Coolier - 新生・東方創想話

夢花火

2009/08/26 23:24:26
最終更新
サイズ
18.62KB
ページ数
1
閲覧数
1996
評価数
17/86
POINT
4800
Rate
11.09

分類タグ


 
「わぁ……綺麗」
「そうね……」

 こいしが隣りで楽しそうに声を上げる。
 私たちの視界には、夜空に咲く花。暗い闇の中、耳に響く大きな音と共に、色鮮やかで綺麗な花が咲く。暗闇を明るく照らす。それは数秒で散ってしまうけれども、すぐまた新しい花の種が打ち上げられる。

「わぁ……」

 また、咲く。
 こいしが感嘆の声を漏らした。

「遠くからでも、綺麗だね」
「ええ、そうね」

 花火は、遠い人里から上がっていた。
 私たちは、それを眺めている。誰も居ない、暗い暗い森から。
 嫌われ者の私たちは、人里へは行けない。だから、こうして遠くから眺めるだけ。
 互いに、言葉にしなくても伝わる心の声。
 こいしからは、凄いね、綺麗だね、と無邪気にはしゃいでいる声が伝わる。こいしにも、私の心の声が伝わっているだろう。

「本当に……綺麗」
「ええ……」

 二人、手を繋いで、寄り添い見上げた。
 小さな手のひらは柔らかくて、温かい。こいしがギュッとしてきたから、私も返事をするかのようにギュッと返す。すると、またギュッと返される。私もまた返す。それを繰り返した。

「えへへっ」
「ふふっ」

 なんだかおかしくて、笑ってしまう。

「お姉ちゃん」
「ん?」
「綺麗だね」

 何度目か分からないほど、こいしは綺麗だ綺麗だと言う。その度に私は、肯定の意を示す。
 夜空に花は、まだまだ咲く。身体の芯に響くような激しい音が鳴り、空に打ち上げられた不思議な種が美しく開花する。すぐに消えてしまうその花は、刹那を輝かせていた。

「ねぇ、お姉ちゃん」
「なに?」
「また、見たいね」
「まだ花火は続いてるわよ」
「ちーがーう。今じゃなくて来年も、ってこと!」
「ふふ、はいはい」
「来年も、再来年も、これからもずっと……」
「そうね……」
「約束だよ?」
「はい、約束」

 子どもみたいに、指切りをして笑う。こいしも、無邪気に笑った。穏やかな笑みだった。
 二人きりだけれど、どこまでも優しくて、温かい夜だった。





◇◇◇





「夢……ですか」

 懐かしい夢を見た。
 ソファーで眠ってしまったせいか、体が少し痛い。
 立ち上がり、違和感のある体を動かして、感覚を取り戻そうとする。骨が小枝を踏んだような軽い音を立てた。

「それにしても、懐かしい……」

 二人きりで、安心出来る場所を探していた昔。
 他人から嫌われようが、二人一緒なら、寂しさも無かった。あの頃は、永遠さえも信じれた。
 だけれど、今は歪んでしまった。
 どこで選択肢を間違えたかなんて、分からない。
 ただ、私がこいしを守りきれなかったから、こうなってしまったのだろうと思っている。

「はぁ……」

 あの日とは、全てが違う。花火を見上げた日とは。
 でも、何故いまさらあの日の夢を見たのだろうか。
 夢に見るまでは、もう蜃気楼のように霞んでいた遠い記憶だった。
 もしかしたら、忘れたくなかったのかもしれない。そんな想いが、無意識のうちに働いて、私にあの夢を見せた。そう考えると、胸がキュッと締め付けられるような気持ちになる。

 私は、今のこいしを見つめていない。昔のこいしを見つめている。
 最低だ。
 そんなことは分かっている。
 だけれど、こいしが第三の眼を閉じてしまってから、どう接していいか分からなかった。
 何を考えているか分からない。今までそんなことが無かった私には、それは未知の恐怖だった。そんな感情を、実の妹に抱いてしまったのだ。なんとか普通に接しようと行動しても、どこかギクシャクしてしまう。

 そんな私のぎこちない態度を察して、こいしもぎこちなくなった。
 可愛らしかった笑顔も、心地良い空間も、そこにはもう存在していない。

「……こいし」

 考えるだけで、憂鬱になる。
 どうすればいいのかなんて、分からない。
 分かっていたら、行動している。
 いや、分かっていても私は行動出来ないかもしれない。臆病で駄目な私が、実際に今の状況を作り出してしまったのだから。
 ぐるぐる回る思考。

「さとり様、朝ご飯ですよ~」

 そんな時、ドアの向こうからお燐の声がした。
 最近はよくお燐がご飯を作ってくれる。お燐は飲み込みが早くて、要領も良く、私の料理の腕を軽く越えてしまった。
 少しだけ、ショック。

「今行きます。先に食べていて良いですよ」
「そんな、さとり様抜きで勝手に食べたくないですよ」

 ちょっと前から一緒に食事をすることが習慣になった。基本は私とお燐だけだが、たまにおくうやこいしもいる。温かくて、欠かせない習慣だ。
 お燐をあまり待たせては可哀相だし、手っ取り早く着替えよう。
 いつもの服を手に取り、ささっと着替える。途中、自分の残念な胸が目に入ったけど、記憶の底へと投げやった。いつの間にかお燐は私より大きいし、それも小さなショック。

「お待たせ、お燐。あれ?」

 テーブルへと行くと、食事が三つ並べられていた。

「お燐、これは誰の分?」
「え、こいし様ですよ。さとり様も会ったでしょう?」

 こいしが帰って来ているのか。少しドキッとする。

「いいえ、会って無いわよ。というか一度も見て無いわね」
「あれ? おかしいなぁ。さとり様を起こしに行ったのは、こいし様のはずなんですが」
「え?」
「本当に知らないんですか?」
「え、えぇ」

 知らなかった。
 お燐の心から、おかしいなぁと聞こえる。ということは、当たり前だが嘘では無い。
 あの日の夢を見たせいか、私の心は落ち着かない。

「やっほ!」
「ひゃうんっ!? こ、こいし!?」
「えっへへ~久し振り、お姉ちゃん」
「あ、こいし様」

 突然肩に手を置かれたせいで、おかしな声を上げてしまった。普通なら、心の声が聞こえるため、こういう不意を突かれるようなことは無いのだ。
 振り返ると、小さな赤い舌をちょこんと出して、悪戯成功といった感じに笑っているこいしが居た。

「久し振り、こいし」
「うん、久し振りだね」

 無言。
 会話が続かない。ど……どうしよう。
 こいしの表情をちらりと見るが、笑顔だった。夢に見た昔の笑顔とは、どこか違う。もう一度良く見るけれど、やっぱり違う。けれども、笑顔なことは確かだ。

「何お姉ちゃん? 私の顔、何か付いてる?」
「え!? や、いやぁ、えと、何でもにゃいわ!」

 噛んだ。
 にゃいわ、って……それが無いわ。
 久し振りの妹との会話なのに、駄目なところばかりを見せてしまっている気がする。呆れられるか、嫌われるか。
 いや、元から好かれては無いか。
 自嘲的に小さく笑ってしまう。
 何もしてやれなくて、今の現状を作って、そんな私を好いてくれているはずが無い。

「えーと……ご、ご飯にしましょう!」

 お燐がこの空気に耐えられなかったようだ。
 元気良く、ご飯にしようと叫ぶお燐。お燐のこの明るさには、何度も救われてる気がした。

「そうしましょう」
「お燐の作るご飯、美味しいんだよね~」

 それぞれ席に着く。
 私の向かい側にお燐とこいし。
 目の前に並べられたご飯はまだ湯気を放っていた。お味噌汁に白いご飯、焼き魚の良い匂いが食欲をそそる。

「それでは……ほらさとり様もこいし様も」
「はいはい」
「せーのっ」
「いただきます!」

 手を合わせて、いただきます。子どもみたいだけど、大切なことである。
 お燐は、真っ先に焼き魚に手を伸ばしていた。好きなものを最初に食べるようなタイプなのかもしれない。凄く幸せそうだ。
 こいしは、お味噌汁を啜っている。こいしの好きなものは、何なんだろう。姉なのに、そんなことも知らない。
 さて、私も見てばかりいないでいただこう。

「ん、美味しい」
「本当にお燐の作るご飯は、いつも美味しいね」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、やっぱり作り手としては嬉しいです」

 本当に美味しい。
 私も、もう少し腕を上げる努力をしようかしら。このままじゃ、ずっとお燐に頼りっぱなしになってしまうかもしれない。

「そういえば、おくうは?」
「地上に遊び行っちゃいました。仕事もしないで」
「はぁ……帰ってきたら注意しなきゃ」

 別に地上へ行くのは、まぁ良いとして、せめて仕事をしてくれないと困る。
 それに、お燐にも負担が掛かってしまう。
 帰ってきたら、一言言わなくてはいけない。

「ん、美味しいね」
「美味しいわね」
「あ、ありがとございます……はは」

 会話が浮かばない。
 沈黙を埋めるために、ただ美味しいと繰り返す。あぁ、お燐が困っている。ごめんね、お燐。
 こいしともっと一緒に居たい。けど、どうすれば良いか分からない。この空気が嫌で、箸を進める。

「ねぇ、お姉ちゃん」
「な、何?」

 突然話し掛けられて、少し驚く。
 箸は持ったまま、向かい側に座るこいしを見る。大きくて可愛らしい瞳は、昔と変わらず私を捉えていた。

「今日さ、何か夢見なかった?」
「……え?」

 一瞬、何を言われたか分からなかった。
 こいしの瞳に、酷く不安定な私が映っているように見えた。
 何故こいしが夢のことを知っているのか。いや、そもそも知っているのだろうか。ただ単に、話題の種として振ってきただけではないか。
 そう考えてみたが、こいしの真意は分からない。
 心が読めない。

「わ、私は……」

 もし知っているならば、こいしはそれを訊いて何を求めているのだろう。
 私はどう返したら良いのか。分からない。怖い。
 自分が今、どんな表情をしているのかすら分からない。少なくとも、冷静では無いだろう。
 その態度で、もう私が夢を見たということはバレているはず。
 逃げ道は無い。
 そうだ、もう逃げ道は無い。

「私は今日! ゆ、夢を見て……いないわ」

 なのに、それでもなお私は逃げようと足掻く。
 逃げてどうする。向かい合うべきだったのでは無いか。
 そうは思っても、もう私は逃げてしまった。
 こいしは、笑顔を崩さない。私のハリボテな嘘を、どう思っているのか。
 お燐の心の声が流れてくるが、今の私はそれを聞いている余裕は無かった。

「そっか」

 しばらくすると、こいしはそれだけを言った。
 笑顔で、いつもと変わらない声で、言ったのだ。
 その後、特に会話らしい会話をせず、食事を終えた。
 こいしはお燐に、凄く美味しかったよ、と言った後、ふらりと何処かへ消えてしまった。

「あたいは仕事してきますね」

 元気良くお燐が飛び出した。扉の閉まる音と同時に、部屋が静かになった。
 私はただ一人、灰色のソファーに腰掛けてぼんやりとしている。

「あの時、こいしは何を思ったんでしょう……」

 今更終わってしまったことを考える。
 知恵ある生き物は、みんな思うらしい。あの時あぁしていれば良かった、などと。戻らない過去を振り返り、正しい選択肢はどれだったのかと悩む。悩む時間があるならば、現状を良くすることを考えるべき。

「でも、謝ったとしても……」

 大体何を謝るんだ。嘘を吐いたこと? 今までのギクシャクした態度?

「いいえ、全てね」

 それら全てを謝るべきだ。
 許してくれないかもしれない。いや、許されようなんて思っていない。
 それでも、謝らないよりは良いはず。

「よ、よし、行こう」

 と言っても、こいしは何処に行ったのだろう。
 考えは読めないし、こいしが行きそうな場所なんて予想がつかない。

「むむむ……」
「さーとり様っ!」
「ひゃうっ!? お、おくう!?」

 考えすぎていたせいか、背後からこっそり近付いていたおくうに気が付かなかった。不覚です。
 うにゃーと悪戯成功して嬉しそうなおくう。右手になにやら紙袋を持っていた。何だろうか。

「帰ってきてたのね。お帰りなさい」
「ただいま帰りました。さとり様、地上で良い物を――」

 あ、今帰ってきたおくうなら、こいしが何処へ行ったか見たかもしれない。

「おくう!」
「ひ、ひゃいっ!?」

 びくりとおくうの身体が一瞬震えた。
 おくうの、怯えている心が伝わってくる。どうやら私が大声を出したことに、驚いたようだ。あと、怒られると思っているみたい。
 確かに、帰ってきたら注意をしようとは思っていたけれど、今はそんなこと後回し。それよりも重要なことがあるのだから。
 せっかく、僅かな勇気で決意したのだから。

「おくう、こいしを見ませんでしたか?」
「うにゃ? こいし様ですか?」
「えぇ」
「こいし様なら、自室に戻る姿を見ましたよ」
「え?」

 こいしの部屋。その発想は全くしていなかった。こいしは、ふらりふらりと地上へ消えてしまうから。
 おくうから嘘という心は伝わってこない。本当に見たようだ。

「ありがとう、おくう!」
「え、あ、はい」

 急いでこいしの部屋へと向かう。
 そういえばおくうの話を遮ってしまっていた。後でちゃんと聞いてあげよう。今は、こいしだ。

「こ、こいし、居る?」

 緊張で、少し詰まった。

「ん? その声はお姉ちゃんだね。居るよー」
「話があるのだけれど、入って良いかしら?」

 少し、沈黙。
 この沈黙が、怖い。こいしに拒絶されないかが、怖い。

「うん、良いよ」

 しばらくして、こいしから許可が出た。
 扉にそっと手を触れる。

「珍しいね、お姉ちゃん」
「……えぇ」

 こいしがいつもの笑顔でそこには居た。
 部屋を軽く見渡すと、赤いハート型のクッションや、熊のぬいぐるみ、女の子らしい物がたくさんあった。
 これらの物のほとんどが、私がこいしにプレゼントした物。こいしには少しでも、普通の女の子を味わって欲しかったから。プレゼントするたびに、嬉しそうにありがとうというこいしに、私は穏やかな気持ちを抱いていたのを覚えている。
 久し振りにこいしの部屋へと足を踏み入れたけど、どれも昔と変わらない。ここだけ、時があの頃から動いていないような錯覚に陥った。

「で、お話って何?」
「あ、それは、その……」

 こいしはベッドに腰掛けたまま、私を見つめる。
 笑顔だけれど、何を考えているかはやっぱり分からなかった。
 気を抜いたら、震えてしまいそうになる。

「こいしに、謝らなければ、いけないことが……」
「……謝る?」

 首を傾げるこいし。
 しっかりと、目を見つめる。臆病な私の決意が揺らがないように。

「そのっ……えと、今日のこととか、嘘吐いたり、あと、今までの全部含めて……」

 凄いぐだぐだ。でも仕方無い。いざ、言葉にして謝ろうにも、どんなことを言えば良いのか分からない。
 少しは考えてから来るべきだった。後悔しても、もう遅い。

「ごめんなさい、こいし」

 けれどもやっと、言えた。
 今まで言えなかった、一言。簡単だけど、とても難しいこと。しっかりと、こいしの目を見て言うことが出来た。

「何でお姉ちゃんが謝るの?」
「え?」
「悪いのは私。勝手に目を閉じたのも私。全部ぜーんぶ、私が悪いんだよ?」

 笑顔でそんなことを言うこいしが、どこか痛々しく感じた。
 こいしをこんな風にさせてしまったのは、私だ。

「ごめんなさい、本当に……ごめんなさい」
「だから何で謝るの? 嘘を吐いたことなら気にして無いよ。あれも勝手に見せた私が悪いんだから」
「え? 見せた?」
「この時期だからか、思い出してね。夢は無意識だから、お姉ちゃんの夢を操って見せたの」
「何故……そんなことを?」
「んー……何でだろうね。懐かしかったのかな?」

 夢を見せたのがこいしだったのならば、朝の突然の問いも納得出来た。でも、何故見せたのか。こいしの表情を窺うが、ただ笑顔だった。こいし自身、本当に分かっていないようにも見える。
 もしかして、私に思い出して欲しかったのではないか。その無意識の行動が、夢を見せるという行動に繋がったんじゃないだろうか。

「ごめんね、お姉ちゃん」
「え?」
「お姉ちゃんは別にあの日の夢を、見たくなかったでしょう? 私のこと、嫌いでしょ?」

 こいしを嫌う? そんな馬鹿なことがあるか。好きだからこそ、大切だからこそ、ここまで臆病になってしまったんだ。

「そんなわけ無いでしょう」
「そんなの嘘だよ。だって、嘘吐いたじゃない。夢を見てない、って。思い出したく無かったんでしょ?」
「違う! ただ……」
「お姉ちゃん、私はもう心読めないからお姉ちゃんが何を思っているのか、分からないよ」
「こいし……」
「言葉は信用出来ないよ。お姉ちゃんは、私を嫌いじゃないって行動で示せる?」

 行動で示せるか、と言われてもどうすれば良いのか。
 抱き締める? いや、それでは弱い気がする。
 あの日みたいに、一緒に花火を見れば良いのかもしれないが、もう祭りなんてやっていない。
 私に出来ること……私だから出来ることは、一体何があるだろうか。

「やっぱり無理でしょ?」
「……いや、出来るわ。こいし、一緒に来て!」
「え? わわっ!?」

 思い付いた。これは、私にしか出来ないこと。こいしが喜んでくれるかは、分からないけども、私なりの精一杯の行動。
 こいしの手を掴み、走る。
 突然のことに、こいしはふらつきながらもちゃんと付いて来ていた。
 少し、慌てたような表情。こいしのこんな表情、久し振りに見た気がした。
 小さな手のひらからは、確かな温もりを感じていた。手に触れたことも、どれくらい振りが分からない。昔と変わらず、柔らかくて温かかった。

「ど、何処に向かってるの!? お姉ちゃん!」
「分かりません!」
「えぇっ!?」

 手を引っ張って走る。
 何処に向かっているかと言うならば、広くて障害物が少ない場所。そういう場所ならば、何処でも良かった。だから、走る。地霊殿はそれなりに広いから、走り回っていれば、いずれそういう場所に出ることを知っている。

 どれくらい、走っただろうか。
 私が望んだ場所へと辿り着いた。
 広くて、特に建物とかも無い。相変わらず、地底だから暗いけども、今はこれが良い。

「はぁ、はぁ……」
「ちょっと……疲れたわね」

 こいしも私も、息切れしていた。
 でもまだ、こんなところでへばってはいけない。
 私がすることは、これからが本番。

「こいし、見てて」
「え?」

 ふわりと宙を舞う。
 ある程度の高さまできたら、止まる。
 こいしが少し小さく見える。それでも、しっかりとこいしの表情は見えた。何が始まるのか、分からないといった感じだ。
 深呼吸をする。
 そして、思い出す。こいしが思い出させてくれた、あの日の花火を。
 うん、出来る。

「こいし! あの日の花火を、今ここに!」

 弾幕を張る。色鮮やかな弾幕。それを極限まで圧縮させ、天へと昇らせる。そして、空中で破裂。圧縮されていた弾が散り、下へと落ちてゆく。
 私なりの行動、それは花火を再現することだった。他人の弾幕を真似ることが出来る私だからこそ、出来る。もちろん、花火とは違うけども、それでも弾幕で再現しようと思った。トラウマじゃない、優しい想い出を。
 派手な色の弾幕を使い、それを限り無く花火に似せるため、圧縮、破裂される。激しい音と共に散るそれは、花火を連想させる。

「うわぁ……!」

 こいしの声が聞こえたが、今は向いていられない。少しでも集中を切らすわけには、いかないからだ。
 暗く味気無い地底を、色鮮やかに染める。
 激しい動きのせいで、身体が痛い。汗が髪を濡らし、鬱陶しい。だが、動きを止めてはならない。
 本物の花火には、あの日見上げた花火には、及ばないことは分かっている。
 それでも、私は一心不乱に再現する。少しでも、こいしが喜んでくれることを願いながら。





「大丈夫、お姉ちゃん?」

 大の字で仰向けに転がる私を、こいしが心配そうにのぞき込む。
 身体は痛いけど、動かないほどでは無い。

「えぇ、大丈夫よ」
「そっか、良かった」

 会話が終わり、沈黙。
 けれども、この沈黙は今までと違って、そんなに悪いものに感じなかった。
 汗をかいたからか、風が気持ち良い。髪を撫でられるような、そんな感じ。

「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
「お姉ちゃんの気持ち、伝わったよ」
「そう、それは良かった」

 目が合って、笑い合う。
 久し振りの、私とこいしだけの穏やかな空間。

「こいし、ごめんね」
「うん」
「本当に、ごめんなさい」
「うん」

 こいしは、とても穏やかな笑みを浮かべていた。私が大好きな、こいしの笑顔だ。

「でもね、許してあげない」

 元から、許してもらおうなどとは思って無かったが、そう言われると、やはり胸が痛んだ。

「来年、一緒に花火を見てくれるって約束したら、許してあげる」
「え?」
「今年はもう、夏が終わっちゃうから見れないし。だから来年、ううん、これから毎年ずっと一緒に」

 それは、一度破られた約束。
 こいしは優しい子だ。こんな私を、許してくれる。しかも、その約束を条件に。

「約束、出来る?」
「……えぇ、絶対に」
「じゃあさ、また指切りしよう」

 今度は絶対に破らない。
 こいしの小指と私の小指が、絡み合う。まるで子どもみたいに、指切りをした。

「えへへ」
「ふふっ」

 小さく笑った。
 さて、そろそろ身体の痛みも大分引いてきた。立ち上がらなければ。いつまでも、転がってはいられない。

「あ、さとり様はっけーん!」
「こいし様もだ!」
「あら?」
「おくうにお燐、どうしたの?」

 私が立ち上がったとほぼ同時に、おくうとお燐がやってきた。

「さとり様、私の話の途中だったじゃないですか」
「あぁ、ごめんね。そんな急ぎの用件だったの?」
「これです! 地上で貰ってきたんです。みんなでやりましょうよ!」

 おくうが紙袋から取り出したのは、たくさんの線香花火だった。紙袋いっぱいに入っているようだ。

「もう夏も終わりだよ、おくう」
「関係無いよ、お燐! 夏はまだまだ終わらないよ! というわけで、みんなでやりませんか?」

 私はこいしの方をちらりと見た。
 こいしは、興味津津に線香花火を見ている。
 うん、良いかもしれない。

「そうね、やりましょうか」
「やったー! お燐、火!」
「はいはい」
「私、線香花火って初めてだよ」
「火傷しないようにね、こいし」

 それぞれが手に持って、ぱちぱちと始めた。
 おくうとお燐は、なにやら線香花火を両手に持って戦っていた。こいしが仲間に入りたそうにしていたが、危ないから止めた。

「お姉ちゃん」
「ん?」
「綺麗だね」
「そうね」

 ぱちぱちと燃える、線香花火。
 ギャーギャーと騒いでいるおくうとお燐。

「えへへ~」

 そして、楽しそうに笑うこいし。
 穏やかな空気に、今の時間に、私も自然と頬が緩む。
 あの日みたいに、いや、あの日以上に、温かくて優しい夜だった。
8月ももう終わりですね。どうも、22度目です。喉飴です。
夏といえば花火や風鈴、ラムネに夏祭り、様々なものがある季節です。私は残念ながら、今年はどれも体験出来ませんでした。
今回のお話、少しでも楽しんで下さったなら、嬉しいです。
喉飴
http://amedamadaisuki.blog20.fc2.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.3180点簡易評価
5.100点名前が無い程度の能力 削除
こいしの為に花火を打ち上げりさとりの優しさに乾杯。
心温まるお話でした。
6.100点七人目の名無し 削除
良い姉妹、そして良い話でした。おかげで良い夢が見れそうです。
7.90点名前が無い程度の能力 削除
お上手!
ただの回想シーンかと思ってた最初の花火が伏線だったとは。花火×さとり=弾幕の再現という方程式があったんですね。
打ち上げ花火を見る度に弾幕を連想してしまうという、東方ファンにありがちな症状を上手く使った感じが良いですw
10.100点煉獄 削除
花火を再現したさとりのこいしへの想いも素晴らしかったですし、
彼女たちの笑いあう姿がとても微笑ましいですね……。
面白いお話でした。
12.80点ユーリック 削除
風物詩が情緒っぽくてじーんとしやした
キャラが薄味なのが話的にちょうどよかったと思うす
15.100点名前が無い程度の能力 削除
勇気を出して一歩踏み出す事は大切ですね

昔みたいには行かないけど
これからは4人で思い出を作っていける
そんな気がしますw
20.80点名前が無い程度の能力 削除
「わぁ……」

 汚ねぇ花火だ
 こいしが感嘆の声を漏らした


冒頭の部分でべジータが思い浮かんだ
28.90点名前が無い程度の能力 削除
ポイント違うと思うが、なんか非常にウケたのでコメントさせてくれ。

>おくうとお燐は、なにやら線香花火を両手に持って戦っていた。こいしが仲間に入りたそうにしていたが、危ないから止めた。
線香花火でどうやって戦うんだよww
あと危なくもねぇよw
31.90点名前が無い程度の能力 削除
少年時代ですね。わかります。
44.100点名前が無い程度の能力 削除
これは良い発想の勝利
けど一つだけ言うと、おくうって意外と勤務態度は真面目な筈なのよね(from非想天則)
45.100点名前が無い程度の能力 削除
そうかさとりんの能力にはそんな使い方もあるのか…
心暖まるいいお話でした
47.100点名前が無い程度の能力 削除
これはいいものだ
50.100点名前が無い程度の能力 削除
想起できるのはトラウマだけじゃないんだな。
好きな人とみたものは色褪せないと。
いい話だー。
51.90点名前が無い程度の能力 削除
弾幕で花火かぁ…
なんか幻想郷らしいですねぇ…
52.100点renifiru 削除
さとりのこいしを思う心が伝わってくるようでした。
弾幕花火の部分も実に良かったです。
64.100点奇声を発する程度の能力 削除
線香花火って大量にやると、でっかい火の玉になるって本当?

それはともかく、とっても感動しました!!!
66.100点名前が無い程度の能力 削除
イイハナシダー