Coolier - 新生・東方創想話

夏祭り

2009/08/06 01:22:14
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   【注意】百合的描写を含みます。
















夕方、沈む太陽が赤々と湖を照らし出すなか、そのほとりで咲夜は人を待っていた。
ときどき、辺りを見回しては、時計を確認する。そして、ため息をつく。
そこへ、パタパタと元気な足音が近付いてくる。

「すいませ~ん、お待たせしました」
「遅い! 五分も遅刻よ」

謝りながらやってくる美鈴に、咲夜は勢いよく振り向いて言った。

「うひぃっ! ごめんなさい咲夜さん」

びくりと震えて美鈴が謝る。
咲夜はなおも怒りの表情のまま言葉を継ぎ足した。

「まったく、どれだけ待たせるつもりよ」
「すみません、出掛けに湖の妖精さんたちが遊びに来て……」
「なに、私の貴重な時間を浪費しておいて言い訳するつもり?」
「うわあああ、すみませんすみません!」

平謝りに謝る美鈴。
咲夜はやれやれという表情で言う。

「まったく……ほら、行くわよ。こうしてる時間ももったいないわ」
「あ、咲夜さん」

歩き出そうとした咲夜を、美鈴が呼び止めた。
いらいらしながら咲夜が振り返る。

「なによ」
「浴衣、似合ってます、可愛いですよ」
「っ! ………っっ」

瞬間、咲夜は動けなくなった。

「あれ、どうしたんですか。固まって」

美鈴がキョトンとした表情で言う。咲夜は顔を赤くしてプルプル震えながら、一度落ち着くように深呼吸して、

「………っ言うのが遅い! 会ったらすぐに褒めなさい」

怒鳴った。

「わう! ごめんなさい!」

美鈴が怒られた犬のように縮こまる。咲夜はその様子をまだじっとにらんでいたが、やがてフン、と鼻を鳴らすと再び前を向いて歩き始めてしまった。
慌てて、美鈴が後を追いかける。

「わわ、待ってください咲夜さん」



二人は人里に向けて、歩いていた。

「そういえば私の分の浴衣まで、ありがとうございました」
「どういたしまして」
「びっくりしましたよー。着てみたら計ったみたいにぴったりで。あ、それとも時止めて計ったりしたんですか?」
「いいえ、別に」
「やっぱすごいですねー、咲夜さんは」
「……毎日見てるから」
「え? なんか言いました」
「なんでもないわ。それより」

咲夜が首だけひねって美鈴を見やる。

「今日の夏祭りはあなたが案内してくれる約束でしょう。なんで後ろについてきてるのよ」
「え、咲夜さんが先に行っちゃったんじゃ……」
「何か言った?」
「イイエナニモ」

フルフルと首を振って否定する美鈴。

「それでは里までご案内します」
「よろしく」

二人は連れ立って、暗くなり始めている人里への道を歩いた。

「今日のお祭りはすごいらしいですよー。何しろ最終日の本祭ですからね」
「そう」
「メインは盆踊りですけど。咲夜さん、盆踊りって踊ったことあります?」
「いいえ、そんな暇なかったから」
「私は幻想郷では少しあります。楽しいですよ。私の故郷にも似たようなのがあって、ソッチではしょっちゅう踊ってましたが」

広場で踊る美鈴を想像したのか、咲夜がくすりと笑った。

「楽しそうね、主にあなたが」
「ああー、そんな笑い方しないでください」
「だって、想像したらとっても似合ってて」
「うー」

ちょっと不満そうにしていた美鈴だが、すぐににぱっと笑顔になった。

「でも嬉しかったですよ、咲夜さんがお祭りに誘ってくれて。
 前から一緒に行きたいなあ、と思っていたので」

咲夜が美鈴に聞こえないような声で呟く。

「私だって……」
「はい? なんか言いました?」
「なんでもない」

美鈴は首をかしげながら、別の話題を口にした。

「はあ。でも本当、咲夜さんいつも忙しいのによくお仕事空きましたね。
 それもたまたま私の休日と重なるなんて……」
「……がんばって必死に調整したからに決まっているじゃない」
「はい?」
「なんでもない」

咲夜は首を振って、それより、と美鈴を見た。

「急ぎましょう、休みはもらっているけど、やはり早めに帰らないとお嬢様が機嫌を悪くするわ」
「あ、そうですね。二人で休んでしまいましたし」
「きちんと引継ぎはしたから、大丈夫だとは思うけどね」
「はい」

暮れかかる道を、二つの影法師は急ぎ足で駆けていった。





「あら、奇遇ね咲夜」
「え、お嬢様?」

二人が夏祭りの会場に着くと、見知った顔があった。

「美鈴! お祭りって楽しいのね」
「妹様、パチュリー様に小悪魔も」

フランドールに抱きつかれながら、美鈴は驚きの声をあげる。

「どうも、先に楽しんでいるわよ」
「すいません、美鈴さん、咲夜さん。来ちゃいました」

里の中央にある広場の入り口で、太鼓の音や笛の音をバックに、咲夜と美鈴は残る紅魔館メンバーと遭遇した。

「来ちゃいましたって……」

咲夜はまだ状況が良く飲み込めず問い返す。
レミリアはいつものように余裕たっぷりの笑みを見せた。

「ふふ、あなたたちが人里の祭りに行くという話しを偶然耳にしてね。せっかくだから私たちも来てみたと言う訳よ。
幻想郷に来てからまだ参加していなかったことだしね」
「レミィ、本音は?」
「咲夜の浴衣姿が見たかった!」

幼い吸血鬼は日が沈んだということもあって生き生きしている。
紅魔館を先に出たはずの咲夜達より早く着いているのは、きっと空を飛んできたからだろう。
フランドールなどはすでに綿飴を手に持って楽しそうになめていた。

「そんな、せっかく……」

咲夜は思わず漏らしかけた言葉を、慌てて引っ込めたが、パチュリーが耳ざとく聞きつけていた。

「まあ、あきらめなさい。レミリア風に言うなら、これも運命よ、ってやつね」
「作為的な匂いしかしません……」

咲夜はむすっとした顔で言う。

「せっかくの祭りを二人だけで楽しむなんてずるいわよ。レミィも同意見のようだわ」
「そんな、楽しむなら皆さんだけで別々でも構わないじゃないですか。わざわざ二人で出かけた意味がありません」
「わかってないわね、咲夜。あなたたち二人の姿を見るのが楽しいのよ」

咲夜はやれやれと頭を振る。パチュリーは楽しそうに喉を鳴らした。

「ねえ、美鈴、これ少し食べてみない? とってもおいしいのよ」
「わ、ありがとうございます妹様」

咲夜の気持ちに気付くことなく、美鈴はもう楽しそうにフランドールと遊び始めている。
それをみてちょっと苛立ちつつ、自分も切り替えようと咲夜は考えた。
どんなときでも主人を蔑ろにできないメイドの鑑である。

「美鈴、あれやってみたい」
「ああ、盆踊りですか?」
「ボンオドリ?」
「この国の民族ダンスよ、フラン」

レミリアがフランドールにやさしく話しかける。

「へー、お姉さまはやっぱり物知りね」

フランドールが感心したように姉の顔を見上げた。
その様子にパチュリーが笑い出す。

「くっ、くく……」
「どうしたんですか、パチュリー様」
「ふふ、レミィだってちょっと前まで勘違いしていたじゃない」
「ちょっとパチェ!」

レミリアが顔を赤くして制す。

「そうなんですか?」

首をかしげた小悪魔に、パチュリーが笑いながら答えた。

「ええ、それがおかしいのよ。レミィたらね、盆踊りとお盆を一緒くたに考えていたの」
「というと……」

パチュリーはなおもおかしそうにくすくすと笑いながら言った。

「つまりね、お盆、というのは火を焚いて、周囲を踊り狂い先祖の霊を召喚する儀式だと思っていたのよ」
「ははあ、それはまたシャーマンな盆踊りもあったものですね」

美鈴がその場面を想像してシュールな気持ちに襲われる。

「今はそこまでトンデモ儀式な意味はないわ。ただの土地の者の交流よ」

パチュリーに全てをばらされて、レミリアは少ししょげていた。
翼もピョコンと元気なく下がっている。
とりなすように紫の魔女が言った。

「まあまあ、たくさんの屋台も出ていることだし、今は祭りを楽しみましょう。知識なんて経験に比べれば、瑣末なものでしかないわ」
「……そうよねパチェ」
「ええ、ほら、妹様も」
「ねえお姉様、私、今度はあれを食べてみたい」
「ええ、いいわよフラン。あれといわずなんでも食べなさいな」
「わーい!」

吸血鬼の姉妹は仲良く手を取り合ってポップコーンの屋台に向かう。
それにつられて他の面々も移動を始めた。

しばらく紅魔館の六人は祭りを思い切り楽しんだ。フランドールは射的、輪投げ、金魚すくいなど見たことのない遊びに夢中になっていた。



「ねえねえ、美鈴、あれ取りたいんだけど」
「ああ、あのお菓子なら右肩を狙って撃てばいいと思いますよ」
「うん、えい! ……やった、落ちた!」
「おめでとうございます。妹様」

「咲夜、あのぬいぐるみが落ちないわ」
「あんな大きいものを狙うからですよ。妹様のように他の小さなものにしてみては……」
「ふん、紅魔の主があんな小物狙えるか。弾追加!」
「はあ……」



「おいふいでふね。ぱふりーさま」
「小悪魔、口に詰め込みすぎよ」
「ごくん。すいません。でも本当おいしいんです。焼きそばもフランクフルトもお好み焼きも……」
「まあ、祭りの空気で食べるものには独特の味があるわよね。私も何か食べようかしら」
「ああ、ならあそこの一番列が伸びてる奴にしませんか」
「あらほんと、何の屋台?」

『うなぎの串焼きはいかが~。おいしいヤツメウナギですよ~。ちんちん』

「ああ、ミスティアさんですか……」
「商売上手な夜雀ね」



「妹様、大丈夫ですか?」
「うー、これ頭キーンってする」
「ちょっと急いで食べすぎちゃいましたね。かき氷はゆっくり食べるんです」
「うう、いたーい。残り美鈴にあげる」
「あれ、いいんですか? じゃあ………咲夜さん、一緒に食べますか?」
「え!?」
「スプーン一個しかないですけど、はい、お先どうぞ」
「あ……、う……」
「あら、いらないならもらおうかしら」
「いえ、私がいただきますお嬢様!」
「?」



「パチュリー様、金魚すくいやりましょう! 私やったことないんです」
「ええ、いいわよ小悪魔。妹様もいかが?」
「やるー。でも何をするの?」
「こうやって、金魚をすくう遊びよ」
「へー、すくった金魚はどうするの?」
「家に持って帰って飼うことができるの」
「なにそれおもしろそう! やるやる」
「よっ、ほっ。……あ~、もう破れちゃいました」
「小悪魔は下手ね。こうやるのよ」
「わわ、パチュリーうまい」
「えへん」
「なぜかこういうのは上手いんですパチュリー様」
「ねえ、ところでこの魚、なんで赤いのに金魚って言うの?」
「さあ……」
「あなた、今日から紅魚って改名したらどう? うちで飼うんだし」
「妹様、さすがにそれは無茶よ」



祭りは夜がふけても続いた。時間がたつにつれ、妖怪たちの姿もだんだん増えていく。
いつの間にか太鼓は天狗が叩いていた。人間とは違う力強い音が祭りを盛り上げる。

「ふう、遊んだわ」
「いっぱい取りましたね、パチュリー様」
「あの、パチュリー様、小悪魔、さっき金魚の屋台のおじさんが半泣きになっていたんだけど……」

一仕事終えた後のようにパチュリーは汗をぬぐっていた。後ろでは小悪魔が、二十匹近い金魚が入っているビニール袋を両手に二つずつ持っている。

「紅魔の住人を甘く見たあの店主が悪いわ。最初から十匹までとかルールをつけておくべきだった」
「しかもダメだしですか」
「ところで、レミィや妹様は? 姿が見えないけど……」

パチュリーが辺りを見回す。

「ああ、お二人でしたら今美鈴に教わりながら。盆踊りの列に加わってますわ」
「へえ、レミィまで珍しい……」

美鈴はレミリアとフランドールの前に立って手本を見せていた。
姉妹は門番を見よう見まねで踊る。

「妹様、ここで腕のわっかを作るんです」
「こう?」
「そうそう、上手です。で、くるっと一回転」
「いっかいてーーん」
「うまいですよ。妹様。飲み込みが早いですね」
「結構楽しいの。お姉様は?」
「やってみるまでどうかと思っていたけど、悪くないわね」
「ね、やってみれば楽しいんですよ」


パチュリーに咲夜、小悪魔は、踊る三人を微笑ましく見守っていた。なかなかどうして、絵になっている。
レミリアとフランドールなどは、里の子供たちの姿と変わらなかった。
ぼんやりした提燈の明かりを背景に、美鈴と二人の姉妹が踊る姿は、幻想的ですらあった。
これはこれで楽しかったな、と咲夜は穏やかな表情で思う。



やがて、何曲目かを終え、レミリアとフランドールが戻ってきた。

「ふう、なかなか楽しめたわ」

レミリアが満足げな表情で咲夜のところにやってきた。咲夜は買っておいたラムネを渡す。

「それは良かったです」
「人間の祭りもおもしろいわね。これなら来年もきてもいいかもしれないわ」
「お祭りは夏だけではありませんよ。秋にも守矢神社の方たちが計画しているようですし、春にもあります」
「そうなの。フフフ、それは楽しみが増えるというものだわ。
 射的の借りも返さねばならないしね」
「結局取れませんでしたからね」

弾幕ごっこかと思う量の弾をこれでもかというほど浪費して、ついに見かねた店のおじさんが譲ろうと申し出てくれた。
が、レミリアは頑として断ったのだった。
態度だけは立派だったと、咲夜は思う。

「ところで、美鈴は?」
「一曲、最後に踊ってから戻るって言ってた」

んく、んく、とラムネを飲みながらフランドールが答える。咲夜は踊りの円のほうを見た。
老若男女様々踊っている中で、一際高く目立つ紅い影があった。
美鈴の赤い浴衣が翻る。背も高く足も長い美鈴の踊りは美しかった。
ただ、それよりも咲夜が感じたのは、楽しそう、ということだった。

「本当、楽しそうに踊るわね」
「咲夜も思う? 私も思った」

フランドールがきゃらきゃら笑いながら言う。

「あんなに楽しそうなら、もっと早く開放してあげればよかったかな」
「いえ、美鈴は妹様やお嬢様に教えるのも楽しかったと思いますよ」
「そう?」
「ええ」

何でも楽しんでやれるのは、美鈴の美徳だ。


美鈴は本当に一曲だけ踊って、皆の元に戻った。

「えへへ、お待たせしました。わがまま聞いてくださってありがとうございます」
「いえ、良かったわよ。綺麗だったわ」

レミリアが珍しく手放しで褒める。

「あれでは盆おどりではないけどね」

とパチュリー。

「やはり毎日鍛えているからかしらね。太極拳」
「あー、基本は同じですからねー」
「美鈴なら体にしみこんでいるでしょうね」

レミリアは率直にパチュリーが婉曲に褒める。美鈴は少し照れた。
咲夜が美鈴にもラムネを渡す。

「はい、美鈴」
「わー、ありがとうございます」

美鈴がコクコクと喉を鳴らす。

「きれいだったわよ」
「ぷほっ! けほっ、けほっ……」
「あら、大丈夫?」
「さ、咲夜さん、なんですか突然」
「踊りが」
「あ、そうですよね。踊りですよね……」

美鈴は少しむせた後、ラムネを飲み干した。

「はーーー、遊んだ遊んだ。踊ったし食べたし。楽しかったですねー、咲夜さん」
「そうね、楽しかったわ」

咲夜が気付いて時計を見れば、もう真夜中近くになろうとしていた。
少しも祭りの活気が衰えないので、気付かなかった。

「そろそろ帰られますか?」
「そうね、私は堪能したわ。フラン、あなたはどう?」
「楽しかったー」

元気よく答えるフランドールにレミリアはよしよしと頭を撫でる。

「パチュリーは、どうかしら」
「小悪魔、帰ったら後夜祭をやるわよ。ビニールプールを用意しなさい」
「何に使うんですか?」
「取った金魚を解き放ってループ金魚すくいをやるの。取ってはプールに戻し続ける不毛なゲームよ」
「楽しかったみたいね」

友人の言動に高まったテンションを感じて、レミリアは満足げに頷いた。

「それでは帰りましょうか」
「はい、お嬢様」

紅魔館の面々は連れ立って里の出口へと向かった。
太鼓の音、笛の音、祭りの喧騒が、だんだんと遠ざかっていく。
それらは静かに、細く、幽けく、消えていく。
咲夜は何故だか、奇妙に寂しい気持ちに襲われた。



途中。


「――ああ、そうそう、咲夜」

レミリアが、ふと思い出したように言った。

「私たちは飛んで先に帰らせてもらうわ。少し眠くなってしまったから」
「え、突然どうされたんですか?」

パチュリーと小悪魔が、ピン、ときたような表情になる。

「そういえば私たちも疲れたわね。飛んで帰りましょうか」
「ええ、パチュリー様」
「小悪魔にパチュリー様まで、一体……」
「フランも一緒に帰るわよね」
「ん、いいよ」

すぐに察して笑顔になるフランドール。

「私たちもお供します」
「咲夜と美鈴はダメよ」

パチュリーは指を立てて咲夜に言う。

「そんな、何で」
「あなた達には私の金魚を運んでもらうんだもの。金魚は弱いから、飛んだりしたら死んでしまうわ」
「よろしくお願いします」

ここぞとばかり、小悪魔が咲夜の手に袋を押し付ける。

「フランの取った景品もあるしね。大事に運びなさい、咲夜」

有無を言わさぬ調子でレミリアが言った。

「お嬢様……」
「まあ、歩きと飛ぶのでは早さもはるかに違うでしょう」

レミリアは一つウインクする。

「少しくらい遅くなっても、まあ、仕方のないことよね」
「お嬢様」

レミリアはくるりと振り返った。羽を動かして飛ぶ体勢に入る。
そのまま、付け足すように呟いた。

「ああ、それと、咲夜」
「はい」
「この国の浴衣はとてもかわいらしいわ。咲夜、今度私とフランの分も作って頂戴」

首だけ軽くひねり、レミリアは咲夜を見る。

「今日のあなた達、とっても似合っていたわよ」

そのまま、レミリアは空に舞い上がった。
一泊遅れて、二つの意味で言われたことに気づき、咲夜が顔を赤くする。

「じゃーねー、二人とも」
「咲夜、結果報告楽しみにしているわ」
「もー、パチュリー様、それ言ったら台無しじゃないですか」

三人とも思い思いの挨拶をして、空に舞っていった。
あっという間の出来事に、咲夜と美鈴はぽつんとつっ立っている。

「……………」
「……………」

やがて、思わず互いの顔を見合わせた二人は、ばっちり目が合ってしまい慌てて明後日の方向に顔をそらした。

「な、なに赤くなっているのよ!」
「さ、咲夜さんこそ!」

変にどぎまぎして互いの顔を見れなくなる二人。
やがて調子を取り戻した咲夜が、コホンと咳払いする。

「もう、か、帰るわよ!」
「は、はい」






「……………」
「……………」

紅魔館までの暗い道。
二人は沈黙したまま歩いていた。

「……な、何か話しなさいよ」

突然、沈黙を破るように咲夜が言う。
振られた美鈴はしどろもどろに答える。

「え、え? そんな突然言われても」
「全く、雰囲気読みなさいよ。バカ」
「そんなあ、ひどいですよ」
「うるさい中国」

理不尽な叱責に困った顔をする美鈴。
困った思いでは、咲夜も同じだった。



やがて、ふと呟くように美鈴が言った。

「来年も……」
「え?」
「来年も、またこうやって咲夜さんと来たいですね」

そう言って、ニコリと、いつもの笑みを向ける。その屈託のない笑顔に見惚れて、咲夜はすぐに返事を返すことができなかった。
顔をそらして、なんでもないように言う。

「……ふん、まあ、そのときは付き合ってあげてもいいわよ」
「えへへ、ありがとうございます」

周りが暗くてよかった、と咲夜は思った。

「ああ、そうだ荷物持ちますよ咲夜さん。重いでしょう」
「……ああ、そういえば」

咲夜は、ちょっと考えた後、片方の金魚袋を掲げた。

「じゃあ、半分だけ持ってもらおうかしら」
「え? 全部持ちますよ。私力持ちですから」
「いいのよ、半分で」
「でも、片手あいてますよ」
「こうするのよ」







       ギュッ。






(おわり)
「おまけ」



前日談


「ねえ、美鈴。あなた浴衣って持ってる?」
「あ~、着ることがないんで持ってないですね」
「そう、私もなのよ。それで、新しいのを作ろうと思うんだけど」
「いいですね~、きっと似合いますよっ!」
「…………」
「あ、あの、私何か変なこと言いました?」
「……いいえ。ところで美鈴、里で夏祭りがあるらしいんだけど」
「ああ、聞いてますよ、確か明後日までですよね」
「ええ。それで、私ちょうど明後日が休みなのよ」
「いいですね、誰と行くんですか?」
「…………」
「あの……咲夜さん目が怖いんですけど。うっすら赤くなっている気が……」
「……(ゲシゲシ)」
「あっ! いたっ! 何で蹴るんですか!?」




美鈴は気を操るくせに空気が読めない子だと可愛いと思います。
咲夜さんは苦労している姿が可愛いと思います。

友人が浴衣の超可愛い咲夜さんの絵を描いてくれたので勢いで書いてしまった。
地底以外は久しぶりです。


いいじゃない たまにはこんな ベタなのも

それでは、今回もここまでお読みいただき本当にありがとうございました。
ちゃいな
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コメント



0.1460簡易評価
13.90名前が無い程度の能力削除
登場後台詞三つ目で早くもカリスマブレイクするお嬢様かわいいよお嬢様。
16.40削除
誤字報告
>盆踊りをと
盆踊りと

台詞主体で、それぞれの人物の味わいを楽しむことができました。
反面、会話に頼りすぎている印象があります。地の文による描写をさらに加えれば、バランスのいい文章になると思います。
17.100名前が無い程度の能力削除
めーさくいいよめーさくw

浴衣を着た咲夜さんと美鈴を想像したら鼻から何やら赤いものが・・・!
21.無評価ちゃいな削除
コメント返信失礼します。

>13、名前が無い程度の能力さん
おぜうさまは欲望に忠実です。
>16. あさん
誤字報告ありがとうございます! 恥ずかしい……。
会話文に頼りすぎてる……たしかに。次はもっと注意して書いてみます。ありがとうございます。
>17.名前が無い程度の能力さん
めーさくはかなり好きなカップルです。ありがとうございます。
25.100名前が無い程度の能力削除
良いですねぇ。めーさくペアだけでなく、登場した紅魔館メンバーの全員が良い。
30.100名前が無い程度の能力削除
いい!