0
ふぁあ、おはようございます。パチュリー様……って、やっぱり今の時間は寝室にいますよね。
んんー、あれ? なんでしょう、これ。チョコレート?
お、ひょっとして、パチュリー様の手づくりだったりして。もーう、まだ二月には早過ぎですよぉ。ふふっ。
一口サイズのものが四つ、ですか。一つくらい頂いても、平気ですよね。
……ん、んっ、うん。これは甘い。非常に甘い。
パチュリー様も、これくらい甘ければいいんですけどね。
っと、今日もお仕事始めましょうか。けれど、今日は朝早くから起きちゃいましたし、散歩でもしてこようかしら。
1
清々しい朝。澄んだ空気。それは窓のないこの館の内部でもうっすらと感じられて、だから一層、外の様子が気になるのです。
きっともう太陽は顔を覗かせていて、もうちょっとしたら咲くだろうアサガオたちは今頃おめかし中。
早起きしてみるのも、たまにはいいものです。
夏の空気も今だけはひんやりとしていて心地がいいのに、口の中がいやに甘ったるいんですよね。うーん、あのチョコレート、なんだったんでしょう。
パタパタと足音が響いているのは、もうメイドさんたちがお仕事をしているから。
丁度、そこを曲がった通路から、話し声が聞こえますね。これは……咲夜さん、でしょうか。
んん、なにやら妖しい雰囲気がします。そぉっと、覗いてみましょうか。角からこっそりと……。
お、おぉ……! 咲夜さんが壁に寄りかかった妖精メイドさんの正面に立って、威圧するかのように、何かを語りかけています。
あぁ、か弱い妖精メイドさんはうるんだ瞳で咲夜さんを――! 咲夜さんも心持ち真剣な顔をしています。
「そ、そんな、駄目です。だって、まだお仕事が……あっ」
咲夜さんはメイドの顎に手をやり、そして吐息交じりの口調で少女の耳元に語りかけました。
「ふふ、そんなこと、気にしているの? いいのよ。お仕事なら、あとでたっぷり、手とり足とり、教えて、あ、げ、る」
「……メ、メイド長……お仕事だけ、なのですか?」
「あら、どういうことかしら?」
意地の悪い微笑みをたたえて、咲夜さんが言います。騒々しく泣き始めた蝉の鳴き声も、二人の耳には届かないのです。
「そ、それは……もぅ……意地悪なのですね」
「ちゃんと言わないと、分からないわよ。ね?」
「う、うぅ……ですから…………ス、の……」
「なに? ちゃんとハキハキと、言って御覧なさい?」
「……ックス、の…………」
「顔、真っ赤にしちゃって。ふふっ、可愛いのね」
「あ、嗚呼っ! ……メイド長!」
こんな感じでしょう! あぁ真昼の情事ならぬ早朝の情事の予感?
思わず手で顔を覆ってしまいます。指の隙間はばっちり空いていますが。
なんだか私が恥ずかしくなってきちゃったので、ここはひとまず離れましょう。
ダイジョウブデスヨ、お嬢様に言いつけたりなんて、しませんから。ふふっ。
・
「どうかしましたか? メイド長」
「なにかそこの影に、気配を感じたのよ。と、それはいいとして、ワックスの場所?」
「あ、はい。ワックスがけをしようとしていたのですが、どこにあるのか分からなくて……」
「早朝は人手不足なんだから、しっかりして頂戴。それだけ皆に信頼されているということなのだから。さ、こっちよ。ちゃんと覚えておきなさい」
「はい!」
2
さて、物々しいレッドカーペットをたどって玄関を出ると、早速透き通った空気が私を包みます。
いっつも図書館でお仕事をしているものですから、綺麗な空気、を身体が欲しているのでしょうか。
木々はその緑をどんどん鮮やかにして、そうして暑い暑い夏を謳歌して、秋には葉を散らしていくんですよね。
そう思うと、この緑がいつもより美しく見えてきます。
そしてその緑に覆われるように咲いているユリたち。あぁ、これになにか意味があるように思えて、どうしようもなく悶々としてしまうのです……!
と、そんなこんなで歩いていると、木々を隔てた反対側に門が見えてきました。
こんなに朝早くに美鈴さんも大変ですよね。夜勤、ってやつでしょうか。交代の時刻なのか、彼女は玄関へ向かって歩いていきます。
――でも、それにしてもあの表情。
きっと、疲れてる、ってだけじゃないです。私には分かっちゃいます。あぁ、あの物憂げな表情は、そう――
美鈴さんは歩いていました。館を目指すその足取りは重く、覚束ない。
それは決して不眠不休で門の警備をしていたから、ではないのです。正確にはそれも間違ってはいないのですが、それが根本的な理由ではなかったのです。
(あぁ、咲夜さん。私がキチンとお仕事をしていても、貴方はここにはいない――貴方はきっとお嬢様の部屋にいて、そして……夜の遊戯会に――。分かっています。分かってはいるのです……!
私はしがない門番。かたや貴方はお嬢様にも信頼される、メイド長。あぁ、それならなぜ貴方は、私に微笑みかけ、そして手を差し伸べてくれるのです……!
私はあの感触が、あの唇の感触と、その時の貴方の表情が忘れられないのです。
その表情のためなら、何でも、何でもする覚悟なのです!
許されぬ関係と知りながら、それでも、求めてしまう。
貴方の心が、少しでも満たされるというのなら、いくらでもそのナイフを身体に受けましょう。
その痛みを笑顔で受け入れてみせましょう!
ですが、ですがいつかは、私の心を、満たしてはくれないでしょうか。そして私にもう一度、その唇を――)
あぁ、おいたわしや美鈴さん……。その心の声、私には間違いなく届いていますわ。ただのМじゃないって、私は知っていますから!
あ、夜の遊戯、っていっても、ね? お嬢様にとっての夜は、我々にとっての昼みたいなものですから、ね? 念のため。
届かぬ思い、一人の乙女の憧れは皆に愛されるアイドル、ですか。
その赤髪を見て私は思うのです。薔薇は薔薇は、美しく散る――と。
さて、そろそろお仕事始めましょうか。
・
「ふあぁーあ、眠い。うーん、今日の朝食は、そうだなあ……なんにしよう。って、あれはこあちゃん? こんな時間にどうしたんだろう……って行っちゃった。なんだか幸せそうな表情していたなぁ。まぁいっか。で、朝食は……うーん」
3
もう少しでお昼御飯の時間です。
いつものように本の整理や管理をしているのですが、そんな私にとっての天敵ともいえる存在がいます。
……来ましたね。そう、彼女。よぉーパチュリー! じゃないですよ。
ため息交じりで、声の主の方に顔をやります。あの白黒め。叱られるのは私なんですから……もはやパチュリー様が彼女とグルなんじゃないか、って思ってしまいます。
まぁ、それくらい厳格でないとパチュリー様らしくありませんが。うーん、今朝食べたあのチョコレートくらい甘ったるいパチュリー様、かぁ。
それはそれで面白いですね!
なぁんていってると、なにやら話し声がかすかに聞こえてきました。
またまたこっそりとそれを覗くと、あら、魔理沙さんがパチュリー様の肩に腕を掛けて……これはアレですね。
ナウいヤングに流行りのガールハントというやつですね……!?
魔理沙さんはパチュリー様の肩に腕をまわすと、そしてパチュリー様の耳元で囁きました。
「パチュリー、私は知ってるんだぜ。お前の心のジグソーパズルに、一つだけ足りないピースがあるってな」
パチュリー様はうっとりとした顔で、魔理沙さんの瞳を見つめるのです。
「ほん、とう? そのピースがあれば、私、もっとかわいくなれる?」
「ふっ、何言ってるんだよパチュリー。お前は今でも、充分可愛いぜ?」
「むきゅー」
頬を赤らめたパチュリー様を見て、魔理沙さんが微笑みます。
「そのピースっていうのはな、どこにあると思う?」
「ど、こ……? 私、思いあたるところが、あるの」
「どこ?」
「そ、それは……」
伏し目がちに、それはそれは恥ずかしそうにパチュリー様は指差しました。そう。魔理沙さんを――
「ふふっ、正解。……だからジグソーパズル、完成させようぜ?」
魔理沙さんは腕を引き、パチュリー様の顔をグッと近付けて……。
「そっ、そんな、いきなりなんてあっ――」
お、おぉ……! 最後のピースって、口元だったのですね!
それにしても、なんて恥ずかしい人たちなんでしょう。でも、パチュリー様もこれくらい素直になるべきなんです。ふふっ。
ジグソーパズルを完成させる、って言葉が、なんだか非常に卑猥ですよね。
しかるべきところでやるべきなのです。あ、私はなにも見ていませんよ。だから、詳細はよく分かんないです。なので詳しくはkoumakan.comへ。
あら、いけない。もうお昼の時間ですね。食堂が混む前に、行ってきますか。
・
「なーあー、いいだろパチュリー」
「もう、暑苦しい! くっつかないで! 読めないのなら、辞書を持ってくればいいでしょう」
「面倒だぜ?」
「はぁっ……小悪魔に頼んで取って来てもらいなさいよ」
「いや、辞書を引くのが面倒なんだぜ?」
「それじゃ小悪魔に土下座して頼みこんで辞書引いてもらえばいいじゃない」
「そうは言ってもな、あいつ今さっき、なんかニヤニヤしながら出て行ったぞ」
「あぁ、そういえば昼食の時間ね。ってあー、だからまとわりつかないで!」
4
しっかりとご飯を食べると、眠くなってしまいますよね。だから私はいつも腹七分目にしています。
でも、この季節って暑いですから、そもそも食欲がないっていうのもありますね。
蝉の合唱が不愉快に感じないうちに、早くお仕事に戻りましょう。
窓はなくても、結構虫の鳴き声が聞こえるんです。だから当然、他にもいろいろ音が聞こえるんですよね。話し声とか。
足早に廊下を歩いていると、先には二人の人影。
あれは美鈴さんと、ほほう……咲夜さんじゃないですか。
むむむ、どうしましょう。このまま二人の間を通り過ぎるなんて、出来ませんしねぇ。
うーん、美鈴さんの困った顔、咲夜さんの険しい顔。
もう、本当に咲夜さんは大忙しですねー!
って暢気なことをいっている場合なのでしょうか。これは……波乱の予感?
「なんで貴方は、そんなことを言うのよ!」
「ご、誤解ですよ、咲夜さん」
キツい口調で言う咲夜さんに圧倒されながら、美鈴さんは弱々しく答えます。
「私、私だってお仕事なの! 仕様がないじゃない! 本当は、私だって……」
「咲夜、さん……」
「美鈴」
「……大丈夫ですよ。私はいつでも、貴方の支えになりますから。私も、咲夜さんが忙しいって知っていながら、我儘なことを言ってしまって、ごめんなさい」
困ったように微笑む美鈴さんを、咲夜さんが見つめます。
「ねぇ……美鈴……私、もう我慢できない」
あぁ……咲夜さんは美鈴さんに一歩、また一歩と近づき……!
美鈴さんは戸惑いが隠せず、ただあたふたとするだけなのです。
「え、ちょ……我慢、我慢って……ト、トイレ! トイレですか!?」
「……バカ」
うおー! 美鈴さんのいけず! 咲夜さんも大変なのですね。って、うわっ、鼻血。
押さえて押さえて……。
気温も高いですしね。ちょっと刺激的なのです。昼メロを地でいくようなお屋敷ですよね。紅魔館。
やっぱり慕われる立場というのも、面倒が付きまとうようなのです。
わわ、押さえてるにょに。……あぁ、でもあのお二人の表情――! 悶々とした感情と背徳が交わるあの表情! たまらん!
あわわわ、これは貧血予備軍の私には少々きついですね。早いところ、図書館に戻りましょう。
・
「ちょ、ちょっと待って下さい咲夜さん! 私、今非番ですって! わわ、じりじりとナイフ片手に、近寄らないでくださいぃ」
「白黒が掃除したはなから廊下を汚してくのよ! 貴方にこの屈辱が分かるというの!?」
「い、いつものことじゃないですかぁ、あぶなっ、……って、ん?」
「……どうしたの? 美鈴」
「いえ、なんか今、何かの滴る音が聞こえて。今日、雨なんて降っていないですよね?」
「そうね。快晴よ……って話を逸らさない!」
「うわっと、り、りり理不尽です!」
5
大図書館に戻ってくると、なにやら険悪な話声が聞こえます。
まーだいるのですね、魔理沙さん。
私はボーっとそれをBGMにしながら、ティッシュを鼻につめる作業に勤しむのです。
……さっきはあんなに仲良しこよしのにゃんにゃんにゃん♪ だったのに、どうしちゃったんでしょう。
うーん……そうですねぇ……。
「なによ魔理沙! さっきは私にあんなこと言っておきながら、アリスにも同じことを言っていたのね!」
パチュリー様は持病の喘息のことも忘れてしまったかのように、物凄い剣幕で魔理沙さんに言葉を投げつけています。
「パチュリー……どうしてアリスのことなんて話すんだい? 今は、私だけを見ていてくれよ」
「はぐらかさないで! 貴方こそ、貴方こそ、私だけ、を」
あぁ、嗚咽と共に、パチュリー様の想いが溢れ出るのです。魔理沙さんは、ひどく沈んだ顔でそれを見守ります。
「パチュリー……悪かった、よ……」
咳こむパチュリー様の背中を、魔理沙さんが優しく撫でます。
今のパチュリー様には、魔理沙さんを信じることしかできないのです――
これはいけませんねぇ。パチュリー様はナイーブな方ですから、そんなの困っちゃいます。
魔理沙さんにはしっかりお説教が必要みたいですね。ちゃんとお世話して下さいよ、霊夢さん。
お二人の関係に、私は口出しなどできはしないのです。
私はただ、見守ることしか、できないのです。
なぁんちゃって!
っと、鼻血も治まっちゃいましたね。真っ赤に染まったティッシュペーパーは屑篭行きです。短い間だったけど、ありがとう。
さて、 午後のお仕事、始めしましょうか。
・
「……あー! さっきから気になっていたけど! 魔理沙! その貧乏ゆすり止めて頂戴!」
「はは、わりぃわりぃ。癖で」
「癖なら直せばいいじゃない」
「…………実はこれはな、私が親父から受け継いだ、唯一の特徴なんだ。貧乏揺すりをする、故に我あり、故に"霧雨"魔理沙、なんだよ」
「え……嘘……そ、そう、だったの? きつく言っちゃって、ごめんなさい」
「そんな訳ないだろ」
「ですよねー……じゃなくて、直しなさい! 少なくともここにいる時は!」
「ははは、わりぃわりぃ」
6
ふあぁーあ、夜ですね。
朝早かったものですから、眠くて眠くて……。
そろそろ、お嬢様たちが起きてくる時間です。ちょっとフラン様にお会いしてきましょうか。
とと……お嬢様と咲夜さんですね。丁度お部屋から出てきました。
すれ違いざま、軽く会釈をして二人を見送ります。
……あんな風に手をつないでいると、なんだか不思議に見えちゃいますね。
食堂へ向かう二人を眺めながら、思います。
え? でもなんだかお嬢様、だだこねてる? oh……いっつそぉきゅーと!
「い、いやよ、咲夜……」
レミリアお嬢様は、そのルビーの瞳を潤ませて、咲夜さんに懇願します。それを苦笑しながら見つめる咲夜さんは、とっても瀟洒――
「私では、いや、なのですか?」
「そんなこと……! そんなことは言っていないわ。ただ、私は……。だ、だって! 貴方はメイドで、私は……」
「お嬢様。お嬢様は、レミリア・スカーレットは、レミリア・スカーレットなのです。それ以外ではないのです。そして私は十六夜咲夜。それ以上でも、それ以下でもないのですわ」
「咲夜……」
「周りなどお気にせず、ただ、私だけを見つめて下さりませんか? その麗しく煌めく、燃えるような紅色の瞳で……!」
お嬢様は、ただ無言で咲夜さんの瞳を見つめました。
そして二人の顔は、どちらからともなく吸い寄せられていき――あぁ……インヴィジブル、タッチ……!
やや、咲夜さん、悪女ですなぁ……!
嗚呼おいたわしやお嬢様、おいたわしや美鈴さん、おいたわしや妖精メイドさん……。
って気が付いたらフラン様のお部屋です。あれ? フラン様、いない?
近くにいるメイドさんに聞いたら、図書館に行っちゃった、そうです。
あらら……引き返しますか。
・
「えーやだー」
「そんなこと言わないでくださいお嬢様」
「なんで今日もカレーなのよ」
「偶然の一致です」
「昨日の残り物でしょ」
「料理とは、実に奥深いものなのですよ。お嬢様」
「はぁ、せめてカレーうどんになさいな……」
「うどんだと、あーん、ってしにくいじゃないですか」
「……うー」
7
さて、再び戻ってまいりました、大図書館。
いましたいました、フラン様。
あ、こちらにやってきますね。どうしたんでしょう?
んん? なんだか様子が……え?
「小悪魔。今日は、もっとたくさん、オ、ト、ナ、なこと、教えて?」
おぉ……その上目使いがっ! 上目使いがっ! 非常によろしい!
っじゃなくて、い、いきなりですね。そんなっ、いけません! フラン様には……まだ早いですっ!
もう百年くらいしたら、丁寧に教えてあげ、わ、想像するだけで鼻血が……。
「ふぅん、そういうこと、言うんだ。小悪魔は私のこと、嫌いなの?」
そ、そんな……嫌いだなんて……あ、あぁ、そんな、そんな熱い目で見つめちゃ、らめぇ……。
「私ね、ちょっと悩み事があるの。小悪魔、聞いてよ?」
悩み事、悩み事、ですか。
もじもじしちゃって、可愛らしいですねぇ! フラン様! あー、ギュって、ギュってしたいッ!!
「……ねぇ、私も胸、おっきくなるかな……?」
あぁ、あァ! 乙女の悩み! それはですね、それは揉めば、揉めばいいんですよ! 出来れば誰かに揉んでもらうのがいいんですよ!
誰かというか! 私がいいと思います!
「……ほら、パチュリーみたいに、おっきいの、羨ましいし」
パチュリー様の胸? パチュリー様の胸……、パチュリー様の――
・
「ねぇ小悪魔? ねぇってば。今日はどんな本を読んでくれるの……って、返事しないし。ニヤニヤしてるし鼻血出てるし、大丈夫かなぁ」
「どうしたの、妹様」
「あ、パチュリー。なんか小悪魔の様子が変なの。さっきからなんかブツブツ言ってる」
「小悪魔? ……あぁ、やっぱり、あれを食べたのは小悪魔だったのね。失敗作で効用がよく分からないから、誰が食べたのか気になっていたのよ」
「どゆこと?」
「小悪魔は私の研究の尊い犠牲になってくれたのよ」
「おお、栄誉じゃない、小悪魔」
「まぁ、魔理沙の拾ってきたマジックマッシュルームを使っているから、差し詰め幻覚作用とか、その辺りかしら」
「小悪魔、なんかすっごい幸せそうな顔してるんだけど」
「……不気味なくらいね。でも、早いところ普通になってくれないと……そうじゃないと詳しく調査もできないし。これじゃ、どうしようもないわね」
「ふふふ……パチュリーさまぁ、の……」
「え? なに? 小悪魔」
「パチュリー様の……」
「私の何よ」
「パチュリーさまの――」
「なにその手つき。そのいやらしい手つきはなによ……」
「パチュリーさまの……おっぱい!」
8
私、小悪魔は酷い頭痛で目を覚ましました。
いやぁ、なんかたんこぶできちゃってますね。どうしてでしょう?
あと、鼻にティッシュがささってました。
真っ赤でした。びっくりしました。
うーん。
そんな謎の体調でも、遅刻せず仕事に取り組む私は、紅魔館の住民の中では比較的優秀な部類に入るでしょう。
にも関わらず、パチュリー様は私に挨拶すら返してくれないのです。
これは厳格を通り越して横暴ではないですか!
肩を落として司書室に戻ると、私はそこに、手づくりのチョコレートを発見したのです。
パチュリー様の、でしょうか。
ふっふっふ……するとこれは、きっとプレゼントかなにかですね?
――こんなところに置いておくのが、いけないのですよ?
仕返しです。
一口サイズのものが、三つ。小さいですし、全部頂いちゃいましょう。
では、いっただきまーす♪
ウェルメイドなコメディとして、そっと評価されるべき。
いいぞ、もっと受信するんだ!
流石「小悪魔」だな・・・!
さぁ、もっと電波を発信するんだ!
それにしてもパッチェさんがなにを作りたかったのかが気になるw