Coolier - 新生・東方創想話

抱いて Hold on Marisa

2009/09/14 22:14:19
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「お、もうこんな時間か」

 魔理沙がふと時計を見ると、時刻はもう午前一時を回っていた。

「そろそろ寝るか」

 読んでいた本に栞を挟み、テーブルに置く。
 魔理沙は元々、夜更かしが大好きであったが、前にアリスから、「夜更かしをする子は背が伸びないわよ」と凄まれて以来、できるだけ早く寝るように心がけている。

「っと、寝る前には戸締りをしないと」

 魔理沙はそう言って、玄関へと向かう。
 魔理沙は元々、戸締りはしたりしなかったりとずぼらであったが、前にアリスから、「寝る時くらいはちゃんと戸締りをしないと、しまっちゃうおじさんが来てしまわれちゃうわよ」と凄まれて以来、毎晩ちゃんと戸締りをするように心がけている。

 そうして玄関へと辿り着き、さあ鍵を閉めようと魔理沙がドアに手を伸ばしたときだった。

 ギイィと音を立てて、ドアが外向きに開いた。

「!?」

 思わず飛びのく魔理沙。

 ま、まさか本当にしまっちゃうおじさんが来てしまったのか?
 い、いやだ。
 私はまだしまわれたくない。

 恐怖のあまり、魔理沙の目には涙が浮かぶ。

 しかし。

「……魔理沙?」

 なぜか怪訝な声を発しながら、開いたドアの隙間から顔を覗かせたのは、アリスだった。

「あ……ありす?」

 予想外の人物の登場に、思わず上ずった声を出してしまう魔理沙。
 しかしアリスは構わず、当たり前のように玄関に入ってきた。
 そして、手慣れた所作でドアを施錠する。

「な、なんで?」
「……魔理沙」

 当然の疑問を発する魔理沙に対し、何故かジト目で睨んでくるアリス。
 そして、ドスの利いた声で尋ねる。

「……あなた何で、まだ起きてるのかしら?」
「へ?」
「……私、前に言ったわよね。『夜更かしをする子は背が伸びないわよ』って」
「え? あ、ああ……でも」
「デモもヘチマもない」

 ごちん。

「きゃう」

 アリスの唐突な鉄拳制裁(しかも結構強い)に、魔理沙は可愛い悲鳴を上げた。

「あなたはまだ成長期なんだから、遅くとも十一時までには寝なきゃダメ、って言ったでしょ。めっ」
「……はい。ごめんなさい」

 鈍い痛みの残る頭を押さえながら、涙目で謝る魔理沙。
 なんかすごく理不尽な気もするが、こういうときのアリスは本気で怖いので逆らえない。

「それで? こんなところで何をやっていたの」
「な、何って……」

 なんか普通に話がすり替えられているような気がしたが、また殴られるのは嫌なので、とりあえず魔理沙はアリスの問いに答えることにした。

「戸締り、しようと思って……」
「戸締り?」
「うん。だってアリス、前に言ってただろ。『寝る時くらいはちゃんと戸締りをしないと、しまっちゃうおじさんが来てしまわれちゃうわよ』って」
「ああ、あれ嘘」
「……へ?」
「ちょっと、魔理沙を怖がらせようと思って」
「…………」
 
 あっけらかんというアリス。
 対する魔理沙の瞳は、先ほどとは違う理由により潤み始めていた。
 
「やだ。ひょっとして本気にしてたの?」
「…………」
「もう、魔理沙ちゃんったら、相変わらず可愛いんだから」
「…………ぐすっ」
「あーほら、泣かないの。よしよし」
「……ひどいぜ、アリス……えぐっ」

 アリスに頭を撫でられながら、魔理沙はふとそもそもの疑問を思い出した。

「……で、アリス」
「ん?」
「……なんで、私の家に?」
「ああ、それはね」
「うん」

 一拍置いてから、アリスは笑顔で言った。

「……魔理沙を、抱きに来たの」
「は……はあぁ!?」

 ドン引きして、アリスから飛びのくように離れる魔理沙。
 しかし、アリスは動じない。

「やだもう。魔理沙ったらおませさんねぇ」
「い、いや。だ、だってお前、だ、抱くって……」

 しどろもどろになる魔理沙。
 言うまでもなく、その顔は真っ赤に染まっている。
 それに対して、アリスはあくまでも余裕の表情。

「大丈夫。別に、そういう意味じゃないから」
「…………?」

 そう言ってニコッと笑うアリス。
 魔理沙は非常に嫌な予感がした。



 ……十分後。魔理沙の寝室。


 そこには、ベッドの中で寄り添う二人の姿があった。
 
 ……というか、厳密には、アリスが魔理沙を、まるで抱き枕を抱くような形で抱きしめている、といった方が正しい。
 アリスは両手両足を使って、仰向けに寝ている魔理沙の身体を、魔理沙の左側から完全に包み込んでいる。 
 そして魔理沙の頭の上には、ちょうどアリスの顎が乗る形になっている。

「あ、あついぜ……」

 全身をアリスにぎゅうっと抱きつかれている魔理沙は、不快そうな声を上げた。

「そう? 私は魔理沙が暖かくて気持ちいいけど」
「…………」

 アリスが魔理沙の家に来た理由。
 それは文字通りの意味で、魔理沙を『抱く』ためであった。

「いやあ、最近めっきり冷え込んできたじゃない? もう夜なんか厚手の毛布が欲しいくらいに」
「……だったら厚手の毛布を出せよ」
「でもそれは面倒だったから、魔理沙の家に行こうと」
「……意味が分からん上に、話が飛躍しすぎだ」
「別に飛躍じゃないわ。魔理沙は子供で体温が高いから、抱いて寝るにはもってこいなのよ」
「…………」
「あと魔理沙の身体は小さいから、とっても抱きやすいし」
「…………ふん」

 魔理沙は頬をぷうっと膨らませると、アリスとは反対の方向へ顔を向けた。
 全身はがっちりとホールドされているので、せめてもの抵抗だ。

「もう。拗ねない拗ねない」

 そう言ってアリスは、顎を使って魔理沙のつむじのあたりをぐりぐりする。
 もちろん、両手両足は魔理沙の全身に絡めたままだ。

「……もうしらん。私は寝る」

 魔理沙はふて腐れたように言うと、そのまま目を閉じた。
 
「あらあら。もう、魔理沙ったらすぐこうなんだから」
「……その台詞、そっくりそのままお前に返してやるぜ」
「ふふ。ま、もう遅いしね。……私も寝るとするわ。おやすみ、魔理沙」
「……ああ、おやすみ」

 こうして、場は静寂に包まれた。

 正直、全身をアリスに抱きつかれている魔理沙はかなり暑かったが、しかし不思議と不快感は無かった。
 その理由を考えるうちに、真上から聞えるアリスの息遣いが、そして腕越しに伝わる彼女の心音が、自分の心を落ち着かせているからだと気付く。

(……ま、たまにはこういうのもいいかな)

 魔理沙がそう考えたのと、ほとんど同じとき。

「……ママ……」

 ふいに、アリスの声がした。
 
「……あいたい、よ……」

 ほのかに寂寥を含んだ、今にも消え入りそうな声。

「…………」

 魔理沙は思う。

 普段は飄々と振る舞っているアリスにだって、ふと寂しくなり、枕を濡らす夜があるのかもしれない。

 遠く離れた母を想い、涙する夜があるのかもしれない。

 美しくも儚げなその表情の裏には、誰にも気付かれることのない哀愁が隠されているのかもしれない。

 それならば、と魔理沙は想う。

 自分が、それらを全部受け止めてやろう、と。

 アリスの持つ寂寥、哀愁、そういったもの全部受け止めて、自分がアリスを守ってやろう。

 アリスの腕に包まれながら、魔理沙は一人、決意を燃やすのであった。













「……燃やすのであった」
「……さっきから、何一人でぶつぶつ言ってんだ。アリス」
「いや、魔理沙の内心を代弁しようかと」
「……代弁するのは人形の内心だけにしといてくれ。つか、寝るんじゃなかったのか」
「いやほら、普段と違うベッドって、なかなか寝付けないじゃない?」

 そう言って、一層強く魔理沙を抱きしめるアリス。
 非常に暑苦しい魔理沙。
 
「……すごく今更だな。それならいつものベッドで眠ることを強く推奨するぜ」
「魔理沙も一緒に来てくれるなら」
「丁重にお断りするぜ」
「もう。けち」
「あのな……」

 魔理沙が呆れ混じりに言うと、ふと、アリスの声のトーンが下がった。

「……でも」
「ん?」
「ときどきは寂しくなるっていうのは、本当よ」
「……え?」
「私だって、ときどきは寂しくなるし、甘えたくなる」
「…………」
「今日魔理沙の家に来たのは、そういう理由もあるのよ」
「…………」
「普段魔理沙は、なかなか甘えさせてくれないから」
「な、何言ってんだ」

 いつものからかうような口調ではなく、どこかしんみりとした口調で言うアリスに、魔理沙はうろたえる。

「だって、私たちって、なんか親子みたいじゃない」
「お……親子?」
「うん。私が母親で、魔理沙が子供」
「は、はあ? 私がいつ、お前の子供になったんだよ」
「……何言ってるの、このかわいこちゃんが。ほら、なでなで」
「えへ」
「……ね?」
「はっ!」

 思わず声を上げる魔理沙。
 知らず知らずのうちに、アリスの術中にはまっていたらしい。

「こんな風な関係だから、なかなか魔理沙に甘えられないのよ」
「……べ、別に、無理に甘えなくたっていいだろ」
「まあね。でも、それでもやっぱり……たまには甘えたくなるのよ」
「…………」
「ダメかしら?」
「…………かってにすれば」
「ふふ。じゃあそうします」

 アリスはそう言うと、毛布の中でもぞもぞと動き、自分の頭が魔理沙の胸のあたりにくるように移動した。
 そしてそのまま、再び魔理沙にぎゅっと抱きつく。

「えへ」
「……今日だけだからな。まったく」

 魔理沙は溜め息を吐いて、アリスの頭を優しく撫でた。

 



今回ようやく、タグと内容が合致した話が書けたような気がします。
まあ最後の数行だけですが……。
ただ今までの作品のタグも、魔理沙の主観に基づいたものなので、あながち間違いではないのです。
魔理沙の中では、いつでもマリアリ。



それでは、最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。
まりまりさ
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コメント



0.2710簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
口の中が砂糖だらけに
6.100名前が無い程度の能力削除
これはいいマリアリw
あんまぁーいw
10.100名前が無い程度の能力削除
インスリンを、誰かインスリンを…!
18.100名前が無い程度の能力削除
ニヤニヤが止まらないww
27.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙が子供でアリスが母親
じゃあちんき様はおばあちゃんですね!
……あんなかわいいババァがいるか!
28.100名前が無い程度の能力削除
夜更かしをしてる子はどんどんしまっちゃおうねー

魔理沙が幼なすぎるwwwだがそれがいいwww
32.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙もアリスもかぁいらしぃなぁw
33.100名前が無い程度の能力削除
しまっちゃうおじさん…アリスなぜ知っているwww
しかしあんたの書くアリス大好きだ!そして魔理沙も!
37.90名前が無い程度の能力削除
このSSにコメしちゃった子はしまっちゃおうね~
コメしなかった子もしまっちゃおうね~
40.100名前が無い程度の能力削除
口から砂糖が溢れてコメントできnおぼぼぼぼぼぼぼぼ
44.90名前が無い程度の能力削除
##このコメントはしまわれました##
49.90名前が無い程度の能力削除
ちょっと背伸びしたがってる魔理沙ご馳走です。あなたは実に正義だな!
50.100名前が無い程度の能力削除
……ブラックコーヒーでも十分甘くなるな
54.無評価23削除
もっとやれ
57.100奇声を発する程度の能力削除
ひゃっほーい!!!!!
72.100非現実世界に棲む者削除
良いねえ、甘いねえ、最高だよ。
マリアリはやはり王道ですよ。
砂糖が大量流出、ゴバァァァァァァ!