今日は月末。待ちに待った給料日。
レミリア様からの直々の茶封筒と、慧音さんの里の長から頂いた寺子屋教師のアルバイト料。
ずっしりと重い片方に対して、もう片方はとても軽い。どちらがどちらかなのかは想像にお任せするが、ヒントを出すとしたら紅魔館の門番はポイント制だということだ。
敵の残機を削るごとに10ポイント。撃墜したら100ポイント。逆に残機を削れなかったらマイナス5ポイント。10ポイントで紙幣1枚。これだけ聞けばきっとわかってもらえたとは思うが、そう。レミリア様からもらった方が重い方なのだ。
今にも袋が破れそうなほど重い給料袋に切れ込みを入れて覗き込む。ひー、ふー、みー。だいたい予想通りか。
掌の上で給料袋をひっくり返すと、チャリンチャリーンと悲しげな音がこだました。掌の上には大量の小銭。チクショウ。
こんなに貧乏生活まっしぐらなのは、最近は門番の仕事がほとんど無いからだ。そこに住む者達の強さが知れ渡った今、紅魔館へ挑もうなどと言う頭がハッピーな妖怪はそうそういない。竹林の兎や地底の妖怪達のように拮抗しうる大勢力はいくつかあるにはあるが、それらとは悪くない関係を結べている。敵が来ない以上門番ポイントが稼げるわけがないのだ。
だから最近はレミリア様に許しを頂いて副業に手を出している。それが寺子屋教師のアルバイトだ。
これでかれこれ半年ほどは働かせてもらっているが、生徒達とも他の先生がたとも中々にいい関係を築けていると思う。
かなり馬の合う体育の勇儀先生とは一緒に飲みに行ったり、技術工作のにとり先生には発明品の実験台になる代わりにそのおこぼれをもらったりしているし、個人的にも紅魔館へ来る家庭科のアリスさんは元々気心の知れた仲だ。
そして何より、ここに来て一番仲が良くなったのは……
「準備できたぞ、それじゃあ行こうか」
「あ、はい。こっちも大丈夫です」
今も私に声をかけた慧音さんだろう。
「さて、今日はどこにしようか」
「あ、こないだ火事にあったラーメン屋さんが新規オープンしたらしいですよ」
「ほう。それじゃ応援の意味も込めて食べに行こうか」
「そうですね。今は開店フェアでチャーハンのお替わりタダらしいですし」
私は朝からポケットに入れっ放しだったビラを取り出した。
今朝寺子屋の近くの広場でビラ配りをしていた店主からもらった物だ。
ビラを受け取った私の顔を見るなり店主の顔が青ざめていったが、一体なんだったのだろう。
二人して寺子屋から歩くこと10分程。見えてきたのは真新しい一軒の店。
ガラリ、と音を立てて戸を滑らせると、満員の店内の中で視界の端に映ったのはなんとか空いていたテーブル席。
「お、ちょうど二席空いているな」
「運がよかったですね」
二人して空き席に座ると、店主がメニューと水を持ってやってきた。
「お客さんラーメン!ラーメンが今日はお勧めで……「チャーハンで」「私も同じくチャーハンで」……チャーハン二丁毎度ー!」
去ってゆく店主の背中に何故か寂しそうな気が漂っていたが、まぁ人それぞれ事情があるのだろうし詮索はよそう。
「さて、それじゃ前回の約束通りここの会計は……」
「えぇ、私持ちです。といってもチャーハンお替わり自由なら安く済みそうですけれど」
「ま、そうだな。何もタダでお替わりできるのに他の物を頼む必要もあるまい」
その言葉に少しだけホッとした。慧音さんは自制のできる人だからあまり心配はしていなかったけれど、やはり安月給の身で奢りはキツいのだ。
今朝見た給料袋の、小銭で重かった方ではない方の中身を思い出す。一番大きい札が5枚。ここのチャーハンが一杯500円だから、夜の分までここで食べていけば一ヶ月は十分に生活できる。
「ふむ。まぁとりあえずはこのままチャーハンを待つとしてだ。今日はどうだった?」
「うーん、いつも通りの授業でしたよ。問題も無かったです。里の方では何か話題になるようなことは?」
「いやそれが今のところ何も無くてな。平和そのものだ。おかげで話の種もないんだがな」
「こっちもですねー」
うーん、と考え込む私達。
そういえば、と手を叩いたのは慧音さんだった。
「前回ラーメンを食べた時は美鈴の三国志時代の話をしたが、せっかくだからもう少し教えて欲しいところだな」
「さすが歴史に関しては貪欲ですね」
「まぁ、私にとっても半分は故国だからな。私が生まれたのはこの国だが、ハクタクという妖怪が生まれたのは大陸。故国の歴史に興味の無い者はそうそうおらんよ」
「それもそうですね。じゃまぁ、チャーハン食べながらでもしましょうか。いただきます」
「そうだな。よろしく頼む。いただきます」
二人同時に手を合わせ、レンゲを右手に構える。
「それじゃあまずは……うん、そうだな。その頃美鈴はどんな暮らしをしていたんだ?」
「当時から妖怪ではあったので、力を隠しながら戦場に出てましたよ。なるべく殺さないようにしながら。いやー、ほんと殺さないように気を遣いましたね、なんちゃって」
「お替わり」
「超スルー!?まぁこちらもお替わりお願いしますー」
さっくりと無くなったチャーハン。やっぱりここのチャーハンは天下一品だ。しかしなんだか以前よりも一杯一杯の盛り方が減ったような気がする。
「で、抑えながらでもそこそこ戦えてたので、わりと待遇はいい方でしたね」
「妖怪が戦争に参加してたのならば、美鈴のいる国は相当強かったんじゃないか?」
「それがそうでもないんですよね」
「ん?そうなのか?」
「いやー、だって考えてみてくださいよ。敵国には妖怪どころか神がいるんですよ?お替わりを」
「あ、関羽か……確かにそれは無理だな。お替わり頼む」
あの人は酷かった。最近外の世界では敵をバッタバッタとなぎ倒すなんとか無双というゲームが流行っているそうだが、あれですら表現するのには生温い。
あの武神を前にした兵達をゲームで表現するとしたら、レミングス。気付いたらみんな死んでいる。あれと戦うくらいなら崖に向かってダイブした方がまだマシだとみんな知っているのだ。
「とはいっても実際に神として奉られたのは死後のことだろう?生前そこまで強かったのか?」
「全力を出した私がその場に三人いたら、なんとか……」
「ふむ、美鈴の三倍くらい強いということか」
「なんとか小指の先に裂傷くらいは負わせれると思います」
「強いなおい!」
と言っても私は直接戦ったことはないんですけれど、残念なことに。
「まぁ聞き及んでいるところではだいたいそれくらいの強さですね。お替わり!」
「無茶苦茶だな……流石は神か。お替わり!」
「神の眼光を前にして立っていられるだけでも凄いもんですよ。畏れ多くて大抵は平伏しちゃうんですよね」
「あぁ、なるほどな……確かに私も目の前に神がいたらそうなってしまうだろうな」
神自身の能力云々は別にしても、神を畏れ敬う心がある以上神に勝とうという方が無理なのだ。慧音さんの言う通り、私も目の前に神がいたら平伏してしまう。
ましてや、同じ軍にいたらどうなってしまうことか。神と一緒に食事?いやもう無理無理。
「へえ、そうかい。平伏すのかい」
「やほー」
隣のテーブルからかかった声は神奈子さんに諏訪子さん。
二人で仲良くチャーハンをほおばっている。
「神奈子さんに諏訪子さん、こんちゃー。店主お替わりお願いします」
「お二方にはいつも世話になっております。私も頼むぞ」
……ん?あれ?
「あ。畏れ多くもこれは神様。ははーっ!」
「今頃かい!もういいから頭を上げい!」
いやいや、完全に忘れていた。というのも、元々大陸出身の私にとってこの国の神様は縁が遠いのだ。
「まったく、神を敬う気持ちもありゃしないね」
「ホントすみません……」
「あー、いいよ美鈴。こう見えても神奈子のやつ結構喜んでるからさ」
「ちょっと諏訪子」
「はぁ……そうなんですか?」
「なるほど、少しわかるなその気持ちは」
「慧音さんも?」
どういうことだろう。敬われなくて喜ぶ?……もしかしてちょっとそっちの気が入ってるんだろうか。適当にあしらわれると気持ちよくなっちゃう的な。
もしそうだとしたらうちの小悪魔あたりとは気が合いそうだが。
「何考えてるかモロわかりな顔してるねぇ……まったく。神だってね、周りの人間がみんな平伏してたらつまらないのさ。どこを見たってどこに行ったってそんなんじゃ飽きるんだよ」
「慧音も、そこまで顕著でないけれど里の中じゃ敬われてて、こうやってフランクに語れる存在がいないんじゃないかな」
「まぁ、そうですね。里の外に行けば妹紅や永琳、そういった妖怪達とは対等に語っていますが、里の中では中々……」
そういうものなのか。下の立場からはわからない苦労もあるということか。
だとしたら、うちのレミリア様も……いやそれは大丈夫か。レミリア様にはパチュリー様という対等な立場の親友がいる。
「だから、里の中ではアンタが着いててやんな、美鈴。こうやってアンタとご飯食べに来てるのも、慧音にとっては最高に楽しいことなのさ」
「人の心の内をそこまで堂々と言われては中々立つ瀬がないですが、まぁ事実である以上文句は言いようがないですね」
「そうだったんですか、慧音さん」
「そういうことだ。……あー、なんだ。まぁ、これからもよろしく頼む」
「こちらこそ、是非よろしくお願いします。慧音さん。それに神奈子さんに諏訪子さんも」
「あぁ。さっき言った通りこっちもこうやって気軽に話せる相手に飢えててね。よろしくだ、美鈴に慧音」
「私からもよろしくー。さて、綺麗に落ち着いたところで。店主お替わりー!」
「右に同じく!」
「私もお願いしますー」
「私も頼む」
ちょうどいいことにこの四人は皆健啖家のようだ。こうやって皆で集まって食事するだけでも盛り上がれるだろう。
しかしこんなに神が親しみやすいだなんてビックリだ。こんなことなら関羽さんとも仲良くなれたかもしれない。本当に惜しいことをした。
「そういや美鈴、アンタは関羽と面識あるのかい?」
「いえ、無いですねー。一度お会いしたかったんですが」
「関羽は中々不遜な男でねー。神の中でもかなりの自信家だね」
「お二人はお会いしたことが?是非聞かせていただきたいな」
「神様同士の繋がりってあるんですか?」
信仰を求めて神様同士で争ったりすることもあるのだろうか。そんなことになれば辺り一面焦土になってもおかしくない。
考えてもみれば世界にはあれだけの数の神がいるのだ。もしかしたら既にそういう戦いは起きているのかもしれない。私達のような矮小な存在にはわからないだけで。
「よくゴルフに行ってるよ」
なんつった?
「いやこれが中々面白くてね。アフラマズダが上手いんだまた!」
「ドラコンなら千手観音だね。千本の手でぶん回すアレは凄いよ」
神の世界はどうやらわりと平和らしい。いやまぁ平和なのは何よりなのだけれど。
「それはそうと、美鈴はその時代はどこにいたんだい?関羽と面識がないとなると、魏か呉かお替わりか」
「呉ですね。割と長いこといたんでまぁそこそこには活躍できましたよ。お替わりでー」
「そういえば以前太史慈を役立たずだと言ってたくらいだしな。お替わりを!」
「……もしかして、紅美鈴って偽名?お替わりー」
偽名、というわけではなく、咲夜さん同様に後で付けられた名前なだけ。
当時の異名から先代スカーレット家当主に付けられたこの名前は、今では私のお気に入りだ。
「先代と出会ったのが赤壁でして。私のこの髪の色と、赤を象徴するその場所と、スカーレットの名から紅、という名をいただきました」
「へぇ。とすると美はそのまんま美しい、かな?」
「あるいは、古代王朝において美人とは皇后、貴人に続く后の位の一つ。そういった意味もあるかもしれないな」
「慧音さん邪推しすぎですって……お替わりをー」
先代は目標も無くなって呆けてしまった私を拾ってくださっただけ。
人から妖怪になった私にとって、人から神へと上り詰めた関羽さんは崇高なる存在であり、届かないとはわかっていても手を伸ばし続けていたいと思える目標だった。だからこそ、そんな存在を騙し討った自国を許せず、私は出奔した。
名のある将軍が国を見捨てて出て行ったと知られるわけにもいかず、病死した、だとか蛮族の弓に倒れた、だとか噂を流したようだが、そんなことはどうでもよかった。
全てがどうでもいい、と思った時に拾ってくださったのが先代だったのだ。
「まぁ、美の字はあれですよ、紅なんとか鈴、のなんとかに合うようなのを考えたらそうなっただけだと思いますよ」
「鈴、ねぇ。まったく怖い怖い。ここらで一つ、お替わりが怖い」
「美鈴は怒らせないようにしないとねー。お替わりよろしくー」
「お二方はもうわかったと?むぅ、名前に鈴が付く武将なんていただろうか……まぁお替わりを頼むぞ店主」
慧音さんは中々気付かないだろう。知識の深い部分を覗き込んでいすぎて、目の前にある有名な名前に気付いていない。
それにあの頃、私があんなヤンチャをしていたなんて思う人はそうそういないだろうし。
元は川賊。常に鈴を身につけて戦うことから、鈴の甘寧。そんな異名で呼ばれた日々は遠い彼方。
今の私は紅美鈴。人から神にはなれなかったけれど、私は幸せだ。
「教えてあげよっかー」
「ストップ!待った待った!もうすぐ思いつくから多分!」
「美鈴の正体はねぇ、実は……」
「えぇぇぇぇぇい絶対言うなよ!」
「実はですねー」
「美鈴!お前も言うんじゃないぞ!畜生誰だ鈴ーーッ!」
レミリア様からの直々の茶封筒と、慧音さんの里の長から頂いた寺子屋教師のアルバイト料。
ずっしりと重い片方に対して、もう片方はとても軽い。どちらがどちらかなのかは想像にお任せするが、ヒントを出すとしたら紅魔館の門番はポイント制だということだ。
敵の残機を削るごとに10ポイント。撃墜したら100ポイント。逆に残機を削れなかったらマイナス5ポイント。10ポイントで紙幣1枚。これだけ聞けばきっとわかってもらえたとは思うが、そう。レミリア様からもらった方が重い方なのだ。
今にも袋が破れそうなほど重い給料袋に切れ込みを入れて覗き込む。ひー、ふー、みー。だいたい予想通りか。
掌の上で給料袋をひっくり返すと、チャリンチャリーンと悲しげな音がこだました。掌の上には大量の小銭。チクショウ。
こんなに貧乏生活まっしぐらなのは、最近は門番の仕事がほとんど無いからだ。そこに住む者達の強さが知れ渡った今、紅魔館へ挑もうなどと言う頭がハッピーな妖怪はそうそういない。竹林の兎や地底の妖怪達のように拮抗しうる大勢力はいくつかあるにはあるが、それらとは悪くない関係を結べている。敵が来ない以上門番ポイントが稼げるわけがないのだ。
だから最近はレミリア様に許しを頂いて副業に手を出している。それが寺子屋教師のアルバイトだ。
これでかれこれ半年ほどは働かせてもらっているが、生徒達とも他の先生がたとも中々にいい関係を築けていると思う。
かなり馬の合う体育の勇儀先生とは一緒に飲みに行ったり、技術工作のにとり先生には発明品の実験台になる代わりにそのおこぼれをもらったりしているし、個人的にも紅魔館へ来る家庭科のアリスさんは元々気心の知れた仲だ。
そして何より、ここに来て一番仲が良くなったのは……
「準備できたぞ、それじゃあ行こうか」
「あ、はい。こっちも大丈夫です」
今も私に声をかけた慧音さんだろう。
「さて、今日はどこにしようか」
「あ、こないだ火事にあったラーメン屋さんが新規オープンしたらしいですよ」
「ほう。それじゃ応援の意味も込めて食べに行こうか」
「そうですね。今は開店フェアでチャーハンのお替わりタダらしいですし」
私は朝からポケットに入れっ放しだったビラを取り出した。
今朝寺子屋の近くの広場でビラ配りをしていた店主からもらった物だ。
ビラを受け取った私の顔を見るなり店主の顔が青ざめていったが、一体なんだったのだろう。
二人して寺子屋から歩くこと10分程。見えてきたのは真新しい一軒の店。
ガラリ、と音を立てて戸を滑らせると、満員の店内の中で視界の端に映ったのはなんとか空いていたテーブル席。
「お、ちょうど二席空いているな」
「運がよかったですね」
二人して空き席に座ると、店主がメニューと水を持ってやってきた。
「お客さんラーメン!ラーメンが今日はお勧めで……「チャーハンで」「私も同じくチャーハンで」……チャーハン二丁毎度ー!」
去ってゆく店主の背中に何故か寂しそうな気が漂っていたが、まぁ人それぞれ事情があるのだろうし詮索はよそう。
「さて、それじゃ前回の約束通りここの会計は……」
「えぇ、私持ちです。といってもチャーハンお替わり自由なら安く済みそうですけれど」
「ま、そうだな。何もタダでお替わりできるのに他の物を頼む必要もあるまい」
その言葉に少しだけホッとした。慧音さんは自制のできる人だからあまり心配はしていなかったけれど、やはり安月給の身で奢りはキツいのだ。
今朝見た給料袋の、小銭で重かった方ではない方の中身を思い出す。一番大きい札が5枚。ここのチャーハンが一杯500円だから、夜の分までここで食べていけば一ヶ月は十分に生活できる。
「ふむ。まぁとりあえずはこのままチャーハンを待つとしてだ。今日はどうだった?」
「うーん、いつも通りの授業でしたよ。問題も無かったです。里の方では何か話題になるようなことは?」
「いやそれが今のところ何も無くてな。平和そのものだ。おかげで話の種もないんだがな」
「こっちもですねー」
うーん、と考え込む私達。
そういえば、と手を叩いたのは慧音さんだった。
「前回ラーメンを食べた時は美鈴の三国志時代の話をしたが、せっかくだからもう少し教えて欲しいところだな」
「さすが歴史に関しては貪欲ですね」
「まぁ、私にとっても半分は故国だからな。私が生まれたのはこの国だが、ハクタクという妖怪が生まれたのは大陸。故国の歴史に興味の無い者はそうそうおらんよ」
「それもそうですね。じゃまぁ、チャーハン食べながらでもしましょうか。いただきます」
「そうだな。よろしく頼む。いただきます」
二人同時に手を合わせ、レンゲを右手に構える。
「それじゃあまずは……うん、そうだな。その頃美鈴はどんな暮らしをしていたんだ?」
「当時から妖怪ではあったので、力を隠しながら戦場に出てましたよ。なるべく殺さないようにしながら。いやー、ほんと殺さないように気を遣いましたね、なんちゃって」
「お替わり」
「超スルー!?まぁこちらもお替わりお願いしますー」
さっくりと無くなったチャーハン。やっぱりここのチャーハンは天下一品だ。しかしなんだか以前よりも一杯一杯の盛り方が減ったような気がする。
「で、抑えながらでもそこそこ戦えてたので、わりと待遇はいい方でしたね」
「妖怪が戦争に参加してたのならば、美鈴のいる国は相当強かったんじゃないか?」
「それがそうでもないんですよね」
「ん?そうなのか?」
「いやー、だって考えてみてくださいよ。敵国には妖怪どころか神がいるんですよ?お替わりを」
「あ、関羽か……確かにそれは無理だな。お替わり頼む」
あの人は酷かった。最近外の世界では敵をバッタバッタとなぎ倒すなんとか無双というゲームが流行っているそうだが、あれですら表現するのには生温い。
あの武神を前にした兵達をゲームで表現するとしたら、レミングス。気付いたらみんな死んでいる。あれと戦うくらいなら崖に向かってダイブした方がまだマシだとみんな知っているのだ。
「とはいっても実際に神として奉られたのは死後のことだろう?生前そこまで強かったのか?」
「全力を出した私がその場に三人いたら、なんとか……」
「ふむ、美鈴の三倍くらい強いということか」
「なんとか小指の先に裂傷くらいは負わせれると思います」
「強いなおい!」
と言っても私は直接戦ったことはないんですけれど、残念なことに。
「まぁ聞き及んでいるところではだいたいそれくらいの強さですね。お替わり!」
「無茶苦茶だな……流石は神か。お替わり!」
「神の眼光を前にして立っていられるだけでも凄いもんですよ。畏れ多くて大抵は平伏しちゃうんですよね」
「あぁ、なるほどな……確かに私も目の前に神がいたらそうなってしまうだろうな」
神自身の能力云々は別にしても、神を畏れ敬う心がある以上神に勝とうという方が無理なのだ。慧音さんの言う通り、私も目の前に神がいたら平伏してしまう。
ましてや、同じ軍にいたらどうなってしまうことか。神と一緒に食事?いやもう無理無理。
「へえ、そうかい。平伏すのかい」
「やほー」
隣のテーブルからかかった声は神奈子さんに諏訪子さん。
二人で仲良くチャーハンをほおばっている。
「神奈子さんに諏訪子さん、こんちゃー。店主お替わりお願いします」
「お二方にはいつも世話になっております。私も頼むぞ」
……ん?あれ?
「あ。畏れ多くもこれは神様。ははーっ!」
「今頃かい!もういいから頭を上げい!」
いやいや、完全に忘れていた。というのも、元々大陸出身の私にとってこの国の神様は縁が遠いのだ。
「まったく、神を敬う気持ちもありゃしないね」
「ホントすみません……」
「あー、いいよ美鈴。こう見えても神奈子のやつ結構喜んでるからさ」
「ちょっと諏訪子」
「はぁ……そうなんですか?」
「なるほど、少しわかるなその気持ちは」
「慧音さんも?」
どういうことだろう。敬われなくて喜ぶ?……もしかしてちょっとそっちの気が入ってるんだろうか。適当にあしらわれると気持ちよくなっちゃう的な。
もしそうだとしたらうちの小悪魔あたりとは気が合いそうだが。
「何考えてるかモロわかりな顔してるねぇ……まったく。神だってね、周りの人間がみんな平伏してたらつまらないのさ。どこを見たってどこに行ったってそんなんじゃ飽きるんだよ」
「慧音も、そこまで顕著でないけれど里の中じゃ敬われてて、こうやってフランクに語れる存在がいないんじゃないかな」
「まぁ、そうですね。里の外に行けば妹紅や永琳、そういった妖怪達とは対等に語っていますが、里の中では中々……」
そういうものなのか。下の立場からはわからない苦労もあるということか。
だとしたら、うちのレミリア様も……いやそれは大丈夫か。レミリア様にはパチュリー様という対等な立場の親友がいる。
「だから、里の中ではアンタが着いててやんな、美鈴。こうやってアンタとご飯食べに来てるのも、慧音にとっては最高に楽しいことなのさ」
「人の心の内をそこまで堂々と言われては中々立つ瀬がないですが、まぁ事実である以上文句は言いようがないですね」
「そうだったんですか、慧音さん」
「そういうことだ。……あー、なんだ。まぁ、これからもよろしく頼む」
「こちらこそ、是非よろしくお願いします。慧音さん。それに神奈子さんに諏訪子さんも」
「あぁ。さっき言った通りこっちもこうやって気軽に話せる相手に飢えててね。よろしくだ、美鈴に慧音」
「私からもよろしくー。さて、綺麗に落ち着いたところで。店主お替わりー!」
「右に同じく!」
「私もお願いしますー」
「私も頼む」
ちょうどいいことにこの四人は皆健啖家のようだ。こうやって皆で集まって食事するだけでも盛り上がれるだろう。
しかしこんなに神が親しみやすいだなんてビックリだ。こんなことなら関羽さんとも仲良くなれたかもしれない。本当に惜しいことをした。
「そういや美鈴、アンタは関羽と面識あるのかい?」
「いえ、無いですねー。一度お会いしたかったんですが」
「関羽は中々不遜な男でねー。神の中でもかなりの自信家だね」
「お二人はお会いしたことが?是非聞かせていただきたいな」
「神様同士の繋がりってあるんですか?」
信仰を求めて神様同士で争ったりすることもあるのだろうか。そんなことになれば辺り一面焦土になってもおかしくない。
考えてもみれば世界にはあれだけの数の神がいるのだ。もしかしたら既にそういう戦いは起きているのかもしれない。私達のような矮小な存在にはわからないだけで。
「よくゴルフに行ってるよ」
なんつった?
「いやこれが中々面白くてね。アフラマズダが上手いんだまた!」
「ドラコンなら千手観音だね。千本の手でぶん回すアレは凄いよ」
神の世界はどうやらわりと平和らしい。いやまぁ平和なのは何よりなのだけれど。
「それはそうと、美鈴はその時代はどこにいたんだい?関羽と面識がないとなると、魏か呉かお替わりか」
「呉ですね。割と長いこといたんでまぁそこそこには活躍できましたよ。お替わりでー」
「そういえば以前太史慈を役立たずだと言ってたくらいだしな。お替わりを!」
「……もしかして、紅美鈴って偽名?お替わりー」
偽名、というわけではなく、咲夜さん同様に後で付けられた名前なだけ。
当時の異名から先代スカーレット家当主に付けられたこの名前は、今では私のお気に入りだ。
「先代と出会ったのが赤壁でして。私のこの髪の色と、赤を象徴するその場所と、スカーレットの名から紅、という名をいただきました」
「へぇ。とすると美はそのまんま美しい、かな?」
「あるいは、古代王朝において美人とは皇后、貴人に続く后の位の一つ。そういった意味もあるかもしれないな」
「慧音さん邪推しすぎですって……お替わりをー」
先代は目標も無くなって呆けてしまった私を拾ってくださっただけ。
人から妖怪になった私にとって、人から神へと上り詰めた関羽さんは崇高なる存在であり、届かないとはわかっていても手を伸ばし続けていたいと思える目標だった。だからこそ、そんな存在を騙し討った自国を許せず、私は出奔した。
名のある将軍が国を見捨てて出て行ったと知られるわけにもいかず、病死した、だとか蛮族の弓に倒れた、だとか噂を流したようだが、そんなことはどうでもよかった。
全てがどうでもいい、と思った時に拾ってくださったのが先代だったのだ。
「まぁ、美の字はあれですよ、紅なんとか鈴、のなんとかに合うようなのを考えたらそうなっただけだと思いますよ」
「鈴、ねぇ。まったく怖い怖い。ここらで一つ、お替わりが怖い」
「美鈴は怒らせないようにしないとねー。お替わりよろしくー」
「お二方はもうわかったと?むぅ、名前に鈴が付く武将なんていただろうか……まぁお替わりを頼むぞ店主」
慧音さんは中々気付かないだろう。知識の深い部分を覗き込んでいすぎて、目の前にある有名な名前に気付いていない。
それにあの頃、私があんなヤンチャをしていたなんて思う人はそうそういないだろうし。
元は川賊。常に鈴を身につけて戦うことから、鈴の甘寧。そんな異名で呼ばれた日々は遠い彼方。
今の私は紅美鈴。人から神にはなれなかったけれど、私は幸せだ。
「教えてあげよっかー」
「ストップ!待った待った!もうすぐ思いつくから多分!」
「美鈴の正体はねぇ、実は……」
「えぇぇぇぇぇい絶対言うなよ!」
「実はですねー」
「美鈴!お前も言うんじゃないぞ!畜生誰だ鈴ーーッ!」
あとめーりんの解釈が中々斬新ですね。
仮に、中国出身で元人間から妖怪へという設定を採用した場合、武術の達者な妖怪と言うだけあって元有名な武将というのはあり得るなと思いました。しかもきちんと逸話を上手いこと使って整合性を持っているのも素晴らしい。
二次創作で見る魔理沙の強行突破は、
まさかの思いやりの精神なのかw
ブーストかかって難易度上がってると一発で半分ぐらい減らされる酷さは相変わらずなのね
解釈が新鮮でおもしろかったです
球が光ったりするんだろうか…
しかし、慧音に教えてあげたくなったな
紅魔館真っ黒だなw
神々の
遊び
…はゴルフだったw
ラーメン屋www
つか関羽強すぎwwwwそして唐突に出てくるアフラマズダwwww
極めつけはコレ。
>魏か呉かお替わりか
夜中だってのに声出して笑いました。
前作に続き、とても面白かったです。
美鈴=甘寧とは目からスケイルメイルですな
・・・って美鈴、元男???
ホンマ呂布さんは天下無双やで・・・
あれ?もしかして美鈴って裸族なんj(ry
今回のは自爆に近いが。
どうでもいい話師でした。