー、そうか。アリスから見れば私たちの構図はどう見てもくんずほぐれつ、って奴だな。おお、頭から湯気が噴出した。ちょっと面白い。
・・・って、そんなこと思ってる場合じゃなかった。
「誤解だ、私は何もしてない!ていうか被害者だ!」
「そうね、誤解よ」
「へ・・・?そ、そうなんだ。私はてっきり魔理沙とパチュリーが・・・その・・・危ない道に走ったんじゃないかと・・・」
おお?この魔女と初めて意見が合致した。まあさすがにこんな場面を見られたら気まずいだろう。あとは私から退いてくれれば助かるんだがな。
安堵のため息を出したのもつかの間、パチュリーの次の発言は私の安心をメガフレアさせる代物だった。
「魔理沙は私の事を誤解しているのよ。私は魔理沙に恋をしたいと言っているのに、私の事を受け入れてはくれない。こんなにも真剣なのに」
「あぁぁぁぁぁ誤解まっしぐらーーーー!!」
「や、やややややっぱりそうじゃないのよ!ふ、不潔よ不潔!!」
「だから、魔理沙の誤解を解いて、恋をして、愛し合うの」
「あ、愛し・・・!?!?」
アリスはショックの余りにへたりこんでしまった。意外に繊細なんだなコイツと思いながら、とりあえず私は今の危機的状況を打破するために知恵を振り絞る。
①主人公の私は突如神憑りな霊力を得て、この危機を脱出する。
②霊夢が助けに来てくれる。
③助からない。現実は非情である。
駄目だ。どれも非現実的すぎる。・・・となれば私は横でへたっている、心の友である人形遣いの尊い犠牲を無駄にさせないようにしよう。
「なあ、パチュリー」
「何?」
「アリスは、お前の考えを不潔だと言ってるぞ。これは、正さないといけないんじゃないか?」
「・・・ふむ。確かに恋を否定するのは頂けないわね」
「だろ?となれば、私よりまずアリスに恋をすればいいんじゃないか?そうすればお互いの考えも一緒になって誤解も解けるし一石二鳥だぜ。あと強くなれる」
「正直上手く乗せられてる感じはするけど・・・。まあいいわ。貴女の提案にのってあげる」
私に圧し掛かっていたパチュリーは体を起こすと同時に、アリスに歩み寄る。一方のアリスは「ひっ!?」と体をビクつかせて逃げようとするが、
腰が抜けたらしく動けないようだ。
あまりに哀れな姿に正直申し訳ないとも思ったが、私は一目散に退散するぜ。なんだかこの薄情者とか聞こえる気がするけど、多分幻聴だ。アリス、末永く幸せにな。
「い、いや・・・こないで・・・」
「ことわる」
「ひいっ!?だ、大体おかしいじゃないのよ!お、女同士で恋愛なんて!」
「大丈夫。恋をすればおかしくなくなる」
「答えになってないわよーーーー!!」
その日、魔法の森は人形遣いの絶叫が木霊した。
そして、さらにその数日後・・・。
「うぅむ・・・やっぱり眉唾ものだったわね」
夜の紅魔館内、図書館で本と顔をくっ付けながら私は唸っていた。あれから殆どの知り合いに声をかけて恋沙汰の話を持ちかけたが、全て断られてしまった。
埒があかないので強硬手段も取ったが、上手くはいかなかった。まあ当然といえば当然だが。
初めからこの話や実験が成功するとは思っていない。なのに何故実行したというと―――やはり、私が魔法使いである故の探究心からだろう。
私とて本の知識が全て真実とは思っていない。結局は己自身で体験しなければ解り得ないのだ。本から吸収した知識で『ああなるほど』と理解できても、
実感は沸かない。それでは駄目なのだ。
どんなに愚かしい内容であれ、私自身が納得しないといけない。今回は偶々それが恋愛話であっただけなのだ。
人間が普通に恋愛をするように妖怪であっても恋愛はするだろう。
この幻想郷には人間と妖怪、そしてそのハーフだっている。ならば―――私がいつか誰かに恋をしても何もおかしくはないのだ。まあ同性は勘弁だが。
それに、ここのところ異変らしい異変も起きては居ないし、退屈だった。ので・・・異変とは呼べないまでも、ちょっとした騒動ぐらいなら起こしてもいいだろう。
私が動き回り、館に戻って数日・・・そろそろほとぼりが冷めた頃だろうし、まだ見ぬ知識との出会いを求めて本をあさってゆっくりと―――
ドカン、と図書館に響く轟音と煙。
何事かと目を凝らした先には・・・
「み、見つけたわよ・・・パチュリー・・・。わた、私にあんな事までしておいて綺麗にオチをつけるだなんて許さないんだから・・・」
薄ら笑いを浮かべた人形遣い、
「うふ、うふ、うふふふふふふ・・・あ、アリスが・・・うふ・・・霊夢も・・・可愛かったぜ・・・うふふ・・・」
顔を蒸気させて壊れた人形のような白黒の魔法使い、
「アンタのせいで大異変よ!!ないて謝っても許してやらないからね!!」
顔にキスマークだらけでお払い棒を景気良く二つも装備した紅白の巫女、
「あなたの間違った知識で・・・私は・・・私は・・・幽々子様に・・・ぐすん・・・もうお嫁にいけません・・・!」
涙目で赤面しながらこちらをにらむ半人半霊の庭師、
「スクープ、スクープですよ!!なんとあの紅魔館の魔女が百合に目覚めて幻想郷中の可憐な乙女達をむしゃぶりつくしたという!!これは大事件です!!!」
そして煩い天狗がいた。
私はこの先起こるであろう展開を容易に予測しつつ、次はもっとうまくやろう―――。と、誓うのであった。
おわり
人妖が跋扈する幻想郷でも異彩を放つ場所であった。そして吸血鬼の友人、図書館の本に埋もれた魔女―――パチュリー・ノーレッジは無表情で読み物に耽っていた。
彼女は生まれながらにしての魔女にして魔法使いである。魔法使いといっても人括りにはできず、様々な分野があり、それぞれに精通している者が居る。
そしてパチュリーは特に属性魔法に長けていた。しかしながら喘息持ちで体調が安定しておらず、更に薬の調合・精製に関しては不得手であったため
肉体増強の調合薬などはさっぱりであった。調合に関しては知識としては理解もできるのだ―――が。
いかんせん薬の元となる素材が幻想郷に存在するかも解らないし、あまり長時間遠出もできない身体のせいで実践はほぼ不可能に近かった。
「・・・ふむ」
今私が読んでいるのは、天狗が発行している漫画である。友人であるレミリア・スカーレット・・・レミィの薦めで読んでみた。
魔法使いの少女が、同じく魔法使いの少女とコンビを組み、強大な敵と戦う最中、恋愛もありという陳腐な内容だ。
初めは読み飛ばそうともしたが、レミィが
『ちゃんと読んだ上で感想よろしく』
などと言うものだから、渋々1ページずつ吟味して読んでいる。正直たかが漫画とは思っていたが、興味深いシーンがあった。
黒幕と思しき敵との戦闘前に、なんと主人公の魔法使いの少女がコンビの魔法使いの少女に告白するというモノだった。
正直同性同士での恋愛などありえないだろうとは思ったが、主人公の少女の台詞に私はどうしても無視できないモノがあった。
~ 幻想永夜翔・君の為に強くなれる ~
・・・魔流沙(まるさ)は白い帽子を目深く被り、赤面している自分を隠すかのように、しかし力強く
『アリサ、私はお前の事が好きなんだ。お前に、恋をしてしまったんだ・・・』
そう、言った。アリサは藁人形をギュっと抱きしめ、口をパクパクとさせていたが、やがて目からは大量の涙を流していた。
『魔流沙・・・。私・・・私も、貴女の事が好き。ずっと、ずっと恋をしていたわ・・・』
『そうか、嬉しいぜ・・・。今の私たちは、恋する乙女だ。恋をする乙女は無敵だぜ!今ならどんな敵が相手でも負けはしない!』
『ええ、いきましょう魔流沙!この戦いが終わったら・・・私たち、結婚しま・・・?!』
アリサの口を魔流沙の指先が閉じた。
『おっと、その先は終わってから言おうぜ?だから・・・今は・・・』
魔流沙は、そう微笑みアリサをそっと抱き寄せる。そして顔を近づけ――――――。
「おえっぷ」
あまりの展開に思考が停止して拒絶反応もでたらしい。幾らなんでも接吻はないでしょうに。
しかし・・・
「恋する乙女、か。・・・眉唾ものね。そんなもので強くなれるだなんて」
私は喘息持ちである。生まれつきの。まあ人も妖怪も得手不得手はある。ならば自分の喘息も弱点の一つとしておけばそれはそれで魅力的であろう
・・・とは思ったものの、やはりつらいものはつらい。
日常生活に支障がでるレベルまでとはいかないが、異変が起きて自分が動かねばならない時に体調不良を起こしてしまっては、悪魔の友人に
「やっぱり日頃から引き篭もってるからそんなんなんだよ」
とか
「えー?パチェが喘息で動けない?じゃあ外の空気吸わせればきっと治るよ!」
とか
「じゃあ美鈴と一緒に門番するってのは?一日じゅう日の光を浴びて美鈴から太極拳?だっけ?を学べばパチェも丈夫になれるんじゃん?」
とか自分を本気で殺しに掛かるに違いない。あの友人は笑顔で無茶ばかり言うから間違いない。ロケット作成の時だってそうだったし。
おっと、思考が反れた。今はこの漫画を一刻も早く読破して、あの吸血鬼の友人に感想を言わねばならない。
なるべく深入りしないように、しかし没頭するように・・・読まなければ。
「パチェー?あの漫画読んだー?」
数日後、深夜のテラスで館の主レミリア・スカーレットは夜の空中散歩を終えて
友人のパチュリー・ノーレッジとメイド長の十六夜咲夜を交えて紅茶を嗜んでいた。
「えぇ、読んだわ。実に興味深い内容だった」
「へぇ~。パチェもあんなの好きなんだ。以外に意外ね」
わざとらしい口調で、レミリアはニヤニヤと笑いながら紅茶を啜る。一方のパチュリーはそんな友人の様子も気にせず、本を読みふけっていた。
パチュリーは空になったカップを見つめ、視線の先を誰も居ない空間についと移す。すぐさまメイド長であり、ほぼこの館の顔でもある十六夜咲夜が姿を現す。
「何をお読みになられているのですか?」
本当は主人と同じく紅茶を注文してくれたほうが手間が掛からず良かったのだが、『今日はコーヒーで』と頼まれてしまった。
まあ、そういう日なのだろうと―――咲夜は珍しい豆を挽いたコーヒーをカップに注ぐ。
「ん、恋愛小説」
「あらまあ。本格的に没頭したのですか、その分野に」
「パチェったら、恋する魔女にでもなる気なのかしらね」
レミリアも咲夜も、冗談めかしてパチュリーをからかう。レミリアが飲み干した紅茶のお代りを催促し、咲夜がティーポッドを傾かせた刹那、
パタム。と、本を閉じた魔女は無表情で。しかし、真剣な目つきで言い放った。
「そうね。今から・・・いえ。あの漫画を読んだ日から、私は恋する魔女になった。恋をする乙女は無敵になれるのよ」
せかいが、とまった。
レミィは口を開けたまま信じられないといった表情で私を見つめ、
一方の咲夜は同じくあいた口がふさがらないようで、更にティーポッドから紅茶を盛大に流している。もったいない。
「あー・・・パチェ?何か変なものでも食べた?それともこれは何かの異変の兆し?」
「恋する・・・乙女・・・ですか・・・」
そしてレミィはこめかみを押さえて、唸り始めた。咲夜に至っては、こちらを見つめてまだ紅茶を垂れ流している。もったいないだろうに・・・。
というか、二人とも失礼である。私そのものは真剣だと言うのにこの態度はないだろう。いや、まだ私の事をからかっているのかもしれない。
ここは一つ、私がいかに真剣かを知らしめてやらないと・・・。
「いい?レミィ。咲夜。仮に何か強大な異変が起こったとしましょう。そしてその解決には貴方たちがいくの」
「う、うん・・・」
「はあ」
「でもその異変を起こした相手には力が及ばない。だとしたら、どうする?」
「そんなの簡単じゃない。ソイツよりもより強大な力を持って屈服させてやればいいわ」
「まあ、どうしても及ばないのであれば神社の巫女に頼りますかねえ」
駄目だ。この二人は解っていない。何も解ってはいない。レミィの言うことは結果論であって過程が省略されている。
強大な力を持った相手により強大な力をもってあたる。これは妥当な線だが、その途中経過が省略されているようでは話にならない。
咲夜も他力本願な時点でお話になっていない。
「・・・二人とも20点よ」
「えー」
「厳しいですわね。ではパチュリー様はどうしたら正解だと?」
「それは至極簡単。しかしとても難題ね」
「もったいぶらずに教えなさいよ。てっとり早く強くなれる方法」
相変わらずせっかちな友人だが、私の次の発言で感動するに違いない。目から鱗という奴だろう。
ついでに咲夜も感動してくれれば猫度を少し上げてもいいかもしれない。
「それは・・・恋をする事よ」
「「・・・へ?」」
「恋よ、恋。恋さえすれば無敵になれるわ。そうね、レミィと咲夜が互いに恋をすれば如何なる異変にだって立ち向かえるわよ。でも恋をするだけじゃ駄目ね。
敵と立ち向かう前、互いに告白しあうの。お互いの気持ちを確認しあう為に」
「こ、こくはく?」
「お、おおおおお嬢様と私が恋で互いに気持ちををを?」
「そうよ。お互いに想い続けていた。つまり相思相愛だった。そして後世でも強く結ばれる事を誓い合うの」
「そ、相思・・・」
「相愛・・・強く結ばれ・・・あふっ」
レミィは壊れたブリキ人形の如く相思相愛という単語を繰り返している。自分の答えを余程気に入ってくれたのだろう。
咲夜に至っては感動の余り鼻血を噴きながら倒れこんでしまった。まったく我ながら完璧である。
「・・・なんか異様に疲れたわ・・・。今日はもう寝る」
「あら、お早い睡眠ね」
「誰のせいよ・・・」
レミィがふら付きながら自室への足を辿る。咲夜は・・・放っておけば目を覚ますか。
私もまだ調べたいことが山ほどあるので、図書館で資料を漁るとしよう。明日には・・・魔法使い同士の繋がりであいつ等に会っておくのも悪くない。
というわけで私はこの漫画、そして様々な恋愛資料本で得た知識を頼りに行動に出ることにした。死なない程度に。
魔法の森。普段は森に入る者をを拒絶するかのように静まり返っていた森は、ここ数日異変の真っ只中であった。
そして今日も今日とて爆音と色鮮やかな弾幕に見舞われている。原因は、普通の魔法使い霧雨 魔理沙と恋する大図書館であった。
「ぜぇはぁ・・・くそっ、いい加減しつこいぜ」
「貴女が観念すればしつこくなくなるわ」
このやりとりもどれ位だろうと、私こと霧雨 魔理沙は異様にテンションの高い(かもしれない)動かない大図書館こと、パチュリー・ノーレッジの
火の弾やら水の弾やら土の槍やら金属の刃物から逃げていた。
数日前、いきなり家に来たかと思えば第一声が
『私に恋をしなさい』
だ。正直開いた口が塞がらなかった。世界が一回転もした。何かの冗談だとも思ったが、ジト目から覗く光の眼差しは本物であったし、
私自身も伊達に『恋』のスペルカードを揃えてるわけではない、恋愛といったものには察しが良い、と思う。
事情を聞いてみればなんの事はない。天狗の漫画に影響されたのだという。どんな恋愛漫画かと見せてもらったが・・・手に負えなかった。
パチュリーが読んだのはよりもよって『百合』という女性同士が恋愛する漫画だった。
しかもあの漫画のモデルは私とアリスだ。ふざけやがって。今度あの天狗にあったら全力でマスタースパークを食らわせてやりたい。とばっちりでもいいから。
そしてパチュリーは始末が悪い事に「恋をすれば強くなれる」ということを実践しようとしている。
私だって人事の恋愛なら応援もしたいしちょっと意地悪もしてみたい。しかしこれは問題だ。問題だらけだ。なんせパチュリーが読んだのは同性愛だ。洒落にならん。
もしアイツの要求を受け入れた日には、漫画に載っていることを実践させられるに違いない。
女同士で接吻とかその先の展開なぞゴメンだ。貞操の危機だ。魔法の森が薔薇一面に咲き誇ってしまう。
私は真っ当に恋愛して真っ当な人生を歩みたい。なのでパチュリーの提案及び要求を断固拒否、逃避することにした。
「逃げても無駄。今日の私は喘息の調子も良い」
「くそ、どうでもいい時に体調が良いなんて贅沢な奴だぜ・・・。それに私はいやだって何度も言ってるだろう!」
「貴女が私に恋をすれば全て丸く収まる事よ」
「全然答えになってない!!」
今のパチュリーにはどんな問答も無理だろう。こっちがどんなに理論的に話したって、帰ってくる言葉は
『そう。なら恋をすればいいのよ』
になる。恋は盲目と言ったものだが、今のアイツは一体誰に恋をしようとしてるんだ。見境がない。知り合った人物全員に告白するつもりか?
それはそれで面白そうだが、被害にあっている私自身はちっとも面白くない。
第一疲れた。これ以上付きまとわれるのは心身共々非常に宜しくない。というわけで、そろそろ他の誰かに押し付けたい気持ちで全力疾走中だ。(飛んでるが)
「ほら、私より恋愛経験のありそうな奴らだっているだろ?そいつらに頼めばいいじゃないか。例えば・・・ええと・・・ええいくそ、こんなときに限って思いつかない!」
「じゃあ貴女が経験豊富になればいいわ。主に私と」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
パチュリーの容赦ない弾幕と口撃に疲弊しきった私は、ついに霊力も枯渇してしまい無様に墜落してしまった。のたのたとふら付きながら立ち上がろうとするも、
いつのまにか目の前に居たパチュリーに組み伏せられてしまった。
積極的すぎるぞこの魔女。あれ?ちょっと薄ら笑い浮かべてないか?本格的に私はピンチなんじゃないのか?
「さあ観念する。大丈夫、本によれば痛いのは最初だけのようだから」
「一体なんの本を読んだんだお前は!!」
「ええと・・・『かぐや姫、従者との愛の果てに』ね。天才的頭脳を持つ従者が何も知らない無垢な姫をあの手この手で自分色に染めr」
「聞いてない、聞いてない!ていうか毒されすぎだ!!もう恋じゃないし!」
「これも一つの恋の形よ」
「うわぁぁぁぁぁ誰かーーー!?」
仏頂面の魔女が目の前いっぱいに迫ってくる。もう駄目だ。誰か助けてくれ。神でも悪魔でも巫女でも妖怪でもいいから。
私は藁にも縋る思いで目を閉じたその瞬間、祈りが通じたのか天の助けが舞い降りた。
「ちょっと、貴女達!人の家の前で何を騒いでるのよ!オマケに森で数日間もドンパチやって!お陰でこちとら睡眠不足なんだか・・・ら・・・」
「「あ」」
ふと周りを見渡せば、人形遣いの家の前だった。必死で逃げて居たんで気が付かなかったぜ。私はアリスに助けを求めようと手を伸ばすが、
当の本人は口をあけたまま固まっている。
おや、体が震えだした。顔もどんどん赤くなっていってる。
「な・・・な・・・な・・・。なにやってるのよあんた達!?ひ、人の家の前で・・・し、しかも女同士で・・・!!」
あー、そうか。アリスから見れば私たちの構図はどう見てもくんずほぐれつ、って奴だな。おお、頭から湯気が噴出した。ちょっと面白い。
・・・って、そんなこと思ってる場合じゃなかった。
「誤解だ、私は何もしてない!ていうか被害者だ!」
「そうね、誤解よ」
「へ・・・?そ、そうなんだ。私はてっきり魔理沙とパチュリーが・・・その・・・危ない道に走ったんじゃないかと・・・」
おお?この魔女と初めて意見が合致した。まあさすがにこんな場面を見られたら気まずいだろう。あとは私から退いてくれれば助かるんだがな。
安堵のため息を出したのもつかの間、パチュリーの次の発言は私の安心をメガフレアさせる代物だった。
「魔理沙は私の事を誤解しているのよ。私は魔理沙に恋をしたいと言っているのに、私の事を受け入れてはくれない。こんなにも真剣なのに」
「あぁぁぁぁぁ誤解まっしぐらーーーー!!」
「や、やややややっぱりそうじゃないのよ!ふ、不潔よ不潔!!」
「だから、魔理沙の誤解を解いて、恋をして、愛し合うの」
「あ、愛し・・・!?!?」
アリスはショックの余りにへたりこんでしまった。意外に繊細なんだなコイツと思いながら、とりあえず私は今の危機的状況を打破するために知恵を振り絞る。
①主人公の私は突如神憑りな霊力を得て、この危機を脱出する。
②霊夢が助けに来てくれる。
③助からない。現実は非情である。
駄目だ。どれも非現実的すぎる。・・・となれば私は横でへたっている、心の友である人形遣いの尊い犠牲を無駄にさせないようにしよう。
「なあ、パチュリー」
「何?」
「アリスは、お前の考えを不潔だと言ってるぞ。これは、正さないといけないんじゃないか?」
「・・・ふむ。確かに恋を否定するのは頂けないわね」
「だろ?となれば、私よりまずアリスに恋をすればいいんじゃないか?そうすればお互いの考えも一緒になって誤解も解けるし一石二鳥だぜ。あと強くなれる」
「正直上手く乗せられてる感じはするけど・・・。まあいいわ。貴女の提案にのってあげる」
私に圧し掛かっていたパチュリーは体を起こすと同時に、アリスに歩み寄る。一方のアリスは「ひっ!?」と体をビクつかせて逃げようとするが、
腰が抜けたらしく動けないようだ。
あまりに哀れな姿に正直申し訳ないとも思ったが、私は一目散に退散するぜ。なんだかこの薄情者とか聞こえる気がするけど、多分幻聴だ。アリス、末永く幸せにな。
「い、いや・・・こないで・・・」
「ことわる」
「ひいっ!?だ、大体おかしいじゃないのよ!お、女同士で恋愛なんて!」
「大丈夫。恋をすればおかしくなくなる」
「答えになってないわよーーーー!!」
その日、魔法の森は人形遣いの絶叫が木霊した。
そして、さらにその数日後・・・。
「うぅむ・・・やっぱり眉唾ものだったわね」
夜の紅魔館内、図書館で本と顔をくっ付けながら私は唸っていた。あれから殆どの知り合いに声をかけて恋沙汰の話を持ちかけたが、全て断られてしまった。
埒があかないので強硬手段も取ったが、上手くはいかなかった。まあ当然といえば当然だが。
初めからこの話や実験が成功するとは思っていない。なのに何故実行したというと―――やはり、私が魔法使いである故の探究心からだろう。
私とて本の知識が全て真実とは思っていない。結局は己自身で体験しなければ解り得ないのだ。本から吸収した知識で『ああなるほど』と理解できても、
実感は沸かない。それでは駄目なのだ。
どんなに愚かしい内容であれ、私自身が納得しないといけない。今回は偶々それが恋愛話であっただけなのだ。
人間が普通に恋愛をするように妖怪であっても恋愛はするだろう。
この幻想郷には人間と妖怪、そしてそのハーフだっている。ならば―――私がいつか誰かに恋をしても何もおかしくはないのだ。まあ同性は勘弁だが。
それに、ここのところ異変らしい異変も起きては居ないし、退屈だった。ので・・・異変とは呼べないまでも、ちょっとした騒動ぐらいなら起こしてもいいだろう。
私が動き回り、館に戻って数日・・・そろそろほとぼりが冷めた頃だろうし、まだ見ぬ知識との出会いを求めて本をあさってゆっくりと―――
ドカン、と図書館に響く轟音と煙。
何事かと目を凝らした先には・・・
「み、見つけたわよ・・・パチュリー・・・。わた、私にあんな事までしておいて綺麗にオチをつけるだなんて許さないんだから・・・」
薄ら笑いを浮かべた人形遣い、
「うふ、うふ、うふふふふふふ・・・あ、アリスが・・・うふ・・・霊夢も・・・可愛かったぜ・・・うふふ・・・」
顔を蒸気させて壊れた人形のような白黒の魔法使い、
「アンタのせいで大異変よ!!ないて謝っても許してやらないからね!!」
顔にキスマークだらけでお払い棒を景気良く二つも装備した紅白の巫女、
「あなたの間違った知識で・・・私は・・・私は・・・幽々子様に・・・ぐすん・・・もうお嫁にいけません・・・!」
涙目で赤面しながらこちらをにらむ半人半霊の庭師、
「スクープ、スクープですよ!!なんとあの紅魔館の魔女が百合に目覚めて幻想郷中の可憐な乙女達をむしゃぶりつくしたという!!これは大事件です!!!」
そして煩い天狗がいた。
私はこの先起こるであろう展開を容易に予測しつつ、次はもっとうまくやろう―――。と、誓うのであった。
おわり