Coolier - 新生・東方創想話

最後に思う事

2009/09/15 00:01:09
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地霊殿の一室でさとりは一匹の犬と一緒にいた。
彼女等の周りには様々な玩具が散乱していて、今まで遊んでいたのだろうと解る。

犬はさとりに寄り添うように身を寄せてじっと伏せている。

犬は茶色い毛並みの美しい老犬だった。

いや、だったのだろうが正しい。
よく見れば毛並みはブラッシングされて整えられているが
所々ボサボサになり色あせている箇所が見受けられる。

そんな老犬の背をさとりは撫でていた。
頭から背中にかけてボサボサになっていまった箇所の毛を手で梳く様に優しく撫でている。

そんなさとりの手の感触を楽しむ様に犬は目を閉じさとりの手の動きに身を任せていた。





――





「……気持ちいいですか?」

さとり様の優しい声に僕は答えた。

『気持ちいいです』

でも、これは心の声、もう声を出すのがおっくうになってしまったから
多分それは終りが近いからだと思う。

「そうですか、よかった」

『さとり様?』

「はい、何ですか?」

『頭をもっと撫でてください』

「解りました」

言われたとおりにさとり様は僕の頭を撫でてくれた。
それがくすぐったくて、気持ちよくって嬉しかった。
そんな僕の様子を見てさとり様は微笑んだ。
僕はさとり様の笑顔が好きだから笑顔が見れてもっと嬉しくなった。

『あの、さとり様?』

「何ですか?」

『明日も遊んでくれますか?』

今日はさとり様と沢山遊べて楽しかった、だから明日も一緒に遊びたかった。
できればその次の日もまたその次の日も、他の皆には悪いけどさとり様とずっと一緒にいたかった。
でも、

「……ええ、勿論です」

さとり様の返事は何だか歯切れが悪かった。
当然と言えば当然だろう。
地霊殿には僕以外のペットも大勢いて、皆さとり様が大好きなんだ。
僕はその事を知っている。
お燐ちゃんやお空ちゃんはさっき、さとり様と遊ぶ僕を羨ましそうに見つめていた。
皆のさとり様を独り占めしているのは皆に悪い気がした。
でも、やっぱり明日も遊んでほしいからもう一度聞いた。

『お燐ちゃんやお空ちゃんがいても僕と遊んでくれますか?僕と一緒にいてくれますか?』

「ええ、いいですよ…、それにしても」

『?』

呆れた様にさとり様は一度言葉を切り、クスクスと笑う。

「貴方のその甘え癖は年を取っても直ってないのですね?」

あまりにも愉快そうに言うから僕は何だか恥かしくなってその言葉に思わず反論した。

『そんな事ないですよ!』

でも、さとり様はそんな僕の言葉を聞いても顔をニヤニヤと歪めて言う。

「そうですか?でも確かに最初の頃と比べたら多少は直っているかもしれませんね?
初めて此処に来た時なんて一人は怖いと言って夜になると私の布団に潜り込んできましたからね?」

『……そんな昔の事なんて忘れましたよ』

嘘だ、本当は覚えている。
でも恥かしいからずっと忘れ様としていた事だ。

「そうですか、でも私は覚えていますよ?家族が増える度に此処も賑やかになりましたから
ですから、貴方が来た時の日の事も私はよく覚えてますよ」

『本当ですか?』

「ええ、本当です、何なら貴方が行った悪戯の数々を順に言っていきましょうか?」

『いいですよ』

「そうですか、それは残念」

そんな事心にも思わずさとり様は嘯く。
さとり様はいつもは優しいけど、たまに意地悪をする。
そんな時はちょっとだけ、ほんのちょっとだけだけどさとり様が嫌いになる。

『さとり様は意地悪です』

「あらそうでしょうか?」

『意地悪ですよ、僕だって忘れている事を言うつもりでしょう?』

きっとさとり様は自分が忘れている、小さな時の悪戯の事も愉快そうに語るに違いない。
現に僕の忘れていた事を愉快そうに言うし、何よりサトリの妖怪とはそいうものだと
一緒にいる事でもう学んでいる。

でも、僕は、僕達はそんなさとり様が一番大好きだ。
だから嫌だなと思ってもすぐにそんな事考えなくなる。

『ん、フワァ』

突然欠伸が出た。
何だかいきなり凄く疲れた。

「眠いですか?」

『ん、はい、何だかいきなり眠くなっちゃいました』

「……今日は沢山遊びましたからね、きっと疲れてしまったのでしょう
お昼寝しましょうか?」

『ん、そうします……』

「では、シーツを持ってきますね」

『あ、さとり様』

シーツを取りに行こうと部屋を出ようとするさとり様に僕は声をかける。

「はい?」

『あの、一緒に寝てもらってもいいですか?』

「あら?今日は随分と甘えん坊なのね?」

やっぱりと言うか何と言うか、さとり様はニヤニヤと笑う。
何だか凄く恥かしい、恥かしいけど

『う……、き、今日は特別です、今日は何だかこのまま寝たらもうさとり様に会えない気がして
怖いんです』

根拠のない何だか、漠然とした不安だった。
今このまま寝てしまうともうずっとさとり様に合えなくなる気がして怖かった。
怖かったから、一緒に寝てほしかった。
すこしでもさとり様を近くに感じていたかった。

「……そんな事ないですよ、目が覚めたらまた遊びましょう、今シーツを持ってきますから
待っていてくださいね?」

部屋を出ようとするさとり様が何だか泣いている様に見えて思わず

『さとり様!』

と僕は叫んだ。

「?」

さとり様はキョトンとした顔で僕を見ている。
いきなりどうしたの?と表情で言っている。

「どうしたんですか?突然?」

『え?あれ?僕もよくわかりません、でも何だか言いたくなりました』

「そうですか?何かあった訳ではないんですね?」

『えっと、その…』

「……?」

自分でも解らない、僕はどうして叫んだのだろう?
でも、このまま何も言わなければさとり様を困らせてしまうから僕は咄嗟に思いついた事を
さとり様に聞いた。

『あの、さとり様は僕を、僕達の事が好きですか?』

咄嗟に思いついた言葉だったが、もしかしたらコレを聞きたかったのかもしれないと思った。

「当たり前じゃないですか、私も貴方達が大好きですよ、きっと貴方達以上にね」

言ってさとり様は笑顔になった。
さっき見えた泣きそうな顔は気のせいだったのだと思う様な笑顔。
その笑顔と言葉を聞けて僕は嬉しくなった。
何だかずっと遠くに行ってしまいそうに感じたさとり様を近くに感じる事が出来た。

『お休みなさい、さとり様』

「ええ、お休みなさい」

扉が静かに閉められた。
さとり様がシーツを持ってくるまで待っていようと思ったけど瞼が重くて
僕の意識はすぐに闇に落ちていった。



――



シーツを持ってくると彼はもう目を瞑っていた。
身体に触れると少し冷たくなっていた。
そんな彼にそっとシーツを被せて自分も横に寝る。

そして頭を優しく撫でてやる。

彼は遊んでいる最中ずっと私を笑わせようとしていた。
私の笑顔が大好きだから見たいと思っていた。

だから笑顔で見送ってあげようと思っていたのに上手く笑う事が出来ない。

必死に笑おうとしても何だか顔が歪んでしまう。
歪に彼の最も望まない顔を作ろうとしてしまう。
上手く笑う事が出来ない。

声を出そうとすれば声が震えてしまう。

ああ、駄目だ、堪えられない。

彼にはいっぱい嬉しいを貰ったのに私は彼に彼の望む嬉しいを返してやる事が出来ない。
沢山、『大好き』と言ってくれた彼に私は笑顔を返してやれない。
だからせめて彼の冷たくなり始めた身体を抱きしめる。
これからの先の旅路が寂しいモノでなくなるようにと祈りながら
『ありがとう』の気持ちを何とか伝えようとする。

この気持ちは彼にまで届くだろうか?



――



不思議な夢を見た。

僕の隣で僕を抱きしめてさとり様が泣いている夢。
僕は上からその光景を見ているだけで、とても悲しい気持ちになった。
どうしてさとり様は泣いているのだろう?
僕はさとり様の笑顔が好きだからさとり様には笑っていてもらいたい。

だから必死に下に行こうとするのだけど身体は全然動いてくれなくて僕は
ずっと僕とさとり様の上をユラユラと飛んでいる。

さとり様が泣いていると僕も悲しい気持ちになってくる。
とても悲しい夢だ。

起きたらすぐにさとり様に遊んでもらおう。
さとり様に沢山笑ってもらおう。
そしたら僕もこの夢の事なんてすぐに忘れて楽しい気分になれるはずだから
だから、早くこの夢が覚めないかな?

早くさとり様と遊びたいな……
17度目になりました。
最近シリアス系の話書いていなかった反動が来ました。

昔、私の家の近くにコリー犬がいました。
もう随分前に死んでしまったのですが、その犬は人懐っこくてヤキモチ焼きな犬でした。
賢くて、懐っこくて可愛い奴でした。
そんな犬を思い出しながら書いてみました。

最後に
最後まで読んでいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでもらえれば幸いです。



8様
ペットが多くいると言う事でさとりはきっと多くの死を見てきたと思います。
私はペットは飼った事はないですが近所の犬が死んだと聞いた時はとても寂しい気持ちに
なったのを今でも覚えています。


コメントありがとうございました。
H2O
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コメント



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8.100名前が無い程度の能力削除
二年前に死んだ犬のこと思い出して涙が出ました。
ペットの死ってすごく悲しい……