Coolier - 新生・東方創想話

『回送』の孤独。

2009/09/12 18:15:28
最終更新
サイズ
7.8KB
ページ数
1
閲覧数
1320
評価数
4/53
POINT
2360
Rate
8.83

分類タグ

◇

いつの間にか夜が明けていた。
眩い太陽が私を焦がす。
昨晩の事がこの明るさで嘘になるならば、
私はどれほどに喜んだだろうか。

――おやすみ。

私の古い友人だった彼は、その言葉を最後に居なくなった。
彼はこじんまりとした部屋に敷かれた布団の上で、
ゆっくりと自分の歴史に幕を引いたのだ。

そして、私は彼を荼毘に付すために、
ほんのささやかな黒い行列に混ざっている。
彼の過ごした時間を労うため、
行列の中で、笑顔を絶やさずに。

――それじゃあ、これでさよなら、だね。

里が見渡せる小高い丘の上。
誰かがそれを口にし、小さな小さな火が灯された。
その小さな明かりは、いつのまにか轟々と音を立て、
彼の人生を締めくくり始める。

私は、彼の残したものが強い熱になるのを感じながら、
もう一度心の中で別れを告げて、そこから離れた。
それぞれに思うことがあったのだろう。
私達は、どこか悲しくて、でも、優しいその音を聞いてから、
ゆっくり、ゆっくりとその場を後にした。

◇

それから、私達は宴会を始めた。
みなで酒を飲み、食事をする。
当然、話題に困ることはない。

――あいつは良いやつだった。
――そうだよ、良い人生だったね。

私達は口々に彼の人生を振り返り、笑顔で讃える。
だが、みなは気づいているのだろう。
私達はそれぞれ、涙を流すことなく、
ただ、悲しみながらも笑っていることを。
だから、突然に席を立つものが居ても、何も問わない。
彼が居ない悲しさと同じだけの優しさがここにはある。
なら、私も少しだけ失礼してもいいだろう。

――じゃあ、少し私も外の風を当たってくるよ。

私はそう言って宴会場から離れた。
外に出ると、風が強く私に吹きかかる。

――もしかすると、この風は彼だろうか?

そんなわけないか、と自嘲しつつも、
私はあの小高い丘のところまで来ていた。
もう既に火は消え、彼が居たところには、小さな灰の山だけがある。
だが、その前には、人が立っている。
どうやら、先客が居たようだ。

「――誰かと思えば、霖之助か」

「やあ、慧音。君こそなんでこんな所に?」

「それは私が言いたいことなんだがな」

霖之助はこの葬儀に参列していない。
しかし、誰よりも彼と仲が良かったのはこの霖之助だった。
だからこそ、必ずこの葬儀に参列するだろう、と私は思っていた。

「みながお前を心配していたぞ。何かあったんじゃないかと」

「そうかい、それはすまないね。
 でも、どうしてもああいう場は苦手なんだ」

そう言って霖之助は、手に持った酒を口に含む。

「こんなところで飲むのなら同じだと私は思うがな」

「そうでもないよ、これでも精一杯別れを惜しんでるんだ。
 少しも酔えなくて困るぐらいに」

霖之助はほんの少しだけ俯く。
私は無言で霖之助に近づき、酒瓶をとる。

「私も少しだけ飲ませてもらうぞ」

「好きにするが良い」

そう言って、私達はひとつの酒を分け合った。
強い風がまだ吹いていても、私達の宴会は続く。

「なあ、霖之助」

「なんだい」

「――彼は、あいつは幸せだったと思うか?」

私は空になった酒瓶を手で弄びながら言う。

「それは――最期を看取った君のほうが分かるんじゃないか?」

霖之助はそう言って、目を閉じる。

「だが、私は不安になるんだ。もう二度と本人から聞けないから」

「そうだね、もう彼の気持ちは聞くこともないだろう」

「でも、あの日々は楽しかったな」

「あぁ、とても楽しかったよ」

私もそう言って、目を閉じる。

「――なぁ、霖之助。みなは歳をとったな」

「――そうだね。変わっていないのは僕達だけみたいだ」

「でも、私達もいつまでも留まれはしない」

きっと、霖之助は黙ってうなずいてるんだろう。

「私はな、たまに思うんだ。変わることも、変わらないことも寂しいな、と」

「それは何となく分かるよ」

「あいつは立派に人生を終えたよ。私から見れば、うらやましいほどに」

そういって私は再び目を開く。
それによってまぶたの隙間からすうっ、と一筋の涙がつたった。

「――私は昔、あいつに求愛されてな。正直に言えば嬉しかった。
 でも、断ったんだ。それについては後悔なんてしていない」

「それは、時間が『違う』からかい?」

「そうだ。私はあいつよりずっと長く生きるだろう。
 それが怖かったんだ。共に生き、先に死ぬのを見るのが。
 だが、そのせいかあいつはずっと独身を通しただろう?
 だから、私があいつの幸せを阻害したんじゃないかって不安になるんだ」

私はこぼれた涙を手で拭う。
霖之助に見られないように顔を背けて。

――せめて最期だけは笑顔で見送りたいんだ。

「馬鹿だな、君は」

一瞬の静寂を破り、霖之助がそう言った。
私は思わず振り返り、彼のほうを見る。

「まったく、本当は説教の一つでも君にくれてやりたい所なんだが、
 まずはいいだろう。これを持っていてくれ」

そう言って、霖之助が小さな金属の塊を渡してきた。

「これは――時計?」

薄暗くてあまり見えないが、小さな懐中時計だった。

「だが――これは針が動いていないぞ?」

「あぁ、そうだね。それは君の知っての通り、ただの時計だ」

「それは分かるが――なぜ私にこれを見せるんだ?」

「正確には見せたんじゃない。それは君のものだ」

「私の?どういうことだ?質問にちゃんと答えてくれ」

どう思い返しても、この時計を見た覚えはない。

「では、順を追って話そうと思う。
 僕自身、自分がこんな立場になるなんて思っていなかったから、
 上手く伝えられる自信はないんだが――」


◇


「まず、第一にそれは彼が君にプレゼントするために用意したものだ」


「といっても、買ったのはずいぶん昔のことだがね。
 それでも、君を想って見繕ったんだろう。
 僕も何度か相談をされたものだ」

「そして、なぜ彼の買ったものを僕が持っていたかというと、
 彼に託されたからだ。それは、僕も断ったよ。
 そんなもの僕に渡されても困る、ってね」

「でも、彼はいつか渡してくれ、の一点張りだった。
 きっと、彼なりに思うところがあったんだろう。
 当然、僕の能力をつかってもその用途なんてわからなかった」

「結局、仕方なく引き受けて、僕の元で保管していたわけだが、
 彼が死に、ようやくその意図が少し分かった気がしたんだ」

「だから、持ってきた。それだけだよ」


私は相槌を打つことも忘れ、ただ呆然と聞いていた。

――これを私に?

――でも、あいつは私に何を伝えたかったんだ?

「霖之助、お願いだから教えてくれ。
 あいつは――何を言いたかったんだ?」

霖之助はため息を吐く。

「ここからは僕の推測だがね。
 きっと君自身に止まった時計を動かして欲しかったんだと思う。
 彼は、自分が死んでも、そこで時間を止めることなく、
 君が自分の人生を進めることを願ったんだろう。
 だから、君に時計をプレゼントしようとしたんだと思う」

――なら、あいつは私を恨んでないのか?

そう思って首を振る。
これでは、自分の都合のいいように考えてるだけだ。
だから、そのことを確かにしたかった。
自分以外の人の口からそれを聞きたかった。

「――霖之助、あいつは、どんな想いでいたんだ?」

私がそう言うと、霖之助がもう一度盛大にため息をついた。

「だから、言ったろう?君は馬鹿かと。
 それに、人の大切な気持ちを勝手に話すなんて野暮なことは僕には出来ない」

当たり前だ。
それが当たり前だろう。
なら、この一瞬気が休まったような感覚も、
私が救われたいがために、自ら作り出した虚構なのだろう。

「だが――」

俯いた私を尻目に霖之助は言葉を続ける。

「彼の友人として、僕の想いを君に話すことは出来る。

 ――僕は君に感謝してるよ。本当にありがとう」

霖之助は小さく言葉をこぼす。
開かれたその目から、綺麗な涙を流しながら。

「もし、彼が君を恨んでいるかまだ気になるというならば、
 それを忘れさせるほどに彼を抱きしめてやってくれ」

「軽く、小さくなってしまった彼を慈しんでやって欲しい。
 もう二度と会えないことに涙を流しながら」

「それが恋愛という感情でなくてもいい。
 精一杯、愛していると言ってあげてくれ」

「僕は彼が君と会えてよかったと思う。
 ――だから、心から感謝してるよ」


◇


そう言うと霖之助は黙って歩いていった。

私は小高い丘にひとり立ち尽くす。
手にしっかりと、小さな懐中時計を握り締めながら。

そして、ふらふらと歩き、小さな灰の山の前に立つ。
私は黙ってそれを一握り掴むと、里が見渡せる方向を見た。

――そうだ、私はお前を信じたい。

もし、彼が私に求愛をしたあのときに戻れても、
私はきっと同じ返事をするだろう。
その一線を越えて、恋愛感情を抱くことは出来なかった。
それでも、それでもだ。

私はとても楽しかったのだ。

――きっとお前もそうだろう?

風が優しく、里に向かって吹く。
それに合わせて、私は『彼』を抱きしめた手をゆっくりと解いた。
さらさら、と彼が居なくなる。


――さようなら。良い旅を。


そして、私は大声で泣いた。

彼が居ないことの悲しみと、
それ以上の感謝の気持ちを伝えるために。

ひとしきり泣き終えると、私は時計の針を動かすだろう。

そうして、彼の時間を私が引き継いでいこう。

カチ、カチ、と心音のようにように響く、時計を片手に。
連投して申し訳ないというぐらい、暗い話です…。
書き溜めていたものをここで出させていただきました。

慧音のような悲しみ方、
霖之助のような悲しみ方、
本当に色々ありますが、
葬儀にある独特のぎこちない優しさと、
悲しみを素直に出せない感覚がかけていたなら嬉しいです。

毎度、ありがとうございました…!
ワタナベ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1980点簡易評価
1.100点名前が無い程度の能力削除
ああ、いい話しだねぇ
つい泣きたくなってしまいましたよ
18.90点名前が無い程度の能力削除
ああ、うん。
これはいいな。

違う時間を持つ人間達の間で暮らす彼女らは、
どのくらいそれを噛み締めてきたんだろうかね。
24.90点名前が無い程度の能力削除
言葉では言い尽くせませんがこういう話、好きです

ところでプチの方の作品が無くなってたんですが…
28.無評価ワタナベ削除
皆様、コメントありがとうございます^^

それと、作品は諸事情で削除しました。
と言っても、いずれブログにでもまとめてみようかと思ってるので、
もし良ければよろしくお願いしますー。

改めて、ありがとうございます!
40.100点名前が無い程度の能力削除
思わず深読みしてしまった。

即ち、霖之助が…


良い作品でした。