草むらを踏みわけて、男は山道を登っていた。ろくに整備されていないこの道には倒木や落石があちこちに見られる。腰を曲げ、杖をついた彼はゆっくりと歩みを進めていく。やっと山道の終点にさしかかり、彼は顔を上げて首筋の汗をぬぐった。
この先は神社の境内になっている。その証拠に、入り口にはおんぼろの鳥居が架けられている。
老爺はふと、その根元付近の草むらに目をやった。生い茂る雑草の中に小さな石碑の頭が見える。彼は腰に吊るしていた鎌を取り、ゆっくりとその周辺の草を刈りはじめた。
しばらくのちに、やっと碑文が読み取れる状態になった。『秋神社』と彫られている。
鎌をしまい、また汗をぬぐったのち、彼は鳥居に向かって二拍一拝してから境内へ足を踏み入れた。
「神様、居たッスか? 神様ー」
呼び掛けても返答はない。
「居ねえか……」
誰にともなくそうつぶやき、社殿のわきに荷物をおろして竹帚を手にとった。
そこらの農夫にしか見えない姿の彼だが、実はこの神社の宮司である。とはいえやはり本職は農家で、宮司の装束に袖を通すのは年に数えるほどしかない。今日も、ふもとの住居から掃除にやってきただけなので服装はいつもの農作業着である。
日が暮れちまう前に帰らねえとな、と老爺は考える。ここからもう少しお山の奥に踏みいったなら、そこはもう妖怪の領域だ。一応この神社までなら人間が居ていい場所のうちだが、日が落ちてしまったら安全とは言い難い。彼自身、先祖のあとを継いで神職に就いただけで、これといった霊力など備わってはいないのだし。
老爺はふうと一息つき、自分の祀るべき愛らしい神々の顔を想い起こしてまた掃除を再開した。
ところ変わって、先ほどの神社のほぼ真北に位置する別の神社。
「じー」
っと声に出して、少女が灯篭の陰から境内を覗いている。
「じー」
もうひとり、よく似た顔立ちの少女もその真似をする。二人の視線の先には帚を手に石畳を掃く人物の姿が。
「あの、何か御用でも」
東風谷早苗は半困りの笑みで振り向いた。
「あらま、やっと気がついたらしいわよ」
「こちらの神職は目が遠いのかしらね、まだ若いのに」
わざとらしくささやきあう二人に向かって、早苗はぎゅっと帚を握って歩み寄った。
「すみませんでした、もう……」
二人の視線にはさっきからとうに気がついていたが、突然やってきて自分を監視し始めた彼女らになんと声をかけたらいいかわからず、とりあえず無視し続けていた早苗であった。
「それでどうされました、静葉様、穣子様」
「はうっ」
笑顔で語りかけられた二人は軽くうめき、胸元に手を当ててやや頬を赤らめる。
「穣子さま……うん、これよこれ」
「私たち、神。神様だものね」
「姉さんっ」
「穣子っ」
ひしっと抱き合い、しばらくうっとりとする二人。やがて早苗の視線に気がついて身を離す。
「聞いてよ早苗、霊夢が、あの紅白が――」
葡萄をあしらった帽子をかぶったほう、秋穣子が堰を切ったように話しはじめる。
「平気でタメ口を利いてくるのよ。『なにしに来たの、賽銭ならあっち』って具合なのよ、巫女のくせに」
「神様に賽銭をせびるなんてどうかしてるわ。こっちがもらうべき身分じゃないの、巫女のくせに」
もうひとり、紅葉をかたどった髪飾りのほう、秋静葉も淡々と語る。
「それでうちに? まあ多少のおもてなしはいたしますが」
「ほんとに。じゃあお芋、焼き芋」
「私は茶碗蒸しがいいなあ、銀杏の入ったやつ」
見るからに腰の引けている早苗。ほんの社交辞令のはずが本気にされて、内心しまったと思う。
「ええと、先月河童さんにいただいたきゅうりのお漬物でよかったら」
えー、とか、ぶーぶーという野次が飛ぶ中、早苗はまじめな顔になって二人に向き合った。
「そういうお願いでしたら、そちらに仕えてらっしゃる人に言ってください」
この一言に、姉妹神たちは口をつぐんで目を見合わせた。早苗はきょとんとして尋ねる。
「そちらのお社にもいらっしゃいますよね、お二方を祀るかたが……」
言いながらだんだん声が小さくなっていく。これはもしや、聞いてはならないことを聞いてしまったかと神々を憐れんでいると。
「いるわよもちろん。ただ、あー」
「もうかなりのお爺ちゃんだから、最近は山道がこたえるらしいのよ。昔はあれこれ奉納してくれたんだけど」
静葉が説明している間、穣子は少し考え込んでいた。やがてぽんと手を打つ。
「そうだ早苗、うちの巫女になっちゃいなよ。それで万事解決、うん」
瞳を輝かせ、ぐっと早苗の手を握る穣子。
「いえあの、私は巫女じゃなくて、というかそれ以前にですねえ」
堅く握られた手を振りほどくべきか迷う早苗。いっぽう静葉は口元をひきつらせて妹の服のすそを何度か引いた。
あたりの地面が軽く震えている、震度二くらいか。ごうごうという地鳴りが響き、危機を察知した鳥たちが一斉に枝から飛び立つ。
「おうおう、てめえら――」
早苗がぎこちなく振り向く。穣子も声の主に気がついて、ひゃわうっと情けない悲鳴を上げた。
「この八坂の祝を横から寝取ろうとは、いい度胸してるじゃない。いっちょ神遊ぶか、ん?」
守矢神社の表祭神、八坂神奈子のご来臨である。彼女の口元は笑っていたが、眼光は鋭く秋姉妹を見据えていた。その背後には巨大な注連縄が顕現されている。
「二対一でいいよ。御柱は使わないであげる。そっちが勝ったら早苗を好きにしていい」
「え、ちょっとなんですかそれ、神奈子様!」
勝手に身柄を景品にされた早苗が食ってかかるが、神奈子はついと視線をそらして受け流す。
「あんたもあんた。なんでこんな小物に気をつかう。迷惑だとはっきり言えばいいじゃない、この浮気者」
「うわっ、私は、そんな……」
早苗がうつむく。穣子は顔を上げ、傲然と自分を見下ろす神奈子をまっすぐににらみつけ、指さした。
「上等よ! ここじゃ新参のあんたが私たちに……」
言いかけたところで姿勢が崩れた。背後から、いわゆる膝カックンを食らったのだ。静葉はそのまま妹の後頭部を押さえつけ、無理やり頭を下げさせる。
「なにすんの姉さん」
「きにっ、気にしないでちょうだい。さっきのはほんの冗談だから」
そう神奈子に呼び掛けて、静葉は妹の首根っこをつかんだままふわりと浮かび上がる。
「お邪魔したわね。じゃ、また」
「早苗、塩撒いときなさい」
飛び去ろうとする二人を無視してそう命じる神奈子に対し、穣子は盛大にあかんべえをした。静葉は振り向かない。早苗はただうろたえている。
そしてもうひとり、この四人を横から見つめる人影があった。
「ったく、あいつは……」
秋神社に帰っても穣子は不機嫌だった。出迎えてくれた老爺から竹製の水筒を受け取って、ごくごくと中のお茶を飲み干す。
「あ、私の分」
「はいはい、静葉様の分も用意してらんで、まず」
静葉もお茶を受け取って、ゆっくりと飲みはじめる。暦の上ではとっくに秋だというのにまだまだ暑い。
穣子がじっとりとした視線で姉をにらみ続けていることに老爺は気がついた。
「お二人様、仲違えでもしたッスか」
「別に」
静葉がすました顔でこたえると、穣子が口を開いた。
「姉さんのせいよ。もう少しで活きのいい巫女が手に入るとこだったのに」
「本気で言ってる?」
顔を覗きこまれてそう問い返され、穣子は言葉に詰まった。老爺は黙って身の回りの片付けを始めた、自分が口をさしはさむべきことではないと判断したらしい。
「ねえ、私たちがつかさどるのはなに」
「え。秋の実りと紅葉……聞かなくたってわかってるでしょ」
そうね、と言って静葉は妖怪の山のほうを振りむき見る。
「じゃあ、あいつは」
「あいつって、さっきのあいつ?」
穣子も山のほうを見る。さっきのあいつ、いまは八坂神奈子と名乗る彼女は風の神であり、山の神であり、そしてなにより――
「いくさ神」
静葉はうなづく。
「由緒正しい、霊験あらたかな、ね」
穣子は不満気なままうつむいている。静葉はさらに言葉を続けた。
「二人がかりだろうと、多少手加減してもらおうと、私たちが力づくでどうこうできる相手じゃない。わかってるでしょ」
「でも悔しいじゃないの、あんなふうに見下されてさ。もしかしたら、万が一ってことも」
静葉は深くため息をついた。
「それで、こっちは何を賭けるつもりだったの」
「へ?」
目をまたたかせる穣子に対し、静葉は先ほどよりさらに大仰に息をついた。
「ただで勝負するつもりだったの? そんなのむこうが納得しないわよ」
「じゃあ爺ちゃんを」
穣子に指差され老爺は振り向いた。静葉は拳を震わせる。
「ぶつわよ。あの早苗とつりあえる賞品なんて、この神社全部でも足りないぐらいよ。あんたが安い挑発に乗ったせいで私たちは全てを失うところだったの。自覚してちょうだい」
「うるさいうるさい、姉さんのばーか」
穣子は耳をふさぎ、縁台からぴょこんと飛び降りた。その拍子に老爺の腰にぶつかって、彼が転びそうになる。
「うわっと。ごめん」
「いやいや。それよかお二人様、そうやっていがみ合ってらしたら、オラは帰るに帰れねッス」
だってだって、と穣子が子供のように駄々をこねる。静葉は顔をしかめて横を向く。
「私だって腹が立ったわよ、悔しいわよ。でもだからって短気に出て、それでことが済むわけじゃないでしょ」
姉のふくれっつらの横顔を見ているうちに、穣子の怒りもだんだんに解けてきた。確かにあのまま神奈子と戦っていたら、どんなひどい目にあわされていたかわかったものじゃない。まだ納得しきれないけれど、静葉の判断はたぶん正しかったんだろうと思った。
「……ごめん、気をつけるから」
静葉は横目でちらりと相手の表情をうかがう。
「あ、うん。私も言いかた悪かった」
なんとなく正面から目を合わせづらくて、お互いそっぽを向いて和解する二人を老爺はにこにこして眺めていた。
その夜は昼間の暑さが嘘のように冷え込んだ。
二人でわずかながらのお供え物を食べて、ついでに少し芋焼酎を飲んでから床に就いた静葉だったが、なかなか寝つけないでいた。
昼間の出来事が気になっていたからというのもあるが、それよりも純粋に寒い。このところ毎夜のように冷え込むけれど今夜は格別だ。かけ布団が一枚だけでは身を丸めていても震えがくる。
次に宮司がきたら毛布でも持ってきてくれるように頼もう。だがそれまでの何日かは寒い思いをすることになる。こちらから里に出向いてお願いしようか、いやそれは神としてみっともない……などと考えていると、隣の布団で寝ている妹が何かもぞもぞと動きはじめた。
穣子は頭から布団をかぶったまま屈んで立ち、敷き布団を静葉の足元のほうにひっぱっている。
「なにしてるの、寝なさいよ」
「だって寒くてえ」
と言いながら布団の足元どうしをつなぎ合わせて、穣子は再び布団にもぐりこむ。そして足先を姉の領地に侵入させた。
「ひうっ、冷たっ」
「あったかー」
冷えきった足裏を静葉のふくらはぎにあてて指先をひくひくと動かす穣子。さらに頭まで布団の中にもぐりこむ。
「もうこっから出たくない……」
「そう。じゃあ秋祭りは私だけ行くから、ずっと留守番してて」
そう聞いて穣子はあわてて頭を出した。
「なに言ってんの。今年は人間どもにとっておきの弾幕をお見舞いしてやるんだから」
「は?」
「あ、いや。戦闘用じゃなくてお祭り用のやつを。絶対みんなびっくりするよ」
「いいから寝なさい」
しばらく姉妹で足元をすり合わせる。だんだん温かくなってきた、これなら今夜はなんとかしのげそうだ。
翌朝、穣子は姉の呼び声で目を覚ました。そんなのは無視して惰眠をむさぼっていたかったが、二度三度と名前を呼ばれて仕方なく寝床から這い出る。そのとたんに身震いした。
「さむっ、さむっ」
あわてて布団の中に戻り、しばしうずくまる。日はまだ顔を見せていないが、それにしたってこの寒さは異常だ。まるで真冬のような。
「来て、大変なの」
穣子はかけ布団に身をくるんで立ち上がり、社殿の外に出る。静葉は自分の両肩をおさえて震えていた。
「なーによう、朝っぱらから……ん?」
なんだかあたりの風景が変だと感じた。どこがどうとははっきり言えないが、なんとなくいつもの朝とは違う。もっと近くで見ようと思い、裸足のまま地面に降り立つ。
しゃくっ。
あきらかにいま何かを踏み潰してしまった。あわてて足をどけると、その足をおろした場所でもまた、しゃくりと冷たい感触がする。
「しもばしら?」
間違いない、このあたり一帯の地面が霜柱で覆われている。同時にさっき感じた違和感の正体もわかった。そこらじゅうの草木が妙に白っぽい。
「初霜が降りたみたいね。霜月でもないのに」
「冗談じゃない、まだ長月でしょ」
足裏が耐えがたいほど冷たい。穣子はあわてて縁台によじ登った。明け方の薄青い空にはところどころ雲が浮かんでいる。東の空は薄い橙色。『夕焼けは晴れ、朝焼けは雨』なんてことわざがあるけど、今日みたいな寒さだと雨ではなく別の……
「まさか、まさかとは思うんだけど」
「やめて、言わないで」
「なんにも言ってないよっ」
口論になりかかった二人の目の前を、はらりと白いものが落ちていった。おそるおそる天を見上げる。
「嘘でしょ!」
今年の幻想郷の初雪は、例年より二ヶ月ほど早いようだ。
姉妹はそろって縁台に座りこみ、呆然として舞い散る雪を眺め続けた。たいした降雪量ではないし、積もりもせずすぐに溶けていく。それでも彼女らを意気消沈させるには充分な光景だった。
秋姉妹は、言うまでもなく秋の神々である。秋以外には神の力を保てず、一年の半分以上を冬眠状態で過ごしている彼女らにとって、雪なんてものは地獄の使者に等しい。
「ふんふふふーん、ふんふふふーん、ふんふんふーんふふーん」
楽しげな鼻歌が聞こえてきた。軽やかに聖誕祭のテーマ曲を嘯く女性が、鬱まっさかりという表情の姉妹の前へ降りてくる。
「ごきげんよう、神様」
レティ・ホワイトロックはスカートのはしを軽く持ち上げておじぎして、そのまま上機嫌でくるりと回った。動きに合わせて彼女の周囲の雪も軽く渦を巻く。
「おまえのせいか、雪女」
穣子はレティを指差す。その手がぶるぶると震えているのは、寒さのせいか怒りのせいか……すぐ腕を布団に引っ込めたので、たぶん前者だろう。
「雪女? それってこの国の妖怪よね。まあ似たようなものかな」
「とぼけないで。なぜあんたが出歩いていられるの、冬の妖怪さん」
身をこごめたまま静葉が尋ねると、レティは小首をかしげた。
「それはだって、初霜がおりて初雪が降ったなら、もう冬なんじゃないの」
「ふざけるな、私の秋を返せ!」
半べそをかいて穣子が訴える。冬とともに現れるこの妖怪、秋姉妹にとってはいけ好かない相手だ。でも季節に縛られた者同士、自分の時期が終わってしまう寂しさはわかっているはずなのに。
「ん? なにか勘違いしてるようだけど」
レティは首をすくめる。
「季節の流れを変えるなんて大それたこと、私にできるわけないでしょ。こんなに早く目が覚めて自分でもびっくりしてるんだから」
「あんたのせいではない、と。じゃあどうして」
レティは横を向き、そこらの木の葉をいじりだす。
「私に聞かれてもねえ。それが知りたくてここに来たのよ。あんまり秋の力が弱いものだから、てっきり神様たちが調伏でもされちゃったんじゃないかと。あの暴力巫女あたりに」
と言ってレティは、もてあそんでいる木の葉にふっと息を吹きかけた。普通ならそれで霜が溶けてしまうのだろうけど、彼女の場合は逆にますます厚くなる。
「なに、私たちがいないほうが嬉しい? それはそうよね」
「やめなさい」
「だって」
再び口論になりかかった二人を一瞥して、レティは明け方の空へ飛び去っていった。
山陰から太陽が完全に頭を出すころに雪はやんだ。朝日に照らされるとあっというまに霜も溶け去っていく。だんだんと寒さが和らぐ中、姉妹は人里へと向かって飛んでいた。
一口に人間の里と言ってもいくつかの集落がある。ふたつの大きな湖――昔からある霧の湖と、最近になって現れた山の湖――それぞれから流れ出す川が合流するあたりでは盛んに稲作が行われているが、山に近いこのあたりではろくに田が張れないため畑作が中心となる。
穣子は高度を下げ、収穫前の大豆畑に降りた。まだ枝豆状態のそれをひとふさ手に乗せて、まじまじと見つめる。
「あ、やばい、やっぱり」
青々としているように見えるけれど、すでに生命力が尽きかけているのが感じ取れた。この畑の豆はみんなひどい霜害を受けている。あと何日もしないうちに立ち枯れてしまうだろう。すぐ食べるぶんには問題ないが、これでは来年の種豆がとれない。
あわてて姉を呼んだが返事はなかった。見回してみるとずいぶん遠くにその姿が見える。急いであとを追いかけた。
「姉さん、畑が」
静葉が高度を落として、別の畑に降り立ったところで追いついた。
「うん。でもこっちは問題ないみたいね」
そう聞いて、穣子は植えられた株の葉に手をかざしてみる。確かに姉の言うとおり、多少のダメージはあるが生育に問題はなさそうだ。
「根菜類は被害が少なそうね。それにこの辺は、山手のほうほど厚く霜が降りなかったようだし」
「ふう、よかった」
穣子が胸をなでおろすと、静葉は眉を吊り上げた。
「よくない。高い場所の畑で、寒さに弱い作物はきっと全滅よ。これはもう異変ね、秋霜異変って所かしら」
静葉は視線を落とし、拳を握りしめて語る。いっぽう穣子はさっき胸からなでおろした手を腹に当てている。
「それはそうと」
上目づかいで姉を見る。
「おなかへった。朝ごはんまだでしょ、さっきいい生枝豆の畑をみつけて」
言い終わるのを待たず、静葉は浮かび上がって妹を見おろした。
「わかってるの? 私たちの信仰の危機よ」
「いっしょに、ごはん……」
「勝手にして、私は神社に行くから」
それだけ告げて目もあわせず飛び去っていく。場を和ませようとして言ったのに相手にされず、穣子は舌打ちして土くれをひとつ蹴飛ばした。
辰の刻に入り本格的に日も高くなってきた頃、静葉は博麗神社に到着した。それなりにゆっくり飛んできたつもりだが妹はついてこない。本格的に怒らせてしまったかと胸が痛む。
まあそれより、今回の異常気象をどうにかしないといけない。聞いた話では、異変解決といえば博麗の巫女の仕事らしい。たかが人間の小娘だというのに、ここ一、二年のめざましい活躍によって博麗霊夢の名は妖怪の山じゅうに響き渡っている。とはいえ。
「あんな凶暴な巫女は願い下げよね。やっぱり早苗のほうが」
言いかけて独り言をやめた。自分は何を考えてるのだろう。昨日は妹に対して偉そうなことを言ってしまったけど、優秀な祭司に執着があるのは自分も同じだ。神奈子がうらやましい。
「霊夢、いる? また来てあげたわよ」
末席とはいえ神は神、人間相手には尊大な態度をとらずにいられない。自分でも滑稽だとは思うがいまさら生き方は変えられない。
「ねえいないの」
社殿の裏手に回って、続けて呼んでみたがまるで返答はない。本当にいないのか無視されているのか。たとえ後者だとしてもいまは引き下がれない。うるさいと言われて叩き出されようとも呼び続けてやる、と決心を固めていると。
「はいはーい、どうしたの」
あっさりと障子が開いた。もっと邪険にされるかと思っていたが、霊夢の顔に嫌悪の色はない。
「上がるわよ」
どうぞ、と簡潔に答えて霊夢は居間に引っ込んだ。続いて上がりこんだ静葉は、そこに見慣れない人物が一人いたのに気がついた。さっき返事が遅れたのはこの客人の応対をしていたからだろうか。
ぴしりとした姿勢で正座しているこの銀髪の少女が、只者でないことは一目見ただけでわかった。人間のようだが、それ以外のようでもある。生霊憑きのたぐいだろうか。その瞳の奥に、鋭く澄んだ霊気がたたえられているように感じる。
霊夢は黙ってお茶をすすりはじめた。こういう場合、主人が客人の紹介をするのが普通なのだろうけどその気配はない。しびれを切らしたのか客人は静葉に向かって軽く頭を下げた。
「冥界の白玉楼で庭師をしております、魂魄妖夢と申します」
鋭い眼光には似合わぬ、可愛らしい声で自己紹介される。
「秋静葉。季節の神よ」
神と聞いても、妖夢はさほど驚いた風ではなかった。紹介されるまでもなく静葉の身分には気がついていたのだろう。
「なあに妖夢、そんな堅っ苦しい挨拶なんかして」
「え、だっていちおう神様みたいだし」
いちおうとか言うな、と思ったが口には出さなかった。否定できる根拠がない。
冥界といえば根の国への入り口で、たしか亡霊嬢とかいう女が管理しているんだっけ、と静葉は思い出す。たぶんこの妖夢も相当な実力者なのだろう。なぜだか室内だというのに大きな刀を背負っているし、怪しい奴は即刻切り捨てるつもりなのだろうか。そんな彼女が自分に敬意を払う理由なんて、いちおう神だから、でしかない。
「気にすることないのよ、こんなの」
「あんたが言うな、この貧乏巫女」
つい言い返してしまった静葉に対し、霊夢が口をとがらせる。
「なによ、みんなで私を貧乏貧乏って。そこまで暮らしに困ってないっての」
「神様に賽銭をせびる巫女なんて聞いたことないわ」
妖夢は心配げに対面の巫女の顔をのぞきこんだ。
「あなたやっぱり、生活が苦しいんじゃ……」
「昨日の話? あれはね、勝手に人のうちに居座ってご飯をねだる神様はお断り、って意味」
なるほど、と妖夢は苦笑する。しばらく三人でお茶をすする。
「それにしても、今朝は寒かったわよね」
静葉は背筋をびくりとさせた。霊夢にそれなりの歓待を受けたことに満足してしまい、ここに来た理由をすっかり忘れていた。
「それよ、それ。こんな時期に霜が降りるなんて、どう考えても異変じゃないの――」
興奮して話しだす静葉を横目に、妖夢は立ち上がって一礼した。別にたいした用事があって来たわけでもないらしく、二人に背を向けてこの場を立ち去ろうとする。だが静葉の次の言葉を聞いて足が止まった。
「なんでも去年の春ごろ、いつまでたっても冬が終わらなかったんだって? その犯人を霊夢がとっちめて解決したって聞いたんだけど」
「あー、そんなこともあったっけ」
霊夢が妖夢のほうを見てにやりと笑う。見られたほうは固まっている。
「なに笑ってんの。とにかくこの異変も早くなんとかして、私たちの信者が減っちゃうじゃないの」
静葉がつめよると、霊夢の表情からすっと笑みが消える。
「なんでそれを私に」
「え。だってそれが、ここの巫女の仕事なんでしょ」
霊夢は視線をそらさない。真面目な表情も変わらず、何かを見透かすように静葉の瞳を見つめる。静葉は額に汗がにじみ出てくるのを感じた。
「私も変だと思ってた。どう考えたって最近の気候はおかしいのに、どこにも犯人がいそうな気がしないから」
「は? 気が、ってちょっと」
「わかるのよ。本当の異変の時は、どっちに迷惑の元凶がいるのかなんとなくわかる。でも今回はそんな感じがしないから、きっとただの自然現象なんだろうなって」
霊夢は湯飲みを持って立ち上がり、縁側へ向かって歩きだした。
「どこ行くの」
「ひなたぼっこ。今日もいいお天気だし」
と言って縁側に腰掛け、目を細めて青空を眺めた。後ろから妖夢が遠慮がちに声をかける。
「あ、私はこれくらいで……」
「待って、妖夢もいてちょうだい」
妖夢は少し不審がる表情を見せたが、黙って霊夢の隣に正座した。静葉も霊夢を挟んで反対隣に座る。
「それにしても、あっついわよねー。夜中は真冬なみに寒かったくせに、今はまるで夏の続きみたいじゃない」
霊夢は額の汗をぬぐい、ぱたぱたと胸元に風を送り込んだ。静葉がずいと身を乗り出す。
「秋はどこに行ったの、霊夢は何か知ってるの?」
霊夢は目をそらし、しかめつらをして答える。
「実は今朝がた、おせっかい焼きのお婆ちゃんがここに押しかけてきてね。今回のいきさつについてあれこれ講義してくれたわ、頼んでもないのに」
『お婆ちゃん』と聞いて妖夢が目を丸くするが、静葉にその表情は見えていない。軽くうなずいて話の続きをうながした。
「事の発端は去年の春。馬鹿みたいに雪が降り続いたせいで、あの年の春はだいぶ圧縮されてしまった。それで天地の気脈が乱れはじめた」
妖夢が何か言いたそうにしているが、無視して霊夢の解説は続く。
「要は五行の理ね。『木生火』『火殺金』『金生水』と続くわけだから……」
「あのさ、さっぱりわかんない」
いきなり意味不明な単語を並べられて、思わず静葉は話をさえぎった。
「え、そこから? 参ったな……五行はわかるよね、『木火土金水』ってやつ」
静葉はうなづく。
「五行は四季に通じているの。『土』は無属性だから省くとして、残りの『木火金水』が『春夏秋冬』に対応してる。『東南西北』でもいいけど」
矢つぎばやに説明されて静葉は目を白黒させている。さっきから黙っていた妖夢が口を開いた。
「そのぐらいは知ってる。その五行が強めあったり弱めあったり、っていう関係がよくわからなくて」
「木生火、火殺金、金生水」
呪文のように霊夢が先ほどの言葉を繰り返すと、妖夢は腕組みして考え込んだ。
「木生火。木は春、火は夏。つまり春の力が弱まれば、それにつられて夏の力も弱くなる――」
そうそう、と霊夢が相槌を打つ。
「――あとなんだっけ。火殺金、夏が弱ければかえって秋は強くなる。金生水で、秋が強ければ冬も強い。そんな感じ?」
「そ。そういう春夏劣勢、秋冬優勢な気圧配置で今年に突入したわけ。秋の神様のあんたも、去年は調子よかったでしょ」
漫然と聞いていたら突然話をふられてあせる静葉。たしかに去年はいつも以上に気力が充実していた。調子に乗って霊夢に喧嘩を売って、姉妹そろってひどい目にあわされたりもしたけど。
「そう、そうね。でそれが今年の話にどうつながるの、その、それ」
うろたえる神様を見なかったことにして、妖夢がまた考え込む。
「えーと、『水』まで来たら『木』に戻るから、水生木。つまり冬が強ければ春も強く……」
「ならない。忘れてない? 『金殺木』よ。前年の秋が優勢だったわけだから、今年の春は劣勢。さっきのとあいこになって平年並み」
「あれ。ならそこで四季の乱れは止まるんじゃないの」
「天気のほうはね。でも地脈の偏りはまだ収まってない。去年はひどい春不足だったってのに、そのあとが秋真っ盛りだったものだから。バランスをとるにはどこかで春を延長するか、秋を短縮しなくちゃいけないの。今年の春はさっき言った通り平年並みだったから、しわ寄せが一気にこの秋に来たみたい」
「ふうん。秋が縮んだだけ夏と冬が延長されて、こんなみょんな気候になっているのね」
勝手に話を進める二人のわきで、静葉はいらだちと困惑が混じった感情を味わっていた。そんな風が吹けば桶屋がもうかるような話の結論が、『秋中止のお知らせ』とは。
「あの、神様? ついてこれてないようですが」
「う、う、うるさいわね。神にそんな理屈関係ないの」
妖夢が軽く呆れ顔を浮かべる。霊夢は先ほど静葉に見せたのと同様、まじめな表情になっていた。
「さすが神様」
「それ皮肉のつもり?」
こんなところに来るんじゃなかったと静葉は後悔した。霊夢も早苗も、親切めかした態度の裏で自分たちをあざ笑っているのだ。そう思って席を降りようとしたとき。
「いま言った五行の相関だの、季節のバランスだの、そんなのは人間があと付けで考えた理屈」
ここで一息ついて、霊夢は湯飲みを持って席を立った。居間に戻って卓に置かれた急須に手を伸ばす。
「飲む? ……そう。あのね妖夢、人間や妖怪が無理に自然をいじり回したってろくなことにならない。そんな面倒は神か妖精に任せておけばいいの」
前触れなく話を振られて、妖夢は怪訝そうな顔で振り向いた。
「――って、あいつが言ってた」
「あのかたの受け売りか」
あいつ、とやらが誰なのか静葉にはわからないが、この二人の間ではそれで通じるようだ。
とん、と湯飲みを置いて、霊夢は静葉の隣に座る。
「やっと本題に戻れた。さっきあんた私に、この異変を解決しろって言ったわよね」
静葉はうつむいた。霊夢はその横で、ずずっ、と今日すでに何杯目かのお茶をすする。
「なんか誤解があるみたいだけど、私にできるのは自分が邪魔だと思った奴をぶっとばすことぐらいよ。失われた秋を取り返すなんて、それが本当に私の仕事?」
「もういい」
今度こそ静葉は縁台から降り立ち、肩を震わせる。
「押し付けて悪かったわ。秋の管理は私たちの責任、そう言いたいんでしょ。だけど――」
肩だけでなく、声も震えてしまう。
「そんな余裕ない。私も妹も、いまの力を保つのが精一杯なの。悔しいけど信仰が足りない」
先ほどまで縁側で正座していた妖夢が静葉の隣に来て、その手をそっと握った。思わず振り向くと彼女は何かを訴えたげな瞳で静葉を見つめた。不意に優しくされて涙があふれ出そうになり、すぐにぬぐう。
「ったく、誰よ、最初に余計なことした奴は。あとの迷惑を考えなさいよ」
妖夢の手にぐっと力がこもり、その腕が小刻みに震えている。なんだかやけに大げさな反応だな、と静葉がいぶかしんでいると、妖夢は手を離して深々と頭を下げた。
「すみません静葉様……私です、その犯人」
「は?」
突然そんなにかしこまられても、すぐには意味が飲み込めない。
「昨年の春先に、わが主の命によって地上の春の気を集めていたのです。それを冥界に持ち帰るのが私の任務でした」
「あんたのせいなの? 謝ってすむと……まあいいわ、どうでも」
妖夢に問い詰めたい事はいろいろあったが、顔を上げた彼女が心底申し訳なさそうな顔をしているので責める気が薄れた。冥界の住人たちにもやむにやまれぬ事情があったのだろう、たぶんきっと。そう信じたい静葉であった。
「ああでも、春を集めるなんて具体的にはどうやったの。タラの芽やふきのとうでも摘んで歩いたとか」
地上から春を奪うほどに『季節』を集める儀式、なにかの応用ができれば、という期待が静葉の胸に広がる。
「具体的には、そうですね、目についた妖怪や妖精をかたっぱしから斬っていました」
あんたもたいがいね、と霊夢が呆れ顔になる。
「……はじめは抵抗があったんだけど、やってるうちに楽しくなってきて。私も春の妖気にあてられたのかな」
「それで季節が集まるものなの?」
「冥界でも一番の妖怪桜、西行妖がこの呪法の鍵です」
少しなにかを思い出すそぶりをして、こほんと軽く咳払いしてから妖夢は説明を続ける。
「えー、桜は春を代表する樹木、そして舞い散る花弁は死の象徴です。その下で死を迎えた者の魂は花びらとなって大地に還り、妖樹の栄養となってまた春に花を咲かせます。つまり『桜』という属性をいったん経由することで、生き物の魂を『春』に変換できるんです」
「それで人斬りをして回ったって? 怖い怖い」
霊夢が茶化すと妖夢はむっとなった。
「本当に息の根を止めてはいないわよ。儀式的な死、たとえば弾幕ごっこの被弾でも霊気のかけらぐらいは出てくるから。あのときは前もって冥界の霊たちを西行妖に捧げて、吸霊結界を幻想郷じゅうに広げていたの」
今度のは五行がどうこうとかよりはわかりやすい話だった。静葉にも、妖怪イチョウや妖怪カエデの知り合いなら何人か(何本か?)いるけれど。
「あれこれ教わっといてなんだけど、あまり参考にならないわね」
亡霊の本拠地である冥界一というくらいだ、その妖怪桜はさぞ立派な樹なのだろう。静葉が支配できる程度の妖樹では、そんな大儀式の媒体にしたらたちまち枯れてしまいそうだ。それに、妖夢がやったように大量の霊力をかき集めるのも無理な話だし。
「はあ。なんとかお力になれたら、と思ったんですが」
妖夢が肩を落とす。その顔を正視しづらくて、静葉は二人に背を向けゆっくり宙へと浮かび上がった。
「なんでもいいから手を打ちなさいよ。このままじゃこっちの食糧事情も悪化しそうだし」
いつもの、どこか人を突き放したような言い方で霊夢が告げた。真剣モードはそう長続きしないらしい。ふん、と言い捨てて静葉は博麗神社をあとにする。
もう一度里の畑の様子でも見て回ろうか、と考えながら、彼女はもうひとつ別のことを思案していた。
大自然の不調を治癒するのも神の仕事、だが自分たちはあまりに非力だ。ならば……
とにかく、もうあまり手段を選んではいられない。
ほぼ同時刻、湖畔にて。
「はー、すずしー」
穣子は水際の適当な岩に腰かけて、ぱしゃぱしゃとつま先で水面を蹴り上げた。しぶきが服にかかるが、日にあてられてほてった体にはちょうどいい。
それにしても姉はどこに行ってしまったんだろうか。別れ際に『神社に行く』とか言っていたから、朝食用に二人分の豆を収穫して秋神社に戻ったのだが、どこにも姿が見えなかった。
「怒ってたもんなあ……」
穣子は懐から生枝豆を取り出し、ヘタを噛みちぎって中身をぽりぽりとかじる。そして、私だってわかってるよ、と声に出さずにつぶやいてみた。
朝方の寒さといい、いまの陽気といい、まるで秋らしくない。幻想郷全土でいま何か異変が起きている、早く対処しないと大変なことになる。そのくらいは承知しているけれど、だからといってあせって騒ぎ立てても事が好転するとは思えないのだ。
しばらく穣子は、足先で無為に水面をかき混ぜ続けた。
つい先刻、いつまでたっても姉が戻ってこないので不安にかられた彼女は、特にあてもなく自分の神社を飛び出した。だがいくら目を凝らして探しても近くに静葉の姿はない。そのうち暑さに耐えきれなくなってきて、目についた湖の近くに降り立った次第である。
「神社といえば……でもまさか」
神社というならこのすぐそばにもある。というより、この湖自体が守矢神社の庭先のようなものだ。しかし姉の言った場所がここだとも思えない。穣子は昨日の神奈子とのやりとりを思い出して、ひときわ高く水を蹴り上げた。
いま自分がここにいるのを守矢の神に見つかったら、また何か難癖をつけられるのだろうか。それにどこか怯えている自分自身が腹立たしい。
「ご機嫌斜めだね」
不意に声をかけられ、穣子はびくりとして振り向いた。見ると何者かが岩陰から頭を覗かせて様子をうかがっている。
ぎょろりとした二つの目玉が特徴的なその姿にはなんとなく見覚えがあるけれど、すぐには思い出せない。この湖に住み着いている妖怪だろうか。
「気安く話しかけないで」
おそらくは低級な妖物かなにかの分際で、神に対等な口を利くとは何事か。そう言いかけたところで声の主が全身をあらわした。
「あーうー。嫌われちゃってるなあ」
穣子は言葉に詰まった。あの目玉に見覚えがあったのは当然だ、一度見たら忘れられないほど奇抜な意匠の『帽子』なのだから。
「……あんただったの。てっきり蛙の妖怪かと思ったわ」
洩矢諏訪子。つい最近になって神奈子と一緒に幻想郷に来た守矢神社の裏祭神で、神奈子に劣らぬ戦神。穣子が彼女について知っているのはその程度だ。
「ん? ああ、これ。冠は支配者のシンボルだよ、ってか穣子だって似たようなものじゃない」
「気安く呼ばないでって言った」
気さくに話しかけてくる諏訪子に対し、穣子は目を伏せた。諏訪子はぴょんと跳んで穣子の近くの岩に乗り、しゃがみこむ。
「あのさ、ひとつお願いがあるんだけど――」
「わかってる、目障りだから出てけってんでしょ。私だってこんなとこに用はないから」
穣子は諏訪子に背を向け立ちあがった。こんなやつ怖くなんかない、ただちょっと今日は日が悪いから、と内心で自分に言い訳する。
「あ、待って、そんなんじゃないって」
諏訪子は立ち去ろうとする穣子の手をつかむ。
「昨日のことだけどさ」
「昨日?」
すぐに手を放しうなずく。
「早苗を取ろうとしたのはまずかったね。元の世界にいたころの神奈子にとっちゃ、あの子は待ち続けた最後の希望だったから。こっちに来てからも自分の嫁みたいに思ってるんだよ」
やっぱり難癖つけるつもりじゃないの、という感情を込めて穣子は相手を睨みつけた。諏訪子が少し悲しげな顔色を浮かべる。
「でもさ、あいつも本気であなたたちを嫌ってるわけじゃないと思う。あの子がからむ話だから冷静じゃいられなかっただけで」
「で、結局なにが言いたいの」
穣子は再び岩場に座り込み、ちゃぷんと足裏を水面につけた。諏訪子も隣で同じ姿勢をとる。
「よかったらまた遊びに来て。お茶菓子ぐらいは出すように言っとく」
遠くのほうを見ながら語る諏訪子。穣子はその横顔をまじまじと見つめた。
「いいの?」
「いいよ。こっちはこっちでなかなか面白いところだし、私もここで生きていくと決めたから。友達は多いほうが、ね」
そう言って諏訪子はにかっと笑う。穣子は少しだけ目をそらした。
「ま、今度気が向いたら。お茶菓子程度じゃなくて秋の味覚を用意しといて」
こう言ってしまってから、穣子ははっとして息を呑んだ。
「じゃあ奉納品の中からそれっぽいの選んでおくから……ん?」
突然またうつむいてしまった穣子を、諏訪子は不思議そうな目で見た。
なにが秋の味覚だ、まずはこの異常気象をどうにかしないとそれどころじゃない。着実に山の妖怪たちの信仰を集めている守矢の神々に比べ、自分たちは本来の領分を果たせていない。そう思うとなんとなく諏訪子の顔が正視しづらかった。
その夜は昨晩よりさらに冷え込んだ。さほど厚くもない掛け布団が一枚ではとても一人寝できそうにない。秋姉妹は同じ床について、背中合わせの体勢で今日一日の出来事を報告しあった。
互いに暖めあってなんとか眠りにつき、翌朝。
穣子が目覚めたとき、すでに静葉の姿はなかった。もう日が出ていて草木の朝露も乾いていたが、昨夜の寒さからして朝方にはまた霜が降りていたに違いない。姉はまた里の被害状況でも調べに行ったんだろうか。自分もうかうかしていられない。
とはいえ、どこに向かえば現状を打破する手がかりを得られるのやら、まったくもってノーヒント。とりあえずは行き先も定めずに神社を飛び出した。
「暑い……」
異変解決へ向けた決意は、ほんの一刻も持たずに急速に萎えてきた。秋の気温に慣れきった体にこの残暑は厳しいものがある。
地面近くを飛ぶから暑いのだ、上空ならさほどでもないはず、と思って高度を上げてみても照りつける日差しに変わりはない。多少は風が涼しくなったけれど、空気の薄いところをいつまでも飛んでいると疲れる。
「お、いい場所発見」
眼下に広大な水面を見つけて、穣子は迷わずそのほとりに降り立つ。こちらは昨日訪れたのとは別の湖だ。水面の向こう側には大きな赤い屋敷が見える。確かあそこに住んでいる妖怪どもがここら一帯を縄張りにしていたはずだが、自分がそんな連中を恐れる理由もない。
両手で水をすくって何度か口に運び、その後しばらく手足を湖水に浸したのちに木陰に入って休む。
「ふあー、極楽極楽」
いまごろレティあたりは熱中症で死にかけているに違いない。いい気味だ。
そういえば、奴はこの辺に住んでいる妖精と仲がよかったはず。あんなのでも何かの手がかりを知っているかもしれない、そう思い立った穣子は散策がてらにレティの姿を探し始めた。
木陰沿いにぐるりと湖畔をめぐろうとしてほどなく、一人の野良妖精の姿が目に入った。波打ち際にしゃがみこんで、物憂げな表情で水面を凝視している。穣子はなんとなく昨日の自分を思い出した。
「どうしたの、落し物でもした?」
そう声をかけられて、緑髪の妖精は驚いた顔で振り向く。
「あっ、神様」
穣子の姿を見てすぐに、彼女は恐縮した態度で頭を下げた。
「うむ、面を上げよ」
「あ、はい。ええと、別に落し物ってわけじゃなくて……ちょっと悩んでいたというか、そんな感じです」
妖精ってのはいつも馬鹿騒ぎばかりしている連中かと思っていたけど、こんなふうに落ち込むこともあるのかと少し驚いた。こいつは神様に対する自分の身分というものをわきまえているようだし、妖精の中でも賢い部類なのだろう。
「あっそう、頑張ってねとしか言えないけど。それよりあんた、雪女のレティって奴を知らない?」
その名を聞いたとたん、彼女は表情をこわばらせて軽く息を飲んだ。
「……レティさんなら、私のお友達のおうちにいます」
「まだ生きてたんだ。無駄にしぶといわね」
「そうですね、死んじゃえばいいのに。じゃなくて、うう、駄目よそんなこと考えちゃ……」
穣子の軽口に対し、妖精は何かぶつぶつと独り言を言いはじめた。少し気味が悪いけれど気にしないでおこう。
「ちょうどいいわ、案内しなさい」
その妖精に先導されて見えてきた『お友達のおうち』とやらは、小さいながらも非常に目を引く外観だった。たとえるなら、お椀をひっくり返して白一色に塗りたくったような。穣子はその壁面に手を触れ、すぐに引っ込めた。
「冷たっ。これ雪? かまくら?」
「はい。チルノちゃんは氷の妖精なんです」
自分のことでもないのに誇らしげに語る緑髪の妖精。
「はあ。冬だとか氷だとか、私の大嫌いな言葉なのよね……」
ぼやきながら、かまくらの中を覗き込む。そして穣子は絶句して固まった。
確かにレティがそこにいた。上着も穿き物も脱ぎ捨てて下着のみの、ほとんど半裸の姿で。それだけならこの暑さだからまだ理解できなくもないが、彼女の腕の中には一人の少女が抱きしめられていた。空色の髪をした、おそらくはここの主であろう妖精だ。レティがその子を後ろから抱きかかえて、二人仲良くすやすやと眠っている。
「ちょっと、あんたらなにしてんの」
「……あら神様。おはよ」
レティは寝ぼけまなこで答え、また目を閉じる。
「おはようじゃなくて。うわ、そういう趣味だったの。いいけどさ、こんな半分野外みたいな場所でおっぱじめるんじゃないわよ。動物か!」
穣子の非難の声を浴びて、レティは億劫そうにまた目を開けた。
「別にいやらしい目的でやってるわけじゃなくてね。確かにチルノは食べちゃいたいぐらい可愛いけど。ほら」
レティは立ち上がりながら、抱いていた妖精の両脇を持って掲げてみせる。ふにゅ、と言って彼女が目を覚ましかける。
「この子ってば本当に冷たいのよ、体じゅうが氷みたいで。あなたも抱っこしてみる?」
「あ、いや、遠慮しとく」
穣子の視線は、目の前のねぼすけ妖精ではなく別のところに注がれていた。
秋穣子は豊穣の神である。それゆえ、自身の肉体も豊穣と呼べるほうであると自負している。秋の寂寥をいろいろな意味で感じさせる静葉などとは比べ物にならない。
であるのに、その豊穣さにおいて雪女ごときに遅れをとっているのはどういうことか。この事実が公になっては信仰度も数割減である。いやしかし、見ようによっては豊穣すぎると呼べるかもしれない。艶やかさと太ましさの境界線の、『ふとましい』側に彼女を置く人間も世の中には居るのだろう、たぶん。だから問題なし……
「どうしたの神様」
「馴れ馴れしいわね。服着なさいよ、服」
「あーはいはい」
レティがもそもそと衣服を身に着けていると、氷枕妖精が目をこすりながら振り返る。
「れーてぃー、もう抱っこはいいの?」
「ううん、まだ。日が出てる間はここに居させてちょうだい」
着替え終わったレティが手招きすると、妖精は彼女に這い寄って正面から抱きついた。
「ぽよぽよ……レティはぽよぽよ……」
呆れ顔で見ている穣子の視線には全く気がついていない風で、妖精は再びすうすうと寝息を立て始める。
「ホントよく寝るわね」
「こう暑いと体力使っちゃうのよね。それに昨日の夜は、ちょっとこの子とはしゃぎすぎちゃったし。あ、だからいやらしい意味じゃなくてね、弾幕ごっこ的に」
仲むつまじい二人を見ていてなんとなくイライラしてきた穣子は、目を閉じてかまくらの内壁に背中を当てた。ひんやりして本当に気持ちがいい。
ところで、さっきから背中のほうで誰かが小声でぶつぶつ言っているのが聞こえる。入り口のほうを横目で見て穣子はぎょっとした。さっきここまで案内してくれた妖精がまだいて、焦点の定まらぬ目で自分たちをじっと見ている。
「レティさんはとってもいい人、私たちのお友達、だからいいの。でも……ううん、こんなの気にする私が変なの、チルノちゃんが幸せならそれでいいの。でも……」
怖い。目つきが尋常じゃない。やっぱり少々気が触れている子だったようだ。急いで視線をレティのほうに戻す。
「ああそれでさ、あんたに聞きたいことがあって探してたんだけど」
「神様が私を? 珍しい、雪でも降るんじゃないかしら。なんてね、ふふっ」
言動がいちいちイラつく女だと思い、穣子は足で床面を軽く踏み鳴らした。
「今のこの変な天気は、去年の春ごろに冬が長引いたのが原因らしいのよ。あんたがそれと無関係だっていうんなら、特に用事なんてないわ」
レティは自分の唇に人差し指を当て、小首をかしげる。
「そういえば、そんなこともあったっけ」
「じゃ」
「あ、待って、冗談だって。実はね――」
ここでいったん言葉を止め、レティはにやりと笑う。
「あの一件、すべての黒幕は私だったの」
「は?」
思わぬ告白に穣子は当惑した。姉から聞いた話だと、冥界の支配者とかいう女がその事件の元凶だそうだが、こいつがそうだというのか。馬鹿げている。
「かっ、神を侮辱するのもいいかげんになさい」
レティは眠たげな目で抗議を受け流す。
「なによ、神、神と小うるさいわねえ。私だってもとは神様だったのよ」
「でたらめ言うな。いいから表に出なさい、いつまで乳繰りあってんのよ」
「ちちくり!?」
穣子の言葉に反応したのは、ひとり外にいた妖精だった。
「ダメ、絶対ダメですそんな関係。レティさん!」
激昂した彼女は、かまくら内に乱入してレティたちに詰め寄った。レティの腕で眠っていたチルノとかいう妖精が目を覚ます。
「うにゅ、だいちゃん?」
彼女はレティの腕を軽くふりほどいて立ち上がり、緑髪の妖精の両手をぎゅっと握る。
「なんで昨日来なかったの、ずっと待ってたんだよ。今夜は一緒に遊ぼ」
「え、あ、う。だって、私なんて、いても邪魔なだけ……」
レティも膝立ちになって、手を取り合う二人をまとめて抱きしめた。
「やーっと来てくれた。チルノ抱っこの権利、半分だけなら譲ってあげるわよ」
二人がかりで抱擁された妖精は、しばらく目を見開いたのちに顔をゆがめ、声を押し殺して泣きはじめた。
「あのー」
穣子が呼びかけても反応はない。
「なに、今度は三人でしようっての、さすがに理解したくもない嗜好ね。変態、淫魔!」
なぜだかわからないが何を言っても負けの気がする。穣子はきびすを返して氷精の館を抜け出した。
神様の去った部屋の中、レティは二人の妖精少女の頭を同時になでながらほんの小声でつぶやく。
「あっちはあっちで、放っとけないわねえ……」
胸中にやり場のないもやもやを抱えたまま、穣子は秋神社に戻ってきた。予想はしていたけどまだ姉は帰ってきていない。
「あんな妖怪、少しでもあてにしたのが馬鹿だった」
さて静葉はどこにいるのか。お互い特に打ち合わせもなく行動してきたのは失敗だった、せっかく姉妹神なのだから念話のひとつも取得しておくべきだったか。最近の外の世界では、誰でも念話できるようになる機械が普及していると聞くけれど、幻想郷にそんな便利なものはない。
「爺ちゃんの所かな?」
静葉が宮司の老人の所に、何かを相談しに行った可能性は高い。まだ日は高いが少しずつ傾きはじめてきているし、訪れてみる価値はありそうだ。
できるだけ人間に発見されないように高空を飛んで人里に近づく。老爺の住居は神社からさほど遠くないので地上沿いに飛んだほうが早いのだが、その姿を農夫にでも見つかって異常気象の件を問われたら釈明に困る。
「よっ……と」
さいわい誰にも見られずたどり着けたので、そっと屋根に降り立つ。階下の物音に傾聴してみると何人もの話し声が聞こえた。
「実際、今のままではにっちもさっちも行かねえべさ」
「宮さんの前でこんなこと言うのは、ちいとアレだけどよう――」
本当に神のおわす社の宮司ともなれば、ちょっとした村の名士である。老爺の家は農夫たちの集会所も兼ねており、彼は村人たちから『宮さん』『宮爺』などと呼ばれていた。
「――やっぱり、お山の新しい神様でも呼ぶしかねえんでねえか」
穣子の胸がずきりと痛む。あまりに不穏当な議題だ、聞きたくない、だが看過はできない。
「は? お山の神様って」
「知らねえのか。ほれあの、めんこい巫女様のいる神社の」
「巫女様って、霊夢ちゃんか」
「いや霊夢ちゃんもめんこいけど、もう一人、最近になってよそから来たっつう子のよ」
「ああ早苗ちゃんか。あの子もなかなかええなあ」
ともすれば猥談に流れがちな男衆の会話をさえぎって、ひときわしゃがれた声の老人が口を開いた。
「馬鹿もん。巫女様の腋より来年の飯の話をしねえか。こんな秋口から雪が降るほど寒れてよ、年越しから何食って生きてくんだ」
穣子はできるだけ気配を消して、空中でほとんど逆さまになった体勢で鴨居の陰からそっと室内を見回した。車座になって座る男たちの一角に見知った老爺の姿が見える。難しい顔をしていた彼がゆっくりと口を開いた。
「だからそこは、オラどもの秋神様に頼むのが当然の筋だべ。新しい神様でなくて」
そうそう、爺ちゃん頑張って、と心の中で必死に応援する穣子。なんとしても村人たちの信仰を引き留めてもらわなくては。
「いやあ、そうは言ってもよお、あの神様たちで本当に大丈夫なんだべか」
「そこはオラどもの信心次第だ。秋神様ならなんとかしてくれるって、心の底から信じることが大事なんだ。なんべん言ったらわかる」
穣子は知らないが、今日の午前中から始まったこの会議は延々と平行線をたどり続けている。老爺の力説は続く。
「そのために毎年毎年、盛大に秋祭りして神様をお迎えしてきたんでねえか」
この発言に対し、秋姉妹懐疑派の村人がいっせいに反論する。
「だけど宮爺、あれ本当に意味があったのか」
「昔っからのしきたりだから、とりあえず呼んどいただけだべ」
「まあ、お祭りしねえってわけにもいかねえし、呼んでたのを急にやめるのもなんだか怖いしなあ」
「お迎えすんのが別の神様でも、バチは当たんねえと思うけど」
老爺の首筋にいくつも青筋が浮かぶ。そしてとどめの一言が。
「いてもいなくても同じでねえのか、あんな神様」
「あんなとはなんだ!」
その年齢からは想像もつかないような大声で老爺は一喝した。彼は肩で息をしながら、さきほどの発言者を睨みつけている。秋姉妹に対しては常に温厚で礼儀正しい彼が、ここまで激怒するのを穣子は初めて見た。
場がしんと静まり返る中、しゃがれ声の老人がゆっくり語りかける。
「なあ、お宮の。おめえが昔よ、まだ若え頃によ、静葉様に惚れとったのは知っとるけど、それとこれとはまず話が別でねえか」
老爺は黙り込んだ。再び室内がざわざわとしだすが、老人の舌打ちひとつでまた静かになる。
「別によ、今までの神様を拝むのやめると言ってるわけじゃねえんだ。ただこういう大変な時には、お山の天狗も頭を下げるぐらいの立派な神様にすがったらいいんでねえかって、そういう話がしてえのよ」
「……知らねえ。そんなのはよそでやれ」
そう言い捨てて立ち上がり、宮爺と呼ばれた男は居間から出て行ってしまった。集まった村人たちも一人、また一人と解散していく。
穣子は飛んだ。飛行しながら止めようもなく涙があふれてきて、わあわあと泣き叫びながら飛んだ。
目的地なんてない、ただ闇雲な方向に向かって全力で飛ばす。といっても元から大した速力でもないのだが。普通の天狗にも負ける程度のスピードしか出ない。
なにが神だ。人間の巫女に手も足も出ない、天地自然の事象ひとつも意のままにならない、そんな存在が神と名乗れるものか。
なにが信仰だ。誰も本気で自分を信じてなどいなかった。ただ人間たちのお情けと惰性で、崇拝するふりをしてもらっていただけだ。
自分は生まれながらに特別で、高貴で、だから儚い人間どもを守ってやる義務があるのだと信じ込んできた。それが心の支えだった。
眼下には人間の町の家並みが見える。できることならあれをすべて破壊しつくしてやりたい気分だった。怨霊とか祟り神っていつもこういう気分なのかな、と自嘲的な笑いがこみ上げてくる。
だが人間に復讐なんて無意味だし不可能だ。殺す気で弾幕を放てば家屋の十や百は潰せるだろうけど、せいぜいその程度。その後たぶん霊夢あたりに本気で調伏されてしまう。姉にも迷惑がかかるだろうし。
夕暮れの幻想郷の空をあてもなくふらふらとさまよっていると、ときおり妖精や天狗と行きかう。たいがいは珍しいものを見る目でちらりと穣子のほうを向くが、すぐに興味を失って通り過ぎていく。
もうここには居たくない。このまま飛んで、飛んで、幻想郷の外にまで……
外ってどんな世界なのだろう。穣子が知っていた頃の『外』は今の人里とそう大差ない環境だったけど、あれから数百年でだいぶ様変わりしたと聞く。今までに多くの妖怪・人外が幻想郷に移り住んできた。ついには神まで。そういう連中は口をそろえて、もうあそこには居られなくなったと言う。
穣子は飛ぶのをやめた。こんな暴走したって疲れるだけだ、おなかも減ってきた。
自分ひとりで嘆いていても埒があかない。我が家に帰って、つらいけどさっきの一件を静葉に教えないと。姉は頭がいいのだ、今頃は一発逆転の策を思いついているかもしれない。
秋神社に戻り、穣子は膝を抱えて姉の帰りを待った。日が落ちると夕暮れの涼しさがすぐに夜の寒さにとってかわる。この極端な気温の変化にもうんざりだった。
「ただいま」
帰ってきた静葉も疲れた顔をしていた。
「遅かったね、どこ行ってたの」
「いろいろと。お土産あるよ、きゅうりの漬物」
「いらない……やっぱりちょっとだけ」
薄暗い部屋の中、二人でぽりぽりと漬物をかじる。どちらもなかなか話を切り出せないでいた。
「ん、まあまあかな。誰が献上したの、これ」
「早苗よ」
穣子の箸が止まる。
「明日から早苗がここに来てくれるわ」
「本当に? やった、さすが姉さん」
目を輝かせる妹に対し、静葉はうつむいて箸を置いた。
「ごめんなさい、ずるいわねこんな言い方。明日ここに来るのは、早苗と八坂様」
穣子はぽかんとして姉を見た。
「八坂……さま?」
「そう。八坂神奈子様。これからはそう呼びなさいよ」
「馬鹿じゃないの。あんな奴に『様』付け? 冗談でしょ」
静葉はひときわ長いため息を漏らす。
「聞いて。このまま冬を迎えたら、人間は完全に私たちを見放すわ。きっと来年の秋は目覚められなくて、眠ったまま過ごすことになる。もしかしたら再来年も、その次もずっとずっと」
穣子は口をへの字に曲げている。
「そのあたりの事情を八坂様に伝えてみたら、自分なら季節を正常にできるはずだっておっしゃるものだから、じゃあお願いしちゃおうかなって」
「あいつにできるの。口先だけじゃないの」
「失敗したら信仰ガタ落ち、私たちと共倒れね。そんなヘマはしないでしょ」
穣子は手に持った箸をぺちんと置いた。
「無駄だよ」
「ん?」
「それでうまくいったって、いいところをみんな神奈子に持ってかれるだけじゃないの。里の連中なんて、たいして私たちをあてにしてないんだよ」
静葉は眉ひとつ動かさず、じっと妹の瞳を見つめた。
「いまさら気がついたの?」
思わず絶句する穣子にたたみかける。
「信仰なんてとっくに底をついてる。今の私たちの力じゃ、その辺のちょっと強い妖怪にだってかなわないじゃないの。いくら戦い向きの神格じゃないにしても、神として異常よ」
幻想郷に来た当初と比べると、見る陰もないほど力が落ちているのは穣子も自覚していた。最近になって流行してきた、弾幕ごっこという遊びにもいまひとつ乗りきれていない。戦うたびにスペルを破られる。
「大丈夫、保険はかけておいた」
「保険?」
「この土地を守矢神社に明け渡すわ。その代わり私たちをここの副祭神にしてもらうの」
穣子は両手をどんと卓に打ちつけた。
「あいつの手下になれって言うの」
「ええ。それなりの信仰を保障するって約束してもらえたわ。お給金をもらう勤め人みたいなものね」
「爺ちゃんはどうするの、今まであんなに頑張ってくれたのにさ」
「さっき本人と話してきた。この社殿を隅っこのほうに移すから、その管理をしてちょうだいって。意外とあっさり納得してくれたわ」
当然だろう。昼間、村人たちにさんざん似たようなことを言われたのだから。
「なんで、なんでそうなるの。今までずっと二人でやってきたじゃない」
感情的になって訴える穣子に、静葉は淡々と告げる。
「現実を見なさい。信仰の廃れた神なんて、ただの妖怪よ」
「うるさい馬鹿、姉さんの大馬鹿、もう知らない!」
神社を飛び出し、穣子は森の中を走った。ここ数日間、自分は何度こうやって逃げるように人前から去ったのだろうか。だがいくら逃げてもまるで状況は好転しない。悪化の一途をたどるばかり。
なるほど確かに姉は頭がいい。現実的に可能な範囲で、最大限に自分たちが存続できる策を練って話をつけてきた。自分にはまねできない、したくもない、納得なんてできない。
飛んで逃げたら静葉に見つかってしまう気がして、できるだけ森の中を行く。
空を行かないのにはもう一つ理由があった。とにかく寒い。いくら夜中とはいえ、自分たちが活動できる季節にこれほど気温が下がることなどそうそうなかった。
「畜生、畜生、畜生……」
ののしりながら、ほとんど道の体をなしていない獣道を走る。深い藪に足をとられて何度もつまづきそうになる。
そのとき、脇の木陰から何かがのそりと這い出してきて穣子の前に立ちふさがった。よく前を見ていなかったので、おもいきりぶつかって転んでしまう。
「あ痛っ。もう、なによ」
穣子に衝突したのは、帽子をかぶった、小柄な人間のような……
「諏訪子?」
洩矢諏訪子だった。
「ちょっと、返事ぐらいしなさいよ」
諏訪子はうつぶせにうずくまり、歯をがちがちと打ち鳴らしていた。帽子をぐいと引いて顔を覗きこんでみると、うつろな瞳で何かうわごとを口走っている。月明かりなのでよくわからないが唇が紫色になっているように見える。
「だめだよみんな……私、まだ……そっちには行けないよ……」
こいつは蛙の神様だったっけ。もしかして。
「ねえ、寒い? 寒いの?」
「あはは……綺麗だなあ……お花畑……」
だめだこりゃ、とつぶやいて穣子は諏訪子の首根っこから手を離した。この神が何をしたいのかは不明だが、だいぶ弱っているようだ。
いまの穣子にとって怨敵と呼べる守矢の一柱が目の前にいる。しかも煮るなり焼くなり好きにできそうな状態で。ここでこいつを亡き者にしてしまえば、にっくき神奈子にかなりの痛手を与えられるだろう。
穣子は懐からスペルカードを一枚取り出した。
「友達って、言ってくれたもんね」
戦闘用のスペルではない。秋祭りで里の民を喜ばせてやるために、なけなしのパワーを込めたお祭り限定弾幕。だけどもう用無しだ、ならば。
――天変「焼き芋の雨」――
二人の頭上に茶色の閃光がいくつも走り、そこから大量に、ほかほかの焼き芋が雨あられと降り注ぐ。一つ拾って手折りほおばってみると、極上の味わいに仕上がっていた。
「あったかいなあ、ここがドリームランド……はっ」
意外と早く意識を取り戻した諏訪子に、半分に割った焼き芋のかたわれを差し出す。
「あ、ども……あっふ! でもうまい」
しばらく二人とも食事に集中する。おかわりなら無尽蔵だ。
「いやあホント助かった、冬山を舐めてたよ。さっき、昔の旦那と子供らが川の向こうで手を振ってて――」
そのなりで後家かい、と心の中でツッコむ穣子。
「でもさすが実りの神。私が蛙の雨を降らせても、喜ぶのは蛇と野鳥ぐらいだね」
「なら烏天狗にはごちそうじゃない」
「今度聞いてみる。いや、食べると言ってもやらないけど」
こんなふうに他愛もない話題で談笑するのは何日ぶりだろうか。
「ところで、どうしてあんたこんなとこで行き倒れてたの」
諏訪子は食べかけの芋を飲み込んでから言った。
「ケンカして出てきたんだ、神奈子と」
「はあ。あんたら仲悪いの?」
そう問われて、お芋の断面をじっと見つめる諏訪子。
「半分お遊びの口論はしょっちゅうだけどね。でも今回はわりと本気」
もう一口かじってから、穣子の顔をまっすぐに見る。
「あいつ調子に乗ってるんだよ。もう知ってると思うけど、あなたの姉さんに『助けてほしけりゃ神社をよこせ』って、あんまりだよそんなの。早苗も神奈子のいいつけには、はい、はいってしか言わないし」
「それ姉さんが言い出したんじゃないの」
「あ、そか、あなたの前では……でもあの時、静葉泣きそうだったよ」
やっぱり気持ちは同じじゃないの、どうしてそんな回りくどい気づかいするの姉さん、と遠くの静葉に心で愚痴る。
「だから神奈子に文句言ってやったの。だけど、これで丸く収まるならいいじゃないかって相手にもされなくて。それであなたたちに、もう一度考え直せって言いに来たんだけど……なんか途中で気が遠くなってきて。危うく冬眠するところだった」
「さすが蛙の神」
穣子の茶々いれに、諏訪子は腕を組んで憤慨する。
「ったく。この蛙属性だってあいつにムリヤリ押し付けられたんだよ。まあ今じゃ気に入ってるけど。でもあっちはちゃっかり蛇属性のほうを持ってってさ。ずるいったらもう」
穣子は首をかしげる。
「あんた、もとから大蝦蟇かなんかじゃないの」
「違う違う。うちのご本尊――ミシャグジさまは、『蛙のような蛇のような異形の神』だよ。大昔に星のかなたから来たらしいんだけど、そこはよくわかんないや。なにせ人類誕生以前の話だし、あんまり詳しく知りすぎると気が触れるって噂もあるし」
やっちゃったかな、と穣子はたじろいだ。神様が氏素性の話を始めると止まらない。自分だって、保食神と磐長媛を起源とする秋一族の話でたっぷり半日はもたせる自信がある。
「でもなんにせよ、人間たちが蛙の神と思って信仰すればどうしても蛙っぽくなっちゃうんだよね。さすがに羽虫は食べないけど。そのうち食欲が沸いてきたらどうしよう」
「食べればいいと思うよ」
「エヴァ? あ、なんでもない、忘れて」
諏訪子は食べかけの残りを片付けて三本目の焼き芋に手を伸ばした。胃腸が炭水化物を求めているうちは、異食症の心配はなさそうだ。
「でさ、一時期は同じご本尊様の眷属に囲まれて暮らしていたわけよ。私も一家の大黒柱として頑張ってた。そんな時、神奈子の軍勢が攻めて来たの」
諏訪子は穣子の顔色をちらちらとうかがう。
「ああ、知らないか。守矢神社はもともと私の社だったんだ」
「あんたのって……まさか、あんたもあいつに神社を乗っ取られて」
諏訪子がうなづくと、穣子は立ち上がった。
「じゃあなんで一緒に居られるの。悔しくない? こんな奴、って思わないの」
「親戚一同はそう思ったんだろうね。ほとんどみんな、幻夢の境の向こうに引っ越しちゃった」
穣子はじっと話の続きを待っている。
「でも私は、何度もあいつと戦ってるうちに分かったんだ。こいつとケンカしてるときが一番楽しいなって。で、その気持ちはむこうもおんなじなんだろうな、ってさ」
「それで家族を置いて一人で残ったの?」
まだ不満げな穣子。諏訪子は焼き芋を処理する作業に戻っている。
「んむっ……いいの、あっちは大所帯だったし。それに神奈子だって理由もなく諏訪の地を攻めたわけじゃない。そこを自分の国にできなきゃほかに行くあてなんてなかったんだ。負けたからって私が消えちゃったら、きっとあいつ寂しいだろうなって思うとね」
そこまで言ってからもぐもぐ焼き芋をほおばる諏訪子を、穣子は横目で見る。
「やっぱりあんた、神奈子が好きなんじゃない」
「まあね、恥ずかしいけど。でもだから、今日みたいな強引なやりかたしてほしくないんだよ。私らみたいにお互い納得して一緒になるならいいけど、力に物を言わせて土地を脅し取るみたいでさ。絶対あとでギスギスするよ。私はそんなの見たくないって言ってんのに、単に縄張りが増えるからって喜んじゃって。そういうとこが本当に餓鬼なんだから」
今日までに積もった神奈子への不満を誰かに聞いてもらいたかったのか、諏訪子の愚痴は止まらない。
「もとはと言えば、勝手にこっちに越してきたのをあっさり許しちゃったのがよくなかったんだよなあ。結果オーライそれでよしっていう悪しき前例を作ってしまった気が。それで霊夢たちに負けて泣きついて来るんだから世話がないわよ。本人はただの遊びって強がってるけど、博麗神社を奪い返された晩にはずいぶん遅くまで飲んでたわよ。怪我してる早苗にお酌させて、酒もってこいって怒鳴って―ー」
諏訪子の口から、偉大なる戦神のプライベートがぽろぽろと明かされていく。穣子はお芋の海で笑い転げた。
「巫女使いの荒い神様ね。こっちに来る前からそんなだったの?」
「うん。真夜中だってのにお酒だのおつまみだのをよく買いに行かせて。早苗の両親が遠慮がちに止めるんだけどね、あの子もはりきってお使いに出ちゃうもんだから」
「馬鹿ね、そんな時間に売る店なんてないでしょうに」
穣子の何気ない一言に諏訪子の手が止まる。
「そか、それがこっちの常識だよね。あっちだと、深夜だろうが正月だろうが開いてる店が普通にあるの」
「へー」
「トリビアかい。ああくそ、テレビが見たい。私も文明に毒されたなあ」
意味不明な単語に穣子は何度か瞬き、首をかしげた。
「外の世界って、今はどうなってるの。いろいろ変わったって噂でしか聞かないけど」
「そうだね……」
諏訪子は頬杖をついて返答を考える。
「とってもにぎやかになったよ。神社のあたりはさほどでもないけど、大きな街中なんかは朝から晩までお祭り騒ぎさ。よくこれだけ暇な人間がいるもんだって思うぐらい」
「楽しそうね。あんたたちほどの力があって、なんで幻想郷に来たの」
諏訪子が難しい顔をした。
「んー。その楽しさってのは、人間が人間のために作った楽しさなんだ。神様は必要ない」
「普通の、神社のお祭りはもうないの?」
「あるよ、めいっぱい人も来る。だけどそいつらの中に、本気で私らを信じてる奴なんてまずいない」
どこかで聞いたような話だと穣子は思った。無意識のうちに身構える。
「じゃあその人間どもは何しにお参りに来てるの」
「なんとなく、かな。家族が無事でありますように、とか、恋人ができますように、とかけっこう真剣に願掛けはしていくんだけど、私らがそれをかなえてくれると期待してるわけでもない。お参りしないよりはしたほうが幸運に恵まれるんじゃないか、ぐらいに思ってるだけ」
「……いてもいなくても一緒じゃない、そんな神様」
諏訪子は額を掌で押さえた。
「あーうー、やっぱりそう思っちゃうよね。ここ何十年かでどんどん信仰の中身が薄くなってきて……つくづく、あの戦に負けたのが大きいなあ」
「人間同士の二度目の大戦、だっけ」
数十年前、外でそういう騒ぎがあったらしいとは穣子も知っている。
「うん。兵隊に行った男たちの家族が毎日のように戦勝祈願に来たよ。声には出さないけど、無事に帰ってきますようにって必死に祈ってくれた。だけどさ、私ら日本の神様だよ。海の向うの何百万もの人間に分けてやれるほどの加護は持ち合わせてないっての」
そうぼやく諏訪子の表情は暗い。
「敵も味方も簡単に死んでいった。戦なんてそんなものとは思うけど、あれは私らの考える戦いとは桁が違う。それで人間たちは、神様なんてあてにするものかって思い知っちゃったんだろうね。インチキな御利益を売り物にする似非宗教ばっかりはやって、まともな信仰がどんどん廃れてきた。もとからそういう風潮はあったけど、ついにとどめを刺されたって感じかな」
神は人間がなければ存続できない。だから人間を愛しつつも、その信仰が誤っていれば罰する。だが諏訪子の口調からはそういった怒りがあまり感じられなかった。
「ひとごとみたいに言うのね。あんただって人間の都合に振り回されてるんじゃないの」
「ははっ。あっちにいたころ神奈子におんなじように言われたよ。この世界はもう駄目だ、いつ引っ越すんだ、早く決めろってさ。早苗が大きくなったここ数年は特に。私の子孫の中でもあの子は飛びぬけた天才だから、いわゆる巫女の資格があるうちにって焦ってたみたいなんだよね。ウザいから無視して寝てたら、いつのまにかこっちに連れて来られて」
穣子は首をかしげた。
「外に残る理由なんてある? 幻想郷に来たくなかったの?」
「こっちはこっちで楽しいとこだって言ったじゃん。来てよかった。たださ、外の人間の作る最近の玩具とかお芝居が、けっこう面白いから病みつきになっちゃって。あれは上手くやれば新しい信仰になるよ」
「玩具が信仰? 意味わかんない。身勝手な人間どもに腹が立たないの」
諏訪子は両手のひらを上に向け、苦笑する。
「いつの世だって、人間なんてそんなもん。私らはただ自分の仕事を果たして、暇なときには寝て過ごせばいいの……っくしゅん!」
ひとつくしゃみをして、諏訪子は自分の両肩を押さえた。
「なんか、また寒くない?」
「むう、焼芋結界も時間切れか」
発生直後は火傷するほどの温度だった焼き芋たちも、かなりぬるくなってきた。
「どこかに避難しないと。うちは駄目だよ、奴がまたいい気になっちゃう」
「私も姉さんとは顔合わせづらいなあ。どうしよ」
そうだ、と言って諏訪子は帽子をとり、逆さまにして穣子に手渡す。
「これ持ってて」
「いいけど、なに」
諏訪子は転がっている芋の中から状態のいいものを選んで、穣子の持つ帽子に詰め込んでいく。
「神社以外にお世話になるのは、神の沽券にかかわるよね。こいつであの巫女を買収しよう」
翌日、日もだいぶ登りかけたころ。秋神社にて。
「本当に、本当にすみません、静葉様」
「もういいから。それより、たまにでも私たちの社に来てくれたら嬉しいな」
土下座せんばかりに謝る妖夢の肩を静葉が叩く。二人の横では、久しぶりに宮司らしい格好をしている老爺が渋い顔をしていた。
「しかし静葉様、ホントにこうするしかなかったんスか?」
「あ、うん……もっと私に力があれば、他にやりようもありそうだけど。いま無理したら私の存在をすり減らしてしまうわ。穣子をひとりにもさせておけないし。ったく、どこ行ったのかしら」
境内にはもう、今日の仕事を休んだ村人たちが集まっている。ここのところ立て続けの天候不順のせいでとても農作業どころではない。今日とりおこなわれると緊急の告知があった『新しい神様の祭り』が始まるのを今か今かと待っている。
頃合かしらね、と言って静葉は村人たちの前に進み出て天を仰いだ。
「八坂様、お越しください」
呼びかけに応えて、ごうと一陣のつむじ風が巻き起こる。神社の上空に閃光が走り、星型を描いて飛び散った。
「我を呼ぶのは何者ぞ」
弾幕の去った跡には、八坂神奈子と東風谷早苗の姿があった。人々から驚きの声が上がる。アホくさ、と静葉はほんのかすかにつぶやいた。
「演出はいいからさっさとお願いします」
「お、おう」
神奈子が小声で早苗に話しかける。
「なんだいあいつ、反抗的だね」
「まあ仕方がないかと。それよりこちらにもいませんね、諏訪子様」
目を伏せる早苗の斜め前方で、神奈子はいちど頬を引きつらせた。
「いつものわがままよ、ほっときなさい。それより――」
ここで声を張り上げ、皆に聞こえるように言う。
「いい場所じゃないの。北に山、南に人里、西の森に東の川。本当にめでたい土地だ」
そしてまた小声で言う。
「――里への布教にちょうどいい。霊夢のとこじゃなくこっちを狙うべきだったわ」
「そんな事言ってると帰ってきませんよ」
「こだわるねえ、もう」
二人はゆっくりと高度を落として、村人たちの中央、あらかじめ縄で区切られた一角に降り立つ。神奈子は右手を高々と掲げた。
「勃て、御柱」
地鳴りとともに、空き地の四隅から巨大な柱が頭を見せる。四本の木柱が回転しながら少しずつせりあがっていき、人間たちがまたどよめいた。
「はあ、派手好きね。これからは私もあのノリに合わせないと駄目かしら」
ほかに話しかける相手もなく、静葉が妖夢にぼやく。妖夢は二人の姿を凝視している。
「早苗たちは何をするつもりなんです」
「秋の気配が天と地の境界に隠れてしまっているから、あの柱を導管にして循環させるんだそうよ。まあお手並み拝見ね」
「……上だけ熱いお風呂をかき混ぜるようなものですか」
御柱が上部の三分の一ほどまで現れたところで、早苗が祝詞をあげ始めた。地球上のどの国の言葉でもない、言ってる本人も意味は知らない。これははるか昔に諏訪子の一族が使っていた言語であると、この場では神奈子だけが知っている。
「ツカミはこれでよし。早苗、加速するよ」
早苗がうなづき、祝詞の次の段に進もうとしたとき。
「待った待ったあ!」
そう高くもない社殿の屋根のてっぺんに一人の少女が立ち、神奈子たちを指差した。
「ひとの神社を乗っ取って、不埒なまじないしようとは、お天道様が許してもこの秋穣子が許さないよ」
決まった……と一人悦に入る穣子。周囲はぽかんとした顔で彼女を見る。神奈子がまっさきに困惑から立ち直った。
「いいじゃない。人間どもの見ている前で、力の差をはっきりさせてあげる」
静葉が顔色を青くする。
「やめっ、なに考えてんの、やめなさい、正気なの」
「私が神奈子にかなうなんて思ってないよ。でもこっちには強い味方がいるんだ。カモン、すわっぴ!」
穣子がぱちんと指を鳴らす。
「オッケー、みのりん!」
社殿の上空で暴風のように白い輝きが渦巻いた。光弾がいちど収束して、すぐ拡散する。
「守矢が社の真の主、洩矢諏訪子、見っ参!」
歌舞伎役者のように大見得を切る諏訪子。広げた右手の指先がやや震えている。
「こういう登場、すっごく気持ちいい……」
目を見開いて諏訪子をみつめていた神奈子が、すっと浮かび上がって同じ高度まで上昇する。
「一応聞くけど、なんのつもり」
「決まってるじゃない。しようよ、神遊び」
二人の間で緊張が高まる。どちらが先に仕掛けてもおかしくない。
「やめてください、お二人とも――」
言いかけたところで、早苗の足元に何かが飛来してくる。反射的に飛びのいた彼女が見たそれは、地面に突き立った何本かの針だった。
「動いたら撃つ。そっちが撃ったら私が動くわよ、なんてね」
「どうして、あなたまで」
博麗霊夢は札と針を構えて早苗を見据えた。
「神様がお遊びあそばすって言ってるんだから、その脇で神楽うのが私らの仕事じゃない?」
霊夢がにこりと笑うと、早苗は神奈子と霊夢の間で視線を行ったり来たりさせた。
「面白い。本当に面白いことにしてくれたね、諏訪子!」
「ま、これで五分五分かな」
霊夢が諏訪子の近くまで上昇していく。早苗もそれに追随して、神奈子の前方斜め下に布陣する。
「聞き捨てならないわね。私がいる分こっちが優勢じゃないの」
「負けません。今日こそ勝ちに行きますからね、霊夢さん」
どちらからともなく弾幕の応酬が始まった。膨大な量の光弾が、閃光が、お札が、小刀が両陣営の間を飛び交う。諏訪子も神奈子も、全力で攻撃をばら撒きながらも地上の人々を巻き込まないように射角を調節している。お互いに多少の怪我は一瞬で再生できるためそう簡単に決着がつかないけれど、相手の攻撃が身を削るたびに神の力が漏出し、赤や青の結晶となってあたりに飛び散る。
空を埋め尽くすほどの弾幕の中で、霊夢と早苗はわずかな隙間を曲芸的な機動でくぐり抜けつつ、相手の隙をついて決定的な一撃を叩き込もうと動き回る。
「うっひゃー。あいつらと喧嘩しなくて正解だったなあ」
中途半端な高さで停止した御柱の一本の上に立って、穣子は感嘆の声を漏らす。
「どうするのよ、こんなに混沌とさせちゃって」
静葉も穣子の隣の柱に立って、憂い顔で声をかけた。
「えーと、あいつらの儀式を途中から横取りして、私たちで続きをやっちゃえばいいんじゃないかな、ぐらいの作戦」
「じゃあそうして」
「……ごめん、私じゃ無理」
途方に暮れる秋姉妹に、霊夢が上から呆れ顔で呼びかける。
「こいつらさっさとシメたらなんとかしたげるから、待ってて」
「なんですって? どうしてそう簡単に、私に勝てるなんて言えるんです。どうしたら認めてくれるんですか、霊夢さん!」
早苗は叫び、星々の群れを召還して霊夢に降りかからせる。
「なんか変なスイッチ押しちゃったな。こっちもギリギリだっての。強がりぐらい言わせてよ、ったく」
霊夢の放つ札が次々と弾け、早苗の攻撃を打ち消す。
「はっ、どんな策で来たかと思えば。そいつは私の神格で命じなきゃ起動しないよ」
「だよねえ。乱入が早すぎたなあ」
神奈子が勝ち誇り、諏訪子が渋面を浮かべる。そのとき。
「慌てん坊のサンタクロース、クリスマス前にやってきた――っと。これって今の私の歌よねえ」
穣子の対面、北辺の御柱の上にひとつの人影が降り立った。
訂正。正確にはふたつ。眠りこけている氷の妖精と、それをおぶった冬の妖怪。
「……なにしに来たの。いま取り込み中なんだけど」
「夏バテ解消、かな」
あいかわらず真意の読めない微笑を浮かべるレティに、穣子はいらだってつま先を踏み鳴らす。
「本当に来たんだ、この暑い中」
そう静葉が語りかける。穣子は怪訝そうな顔をした。
「今朝もこいつが来たの。もう私達の土地じゃなくなるから顔出さないほうがいい、って言ったはずだけど」
「困るわね、あなた達を冷やかすのが毎年のささやかな楽しみなのに。さて――」
レティは突然、意味不明な呪文を歌うように唱えだした。それが古ケルト語であると判別できる者はこの場にいない。
早苗が祝詞をやめたことで停止していたはずの御柱が、レティの歌にあわせて明滅しはじめる。やがてゆっくりと回りだし、徐々に加速して柱全体がせりあがっていく。
「え、え、え」
足場の回転によってくるくる回りながら穣子が当惑の声をあげる。
「馬鹿なっ」
「おおっと、そいつは負け台詞」
戦いのさなかに目をそらしてしまった神奈子のもとに、諏訪子の放つ光の針の束が襲いかかる。早苗が間に割って入ろうとしたが、霊夢の針に進路を阻まれてまにあわない。神奈子は光針の直撃を受け、神気の結晶を派手に撒き散らした。
あまり回っていると気分が悪くなりそうで、穣子が軽く足場から浮かび上がったところでレティは呪文をやめた。御柱の発光は安定しており、上昇のペースも変わらない。
「私もね、昔は柱に祀られていたの」
え? と穣子は聞き返す。レティははるか遠くのほうを見ていた。
「こういう木製じゃなくて、真っ白な岩の柱、環状列石の北辺の守護者として。そんな信仰なんてとっくに廃れてしまったけど。妖精郷にもなじめなくて、妖怪に身を落として、東洋の端までさまよってきた流れ者だけど。やりかけの儀式の後押しくらいなら、ね」
と言って人差し指を立て、片目を閉じるレティ。背中の妖精がずり落ちかけてきたので、よいしょっとまた背負いなおす。
「あのー、状況が見えないんですが。どうなってるんです」
残った柱、東側の一本の近くまで妖夢が上がってくる。秋姉妹は互いに顔を見合わせていた。
「ううう……なんかこう、力が湧いてきたぞっ。姉さんも感じない?」
「もちろん。この御柱は、いま秋のパワーの通路になっているのよ」
静葉は上空を見上げ、それから周囲を見渡した。
「ごめんね穣子、私すっかりあきらめてた。みんなもありがと。どんな時でも、味方って探せばいるものなのね」
妖夢が深くうなずくと、静葉はそちらを見る。
「ねえ妖夢。ちょっと頼みづらいお願いがあるんだけど……」
「なんなりと」
即答した妖夢に静葉が微笑む。
「あんたを生贄にするから、死んでちょうだい」
全員がぎょっとした顔で静葉を見る。
「散りゆく桜は死の象徴と言うけど、季節に散る物は私の領分でもあるの、だから――」
妖夢は軽く首をかしげ、なるほど、とつぶやいて目を閉じた。
「そういう意味ですか。いつでもどうぞ」
「ちょっ、ちょっ、姉さん?」
慌てる穣子を放っておいて、静葉は右手を開いて妖夢に向ける。
「秋よ、来い!」
たった一発の光弾が気合とともに放たれ、妖夢の心臓の位置を正確に打ち抜く。彼女の肉体はほとんど傷つかない。しょせんは弾幕ごっこ用の弾、例えるなら竹刀で殴られた程度のダメージ。
穣子の目には、妖夢の胸から大量の血液が吹き出たように見えた。しかしすぐにただの錯覚だと気がつく。色が似ているだけだ。
「今よ穣子、みんな拾って」
妖夢の体から放出されたのは、真っ赤に色づいた楓の葉だった。ともかく姉の指示に従ってその紅葉を拾い集める。直接手で触れなくとも、近くに行くだけで勝手に体に吸い付いて穣子の衣服と一体になる。
「集めた……けど。なんか変な感じ、耳がキーンってなる」
「あらま。桜点ならぬ紅葉点ね」
レティが目を丸くする。妖夢は膝をついて息を荒くしている。
「なんなの、これ」
「いまこの結界では、『魂』が『秋』に変換されるの。さあ次は――」
静葉は真上の方向を指差した。今も上空では神々と巫女たちが絶賛弾幕中である。
「あのど真ん中まで行って、死んできなさい」
「ひゃあっ? ちょっと、なんで、心の準備が」
あまりの指示にうろたえる穣子のもとへ、妖夢が胸を押さえながら近づく。
「妹神様、今のあなたなら大丈夫です。私が保証します……いや、静葉様を信じてください」
「早く、もう時間が」
二人がかりで急かされて、穣子は半泣きで弾幕の暴風雨に突撃していった。
「なんだか知らないけどやってやるっ。秋神社、バンザーイ!」
周囲では、もはや右も左もわからないほどに攻撃が錯綜してる。霊夢たちはなぜこんなものをかわし続けられるのか。
「ちょっち、みのりん、来ちゃ駄目だって」
諏訪子の注意がそれたところに、神奈子がお札をまとめて投げつける。ちょうどその射線上に穣子が割り込む形になった。
「あ……」
色とりどりに輝く霊符が彼女の肉体をえぐろうとした、その瞬間。
ぱんと何かがはじけて、爆発的に広がった。真夏のような暑さが突然かき消え、清涼な空気が秋神社の周囲一帯を満たす。空一面に撒き散らされていた光弾やら何やらが、一斉に色鮮やかな楓や銀杏の葉に変化して、渦を巻いて穣子の体に吸い込まれていく。
諏訪子も、神奈子も、早苗も、呆けたような目でこの幻想的な光景を眺めている。ただひとり霊夢だけはこの現象に心当たりがあった。
「森羅結界? 秋バージョンか。やるわね」
早苗がはっと我に返り、御幣の先を霊夢に向ける。
「隙ありっ……あれえ?」
早苗の放った閃光は、霊夢の所に到着する前にぱっと紅葉に変化して穣子に吸い込まれてしまった。
「こりゃ勝負にならないわね。今日は楽しかったよ、早苗」
ここまでの様子を固唾を呑んで見守っていた村人たちの間で、あ痛てっ、という声がいくつも上がる。まだ青々として樹についていたはずの栗のイガが、急速に熟して彼らの頭上に落っこちてきたのだ。境内の胡桃の木からも実がぽろぽろと落ち始め、山葡萄が実り、アケビがぱっくりと開く。それら全ての植物から放出された秋度が、紅葉の形となって穣子のもとへ吹き上げられる。
「来た、来た、来たあ」
穣子を中心とする結界が、はじめはゆっくりと、やがて加速して広がっていく。たび重なる霜害ですっかり変色してしまった大豆畑に青みが戻り、豆がぷっくりと膨れ上がって鞘が弾ける。打ち捨てられていた椎茸の種木の隙間から、むくむくと茸が生えて笠を広げる。
平地の田んぼでは、収穫時期近くになっても青々としていた稲穂が一斉に黄金色に変わり、重く頭を垂れた。
山々の木の葉も、ふもとのほうではまだ青いが、中腹に到るにつれて色づいた木が混じってくる。そして山頂付近では鮮やかな赤や黄色となった木々が風に揺られ、紅葉を舞い散らせた。
「幻想郷の皆さーん、秋ですよー!」
「おめえら、田を見ろ、山を見ろ。これがオラどもの秋神様のお力だ」
いつのまにか人間たちの先頭に立っていた老爺が力強く演説している。穣子様! 静葉様! 秋神様! という声がいくつも上がる。
「本当に調子のいい生き物ね、人間って」
そうぼやくレティの肉体は、足もとのほうから粉雪に変わって分解され始めていた。季節が秋に戻った以上、冬の妖怪は存在を維持できない。
レティは背負った妖精をそっと柱の上に寝かせた。彼女はまだ目覚めない。
「この子が起きたら伝えてちょうだい。また冬に、って」
そう笑って、レティの全身は粉雪の渦となって消え去った。
「名残惜しいですが、所用がありますのでこれにて。また近いうちに来ます」
妖夢も静葉に手を振って去っていく。すれ違いざまに霊夢が降りてきた。
「お疲れー。じゃあ取り分はサンナナで」
「二割五分」
穣子が言い返すと、霊夢は笑顔で舌打ちする。
「何の話?」
「いやー。これがうまく行ったら、今年献上される食料の四分の一をおすそ分けするという約束を」
穣子は頭をかく。静葉は霊夢をにらみつけた。
「あんたどこまで……まあいいわ、そのくらい」
「感謝なさいよ。それと、のど渇いたんだけどお茶とかある?」
「うちの宮司に言って」
静葉が下のほうを指差すと、霊夢はそちらへ降りて行った。
上のほうでは、神様たちと早苗がやいのやいのと言っている。
「ちっ、完全にやられたよ、奴らがここまでやるとは。それにしたって……」
「どうしてですか、諏訪子様。こんな横取りみたいな真似」
「横取りはどっちだい。『助けてやるよ』のあとには、『お互い様だろ』って言うのが世間の常識でしょ。どうして早苗も止めなかったの」
憤る諏訪子。そっぽをむく神奈子。そして。
「だって、私たちの、ひっく……信仰があ」
早苗が泣き出した。
「信仰が失せたら、お二人とも、いなくなっちゃうから……だから神奈子様についてきたのに、すわ、んぐっ、諏訪子様、ちっとも楽しくなさそうで」
神奈子が横目で諏訪子をにらむ。
「え、だって、起きたらいきなりテレビもネットもない世界で」
「でもっ、霊夢さんたちに出会えて、諏訪子様もやっとお外に出られて、たまに働いてくださるようになって。私たちを信じてくれるかたも増えて、これからって時だから。たとえほかの神様を押しのけたって、神奈子様のおっしゃることなら正しいことなんだと、私、思って」
今度は諏訪子が睨み返す。
「いや、だって国津神としての本能が、ねえ」
「お二人とも、もとの世界の頃よりずっと仲がよくて、だから、だから、お願いです、仲直りしてください……」
早苗は両手で顔を押さえて、すんすんと鼻声ですすり上げる。神奈子が苦虫を噛み潰したような顔をする。
「私の負け。悪かったよ。いくら社領が増えようと、早苗を泣かすような信仰は願い下げね」
ふふん、と諏訪子は笑い、早苗の肩を叩く。
「よし、じゃ帰ろうか。私たちの神社に」
早苗が顔を上げたので、神奈子は振り向き、みごとな紅葉を迎えた山のほうへと進みだした。先頭を行けば顔色を誰にも見られずにすむ。早苗もすぐそのあとをついていく。諏訪子は穣子に向かって大きく手を振ってからふたりを追いかけた。
「ねえ姉さん」
「ん?」
三人の姿がだいぶ小さくなったところで、穣子が呼びかける。
「今年のお祭りはあいつらも呼ぼうよ」
「呼ばなくたって勝手に来そうだけど」
穣子は姉の目の前に回りこんだ。
「だけど呼ぶの。だってほら、お祭りは盛大なほうが、友達は多いほうが、人間だって喜ぶはずだし、ね」
いいんじゃない、と言って静葉は微笑む。そしてふたりは、まだ盛んに自分たちを呼ぶ村人たちのもとへゆっくりと降りていった。
話は凄く良かったんですが、個人的に大好きな神奈子様があまり良い印象ではなかったので、私情を挟んでこの点数です。
展開もなかなか良いのですが…ちょっと神奈子様がダーク過ぎでは…?
まぁ…秋姉妹が無事なら気にしませんがw
お前はどこのニートだw
諏訪子さまマジ可愛い
あれよあれよという間に纏まってしまった。狐につままれたようだ
作者氏がFの人と呼ばれる日が近いか遠いか判りませんが、とにかく支持
実は静(ryという不敬に気付きこの度ご尊顔を拝謁しドットイートまで
話のどのパーツにも無駄がないのに遊びが利いていて面白さと楽しさの両方がありました。
後日談があれば気持ちよく終われた~
アフターストーリーがもう少しあれば最高でした。
台詞も生き生きしてるし、それぞれ人間くさい神々が素敵ですね。
大ちゃんの病みっぷりもグッド…w
大変良いお手前で
引き込まれました!!
設定やシステムをうまく使っていて良い。
あと宮司のじいさんは俺と握手。
応援してます。
来年は否応無く凶作だな、うm
ストーリーも流麗、設定も丁寧で実に読みやすく読み応えがありました。
きっとあの方ですね
#このコメントはスキマ送りにされました#
信仰するとSAN値にチェック入るんですねわかります。
色々考えさせられるお話でした。ありがとう
こういう作品がもっと増えるといいなぁ……
ミシャクジ様がえらいことにwww
でも俺の中で一番萌えたのは宮司かもしれない
ケロちゃん立派だな~。トウチョトウチョ人が崇拝していた理由がよくわかったよ>>FoFo氏感謝
自分はこんな神奈子様も好きだぜ
あんたの話が大好きだ
いいですね。
ところどころニヤリとさせられるネタが仕込んであったり、
外の世界での神様への信仰が減った理由が頷かされるものだったり。
諏訪子さま良いよ諏訪子様。
中盤までの神奈子様の様子が「あいつ調子に乗ってるんだよ」という諏訪子様の台詞でストンと胸に落ちた感じがします。
そして、もっと増えろ秋姉妹SS!
>ミシャグジ様
やはりクトルフだった!
徹底的に弱り果てた秋姉妹が持ち直せるのか?持ち直すなら、どう逆転するのか気になりつつも、どこか「ご都合主義で大団円だろ」と思いこんでいました。
ですが最後は、作中現れた人物や仕組みをバランス良く組み合わせてリズムよく解決に導いたのはすばらしかったです。
波となって押し寄せ渦巻く秋の植物の描写も美しく、秋神様の神威をカタルシスと共に見れました。終盤の盛り上げどころとしては文句なしです。