Coolier - 新生・東方創想話

『25時』の孤独。

2009/09/13 10:29:24
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真っ赤なじゅうたんと、爛々と輝くシャンデリア。
淡く広がる音楽に、足音のリズム。
タンッ、タンと床を鳴らして、踊りましょう。
サディスティックな仮面をつけた、私はだあれ?




「今夜、舞踏会をするわ」

お嬢様がそう言ったのが始まりだった。

「今夜ですか?」

「そう、今夜、よ」

この発言があった時が午後2時。
珍しく夜更かし――もとい朝更かしをしていると思えば。

「しかし、お嬢様。そんな急に言っても、
 皆さんが集まるとは限らないですよ?」

「心配には及ばないわ。そちらの方はもう準備が出来ているから」

「――なら、そういうことなんですね」

今までにもこのようなことが何度かあったが、
確かにお嬢様が一度も準備を怠ったことはない。
ならば、今回もそういうことなんだろう。
そう思って私はそれをそのまま口に出した。

「あら、まったく疑わないのね?咲夜?」

「私はあなたの従者、ですから」

では、失礼します、と言い、私は廊下を歩き出す。
さて、そうと決まればすることは決まっている。
私はお嬢様の部屋から離れると、メイドたちをホールに集めた。
がやがやと喧騒が立ち込めるなか、私は少しだけ高台に立つ。

「いい?今夜、お嬢様が舞踏会を催すそうよ。
 開催時間は23時。だから、それまでに準備をするわ。
 紅魔館主催だから、くれぐれもお客様たちへ粗相がないように!」

そう一喝すると、私は時を止めつつ、館中を駆け回る。
掃除に炊事に、あとは舞台づくりまである。
普通に作業を進めれば、間に合ってもぎりぎり、というところだ。
だが、それが何だというのだろう。
――私には、まるで関係が無いこと。



こうして、全ての準備が終わったのが21時だった。
全てはあっという間、だ。
時間なんて概念はもう私には通じない。

――なら、私はもう人間ではないのかしら。

私は無表情にそんなことを思いながら、
いつものように紅茶を淹れる。
周りの世界は何一つとして動かないままで、
ほんの僅かなティータイムを楽しむのだ。

カタ、カタという無機質な陶器が立てる音。
自分の足音がいやに大きく響く。
いつしか、人間として生きることを心しておきながら、
私には人間というものが何なのか、分からなくなってきていた。
とはいえ、私はそのことに悲観などしていない。
キュッ、と蛇口を閉め、使った食器を片付けると、
もう一度時間を動かし始める。
どうあっても、私は今楽しんでいるから、だ。

「ご苦労様、咲夜」

その声に振り向く。
見ると、ドレスに着替えられたお嬢様がそこにいた。

「お嬢様。もうお目覚めですか?」

「ええ、もうじき早い客ならば来るでしょうし、主として迎えてくるわ」

「――迎えなら私がしてもいいんですが」

「あら、あなたにも別の役割があるのよ」

「役割――?」

「はい、咲夜。あなたもこれに着替えなさい」

黒を貴重とした、簡素なドレス。
それはシンプルでありながら、どこか高級感を漂わせている。

「それと、これも着けるように」

「――お嬢様、これは?」

「あら、言ってなかったかしら?
 ――今夜は仮面舞踏会<マスカレード>よ」









「それでは、顔も知らない皆様方。
 今宵は誰が誰かなど、無粋なことは考えなさらず、
 盛大に踊り明かそう。さあ、マスカレードを!」

高らかに仮面をつけた主催者の少女が宣言する。
そして、広がるファンファーレ。
がやがやと立ち込める歓声の中には仮面をつけた人たち。
もっとも――人と言っても妖怪が大半だろうが。

やがて、トランペットとパーカッションのリズムに合わせ、
足音がダン、ダン、っと踏み鳴らされる。
楽しげな音楽と、踊りだす集団。
私は自分がどうすれば良いのか分からなくて立ち尽くしていた。

「あら、そこのお嬢さん、舞踏会で踊らないなんてどうかしてるわ」

主催者の少女が私に笑いかける。
それに私もうっすらと笑い返す。
私はなんと答えれば良いのか分からなくて、
ただ手に持ったシャンパンを一口飲んだ。
それを少女が見て、無邪気に笑っている。

「何をすれば良いのか分からないなら、一度、見て回ってらっしゃい」

そう言って私の手からシャンパンを奪う。
私はまた、少しだけ戸惑いながらも、笑った。
きっと、これが仮面舞踏会のあり方なのだろう。
なら、郷に入ってはなんとやら、ということだ。

「それなら、お嬢さん、私もこのパーティを楽しませて頂きますわ」

私はそう言って、湧き上がる足音の中に混ざった。






タンッ、タンッ、と踊る仮面たち。
それぞれに手を取り合い、あるものはフォークダンスのように、
また、あるものは踊りながら歌っていた。
その表情はとても晴れやかで、見ていて心地良い。
私自身も笑顔でいることを自覚しながら、
足音と仮面の間を縫って会場を歩く。

そうして、私はある一組の男女を見つけた。
一人は金髪の、七色の綺麗な羽根を持っている少女で、
もう一人は銀髪の、顔半分を覆うマスクをつけた男性だった。
彼らもまた、笑顔を絶やさず踊っている。

――おっと。

少女が高く飛び上がると、男性がそう言いながら、苦笑交じりに優しく下ろす。
身体全体で喜びを表現するような少女と、対称的に、静かな喜びを表現する男性。
彼らはきっと、この舞踏の楽しみを知っているのだろう。

やがて、踊り疲れたのか、少女が彼の手を離し、
仮面の隙間から漏れる笑顔を見せながら手を振る。
残された男性も左半分の苦笑で手を振り返す。

「なかなかよろしいダンスでしたね」

私がそう言うと、銀髪の男性が振り返る。

「そうかな?僕はこんな場が苦手だと言ったんだが、
 何の因果か気付けばこの様だよ」

ふふ、と私は笑う。
彼の仮面に隠された、妹を見るような優しい目を見れば、
その言葉に潜む嘘に気付かないものはいないだろう。

「おや、何かおかしいことをいったかい?
 どうにもこんな舞台は初めてだから、
 礼儀も作法もまだ分からなくて正直困っているんだ」

彼の着けた、半分の仮面から漏れる苦笑。
私は、もう一度だけ小さく笑う。
そして、ゆっくりと口を開いて言うのだ。

「なら、目の前にこんな美女がいるのだから、
 『私と踊っていただけますか、お嬢さん』と言うのが作法じゃないかしら」

すると、銀髪の男性は小さくため息をつく。

「まったく、何を言うかと思えばそんなことか」

「あら、そんなことかとは失礼ね?」

「僕にしてみればそんなこと、さ。」

「なら、踊らないの?」

「まさか。『こんな美女』を前にしてそれは失礼だろう?」

そう言って、彼は手をゆっくりと伸ばし、
私の前で膝をつく。

「私と踊っていただけますか、お嬢さん」






そうして、私は彼の手を取り、踊りだす。
ゆっくりとしたリズムで、互いの足を踏まないように、
静かに、丁寧に足をそっと運ぶ。
彼は相も変わらず苦笑のような、意地悪い笑みを浮かべているが、
私にとってそんなことは関係ない。
楽しいから、笑う。
それはとても自然なことのように思えていた。

「しかし、仮面舞踏会というのは不思議なものね」

タンッ、と軽やかに床を鳴らし、

「相手の顔も見えないと言うのに、私はこんなに楽しいもの」

ぐっと、手を引き合いながら。

「おそらく、これはそうするために生まれた遊びだからね。
 身分も何もかも取り払うために仮面をつけるんだ。
 見ての通り、ここでも人妖が混じっているし、
 これが正しいマスカレードというものだろう」

「なら、明日の朝になれば全てが元通り、ね」

「ほう、君はシンデレラというやつかい?」

「そんなところかしら。人間は『24時』に生きて、
 妖怪はまた『25時』以降に生きるんでしょうし」

私たちは踊りながら、そんな会話をする。

「そうだね。きっと僕らには『24時』と『25時』の違いがある。
 君はそれが怖いのかい?」

「まさか。私は『24時』に生きることが正しいと思っているわ。
 でも、『25時』にも生きることが出来る。
 だから、たまに誘惑に負けそうにもなるだけよ」

「ふむ、まぁ、君の中に答えがあるなら、僕に言えることは無い」

そう言って彼は私の腕を優しく引く。
私はその力に逆らうことなく、彼の方に引き寄せられた。

「そうね。でも――誘惑に負けて、私が『25時』に生きていたら、
 そのときは叱りつけてくれるかしら?」

倒れそうになるほど、私の身体は後ろに傾く。
だけど、倒れはしない。彼が私を支えるから。

「残念ながら、それは出来ないな」

彼は私の身体をゆっくりと私の身体を起こす。

「――え?」

「だってそうだろう?僕は仮面をつけた君しか知らない。
 仮面をつけていない君が誰かは知らないんだから。
 ――それがマスカレードだろう?
 だから、叱りつけるとすれば、マスカレードの時だけだね」

「でも、そうすれば私はおばあちゃんになっているかもしれないわ」

「そうだね。なら、僕はおばあちゃんになった君に言うんだ。
 『綺麗なお嬢さん、私と踊っていただけますか』ってね」

そう言って彼は笑う。
私は呆れながらも――やはり、笑った。

「君がどう生きようと、それは自由だ。
 だから、この『24時』を楽しむと良い」

私も小さなため息をつく。

「――なら、約束してくださるかしら?顔も知らない貴方?」

「なんだい、顔も知らないお嬢さん?」


「私はきっと、おばあちゃんになって、マスカレードに出るわ。
 だから――その時はまた、こうして踊りましょう」



私がそう言うと、彼は返事もせずにもう一度、手をそっと引く。
タンッ、タンッ、と軽やかな足音を鳴らして私たちは踊る。
仮面の下の笑顔も隠さずに、ただ、楽しげに。



真っ赤なじゅうたんと、爛々と輝くシャンデリア。
淡く広がる音楽に、足音のリズム。
タンッ、タンと床を鳴らして、踊りましょう。
サディスティックな仮面をつけても、

私は私。
異常な頻度で投稿してすみません。
夏休みという巨大休暇終わり頃のいたずら心です。

少しだけ今回は明るいんでしょうか?
自分では何がなにやら分からなくなってきました。
単品で読めるようにしています(つもり)が、
一応、孤独と称した全ての話はつながっています。
時系列はバラバラになっていますが…。

もし良かったら、付き合っていただけると幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

あと、ブログを作ってまとめてみたんで、
暇だったりすればよろしくお願いします…。

http://ameblo.jp/25ji/entrylist.html


追記。

霖之助タグをつけました。
ワタナベ
http://ameblo.jp/25ji/entrylist.html
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コメント



0.2790簡易評価
2.無評価名前が無い程度の能力削除
りんのすけタグをつけてくれよ……飛ばす目安にしてるんだから
4.無評価ワタナベ削除
これはすみません…!
匿名性ってのが出したかったんですが、
分かりにくいですよね。

タグ、つけておきます。
ご指摘ありがとうございました!
8.90名前が無い程度の能力削除
こーりん貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
16.100名前が無い程度の能力削除
作品の雰囲気からしてタグは無くてもいいかもしれませんね。
「銀髪の女性」や「銀髪の男性」等にすれば趣が残るかも。

決して長い作品では無いにもかかわらず、
私の耳には未だにマスカレードの余韻が木霊しています。
21.100カギ削除
個人的には、文章が長い作品が読みごたえがあって好きなのですが、この作品は関係なく楽しめました
…顔が半分までしか見えてないのなら、誰だか判別できる気がするのは私だけ?
24.100名前が無い程度の能力削除
スラッと読めて、頭に入り、良い話。最高!
27.90名前が無い程度の能力削除
こーりんぶっ殺(誉め言葉)
28.90名前が無い程度の能力削除
サラリと読める長さで雰囲気も良かったです
29.90名前が無い程度の能力削除
この空気、いいなぁ。
こういう雰囲気が出せる作品を書きたいものだ。
33.無評価名前が無い程度の能力削除
俺と変われ、妬ましい
34.無評価ワタナベ削除
みなさま、コメント、ありがとうございますー!

>>カギ様
おそらく…というよりは確実に、この二人はお互いが誰か分かってるんです。
でも、それを知らない振りして、踊ってもらいたかったんです。

次はこんな表現が上手く出来るように書きたいと思うんで、
また良かったらよろしくお願いしますー!

ありがとうございました!
38.100名前が無い程度の能力削除
いいですね~。マスカレードですか。ありそうでなかった作品だと思います。
手と手を取り合う二人の間で交わされる大人の会話に、思わずニヤリです。
44.100名前が無い程度の能力削除
俺嫁厨が喚いてますが気にせず次回も宜しくお願いします
48.100名前が無い程度の能力削除
読みやすく落ち着いた感じでとても良かったです。
また書いてください。
50.100名前が無い程度の能力削除
台詞回しと雰囲気がうまいなぁ。
52.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さんもりんのすけもカッコいいなw良かったです
56.100名前が無い程度の能力削除
二人とも分かっていてやってるなw
で、魔理沙は何処いったんだ
62.100名前が無い程度の能力削除
他の”孤独”シリーズや、ブログで連載なさっている東方SS(というか霖之助SS)も含め、ワタナベさんの作品はとても”綺麗”ですね。優しくて、それでいてどこか寂しさも感じさせる。この雰囲気が実に良いです。また、霖之助がとても真摯で好感が持てます。この作品に限った感想でないですが、ワタナベさんの作品のなかでは一番好きな作品ですのでこちらに投稿させて頂きました。新しい作品も楽しみにしています。
63.100奇声を発する程度の能力削除
何とも落ち着いた綺麗なお話でした!
72.100名前が無い程度の能力削除
仮面で顔を隠した二人の邂逅
とても素敵でした。