「もーっ! 毎日毎日あっつーい!」
午前3時のティータイムに、フランドール・スカーレットの悲痛な叫びが紅魔館に響く。
季節は夏。ミーンミーンと鳴く蝉がそろそろ本格的に鬱陶しくなってくる八月の上旬である。
地球温暖化がどうこうと騒がれている昨今であるが、ここ幻想郷でもそれは例外ではなく、
連日の35度を超える気温に、幻想郷の住人達も辟易していた。勿論、紅魔館の住人も同様である。
フランドールの居る地下室は日も差さないので、紅魔館の建屋の中よりは暑くはないはずだが、
それでもある程度の熱が篭ってしまっていた。いい加減フランの怒りも爆発である。
「季節柄、仕方の無いことですわ。アイスティーでも飲んで機嫌を直してください」
3時のお茶を運ぶためにやってきた咲夜は、ストローの刺さったアイスティーのグラスと
チョコレートドーナツを載せた皿を、部屋の中央にある木製の丸テーブルの上に置いて言った。
「ちょっと咲夜! この暑さ、何とかならないの!?」
「そうですねえ。では、団扇でも扇ぎましょうか」
「団扇ぁ~? そんなものよりクーラーつけてよクーラー!」
「電気代が大変なことになるのでクーラーはだめです」
地下室のベッドに寝転がって手足をバタバタさせてクーラーをせがむフランドールの言葉を
咲夜は軽く流して見せる。だがそもそも、幻想郷でクーラーという概念自体がまずありえない。
誰からの入れ知恵か、フランドールは手足をバタバタさせてクーラークーラーとせがんだ。
最近よくない知識が増えてわがままにも拍車が掛かってきている気がする。
あの姉にしてこの妹ありなのかもしれない、と咲夜は心の中でクスリと微笑んだ。
「お気持ちは分かりますが、もう少し日が経てば涼しくなりますよ」
フランは咲夜の言葉を聞き、再びごろんと寝返りを打ち、彼女の方を向いた。
「……いつ涼しくなるのよ」
「えーと、30日後くらい?」
「それまで待てるわけないー!」
むきー! とベッドの上に寝転がり、手足をバタつかせて大暴れするフランドール。
ぼすんぼすんとベッドが揺れるのに合わせて、フランドールの小さな体もベッドの上で跳ねる。
本当は495歳とはいえ、普段のフランドールは、見た目相応に心も体もまだまだ子供である。
傍から見ると実に微笑ましい光景に咲夜は苦笑しながら、「どうしたものか」と腕を組んだ。
「何とかしてよー! あっつくて溶けちゃいそうなのよ!」
フランの悲痛な叫びがもう一度、紅魔館に響いた。
◆
「もーっ! 毎日毎日あっつーい!」
天蓋付きのベッドの上に、一糸纏わぬ姿で仰向けに寝転がっているのは紅魔館の当主。
泣く子も黙る幼き紅い月こと吸血鬼の末裔、レミリア・スカーレットである。
咲夜の主――レミリア・スカーレットはすっぽんぽんで自室の中で佇んでいた。
咲夜はそんな卑猥な光景に特に驚いたりはせず、顔色一つ変えないまま、
アイスティーの入ったグラスを部屋の中央にある丸テーブルの上に置いた。
「はしたないですよお嬢様。アイスティーで機嫌を直してくださいな」
咲夜はチョコレートドーナツの載ったお皿をテーブルの上に載せながら答えた。
レミリアは咲夜をキッと睨むと、ベッドの上から降りてテーブルのある方へと歩いてきた。
「咲夜、私はこの暑さをなんとかしなさいと言ったのよ」
椅子に座って膝を組みながら、レミリアは不満げに言った。
「承知していますわ。差しあたってこれをどうぞ」
「なに、うちわ?」
咲夜はどこからともなく、「納涼」という字がでかでかと墨で書かれた白いうちわを取り出した。
レミリアはベッドから下り、咲夜からうちわを受け取ると、それで身体をパタパタと扇ぎ始めた。
「あ”ー。こんなのでも、ないよりはましねー」
「ところでお嬢様、せめてドロワーズくらいは穿いていただけませんか?」
「やーよ。暑いもの」
「はあ……そうですか……」
漆黒の羽とうちわをパタパタと扇いで、自分の身体に風を送り「あ”ーすずしー」と呟きながら
椅子に座りチョコレートドーナツをむしゃむしゃと頬張るレミリアに、咲夜は小さくため息を付く。
「お嬢様、流石にその格好はだらしないと思うのですが……」
「だって、暑いじゃない」
「いやまあ、そうなんですが」
「じゃあいいじゃない」
つんとそっぽを向いて、ドーナツの続きを楽しむレミリア。
ひとくちひとくち味わうように、ドーナツが薄紅色の綺麗な唇に吸い込まれていく。
決してドーナツの欠片をこぼすことなどはないその姿は、まさに優雅の体言であった。
――だが、全裸である。
女性の全裸は美しいとかそんな意見もあるが、いくらなんでもはしたなさ過ぎる。
咲夜はそう思い、この暑さをどうにかするための思考を開始する。
(――とは言ったものの、なかなかいい案も浮かばないのよね……)
咲夜はどうしたものかと思い、なんとはなしにレミリアの部屋の窓からチラリと外を覗くと、
スリットの入った大陸風の衣装に紅色の長髪という、幻想郷でもオンリーワンな格好の紅美鈴が
門の外で低級妖怪と組み手を交わしているのが目に入った。
(ふむ……、そう、ね)
咲夜は胸中で独り言つと、一つ心に決めて頷く。
ティータイムを謳歌するレミリアに一礼を呈すると、咲夜は踵を返し、門前へ向かった。
ちなみに咲夜が部屋を去った後、団扇程度のささやかな涼しさでは満足できなくなったレミリアは、
ブチ切れて「不夜城レッド」を発動させたが、当然その瞬間に紅魔館の屋根が吹っ飛んだ。
そして、日光が部屋の中にさんさんと注がれ、レミリア・スカーレットは灰になった。
その後、館の妖精メイドに発見され、ギリギリで彼岸行きを免れたとかなんとか。
◆
咲夜と美鈴は、紅魔館の食堂のテーブルに向かい合わせに座り、朝食を取っていた。
咲夜の朝食はカツ丼、美鈴は肉そば3杯と、かなり重たいメニューである。
紅魔の盾こと紅美鈴は、紅魔館の食堂で肉そばを頬張りながら、咲夜の相談を受けていた。
「っていう訳なんだけど、美鈴、あなた何か良い解決方法を知らない?」
「ふむ、暑さを何とかする方法ですか。手っ取り早くクーラーを導入するのはいかがでしょう?」
「誰から聞いたその単語」
「あはは、妹様がクーラークーラー言ってたのを思い出しまして……。
怖い顔しないでくださいよ。冗談ですってば! ナイフしまう! 危ないから!」
半眼で純銀の刃をチラつかせる咲夜に、美鈴は慌てて両手を振る。
「なにかあるとすぐナイフ取り出す癖、よくないですよ」
「あら、これも立派な交渉術になりえるわよ?」
「ただの脅迫じゃないですか!」
「オホホホホ。そんな訳ないでしょう。人聞きの悪い」
「ま、いいですけど……」
美鈴は麺を食べきった器を両手で持ち上げると、スープを一気に飲み干した。
そして、横に重ねてある二つの器の上に、今しがた完食した肉そばの器を重ねる。
肉そば3杯をアッサリと食べきってみせた美鈴に、咲夜は少々自分の目を疑った。
先程の肉そばは、美鈴の細くしなやかな体の一体何処に行ってしまったんだろうと思う。
「ていうか、こんな暑いのによくそんなに食べれるわね貴女……」
「いやいや咲夜さん、食わないと門番仕事はやってけませんて。何せ体力仕事ですから。
って、咲夜さんだって体力仕事じゃないですか。もっと食べなきゃだめですよ?」
にこにこしながら手に持ったおにぎりを押し付けてくる美鈴に、咲夜はげんなりと肩を落とした。
咲夜は人間であり、美鈴ほど食べなくても生きていける――元々咲夜がそこまで大食ではない――
ので、先程朝食に食べたカツ丼一杯だけで、咲夜は十分に腹は膨れていた。
さらにこの猛暑の中ではそこまで食欲が湧かず、カツ丼のごはんを少し残してしまっていた。
「あんたじゃないんだから、そんなに食べられるわけないでしょーが……」
「って言っても咲夜さんが食べたのってカツ丼1杯じゃないですか。しかも残してるし。
勿体無いですよ。ひょれれひゃりんでひゅかか(それで足りるんですか)?」
おにぎりをむぐむぐ頬張りながら喋る美鈴に、咲夜はため息と共にぼそりと呟いた。
「あんたって、本当体重とか気にせずに生きてていいわよね……」
「もぐもぐ……ごくん。へ? 咲夜さん今何か言いましたか?」
「はぁ……何も言ってないわよ」
呆れたようなため息を吐く咲夜に、きょとん、と疑問符をいっこ頭上に浮かべる美鈴。
咲夜さんたらどうかしたのかしらん、という美鈴の眼差しに、咲夜は疲れたような表情で返す。
「まあ、それはいいとして。話は戻るけど、この暑さを吹っ飛ばすような方法ってないかしら?
お嬢様も妹様も、暑さのせいでずっとあんな調子だし……」
「うーん、暑さ凌ぎですか……」
美鈴は両腕を組んで、うーむと唸った。
暑さと言えば熱。
熱を吹き飛ばすには……冷たいものを食べるか飲むのが一番だ。
だが、ただ熱を吹き飛ばすだけではなく、お嬢様や妹様を元気にしないといけない。
どうすればよいかと美鈴が頭を悩ましていると、咲夜の残したカツ丼のごはんが目に映った。
「咲夜さん、食欲ないんですか?」
「ええ、これだけ暑いとねえ。今はまだ朝だから少しは涼しいけど、食欲は減退してるわね……」
(咲夜さん食欲ないのかな……。ん、食欲?)
美鈴は「食欲」という一点に着目してみる。
すると頭の中に、一つの考えがパズルのように組み上がっていくではないか。
美鈴は自分の思いつきに「ふふふ……」と口の端を吊り上げて怪しく笑った。
咲夜は突然笑い始めた美鈴の様子にぎょっとした。
「ど、どうしたのよ美鈴」
「咲夜さん……ひとつ、案があります。ちょっと厨房をお借りしてもよろしいですか?」
「ええ、それは構わないけど……。もしかして、何か作るの?」
「はい。この夏をぶっ飛ばすのにピッタリな料理を思いつきました」
自信満々に胸を張って答える美鈴に、咲夜はぱあっと瞳を輝かせた。
「さすが美鈴ね。それで、何を作るの?」
「それは、作り始めたら分かりますよ。咲夜さんもお手伝いよろしくお願いしますねー」
「あら、本当に自信たっぷりね。まぁいいわ、楽しみにしてるわよ!」
「ええ……幻想郷特級厨士、紅美鈴の腕を存分に振るって見せましょう!」
美鈴は拳を握り締めガッツポーズをし、太陽のような笑顔でニカッと笑った。
ちなみに美鈴と咲夜が談笑している頃、暑さに耐えかねて再び自室でブチ切れたレミリアは
「不夜城レッド」を発動させたが、その瞬間にレミリアの頭上の屋根だけが吹っ飛んだ。
当然の如く、日光が部屋の中さんさんと注がれ、レミリア・スカーレットはまた灰になった。
その後、妖精メイドに再度発見され、ギリギリで彼岸行きを免れたとかなんとか。
◆
午後10時、子の刻に入った頃。
厨房の中では十二時の夜食の準備のために、厨房で働くメイド妖精たちが慌しく動き回っている。
――はずなのだが。
今日に限っては、厨房には美鈴と咲夜、他には数名のメイド妖精しかいなかった。
これはすべて咲夜の指示によるものである。もっとも、咲夜に指示を出したのは美鈴であるが。
「好(よし)! それじゃ調理を開始しようと思います」
「ちょ、ちょっと待ってよ美鈴。あなた一体何を作るつもりなの?」
「ふふ、すぐにわかりますよ」
咲夜の言葉に美鈴はにっこりと微笑みを返すと、メイド妖精の方に向き直った。
「それじゃあなたたちは、このメモに書かれた食材を持ってきてもらえますか?」
美鈴は手の平ほどのメモに箇条書きした材料を持って来るよう、メイド妖精たちに指示を出した。
彼女たちはそれぞれ「はーい」と返事をすると、ふわふわとした足取りで食材調達へ向かった。
「さぁて。それじゃあ私たちは手を洗って、調理開始ですよ!」
「はいはい、それじゃ特級厨士さまの腕、とくと見せてもらおうかしらね」
咲夜がクスクスと、いたずらっぽく笑いながら言う。
特級厨士とはまた、美鈴も大きく出てもんだと心の中で苦笑しながら。
――特級厨士(とっきゅうちゅうし)。
それは、比類なき巧みな技術と確かな腕を持った、最高の中華料理人の証である。
中国で1988年に「飲食服務業業務技術等級標準」が公布される前までに与えられた
国家資格の中で、中国料理調理師の最高位のことである。
勿論、幻想郷にはクーラーと同じく特級厨士という資格の概念は無い。
が、そこは中華料理に長けている美鈴と咲夜。実際に特級厨士の資格は持ってはおらずとも、
特級厨士という言葉がどんな重みを持つか、中華料理の歴史を学ぶ過程で頭に叩き込まれていた。
美鈴は、中華料理の腕に関しては幻想郷では右に並ぶものはいない。
その点においては、彼女は確かに幻想郷唯一の特級厨士と言っても差し支えなかった。
創作中華を作るほど中華に精通している咲夜ですら、中華の領域では美鈴には敵わない。
否、敵うはずがないのだ。咲夜に中華料理を教えたのは、他でもない美鈴なのだから。
手を洗い、包丁を研いでいるうちに、メイド妖精たちが次々に食材を運んでくる。
卵に小麦粉、トマトやキュウリなどの鮮やかな野菜、そしてハム。
次々と運ばれてくる食材から、美鈴が何を作るつもりなのか、咲夜ははっきり理解した。
「今日のメニューは……冷やし中華ね!」
「はい、その通り。冷やし中華ですよ~」
美鈴は笑いながら小麦粉と卵、そして水の入ったボウルを並べて言った。
「その水はもしかして、かん水かしら?」
「そうです、中華麺を作るのにこれは欠かせないですからね」
ボウルの中の水を指差す咲夜に、美鈴は小麦粉の袋を開けながら答えた。
そして袋を脇に置くと、水道の蛇口を捻って水を出し、軽量カップに注ぐ。
「まずは中華麺を作るのね。じゃあ私はその間は具材を切るわね」
「では包丁仕事は咲夜さんに……任せてもいいですか?」
「当ったり前じゃない。刀工の腕前なら美鈴にだって負けないわよ~」
胸を拳で叩いて力強く答える咲夜に、美鈴は「ふっふっふ」と、不敵な笑みを浮かべる。
「咲夜さんの腕前、久しぶりに見せてもらいますよ~」
「ふふふ、美鈴に教えられてた頃から進化した、私の包丁捌きに驚くんじゃないわよ!」
美鈴と咲夜は互いに顔を見合わせ、白い歯を見せて笑い合った。
美鈴の製麺と咲夜の刀工が合わさるとき、どんな冷やし中華ができるのだろうか?
咲夜はそんなことを一瞬考え、包丁を手に取りながらクスリと笑みをこぼした。
今から協力して料理を創るということが楽しみで仕方がなく、自然とこぼれた笑みだった。
◆
午前0時。日付が変わり、紅魔館入り口にある大きな古時計がボーン、ボーンと鳴る。
気だるげな時計の音を聞きながら、レミリアとフランドールは仲良く姉妹揃って、
紅魔館の食堂のテーブル上でこれ以上ないほどダレていた。全ては熱帯夜が原因である。
そんなダラけた姉妹のうち、先に口を開いたのはフランドールだった。
「ちょっとお姉さまぁー。暑いんだけどなんとかなんないのー?」
「んなこと言われても、どうしようもないわよ……。大人しく美鈴の料理を待ちなさいよ」
「むー、メーリンの料理ならがまんするー」
レミリアとフランドールは「美鈴が暑さを吹っ飛ばす料理を作る!」と咲夜から聞かされていた。
完全に夏バテ状態の2匹の吸血鬼は、湧かない食欲と共に食堂までやって来たのだった。
フランとレミリアが6人がけのテーブルの上で手を広げて突っ伏している姿を見て、
「ちょっとレミィ……さすがにその格好はだらしないわよ」
小悪魔と共にちょうど食堂へと顔を出したパチュリーが言った。
流石に魔女も暑さが堪えるのか、いつもは伸ばし放題の紫色の長髪をポニーテールに纏めていた。
服もいつもの長袖ではなく短い袖のものを着用し、涼しげな格好であった。
「なんだ、パチェか……」
「なんだとはご挨拶ね。隣、座るわよ」
「おーう」
パチュリーはやる気のない声のレミリアの隣に腰を下すと、脇に抱えていた分厚い本を広げた。
「ねえねえ、パチュリー。それはなんの本なの?」
フランドールは無邪気そうな幼い声で、上半身をテーブルにべたっとくっつけたまま聞いた。
パチュリーは、本に落とそうとしていた視線をフランへと向け、ボソリと呟いた。
「それより妹様。そんなだらしなくしてると、レミィみたいになっちゃうわよ」
「うげー、それはやだなあー」
「なんだときさまらー!」
レミリアは席に着いたまま、子供のように足をバタバタさせて怒りを表した。
その様子がとても可愛らしくて、パチュリーはニヨニヨと微笑ましいものを見る顔で、
幼い紅魔館当主の姿を見つめるのだった。
同じ頃、厨房では。
「ふうっ……喝ッ!」
咲夜と美鈴の目の前には、冷やし中華の盛られた皿が6枚。
レミリア、フランドール、パチュリー、小悪魔、そして咲夜と美鈴の分の夜食である。
美鈴は、冷やし中華の皿の上に手の平を広げると、気合を入れるような仕草をした。
咲夜には美鈴の行為の意味は分からなかったが、何か意味があるのだろうと敢えて聞かないことにした。
「よし……これで完成です!」
「やっと完成ね……。で、今の動作はなんだったの?」
「ふふふ、それは食べてみてからのお楽しみですよ、咲夜さん」
「またはぐらかすのね、まったく」
楽しみにしとくわ、と咲夜は言い残し、冷やし中華の乗った皿を2皿ずつトレーに乗せ、
移動式のラックワゴンにそれらを積み、レミリアたちの待つ食堂テーブルへと運んでいった。
美鈴は咲夜の背中を見送ると、妖精メイドたちに厨房を貸してくれたことへの謝礼を述べ、
上手く料理が創れたことにほっと一息つくと、咲夜の後を少し早足で追いかけるのだった。
◆
「お嬢様方、夜食をお持ち致しました」
「来たわね」
ワゴンに料理を乗せて運ぶ咲夜が、レミリアたちの前に姿を現し一礼した。
レミリアはのそりと起き上がり、悪のカリスマ全開の笑みをニヤリと浮かべた。
暑さのせいで頭が茹っているのか、何かと
「こちらになります」
咲夜がレミリアやフランドールたちの目の前に、次々と料理の載った皿を置いていく。
ガラス製の透明で涼しげな皿の上には、中華麺の上に真赤なソースや具材が盛られていた。
「これは……冷やし中華……? それにしては麺が赤いけれど」
「それについては、私の口から説明させてください」
パチュリーの言葉に、咲夜の後ろからひょっこり姿を現した美鈴が答えた。
「この料理こそ、紅美鈴特製――『大火炎冷やし中華(バーニングひやしちゅうか)』です!」
「バーニング……冷やし中華。おもしろいネーミングセンスね、美鈴」
こいつは面白いと言うように、レミリアは不敵な笑みを浮かべ続けている。
厨二病的ネーミングセンス――それは、紅魔館の不滅にして永遠のテーゼである。
美鈴は、主の好みそうな名前を料理に名付けたのが成功だったようで、ほっと胸をなで下ろした。
「ありがとうございます。麺の秘密は……食べればお分かりになると思いますよ。
ささ、何はともあれお召し上がり下さい!」
「ふぅん……。どれどれ……」
まずレミリアが、赤い点々がついた中華麺を箸で軽く摘み、口に含んだ。
その瞬間――
「か、かっらァ~~~~~~~~~~~~~!」
レミリアは椅子から立ち上がり怒号一発!
天井を向いて口から火でも吹きそうなくらいに吼えた。
そして箸を握り締めたまま料理をキッと睨みつけると、
物凄い勢いで椅子に座って冷やし中華をかき込みはじめた!
「お、お姉さま!?」
「うおおおおおお、辛い! 辛い! しかし美味いぞコンチクショォォォォ!」
レミリアはそのまま止まることなく、皿の上の麺をずぞぞぞぞと音を立てて啜る。
パチュリーやフランドール、そして小悪魔はその様子を唖然とした顔で見ていた。
イキイキと冷やし中華を食べ続けるレミリアに、咲夜もぽかんとしていた。
「ど、どうなってるの美鈴!? お嬢様があんなに一心不乱に食べる姿なんて初めて見たわよ!?」
「ふふふ……その秘密は、コレですよ」
美鈴はそう言うと、懐のポケットから唐辛子をひとつ取り出した。
鷹の爪、とも呼ばれているものである。
「唐辛子には、胃袋を刺激して、食欲増進を促す効果があるんです」
「で、でもそれだけが原因とは思えないくらい、みるみるうちにお嬢様の皿の中身が
なくなっていくわ……。美鈴あなた、いったいどんなマジックを使ったの!?」
「ふふふ……どうやら、上手くいったようですね」
隣に立つ美鈴に向かって、驚きを隠せぬまま咲夜は聞くが、美鈴はただ不敵に笑うだけだった。
グワッシャアアアア! という、食事中には絶対ありえないカリスマ的効果音を出しながら、
レミリアは目の前の冷やし中華に凄まじい勢いで鬼神の形相を呈しながら喰らいつく。
皿の上の冷やし中華は見る間に無くなり、皿の端に残ったキュウリすら一本も残すことなく
レミリアは平らげてしまった。食べ始めてから、3分とかかっていない。
「ふう……死ぬほど美味しかったわよ、美鈴」
レミリアは一息吐くと、満足げな顔で美鈴に向かって言った。
「勿体無いお言葉、ありがとうございます!」
美鈴も席に着いている主に向かい、一礼する。
咲夜は冷たい水に濡らしたナプキンで、タラコのように腫れ上がったレミリアの唇を優しく拭いた。
レミリアは咲夜が己の唇を拭き終えるのを確認すると、慈愛に満ちた優しい表情で更に言葉を続ける。
「食べ物を食べることで、こんなに幸せを感じたのはいつ振りかしらね……。
なにか、この料理には秘密があるんでしょう? ねぇ美鈴?」
美鈴はレミリアの言葉に「はい」と頷くと、一歩前に出て説明を始めた。
「この料理には、私の持つ『気』が込められているんです」
「……気?」
首を傾げたのはレミリアではなく美鈴の隣に立っていた咲夜だった。
不思議そうに眉を潜めて腕を組む咲夜に、美鈴はにこにこして答える。
「『気』だなんて大げさに言っても、実際は一種のおまじないみたいなものですけどね。
おいしくなれー、おいしくなれーっていう『願い』を『気』に換えて料理に付加させたんです」
「つまり……料理に貴女の想いを込めたってことかしら。だとしたら凄い技術ね」
咲夜は感心したように、「ほう」と息をついた。
レミリアは美鈴の話を聞いて、なるほどと納得したように大きく頷くと、
椅子から立ち上がって、穏やかな足取りで美鈴の目の前に立った。
「そう言えばあなたの能力は『気を使う程度の能力』だったわね……。
あなたの『気』のお陰で熱さも忘れて、力が体の奥からみなぎってくるようだわ。
太陽のような暖かい想い――確かに受け取ったわよ」
レミリアは両手で美鈴の右手を取り、美鈴の顔を見つめて言葉を続けた。
「嗚呼、こんなに美味しい料理を食べたのは久しぶり……。感謝するわ、美鈴。
貴女はまるで、紅魔館の優しい太陽ね……。素晴らしい料理を、ありがとう」
にっこりと、咲夜ですら見たことが無いくらいに優しく微笑むレミリア・スカーレット。
吸血鬼である彼女は、紅魔館の優しい太陽――紅美鈴から与えられる暖かな安らぎに包まれ、
「ご馳走様……」
美鈴の手をそっと解き、眠るように深紅の瞳を閉じた。
そして、
シュオオオオオオオオオオオオオオ……
「お嬢様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
「お姉さまの体が灰になってるー!?」
「ま、まさか美鈴の『太陽のような暖かい気』のせいで――!?」
吸血鬼レミリア・スカーレットは、灰になった……。
おぜうには破魔八陣のほうが相性が良いんだろうなあ…
冒頭の吸血鬼姉妹の状況で鼻から忠誠心を出さない咲夜さんに違和感を感じた俺はどうやら末期っぽいw
だだをこねるフランちゃんとすっぽんぽんのおぜうさまと薄着ポニテパチェの絵を是非とも見てみたいです。
もしや、美鈴は波紋の使い手なのか!
あぁ…美味い冷やし中華食べたくなってきた!
ポニテのパチェさん…いいなぁ…
ところで朝食のシーンで、先程昼食に食べた、になってましたよ。
面白かったです!
明日のお昼ご飯は冷やし中華にします。
めーりんのネーミングセンスwww
ちなみに、冷やし中華は日本発祥
…無茶しやがって
あとパチェがいるなら魔法でどうにかできるんでない?
だがおぜうさま残機に注意w
幻想郷のネーミングセンスの中でも群を抜くエーリングに次ぐレミリングに通じる美鈴は流石すぎた。
ところどころに漂うメイフラの気配に私のジャスティスが彩光蓮華掌。
ただ、最高に灰ってのは正直もう聞き飽きた感が…。
食べてみたいもんだ