その空間はとても温かだった。
小さな、とても小さな、私を包み込むので精一杯の小さな空間は、目を閉じていてもほの白い光を感じることが出来て、安心して身を任せることが出来た。
本当は、欲を言えばもう少し大きなほうが落ち着くけど、ここで私が無理に空間を広くしたら温かさが逃げてしまうような気がして、止めておいた。
ひょっとしたらこの空間は、私の大きさに合わせているのかもしれない。私の大きさに合うように設定されているのかもしれない。だって、とてもしっくり身体になじむんだもの。そしてとても温かい。
でも、本当は……本当はこの温かさは、少し苦手だ。この温かさは、人肌に似ている。
人肌は、一度その温かさを知ってしまったら離れがたくなるから苦手だ。知らなければ知らないなりに生きていけるのに、一度知ってしまったら最後、それがなくなったら自分があたかも不幸になってしまったように感じる。自分が惨めな存在になったような気がする。そんなこと、思いたくないのに。
思いたくないから、執着して、追い求めて、でも、追い求めても追い求めても、決して満たされることはない。手に入れた瞬間、新たな欲が生まれて、手に入ったその先を手に入れようとする。
止まらない欲望。温かさを知らなかったら、そんな欲に突き動かされることはなかったのに。浅ましい自分と向き合う必要はなかったのに。だけど、その温かさは、確かに私に幸せと光を分け与えてくれて、それを感じた瞬間、泣きたくなるくらいの、時を止めてしまいたくなるくらいの喜びを感じる。
その温かさを得るためだったら、私は何でも出来る。その温かさは、私の行動の源になる。
単純で、いかにも人間臭い考え方だけど、私は人間だから、きっとそれで良いんだ。理性的で、冷静でいられた頃の自分が懐かしくなるときもあるけど、あの頃の私の心には色がなかったから、殺伐として、銀のナイフのように色がなく、鋭かった。それでも生きていられたけど、色がない世界はつまらなかった。だから、どこか冷めた人間だった。自分と同じ人間に、恐れられるくらいに。
本当に、何て、弱くなってしまったんだろう。強くなったともいえるのかな。分からない。けど、今の私の心は、こんなにも色で溢れている。喜びや悲しみや、嬉しさや嫉妬、愛情や情欲、様々な感情の波が、濁流のように私の心を染め上げていく。その激しい波に、私自身が飲み込まれてしまいそうだ。
あぁ、それでもこうして踏みとどまっていられるのは、私を包み込む光があるから。温かな光があるから。そう、だから私は、この温かさのためなら何だって出来るし、何だって頑張れるんだ。
泣きそうなくらい胸がつまるけど、温かな光は、私を慰めるように包みこんでくれている。
この光を与え続けてもらえるなら、私はきっと、あの頃より、がむしゃらに突き進んでいけるだろう。
だけど、今は、もう少しだけ、この温かさに浸っていたい。
目覚めたら、また頑張るから。
目を閉じたまま、全神経を使って、温かな光を感じた。横になって、猫みたいに身体を丸めた。
そうした途端、温かさの中に一瞬ひやりとした感覚が混じって、反射的に目を開けてしまった。
すぐに目に飛び込んできたのは、よく手入れされた庭園。それも、紅魔館の洋風庭園ではなく、人里で見かけるような、純和風の庭園だった。……あぁ、そういえば、私は博麗神社に来ていたんだっけ。
もう少しあの温かさの中にたゆたっていたかったのに、目覚めの良い身体は、徐々に覚醒していく。
ひやりと、冷たい風が頬を撫ぜた。さっきの冷たさはこれか。だけど身体には毛布がかけられていて、温かい。だからあんな夢を見たのかもしれない。そう思う傍から、夢の内容がおぼろげになっていく。
日の光を反射して金色にきらきらと輝く敷石から、もう夕暮れ時だと分かった。この時刻になるともうすっかり秋の気温だな、とぼんやり思いながら身じろぐと、「あ」と頭上から間の抜けた声が降ってきた。
「おはようございます。咲夜さん」
「うん……どのくらい寝てた?」
「一時間くらいですかね」
「もっと経ってる。一時間半くらいよ」
「え、そうだったっけ?」
美鈴が顔を後ろへ向けたので視線で追うと、立ち上がった霊夢と目が合った。目が合った瞬間、にやりと人の悪い笑みを向けられて、自然と眉が寄った。
「美鈴の膝枕、ずいぶん気持ち良かったみたいね。ぐっすり寝てたわよ」
「疲れてたのよ。……って言うか、何で私、膝枕されてるのかしら?」
「あ、やっぱり気づいてなかったんだ」
悪戯が成功した子供のように笑って、霊夢は私の頭側の畳に、足を伸ばして座った。
「咲夜、話してるうちにだんだんうとうとしてきてね。私と美鈴が、ちょっと寝たら? って言ったら、んー……とか言って、頭をちゃぶ台に突っ伏して寝ちゃったのよ」
「そうだっけ?」
どうも眠る前の状況が思い出せない。そこまで熟睡してしまったんだろうか。
今日は朝方お嬢様がお休みになってから、美鈴と一緒に博麗神社を訪れた。朝方まで起きていたのと、明日が休暇だったのとで、気が緩んでいたのかもしれない。まぁ、休暇と言っても、今回は自ら取得したものではないけれど……。
最近、お嬢様は前より活動的になったのか何なのか、夜になるとパチュリー様と出かけることが増えた。その間、館を守るのは私と美鈴の役目だから(妹様のお守は、何故か小悪魔に任されている)それを労い、前より休暇をくれるようになった。「私達がいない間、ご苦労だったわね」と褒めてもらうのは光栄だけど、何だか体良く追い出されているような気がしないでもない。……まぁ、お嬢様が良いならそれで構わないけれど……。プライベートを詮索しすぎるのは従者としての本分を超している。それに休みをくれるのは、私にとっても、美鈴にとっても、喜ばしいことだし。
「何かね、遊びに来たのは覚えてるのよ。ここでのんびりしてたのは覚えてるんだけど……」
「のんびりしすぎて眠っちゃったのよ。だから私は気を利かせて美鈴に膝枕でもしたら? って言ったの。そしたら素直にしてもらえたのよね」
「いや、最初は、座布団とか枕のほうが寝やすいって言ったんですよ? でもですね、流れというか何と言うか……。霊夢が有無を言わさずですね」
「だって、咲夜はそっちのほうが喜ぶじゃない? 私も面白いものが見れて満足したし」
にこにこ満足げに笑いながら、霊夢が頭を突っついてくる。少しうざったい。声を出すのが面倒で緩く頭を振ると、ようやく指を引っ込めた。まったく、私の頭を突っつく人間なんて、霊夢くらいのものだ。
「ご飯、食べてくでしょ?」
「え、良いんですか?」
「もちろんよ。美味しいお菓子ももらったしね」
『お菓子』のところで、霊夢の声がワントーン上がった。
「まさかそこまで喜んでもらえるとはね」
「だって私、最近咲夜やアリスの洋菓子ばっか食べてたじゃない? だから久しぶりだったのよね」
博麗神社を訪れる際、私とアリス(他にも何人かいるかもしれない)には、お菓子を持ってくることが義務づけられている。理由は簡単で『料理が得意だから』だ。
私とアリスが作るものだから、必然的に霊夢が洋菓子を食べる機会は増える。今日はお菓子を作るのが面倒臭くて(それでも博麗神社を訪れたのは、美鈴が久しぶりに行きたいと言ったから。了承するなんて、私も何て優しくなったんだか……)人里で銘菓と言われる饅頭を持って行った。
お菓子を渡したときの霊夢の喜びっぷりと言ったら、まったく腹立たしかった。「和菓子、最高!」と口走り、お茶もいつもとは違う高いのを淹れてくれた(霊夢は特に言わなかったけど、味で分かった)。
腹立たしいから、和菓子を作れるようになろうと決めた。何だか霊夢の術中に嵌っている気がしないでもないけど、このままではメイド長としてのプライドが許さない。
「今度は私が作ってきてあげるわよ。和菓子とやらを」
「え、本当に? 何かアリスも作るとか言ってたけど」
「それは魔理沙のためでしょ、どうせ。あんたはただの毒見役よ」
アリスが作るなら、なおのこと私も作れるようにならないと。紅魔館のメイド長として、お菓子作りを一般人に負けるわけにはいかない。毎日毎日作ってるんだから。
「毒見役でも、アリスの場合、おいしくないことないから別に良いけどね」
「毒見役かぁ……。私も咲夜さんの試食役なら良くやるけど、良いものだよね」
「あ、それは羨ましいわ。やっぱ、作ってもらえるのって良いわよねぇ」
庭に向かってしみじみと言うと、霊夢は「よっ、と」とおばさん臭い掛け声を上げて立ち上がった。
「そうやって少しイチャイチャしてると良いわ。私はご飯作ってくるから」
「最初の言葉は流すけど……本当に良いの?」
「何か悪いなぁ」
「たまには私が御馳走しないとね。言っとくけど、和食だから。それにあんまり期待しないでよ」
「私は楽しみにしてるわ。作ってもらえるのって良いもの、なんでしょ?」
先程の霊夢の口調を真似て言うと「うっ」と霊夢が口ごもった。それを見て私はにやりと笑った。
「……本当、性格悪いわね」
「お互い様でしょ」
「え。何でですか?」
「「何でもない」」
私と霊夢、二人同時に言われて「あぅ」と美鈴が泣きそうな顔になった。うん、可愛い。さすがに口に出しては言わないけど、私はこの表情が大好きだ。霊夢はと言うと、毒気を抜かれた様子で「じゃあ……まぁ、本気出すか」と呟きながら部屋を出ていった。
「……ねぇ、咲夜さん。私、何か変なこと言いました?」
「別に。貴女らしくてとても良いと思ったわ」
「えぇ? 何をもってそう言われたのか、まったく分からないんですけど」
むぅ、と思案顔になる美鈴を見て笑みが零れた。そういう素直でまっすぐなところが良い。言葉遊びも大好きだけど、気を張ることなく話が出来る美鈴は、私にとって貴重な存在だ。計算も、駆け引きもなく、素のままで付き合える、と言うか、素直な感情を出せる相手は、美鈴くらいだ。
風が吹き込んで、ちりんと涼しげな音が鳴った。寝返りを打って天井のほうを見上げれば、軒下に、丸いガラスに金魚の絵が描かれた風鈴がぶら下がっていた。これも、もうすぐしまわなければならないだろう。季節は秋に向かって確実に進んでいる。涼しげな音も必要なくなる。
まったく、夏になったと思ったら、すぐこれだ。私の思いなんて意に介さず、どんどん過ぎ去っていく。それがとても悔しく感じるのは、私が時を操ることが出来るからだろうか? こんな能力がなければ、普通の人間ならば、もっと四季の移ろいを自然と受け入れられたんだろうか……?
「咲夜さん。寒いですか? 襖、閉めましょうか?」
「え? あぁ、別に、寒くないから大丈夫よ」
声を掛けられて、はっと我に返った。気付けば身体を丸めてしまっていた。美鈴が気を利かせて、柔らかな毛布を肩まで引き上げてくれた。
「風、随分涼しくなりましたよね」
「そうね。貴女はどうなの? 寒くない?」
「大丈夫ですよ。涼しくて気持ち良いです」
「なら、もう少しこのままで。夕暮れ時で、綺麗だし」
「そうですね」
屋根と庭木の間に見える空は、薄い水色に薄い黄色を溶かし込んだような色をしている。世界が薄い黄色の光に包まれる。もうすぐ今日という日が終わってしまう。ちりんと鳴る風鈴の音が、物悲しさを私に伝えてくる。私の力がもっと強ければ、あるいは……。涼しげな風鈴の音が、私の心を揺さぶる。
「……あの風鈴は、そろそろしまわないと駄目ね」
「あぁ、もう夏も終わりですからね」
「えぇ。早いったらないわ」
「そうですね。あっという間でしたね。でも今度は、虫の音が綺麗な季節になりますよ」
「え?」
「鈴虫とか、松虫とか。紅魔館の庭園でも、夜になると聞こえるようになりました。気付いてました?」
「全然……」
「まぁ、私は夜に庭園を見回ったりしてますからね。だから気付いたんですけど」
「そうなの」
……と言うか、見に行くときに、声くらいかけてくれれば良いのに。
美鈴が丹精込めて手入れしている庭園で、虫の音を聞く。
満天の星空の元で、ほの明るい庭園を、美鈴を手を繋ぎながら。
途中、ベンチに座って、夜風に当たりながら、二人で夜空を眺めたりして……。
「今度、見回るとき一緒にどうですか? 忙しくなければですけど……」
「良いわね。時間なんていくらでも都合がつけられるもの。呼びに来て」
「本当ですか? ありがとうございます! 楽しみです」
「私も、楽しみにしてるわ」
何食わぬ顔で言いつつも、内心とても楽しみで仕方ない。表情には決して出さないけど。
夜散歩に出るなら、何か温かい飲み物とお菓子も持って行こう。そうすれば、必然的に二人でのんびり過ごす時間が増えるし、触れ合う機会もぐっと増えるはずだ。
私はもっと美鈴と触れ合いたい。美鈴は何故か、私に愛情を傾けてもらえるだけで満足、というようなところがあるから、あまり自分から触れてはこない。そんな現状に私は欲求不満なのだ。
だから、私がスキンシップを図るのは何もやましいことではなく、私たちの関係を進展させるには必要なことなのであって、私が夜の庭園で美鈴に何をしでかそうと、それはすべからく正しいことなのだ。美鈴が積極的であれば、私も強硬手段に出ることはなかった。……と言うか、強硬手段は確定事項なのか私。まぁ、そのくらいは許されるだろう。膝枕<枕・座布団とか勘違いしてる輩に、手加減は必要なし。
「……咲夜さん、あの、何かすごく怖い顔してるんですけど」
「あらそう? 私はいたって普通よ」
「嘘です。絶対嘘ですよー……」
「見回り楽しみね」
「は、はぁ……私も楽しみにしてるんですけど、してるんですけどね」
美鈴は首を傾げながら「何か不安なんですよね……」と呟いた。
大丈夫。悪いようにはしないから。心配しないで。大丈夫。と頭の中で繰り返す。口にしてしまったら、絶対、満面の笑みになるだろうし、怪しさが倍増するから、言わない。
笑いを隠すように毛布を口元まで引き上げると、ちりんと風鈴の音が耳に届いた。
……あれ? 今度はまったく気にならない。さっき感じていた寂しさや、物悲しさはどこへ?
秋になるのが、待ち遠しくなったから? と言うか、美鈴と見回りという約束が出来たから?
確かに、私は早く、今思い描いていた計画を実行したい。出来れば今すぐにでも美鈴に飛びかかりたい。待たされるのは苦手だ。待たされるくらいなら、自分から飛び込んでいく。だって、時間は決して待ってくれないから。迷ってる暇はないのよ。
……まったく我ながら単純な思考をしていると思う。美鈴のことを笑えないくらいに。と言うか、私がこんなふうになったのは、絶対に美鈴のせいだ。まったくどうしてくれる。
万一嫌がられたら、被害者ぶってるんじゃないわよ。私がどれだけ我慢してきたか、分かってるの? 貴女がもっともっと私に触れてきてくれたら私もこんなことはしなかったのよ。観念なさい。泣いたって駄目。って言うか泣くの早いのよ。後に取っときなさいよ。とか言ってやろう、と思ったけど、これじゃ本気で泣かれて「大嫌いです!」とか言われる恐れがあるので止めよう。
あぁ、私ったら何て丸くなったんだろう……。自分で自分を褒めてあげたい。私はなんて……。
わしゃ。
高速回転する思考の中に、突然おかしな音が混じった。……わしゃ?
驚いて身を固くすると、わしゃ、わしゅ、と連続して音がして、手のひらの感触がして、あ。私今、頭撫でられてる、と気付いた。どうして? 何故いきなり撫でられたんだろう? と思って視線を上げると、当の美鈴は、少し困った表情をしていた。
「咲夜さん、また少し怖い顔してたので……。それとさっき……」
「さっき?」
「霊夢があの……」
「霊夢が? 何?」
「咲夜さんの頭を突っついていたので。私、あんまり触ったことないじゃないですか。だから、あの……撫でてみようかなぁ、と思ったというか。ずっとタイミング図ってたんですけど、今だ! と思って」
「狙ってたの? ずっと」
「はい」
「今だと思ったのね?」
「はい」
「別に、撫でても構わないわよ」
「ありがとうございます」
……あぁ、もう。と心の中で小さく呟いて、毛布を引き上げて目を閉じた。
もっと前にチャンスがあったじゃない? だとか、積極的になって欲しいという願いが通じたのかな? だとか、色んな思いが渦巻くけど、それにも増して、あぁ、もう、この娘は何て可愛い。すっごく可愛い。半端なく可愛い。あーもー可愛い! という思いが頭を占めてどうしたら良いか分からない。これが全て計算されたものじゃないから困る。もし計算しているなら、私も、もっと大胆な行動を取れるのに……。まぁ、計算してないから可愛いのかもしれないけど、ほんの少しだけ恨めしい。
「あ、お休みになりますか?」
「寝る……。ご飯出来たら起こして」
「はい。お疲れでしょうから、ゆっくり休んでくださいね」
「えぇ」
ご飯出来たら起こせなんて自分で言っておきながら何様なのよと思うけど、今はとにかく頭を休めたい。揺れ動くこの想いを鎮めたい。……まぁ、美鈴の太股に頭乗せてる時点で無理かもしれないけど。温かな体温が伝わってきて、平静になることを許してくれない。温かな体温は私に安心をくれるけど、こうして欲望を滾らせるものでもある。この体温が欲しい、と思ってしまう。
あぁ、出来れば今私を撫でているその腕を掴みたい。掴んだ後は手の甲に口付けて、驚きに見開かれた瞳をじっと見つめて射すくめて、起き上がってそれから……。
「咲夜さん?」
気がついたら、腕が伸びていた。美鈴の手首を掴んでしまっていた。美鈴は少し驚いている。でも一番驚いているのは私だ。衝動的に動いてしまったことにとても動揺している。
いや、今のはあくまで妄想であって、今実行すべきことではなくて、でもこうして掴んでしまった以上後には引けない気がして、いやでもここは霊夢の家だと、流されそうになる自分を叱咤する。どうして見回りのときまで待てないんだ、私は! あぁ、霊夢早く戻ってきて。この戸惑いを含んだ微妙な空気は、貴女が来れば吹き飛ぶはず。と思いつつ、そう都合良く来てくれるものではないことも分かっている。
「あの、どうしましたか?」
「……あぁ、これはね……」
これから私は必死で言い訳を考えなければならない。冷静さを総動員して乗り切らなければならない。だから、頼むからそんな恥ずかしそうな顔をしないで。貴女に今そんな顔をされたら、私は……。
……口付けだけなら、許されるだろうか?
美鈴の固まってしまった腕を掴んで引き寄せた。反対の手で畳に手をついて、上体を起こした。
「……貴女の体温を、もっと感じたくて」
「え……?」
するりと言葉が滑り出た。
至近距離で見つめる翠色の瞳は大きく見開かれ、戸惑いに揺れて、とても綺麗だ。
揺れる瞳に吸い寄せられるように、そっと口付けた。温かさを感じて、どうしようもなく胸が痺れた。
はっと、小さく息を飲む音が聞こえて、笑みが零れた。安心させるように、腕の力を弱めた。
「大丈夫。キスだけ、だから」
「咲夜さん……」
今、霊夢が現れたら、逆に困ったことになる。恥ずかしすぎて死んでしまうかもしれない。恐らく美鈴も。
じわじわ火照り始めた頬を、風が静かに撫でていく。
遠くでちりんと鳴った風鈴の、涼しげな音が、心地良く耳に響いた。
冒頭部に文章の詰め過ぎがあるために、視覚的な圧迫感を与えてしまっているのが残念。
内容は別段問題ないですが、今後は見た目も考えたレイアウトを構想してみるといいかも。
特に横書きだとイメージが左右されるし。
めーさくだと終始ぽかぽか、さくめーだと微シリアスが混ざる印象がありますね。
素敵なSSをありがとうございました。
一度目は物悲しさを覚え、
二度目は気にならず、
三度目は心地良い。
美鈴という人物が、咲夜さんにとってどういう存在なのか、どれだけの存在なのかを良く表していますね。
素敵なお話でした。
さておき良いさくめーでした。ごちそうさまです。