幻想郷の夏…。
幻想郷に今年も夏が訪れた。
幻想郷の夏は、とにかく暑い日差しが照りつける日々である。博麗の巫女も、こんな暑い日は、境内の中に閉じこりっぱなしか、気分転換にどこかにでかけてしまうだろう。気分屋の魔女も、泥棒稼業を一旦休止し、涼しい館に避難して、別の魔女の本を読み漁っているだろう……そんな季節だ。
そんな夏も、妖怪にとっては、楽しみがあるものもいる。
夏祭りというものだ。
鬼であり、祭りが楽しみな萃香や、騒ぐ幽霊である三姉妹なんかはこの季節を楽しみにしている。風物詩といっても良いこの夏を満喫したいというのは、人間だけではなく妖怪もそうである。博麗の巫女にとってみればいい迷惑かもしれないが。
幻想郷の吸血鬼が住まう館
紅魔館もまた例外なく、夏が訪れる。
吸血鬼が、暑さに弱いという話は聞いたことがないが、彼女たちも、その暑さにまいりつつあった。
「レーヴァテイン!!!!」
紅魔館の壁を突き破り放たれる、巨大な剣
その轟音と響きを別室にて聞く、この館の主であるレミリア・スカーレットと、そのメイド長である十六夜咲夜。
「おそらくは、妹様が暑さでご乱心なのかと」
「まったく…たかが暑いだけで、しょうがない子ね」
そういうレミリアの近くには冷気を発するチルノがいることに深くは突っ込まない咲夜なのだった……。
だが彼女たちはまだ知らなかった。レミリアの妹であるフランドールの放った一撃が、今回の事件の引金になろうとは……。
紅の月に輝く向日葵の華《前篇》
幻想郷の夜……。
紅魔館の夜……、外には紅い満月が輝いている。
その輝きに照らされる門番、紅美鈴。
彼女が、眠そうにしながら、目をこすっていると、誰かがやってくる。林の影から、満月の光に照らし出された姿……、それは傘を差す少女。美鈴はそれが誰なのかを知っていた。宴会で見たことがあるからである。詳しくは知らないが花を操る妖怪で…。
「なにか御用ですか?」
問いかけた紅美鈴をまえに、傘をあげて、美鈴を見つめる緑の髪の毛を風に靡かせる、風見幽香は、笑顔だった。そして、彼女は告げる。
「この館を潰しに来たわ」
「は?」
思わず、幽香の言葉にポカーンとしてしまう美鈴。
だが、次の瞬間、美鈴の真横から勢いよく風が吹き、それとともに、強烈な殺意の篭った気を感じ取った美鈴は、身体を半歩下げた。美鈴の前を通過したもの…それは、幽香の蹴りであった。幽香は、何の前触れもなく美鈴に強烈な殺意を向けている。
「ちょ、ちょっと待ってください!?私があなたと争う理由が……」
美鈴の動揺に対して、幽香は問答無用といわんばかりに、拳を握り美鈴の顔すれすれのところに撃ちつける。その衝撃は、咲夜の時間操作により、壊れる速度が極端に遅くなっているのにもかかわらず、砕ける。美鈴は、目の前の凶悪な女にどう対処して良いかわからないでいた。
「宣戦布告よ、紅魔館の吸血鬼に対して」
「だから、なんのっ!?むぐぅ!」
美鈴の反論をまえにして、顔を近づけた幽香は、美鈴の唇に自らのものを重ねる。唇の柔らかいものが潰れ合い、それと同時に…互いの豊満な胸の頂が軽く重なることで、2人の服に皺ができる。紅い月の照らし出されるその光景は、あまりにも妖艶である。美鈴は、あまりの突発的な行動に手足をジタバタさせるしかない。幽香は、堪能した後、顔を離す。
「な、なんなんですか!?あなたは!!」
「だから言ったでしょう?これは宣戦布告なのよ」
幽香は、堪能したであろう唇を舌で舐めると、紅美鈴から振り返り身体を離して距離をとる。傘を折りたたむと、その場に捨て……再度、美鈴のほうにと向き直る幽香。彼女の瞳から読み取れる気は、殺意と楽しみというものが読み取れた。
「確か、門番を倒さないと、紅魔館の中にははいれないのよね?」
「だったらなんだっていうんですか?」
幽香はその言葉に口元を歪ませる。
その答えを待っていたとばかりに、彼女は屈伸運動をしたりして準備運動を始める。美鈴は、何でこうなったのか理解不能だったが、紅魔館を潰すと言っている以上、彼女が敵であるということは紛れもない事実である。ならば、ここは自分の役割を優先し、彼女には早々とお引取り願おう。
美鈴は、右足を後ろにさげ、左側面を正面にする。これは、相手に攻撃を与える面を少なくするためだ。攻撃は最大の防御……これが、そのための構えである。美鈴の構え方をみて、幽香は、直立不動……美鈴を嘲笑うかのごとく、そのままの体勢でいる。
対峙する2人。
先ほどまでは唇を奪われていたというのに…今度は一気に戦闘モード。
暫く、美鈴は動けずにいた……相手は直立不動。何も考えていなさそうな構えであるというのに。なぜだろうか……どこを攻撃しても、その手は、足は、すべて封じられてしまいそうだ。先ほどからの自分の気の能力もまったく動いていないように感じられる。焦らされるのがイヤなのか、幽香は、美鈴を見つめて小さく口を開く。
「きなさい……」
「はあああああっ!!」
美鈴は、幽香の言葉とともに、拳を握り締め、それを人間の世界でいう弾丸のような速度で放つ。拳は、幽香の真正面にと放たれたはずなのに、幽香はその手を掻い潜り、下から美鈴の懐に飛び込んできている。美鈴は、それに対して、後ろに引いていた右足を力を込めて前にと蹴り出す。懐に飛び込もうと体勢を低くしていた、幽香の正面に美鈴の膝が目の前に飛び込んでくる。美鈴は膝に、相手のものがぶつかる衝撃を確かに感じた。
「とった!?」
「これからね」
美鈴が自分の下をみたとき、美鈴の膝は、幽香の片手により、つかまれていた。美鈴は、その相手の戦闘のスタイルと、その驚くべき身体能力に声が出ない。自分が最初に拳をだしてから、相手が体勢を低くし、懐に飛び込もうとして、膝をいれようとした、その僅か数十秒を、すべてこちらの動きを上回る行動をしている。
美鈴の真下から、顔を覗かせる幽香…。
その瞳は、先ほどよりも、気が増している……いや、気などで図れるものではない。彼女の気配は、自分が知るものではない。レミリア様には、戦うときにも殺意があるが、そこには気品が感じ取られ、妹様には殺意はなく、純粋な遊び感覚の気がある。だが、彼女は違う……殺意と快楽が一致しているものだ。
空いている手に、力を込める、幽香。
美鈴は、両腕で、相手の攻撃を防ごうとするが、腹部に強い衝撃が走ると、そのまま、目の前の光景が霞む。全身に力がはいらなくなり、そのまま、意識が遠のく。このままではいけないと思ったところで…身体が言うことを効かない。
「……無理する必要はないわ、美鈴。どうせ、ここの主はもうすぐかわるわけだしね」
幽香の腕に覆いかぶさるようにして、気を失う美鈴。
幽香は腕にかかる、美鈴をその場に転ばせて、美鈴につげ、彼女は紅い月の輝きの中、門を潜る。紅魔館の庭園を悠々と日傘を差しながら歩いていく。
「……魔理沙?」
図書館にて、本を読み漁っている間に眠ってしまっていた魔理沙を揺り起こすパチュリー。魔理沙は涎を拭きながら、身体を起こす。暑さから逃れて、心地よい安眠を妨害されたのはあまり良い気分とはいえないわけだが。
「魔理沙、彼女は?」
パチュリーの見つめる水晶に映し出されたのは、気分良く、鼻歌交じりに歩いている幽香の姿である。魔理沙は寝ぼけながら、金髪の頭をかきつつ
「あぁ、幽香だ。幽香。花の妖怪の変な奴だよ」
「……変、そう、変ね」
魔理沙はそういって再び机の上で、顔をうつ伏せにして眠りだす。パチュリーは、そんな魔理沙を放って、立ち上がると、この館の主であるものに会いにと向う。この水晶に写るものは……並外れた能力の持ち主である。美鈴をいとも簡単に、赤子をあやすかのように、彼女の得意の肉弾戦で打ち負かしてしまうのだから。
館の扉が壊され、入ってくる幽香。
幽香は、その広い館を見渡す。
正面には、階段があり、高級そうな、装飾品と絵画が飾られている。赤い絨毯がしかれて、上にはシャンデリラが彩られ、立派な館であることがよくわかる。幽香は、それらを見つめながら、気に食わない表情で、傘を握ると、その場で広げる。幽香は、歯を見せて声にならない笑い声をあげると開かれた傘の中心に光を集める。
「随分と、荒々しい侵入者ですね」
その声の放たれた方角を見る、幽香。
そこには、銀の髪の毛と、白と青い服を身につけたメイドがそこにたつ。メイド…十六夜咲夜は、スカートの両端を両手であげて会釈する。スカートを上げた際に、太ももにつけた無数のナイフは、弾幕などでも見たことのある、侵入者撃退のものである。幽香は、傘の向きを、咲夜のほうにと向ける。
「あら?抵抗もないから歓迎されていたのかと思ったわ」
「誰が貴方のような、服のセンスの欠片もないものを歓迎など……」
咲夜は、その両手に、輝くナイフを手の隙間に埋め、構える。
幽香の放った、強力な魔法攻撃に対して、咲夜は光に飲み込まれて消え去る。幽香は、それが彼女が飲み込まれたことではないということを瞬時に悟る。振り返ると、そこには、瞬間的に移動をした咲夜の幾つものナイフが自分にと向けられていた。幽香は、それらを傘で防ぐ。だが、傘でナイフを防いだ反対側……そこには既に、移動をし、低い体勢でしゃがみこんだ状態で、ナイフを構えている咲夜の姿があった。……一瞬、咲夜と幽香の目が合う。
ゾクッ
瞬時にして自らの身体が消されるかと思った……咲夜は、幽香から距離を置き、冷や汗を拭う。彼女は見た目はただの妖怪であることに変わりはない。だが、彼女の禍々しい気配は、妖怪という範疇を超えている。以前に出会った時は、こんなことを感じることはなかったというのに。幽香は、髪の毛を片手で払うと、笑顔で咲夜を見つめる……それは無邪気な子供のように…反面、狂気に満ちた笑み。
咲夜は、能力を用いて、この妖怪を始末にかかる。
この女は……バケモノだ。こんな奴を、お嬢様の元になど近づけさせるものかと…。
「……インフレーションスクウェア」
世界の時間が止まり、咲夜だけが歩める時間が生まれる。
彼女はナイフをばら撒く。
幽香の周りを覆うようにして、彼女に反撃は愚か、回避さえもできないような、上下左右を埋め尽くす。咲夜は止まった懐中時計を見つめ……そして、時は動き出す。
咲夜の目の前で、ナイフが幽香の身体にと突き刺さる。血が、宙を舞い、肉を裂き、刃物が身体に食らいついていく、鈍い音が聞こえる。咲夜は、その凄惨な光景を眺めることはしなかった。勝利と敗者を決めたのは明らか……見る必要はない。たとえ妖怪ではあれ、自分を畏怖させた輩には、本気で挑む。それが……お嬢様を守るための咲夜の仕事。
咲夜の前、刃物が床に落ちる音に、咲夜は顔をあげる。
「面白い技ね?どういう仕組みなのかしら?」
自らに突き刺さったナイフを素手で引き抜いていく幽香。
あれだけあったナイフがすべて床にと落ちている……しかも、どれも草木に絡まれて、咲夜は、幽香を唖然とした表情で眺める。
「あなた……誰?以前とは別人……」
「…クククク、あのときの私が本気で挑んでいたと思っていたのかしら?」
咲夜は、身体に幾つも開いた傷口をそのままにして、血を滴らせる。その床にと落ちた血液からは、無数の植物が現れ始める……それは、どんどん幽香の周りを覆っていく。
紅魔館を空から、大小さまざまな目が開かれる隙間にて眺めている八雲紫は、扇子を口元に当てながら、目を細める。
アレは……ただの妖怪ではない。
妖怪は、長い間生きつづける事で、その力を増す。
妖怪の限られた寿命をさらに超越すれば、それは神に等しいのではないのだろうか。
幻想郷に今年も夏が訪れた。
幻想郷の夏は、とにかく暑い日差しが照りつける日々である。博麗の巫女も、こんな暑い日は、境内の中に閉じこりっぱなしか、気分転換にどこかにでかけてしまうだろう。気分屋の魔女も、泥棒稼業を一旦休止し、涼しい館に避難して、別の魔女の本を読み漁っているだろう……そんな季節だ。
そんな夏も、妖怪にとっては、楽しみがあるものもいる。
夏祭りというものだ。
鬼であり、祭りが楽しみな萃香や、騒ぐ幽霊である三姉妹なんかはこの季節を楽しみにしている。風物詩といっても良いこの夏を満喫したいというのは、人間だけではなく妖怪もそうである。博麗の巫女にとってみればいい迷惑かもしれないが。
幻想郷の吸血鬼が住まう館
紅魔館もまた例外なく、夏が訪れる。
吸血鬼が、暑さに弱いという話は聞いたことがないが、彼女たちも、その暑さにまいりつつあった。
「レーヴァテイン!!!!」
紅魔館の壁を突き破り放たれる、巨大な剣
その轟音と響きを別室にて聞く、この館の主であるレミリア・スカーレットと、そのメイド長である十六夜咲夜。
「おそらくは、妹様が暑さでご乱心なのかと」
「まったく…たかが暑いだけで、しょうがない子ね」
そういうレミリアの近くには冷気を発するチルノがいることに深くは突っ込まない咲夜なのだった……。
だが彼女たちはまだ知らなかった。レミリアの妹であるフランドールの放った一撃が、今回の事件の引金になろうとは……。
紅の月に輝く向日葵の華《前篇》
幻想郷の夜……。
紅魔館の夜……、外には紅い満月が輝いている。
その輝きに照らされる門番、紅美鈴。
彼女が、眠そうにしながら、目をこすっていると、誰かがやってくる。林の影から、満月の光に照らし出された姿……、それは傘を差す少女。美鈴はそれが誰なのかを知っていた。宴会で見たことがあるからである。詳しくは知らないが花を操る妖怪で…。
「なにか御用ですか?」
問いかけた紅美鈴をまえに、傘をあげて、美鈴を見つめる緑の髪の毛を風に靡かせる、風見幽香は、笑顔だった。そして、彼女は告げる。
「この館を潰しに来たわ」
「は?」
思わず、幽香の言葉にポカーンとしてしまう美鈴。
だが、次の瞬間、美鈴の真横から勢いよく風が吹き、それとともに、強烈な殺意の篭った気を感じ取った美鈴は、身体を半歩下げた。美鈴の前を通過したもの…それは、幽香の蹴りであった。幽香は、何の前触れもなく美鈴に強烈な殺意を向けている。
「ちょ、ちょっと待ってください!?私があなたと争う理由が……」
美鈴の動揺に対して、幽香は問答無用といわんばかりに、拳を握り美鈴の顔すれすれのところに撃ちつける。その衝撃は、咲夜の時間操作により、壊れる速度が極端に遅くなっているのにもかかわらず、砕ける。美鈴は、目の前の凶悪な女にどう対処して良いかわからないでいた。
「宣戦布告よ、紅魔館の吸血鬼に対して」
「だから、なんのっ!?むぐぅ!」
美鈴の反論をまえにして、顔を近づけた幽香は、美鈴の唇に自らのものを重ねる。唇の柔らかいものが潰れ合い、それと同時に…互いの豊満な胸の頂が軽く重なることで、2人の服に皺ができる。紅い月の照らし出されるその光景は、あまりにも妖艶である。美鈴は、あまりの突発的な行動に手足をジタバタさせるしかない。幽香は、堪能した後、顔を離す。
「な、なんなんですか!?あなたは!!」
「だから言ったでしょう?これは宣戦布告なのよ」
幽香は、堪能したであろう唇を舌で舐めると、紅美鈴から振り返り身体を離して距離をとる。傘を折りたたむと、その場に捨て……再度、美鈴のほうにと向き直る幽香。彼女の瞳から読み取れる気は、殺意と楽しみというものが読み取れた。
「確か、門番を倒さないと、紅魔館の中にははいれないのよね?」
「だったらなんだっていうんですか?」
幽香はその言葉に口元を歪ませる。
その答えを待っていたとばかりに、彼女は屈伸運動をしたりして準備運動を始める。美鈴は、何でこうなったのか理解不能だったが、紅魔館を潰すと言っている以上、彼女が敵であるということは紛れもない事実である。ならば、ここは自分の役割を優先し、彼女には早々とお引取り願おう。
美鈴は、右足を後ろにさげ、左側面を正面にする。これは、相手に攻撃を与える面を少なくするためだ。攻撃は最大の防御……これが、そのための構えである。美鈴の構え方をみて、幽香は、直立不動……美鈴を嘲笑うかのごとく、そのままの体勢でいる。
対峙する2人。
先ほどまでは唇を奪われていたというのに…今度は一気に戦闘モード。
暫く、美鈴は動けずにいた……相手は直立不動。何も考えていなさそうな構えであるというのに。なぜだろうか……どこを攻撃しても、その手は、足は、すべて封じられてしまいそうだ。先ほどからの自分の気の能力もまったく動いていないように感じられる。焦らされるのがイヤなのか、幽香は、美鈴を見つめて小さく口を開く。
「きなさい……」
「はあああああっ!!」
美鈴は、幽香の言葉とともに、拳を握り締め、それを人間の世界でいう弾丸のような速度で放つ。拳は、幽香の真正面にと放たれたはずなのに、幽香はその手を掻い潜り、下から美鈴の懐に飛び込んできている。美鈴は、それに対して、後ろに引いていた右足を力を込めて前にと蹴り出す。懐に飛び込もうと体勢を低くしていた、幽香の正面に美鈴の膝が目の前に飛び込んでくる。美鈴は膝に、相手のものがぶつかる衝撃を確かに感じた。
「とった!?」
「これからね」
美鈴が自分の下をみたとき、美鈴の膝は、幽香の片手により、つかまれていた。美鈴は、その相手の戦闘のスタイルと、その驚くべき身体能力に声が出ない。自分が最初に拳をだしてから、相手が体勢を低くし、懐に飛び込もうとして、膝をいれようとした、その僅か数十秒を、すべてこちらの動きを上回る行動をしている。
美鈴の真下から、顔を覗かせる幽香…。
その瞳は、先ほどよりも、気が増している……いや、気などで図れるものではない。彼女の気配は、自分が知るものではない。レミリア様には、戦うときにも殺意があるが、そこには気品が感じ取られ、妹様には殺意はなく、純粋な遊び感覚の気がある。だが、彼女は違う……殺意と快楽が一致しているものだ。
空いている手に、力を込める、幽香。
美鈴は、両腕で、相手の攻撃を防ごうとするが、腹部に強い衝撃が走ると、そのまま、目の前の光景が霞む。全身に力がはいらなくなり、そのまま、意識が遠のく。このままではいけないと思ったところで…身体が言うことを効かない。
「……無理する必要はないわ、美鈴。どうせ、ここの主はもうすぐかわるわけだしね」
幽香の腕に覆いかぶさるようにして、気を失う美鈴。
幽香は腕にかかる、美鈴をその場に転ばせて、美鈴につげ、彼女は紅い月の輝きの中、門を潜る。紅魔館の庭園を悠々と日傘を差しながら歩いていく。
「……魔理沙?」
図書館にて、本を読み漁っている間に眠ってしまっていた魔理沙を揺り起こすパチュリー。魔理沙は涎を拭きながら、身体を起こす。暑さから逃れて、心地よい安眠を妨害されたのはあまり良い気分とはいえないわけだが。
「魔理沙、彼女は?」
パチュリーの見つめる水晶に映し出されたのは、気分良く、鼻歌交じりに歩いている幽香の姿である。魔理沙は寝ぼけながら、金髪の頭をかきつつ
「あぁ、幽香だ。幽香。花の妖怪の変な奴だよ」
「……変、そう、変ね」
魔理沙はそういって再び机の上で、顔をうつ伏せにして眠りだす。パチュリーは、そんな魔理沙を放って、立ち上がると、この館の主であるものに会いにと向う。この水晶に写るものは……並外れた能力の持ち主である。美鈴をいとも簡単に、赤子をあやすかのように、彼女の得意の肉弾戦で打ち負かしてしまうのだから。
館の扉が壊され、入ってくる幽香。
幽香は、その広い館を見渡す。
正面には、階段があり、高級そうな、装飾品と絵画が飾られている。赤い絨毯がしかれて、上にはシャンデリラが彩られ、立派な館であることがよくわかる。幽香は、それらを見つめながら、気に食わない表情で、傘を握ると、その場で広げる。幽香は、歯を見せて声にならない笑い声をあげると開かれた傘の中心に光を集める。
「随分と、荒々しい侵入者ですね」
その声の放たれた方角を見る、幽香。
そこには、銀の髪の毛と、白と青い服を身につけたメイドがそこにたつ。メイド…十六夜咲夜は、スカートの両端を両手であげて会釈する。スカートを上げた際に、太ももにつけた無数のナイフは、弾幕などでも見たことのある、侵入者撃退のものである。幽香は、傘の向きを、咲夜のほうにと向ける。
「あら?抵抗もないから歓迎されていたのかと思ったわ」
「誰が貴方のような、服のセンスの欠片もないものを歓迎など……」
咲夜は、その両手に、輝くナイフを手の隙間に埋め、構える。
幽香の放った、強力な魔法攻撃に対して、咲夜は光に飲み込まれて消え去る。幽香は、それが彼女が飲み込まれたことではないということを瞬時に悟る。振り返ると、そこには、瞬間的に移動をした咲夜の幾つものナイフが自分にと向けられていた。幽香は、それらを傘で防ぐ。だが、傘でナイフを防いだ反対側……そこには既に、移動をし、低い体勢でしゃがみこんだ状態で、ナイフを構えている咲夜の姿があった。……一瞬、咲夜と幽香の目が合う。
ゾクッ
瞬時にして自らの身体が消されるかと思った……咲夜は、幽香から距離を置き、冷や汗を拭う。彼女は見た目はただの妖怪であることに変わりはない。だが、彼女の禍々しい気配は、妖怪という範疇を超えている。以前に出会った時は、こんなことを感じることはなかったというのに。幽香は、髪の毛を片手で払うと、笑顔で咲夜を見つめる……それは無邪気な子供のように…反面、狂気に満ちた笑み。
咲夜は、能力を用いて、この妖怪を始末にかかる。
この女は……バケモノだ。こんな奴を、お嬢様の元になど近づけさせるものかと…。
「……インフレーションスクウェア」
世界の時間が止まり、咲夜だけが歩める時間が生まれる。
彼女はナイフをばら撒く。
幽香の周りを覆うようにして、彼女に反撃は愚か、回避さえもできないような、上下左右を埋め尽くす。咲夜は止まった懐中時計を見つめ……そして、時は動き出す。
咲夜の目の前で、ナイフが幽香の身体にと突き刺さる。血が、宙を舞い、肉を裂き、刃物が身体に食らいついていく、鈍い音が聞こえる。咲夜は、その凄惨な光景を眺めることはしなかった。勝利と敗者を決めたのは明らか……見る必要はない。たとえ妖怪ではあれ、自分を畏怖させた輩には、本気で挑む。それが……お嬢様を守るための咲夜の仕事。
咲夜の前、刃物が床に落ちる音に、咲夜は顔をあげる。
「面白い技ね?どういう仕組みなのかしら?」
自らに突き刺さったナイフを素手で引き抜いていく幽香。
あれだけあったナイフがすべて床にと落ちている……しかも、どれも草木に絡まれて、咲夜は、幽香を唖然とした表情で眺める。
「あなた……誰?以前とは別人……」
「…クククク、あのときの私が本気で挑んでいたと思っていたのかしら?」
咲夜は、身体に幾つも開いた傷口をそのままにして、血を滴らせる。その床にと落ちた血液からは、無数の植物が現れ始める……それは、どんどん幽香の周りを覆っていく。
紅魔館を空から、大小さまざまな目が開かれる隙間にて眺めている八雲紫は、扇子を口元に当てながら、目を細める。
アレは……ただの妖怪ではない。
妖怪は、長い間生きつづける事で、その力を増す。
妖怪の限られた寿命をさらに超越すれば、それは神に等しいのではないのだろうか。
戦闘もこれからどんな展開を見せてくれるのか、続きを楽しみにしています。
ただ、少し気になる点としては『、』が多いかなと思いました。