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「魔理沙ぁぁぁ!! 好きだぁぁぁぁぁぁ!!」
その突如の轟音に、森中の生物がざわめきたった、
言語として聞き取れる以上、絶叫と表すべきなのだろうが、
あまりにも度を過ぎたその大きさに、誰もそうとは思わなかった。
「な、何だ何だ!?」
シェスタ、人間や妖怪に幸福を等しくもたらすそれを、
轟音はいとも容易く粉砕し、魔理沙を現実へと引き戻した。
「愛してるぞぉぉぉ!!」
「くそっ! 新手のスペルカードか!?」
窓ガラスにヒビが入り、天井からは塵が舞い降り、
その全身を見えない波が押し流すように震わせる。
「こらぁー!! 私の昼寝を邪魔するのはどこのどいつだ!」
「魔理沙っ!!」
「げぇっ! 勇儀!!」
魔理沙は昼寝を邪魔された怒りもあり、声に対抗するように勢いよく玄関の戸を押し開く、
その向こうに立っていたのは、額から生えた角が特徴的な地底の鬼。
「愛してるよぉ!!」
「うおっ!」
両腕を広げて飛びかかってきた勇儀を、魔理沙はとっさに後ろに飛びのいて回避する、
代わりにその両腕に引っかかった玄関の戸が、閉じられた腕の中で容易にひしゃげた。
「あれっ?」
「あれっじゃないだろ! 私を殺す気か!」
「大丈夫大丈夫、生きてる相手ならきちんと加減できるから」
「そういう問題じゃないだろ」
屈託のない笑みを浮かべながら、勇儀は戸を元の位置に戻す、
勿論元通りになるはずがないので、ただ立てかけてるだけである。
「後で直しておいてくれよ」
「おう、任せておきな!」
「何で自信満々なんだよ……」
魔理沙は苦笑いを浮かべながらも勇儀を家の中に招き入れる、
そしてその光景を木の陰から眺めている一人の女がいた。
「妬ましい……本当に妬ましいわ」
アリスである。
「これは全員を集合させる必要があるわね」
そういうとアリスは魔理沙邸に近づき、
床下へと繋がる空気穴の柵を外して中にもぐりこんだ。
「会員達よ集いなさい、魔理沙を見守る会イン魔理沙邸床下支部に!!」
アリスは人形を穴から外に放り出し、いずこかにいる会員達の場所へと向かわせる、
やがて魔理沙邸の床下に新たなる訪問者が現れる。
「もう皆来てるの?」
「いいえ、あなたで二人目よ」
魔理沙との本の貸し借りは切っても切れない仲、パチュリー・ノーレッジ。
「甘いね、実は三人目さ」
『光学迷彩!?』
会員暦はたったの一年、しかしその前から魔理沙のファンだった河童、河城にとり。
「何を言ってるんだい、四人目だよ」
『ボス!!』
そして魔理沙を見守る会の会長にして幼き頃から魔理沙を見守ってきた悪霊、
ボス、あるいはドン、あるいはゴッドファーザーと呼ばれ慕われる姉御こと魅魔。
「これで全員揃ったようだね」
『イエス、ボス』
「じゃあアリス、私達を集めた用件を聞こうか」
「分かりました、といってもボスはすでにご存知かと思いますが……」
アリスは話した、会員達の新たなる脅威のことを、掻い摘んで言えば勇儀の事を。
「ま、魔理沙に堂々と愛の告白……ですって?」
「それが! それができないから私達は床下に潜んでいるのに!」
パチュリーは驚き、にとりは嘆いた、
ただ魅魔だけは一人冷静を保っていた。
「ふ……あの子ももてるようになったねぇ」
「さ、さすがはボス! かつて魔理沙に大好きですといわれた方だけはあるわ!」
それは魔理沙がまだ魔梨沙だったころ、
遠い遠いセピア色の過去の中での温かい思い出。
「あっ、二人が会話を始めたよ!」
「(イエッサー!)」
にとりが上から流れてくる会話に気づくと、
四人は一斉に口を閉じて床下から聞き耳を立てる。
「でもさー、あれは勘弁してくれよ」
「あれって?」
「ほらその、大声で……愛してる……とか」
「だって本当に愛してるからね、魔理沙は私のこと嫌いかい?」
「い、いや、好きだぜ? でもなぁ……」
「私も好きだーっ!!」
「だから叫ぶなって!!」
甘々である。
「がはっ!!」
『ボスーーーッ!!』
そして魅魔は吐血した。
「……ははっ……あの子も……恋をする年頃になったんだねぇ……」
「ボス! しっかりしてくださいボス!」
「パチュリー! 蘇生薬は無いの!?」
「あるわけ無いわよ」
「死ぬ前に……もう一度……好きだって言われたかった……ぐふっ」
『ボスーーーー!!』
少女達は涙した、魔理沙を見守り続けた魅魔の最後、
そしてその死は彼女達を揺り動かすに十分過ぎるものだった。
「ボスは死んだわ……だけど、ボスの魔理沙を見守るという信念は私たちの中に」
「行こう、私たちの手で彼女が魔理沙に値する者かどうか確かめるんだ」
「悪霊が死ぬと何になるのかしら」
「行くわよ……突貫!!」
「うおっ!?」
轟音と共に魔理沙邸の床が弾け、もうもうと粉塵が舞い上がる、
そして一人、また一人と這い上がってくる魔理沙を見守る会の会員達。
「ア、アリス? パチュリーに……にとりまで!」
「星熊勇儀!」
「あん? 何だい?」
「魔理沙を好きだと言い張るのなら! まず私達を倒してからにしなさい!」
「お前は出てきて早々何を言ってるんだ!」
魔理沙からすればわけわかめである、
しかし勇儀はうろたえることなく、笑みを浮かべてアリス達に視線を送る。
「その勝負乗った!!」
「乗るなよ!!」
肝心の本人を置いてけぼりに、戦いの部隊は外に移る。
「(私達には魔理沙に告白する勇気は無かった……)」
「(だけど、思いの深さなら誰にも負けないわ)」
「(だからこそ確かめさせてもらう、あんたの魔理沙への思いが本物かどうか!)」
第一ラウンド開始。
「えー、では最初のお題だけど……魔理沙のチャームポイント!」
「魅魔様!? そんなとこで何を!」
「先手河城にとり、行きまーす!!」
「来なっ!」
「だから何でお前ものりのりなんだ!」
一人前にでるにとりと、それを迎え撃つ勇儀、魔理沙は心配そうに見守り、
魅魔はラウンド1と書かれたボードを掲げながら周りを歩いていた。
「宴会で酔っ払ったとき、夏の暑さに耐え切れず服をはためかせた時に見える……ヘソ!!」
「ぐはっ!!」
その一撃で勇儀はのけぞり、膝が震えた。
「いやいや、なんで私のヘソでよろめくんだ」
「ヘソか……河童め、なかなか分かってるじゃないか」
「分かってるのかよ!?」
「確かに、私も人形を作るとき、なぜか魔理沙の人形だけはヘソを作っていたわ!」
「私のゴーレムもよ、なぜか魔理沙のだけはヘソを外せない」
「おかしい! なんかこの場に居る全員がおかしいぜ!」
「ふふ、だがしかし、その程度ではまだまだだね!」
勇儀は口から垂れた血を拭うと、なぜか全身に妖力をめぐらせ始める。
「魔理沙の真のチャームポイントとは、風呂上りと着替えのときにしか見れない……太ももだっ!!」
「太ももぉーーーっ!!」
「にとりが吹っ飛んだぁ!?」
一撃、一撃であった、たった一撃でにとりの体は天高く舞い上がり、
そのままいずこへと消え去っていった。
「さ、さすがは怪力乱神の異名を持つ鬼……なんて力なの!」
「今の怪力乱神関係ないだろ!」
「はい、じゃあサクサク第二ラウンドいってみようか」
「まだ続くのかよ……」
次に前に出たのはパチュリーである、
そして魔理沙の表情はもはや諦め気味である。
「次のお題は……魔理沙の見てるだけでグッとくる行為!」
「グッとくる行為ね……あるわよ、とっておきのものが」
「とっておきだと?」
「そう……キノコを採集してる時、四つんばいになってお尻を左右に振っているところよ!」
「パチュリィィィ! お前は私の一体何を見ているんだぁぁぁー!!」
「尻」
「断言するなっ!」
「尻か……がはっ!!」
「吐血した!?」
勇儀は口から盛大に血を吐き出すと、ついに右膝を地面に付いた、
魔理沙の尻とは黒い宝石であり、そのヒップアタックを食らいたがる輩のなんと多い事か。
「だがまだ甘い……魔理沙の本当のグッとくる行為とはキノコを採集した後にあるのさ!」
「なんですって!?」
「その日たまたま見つけた新種のキノコ、ただのキノコかもしれない、毒があるかもしれない、
だが魔理沙はいけないと知りながらも誘惑に負け、その柔らかな舌でキノコの表面を上から下――」
瞬間、軽快な音と共にパチュリーの鼻から僅かな量の紅い液体が噴出された。
「……勝負あったみたいだね」
「パ、パチュリー? パチュ……し、死んでる!」
パチュリー・ノーレッジ、享年100歳強、
その顔は安らかで、そして幸せに満ちていた。
「さて、最後のラウンドだよ」
全てが決まる大一番、満を持して幻想郷一の魔理沙マニアを名乗るアリスが勇儀の前に立った。
「もう一度言うわ、魔理沙が欲しければ……私を倒しなさい!」
「ここまで来たら、魔理沙の全てをいただく!」
「うう、私の意志ぐらい尊重してくれよ……」
そして場が緊張に包まれる中、魅魔がゆっくりと口を開いた。
「最後は……魔理沙に選ばれた方の勝ち!」
『ええっ!?』
三者が一様に驚き、魅魔の方を一斉に見る、
対する魅魔は平然とした表情で言葉を続けた。
「愛は双方向にあるべきだからねぇ、魔理沙の気持ちも考えてやらないとね」
「み、魅魔様……」
「そう、つまりこれは……今この場でどれだけ魔理沙に愛を伝えられるか」
「そしてどれだけ魔理沙の心を揺り動かせるかの勝負ってことか!」
勇儀とアリスは魔理沙の方へと振り向くと、その顔を赤らめながらも強く視線を送る。
「ま、魔理沙、あのね、私ね、ずっと、ずっと前から、魔界で始めてあったときから……好き、です」
「魔理沙、好きだよ、愛してる、安っぽく感じるかもしれないけど、鬼は嘘をつかないから」
アリスは精一杯勇気を振り絞って言葉を紡ぎ、
勇儀はその顔を真っ直ぐに見つめて、気持ちを伝えた。
「ん……分かった、何が何だか分からんが、私は決めたぜ……私の、思い人を」
魔理沙は帽子を少しだけ深く被ると、照れくさそうにそう答えて、顔を上げる、
そして魔理沙は駆け出し、自分がもっとも好きだといえる相手へと抱きついた。
「好きだぁぁぁー!! 魅魔様ぁぁぁー!!」
『えええええっ!!』
「魅魔様が! 魅魔様だけが私を分かってくれてる! だから私も魅魔様だけが好きだーっ!!」
「ちょっ、あんたは何を言ってるんだい! こんな年寄りで悪霊なんか好きになってどうするんだい!」」
「そんなの関係ない! 魅魔様が好きなんだ! 今はっきりと分かったんだ! 愛してるって!!」
「魔理沙……」
「愛してるぜ魅魔様ーっ!!」
思えば、魔理沙にとって魅魔とは、長きに渡り憧れの存在であった、
しかしその頃から抱いていた好意は、師弟という仲の為に、尊敬という形に捻じ曲げて抱いていた、
ただそれが、今日のほんのちょっとしたきっかけで元に戻った、ただそれだけの事なのだろう。
「や、やめとくれよ……恥ずかしいよ……」
「やめないぜ! 私はこれからずっと魅魔様と愛し合って暮らすんだ!」
「だだだから、あたしゃそのあのその……ほ、ほら、えーと……」
「魅魔様……愛してる、だから無理矢理にでも魅魔様を貰うぜ!」
「きゃっ!?」
魔理沙は魅魔をお姫様抱っこで持ち上げるとその顔を抱き寄せ、
吐息を感じる距離でお互いに見つめあった。
「こ、こら……やめないか」
「やめない、魅魔様がうんと言うまで……ずっと、このままだ」
「……ふふ、まったく、世話の焼ける子だよ……傍に居て、見守ってやらないとねぇ」
「ん、それじゃ……行くぜ」
「行くって、どこにだい?」
「決まってるじゃないか、ハネムーンだ!」
そして魔理沙は魅魔を抱えたまま箒に腰掛けると、
雲一つない青空に向かって飛び立っていった、
幾数年もの間すれ違い続けた思いは、ようやく実ったのだ。
「一杯……やろうか」
「……うん」
その後、魔理沙を見守る会がどうなったかは定かではない。
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↓
幻想郷一の魔理沙マニア
でしょうか?
相変わらずのキャラ崩壊作品ごちですw
魅魔様お幸せに
この勇儀さん…素直ヒートを思い出す…
ところでこのテンションなら幼なじみたる霊夢もいるべき。そうすべき。
そして魔理沙かわいいようふふ
魔理沙は嘘吐きだし鬼との相性は如何なんだろうか
勇儀ならちっちゃい嘘ぐらい気にしなさそうだけど
魅魔様が良い思いしたって良いじゃない。
多分屋台の夜雀がアリっさんと勇儀姐さんにはむはむされるんですね分かります。
話としても面白かったです
魔理沙がおいてけぼりなのもいい