~~~~~~人間の里~~~~~~
「さて、今日も一日しっかり勉強させてやろう」
上白沢慧音はそう教壇に立つと授業を始める。
「さぁ、これで終わりだ…あぁ、宿題ももちろんあるぞ」
これが慧音の日常である。
授業を終え家路に向かう慧音を引き止める声が空から掛かる。
「あやや? そこに居るのは慧音さんじゃないですか」
射命丸文、妖怪の山の天狗である。
「おお、カラス娘」
「あやや…それはまたかなり格落ちさせられた物で…」
「冗談だ、で? 今日はどうした?」
文は取材で幻想郷を飛び回るゆえに、こうして人里にも普通に下りてくる。
「今日も何かネタになる物は無いかなと物色にきましてね」
「ふむ、それならいいネタがあるぞ」
「ほう、それはぜひ聞きたいですね、お願いしますよ」
と目の前に降りてくる。
「これだ」
と差し出した物は、「慧音の楽しい歴史 著 上白沢慧音」
「…おつかれさまでした」
さて、取材取材と飛び立とうとする。
「あぁ、待て待て 冗談だ、冗談」
「慧音さん…新聞記者をいじめると怖いですよ?」
今度こそ、ネタでしょうねという目を向けてくる。
「なあ、文…文々。新聞だったか?あの妙な情報紙は」
「妙とは聞き捨てなりませんね」
「見た・聞いた話を脚色してるだろ…あれ」
「そのままでは面白くないのですよ、多少は派手に書くべきなのです」
悪びれもせず、文は胸を張る。
「いやいや、ああいう物は真実を伝えるべきなのだ…あれは間違ってるぞ」
「ふむ…つまり、少年は語る!里の寺子屋、退屈な授業の全貌 なんかですかね?」
と文は慧音に言う。
「…は? なんだそれは? いい加減な記事も駄目だぞ?」
「いえいえ、これはしっかりとした取材の元に作られた記事ですよ」
ふむ…と慧音はむっとするような、落ち込むような複雑な表情をする。
「ま…まぁ、それはあれだ…勉強というものはだな(略)」
「であるからして(略)」
「(略)でな」
「あややややや、解りました!解りましたからその辺で勘弁してください」
文は心の底からもう良いですという言葉を発する。
「まだ終わってないのだが…」
慧音はまだ語り足りないようであったがまぁ、次の機会でもと思った。
「で、新聞の話だったな、私が思うにそういった事に使うのではなくもっと有意義に使うべきではないかと、思うのだ」
「有意義?」
文は問う。
「例えばだ、人間の里も今やかなりの大きさを持っているな? 当然大小なりの事件は起きる」
「ええ、確かにそういう情報も確かにありますが…そういうのはネタにするにはあまりにも不謹慎かと」
「違う、つまりだな…そういう悪い出来事も情報なのだ、楽しい事 良い事だけが記事ではないとは思わないか?」
「ふむ…つまり、情報として知る事が事件の拡大を防ぐ事になりうると?」
文はそう考える。
「そうだ、野良妖怪に襲われた人が居たとする、その情報があれば避ける事も対策も立てられるかも知れない」
「なるほど、その様な有益な情報があるのなら…知りたいという人は大勢居るかもしれない」
「うむ、そう言った情報を集めてはと思うのだ、私はな」
文は確かにそれは試す価値があると改めて気づく。
「そう言えば…昨日ですね、この先の集落で山に行ったきり戻っていないという情報があったような…」
文は何か聞いた気がという雰囲気で語る。
「な!? 文! そういう情報は早めに言え! 何処だ?」
慧音は文の肩を掴み案内しろと詰め寄る。
「驚くことではないでしょう?…人間が居なくなるのは山ではよくある事です」
文は興味の無い情報はそれほど重要視していない。
「お前は仲間が居なくなったと解ったらそれでも何もしないか? どうだ?」
「当然、探すに決まってるじゃないですか…なにを…あ…」
文は自分で言って初めてその矛盾を理解した。
「そうだ、人間も人間にとって仲間なのだ、お前が天狗が仲間であるように」
「解りました、こっちですよ」
二人はその情報のある山にすぐに向かう。
~~~~~~黒き山~~~~~~
山に入った村人は妖怪の縄張りにうっかり踏み込んでしまった、幸い襲われてはまだ居ないが
もう時間の問題といえた。
一晩どうにか隠れきり夜が明けると村に帰ろうとするが、なぜか元の場所に戻ってしまう。
どうやっても戻れない、そう思った時ついに妖怪は現れる。
村人はもう駄目だと諦めかけた時、それは現れる。
「そこの妖怪、人間に手出しはさせない」
飛び込んできたのは慧音であった。
「この山に居る妖怪といえば、こいつですからね、すぐ解りますよ…どうです? 私の情報も捨てたものではないでしょう」
文は最近この山で悪さをする妖怪のことを知っていた、この山といわれた時点で解っていたのである。
そして、この事が先ほど慧音の言っていた有益な情報である事に気づく。
「だろう…文、こういう情報が役に立つのだ」
「…ですね、解りましたよ」
「さて、私も今回はこの人間にも多少の非ははあるだろうと思う、だから今日の無かった事にしてやる!」
そう言うと、ここで人間と妖怪の会ったと言う歴史を無かった事にした。
「さすがですね、慧音さん」
「さぁ、村の近くにこの村人を戻して帰るとするか」
「ですね」
そしてこの小さな事件は慧音と文のみの知る小さな小さな事件となった。
~~~~~~人間の里~~~~~~
「無事でよかったですね、あの人間はどうやって戻ったかまったく解らないでしょうけど」
「それでいいのだよ、私は恩を売りたくて助けてる訳じゃないからな」
「ですねぇ…まぁ、今日はとても有意義な話を聞けましたし、新聞を作るのが楽しみになりましたよ」
「あぁ…出来たら見せてくれ、楽しみにしているよ」
そうして射命丸は山に帰っていく。
「さて、私はと…あぁ、文に誰が私の授業を退屈といったのか聞けばよかったか…まぁ、いい」
「宿題を忘れたらどうなるか、明日が楽しみだ」
そうつぶやくと家路に着く。
~~~~~~後日~~~~~~
文々。新聞発刊
1面 「歴史食いの少女、山の妖怪を懲らしめる」
「おい…これは無かった事にしておいてくれないか?」
「嘘ではないですし、山の妖怪なんていっぱい居ますから大丈夫ですよ」
いいじゃないですかと笑いながら文は言う。
2面 「これが危険な妖怪の居るところだ!危険度マップ」
「ふむ…なるほどな、早速このあたりを村長に伝えておくとしよう」
「ええ、その記事は私の目で見て調べた物、間違いありませんよ」
「ああ、信じてるさ…ありがとう、文」
「いいえ、私もいい記事を書けるなら望むところですよ」
今回は文にとっても慧音にとってもお互いに有意義な出来事だったようである。
それも歴史じゃなくて算数の教科書(あえて数学とは言わない)
教科書を読むのが大好きという人間は、さてどれだけ居るかな
文と慧音の組み合わせは珍しいですが、
これはちょっと…って感じです
精進してください。
いろいろと勉強不足だったようです。
ここにある多くの作品をからいい所を勉強して見たいと思います。
欲を言えば、一口サイズであること。この味(?)なら、もっとボリュームがあっても楽しめます。