※作品集77の「紅がいるのといないのと ~上海紅茶館は博麗神社なのか?~」の設定を
少しだけ引きずってますが続編ではないので読まなくても全然大丈夫です。
紅魔館の門番隊は基本的にのんびりしている。
門前に構えるのは紅魔館門番隊の隊長である美鈴のみ。
残りは詰所でぐーたらと敵襲を待っている。
部下に任せればいいのにとよく言われるが、美鈴が好きでやっていることなので文句は言えまい。
門前で構えているというよりは、ボーっと流れている雲を眺めたり、木陰で眠ったりと、
ようするにぐーたらする場所が違うだけである。
今日は日の光がまぶしい洗濯日和。
この紅魔館の主はさぞかし不機嫌なことだろう。
例によって正門前には大きな欠伸をしつつ伸びをする門番隊隊長の姿があった。
「んー…いい天気だなー。今日もよく眠れそう」
仕事中寝ることが前提なのはご愛嬌。
今日も門番隊の勤務が始まる。
門番と言えば次々とやってくる敵を追い払う仕事という印象もあるが最近はスカーレットに楯突こうとする無謀な輩は滅多になく、もはや接客業に近い。
おっと、早速来訪者がやってきたようだ。
「やほー!めーりん元気ぃ?」
「こんにちはー」
やたらテンションの高いチルノとなんとなくほんわかしているルーミアがふわふわと森のほうから飛んできた。
「あ、チルノちゃんにルーミアちゃん。こんにちは」
2人の挨拶に美鈴も笑顔で手を振って答える。
ほぼ一日中正門にいる美鈴は近くの湖や森に住む妖精や妖怪のいい遊び相手でもある。
このチルノとルーミアもその一員。
基本的に敵襲がない間は暇な美鈴にとってもいい話し(遊び)相手だ。
門番の業は基本的に正門から離れなければ成立するので、誰かと話すくらいまでなら悪いことではない。
「そんでねーでっかい蛙の親玉が出てきたからあたいのパーフェクトフリーズでドカーンってやっつけてやったのよ!」
「そーなのかー」
いつものように武勇伝を全身を使って熱弁するチルノと美鈴の横にちょこんと座りこんで聞いているルーミア。
その武勇伝がどこまで真実なのかは定かではないが、美鈴もチルノの話を笑って聞いている。
それが今現在の正門の様子。
美鈴が仕切る門番隊の詰所は紅魔館の正門を入ってすぐ左に位置する。
その建物は大きめの窓から正門の様子を見ることが出来るようになっていて、そこから正門に異常がないかを見張るのは一般隊員の仕事だ。
その仕事が割り当てられるのは一度に2人で、一日交代制。
割り当てられた者のほとんどは一日中正門前で美鈴が寝たり体操したリ、こんな感じに誰かと会話しているところを眺めることになる。
たまに来る敵意のある妖怪も美鈴があっさり追い返してしまうのでガチでやることがない役回りだ。
この仕事は『監視役』もしくは『副番』と呼ばれるが、隊員達の間では『隊長観察係』とまで呼ばれている。
今日割り当てられた2人組もまた、暇そうに正門にいる3人の様子を肘をついて眺めていた。
「あの子達いつも来てますね」
「いいなー。隊長には暇潰しの相手がいて」
一見無意味に見えるこのポジションは美鈴の手に負えない強力な相手、もしくは1人では押さえきれないほどの大群が襲ってきた時に
詰所内の仲間に伝え、迎え撃つ体勢を整える役目なので万が一のために外したくても外せない役目だ。
それでもやはりそんなことは滅多にないので、こんな感じにパートナーと雑談でもして暇を潰すしかない。
「ああ見えて弾幕ではかなりの実力者なのよねー。あの小さい2人」
「え、そうなんですか?」
「青い服の子は妖精の中でも間違いなく最強クラスね。黒い服の子も結構な上級妖怪のはずよ」
「へー。すごいんですね」
チルノとルーミアも一般階級の妖精や妖怪から見れば大きな力の持ち主なのである。
実力だけなら間違いなく紅魔館でいう隊長クラスだろう。そう、実力だけなら。
「ちょっと性格が子供すぎるからウチの戦力としての勧誘はしないんだけどね」
「メイドはともかく、力さえあれば門番隊員は勤まりそうじゃないですか?」
「……アンタこの仕事どれくらいやってんの?」
「先週入ったばかりです。あ、監視役を割り当てられたのは今日が初めてです」
「門番だって頭使うでしょ。顔パスで通していい人物のリストやら門番隊のマニュアルやら全部頭に入れなきゃいけないし」
「でもリストに載ってるの2、3人しかいませんし……マニュアルも紙一枚に『健全な精神は健全な肉体に宿る』って達筆で書いてあるだけじゃ……」
「……うるさい」
「え、いや…あの…ごめんなさい」
門番隊は体育会系の実戦派、肉体労働担当の者が集まるので多少脳みそがアレでも仕方ない。
ちなみにマニュアルの文字は美鈴の直筆である。
紅魔館門番隊に入隊した者にはもれなく配布されている。
「そんじゃまたねー!」
「ばいばーい」
「チルノちゃんルーミアちゃん、また来てねー」
30分ほど話してチルノとルーミアは帰っていった。
2人を見送った後、やることがなくなった美鈴はいつものように昼寝を始めてしまった。
美鈴を真似て昼寝をしたいのは山々な隊員2人だが、立場上そういうわけにもいかない。
ここからは美鈴が昼寝している様を眺め続けるしかない。
(何も起こらず1時間経過)
美鈴は相変わらず眠っている。
詰所にいる隊員2名はというと
「……暇ですねー」
「暇ねー……」
とまぁこんな感じにダラダラとしている。
いかなる時も目を離すことが出来ないのがこの監視役の辛いところだ。
もし持ち場を離れようものなら職務放棄と見なされメイド長のキツーいお仕置きが待っている。
2人にできることは職務をまっとうすることのみ。
「ん?誰か来たみたい」
「あ、本当だ」
欠伸混じりに2人が正門に目を向けると紅白の独特な型の巫女装束を身に纏った少女が美鈴に歩み寄っているのが見えた。
長い黒髪を大きな赤いリボンで纏めているその少女は門前で胡坐をかいて寝ている美鈴に近づくなり
「門番が寝てんじゃないわよ」
と言って美鈴の頭をビシッとひっぱたいた。
「あいたっ」
驚いて目を覚ます美鈴。
「……ああ、こんにちは霊夢さん」
目を擦りながらにへらと笑って挨拶をする美鈴に呆れたように霊夢が答える。
「こんにちは、じゃないでしょ。アンタ仮にも門番なんだからせめて起きてなさいよ」
客に叱られる門番。よく考えると妙な光景だ。
「いやぁ、こう天気がいいとつい……」
「つい、じゃないでしょ。私が敵だったらアンタ死んでたわよ」
「あ、いえ。明らかな敵意や殺意は寝ていても気で読み取れますから」
「……なんか都合のいい能力ね」
「あはは。そうですね」
「そうですねってアンタ……まぁいいわ。レミリアに呼ばれてるの。通るわよ」
「はい、話は聞いています。どうぞごゆっくり」
霊夢は顔パスで通すようにレミリアからの許可が下りているので、他の者のようにイチイチ入館許可をもらう必要はない。
顔パスで通していい人物リストに載っている2、3人の中の一人は霊夢だったのだ。
「ああそうだ。美鈴」
館の入り口に向かおうとした霊夢が足を止めた。
「何ですか?」
「これ、アンタに差し入れ」
包みから取り出した『香霖饅頭』と書かれた箱を美鈴に差し出す。
「え、私にですか?」
「ええ。アンタ好きだったでしょ?このお饅頭」
「ありがとうございます!」
「それじゃあね。もう寝るんじゃないわよ」
「はーい。ごゆっくりぃ♪」
嬉しそうに片方の手で貰った箱を抱えてもう片方の手を霊夢に向かって大きく振る。
「隊長をひっぱたくなんて、あの人すごいんですね」
「覚えておいたほうがいいわ。アレが13代目博麗の巫女、博麗霊夢よ。美鈴隊長、パチュリー様、メイド長、そしてお嬢様をも破った相手」
「そ、そんな人が何故ここに来るんですか?まさか紅魔館を潰しに来たんじゃ……」
「いや、なんかお嬢様がやたら気に入っちゃったみたいで今日もお嬢様が招いたそうよ」
「へー……お嬢様ってよくわからないですね」
妖精から見てもレミリアは変わり者らしい。
「でもお嬢様のお客さんが何で隊長に差し入れなんて持ってくるんですか?」
「この前休暇とった時に隊長は博麗神社に行ったんだけど、その時何かあったんじゃない?それまであの人間と隊長はそんなに仲良くなかったはずだし」
「何があったんですかね」
「フフフ……詳しいことを知りたければ前作を読むのよ」
「前作?」
「いえ、何でもないわ。今のはアンタに言ったんじゃないの」
「はぁ?」
宣伝乙。
(何も起こらず1時間経過)
「ほんっと暇ですねー……」
「ほんっとそうねー……」
「……先輩」
「何よ?」
「なんか隊長が騒いでるんですけど、アレ何をやってるんでしょう?」
すっかり饅頭をたいらげ、満腹そうにしていた美鈴が突然正門の外の方角の空を見上げながら何やら騒ぎ始めた。
「ちょっ、ストップストップ!止まってくださーい!」
大きく両手を振って空に向かって訴えているその様子から察するに、誰かの侵入をを止めようとしているようだ。
それにしても随分必死に見える。
「……ああ、今日も来たみたいね」
「来たって誰が?」
「それは……」
先輩隊員が言いかけた次の瞬間、窓の外がピカッと光った。
「!?」
その眩しさに思わず手で顔を隠す後輩隊員。
ー 恋符・マスタースパーク ー
館を揺るがす大きな炸裂音とともに空から巨大な閃光が迸り、それが美鈴を飲み込んだ。
「ぅきゃああああああああああああああ!」
ピチューン
視界の全てが光に覆われ轟音の中で美鈴の悲鳴が響き渡る。
「!?!?」
何が起きたか分からず混乱する後輩隊員。
気付けば最初に美鈴がいた場所はクレーターのように地面が抉れ、その真ん中に美鈴が黒焦げになって倒れていた。
ピクピクと動いてるところを見ると一応生きてはいるようだ。
「あぅぅ……」
「おうおう相変わらず頑丈なヤツだな。私も遠慮なしにぶっ放せるってもんだ」
箒に跨ったいかにも魔法使いっぽい黒白の装束を着た金髪の少女が、吹き飛ばされてぐったりとした美鈴の前に降り立った。
少女は大きなリボンの付いた黒い帽子を人差し指でクイッと上げて、にかっと笑う。
「よう美鈴。通らせてもらうぜ」
「ま、魔理沙さん……たまには普通に入館許可取ってくださいよぉ……」
「そういうのは私の性に合わないんでな」
後ろでに手をひらひらと振りながら魔理沙は館の入り口の方に歩いていった。
今日も図書館に行くのだろう。
手にはしっかりと借りた(パクった)本を詰めるための大きな袋が握られている。
「あ、あの隊長が一瞬で真っ黒焦げに……」
「何言ってんの。いつものことじゃない」
「いえ、初見です……」
「……ああ、そういえば今週は初めてだっけ」
「いつものことなんですか?あれが?」
「ええ。あの黒いのは霧雨魔理沙。あの妹様を破った相手よ」
「私、妹様にお会いさせてもらったことないんですけど、妹様を倒すのってそんなにすごいんですか?」
「妹様は強いなんてもんじゃないわ。単純な攻撃力だけで言えば幻想郷一かもね」
「げ、幻想郷一……って言われても凄すぎてピンときませんね」
そのへんは現界のニュースで500億円とか1兆円という莫大な予算やら赤字やらの金額を言われてもピンとこないのと同じようなものだ。
「そうよねー。あたしら所詮名前もない雑魚妖精だしねー」
「え?私名前あるんですけど……というか先輩もちゃんと名前あるじゃないですか」
「まぁゲーム的用語で言えば妖精メイドA、Bってとこかしらね」
「ゲーム的用語?先輩さっきから何言ってるんですか?」
「知らないほうが幸せよ」
「? ……よく分からないですけど、魔理沙さんは何でいつもあんなことしてるんですか?」
「知らない。隊長が遊ばれてるだけなんじゃないかしら」
「あんなことしてお嬢様は何らかのアクションは起こさないんですか?」
「もう当たり前のことすぎて放置してるみたい。止めても無駄だからあれは敵襲の内にカウントしなくていいとの命令よ」
「そんな滅茶苦茶な……」
「その滅茶苦茶がまかり通るのが幻想郷なのよ」
美鈴が不憫な気もするが、その言葉には妙に説得力があるから不思議だ。
まぁこのまま門番隊員達が総力を上げて美鈴の援護に向かったとしても怪我人が増えるだけなのは目に見えている。
理不尽ではあるが仕方ない。
(何も起こらず1時間経過)
「あ”ー…ガチで暇ねー……」
「ガチで暇ですねー……あれ?先輩、あそこの木陰にいるのってメイド長じゃないですか?」
「んー?……ああ、この時間になるといつもあんな感じよ」
「あんな感じって……何やってるんですかアレ?」
2人の視線の先には木陰から美鈴をチラチラ見て顔を赤くしたり青くしたりしている咲夜の姿があった。
一人で何やらブツブツ言っていてちょっと不気味だ。
「あれは隊長に差し入れのおやつを渡そうとしてるのよ」
「はぁ?差し入れ渡すのに何であんなコソコソする必要があるんですか?普通に渡せば……」
「メイド長にそれができれば誰も苦労しないんだけどねぇ……」
「どういう意味ですか?」
「まぁなんというか……愛ってやつよ」
「……ああ、なるほど」
「お、やっと行ったみたいね」
気がつけば咲夜の姿が木陰からいつのまにか魔理沙の奇襲攻撃のダメージを回復している美鈴の前へと移動していた。
時を止めて間合いを詰めたのだろう。
普通に堂々と近づけばいいのに……と思うだろうが、それができたら苦労しないのだ。
それが愛やら恋ってやつの難しさだ。
まぁ咲夜の場合それが過剰すぎる気もするが。
「あの、美鈴……こ、これ食べて」
ほぼ毎日こんな感じに「お嬢様の食べ残しの処理」という名目で差し入れを持ってくる咲夜だが、毎回持ってくる食べ物はどう見ても作りたてのホカホカだ。
紅魔館の従者のほとんどがそのことに気づいているのだが美鈴は全く気づいていない。
今日の差し入れのパンケーキも例に漏れずにどう見ても焼きたてだった。
「あ、咲夜さん。差し入れですか?いつもありがとうございます」
「べ、別に。ただ残り物を持ってきてるだけなんだから」
「いつも思うんですけど残り物のわりには形が綺麗ですね」
「え?いや、それはその……ホラ、お嬢様は少食だから」
「ああ、なるほど」
咲夜の苦しい言い訳にポン、と手を叩いて納得する美鈴。
少食とはいえ一口も手をつけないのは少しおかしい気もするが美鈴の素直さに救われた。
「そ、それより美鈴。さっき魔理沙の攻撃受けてたでしょ?怪我はない?」
「……大した怪我はありません。情けないところを見られちゃいましたね」
苦笑いを浮かべる美鈴。
門番にとって侵入を許すということはこれ以上ない屈辱、失態だ。
皆軽いノリで流しているが、実のところ美鈴自身は気にしていたのだ。
美鈴が気にしているのは自分が痛みを受けることではなく、大好きな館を自分の力で護りきれないこと。
のほほんとしている美鈴も、やはりプライドや誇りは持っているのである。
「情けなくなんかないわよ。相手が相手だもの」
弾幕ごっこにおいて魔理沙は破壊の力を司るフランドールを力でねじ伏せるほどの実力者だ。
咲夜も魔理沙に奇襲攻撃を仕掛けられて勝てるのかと言われれば即答はできない。
それを除いても、当の魔理沙は(図書館を除く)館の内部を荒らすわけでもなく、主のレミリアに害が及んでいるワケでもないのでメイド長である
咲夜が怒るような理由はもはや無いと言っても過言ではない。
「それにパチュリー様もまんざらでもないみたいだし、魔理沙の件に関しては誰も貴女を責めたりしないわ」
「そう言ってもらえると嬉しいですけどやはり門番としては……」
「過ぎたことはもういいのよ。これ食べて元気出しなさい。貴女は紅魔館の顔でもあるんだから」
「……はい。それではいただきます」
咲夜の差し出している皿の上に切り分けられているパンケーキを一切れ掴んで口に運ぶ。
「ど、どう?おいしい?」
恐る恐る尋ねる咲夜に若干暗く、真剣な表情だった美鈴もニコっと笑った。
「いつも通りおいしいですよ」
「そう…ありがと」
その返事にホッとしたような表情を浮かべる咲夜。
そんな様子を詰所から見ている隊員は咲夜へのダメ出しをしている最中だった。
「ダメよメイド長。そこは『いつも以上においしいって言ってくれなきゃいやん』って甘えなきゃ」
「……それはキャラ変わりすぎじゃないですか?」
「それくらいしなきゃ何百年経っても隊長との距離は縮まらないわよ。隊長の鈍さは異常なんてレベルじゃないんだから」
『気を使う程度の能力』を持つ美鈴もそういう方面には気を使えないらしい。
2人の仲が煮え切らない原因の内、2割は咲夜の慎重さ、8割は美鈴の能天気さにあると先輩隊員は語る。
たまに炸裂する咲夜の渾身のアタックも美鈴の持つ超ド級天然パワーの前に無に帰してしまうのだ。
「それから隊長がちょっと困った感じに『いつも以上においしいですよ』って言ったら今度は『じゃあいつもはおいしくないの?』と
上目遣い且つ涙目で言う。そして隊長が困ってあたふたしてる隙をついて『お仕置き』と言って不意打ちのキスをかます。
これぞ王道パターンよ!」
「へぇ……」
グッと一人でガッツポーズをして興奮する先輩に冷めた目線を送る後輩隊員。
どこのバカップルだそれ。
まだまだ先輩隊員の熱弁は続く。
「そして呆然とする隊長に向かって顔を赤らめつつ『べーっ』とお茶目っぽく肩越しに舌を出して女の子走りで走り去る。
これでフラグは確立し、そのまま2人は夜のバットでホームラン……」
「もういいですよ。夜のバットでホームランってアンタどこのオヤジですか。それに隊長にもメイド長にも夜のバットはないと思いますけど」
「そんなことはどうでもいいのよ。
この場合『H.N.美鈴は夜のバットでホームランなのか?』。それとも『I.Y.咲夜は夜のバットでホームランなのか?』と、
そのどっちにタイトル付けするかによって個人の趣味は別れてくるのよ。さぁ、アナタはどっち?」
「ごめんなさい。全くをもって意味が分かりません」
「私の答えは『どっちもあり』よ」
「妄想も下ネタも大概にしてくださいよ」
溜め息をついて後輩隊員はアホな先輩の発言はほっといて窓の外の2人に再び目を向ける。
「咲夜さん、少し顔赤くないですか」
「え……ひゃっ!?」
いきなり互いの吐息の感じられるところまで顔を近づけられ肩をビクッとさせてしまう咲夜。
どこを見ていいのか分からず目が宙を泳ぎ、心臓の鼓動が高鳴る。
「やっぱり赤いですね。それに息も少し乱れてます」
「そそそんなこと……」
咲夜の頬がみるみるうちに赤く染まる。
口をパクパク動かしているが上手くしゃべれていない。
「呂律も怪しいですね。ちょっと失礼します」
「~~~っ!!?」
美鈴が自分の額を咲夜の額に当てて熱を確かめる。
その瞬間、咲夜の頭からボフッと煙が出る……のではないかと思うほど顔が真っ赤に染まった。
「少し熱いですよ……ってあれ?咲夜さん?」
額の熱を感じ取った次の瞬間には既に咲夜の姿は無かった。
美鈴との至近距離に耐え切れず時を止めてどこかへ逃げてしまったのだろう。
何故咲夜がそんなことをしたのかは美鈴にはイマイチ分からなかったようだ。
「……咲夜さん疲れてるのかな。今度休むように言わなきゃ。昔から無理するところあるからなぁ」
ウブすぎる咲夜も咲夜だが、常にこんな調子で自分に向けられた好意に気付かない美鈴も美鈴だ。
毎日のようにこんな煮え切らない生殺しのような会話を見せられる身にもなってほしいという声も紅魔館内で最近聞こえ始めたのは秘密の方向で。
「……隊長も罪な人ですね。いろんな意味で」
「まったくだわ。でも隊長って見た目綺麗だし時々カッコいいし、メイド長の気持ちも分からないでもないわよね」
「うーん。確かに隊長もいいですけど私はメイド長派ですね。あの凛とした雰囲気に憧れちゃうなぁ」
「……でもまぁ、名前もない私達の趣味なんて読者はどうでもいいんだろうけどねぇ……」
「読者?先輩またワケの分からないことを……それに名前ありますってば」
「うるさいうるさい!私だって知りたくなかったわよ!自分が脇役なんて現実はね!」
「痛っ!ちょ、先輩何で怒ってるんですか!?何で泣いてるんですか!?それに脇役って何……痛い痛いっ!」
(少女八つ当たり中)
「……落ち着きましたか?」
「ゼェゼェ……ええ、少しは……」
「さっきから一体何なんですか?意味の分からないこと言ったり急に怒り出したり……」
「そうよね。これから頑張ればきっと次回作の1面中ボスくらいには……ブツブツ」
「……先輩、話聞いてます?」
(その後結局何も起こらず)
すっかり辺りも暗くなり月が紅魔館を囲む湖に美しく映りこんでいて、耳を澄ませば夜雀の歌声が聞こえる。
騒がしかった従者達も寝床に就き、美鈴も仲間と仕事を交代して館内の自室に帰っていった。
監視役の2人組も勤務終了時刻を迎えた。
「あー……終わった終わったぁ」
「先輩、お疲れ様です」
「ええ。アンタもね」
2人そろって椅子から立ち上がり伸びをする。
ほぼ一日中椅子に座って正門を眺めていたので体中の関節からコキコキという音が鳴った。
暇なことに定評のある監視役を終えた2人の今日一日の感想はというと
「間は長かったですけど……意外と飽きませんでしたね。隊長観察」
「……うん。まぁ意外と飽きないのよね。隊長観察」
退屈なのに何故か飽きない
監視役専門門番隊員 募集中
お問い合わせは紅魔館メイド長、十六夜咲夜まで
ウブな咲夜さんとちょっと鈍い美鈴の関係や妖精メイド側の
そんな二人にたいする会話など面白かったです。
誤字の報告です。
>「~~魔理沙の件に関しては誰も貴女を攻めたりしないわ」
『責めたり』ではないでしょうか?
他に指摘していただく点があれば、できるだけ早く直したいと思います
不覚にも爆笑してしまったww
霖之助と違って天然旗折には為ってほしくは無いなあw
脇役「であるはず」の妖精二人が主役っていうのが
新しい展開でいい感じでした('◇')ゞ
次回も頑張ってくださーい
門番も捨てたもんじゃないんですね!(何
自分も何か書いてみたい。
あなたの描く妖精さんがおっそろしいまでに魅力的なのですがどうしたらいいのでしょう?先輩さん同意するぜ>『どっちもあり』
あ、咲夜さん!私が是非そのお役目務め果たして見せましょう!
紅髪のあの娘は~初恋の人~