※テーマはプロレスです。
※プロレス好きならニヤリ……とできればいいなと思います
※プロレスを知らずとも東方さえ知っていれば面白い作品……を目指したので、そう思ってもらえれば幸いです。
ある日の午後、美鈴は溜め込んでいた悩みをレミリアに告白していた。
「正直私って地味ですよね」
「そうね」
レミリアも率直に同意する。
「何が悪いんでしょう? テーマ曲も名曲、弾幕もカラフルなのに」
「能力かしら、気を扱う程度の能力って正直なんだかよくわからないわよね」
「そうですかね……」
その後も欠点を考えていたが気は晴れない。当然だろう。
「逆に私の長所は何でしょう?」
「気さくな所と武術の達人ってとこかしら」
「なるほど……」
それを把握してもやはり気は晴れない、何故ならスペルカードバトルでそんなものは役に立たないからだ。
「大体武術なんて弾幕の役に立たないんですよね」
「それはそうだけど……なんで自己分析なんて始めたの? 転職でもする気? それは許さないわよ」
「いや、門番の仕事に不満はないんですが」
そう言うと、悩みの告白を始めた。
「地味な上、怖さもないんじゃ門番の意味がないんですよね、やっぱりああいうのは恐れられてなんぼじゃないですか」
「……そうかもね、やっぱり新しい門番を――」
「いや、それを宣告される日が来るんじゃないかと思うと毎日気が気じゃなくて……」
この頃は不安から、ご飯も一食三杯程度しか食べられないと嘆く美鈴。
「ストレスなく働ける環境を作るのも雇い主の務めだからね……」
レミリアも一応は人の上に立つものとして、頭を少し働かせる。
「そうだわ」
そして短絡的な発想に至った。
「プロレスよ!」
「はあ?」
「格闘技の経験と性格を生かせる、おまけに興行で金もザクザク!」
「そんな簡単にいきますかね」
だが、レミリアは笑顔で言い張った。
「大丈夫、私のカリスマで団体を作るわ」
それから長い時が流れた。案の定レミリアは全く役に立たなかったが、人間の間で美鈴が才色兼備の格闘家として知られていることが、そして美鈴の妖怪らしからぬ気さくな人柄が役に立った。人が人を呼び、金が金を呼び、紅魔館から始まった計画は人里を経て幻想郷中に広がる。美鈴の昼寝の時間も、門番の時間も惜しんでの挨拶回りも役に立った。そして今日ついに――
紅魔館特設会場からお送りします! さあ、ついに幻想郷初のプロレスが幕を挙げました! 幻想郷プロレスリング旗揚げ戦! 注目のメインマッチは西行寺幽々子VS紅美鈴! 場内は超満員のお客さんで埋め尽くされています! 実況は私射命丸文! 解説は幻想郷一の知恵者! にじみ出る年の功! 八雲紫さんでお送りします!
さて、紫さん、本日の一戦についてどう思われますか?
「そうですね、私も外の世界の格闘技には随分触れてきましたが、幻想郷での試合はもちろん今日が初めてです。ですが、幻想郷ならではの試合に期待したいですね」
はい、幻想郷ならでの試合とはどのようなものと思われますか?
「そうですね、まずスペルカードルールも、プロレスも根本にあるものは同じです、隙と無駄とそこに生まれる美、そして何より楽しんだ者が勝ち。この点はスペルカードルールと相通じる者があります」
そうですね、勝敗だけではなく、選手、観客双方が盛り上がれる一戦を期待したいと思います。
「さらに、幻想郷では特殊な能力・人外の者といったファクターがあります、この点を活かし、幻想郷らしい熱戦を期待したいですね」
はい、今回はスペルカードを使わなければカウント10までは能力の仕様も許可されています。それがどう出るか!
「そうですね、美鈴選手は"気を使う程度の能力"で技に気楽に組み込んでいけます、一方幽々子選手は"死を操る程度の能力"、能力の破壊力は幽々子選手が圧倒的に上ですが、相手を殺してしまっては反則負けなので、使い方が難しいですね」
なるほど、ありがとうございます。紫さんの予測は現実ではどうなるか? まもなく試合開始です!
~BGM 明治十七年の上海アリス
さあ! 華麗な入場テーマに乗って入場して参ります! 赤コーナーの紅美鈴! 喧嘩四百戦無敗! 幻想郷最強の武術の達人! 紅魔館はホームグラウンド! メイドたちの大声援に乗せて! 今! 颯爽とその姿を現しました!
うおおおおおおおお!
皆さん、聞こえますでしょうか! この大声援が! 七色に光るライトと、メイド達からのテープに送られ、花道を華麗に歩いて参ります! BGMの軽快なリズムに乗せて! 華麗なステップを踏んでおります! まさに気合十分と言ったところでしょうか! そしてチャイナドレスをモチーフにした本日のユニフォーム! いつもの人民服とは毛色を変えたその美しさに男性客からも熱い声援が飛んでおります!
セコンドに付くはスカーレット姉妹、パチュリー・ノーレッジ、十六夜咲夜! まさに紅魔館オールスター! 悪魔達の宴! ロープを飛び越え、身体能力の高さを見せつけながら! 今入場致しました!
~BGM 幽雅に咲かせ、墨染の桜 ~ Border of Life
Deadman...Walking
重々しい鐘が鳴り響き、重々しい声が流れ……場内が闇に包まれます……そして入場曲が流れた瞬間! こちらも光と共に姿を表しました! 青コーナー西行寺幽々子! 最初に流れた重々しい鐘の音から静かなイントロへ! そして一気に攻撃的な曲に変わる! 会場のボルテージも既に最高潮です!
冥界から幽霊たちも駆けつけています! その応援に乗せられゆっくりと花道を歩く姿はまさにデッドマン・ウォーキング! 死者の行進! これが幻想郷だ! 美鈴選手とは違った優雅でゆったりとしたユニフォーム、下がスカートで無い以外はいつも通りでしょうか? これは戦略か? それとも余裕の表れか!
セコンドに着くは魂魄妖夢! 半人半霊! 0.5人と0.5人で一人のセコンドです! 小数点で区切れる存在! まさに人外! そしてこれは白玉楼VS紅魔館の代理決戦でもあります! 亡霊VS悪魔! 人間よ! 妖怪よ! 刮目してみろ! これはまさに人智を超えた者の最終決戦! ハルマゲドンだあああ!
さて紫さん、両者入場したわけですが、どのような試合になると思われますか?
「そうですね、能力は置いておいても、両者共にスタイルは違うようですね、ウエイトでは幽々子選手が上回っていますし、流石にヘビーとまでは行きませんが。ただ、美鈴選手との差を考えれば、ジュニアVSヘビーの争いに等しいでしょう」
そうですね、体格では幽々子選手が勝っているようです
「はい、ですのでパワーの幽々子選手、スピード&テクニックの美鈴選手といった勝負になると思われます」
武術の達人として知られる美鈴選手に対して、幽々子選手の方は格闘技経験のデータが無いようですが、その点はどう思われますか?
「そうですね、私は幽々子選手の生前からの知り合いですが、彼女のパワーには一目おいて良いと思います、経験を補って余りあるかもしれませんね」
なるほど
「さらに、今回勝者には焼き肉一年分が送られます、食べ物がかかったときの彼女は……私でも逃げ出したくなるほどのレベルですね。恐ろしい力を発揮します」
はい、ありがとうございました。
ただ今より~ 幻想郷王者決定戦! 無制限一本勝負を行います!
赤コーナー ○○センチ~××ポンド~ 紅~! 美鈴~~~!
さあ、選手紹介が始まります! お伝えするのはタイムキーパー兼リングアナの八雲藍! 正確さには定評があります! まずは紹介されたのは美鈴! 次は青コーナー!
青コーナー △△センチ~□□ポンド~ 西行寺~~! 幽々子~~~!
レフェリーは~ 四季映姫・ヤマザナドゥ~
カン!
さあ! ゴングが鳴りました! 待望の試合開始です! まずは両者歩み寄り……握手です! まずはフェアな開始!
「はい、私もゆくゆくはプロレスがスペルカードルールと並ぶ決闘の二大柱になって欲しいと思います。その意味でも、先便となるこの試合ではフェアな勝負を期待したいですね」
はい、そうですね。さあ、二人とも握手を終え、ファイティングポーズを取ります、まずは……挨拶代わりの美鈴のジャブ! ですが、幽々子もなんなく受け止めます。
「まだ牽制段階でしょうね、美鈴選手も得意技は足技と空中技ですから」
おっと、腕を捕まれたまま……美鈴のミドルキックが炸裂! 思わず幽々子は怯む! 場内には早くも拍手が飛び交う!
「いいキックですね、名刺代わりの一撃と言ったところでしょうか」
さあ! 怯んだところを掴んだ美鈴! ロープへと振った! そして……横に回るように動き……延髄切りだあああ! 後頭部にキックがクリティカルヒット! 脳内に大地震! いきなりの大ダメージか!? 出し惜しみは一切無し! いきなりの大技! 思わず幽々子も倒れ込む! 美鈴はフォールに向かう! 早くも勝負は決まってしまうのか!? おっと! 幽々子返します!
「流石にタフですね。6ボスは伊達ではないといったところでしょう」
幽々子、延髄切りを食らったとは思えないほどの余裕の表情! 笑みすら浮かべています! 美鈴も好敵手現る! といった楽しそうな笑みを浮かべています、次に動くは……幽々子だ! ボディーブロー炸裂! ドン! っと場内に鈍い音が鳴り響きます! 思わず美鈴がたじろぐ! 今度は幽々子がロープに振った! そして……ラリアットが炸裂だああ! 丸太にぶつかったかのような、シンプルながらも力強い音が鳴り響きます! まさにパワーVSスピードの様相! 幽々子は執拗なストンピング! 踏みつけの連打! 場内も盛り上がってます! 幽々子様、俺を踏んでくれとの野太い声も飛び交ってきたあ! この男には天国でも美鈴には地獄! さあ、美鈴は立ち上がれるのか?
「ここからの関節技がありますよ、美鈴選手には」
ストンピングに耐える美鈴! おっと? 隙を突いて足を掴んだか? おおお! 見事に足を取ったまま立ち上がります! レッグロックに移行します! 足をしっかりと極めに来た! これは上手く極まった! 抜けられるか幽々子! ロープは遠いぞ! 無理矢理はね飛ばした! なんというパワー! これのどこが亡霊だ! どこから力が沸いてくるんだ!
「やはり食べ物がかかっている効果が大きいんでしょうね」
さあ、再び睨み合いになります、ここで……美鈴が逆水平チョップ! だが幽々子余裕の表情! 豊かな胸が衝撃を吸収しているのか! 顔色一つ変えません! さあ! 美鈴が逆水平を連打する! だが幽々子には利かない! そして……脳天にストレート一発! これだけで逆水平何発分の威力だ! 美鈴は思わず怯む! そこに! 投げっぱなしジャーマン! 力任せに投げ抜いたあああ! 倒れ込む美鈴!
「美鈴! 立ちなさい! 門番が寝てどうするの!」
セコンドのレミリアから叫び声が飛びます! そう! 美鈴が敗れたらもう紅魔館は亡霊の手に落ちたも同然だ! これは紅魔館と白玉楼の誇りをかけた戦争! 悪魔の館の門を守れるか紅美鈴! だが! 悪魔ですらリングには介入できません! ここは神々の支配する神聖なリングなのだから!
さあ、立ち上がれるのか美鈴! おおっと! 幽々子がゆっくりとコーナーに昇ります! そして……服を優雅に風に揺らしながらのフライングボディプレス! 決まったああ! 幽々子の重量感のある胸がドスンと美鈴に突き刺さる! これはクッションではない! もはや重力に作られた重りをぶつけられたようなものだ! これは流石に大ダメージ、そのままフォールに移行!
「ワ~~~~~~~ン、ツ~~~~~~~ウ、ス~~~~」
おおっと、美鈴返した、流石にこの程度では負けられない! メイドもセコンドも観客も大歓声! 美鈴返しました! だがダメージが顔に表れているか? まだ体の自由は利かないか? 立ち尽くす美鈴をロープに振る幽々子! ロープの反動に誘われ幽々子に向かっていく美鈴、だがそこには幽々子の丸太が待っているぞ!
おおおおおおおおおおおおおおおおお!
ああ! 美鈴飛び越えた! 幽々子を飛び越えた! 丸太から逃れた! 場内大歓声!
「これは……来ますよ! 伝家の宝刀が!」
さあ……反対のロープに走り……ロープをバネにした! なんという身体能力! ロープを踏み台に天高く飛び上がる美鈴! そして空中で一回転! 勢いをつけたまま……出たあああ! 伝家の宝刀! 美鈴キック! 一直線に幽々子に! 辺りには七色の弾幕が飛び交う! なんと美しい! 観客も恍惚とした表情で見とれています! そして幽々子に一直線に吸い込まれる!
「これは流石の幽々子選手でも苦しいでしょう」
我々には美しい、まさに超美技ですが、幽々子には死神の笑みのように見えたでしょう! 幽々子に七色のキックが直撃! 幽々子も流石に倒れ込む! おっと、セコンドの妖夢が抗議へ向かいます、これはどういうことでしょうか?
「そうですね、弾幕を張ったことが反則ではないかということでしょうか」
ですがあれはスペルカードでは無いですよね?
「はい、あれは通常攻撃ですので全く問題ないでしょう、弾幕自体にもダメージはほぼないはずです」
ですが、スペルカードより恐ろしいと言われた美鈴のキック、私も一度体験していますが、あの切れ味は思い出しただけで寒気がします。それが直撃した幽々子大丈夫か!
「十分経過~」
まだ十分しか経っていないのか! 時間の流れを忘れさせる熱戦です! 首の皮一枚で弾幕をかわすがごとく時間が圧縮されている! 美鈴、ここでフォールにはいきません! 関節技に向かいます! 決まった! STFが決まりました! 頭には腕、足には足、全身をがっちりと固めます! おおっと、また男性客が騒いでいます! 俺も極められたいと! だがこれはベッドの上で寄り添いあうのとは違うぞ! 優しさはゼロ! 全身をがっちり極められています! 体がキリキリと悲鳴をあげる!
幽々子、苦悶の表情をあげながらロープに向かいます、だがロープは遠い!
「ギブアップ? ギブアップ?」
レフェリーも幽々子に意思確認に行きます!
「ですがタップはないでしょうね、肉を目の前にした幽々子選手が逃げるなどありえません」
しかし! このままでは意識か骨のどちらかが行ってしまいそうだ! じりじりと引きずりながらロープへ向かうがロープは遠い!手を伸しても届かない! ほんの僅かな距離が永遠よりも遠い!
「ブレイク!」
!? レフェリーがブレイクを宣言! これは!? 場内にはどよめきがわきます! これはどういうことでしょう!? 手はロープから遠いぞ!
「幽霊ですね」
幽霊ですか?
「はい、幽々子選手の周りに飛んでいる幽霊がロープに届きました」
ですがあれは体の一部なんでしょうか?
「そうですね、判断は分れますが、常に自分の回りを飛んでいる以上そういう解釈も出来ます、また四季レフェリーが白と認めた以上それは絶対ですからね」
ですがセコンド陣は激怒! 猛抗議を行います! 美鈴も抗議へ向か――あ! 美鈴が抗議に気を取られた瞬間後ろから幽々子が追ってきた! 後方からのヘッドロック! 力任せに頸動脈を締め上げる! 気を抜いたか美鈴! 意識が遠のいていくか美鈴! リングは戦場だ! 気を抜いたものには敗北しかないぞ!
美鈴! 必死にエルボーを放って逃れる! どうにかロックは解いた! だが意識はあるか? 脳内に酸素は十分か? まだ朦朧としています! そして幽々子掴む! 幽々子が頭を下に逆さまに持上げる!
うおおおおおおおおおおおおおおおお!
場内またまたまたの歓声の山! 決まりました! ツームストン・パイルドライバー! 美鈴の脳天が垂直にリングに直撃! リングと言う名の墓石に一撃だ! リングを突き抜け地獄まで落とすかのような轟音が鳴り響きました! どうだ美鈴! これが死を操る者の力だ! 私が墓掘り人だ! そんな様子の幽々子! これは決まったか! 美鈴全く動けません!
余裕の表情でフォールに向かう幽々子! ゆっくりと美鈴に向かう、美鈴微動だに出来ない! 美鈴の両手を掴み! 胸元で、心臓の上で合わせます、まるで棺桶の中の者のように!
「これは……葬式のイメージでしょうね、外の世界の高名なレスラーが使っていたのを見たことがあります」
外の世界を知らないはずの幽々子がそれを実戦しています! これは亡霊としての本能か!? 死を操る者の無意識か!? そして、R.I.P! 安らかに眠れと言わんばかりに優しく美鈴をフォールします!
「ワ~~~~~~ン! ツ~~~~~~~~~~ー」
レフェリーも! 観客もカウントを大合唱! これは決まるか! 決まってしまうのか!
「ス~~~~~~~~~~~~~~r」
あああああ! 返した! 返した! カウント2.99! 信じられません! なんと美鈴返しました! 微かに! 僅かに! ですが確実に肩を浮かせた! 地獄からの生還! 地獄のものですら美鈴には恐れをなしたか! 地獄から送り返されてきたか! 場内割れんばかりの大拍手!
「……まさ……かと…」
もう紫さんの解説すら拍手に覆い尽くされてきました! 紫さん、少々マイクのボリュームを上げてください! それだけの大歓声!
ですがまだ美鈴立てません! 流石の大ダメージ!
美鈴! 美鈴! 美鈴! 美鈴!
場内大声援! 観客の心は完全に美鈴へ! 幽々子頭を抱える! 何故だ! 何故だ! という表情! そのままロープに昇ります! エルボードロップをしかけます! これを食らえばもう致命傷か!
「いや、空中からはまずいですよ!」
どうい――ああ! 幽々子の先に待つのは槍だ! 美鈴、力を振り絞り膝を立てていた! 例え立てただけの膝でも幽々子の勢いと合わせれば!
「これは完全に狙ってましたね」
乾坤一擲の槍となる! その鋭さはまさに神槍級! レミリア直伝のスピア・ザ・グングニルだ! 幽々子の腹に突き刺さる! 幽々子腹を抱えてうずくまる! 死を操る者にも致命傷か? グングニルは戦争と死の神オーディンの持つ魔槍! 死の神の一撃が亡霊に引導を渡すか!
そしてうずくまる幽々子を美鈴たたき起こす! ヴァルハラでの休息などここには存在しない! 美鈴は観客にアピール! 場内大声援! そして顎にハイキック! 脳内に震度7! これはスイート・チン・ミュージックだ! ハートをブレイクする強力な一撃!
完全にボロボロの幽々子! だがこれでは終わらない! エインヘリャルはこれからだ! オーディンの力を借りた者には戦いしか存在しない!
美鈴コーナーに昇る! 幽々子を背に盛大なアピール! もう種族なんて関係ない! 人間も妖怪も悪魔も天狗も! 幽霊だって美鈴だけを見つめる! そして! 飛んだ! 気を込めて飛んだ! 背中から飛び……空中で一回転して七色の流れ星が落下! シューティングスタープレス! いや! この破壊力は流れ星なんてものじゃない! 隕石だ! レインボーのコメットだ!
「これは……流石に決まりましたかね」
天空からの隕石が幽々子に直撃! 七色の弾幕を! 七色の光をまとった隕石が落下! そのままフォール! 胸を押さえつける! 辺りに満ちるは男性客のため息!
「ワ~~~~ン! ツ~~~~~~ー!」
凄まじい観客の合唱! もはやリングサイドの私の所にすらレフェリーのカウントが聞こえません!
「スリー!」
観客の大合唱! スリーの大合唱! 決まった! 決まりました! 初代王者は紅美鈴! 凄まじい激戦でした!
「いや、待ってください! ゴング鳴ってませんよ!」
???? あやややや! レフェリーはカウントを1から再開! どういうことでしょう!
「幽々子選手消えましたよ!」
幽々子はいない! どこへいった! あああ! リングの上に木がそびえ立ってます! そして場内に鳴り響くこの曲はボーダーオブライフ!
「西行妖ですね。あれが登場している間は幽々子選手、消えますよ! 無敵です!」
「セブン!エイト!ナイン!」
レフェリーカウント続行! 10秒とはいえ無敵だと! どうすればいい美鈴! 何故終わらない! 何故終わらせてくれない! これが人外の決戦だ! これが幻想郷プロレスだ!
「これが幻想郷ですね。素晴らしい一戦です」
おおっと、幽々子現れた! だが能力使用による消耗は大きいか? 息も絶え絶えです! 一方美鈴も先ほどで力を振り絞ったか! だが両者笑みを浮かべています! まさに"強敵"と書いて"とも"と呼ぶかのごとき死闘! 両者疲れ果てながら満足感に溢れています!
「ですがセコンドはそれどころでは無いですね」
セコンドは猛抗議! 大激怒! これは幽霊どころではない! 明らかにスペルカードではないかと猛抗議!
「そうですね、ですが幽々子選手は西行妖を呼んだだけです、これが反魂蝶でしたら完全にアウトでしょうが……」
はい、確かに西行妖を呼ぶだけのスペルカードはありませんね
「しかしこれはグレーですねえ、限りなく黒に近いですよ、一つでも弾が飛べば、即反魂蝶認定でアウトでしたね」
だが四季レフェリーも疑わしきは罰せずか! 白認定しました! しかしセコンドの怒りは収まらない、レフェリーに食いつきます! あ! 幽々子から笑みが消える! 隙を突いて掴む! どうした! あの笑顔はブラフか! 偽りの友情か! 頭上へと大きく持上げた! これはラストライド! 全身をリングに叩きつける! なんというパワーと底力! 美鈴再び隙を突かれてしまった!
「良くないですねえ。試合が終わるまで気を許してはいけませんよ」
あああああ! あやややや! 妖夢乱入!? どうした! セコンドが何故入る!
「いや、いけませんね。これは」
レフェリーはレミリアとの口論中! 気付け! 気づいてくれ! 神々の聖域に立ち入らせるな! ああ、妖夢が二本の剣を抜く! 楼観剣と白楼剣を抜く! 思わずリングサイドの幽霊は逃げ出す! 触れれば一降りで成仏だあああ!
「……一応柄で殴ってますね」
柄で殴りつける妖夢! 馬乗りで殴りつける幽々子! 二対一はルールに乗っ取ってないぞ! 妖夢! 考え直せ! このブーイングの嵐が聞こえないのか! お嬢様の言いつけなど破ってしまえ! 妖忌はそんな風に育ててないぞ! 師の教えを思い出せ! そして四季! レミリア! いい加減気づいてくれ! あ! ようやくレミリア気づいたか!? 四季に伝える! だが時既に遅し! 妖夢はとうの昔にリング外! だが観客のブーイングは収まらない!
「……確かに終わったことは問えません、それがプロレスですから」
はい……
「それにこんなヒールを求める声もわかります、ですが、両者実力伯仲なだけにもっとクリーンな試合を望んでましたが……」
そうですね……
「楽しんだ者が勝ち、その原点に試合中幽々子選手が気づいてくれることを祈ります」
はい、それを祈りましょう
「二十分経過~」
二十分が経ち、試合もフェアから離れて来たか! だがこうなれば観客の望みは一つだ! ヒールをぶち倒せ! 美鈴! 観客からは凄まじい声援! だが幽々子は倒れる美鈴を殴り続ける! もはや泥仕合の様相! おっと! リング外でも乱闘か!
「おい! 妖夢! ちょっと待ちなさい!」
「こっちも食費が大変なんですよ!」
レミリアと妖夢の凄まじい言い争い! ああああ! レミリア発動した! 発動してしまった! 不夜城レッドだ! お下がりください! お下がりくださいお客様! 危険です! 藍も必死に観客に呼びかけます!
「天井壊れちゃいましたね」
赤い十字架が立ち上ります! 天井には大穴が!
「夜でよかったですねえ」
はい、ですが修理代はどこに請求すべきか! 紅魔館に大穴! 荒れてます! 妖夢もスペルカード発動か!? 剣を抜く! レミリアも槍を出したぞ! 本家本元のスピア・ザ・グングニル! これはもう神々の聖域すら消え去った! どこもかしこも戦場だ! ラグナロクだ! 神々も黄昏た!
「いや、いけませんよ、このままでは没収試合もありえます」
我々はそんなものは望んでいない! 我々が望むのは完全決着! そして地に這いつくばる魔王幽々子の姿だ!
「あ、大丈夫です、今退場命令が出ました」
おっと、セコンド陣が追い出されます! 抵抗するようですが多勢に無勢! 追い出すスタッフすら豪華絢爛! 諏訪子、神奈子、早苗、その他多数の神々、神々の聖域を取り返しに八百万の神が見参!
「レミリア以外は静観していましたので、全員を追い出したのは厳しいかもしれませんが、連帯責任でしかたないでしょうか」
そうですね、しかしリング上の選手以外も本当に豪華ですね
「ええ、幻想郷プロレス、凄まじいですね、誰もがリングに立ったらどれだけの好勝負ができるかわかりませんよ、それだけの逸材揃いです」
それだけに、この旗揚げ戦のメイン、しっかり完全決着をつけてもらいたいですね、おっと、リング上でも動きがありました! 美鈴反撃に移行! どこにそんな力が残っていた!
「残っていたんじゃないんですよ、観客が渡したんです」
この大声援、確かにいかほどの力になるかも計り知れません!
レッツゴー美鈴! レッツゴー美鈴! レッツゴー美鈴!
観客の大声援! この全てが美鈴の力となっています! 凄まじい早さの空手技の連打! 幽々子手も足も出ないか? いや、なんとか返す! 幽々子掴んだ! ああ! いけない! またパイルドライバーが入るか!
「いや、大丈夫です! これも狙ってましたよ! 美鈴選手!」
足を掴み挙げる幽々子、だが! そうだ! 攻撃に移る瞬間が一番隙が大きいぞ! 持上げられた足が幽々子の首を掴む! 首を掴み! その足で顔から叩き落とす! 素晴らしい早業!
「見事なウラガンラナですね」
だが幽々子もさるもの! まだ倒れない! 立ち上がる、しかし美鈴にもう隙はない! 凄まじい早さで繰り出される立ち技! ただ先ほどの空手とは違うか? 紫さん、これはなんでしょうか?
「はい、太極拳ですね」
太極拳というとゆっくりした印象がありますが? 美鈴選手がよくゆっくりと練習をしていますね?
「いえ、それは演舞だけです、実戦では凄まじいですよ! 目の前のが良い例です!」
凄まじい勢いで殴り付ける! 目にも止まらぬとはこのことか! 観客も目が追いつかないか! 歓声のリズムが狂ってきたぞ! だがボリュームは凄まじい! それでいい! みなさん! 声援を送ってください!
美鈴! 美鈴! 美鈴! 美鈴! 美鈴!
幽霊達すら歓声を送っています! それほど美しい技の連打! これが美鈴! これが美鈴です! さあ! あとはベルトを巻くだけだ! 東洋の神秘頑張れ! 太極拳頑張れ! 美鈴頑張れ!
「お!首を掴みましたね!」
太極拳の華麗な動きから一転! 力任せに肘の部分で幽々子の首を掴みます! そして! 決まった! スタナーが完全にヒット!首ねっこを掴んで叩き落とした! 東洋の技から西洋の技に完全移行! まさに一人上海租界! 東洋と西洋のハイブリッド! 明治十七年の上海アリスだああああ! 幽々子はもう力もないか!
「当然です、二人とも力はとっくに使い切ってます、この差は声援の差、そして勝負を楽しんだことによる精神力の差です、それで美鈴選手が上回るのは当然ですね」
ぐったりと寝そべる幽々子、美鈴は決着をつけに行く! コーナーに昇ります! 美鈴両手をあげて大アピール! 場内今日一番の大声援! 天井が割れているが大丈夫か! 幻想郷中に響き渡るんじゃないか! 明日は苦情の山か!? だがそんなことは気にするな! この一戦をしかと見届けよ! 声だけ聞いた者に嫉妬させろ! 幻想郷中に橋姫を呼んでやれ!
美鈴を天井から漏れる月明かりが照らす! これは天女か! あまりにも美しい! あまりに幻想的な光景! だが心配するな! 我らが天女は月の姫ではない! どれだけ飛ぼうが必ず私たちの元に返ってくる! 美鈴は幻想郷に住まう妖怪だ! 美鈴飛んだ! 凄まじい跳躍! そして帰ってくるぞ! 決着をつけに!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
なんという声援! なんというパワー! 決まった! 七色のキックが脳天にヒット! 伝家の宝刀! 今度は切り裂いた!
月明かりが七色に変わったぞ! 美しい! これは夢か? 幻想か? 否! これは現実だ! 幻想は今現実となった! さあ! 決めてしまえ! 私たちの幻想を完成させろ!
「もう幽々子選手も能力どころじゃないでしょうね、意識があるかも怪しいですよ!」
速やかにフォールへ移行!
「ワン! ツー! スリー!」
カンカンカンカン!
ゴングが鳴った、今度は鳴った! 決着は付いた! おめでとう美鈴!
勝者~ 初代幻想郷王者~ 赤コーナー 紅! 美鈴~~~~!
美鈴! 美鈴! 美鈴! 美鈴!
大声援! 大歓声! 鳴り止む気配もありません! そしてリングは紅いテープで埋め尽くされた! おめでとう美鈴! そして熱戦をありがとう!
「いや、素晴らしいですね! 王者とはかくあるべしですよ!」
セコンド陣も舞い戻りました! 皆喜色満面で美鈴を褒めたたえます!そしてコミッショナーの博麗霊夢氏がベルトを携え入場しました、普段からめでたい紅白の服が一層めでたく映ります!
美鈴ベルトに向かうか……いや、違います
「幽々子選手の方に向かいましたね」
まだ幽々子は意識が朦朧としているようです、あっ! 王者が手を差し伸べました! 優しく立たせます! そして……両者で繋いだ手を天に掲げます! 場内は幽々子選手にも大歓声! 二人で抱き合い……何事かをささやきましたか?
「そうですね、恐らく名勝負だったと言うことを話しているんでしょう」
はい、確かに途中までは本当に素晴らしい試合でした。
「それだけに乱入は残念でしたね、幽々子選手も実力は伯仲してただけに」
ですが、あの妖夢の乱入がきっかけに盛り上がりが高まったのも否めませんね。
「それがプロレスの面白くて難しい所ですね、ですが幽々子選手にはプロレスの面白さ、美鈴選手にはダーティな戦いの経験、共に学ぶことがあったのではないでしょうか」
となると再戦に期待したいですね。
「はい、そもそも経験では圧倒的に不足してる幽々子選手が、ここまで食い下がったわけですからね、最後はプロレス愛の差が勝負を分けましたが、本当に髪の毛一本の差でしたよ。これがプロレスを学んでいくと……恐ろしいですね、どこまで伸びるか想像もつきません」
はい、あっ! 幽々子選手もリングをおり、勝者がマイクを持ちました!
「え~皆さん、本日はご来場いただきありがとうございます。その……普段地味な存在なんで、こういうアピールは苦手です……名前をちゃんと呼んでもらえたのも久しぶりだったりするんで。正直マイクをお嬢様に変わって貰いたいくらいです」
謙虚ですね
「はい、ですがそこがまた美鈴選手の魅力ですね、種族を問わず引きつける気さくさと謙虚さがありますよ」
「ですが、一つだけ言えることは、今日の試合は皆さんと幽々子のおかげです、私一人で作り上げた試合ではありません、幽々子は本当に強敵でした、でもおかげで楽しく出来ました、そして、最後勝てたのはみなさんのおかげです」
場内拍手の嵐、そして幽々子選手も涙を流してます
「最後に……ってそうしたら一つだけじゃないですね、すいません、ええと、で、言いたいことは……幽々子を破った王者に相応しい王者として努力していきます! みなさん今後も応援よろしくお願い致します!」
短いながらも美鈴選手らしい素晴らしいアピールでした。
「幽々子選手もこれでプロレスの奥深さを学べたと思います、そしてプロレスの楽しさ、プロレス愛もわかってくれたと思います、楽しんだ者が勝ち、この基本にして永遠の真理を学べば、最強の王者となることも夢ではありませんよ、スペルカードルールでは定評のある幽々子選手、根っこは同じなんですからきっとわかってくれるでしょう!」
ええ、そうでしょう、きっと幽々子選手もわかったことでしょう。あの涙はその証です。美鈴選手の期待に応えて欲しいですね、さて、リング上ではまだ表彰式が行われていますが、紫さん、幻想郷プロレス、今後も好カードが目白押しですね。
「はい、次回は私も参戦します、応援のほどをよろしくお願いします」
次回大会では、今日初代タッグ王者に輝いた霊烏路空&火焔猫燐組との対戦ですね
「はい、橙をパートナーにして対戦します」
紫さんと言えば本日はタイムキーパーに付いていた藍選手とのタッグのイメージが強いのですが?
「そうですね、ただ、藍とのタッグではスペルカード禁止のルールに抵触する恐れがありまして、今回はセコンドについてもらいます」
橙選手とのタッグはどうですか?
「はい、久しぶりに顔を合わせましたが、かなりの成長ですね、予想以上です、この調子なら八雲の姓を授けてもいいとも思ってますね」
と、なると王者になった暁には
「ええ、同じベルトと共に同じ姓を名乗れたらと思います」
なるほど、相手タッグについてはどう思いますか?
「そうですね、若さと勢いに溢れたタッグだと思います、ですが橙もその点では負けてませんからね、私が冷静に試合を組み立て、橙が勢いで攻める、その形に出来れば勝ちは揺るぎないと思いますよ」
はい、ありがとうございました。リング上では今まさにベルトの贈呈が行われています。初代王者紅美鈴、どこまで防衛記録を残せるか、今後が非常に楽しみです、それでは表彰式を皆さんにご覧になって戴きながら、我々は失礼します。実況は射命丸文、解説は八雲紫さんで紅魔館特設会場からお送りしました。また、今大会の詳細は文々。新聞の特集号でもお伝えします、そちらもお楽しみに。以上、幻想郷プロレス旗揚げ戦の模様をお送り致しました。
※プロレス好きならニヤリ……とできればいいなと思います
※プロレスを知らずとも東方さえ知っていれば面白い作品……を目指したので、そう思ってもらえれば幸いです。
ある日の午後、美鈴は溜め込んでいた悩みをレミリアに告白していた。
「正直私って地味ですよね」
「そうね」
レミリアも率直に同意する。
「何が悪いんでしょう? テーマ曲も名曲、弾幕もカラフルなのに」
「能力かしら、気を扱う程度の能力って正直なんだかよくわからないわよね」
「そうですかね……」
その後も欠点を考えていたが気は晴れない。当然だろう。
「逆に私の長所は何でしょう?」
「気さくな所と武術の達人ってとこかしら」
「なるほど……」
それを把握してもやはり気は晴れない、何故ならスペルカードバトルでそんなものは役に立たないからだ。
「大体武術なんて弾幕の役に立たないんですよね」
「それはそうだけど……なんで自己分析なんて始めたの? 転職でもする気? それは許さないわよ」
「いや、門番の仕事に不満はないんですが」
そう言うと、悩みの告白を始めた。
「地味な上、怖さもないんじゃ門番の意味がないんですよね、やっぱりああいうのは恐れられてなんぼじゃないですか」
「……そうかもね、やっぱり新しい門番を――」
「いや、それを宣告される日が来るんじゃないかと思うと毎日気が気じゃなくて……」
この頃は不安から、ご飯も一食三杯程度しか食べられないと嘆く美鈴。
「ストレスなく働ける環境を作るのも雇い主の務めだからね……」
レミリアも一応は人の上に立つものとして、頭を少し働かせる。
「そうだわ」
そして短絡的な発想に至った。
「プロレスよ!」
「はあ?」
「格闘技の経験と性格を生かせる、おまけに興行で金もザクザク!」
「そんな簡単にいきますかね」
だが、レミリアは笑顔で言い張った。
「大丈夫、私のカリスマで団体を作るわ」
それから長い時が流れた。案の定レミリアは全く役に立たなかったが、人間の間で美鈴が才色兼備の格闘家として知られていることが、そして美鈴の妖怪らしからぬ気さくな人柄が役に立った。人が人を呼び、金が金を呼び、紅魔館から始まった計画は人里を経て幻想郷中に広がる。美鈴の昼寝の時間も、門番の時間も惜しんでの挨拶回りも役に立った。そして今日ついに――
紅魔館特設会場からお送りします! さあ、ついに幻想郷初のプロレスが幕を挙げました! 幻想郷プロレスリング旗揚げ戦! 注目のメインマッチは西行寺幽々子VS紅美鈴! 場内は超満員のお客さんで埋め尽くされています! 実況は私射命丸文! 解説は幻想郷一の知恵者! にじみ出る年の功! 八雲紫さんでお送りします!
さて、紫さん、本日の一戦についてどう思われますか?
「そうですね、私も外の世界の格闘技には随分触れてきましたが、幻想郷での試合はもちろん今日が初めてです。ですが、幻想郷ならではの試合に期待したいですね」
はい、幻想郷ならでの試合とはどのようなものと思われますか?
「そうですね、まずスペルカードルールも、プロレスも根本にあるものは同じです、隙と無駄とそこに生まれる美、そして何より楽しんだ者が勝ち。この点はスペルカードルールと相通じる者があります」
そうですね、勝敗だけではなく、選手、観客双方が盛り上がれる一戦を期待したいと思います。
「さらに、幻想郷では特殊な能力・人外の者といったファクターがあります、この点を活かし、幻想郷らしい熱戦を期待したいですね」
はい、今回はスペルカードを使わなければカウント10までは能力の仕様も許可されています。それがどう出るか!
「そうですね、美鈴選手は"気を使う程度の能力"で技に気楽に組み込んでいけます、一方幽々子選手は"死を操る程度の能力"、能力の破壊力は幽々子選手が圧倒的に上ですが、相手を殺してしまっては反則負けなので、使い方が難しいですね」
なるほど、ありがとうございます。紫さんの予測は現実ではどうなるか? まもなく試合開始です!
~BGM 明治十七年の上海アリス
さあ! 華麗な入場テーマに乗って入場して参ります! 赤コーナーの紅美鈴! 喧嘩四百戦無敗! 幻想郷最強の武術の達人! 紅魔館はホームグラウンド! メイドたちの大声援に乗せて! 今! 颯爽とその姿を現しました!
うおおおおおおおお!
皆さん、聞こえますでしょうか! この大声援が! 七色に光るライトと、メイド達からのテープに送られ、花道を華麗に歩いて参ります! BGMの軽快なリズムに乗せて! 華麗なステップを踏んでおります! まさに気合十分と言ったところでしょうか! そしてチャイナドレスをモチーフにした本日のユニフォーム! いつもの人民服とは毛色を変えたその美しさに男性客からも熱い声援が飛んでおります!
セコンドに付くはスカーレット姉妹、パチュリー・ノーレッジ、十六夜咲夜! まさに紅魔館オールスター! 悪魔達の宴! ロープを飛び越え、身体能力の高さを見せつけながら! 今入場致しました!
~BGM 幽雅に咲かせ、墨染の桜 ~ Border of Life
Deadman...Walking
重々しい鐘が鳴り響き、重々しい声が流れ……場内が闇に包まれます……そして入場曲が流れた瞬間! こちらも光と共に姿を表しました! 青コーナー西行寺幽々子! 最初に流れた重々しい鐘の音から静かなイントロへ! そして一気に攻撃的な曲に変わる! 会場のボルテージも既に最高潮です!
冥界から幽霊たちも駆けつけています! その応援に乗せられゆっくりと花道を歩く姿はまさにデッドマン・ウォーキング! 死者の行進! これが幻想郷だ! 美鈴選手とは違った優雅でゆったりとしたユニフォーム、下がスカートで無い以外はいつも通りでしょうか? これは戦略か? それとも余裕の表れか!
セコンドに着くは魂魄妖夢! 半人半霊! 0.5人と0.5人で一人のセコンドです! 小数点で区切れる存在! まさに人外! そしてこれは白玉楼VS紅魔館の代理決戦でもあります! 亡霊VS悪魔! 人間よ! 妖怪よ! 刮目してみろ! これはまさに人智を超えた者の最終決戦! ハルマゲドンだあああ!
さて紫さん、両者入場したわけですが、どのような試合になると思われますか?
「そうですね、能力は置いておいても、両者共にスタイルは違うようですね、ウエイトでは幽々子選手が上回っていますし、流石にヘビーとまでは行きませんが。ただ、美鈴選手との差を考えれば、ジュニアVSヘビーの争いに等しいでしょう」
そうですね、体格では幽々子選手が勝っているようです
「はい、ですのでパワーの幽々子選手、スピード&テクニックの美鈴選手といった勝負になると思われます」
武術の達人として知られる美鈴選手に対して、幽々子選手の方は格闘技経験のデータが無いようですが、その点はどう思われますか?
「そうですね、私は幽々子選手の生前からの知り合いですが、彼女のパワーには一目おいて良いと思います、経験を補って余りあるかもしれませんね」
なるほど
「さらに、今回勝者には焼き肉一年分が送られます、食べ物がかかったときの彼女は……私でも逃げ出したくなるほどのレベルですね。恐ろしい力を発揮します」
はい、ありがとうございました。
ただ今より~ 幻想郷王者決定戦! 無制限一本勝負を行います!
赤コーナー ○○センチ~××ポンド~ 紅~! 美鈴~~~!
さあ、選手紹介が始まります! お伝えするのはタイムキーパー兼リングアナの八雲藍! 正確さには定評があります! まずは紹介されたのは美鈴! 次は青コーナー!
青コーナー △△センチ~□□ポンド~ 西行寺~~! 幽々子~~~!
レフェリーは~ 四季映姫・ヤマザナドゥ~
カン!
さあ! ゴングが鳴りました! 待望の試合開始です! まずは両者歩み寄り……握手です! まずはフェアな開始!
「はい、私もゆくゆくはプロレスがスペルカードルールと並ぶ決闘の二大柱になって欲しいと思います。その意味でも、先便となるこの試合ではフェアな勝負を期待したいですね」
はい、そうですね。さあ、二人とも握手を終え、ファイティングポーズを取ります、まずは……挨拶代わりの美鈴のジャブ! ですが、幽々子もなんなく受け止めます。
「まだ牽制段階でしょうね、美鈴選手も得意技は足技と空中技ですから」
おっと、腕を捕まれたまま……美鈴のミドルキックが炸裂! 思わず幽々子は怯む! 場内には早くも拍手が飛び交う!
「いいキックですね、名刺代わりの一撃と言ったところでしょうか」
さあ! 怯んだところを掴んだ美鈴! ロープへと振った! そして……横に回るように動き……延髄切りだあああ! 後頭部にキックがクリティカルヒット! 脳内に大地震! いきなりの大ダメージか!? 出し惜しみは一切無し! いきなりの大技! 思わず幽々子も倒れ込む! 美鈴はフォールに向かう! 早くも勝負は決まってしまうのか!? おっと! 幽々子返します!
「流石にタフですね。6ボスは伊達ではないといったところでしょう」
幽々子、延髄切りを食らったとは思えないほどの余裕の表情! 笑みすら浮かべています! 美鈴も好敵手現る! といった楽しそうな笑みを浮かべています、次に動くは……幽々子だ! ボディーブロー炸裂! ドン! っと場内に鈍い音が鳴り響きます! 思わず美鈴がたじろぐ! 今度は幽々子がロープに振った! そして……ラリアットが炸裂だああ! 丸太にぶつかったかのような、シンプルながらも力強い音が鳴り響きます! まさにパワーVSスピードの様相! 幽々子は執拗なストンピング! 踏みつけの連打! 場内も盛り上がってます! 幽々子様、俺を踏んでくれとの野太い声も飛び交ってきたあ! この男には天国でも美鈴には地獄! さあ、美鈴は立ち上がれるのか?
「ここからの関節技がありますよ、美鈴選手には」
ストンピングに耐える美鈴! おっと? 隙を突いて足を掴んだか? おおお! 見事に足を取ったまま立ち上がります! レッグロックに移行します! 足をしっかりと極めに来た! これは上手く極まった! 抜けられるか幽々子! ロープは遠いぞ! 無理矢理はね飛ばした! なんというパワー! これのどこが亡霊だ! どこから力が沸いてくるんだ!
「やはり食べ物がかかっている効果が大きいんでしょうね」
さあ、再び睨み合いになります、ここで……美鈴が逆水平チョップ! だが幽々子余裕の表情! 豊かな胸が衝撃を吸収しているのか! 顔色一つ変えません! さあ! 美鈴が逆水平を連打する! だが幽々子には利かない! そして……脳天にストレート一発! これだけで逆水平何発分の威力だ! 美鈴は思わず怯む! そこに! 投げっぱなしジャーマン! 力任せに投げ抜いたあああ! 倒れ込む美鈴!
「美鈴! 立ちなさい! 門番が寝てどうするの!」
セコンドのレミリアから叫び声が飛びます! そう! 美鈴が敗れたらもう紅魔館は亡霊の手に落ちたも同然だ! これは紅魔館と白玉楼の誇りをかけた戦争! 悪魔の館の門を守れるか紅美鈴! だが! 悪魔ですらリングには介入できません! ここは神々の支配する神聖なリングなのだから!
さあ、立ち上がれるのか美鈴! おおっと! 幽々子がゆっくりとコーナーに昇ります! そして……服を優雅に風に揺らしながらのフライングボディプレス! 決まったああ! 幽々子の重量感のある胸がドスンと美鈴に突き刺さる! これはクッションではない! もはや重力に作られた重りをぶつけられたようなものだ! これは流石に大ダメージ、そのままフォールに移行!
「ワ~~~~~~~ン、ツ~~~~~~~ウ、ス~~~~」
おおっと、美鈴返した、流石にこの程度では負けられない! メイドもセコンドも観客も大歓声! 美鈴返しました! だがダメージが顔に表れているか? まだ体の自由は利かないか? 立ち尽くす美鈴をロープに振る幽々子! ロープの反動に誘われ幽々子に向かっていく美鈴、だがそこには幽々子の丸太が待っているぞ!
おおおおおおおおおおおおおおおおお!
ああ! 美鈴飛び越えた! 幽々子を飛び越えた! 丸太から逃れた! 場内大歓声!
「これは……来ますよ! 伝家の宝刀が!」
さあ……反対のロープに走り……ロープをバネにした! なんという身体能力! ロープを踏み台に天高く飛び上がる美鈴! そして空中で一回転! 勢いをつけたまま……出たあああ! 伝家の宝刀! 美鈴キック! 一直線に幽々子に! 辺りには七色の弾幕が飛び交う! なんと美しい! 観客も恍惚とした表情で見とれています! そして幽々子に一直線に吸い込まれる!
「これは流石の幽々子選手でも苦しいでしょう」
我々には美しい、まさに超美技ですが、幽々子には死神の笑みのように見えたでしょう! 幽々子に七色のキックが直撃! 幽々子も流石に倒れ込む! おっと、セコンドの妖夢が抗議へ向かいます、これはどういうことでしょうか?
「そうですね、弾幕を張ったことが反則ではないかということでしょうか」
ですがあれはスペルカードでは無いですよね?
「はい、あれは通常攻撃ですので全く問題ないでしょう、弾幕自体にもダメージはほぼないはずです」
ですが、スペルカードより恐ろしいと言われた美鈴のキック、私も一度体験していますが、あの切れ味は思い出しただけで寒気がします。それが直撃した幽々子大丈夫か!
「十分経過~」
まだ十分しか経っていないのか! 時間の流れを忘れさせる熱戦です! 首の皮一枚で弾幕をかわすがごとく時間が圧縮されている! 美鈴、ここでフォールにはいきません! 関節技に向かいます! 決まった! STFが決まりました! 頭には腕、足には足、全身をがっちりと固めます! おおっと、また男性客が騒いでいます! 俺も極められたいと! だがこれはベッドの上で寄り添いあうのとは違うぞ! 優しさはゼロ! 全身をがっちり極められています! 体がキリキリと悲鳴をあげる!
幽々子、苦悶の表情をあげながらロープに向かいます、だがロープは遠い!
「ギブアップ? ギブアップ?」
レフェリーも幽々子に意思確認に行きます!
「ですがタップはないでしょうね、肉を目の前にした幽々子選手が逃げるなどありえません」
しかし! このままでは意識か骨のどちらかが行ってしまいそうだ! じりじりと引きずりながらロープへ向かうがロープは遠い!手を伸しても届かない! ほんの僅かな距離が永遠よりも遠い!
「ブレイク!」
!? レフェリーがブレイクを宣言! これは!? 場内にはどよめきがわきます! これはどういうことでしょう!? 手はロープから遠いぞ!
「幽霊ですね」
幽霊ですか?
「はい、幽々子選手の周りに飛んでいる幽霊がロープに届きました」
ですがあれは体の一部なんでしょうか?
「そうですね、判断は分れますが、常に自分の回りを飛んでいる以上そういう解釈も出来ます、また四季レフェリーが白と認めた以上それは絶対ですからね」
ですがセコンド陣は激怒! 猛抗議を行います! 美鈴も抗議へ向か――あ! 美鈴が抗議に気を取られた瞬間後ろから幽々子が追ってきた! 後方からのヘッドロック! 力任せに頸動脈を締め上げる! 気を抜いたか美鈴! 意識が遠のいていくか美鈴! リングは戦場だ! 気を抜いたものには敗北しかないぞ!
美鈴! 必死にエルボーを放って逃れる! どうにかロックは解いた! だが意識はあるか? 脳内に酸素は十分か? まだ朦朧としています! そして幽々子掴む! 幽々子が頭を下に逆さまに持上げる!
うおおおおおおおおおおおおおおおお!
場内またまたまたの歓声の山! 決まりました! ツームストン・パイルドライバー! 美鈴の脳天が垂直にリングに直撃! リングと言う名の墓石に一撃だ! リングを突き抜け地獄まで落とすかのような轟音が鳴り響きました! どうだ美鈴! これが死を操る者の力だ! 私が墓掘り人だ! そんな様子の幽々子! これは決まったか! 美鈴全く動けません!
余裕の表情でフォールに向かう幽々子! ゆっくりと美鈴に向かう、美鈴微動だに出来ない! 美鈴の両手を掴み! 胸元で、心臓の上で合わせます、まるで棺桶の中の者のように!
「これは……葬式のイメージでしょうね、外の世界の高名なレスラーが使っていたのを見たことがあります」
外の世界を知らないはずの幽々子がそれを実戦しています! これは亡霊としての本能か!? 死を操る者の無意識か!? そして、R.I.P! 安らかに眠れと言わんばかりに優しく美鈴をフォールします!
「ワ~~~~~~ン! ツ~~~~~~~~~~ー」
レフェリーも! 観客もカウントを大合唱! これは決まるか! 決まってしまうのか!
「ス~~~~~~~~~~~~~~r」
あああああ! 返した! 返した! カウント2.99! 信じられません! なんと美鈴返しました! 微かに! 僅かに! ですが確実に肩を浮かせた! 地獄からの生還! 地獄のものですら美鈴には恐れをなしたか! 地獄から送り返されてきたか! 場内割れんばかりの大拍手!
「……まさ……かと…」
もう紫さんの解説すら拍手に覆い尽くされてきました! 紫さん、少々マイクのボリュームを上げてください! それだけの大歓声!
ですがまだ美鈴立てません! 流石の大ダメージ!
美鈴! 美鈴! 美鈴! 美鈴!
場内大声援! 観客の心は完全に美鈴へ! 幽々子頭を抱える! 何故だ! 何故だ! という表情! そのままロープに昇ります! エルボードロップをしかけます! これを食らえばもう致命傷か!
「いや、空中からはまずいですよ!」
どうい――ああ! 幽々子の先に待つのは槍だ! 美鈴、力を振り絞り膝を立てていた! 例え立てただけの膝でも幽々子の勢いと合わせれば!
「これは完全に狙ってましたね」
乾坤一擲の槍となる! その鋭さはまさに神槍級! レミリア直伝のスピア・ザ・グングニルだ! 幽々子の腹に突き刺さる! 幽々子腹を抱えてうずくまる! 死を操る者にも致命傷か? グングニルは戦争と死の神オーディンの持つ魔槍! 死の神の一撃が亡霊に引導を渡すか!
そしてうずくまる幽々子を美鈴たたき起こす! ヴァルハラでの休息などここには存在しない! 美鈴は観客にアピール! 場内大声援! そして顎にハイキック! 脳内に震度7! これはスイート・チン・ミュージックだ! ハートをブレイクする強力な一撃!
完全にボロボロの幽々子! だがこれでは終わらない! エインヘリャルはこれからだ! オーディンの力を借りた者には戦いしか存在しない!
美鈴コーナーに昇る! 幽々子を背に盛大なアピール! もう種族なんて関係ない! 人間も妖怪も悪魔も天狗も! 幽霊だって美鈴だけを見つめる! そして! 飛んだ! 気を込めて飛んだ! 背中から飛び……空中で一回転して七色の流れ星が落下! シューティングスタープレス! いや! この破壊力は流れ星なんてものじゃない! 隕石だ! レインボーのコメットだ!
「これは……流石に決まりましたかね」
天空からの隕石が幽々子に直撃! 七色の弾幕を! 七色の光をまとった隕石が落下! そのままフォール! 胸を押さえつける! 辺りに満ちるは男性客のため息!
「ワ~~~~ン! ツ~~~~~~ー!」
凄まじい観客の合唱! もはやリングサイドの私の所にすらレフェリーのカウントが聞こえません!
「スリー!」
観客の大合唱! スリーの大合唱! 決まった! 決まりました! 初代王者は紅美鈴! 凄まじい激戦でした!
「いや、待ってください! ゴング鳴ってませんよ!」
???? あやややや! レフェリーはカウントを1から再開! どういうことでしょう!
「幽々子選手消えましたよ!」
幽々子はいない! どこへいった! あああ! リングの上に木がそびえ立ってます! そして場内に鳴り響くこの曲はボーダーオブライフ!
「西行妖ですね。あれが登場している間は幽々子選手、消えますよ! 無敵です!」
「セブン!エイト!ナイン!」
レフェリーカウント続行! 10秒とはいえ無敵だと! どうすればいい美鈴! 何故終わらない! 何故終わらせてくれない! これが人外の決戦だ! これが幻想郷プロレスだ!
「これが幻想郷ですね。素晴らしい一戦です」
おおっと、幽々子現れた! だが能力使用による消耗は大きいか? 息も絶え絶えです! 一方美鈴も先ほどで力を振り絞ったか! だが両者笑みを浮かべています! まさに"強敵"と書いて"とも"と呼ぶかのごとき死闘! 両者疲れ果てながら満足感に溢れています!
「ですがセコンドはそれどころでは無いですね」
セコンドは猛抗議! 大激怒! これは幽霊どころではない! 明らかにスペルカードではないかと猛抗議!
「そうですね、ですが幽々子選手は西行妖を呼んだだけです、これが反魂蝶でしたら完全にアウトでしょうが……」
はい、確かに西行妖を呼ぶだけのスペルカードはありませんね
「しかしこれはグレーですねえ、限りなく黒に近いですよ、一つでも弾が飛べば、即反魂蝶認定でアウトでしたね」
だが四季レフェリーも疑わしきは罰せずか! 白認定しました! しかしセコンドの怒りは収まらない、レフェリーに食いつきます! あ! 幽々子から笑みが消える! 隙を突いて掴む! どうした! あの笑顔はブラフか! 偽りの友情か! 頭上へと大きく持上げた! これはラストライド! 全身をリングに叩きつける! なんというパワーと底力! 美鈴再び隙を突かれてしまった!
「良くないですねえ。試合が終わるまで気を許してはいけませんよ」
あああああ! あやややや! 妖夢乱入!? どうした! セコンドが何故入る!
「いや、いけませんね。これは」
レフェリーはレミリアとの口論中! 気付け! 気づいてくれ! 神々の聖域に立ち入らせるな! ああ、妖夢が二本の剣を抜く! 楼観剣と白楼剣を抜く! 思わずリングサイドの幽霊は逃げ出す! 触れれば一降りで成仏だあああ!
「……一応柄で殴ってますね」
柄で殴りつける妖夢! 馬乗りで殴りつける幽々子! 二対一はルールに乗っ取ってないぞ! 妖夢! 考え直せ! このブーイングの嵐が聞こえないのか! お嬢様の言いつけなど破ってしまえ! 妖忌はそんな風に育ててないぞ! 師の教えを思い出せ! そして四季! レミリア! いい加減気づいてくれ! あ! ようやくレミリア気づいたか!? 四季に伝える! だが時既に遅し! 妖夢はとうの昔にリング外! だが観客のブーイングは収まらない!
「……確かに終わったことは問えません、それがプロレスですから」
はい……
「それにこんなヒールを求める声もわかります、ですが、両者実力伯仲なだけにもっとクリーンな試合を望んでましたが……」
そうですね……
「楽しんだ者が勝ち、その原点に試合中幽々子選手が気づいてくれることを祈ります」
はい、それを祈りましょう
「二十分経過~」
二十分が経ち、試合もフェアから離れて来たか! だがこうなれば観客の望みは一つだ! ヒールをぶち倒せ! 美鈴! 観客からは凄まじい声援! だが幽々子は倒れる美鈴を殴り続ける! もはや泥仕合の様相! おっと! リング外でも乱闘か!
「おい! 妖夢! ちょっと待ちなさい!」
「こっちも食費が大変なんですよ!」
レミリアと妖夢の凄まじい言い争い! ああああ! レミリア発動した! 発動してしまった! 不夜城レッドだ! お下がりください! お下がりくださいお客様! 危険です! 藍も必死に観客に呼びかけます!
「天井壊れちゃいましたね」
赤い十字架が立ち上ります! 天井には大穴が!
「夜でよかったですねえ」
はい、ですが修理代はどこに請求すべきか! 紅魔館に大穴! 荒れてます! 妖夢もスペルカード発動か!? 剣を抜く! レミリアも槍を出したぞ! 本家本元のスピア・ザ・グングニル! これはもう神々の聖域すら消え去った! どこもかしこも戦場だ! ラグナロクだ! 神々も黄昏た!
「いや、いけませんよ、このままでは没収試合もありえます」
我々はそんなものは望んでいない! 我々が望むのは完全決着! そして地に這いつくばる魔王幽々子の姿だ!
「あ、大丈夫です、今退場命令が出ました」
おっと、セコンド陣が追い出されます! 抵抗するようですが多勢に無勢! 追い出すスタッフすら豪華絢爛! 諏訪子、神奈子、早苗、その他多数の神々、神々の聖域を取り返しに八百万の神が見参!
「レミリア以外は静観していましたので、全員を追い出したのは厳しいかもしれませんが、連帯責任でしかたないでしょうか」
そうですね、しかしリング上の選手以外も本当に豪華ですね
「ええ、幻想郷プロレス、凄まじいですね、誰もがリングに立ったらどれだけの好勝負ができるかわかりませんよ、それだけの逸材揃いです」
それだけに、この旗揚げ戦のメイン、しっかり完全決着をつけてもらいたいですね、おっと、リング上でも動きがありました! 美鈴反撃に移行! どこにそんな力が残っていた!
「残っていたんじゃないんですよ、観客が渡したんです」
この大声援、確かにいかほどの力になるかも計り知れません!
レッツゴー美鈴! レッツゴー美鈴! レッツゴー美鈴!
観客の大声援! この全てが美鈴の力となっています! 凄まじい早さの空手技の連打! 幽々子手も足も出ないか? いや、なんとか返す! 幽々子掴んだ! ああ! いけない! またパイルドライバーが入るか!
「いや、大丈夫です! これも狙ってましたよ! 美鈴選手!」
足を掴み挙げる幽々子、だが! そうだ! 攻撃に移る瞬間が一番隙が大きいぞ! 持上げられた足が幽々子の首を掴む! 首を掴み! その足で顔から叩き落とす! 素晴らしい早業!
「見事なウラガンラナですね」
だが幽々子もさるもの! まだ倒れない! 立ち上がる、しかし美鈴にもう隙はない! 凄まじい早さで繰り出される立ち技! ただ先ほどの空手とは違うか? 紫さん、これはなんでしょうか?
「はい、太極拳ですね」
太極拳というとゆっくりした印象がありますが? 美鈴選手がよくゆっくりと練習をしていますね?
「いえ、それは演舞だけです、実戦では凄まじいですよ! 目の前のが良い例です!」
凄まじい勢いで殴り付ける! 目にも止まらぬとはこのことか! 観客も目が追いつかないか! 歓声のリズムが狂ってきたぞ! だがボリュームは凄まじい! それでいい! みなさん! 声援を送ってください!
美鈴! 美鈴! 美鈴! 美鈴! 美鈴!
幽霊達すら歓声を送っています! それほど美しい技の連打! これが美鈴! これが美鈴です! さあ! あとはベルトを巻くだけだ! 東洋の神秘頑張れ! 太極拳頑張れ! 美鈴頑張れ!
「お!首を掴みましたね!」
太極拳の華麗な動きから一転! 力任せに肘の部分で幽々子の首を掴みます! そして! 決まった! スタナーが完全にヒット!首ねっこを掴んで叩き落とした! 東洋の技から西洋の技に完全移行! まさに一人上海租界! 東洋と西洋のハイブリッド! 明治十七年の上海アリスだああああ! 幽々子はもう力もないか!
「当然です、二人とも力はとっくに使い切ってます、この差は声援の差、そして勝負を楽しんだことによる精神力の差です、それで美鈴選手が上回るのは当然ですね」
ぐったりと寝そべる幽々子、美鈴は決着をつけに行く! コーナーに昇ります! 美鈴両手をあげて大アピール! 場内今日一番の大声援! 天井が割れているが大丈夫か! 幻想郷中に響き渡るんじゃないか! 明日は苦情の山か!? だがそんなことは気にするな! この一戦をしかと見届けよ! 声だけ聞いた者に嫉妬させろ! 幻想郷中に橋姫を呼んでやれ!
美鈴を天井から漏れる月明かりが照らす! これは天女か! あまりにも美しい! あまりに幻想的な光景! だが心配するな! 我らが天女は月の姫ではない! どれだけ飛ぼうが必ず私たちの元に返ってくる! 美鈴は幻想郷に住まう妖怪だ! 美鈴飛んだ! 凄まじい跳躍! そして帰ってくるぞ! 決着をつけに!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
なんという声援! なんというパワー! 決まった! 七色のキックが脳天にヒット! 伝家の宝刀! 今度は切り裂いた!
月明かりが七色に変わったぞ! 美しい! これは夢か? 幻想か? 否! これは現実だ! 幻想は今現実となった! さあ! 決めてしまえ! 私たちの幻想を完成させろ!
「もう幽々子選手も能力どころじゃないでしょうね、意識があるかも怪しいですよ!」
速やかにフォールへ移行!
「ワン! ツー! スリー!」
カンカンカンカン!
ゴングが鳴った、今度は鳴った! 決着は付いた! おめでとう美鈴!
勝者~ 初代幻想郷王者~ 赤コーナー 紅! 美鈴~~~~!
美鈴! 美鈴! 美鈴! 美鈴!
大声援! 大歓声! 鳴り止む気配もありません! そしてリングは紅いテープで埋め尽くされた! おめでとう美鈴! そして熱戦をありがとう!
「いや、素晴らしいですね! 王者とはかくあるべしですよ!」
セコンド陣も舞い戻りました! 皆喜色満面で美鈴を褒めたたえます!そしてコミッショナーの博麗霊夢氏がベルトを携え入場しました、普段からめでたい紅白の服が一層めでたく映ります!
美鈴ベルトに向かうか……いや、違います
「幽々子選手の方に向かいましたね」
まだ幽々子は意識が朦朧としているようです、あっ! 王者が手を差し伸べました! 優しく立たせます! そして……両者で繋いだ手を天に掲げます! 場内は幽々子選手にも大歓声! 二人で抱き合い……何事かをささやきましたか?
「そうですね、恐らく名勝負だったと言うことを話しているんでしょう」
はい、確かに途中までは本当に素晴らしい試合でした。
「それだけに乱入は残念でしたね、幽々子選手も実力は伯仲してただけに」
ですが、あの妖夢の乱入がきっかけに盛り上がりが高まったのも否めませんね。
「それがプロレスの面白くて難しい所ですね、ですが幽々子選手にはプロレスの面白さ、美鈴選手にはダーティな戦いの経験、共に学ぶことがあったのではないでしょうか」
となると再戦に期待したいですね。
「はい、そもそも経験では圧倒的に不足してる幽々子選手が、ここまで食い下がったわけですからね、最後はプロレス愛の差が勝負を分けましたが、本当に髪の毛一本の差でしたよ。これがプロレスを学んでいくと……恐ろしいですね、どこまで伸びるか想像もつきません」
はい、あっ! 幽々子選手もリングをおり、勝者がマイクを持ちました!
「え~皆さん、本日はご来場いただきありがとうございます。その……普段地味な存在なんで、こういうアピールは苦手です……名前をちゃんと呼んでもらえたのも久しぶりだったりするんで。正直マイクをお嬢様に変わって貰いたいくらいです」
謙虚ですね
「はい、ですがそこがまた美鈴選手の魅力ですね、種族を問わず引きつける気さくさと謙虚さがありますよ」
「ですが、一つだけ言えることは、今日の試合は皆さんと幽々子のおかげです、私一人で作り上げた試合ではありません、幽々子は本当に強敵でした、でもおかげで楽しく出来ました、そして、最後勝てたのはみなさんのおかげです」
場内拍手の嵐、そして幽々子選手も涙を流してます
「最後に……ってそうしたら一つだけじゃないですね、すいません、ええと、で、言いたいことは……幽々子を破った王者に相応しい王者として努力していきます! みなさん今後も応援よろしくお願い致します!」
短いながらも美鈴選手らしい素晴らしいアピールでした。
「幽々子選手もこれでプロレスの奥深さを学べたと思います、そしてプロレスの楽しさ、プロレス愛もわかってくれたと思います、楽しんだ者が勝ち、この基本にして永遠の真理を学べば、最強の王者となることも夢ではありませんよ、スペルカードルールでは定評のある幽々子選手、根っこは同じなんですからきっとわかってくれるでしょう!」
ええ、そうでしょう、きっと幽々子選手もわかったことでしょう。あの涙はその証です。美鈴選手の期待に応えて欲しいですね、さて、リング上ではまだ表彰式が行われていますが、紫さん、幻想郷プロレス、今後も好カードが目白押しですね。
「はい、次回は私も参戦します、応援のほどをよろしくお願いします」
次回大会では、今日初代タッグ王者に輝いた霊烏路空&火焔猫燐組との対戦ですね
「はい、橙をパートナーにして対戦します」
紫さんと言えば本日はタイムキーパーに付いていた藍選手とのタッグのイメージが強いのですが?
「そうですね、ただ、藍とのタッグではスペルカード禁止のルールに抵触する恐れがありまして、今回はセコンドについてもらいます」
橙選手とのタッグはどうですか?
「はい、久しぶりに顔を合わせましたが、かなりの成長ですね、予想以上です、この調子なら八雲の姓を授けてもいいとも思ってますね」
と、なると王者になった暁には
「ええ、同じベルトと共に同じ姓を名乗れたらと思います」
なるほど、相手タッグについてはどう思いますか?
「そうですね、若さと勢いに溢れたタッグだと思います、ですが橙もその点では負けてませんからね、私が冷静に試合を組み立て、橙が勢いで攻める、その形に出来れば勝ちは揺るぎないと思いますよ」
はい、ありがとうございました。リング上では今まさにベルトの贈呈が行われています。初代王者紅美鈴、どこまで防衛記録を残せるか、今後が非常に楽しみです、それでは表彰式を皆さんにご覧になって戴きながら、我々は失礼します。実況は射命丸文、解説は八雲紫さんで紅魔館特設会場からお送りしました。また、今大会の詳細は文々。新聞の特集号でもお伝えします、そちらもお楽しみに。以上、幻想郷プロレス旗揚げ戦の模様をお送り致しました。
実況 古舘 伊知郎です
本当にry
勘違いでしたら申し訳ないですが、参考にしたものがあるなら記した方が良いと思うのですが。
しかし、ゆゆ様にもセリフが欲しかった。あとはセコンド連中の会話とか。
久方ぶりに爆笑させてもらいました。
ただゆかりんの口調に少し違和感が
次回のタッグ戦は私的に好きなキャラばかりなので期待してます!
頑張ってください!
次回大会にも期待。
とりあえず参考にした作品ですが、少なくとも東方関連では皆無です。
>なんかこういう動画なかったっけ?
これに関してはなんとも、私はそもそもそれが有るのか、無いのかもわからないので。
で、参考にしたのは一応様々なプロレス中継、中でもワールドプロレスリング(タイトル自体もこのパロディ)とその実況アナ(無論古舘伊知郎も含みます)です。参考にしたよりは、子供の時から見てるので体に染みついてるってニュアンスが近いのかもしれませんが。
ただ、細かいとこはやっぱり参考にしてますね。いわゆる名実況の類から持ってきてたりします。
例えば「まさに一人上海租界!」この表現は、かつて古舘伊知郎が、"アンドレ・ザ・ジャイアント"という巨漢レスラーを「一人民族大移動」と評した表現を参考に思いつきました。
他にもパロ的に入れたネタはあれこれありますが、キリがないので一例でそれだけ出しておきます。
後は次回に期待とのコメントは励みになります……次を望んでくれる人がいるなら書かない理由はないです。
ちょっと書きたいネタが他にもあるので次に、ってのはちょっと難しいですが、近日中に発表したいとは考えています。次の次くらいに出来ればなと。
>ただゆかりんの口調に少し違和感が
とのことで。
ギャグだから良いかなといった気分で書きましたが、まあおかしいですよね。
というか、これは解説が誰を当てはめても良いんですよね。正直名前がなきゃ東方キャラとわからないレベルかなとは自分でも感じてます。それは射命丸もですね……
次は違和感ないよう書ければと。
>西行妖ですね。あれが登場している間は幽々子選手、消えますよ! 無敵です!
この辺でどうでもよくなった
ずるいだろww