博麗霊夢は、幻想郷において名の知れた巫女である。
数多の異変を解決した実績を持つものの、彼女が有名なのはそれのせいだけではない。
そもそもそれだけでは生きていけないだろう。
幻想郷の異変を解決するたびに、しばらく遊んでいられるような物を得るというわけではない。
だから食べていくために、仕事のようなものがある。
妖怪退治。
里の依頼を受けて危険そうな妖怪を退治するという、実にシンプルな仕事である。
ただ退治といっても、血みどろの殺し合いというわけではない。
そもそも霊夢の使う道具の中で殺傷能力があるものは実は少なかったりする。
一番高いのは封魔針だろうか。
それにしたって、決して妖怪を殺すための物ではない。
読んで字のごとく、魔を封ずる針なのだ。
『刺す』のではなく『縫い付ける』という感覚に近い。
全ては封印のための道具なのだ。
「里からの依頼で、あんたを退治しに来たんだけど」
そして今、霊夢はその妖怪退治の依頼を受けている。
相対するは大柄な妖怪。
すでに年老いた妖怪。
「おうおう。とうとう儂の退治が依頼されるようになったんかあ」
しかし妖怪に緊張感はない。
巫女が自分を退治に来たというのに、どこまでも自然体でいる。
「これでも昔は弱っっちくてのう。よぉからかわれとったんじゃがのぉ」
「ふーん」
過去を想う老妖怪に、霊夢の対応はかわらない。
「それで、退治されてくれるの?」
それに老妖怪は、どこか清々しさをもって応える。
「どうせなら封印がええなぁ」
「封印?」
訝しげに目を細める霊夢と、何かを悟ったような老妖怪。
「まだまだ弱かった頃なあ。里の子供らと、よう遊んどったんや。できれば、それを夢に見ながら眠りたい」
「そう」
老妖怪の申し出に、霊夢は一言で応える。
肯定的なニュアンスが含まれたその言葉に、老妖怪は満足そうに頷いた。
ただ同時に、少し申し訳なさそうでもあった。
「すまんなあ、巫女さん。ほな、これ持っていってや」
老妖怪は、髪を一房切ってよこす。退治の証として。
それに対し霊夢は何も返さない。
ただ、封印でもって応えるのみ。
夢を想って封ぜられるべし
「ありがとうございます、巫女様」
里に戻った霊夢が老妖怪から受け取った髪を渡すと、里長はそう言って頭を下げた。
「それと、こんな役目ばかり押し付けてしまって、申し訳ありません」
「何? 妖怪退治は巫女の仕事じゃない」
里長が皺だらけの顔をあげて霊夢を見る。
しかし霊夢は普段通り。有るように在るのみだ。
「本当に、なんと言っていいか」
「だから、そういう仕事なんだって」
里長の言葉には、霊夢に対する申し訳なさと、それ以上に心配する気持ちが込められていた。
それを突っぱねる霊夢と合わせて、年頃の孫に戸惑う老人のような様子だった。
「それじゃ、帰るわ」
「お気をつけて」
里を歩けば、様々な視線が霊夢に降り注ぐ。
老人たちは孫を見るような、優しく温かい視線。
ただその中に、妖怪退治という役割を押し付けていることへの申し訳なさが幾分か含まれている。
子供たちはヒーローを見るような、輝いた視線を送っている。
強い妖怪を平然と退治する霊夢が憧れの対象になるのは、ある意味当然のことでもある。
そして、そのどちらでもない者たちは、霊夢に対し懐疑の眼差しを送る。
本当の意味での妖怪の怖さを知った者は、それを退治してしまう霊夢に恐怖にも似た感情を覚える。
妖怪の怖さをよく知らず、妖怪を見下している者は、退治するたびに報酬を受け取る霊夢に疑念を抱く。
「あ、お茶っ葉きれてたんだっけ」
そして、そんな多くの視線を受けても、霊夢は微動だにしない。
「すいませーん。お茶下さーい」
周りの空気を気にして、周りに合わせることなどない。
どこまでも彼女らしく、在るがままに生きている。
浮いていると言ってしまえばそこまでだが、そこには確かに彼女だけの魅力が存在していた。
それは多くの妖怪達を虜にする、夢のようなもの。
あるいは霊夢という名の夢に触れている時点で、その妖怪たちはもう封ぜられているのかもしれない。
数多の異変を解決した実績を持つものの、彼女が有名なのはそれのせいだけではない。
そもそもそれだけでは生きていけないだろう。
幻想郷の異変を解決するたびに、しばらく遊んでいられるような物を得るというわけではない。
だから食べていくために、仕事のようなものがある。
妖怪退治。
里の依頼を受けて危険そうな妖怪を退治するという、実にシンプルな仕事である。
ただ退治といっても、血みどろの殺し合いというわけではない。
そもそも霊夢の使う道具の中で殺傷能力があるものは実は少なかったりする。
一番高いのは封魔針だろうか。
それにしたって、決して妖怪を殺すための物ではない。
読んで字のごとく、魔を封ずる針なのだ。
『刺す』のではなく『縫い付ける』という感覚に近い。
全ては封印のための道具なのだ。
「里からの依頼で、あんたを退治しに来たんだけど」
そして今、霊夢はその妖怪退治の依頼を受けている。
相対するは大柄な妖怪。
すでに年老いた妖怪。
「おうおう。とうとう儂の退治が依頼されるようになったんかあ」
しかし妖怪に緊張感はない。
巫女が自分を退治に来たというのに、どこまでも自然体でいる。
「これでも昔は弱っっちくてのう。よぉからかわれとったんじゃがのぉ」
「ふーん」
過去を想う老妖怪に、霊夢の対応はかわらない。
「それで、退治されてくれるの?」
それに老妖怪は、どこか清々しさをもって応える。
「どうせなら封印がええなぁ」
「封印?」
訝しげに目を細める霊夢と、何かを悟ったような老妖怪。
「まだまだ弱かった頃なあ。里の子供らと、よう遊んどったんや。できれば、それを夢に見ながら眠りたい」
「そう」
老妖怪の申し出に、霊夢は一言で応える。
肯定的なニュアンスが含まれたその言葉に、老妖怪は満足そうに頷いた。
ただ同時に、少し申し訳なさそうでもあった。
「すまんなあ、巫女さん。ほな、これ持っていってや」
老妖怪は、髪を一房切ってよこす。退治の証として。
それに対し霊夢は何も返さない。
ただ、封印でもって応えるのみ。
夢を想って封ぜられるべし
「ありがとうございます、巫女様」
里に戻った霊夢が老妖怪から受け取った髪を渡すと、里長はそう言って頭を下げた。
「それと、こんな役目ばかり押し付けてしまって、申し訳ありません」
「何? 妖怪退治は巫女の仕事じゃない」
里長が皺だらけの顔をあげて霊夢を見る。
しかし霊夢は普段通り。有るように在るのみだ。
「本当に、なんと言っていいか」
「だから、そういう仕事なんだって」
里長の言葉には、霊夢に対する申し訳なさと、それ以上に心配する気持ちが込められていた。
それを突っぱねる霊夢と合わせて、年頃の孫に戸惑う老人のような様子だった。
「それじゃ、帰るわ」
「お気をつけて」
里を歩けば、様々な視線が霊夢に降り注ぐ。
老人たちは孫を見るような、優しく温かい視線。
ただその中に、妖怪退治という役割を押し付けていることへの申し訳なさが幾分か含まれている。
子供たちはヒーローを見るような、輝いた視線を送っている。
強い妖怪を平然と退治する霊夢が憧れの対象になるのは、ある意味当然のことでもある。
そして、そのどちらでもない者たちは、霊夢に対し懐疑の眼差しを送る。
本当の意味での妖怪の怖さを知った者は、それを退治してしまう霊夢に恐怖にも似た感情を覚える。
妖怪の怖さをよく知らず、妖怪を見下している者は、退治するたびに報酬を受け取る霊夢に疑念を抱く。
「あ、お茶っ葉きれてたんだっけ」
そして、そんな多くの視線を受けても、霊夢は微動だにしない。
「すいませーん。お茶下さーい」
周りの空気を気にして、周りに合わせることなどない。
どこまでも彼女らしく、在るがままに生きている。
浮いていると言ってしまえばそこまでだが、そこには確かに彼女だけの魅力が存在していた。
それは多くの妖怪達を虜にする、夢のようなもの。
あるいは霊夢という名の夢に触れている時点で、その妖怪たちはもう封ぜられているのかもしれない。
なんか霊夢らしいなという感じでした