Coolier - 新生・東方創想話

しゃぶれよ

2009/09/13 13:14:58
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 真昼の空の一点に、光を通さぬ闇の球。
 真夏の炎天下、縁側に座ってお茶を啜っていた霊夢の横に、闇を纏った少女がべたりと落下した。
 
「おなかすいたー」

 闇を解除して昼の世界へと姿を現しながら、ずるずると這い寄って来るのはルーミアである。
 金髪の下の赤い瞳を涙で潤ませながら、霊夢の顔を見上げて懇願する。

「ねー、なんか食べさせてー」
「だめ」

 即答し、霊夢はお茶を啜る。
 ルーミアは恨めしげに唸りながら縁側の上に立ち上がり、がばりと口を開いた。
 鋭い犬歯をぎらりと光らせながら、
 
「だったらあんたを食べてやる!」

 ルーミアが叫んだ瞬間、霊夢は即座にお札を投げつけて相手の動きを止め、小さな少女の胸倉つかんで持ち上げると、十発ほどの往復ビンタによる快音を響かせた後、お札をぺろっと剥がして無造作に庭に放り出した。
 起き上がったルーミアが、赤く腫れた頬を押さえながら涙目で呻いた。

「いたい」
「当たり前でしょ」
「冗談だったのに」
「だからわたしも冗談で済ませてやったのよ。それとも本気でかかってきて、もっとひもじくて惨めな想いをしたい?」
「うー」

 赤い目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
 それでも霊夢が無関心にお茶を啜っているので、ルーミアはとうとうその場に仰向けになってじたばたと手足をばたつかせ始めた。
 
「おなかすいたおなかすいたー! なんかたべたいー!」
「あーもう、うるさいわねえ」

 霊夢はぼやいてため息を吐き、傍らの盆に湯呑を置いて立ち上がった。
 
「分かった、なら適当になんか食べさせてやるわよ」
「本当!?」

 ルーミアが顔を輝かせて立ち上がる。霊夢は苦笑した。

「今のあんたは妖怪ってよりも単なる腹ぺこの子供だからね。子供にご飯分けてあげられないほど貧しくはないわ」
「おー、そーなのかー!」
「そーなのよ。でもただは駄目よ」
「おかねとか持ってない」
「分かってるわ。ご飯の代わりになんか寄越しなさい。宴会来る連中だって、つまみぐらいは持ってくるんだから」
「そっかー。うーん」

 霊夢がそう言うと、ルーミアは腕を組んでしばらく悩んでいたが、やがて何か思いついたように顔を輝かせた。

「分かった、じゃあご飯の代わりに昼寝しやすくしてあげる!」
「昼寝? ふむ」

 霊夢はじりじりと地を焼くように降り注ぐ夏の日差しを見上げたあと、微笑んで頷いた。
 
「そういうこと。分かった、それでいいでしょう。あ、靴脱いで上がりなさいね」
「はーい! ごっはんごはん、おいしいごはんー。今日は神社でお食事だー」

 調子外れの歌を歌いながら、ルーミアがばたばたと神社の母屋に上がり込もうとするのへ、

「靴を脱ぎ散らかさない」
「はーい」

 ルーミアは霊夢の注意に従い、行儀よく靴を揃えた。

「いやに素直ね」
「ご飯のお礼」
「妖怪を餌付けする巫女ってどうなのかしらね」

 小さく呟き、ルーミアに居間で待っているよう伝えると、霊夢は炊事場へと向かった。
 そうしてしばらくの後、菜っ葉の味噌汁と白米と輪切りの沢庵と魚の干物、それに納豆という至って質素な昼食を盆に載せて居間に戻ってみると、ルーミアはちゃぶ台の前にきちんと正座して大人しく待っていた。
 
「ずいぶん行儀がいいのね」
「ここまで来て退治されるの嫌だもん」
「だから人間の子供に倣ってるって?」
「そう。ね、早く食べさして」
「はいはい」

 霊夢がルーミアの前に盆を置くと、少女はとんでもないご馳走がきたものだと言いたげに、きらきら目を輝かせてご飯の一粒一粒にまで見入った。
 それですぐに食べ始めるのかと思いきや、霊夢が自分の分の食事を運んでくる段になってもまだ、涎を垂らしつつ正座して待っていた。

「食べないの?」
「いただきますしてない」
「よく勉強してるわね」
「うん。人間の子供はおいしそうだからよく見る……おっと」

 ルーミアが慌てて口を手で塞ぎ、ちょっと心配そうにちらちらっとこちらを見上げる。
 霊夢は苦笑した。
 
「そのぐらいで退治しやしないわよ」
「良かった」

 ほっと息を吐くルーミアの向かい側に座り、霊夢は目を閉じて両手を合わせた。向こうもそれに倣う。
 
「いただきます」
「いただきます!」

 がっつくかと思いきや、ルーミアは案外ゆっくりと味わって食事をした。沢庵をぽりぽりと齧っては幸せそうに笑い、舌舐めずりしながら納豆をかき混ぜ、みそ汁を啜ってはほぅっと息を吐く。
 彼女の箸の使い方が案外達者なのを見て、霊夢は目を瞬いた。

「誰かに習ったの?」
「んーん、見様見真似」
「器用なもんだわ」
「昔は手掴みだったけどね、人間がみんなこれ使って食べてるから、もしかしてこれ使えばご飯がもっとおいしくなるのかもしれないって思って」
「んなわけないでしょ」

 ふ、と、その頃は何を食べていたのかという疑問が頭を過ぎったが、今言うべきことではないと思ったので口には出さずにおいた。
 そんな霊夢を見て、ルーミアは屈託なく笑う。

「でもね、このご飯はおいしいよ」
「そ。良かったわね」

 頷き、霊夢は菜っ葉のみそ汁を啜る。
 いつもよりも美味く出来たな、と思った。



 ルーミアは予想以上に満足したらしく、後片付けまでしっかりと手伝った。
 その後二人はまた居間へと移動し、使い古した座布団を二つに折り畳んで枕にすると、隣り合って畳の上に寝転がった。

「じゃ、よろしく」
「分かった」

 霊夢に半ば密着したルーミアが、闇の球を展開する。途端に視界が真っ暗になり、何も見えなくなった。あれほどぎらぎらと降り注いでいた日差しですら、一欠片もこの闇の中には入り込んで来ない。
 その内、周囲が大分涼しくなってきた。

「便利なもんねえ」
「でしょ。夏はみんなこん中入りたがるよ」
「ふうん。チルノだけじゃなくてあんたも引っ張りだこなのね」
「まあね」

 それきり二人はしばらく無言になった。吹き込んでくる緩やかな涼風が、うるさいほどの蝉しぐれを運んでくる。

「涼しくはなったけど」

 霊夢は苦笑した。

「これじゃ、うるさくて眠れないわね」

 返事はない。
 寝たのかな、と思ったら、
 
「ね、霊夢」

 甘い声で囁きながら、ルーミアがそっと霊夢の右腕を取り、ぐいっと引き寄せた。
 咄嗟に握り締めた右手の甲に、暖かな吐息がかかる。
 かすかに鼻を鳴らしながら、ルーミアはじゃれつくような声で問いかけてきた。
 
「食べてもいい?」
「だめ」

 即答。ルーミアが霊夢の手の甲に顔を押し付けたまま、くすくすと笑った。

「冗談なのに」
「冗談でも、よ」

 霊夢は静かに言う。
 
「あんたが人を喰わない妖怪でいるから、わたしは妖怪を退治しない巫女でいるのよ」

 闇の向こうから、夏の昼間の風が緩やかに吹き込んでくる。

「それを崩したくなかったらね、冗談だろうがなんだろうが、境界ははっきりさせておきなさい」

 ややあって、

「分かった」

 素直に言いつつも、ルーミアは握りしめられた霊夢の手に指をかけた。

「こら」
「大丈夫」

 秘密の遊びをするときのような、悪戯っぽい声。
 霊夢は、自分の右手がルーミアの両手で包みこまれたのを感じた。次に柔らかく拳が解かれ、人差し指が立てられる。
 そうして次の瞬間、その人差し指が湿っぽい暖かさで包まれた。肌の表面を、ざらざらとした何かが愛おしげに這い回る感触がある。

「何してるの」

 聞いたら、密かな水音に混じって、

「人喰いごっこ」

 囁くような答えが返って来た。
 霊夢は小さく息を吐き、

「どんな味?」
「渋い」
「微妙な評価だわ」

 少し笑いながら、霊夢はおもむろに手を伸ばした。
 大体この辺かな、と思った辺りで、案の定手の平にひんやりとした柔らかさが伝わる。
 そのまま、ルーミアの頬を軽くつねった。

「なにしてるの?」

 聞かれたので、

「妖怪退治ごっこ」

 答えながら、柔らかな頬肉を指先で捏ね回す。

「どんな感じ?」
「お餅みたい」
「おいしそう」
「そうね、おいしそうだわ」

 二人はしばらくそれぞれのごっこ遊びを楽しんだ後、大体同じ時間に仲良く眠りの中へ入っていった。



 夕暮れに起き出したのも、大体二人同時だった。
 黄昏の中に立ちながら、ルーミアはにっこりと笑う。

「ごちそうさまでした。そろそろ帰るね」
「どこへ?」
「夜へ」
「そ。じゃあね」
「うん。またね」

 夕闇の空を、一際濃い闇の球がふらふらと漂っていく。
 それを中途半端に見送ったあと、霊夢は軽く伸びをしながら母屋の中へ取って返す。
 そして、畳の上に金髪の美女が座っているのを見つけた。

「紫。なんか用?」
「ええ。あのね霊夢」

 こほん、と咳払いしながら、真面目くさった声で、

「なかなかいいものを見させて頂いたわ」
「はあ。何が?」
「妖怪と人間、両者の新たな関わり方。スペルカードルールを創ったあなたならではよね、ええ。とても素敵だったわ」
「そりゃ、どうも。それで?」
「ええ。あのね」

 紫はかすかに顔を赤らめながら、おもむろに右手を伸ばして霊夢の頬をつねった。
 空いた左手を近づけて、人差し指を立ててくる。
 それからもじもじと身じろぎしつつ、

「ど、どうぞ?」
「ふむ」

 紫には珍しく力加減を誤っているのか、つねられている頬が割と痛い。
 霊夢はとりあえず、一発殴り返しておいた。



 <了>
ガキはママのおっぱいでも(ry

なんかそんな感じの話。
昔なんかのテレビ番組で「母乳が出る男」とかってビックリ人間の特集をやってました。
子供心にこれはないなと思ったものです。
aho
[email protected]
http://aho462.blog96.fc2.com/
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コメント



0.13350簡易評価
5.80名前が無い程度の能力削除
ああ、ひどいw ゆかりんが不憫だwww
8.100名前が無い程度の能力削除
ほのぼのー、としてて良い感じでした。
紫の最後の台詞が「しゃぶれよ」じゃなくてよかったw
10.40名前が無い程度の能力削除
やまなしおちなしー
音だけ聞いてたら卑猥
11.100名前が無い程度の能力削除
これは万点超える……!
12.90名前が無い程度の能力削除
特報王国だっけ?

また懐かしいwww
14.90名前が無い程度の能力削除
ま た ゆ か り か
ヤマはなくともオチはある素敵な雰囲気、ごちそうさまです。
17.100葉月ヴァンホーテン削除
ただの日常がなんでこんなに面白いんだろう。
会話の端々から名ゼリフの卵みたいなものが感じられます。センスだなあ。
ちなみに母乳男が僕も見ました。特報王国かなんかだったかな?
19.70名前が無い程度の能力削除
いつもより少々物足りないかも?
若干内容が薄く感じられました。彼女らのやり取りは感じて和みましたが。
21.90名前が無い程度の能力削除
読んでいて妙にむずむずしたよ!
22.80名前が無い程度の能力削除
まったりゆったり
24.100名前が無い程度の能力削除
29.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりさんがんばってくださいw
36.100名前が無い程度の能力削除
なんというか,素直でいい子だなル~ミア
37.100名前が無い程度の能力削除
しゃぶれだァ?コノヤロウ!てめェがしゃぶれよ!!


それはともかく内容はほのぼのしててとても癒されました
39.50削除
いかにもな二人のやり取りや、ゆったりとした雰囲気がたまらない一品ですね。
お話としての面白みがやや欠けているのが少し残念です。
50.100名前が無い程度の能力削除
ルーミアかわいいなぁ
なんかほのぼのしつつ、エロいと思いました
二重の意味で頬が弛むw

どことなく妖艶な感じですね、ルーミアが
51.90名前が無い程度の能力削除
和みました。
57.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりんかわいいよゆかりん
58.100名前が無い程度の能力削除
ご馳走様でした。これであと半年は持つ……!
60.100名前が無い程度の能力削除
ルーミアをこう料理するか…。
61.70名前が無い程度の能力削除
ゆかりんwww
これはひどい
65.90雨宮水滝削除
いいなぁ、ほのぼのしてる。
73.90名前が無い程度の能力削除
あぁ、ほのぼの
77.100名前が無い程度の能力削除
四つん這いになれよ、おう早くしろよ
78.100名前が無い程度の能力削除
しゃぶれよベジータ
80.100アステルパーム削除
ゆwかwりwんwwww
85.100名前が無い程度の能力削除
ルーミアかわいいww
95.60名前が無い程度の能力削除
和むのう

もう少し、ルーミアがじゃれついてる時の心情とか行動にインパクトがあればよかったかなあ、と

ゆかりんのオチが弱い気がしまつ
99.100名前が無い程度の能力削除
人喰い妖怪と人間の、幸せな関係を真剣に考えておられるようで、すごく素敵だと思います
106.80名前が無い程度の能力削除
ゆかりんwwwww
112.100名前が無い程度の能力削除
しゃぶれよってそういうことだったのかww
113.100名前が無い程度の能力削除
ここで俺はひっそりとガッツポーズ
114.60名前が無い程度の能力削除
可愛いなぁ、ルーミア可愛い。
でも、それだけな気がしたのがちょっと残念です。
118.80名前が無い程度の能力削除
霊夢とルーミアの組み合わせはいいなぁ
ゆかりんが不憫すぎて爆笑したw
120.100名前が無い程度の能力削除
>紫には珍しく力加減を誤っているのか、つねられている頬が割と痛い。

紫にしては、ではないでしょうか?
125.100図書屋he-suke削除
aho氏の幻想郷のアーキタイプが垣間見えた気がします。
なごんだww
126.100名前が無い程度の能力削除
なんであんたの書く紫はこうも可愛いのか!

もっとストーリーが欲しいとも思うけど、ババァのせいでこれより下の点数が付けられない・・・!
128.90名前が無い程度の能力削除
和むな~この二人。
ルーミアが子供らしくてイイ!
137.100名前が無い程度の能力削除
かわいいなー
話のテンポがかなり良かった。
138.100名前が無い程度の能力削除
殴ったゆかりんに『あー、もうわかったわよ。添い寝くらいなら構わないわ』とか素っ気なく霊夢が言うところまで幻視余裕でした
139.100名前が無い程度の能力削除
aho さんの文章は読みやすくて、いつも、いつのまにか読み終えてしまうなぁ
142.100名前が無い程度の能力削除
タイトルww
これはありそうでなかったルーミア。
「いただきますしてない」がすごいかわいかった…
147.100名前が無い程度の能力削除
これはあたらしいるみゃ
ごちそうさまでした
ゆかりんは可愛いw
148.100名前が無い程度の能力削除
ほのぼのでいいなぁ。
紫かわいそうにw
151.100名前が無い程度の能力削除
いやある意味十分いやらしですがこれwww
157.100名前が無い程度の能力削除
あっさりとしたのも巧いなぁ・・・流石です
161.100名前が無い程度の能力削除
にゃぁ~
164.100名前が無い程度の能力削除
指舐められるのって物凄い気持ち言い意よな
166.80名前が無い程度の能力削除
紫無念www
168.100名前が無い程度の能力削除
またオチ担当wwww
172.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりんが不憫すぎます!><
175.80削除
いいですねいいですねレイルミww
179.100名前が無い程度の能力削除
紫ワロタwww
182.100名前が無い程度の能力削除
ルーミア素直で良いねぇ…
193.無評価名前が無い程度の能力削除
紫様ったらwwww
194.100名前が無い程度の能力削除
点数入れ忘れた
205.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりかわいそすwwww
215.100名前が無い程度の能力削除
霊夢たちのやりとりを見ていたときのゆかりんを想像すると…にやにや
221.100名前が無い程度の能力削除
ニヤニヤが止まらない
224.100名前が無い程度の能力削除
幻想郷の平凡な日常話ですね。ほのぼの。
こういう昼食メニューはいまや贅沢な外の世界。
250.無評価名前が無い程度の能力削除
ほんとに最後のセリフが「しゃぶれよ」じゃなくてよかった
251.100名前が無い程度の能力削除
ルーミアは俺の妹。
異論は認めない。
例え地球がドリフで爆発したとしても。
256.100名前が無い程度の能力削除
かわいい

かわいい
257.50名前が無い程度の能力削除
ほのぼのしてていいと思います
261.90Admiral削除
タイトルw
お話はほのぼのしていて良かったです。
276.100名前が無い程度の能力削除
和みました。
291.100名前が無い程度の能力削除
「どこへ?」
「夜へ。」

このやりとりがすごく心に残っちまった…畜生、なんて可愛いんだ
295.100名前が無い程度の能力削除
ほのぼのしい
298.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりんかわいいww
305.100名前が無い程度の能力削除
ルーミアがかわいかった(小学生並みの感想)
310.100名前が無い程度の能力削除
ルーミアと霊夢のふっつーの会話なのに、なんでこんなに面白いのか
321.80名前が無い程度の能力削除
ゆかりww
331.90絶望を司る程度の能力削除
なにやってんだ妖怪の賢者w