「へえ、あなた不老不死なのね。苦労なくて羨ましいわ」
「え?ああ、まあな」
「私も不老不死なら里からの信仰も集まって賽銭が充実するのかしら」
「ああ…そうかもな」
「? どうしたのよ妹紅。元気ないわね。珍しく宴会に顔を出したというのに」
「うるさい。慧音に連れてこられただけだ」
「そう言って。内心楽しんでるくせに」
「む…」
「いいのよ、宴会くらい楽しんだって。今夜は無礼講よ」
「はは、まぁそれもそうだな」
「おーい霊夢ー!萃香が暴走したぜ!?」
「れいむのわきわきうりゃー!」
「はぁ…それじゃあね妹紅。また後で」
「おう!」
――――
「あ、妹紅。今日は宴会じゃないのに、どうしたの?」
「ん?ああ。里の人間から果物を納めるよう頼まれてな」
「あれ?普段は慧音が持ってきてるのに」
「たまには私だって仕事するさ。受け取れ」
「ええ。ありがたく頂くわ。あ、そうだ、お茶飲んでいきなさいよ」
「わかった」
「…しっかし不老不死ってのも怖いわねえ。あのときは見た目私より年上だったのに」
「そういうもんさ。私は死にもしなければ老いもしない。ずっとこのままさ」
「ふうん、うらやましいわ」
「そう言うな、結構難儀なんだ」
「…ふーん、それはどういう意味でかしら?」
「ああ、…ってうおわっ!?」
「あのね紫…神出鬼没なのは良いけどいきなり腹から首だけ出すのはやめて欲しいわ」
「ああ、驚かせてごめんなさいね。で、藤原妹紅さん。難儀ってどういう事かしら?」
「あ?どういうこともこういうことも、良いことばかりじゃないって事だよ」
「私はそれは羨ましく思うわ。老いる苦しみから逃げられるなんて」
「スキマ妖怪が老いとか言ってるんじゃないわよ」
「あらやだ。結構大変なのよ。お肌のケアしなきゃ荒れちゃうもの」
「…、あきれて物も言えん」
――――
―ああ、どれくらい昔のことだったろうか。
ふと昔のことを思い出し、感傷にふける。
あれから長い年月が過ぎた。
幻想郷は変わった。
空…といったか。あの地獄鴉はあの時代――
霊夢たちが老いてきたあたりに一度幻想郷から姿を消した。
地縛殿異変より40年ほどだっただろうか。
あのときは大変だった。
古明時さとりやら、火炎猫やらがそいつを探しに地上に乗り込んできたのだ。
霊夢たちが追い払ったようだが、正直私は霊夢たちより大変だったと自負できる。
地下の人間がいきなり地上に出てきたらどうなるか。
そんなことは安易に想像が付く。
幻想郷はまさに大変なこととなった。
ありとあらゆるところで弾幕ごっこが発生し、場所によっては殺し合いまで発展することもあった。
私はそういった争いごとから里を守るために奔走していた。
外での大戦の被害が少なからず発生していたのだ。
とにかく忙しかった。
――――
…気が付けば、霊夢は息を引き取っていた。
そうだ。人間の寿命などたかが知れている。
そんなことはわかっていた。
わかっていたが、涙は止まらなかった。
私が泣いたのはいつ以来だったか。
そんなことはもはや覚えてはいない。
覚えては居ないが、とにかく私にとって泣くと言うことはあまり経験無かったということはわかる。
霊夢の通夜には多くの人妖が駆けつけた。
どうやら、あの小鬼でも生娘のように涙する時もあるらしい。
他も同様だ。半霊の剣士は正座のまま涙を流し
館の吸血鬼も信じられないと言った眼差しで棺を見つめていた。
スキマ妖怪は口元を隠し、緑髪の悪霊とともに真剣な眼差しで棺を見ていた。
その目には何を見据えていたのだろうか。私の知る由ではない。
永遠邸の医者から聞いた話では、外で掃除をしていたところ急に心臓が発作、
数分後に心肺機能が停止、脳死に至ったと説明を受けた。
それ以来、私の生活は少し変わったように思える。
――――
私は、里の人間との干渉を経った。
慧音には反対されたが、正直今まで通りには接することは出来ないという
私の判断から決定したことだ。
それ以来、あまり慧音には会わなくなった。
どうやら、里では多くの物が幻想郷入りして空前の成長を遂げているらしい。
その管理で忙しいのだそうだ。
――――
霊夢たちが息を引き取り、5世代…200年ほど経った頃に
かの地獄鴉がぽつりと幻想郷に戻ってきた。
あの鴉が時の経った幻想郷を見てどう思っただろうか。
それとも、鳥頭だからすでに霊夢は忘却の彼方であろうか。
これも私の知る由ではない。
――――
…里は変わった。
私が前に見たとき、里は木造建築で着物姿の子供達が徘徊している場所だったが
その面影すら今は見ることが出来ない。
固い地面に舗装された道路、
立ち並ぶ石の塔、
動く鉄の塊、
もはや私が里に手を貸す必要はない、
それを悟った。
――――
鴉が戻ってきてからさらに永い年月が経った。
この頃私はずっと家で里から慧音の持ってきたテレビゲームをやっていた。
この頃の幻想郷のことについては余り知らないが
大きく変動があった。
吸血鬼は事切れ、
小鬼は地底へ帰り、
半霊の剣士は代替わりし、
花の妖怪は姿を消し、
…
…挙げればキリはない。
一つ言えることは、今や幻想郷は里の人間の物と言って差し支えない。
外の世界から流れ着いた大量の兵器、大量の文明、
それらによって里の人間は変わった。
対妖怪用鎧を身に纏い、里の勢力図を大幅に増やしていった。
魔界や地底まで乗り込み、屈服させた。
慧音はその里の中心に居た。
人間どもの毒気に充てられてしまったのだろう。
その慧音に以前の面影は感じられなかった。
私は慧音との交流を切った。
永い時を生きる内に俯瞰的になってしまったのだろう。
里の人間が殺されようが、私は何も思わなくなった。
…私は日和見していた。
家に置いてある「こちら葛飾区亀有公園前交番・19804巻」を読みながら。
――――
しかし盛者必衰とはよく言う物だ。
大量の兵器と文明を手に入れ幻想郷を支配し、
1000年は経とうかという頃、それは起きた。
どうやら外から流れ着くのは兵器や文明だけではないらしい。
さまざまな天変地異まで流れ着いた。
湖の水面は上がり、
空からは紫外線という有害な光線が流れ込み、
食料には水銀という毒まで入り込み、…
流れ着くのは天変地異ばかりではない。
人間どもの汚い考えというべきか、そんなものまで幻想入りしてきた。
権力を奪え、あいつを引きずり下ろせ、
などやっている内に、里は水位の上がった湖に飲まれた。
私の家も飲まれてしまった。
さようなら、我がゲームハウス。
――――
そんな災害が起こって尚繁栄していられるほど人は丈夫ではない。
しかし、それを認められるほど謙虚でもない。
人々のそう言った不満は慧音にぶつけられた。
ある人は無能な指導者と言い、
ある人は欲に目のくらんだ王と言い、
とにかく散々な言いようだった。
責任転嫁するのは人間の性か。
慧音は主犯として祭り上げられた。
そして嬲り殺されたらしい。
まぁ、それは私の知ったことではない。
あの慧音は慧音などではない。タダの牛だ。
――――
しかし曲がりなりにも慧音は優秀な妖怪だ。
それを失った人間がどうなるかは安易に想像は付く。
案の定、人間は1000年と持たずに幻想郷から消えた。
そして私は孤独になった。
幻想郷の中でも災害の被害が少なかった妖怪の山に身を寄せ、
小さな小屋を建ててそこで暮らすことにした。
小さな小屋で暮らしていると、昔を思い出すが
外で遊ぶ子供の声も聞こえなければ、里からの花火の音も聞こえない。
まぁ別に良い。
今までずっとそうだったし、これからもそうだ。
どうせ朽ちることは無い。もはやどうでもいい。
そういった思考が体を支配することになった頃、
予想外の来客があった。
――――
胡散臭い洋風衣装に身を包み、
黒猫の権化というような式を連れた八雲紫が小屋の前に現れた。
「お久しぶり、妹紅。5291年と6ヶ月12日と3時間ちょっとぶりね」
「貴様は…いつぞやのスキマ妖怪」
「あらあら、そんな警戒しないでよ。今日はお話をしに来ただけ」
「その胡散臭い格好でか?」
「もう、失礼ね。私はいつもこうよ」
「それで、今日は何の用だ」
「…冷たくなったのね。まぁ、あんなことがあればわけないわ」
「何が言いたい」
「あなたからは昔霊夢とお茶を酌み交わした面影は見えないわ」
「だから何が言いたい。殺されたいか」
「…ええ、戯れが過ぎたわね。本題に入るわ」
「早く入れ」
「外に世界にも、幻想郷にも、人間は居なくなった」
「それがどうした」
「妖怪も消えたわ。残っているのは私達とあなた達蓬莱人、鬼と天狗に幽霊、あとは神様くらいよ」
「だからそれがどうした」
「ええ、どうもしないわ。時間取らせてすみませんでしたわ」
「…フン」
――――
…さらに永い時が経った。
ふと小屋の中でやることもなく惚けていると、
突然それは起きた。
――ドドォォォォォーン――
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――
私は飛び上がり妖怪の山を見た。
妖怪の山が噴火している。
空を飛び、人間の里の廃墟の近くまで逃げた。
その後、噴火の様子を観察していた。
噴火はあっというまに地を呑み、山を呑み、森を焼いた。
そしてこの近くまでやってきた。かなり大きい噴火らしい。
そう思いながら高空に飛び様子を見ていた。
…
しばらくすると、溶岩は固まり、
それまでそこに建物の廃墟があったとは思えないような岩場を作り上げた。
――――
そして、永久の時が流れた。
もはや何もない。
私が生きている証もなければ、死んだという証もない。
噴火の後、あちこちを回った。
マヨヒガへ行った。
スキマ妖怪の亡骸こそ見つからなかったが、式である黒猫の死骸らしき骨があった。
八雲紫はスキマでどこか遠くに行ったのかも知れない。
もうこの幻想郷に戻ってくることは無いのだろう。
そう確信した。
博麗神社に行った。
神社は溶岩に埋まっている。
長い時間をかけて掘り進めていった。
すると、いくつか発見した。
小鬼の持っていた瓢箪と鎖、もう一人の鬼がつけていた鎖が溶岩の中に埋まっていた。
もはやここには望みはない。
そう思った。
守矢神社だった場所に行った。
守矢神社のあった場所には、溶岩のせいで下半分が岩に埋まった御柱のみが残っていた。
気配は一切無かった。
神々はどこに行ったのだろうか。私の知る由ではない。
踵を返して歩いた。
天狗の印刷所だった場所の近くに行った。
印刷所は完全に岩に埋もれており、場所すら分からない。
誰かの気配は一切無く、たくさんの烏の死骸だけが転がっていた。
永遠亭だった場所に向かった。
蓬莱の医師か輝夜ならば居るかも知れない。
一縷の希望を持って向かった。
思えば、希望を持つのも久しぶりな気がする。
だが、その希望はすぐに打ち砕かれた。
永遠亭があった場所には、ロケットの発射台のみが残されていた。
月か、別の惑星に向かったのであろう。
――――
…ああ、今この幻想郷には私しかいないのか。
ふふ、それもいい。
もはや私は狂ってしまっているのかも知れない。
いや、もとから狂っていたか。
はは、と自嘲する。
ふとしょうもないことを考える。
私はどうすれば死ねるのだろう、と。
――――
太陽が紅く、大きくなってきた。
慧音から聞いたことがある。太陽はいつか大きくなり地球を飲み込むそうだ。
その時は笑い飛ばしていたが、もうこんな時が経ったのか。
――――
……
…………
………………
――――
ああ、もういっそ殺しておくれ。
宇宙を漂い続け、どれくらいになったのだろう。
輝夜に会いたいと思うなど、私も充てられたものだな。
…
ああ、輝夜よ。
助けておくれ。
「え?ああ、まあな」
「私も不老不死なら里からの信仰も集まって賽銭が充実するのかしら」
「ああ…そうかもな」
「? どうしたのよ妹紅。元気ないわね。珍しく宴会に顔を出したというのに」
「うるさい。慧音に連れてこられただけだ」
「そう言って。内心楽しんでるくせに」
「む…」
「いいのよ、宴会くらい楽しんだって。今夜は無礼講よ」
「はは、まぁそれもそうだな」
「おーい霊夢ー!萃香が暴走したぜ!?」
「れいむのわきわきうりゃー!」
「はぁ…それじゃあね妹紅。また後で」
「おう!」
――――
「あ、妹紅。今日は宴会じゃないのに、どうしたの?」
「ん?ああ。里の人間から果物を納めるよう頼まれてな」
「あれ?普段は慧音が持ってきてるのに」
「たまには私だって仕事するさ。受け取れ」
「ええ。ありがたく頂くわ。あ、そうだ、お茶飲んでいきなさいよ」
「わかった」
「…しっかし不老不死ってのも怖いわねえ。あのときは見た目私より年上だったのに」
「そういうもんさ。私は死にもしなければ老いもしない。ずっとこのままさ」
「ふうん、うらやましいわ」
「そう言うな、結構難儀なんだ」
「…ふーん、それはどういう意味でかしら?」
「ああ、…ってうおわっ!?」
「あのね紫…神出鬼没なのは良いけどいきなり腹から首だけ出すのはやめて欲しいわ」
「ああ、驚かせてごめんなさいね。で、藤原妹紅さん。難儀ってどういう事かしら?」
「あ?どういうこともこういうことも、良いことばかりじゃないって事だよ」
「私はそれは羨ましく思うわ。老いる苦しみから逃げられるなんて」
「スキマ妖怪が老いとか言ってるんじゃないわよ」
「あらやだ。結構大変なのよ。お肌のケアしなきゃ荒れちゃうもの」
「…、あきれて物も言えん」
――――
―ああ、どれくらい昔のことだったろうか。
ふと昔のことを思い出し、感傷にふける。
あれから長い年月が過ぎた。
幻想郷は変わった。
空…といったか。あの地獄鴉はあの時代――
霊夢たちが老いてきたあたりに一度幻想郷から姿を消した。
地縛殿異変より40年ほどだっただろうか。
あのときは大変だった。
古明時さとりやら、火炎猫やらがそいつを探しに地上に乗り込んできたのだ。
霊夢たちが追い払ったようだが、正直私は霊夢たちより大変だったと自負できる。
地下の人間がいきなり地上に出てきたらどうなるか。
そんなことは安易に想像が付く。
幻想郷はまさに大変なこととなった。
ありとあらゆるところで弾幕ごっこが発生し、場所によっては殺し合いまで発展することもあった。
私はそういった争いごとから里を守るために奔走していた。
外での大戦の被害が少なからず発生していたのだ。
とにかく忙しかった。
――――
…気が付けば、霊夢は息を引き取っていた。
そうだ。人間の寿命などたかが知れている。
そんなことはわかっていた。
わかっていたが、涙は止まらなかった。
私が泣いたのはいつ以来だったか。
そんなことはもはや覚えてはいない。
覚えては居ないが、とにかく私にとって泣くと言うことはあまり経験無かったということはわかる。
霊夢の通夜には多くの人妖が駆けつけた。
どうやら、あの小鬼でも生娘のように涙する時もあるらしい。
他も同様だ。半霊の剣士は正座のまま涙を流し
館の吸血鬼も信じられないと言った眼差しで棺を見つめていた。
スキマ妖怪は口元を隠し、緑髪の悪霊とともに真剣な眼差しで棺を見ていた。
その目には何を見据えていたのだろうか。私の知る由ではない。
永遠邸の医者から聞いた話では、外で掃除をしていたところ急に心臓が発作、
数分後に心肺機能が停止、脳死に至ったと説明を受けた。
それ以来、私の生活は少し変わったように思える。
――――
私は、里の人間との干渉を経った。
慧音には反対されたが、正直今まで通りには接することは出来ないという
私の判断から決定したことだ。
それ以来、あまり慧音には会わなくなった。
どうやら、里では多くの物が幻想郷入りして空前の成長を遂げているらしい。
その管理で忙しいのだそうだ。
――――
霊夢たちが息を引き取り、5世代…200年ほど経った頃に
かの地獄鴉がぽつりと幻想郷に戻ってきた。
あの鴉が時の経った幻想郷を見てどう思っただろうか。
それとも、鳥頭だからすでに霊夢は忘却の彼方であろうか。
これも私の知る由ではない。
――――
…里は変わった。
私が前に見たとき、里は木造建築で着物姿の子供達が徘徊している場所だったが
その面影すら今は見ることが出来ない。
固い地面に舗装された道路、
立ち並ぶ石の塔、
動く鉄の塊、
もはや私が里に手を貸す必要はない、
それを悟った。
――――
鴉が戻ってきてからさらに永い年月が経った。
この頃私はずっと家で里から慧音の持ってきたテレビゲームをやっていた。
この頃の幻想郷のことについては余り知らないが
大きく変動があった。
吸血鬼は事切れ、
小鬼は地底へ帰り、
半霊の剣士は代替わりし、
花の妖怪は姿を消し、
…
…挙げればキリはない。
一つ言えることは、今や幻想郷は里の人間の物と言って差し支えない。
外の世界から流れ着いた大量の兵器、大量の文明、
それらによって里の人間は変わった。
対妖怪用鎧を身に纏い、里の勢力図を大幅に増やしていった。
魔界や地底まで乗り込み、屈服させた。
慧音はその里の中心に居た。
人間どもの毒気に充てられてしまったのだろう。
その慧音に以前の面影は感じられなかった。
私は慧音との交流を切った。
永い時を生きる内に俯瞰的になってしまったのだろう。
里の人間が殺されようが、私は何も思わなくなった。
…私は日和見していた。
家に置いてある「こちら葛飾区亀有公園前交番・19804巻」を読みながら。
――――
しかし盛者必衰とはよく言う物だ。
大量の兵器と文明を手に入れ幻想郷を支配し、
1000年は経とうかという頃、それは起きた。
どうやら外から流れ着くのは兵器や文明だけではないらしい。
さまざまな天変地異まで流れ着いた。
湖の水面は上がり、
空からは紫外線という有害な光線が流れ込み、
食料には水銀という毒まで入り込み、…
流れ着くのは天変地異ばかりではない。
人間どもの汚い考えというべきか、そんなものまで幻想入りしてきた。
権力を奪え、あいつを引きずり下ろせ、
などやっている内に、里は水位の上がった湖に飲まれた。
私の家も飲まれてしまった。
さようなら、我がゲームハウス。
――――
そんな災害が起こって尚繁栄していられるほど人は丈夫ではない。
しかし、それを認められるほど謙虚でもない。
人々のそう言った不満は慧音にぶつけられた。
ある人は無能な指導者と言い、
ある人は欲に目のくらんだ王と言い、
とにかく散々な言いようだった。
責任転嫁するのは人間の性か。
慧音は主犯として祭り上げられた。
そして嬲り殺されたらしい。
まぁ、それは私の知ったことではない。
あの慧音は慧音などではない。タダの牛だ。
――――
しかし曲がりなりにも慧音は優秀な妖怪だ。
それを失った人間がどうなるかは安易に想像は付く。
案の定、人間は1000年と持たずに幻想郷から消えた。
そして私は孤独になった。
幻想郷の中でも災害の被害が少なかった妖怪の山に身を寄せ、
小さな小屋を建ててそこで暮らすことにした。
小さな小屋で暮らしていると、昔を思い出すが
外で遊ぶ子供の声も聞こえなければ、里からの花火の音も聞こえない。
まぁ別に良い。
今までずっとそうだったし、これからもそうだ。
どうせ朽ちることは無い。もはやどうでもいい。
そういった思考が体を支配することになった頃、
予想外の来客があった。
――――
胡散臭い洋風衣装に身を包み、
黒猫の権化というような式を連れた八雲紫が小屋の前に現れた。
「お久しぶり、妹紅。5291年と6ヶ月12日と3時間ちょっとぶりね」
「貴様は…いつぞやのスキマ妖怪」
「あらあら、そんな警戒しないでよ。今日はお話をしに来ただけ」
「その胡散臭い格好でか?」
「もう、失礼ね。私はいつもこうよ」
「それで、今日は何の用だ」
「…冷たくなったのね。まぁ、あんなことがあればわけないわ」
「何が言いたい」
「あなたからは昔霊夢とお茶を酌み交わした面影は見えないわ」
「だから何が言いたい。殺されたいか」
「…ええ、戯れが過ぎたわね。本題に入るわ」
「早く入れ」
「外に世界にも、幻想郷にも、人間は居なくなった」
「それがどうした」
「妖怪も消えたわ。残っているのは私達とあなた達蓬莱人、鬼と天狗に幽霊、あとは神様くらいよ」
「だからそれがどうした」
「ええ、どうもしないわ。時間取らせてすみませんでしたわ」
「…フン」
――――
…さらに永い時が経った。
ふと小屋の中でやることもなく惚けていると、
突然それは起きた。
――ドドォォォォォーン――
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――
私は飛び上がり妖怪の山を見た。
妖怪の山が噴火している。
空を飛び、人間の里の廃墟の近くまで逃げた。
その後、噴火の様子を観察していた。
噴火はあっというまに地を呑み、山を呑み、森を焼いた。
そしてこの近くまでやってきた。かなり大きい噴火らしい。
そう思いながら高空に飛び様子を見ていた。
…
しばらくすると、溶岩は固まり、
それまでそこに建物の廃墟があったとは思えないような岩場を作り上げた。
――――
そして、永久の時が流れた。
もはや何もない。
私が生きている証もなければ、死んだという証もない。
噴火の後、あちこちを回った。
マヨヒガへ行った。
スキマ妖怪の亡骸こそ見つからなかったが、式である黒猫の死骸らしき骨があった。
八雲紫はスキマでどこか遠くに行ったのかも知れない。
もうこの幻想郷に戻ってくることは無いのだろう。
そう確信した。
博麗神社に行った。
神社は溶岩に埋まっている。
長い時間をかけて掘り進めていった。
すると、いくつか発見した。
小鬼の持っていた瓢箪と鎖、もう一人の鬼がつけていた鎖が溶岩の中に埋まっていた。
もはやここには望みはない。
そう思った。
守矢神社だった場所に行った。
守矢神社のあった場所には、溶岩のせいで下半分が岩に埋まった御柱のみが残っていた。
気配は一切無かった。
神々はどこに行ったのだろうか。私の知る由ではない。
踵を返して歩いた。
天狗の印刷所だった場所の近くに行った。
印刷所は完全に岩に埋もれており、場所すら分からない。
誰かの気配は一切無く、たくさんの烏の死骸だけが転がっていた。
永遠亭だった場所に向かった。
蓬莱の医師か輝夜ならば居るかも知れない。
一縷の希望を持って向かった。
思えば、希望を持つのも久しぶりな気がする。
だが、その希望はすぐに打ち砕かれた。
永遠亭があった場所には、ロケットの発射台のみが残されていた。
月か、別の惑星に向かったのであろう。
――――
…ああ、今この幻想郷には私しかいないのか。
ふふ、それもいい。
もはや私は狂ってしまっているのかも知れない。
いや、もとから狂っていたか。
はは、と自嘲する。
ふとしょうもないことを考える。
私はどうすれば死ねるのだろう、と。
――――
太陽が紅く、大きくなってきた。
慧音から聞いたことがある。太陽はいつか大きくなり地球を飲み込むそうだ。
その時は笑い飛ばしていたが、もうこんな時が経ったのか。
――――
……
…………
………………
――――
ああ、もういっそ殺しておくれ。
宇宙を漂い続け、どれくらいになったのだろう。
輝夜に会いたいと思うなど、私も充てられたものだな。
…
ああ、輝夜よ。
助けておくれ。
セリフが多くて、誰が何をしゃべってるのかわかりづらいので、
そこらへんを直したほうがいいと思いますよ。
無常の中にあって不変の孤独なる存在。永遠の牢獄にとらわれし人形。
汚い考えみたいな、東方の世界観と合わない(神主は幻想郷にドロドロしたやりとりは一切無いと明言してます)結果だけ書かれてもどうにも。
そこで二次なりの説得力のある説明があればまた印象は違うんでしょうが。
ワッハマンを思い出した
興味の持てる内容だっただけに、もっとしっかり書いて欲しかった。
後書きは蛇足かも
>経った
絶った
不老不死の胸のうちがよくよく思い知らされるお話でした。
お話の内容自体は好みで、それだけに展開が早足になっているのが残念です。しかし、長く生き続けるものから見ればこれくらいの早さで時間は過ぎてしまう、という表現だとも思えます。
だからこそ個人的にはもっと深く書き込んでほしかったです
ただ、早い展開や平坦な文章が雰囲気に合わせたあえてのことでしたらうまくいっていると感じました