【注意】百合的描写を含みます。
夕方、沈む太陽が赤々と湖を照らし出すなか、そのほとりで咲夜は人を待っていた。
ときどき、辺りを見回しては、時計を確認する。そして、ため息をつく。
そこへ、パタパタと元気な足音が近付いてくる。
「すいませ~ん、お待たせしました」
「遅い! 五分も遅刻よ」
謝りながらやってくる美鈴に、咲夜は勢いよく振り向いて言った。
「うひぃっ! ごめんなさい咲夜さん」
びくりと震えて美鈴が謝る。
咲夜はなおも怒りの表情のまま言葉を継ぎ足した。
「まったく、どれだけ待たせるつもりよ」
「すみません、出掛けに湖の妖精さんたちが遊びに来て……」
「なに、私の貴重な時間を浪費しておいて言い訳するつもり?」
「うわあああ、すみませんすみません!」
平謝りに謝る美鈴。
咲夜はやれやれという表情で言う。
「まったく……ほら、行くわよ。こうしてる時間ももったいないわ」
「あ、咲夜さん」
歩き出そうとした咲夜を、美鈴が呼び止めた。
いらいらしながら咲夜が振り返る。
「なによ」
「浴衣、似合ってます、可愛いですよ」
「っ! ………っっ」
瞬間、咲夜は動けなくなった。
「あれ、どうしたんですか。固まって」
美鈴がキョトンとした表情で言う。咲夜は顔を赤くしてプルプル震えながら、一度落ち着くように深呼吸して、
「………っ言うのが遅い! 会ったらすぐに褒めなさい」
怒鳴った。
「わう! ごめんなさい!」
美鈴が怒られた犬のように縮こまる。咲夜はその様子をまだじっとにらんでいたが、やがてフン、と鼻を鳴らすと再び前を向いて歩き始めてしまった。
慌てて、美鈴が後を追いかける。
「わわ、待ってください咲夜さん」
二人は人里に向けて、歩いていた。
「そういえば私の分の浴衣まで、ありがとうございました」
「どういたしまして」
「びっくりしましたよー。着てみたら計ったみたいにぴったりで。あ、それとも時止めて計ったりしたんですか?」
「いいえ、別に」
「やっぱすごいですねー、咲夜さんは」
「……毎日見てるから」
「え? なんか言いました」
「なんでもないわ。それより」
咲夜が首だけひねって美鈴を見やる。
「今日の夏祭りはあなたが案内してくれる約束でしょう。なんで後ろについてきてるのよ」
「え、咲夜さんが先に行っちゃったんじゃ……」
「何か言った?」
「イイエナニモ」
フルフルと首を振って否定する美鈴。
「それでは里までご案内します」
「よろしく」
二人は連れ立って、暗くなり始めている人里への道を歩いた。
「今日のお祭りはすごいらしいですよー。何しろ最終日の本祭ですからね」
「そう」
「メインは盆踊りですけど。咲夜さん、盆踊りって踊ったことあります?」
「いいえ、そんな暇なかったから」
「私は幻想郷では少しあります。楽しいですよ。私の故郷にも似たようなのがあって、ソッチではしょっちゅう踊ってましたが」
広場で踊る美鈴を想像したのか、咲夜がくすりと笑った。
「楽しそうね、主にあなたが」
「ああー、そんな笑い方しないでください」
「だって、想像したらとっても似合ってて」
「うー」
ちょっと不満そうにしていた美鈴だが、すぐににぱっと笑顔になった。
「でも嬉しかったですよ、咲夜さんがお祭りに誘ってくれて。
前から一緒に行きたいなあ、と思っていたので」
咲夜が美鈴に聞こえないような声で呟く。
「私だって……」
「はい? なんか言いました?」
「なんでもない」
美鈴は首をかしげながら、別の話題を口にした。
「はあ。でも本当、咲夜さんいつも忙しいのによくお仕事空きましたね。
それもたまたま私の休日と重なるなんて……」
「……がんばって必死に調整したからに決まっているじゃない」
「はい?」
「なんでもない」
咲夜は首を振って、それより、と美鈴を見た。
「急ぎましょう、休みはもらっているけど、やはり早めに帰らないとお嬢様が機嫌を悪くするわ」
「あ、そうですね。二人で休んでしまいましたし」
「きちんと引継ぎはしたから、大丈夫だとは思うけどね」
「はい」
暮れかかる道を、二つの影法師は急ぎ足で駆けていった。
「あら、奇遇ね咲夜」
「え、お嬢様?」
二人が夏祭りの会場に着くと、見知った顔があった。
「美鈴! お祭りって楽しいのね」
「妹様、パチュリー様に小悪魔も」
フランドールに抱きつかれながら、美鈴は驚きの声をあげる。
「どうも、先に楽しんでいるわよ」
「すいません、美鈴さん、咲夜さん。来ちゃいました」
里の中央にある広場の入り口で、太鼓の音や笛の音をバックに、咲夜と美鈴は残る紅魔館メンバーと遭遇した。
「来ちゃいましたって……」
咲夜はまだ状況が良く飲み込めず問い返す。
レミリアはいつものように余裕たっぷりの笑みを見せた。
「ふふ、あなたたちが人里の祭りに行くという話しを偶然耳にしてね。せっかくだから私たちも来てみたと言う訳よ。
幻想郷に来てからまだ参加していなかったことだしね」
「レミィ、本音は?」
「咲夜の浴衣姿が見たかった!」
幼い吸血鬼は日が沈んだということもあって生き生きしている。
紅魔館を先に出たはずの咲夜達より早く着いているのは、きっと空を飛んできたからだろう。
フランドールなどはすでに綿飴を手に持って楽しそうになめていた。
「そんな、せっかく……」
咲夜は思わず漏らしかけた言葉を、慌てて引っ込めたが、パチュリーが耳ざとく聞きつけていた。
「まあ、あきらめなさい。レミリア風に言うなら、これも運命よ、ってやつね」
「作為的な匂いしかしません……」
咲夜はむすっとした顔で言う。
「せっかくの祭りを二人だけで楽しむなんてずるいわよ。レミィも同意見のようだわ」
「そんな、楽しむなら皆さんだけで別々でも構わないじゃないですか。わざわざ二人で出かけた意味がありません」
「わかってないわね、咲夜。あなたたち二人の姿を見るのが楽しいのよ」
咲夜はやれやれと頭を振る。パチュリーは楽しそうに喉を鳴らした。
「ねえ、美鈴、これ少し食べてみない? とってもおいしいのよ」
「わ、ありがとうございます妹様」
咲夜の気持ちに気付くことなく、美鈴はもう楽しそうにフランドールと遊び始めている。
それをみてちょっと苛立ちつつ、自分も切り替えようと咲夜は考えた。
どんなときでも主人を蔑ろにできないメイドの鑑である。
「美鈴、あれやってみたい」
「ああ、盆踊りですか?」
「ボンオドリ?」
「この国の民族ダンスよ、フラン」
レミリアがフランドールにやさしく話しかける。
「へー、お姉さまはやっぱり物知りね」
フランドールが感心したように姉の顔を見上げた。
その様子にパチュリーが笑い出す。
「くっ、くく……」
「どうしたんですか、パチュリー様」
「ふふ、レミィだってちょっと前まで勘違いしていたじゃない」
「ちょっとパチェ!」
レミリアが顔を赤くして制す。
「そうなんですか?」
首をかしげた小悪魔に、パチュリーが笑いながら答えた。
「ええ、それがおかしいのよ。レミィたらね、盆踊りとお盆を一緒くたに考えていたの」
「というと……」
パチュリーはなおもおかしそうにくすくすと笑いながら言った。
「つまりね、お盆、というのは火を焚いて、周囲を踊り狂い先祖の霊を召喚する儀式だと思っていたのよ」
「ははあ、それはまたシャーマンな盆踊りもあったものですね」
美鈴がその場面を想像してシュールな気持ちに襲われる。
「今はそこまでトンデモ儀式な意味はないわ。ただの土地の者の交流よ」
パチュリーに全てをばらされて、レミリアは少ししょげていた。
翼もピョコンと元気なく下がっている。
とりなすように紫の魔女が言った。
「まあまあ、たくさんの屋台も出ていることだし、今は祭りを楽しみましょう。知識なんて経験に比べれば、瑣末なものでしかないわ」
「……そうよねパチェ」
「ええ、ほら、妹様も」
「ねえお姉様、私、今度はあれを食べてみたい」
「ええ、いいわよフラン。あれといわずなんでも食べなさいな」
「わーい!」
吸血鬼の姉妹は仲良く手を取り合ってポップコーンの屋台に向かう。
それにつられて他の面々も移動を始めた。
しばらく紅魔館の六人は祭りを思い切り楽しんだ。フランドールは射的、輪投げ、金魚すくいなど見たことのない遊びに夢中になっていた。
「ねえねえ、美鈴、あれ取りたいんだけど」
「ああ、あのお菓子なら右肩を狙って撃てばいいと思いますよ」
「うん、えい! ……やった、落ちた!」
「おめでとうございます。妹様」
「咲夜、あのぬいぐるみが落ちないわ」
「あんな大きいものを狙うからですよ。妹様のように他の小さなものにしてみては……」
「ふん、紅魔の主があんな小物狙えるか。弾追加!」
「はあ……」
「おいふいでふね。ぱふりーさま」
「小悪魔、口に詰め込みすぎよ」
「ごくん。すいません。でも本当おいしいんです。焼きそばもフランクフルトもお好み焼きも……」
「まあ、祭りの空気で食べるものには独特の味があるわよね。私も何か食べようかしら」
「ああ、ならあそこの一番列が伸びてる奴にしませんか」
「あらほんと、何の屋台?」
『うなぎの串焼きはいかが~。おいしいヤツメウナギですよ~。ちんちん』
「ああ、ミスティアさんですか……」
「商売上手な夜雀ね」
「妹様、大丈夫ですか?」
「うー、これ頭キーンってする」
「ちょっと急いで食べすぎちゃいましたね。かき氷はゆっくり食べるんです」
「うう、いたーい。残り美鈴にあげる」
「あれ、いいんですか? じゃあ………咲夜さん、一緒に食べますか?」
「え!?」
「スプーン一個しかないですけど、はい、お先どうぞ」
「あ……、う……」
「あら、いらないならもらおうかしら」
「いえ、私がいただきますお嬢様!」
「?」
「パチュリー様、金魚すくいやりましょう! 私やったことないんです」
「ええ、いいわよ小悪魔。妹様もいかが?」
「やるー。でも何をするの?」
「こうやって、金魚をすくう遊びよ」
「へー、すくった金魚はどうするの?」
「家に持って帰って飼うことができるの」
「なにそれおもしろそう! やるやる」
「よっ、ほっ。……あ~、もう破れちゃいました」
「小悪魔は下手ね。こうやるのよ」
「わわ、パチュリーうまい」
「えへん」
「なぜかこういうのは上手いんですパチュリー様」
「ねえ、ところでこの魚、なんで赤いのに金魚って言うの?」
「さあ……」
「あなた、今日から紅魚って改名したらどう? うちで飼うんだし」
「妹様、さすがにそれは無茶よ」
祭りは夜がふけても続いた。時間がたつにつれ、妖怪たちの姿もだんだん増えていく。
いつの間にか太鼓は天狗が叩いていた。人間とは違う力強い音が祭りを盛り上げる。
「ふう、遊んだわ」
「いっぱい取りましたね、パチュリー様」
「あの、パチュリー様、小悪魔、さっき金魚の屋台のおじさんが半泣きになっていたんだけど……」
一仕事終えた後のようにパチュリーは汗をぬぐっていた。後ろでは小悪魔が、二十匹近い金魚が入っているビニール袋を両手に二つずつ持っている。
「紅魔の住人を甘く見たあの店主が悪いわ。最初から十匹までとかルールをつけておくべきだった」
「しかもダメだしですか」
「ところで、レミィや妹様は? 姿が見えないけど……」
パチュリーが辺りを見回す。
「ああ、お二人でしたら今美鈴に教わりながら。盆踊りの列に加わってますわ」
「へえ、レミィまで珍しい……」
美鈴はレミリアとフランドールの前に立って手本を見せていた。
姉妹は門番を見よう見まねで踊る。
「妹様、ここで腕のわっかを作るんです」
「こう?」
「そうそう、上手です。で、くるっと一回転」
「いっかいてーーん」
「うまいですよ。妹様。飲み込みが早いですね」
「結構楽しいの。お姉様は?」
「やってみるまでどうかと思っていたけど、悪くないわね」
「ね、やってみれば楽しいんですよ」
パチュリーに咲夜、小悪魔は、踊る三人を微笑ましく見守っていた。なかなかどうして、絵になっている。
レミリアとフランドールなどは、里の子供たちの姿と変わらなかった。
ぼんやりした提燈の明かりを背景に、美鈴と二人の姉妹が踊る姿は、幻想的ですらあった。
これはこれで楽しかったな、と咲夜は穏やかな表情で思う。
やがて、何曲目かを終え、レミリアとフランドールが戻ってきた。
「ふう、なかなか楽しめたわ」
レミリアが満足げな表情で咲夜のところにやってきた。咲夜は買っておいたラムネを渡す。
「それは良かったです」
「人間の祭りもおもしろいわね。これなら来年もきてもいいかもしれないわ」
「お祭りは夏だけではありませんよ。秋にも守矢神社の方たちが計画しているようですし、春にもあります」
「そうなの。フフフ、それは楽しみが増えるというものだわ。
射的の借りも返さねばならないしね」
「結局取れませんでしたからね」
弾幕ごっこかと思う量の弾をこれでもかというほど浪費して、ついに見かねた店のおじさんが譲ろうと申し出てくれた。
が、レミリアは頑として断ったのだった。
態度だけは立派だったと、咲夜は思う。
「ところで、美鈴は?」
「一曲、最後に踊ってから戻るって言ってた」
んく、んく、とラムネを飲みながらフランドールが答える。咲夜は踊りの円のほうを見た。
老若男女様々踊っている中で、一際高く目立つ紅い影があった。
美鈴の赤い浴衣が翻る。背も高く足も長い美鈴の踊りは美しかった。
ただ、それよりも咲夜が感じたのは、楽しそう、ということだった。
「本当、楽しそうに踊るわね」
「咲夜も思う? 私も思った」
フランドールがきゃらきゃら笑いながら言う。
「あんなに楽しそうなら、もっと早く開放してあげればよかったかな」
「いえ、美鈴は妹様やお嬢様に教えるのも楽しかったと思いますよ」
「そう?」
「ええ」
何でも楽しんでやれるのは、美鈴の美徳だ。
美鈴は本当に一曲だけ踊って、皆の元に戻った。
「えへへ、お待たせしました。わがまま聞いてくださってありがとうございます」
「いえ、良かったわよ。綺麗だったわ」
レミリアが珍しく手放しで褒める。
「あれでは盆おどりではないけどね」
とパチュリー。
「やはり毎日鍛えているからかしらね。太極拳」
「あー、基本は同じですからねー」
「美鈴なら体にしみこんでいるでしょうね」
レミリアは率直にパチュリーが婉曲に褒める。美鈴は少し照れた。
咲夜が美鈴にもラムネを渡す。
「はい、美鈴」
「わー、ありがとうございます」
美鈴がコクコクと喉を鳴らす。
「きれいだったわよ」
「ぷほっ! けほっ、けほっ……」
「あら、大丈夫?」
「さ、咲夜さん、なんですか突然」
「踊りが」
「あ、そうですよね。踊りですよね……」
美鈴は少しむせた後、ラムネを飲み干した。
「はーーー、遊んだ遊んだ。踊ったし食べたし。楽しかったですねー、咲夜さん」
「そうね、楽しかったわ」
咲夜が気付いて時計を見れば、もう真夜中近くになろうとしていた。
少しも祭りの活気が衰えないので、気付かなかった。
「そろそろ帰られますか?」
「そうね、私は堪能したわ。フラン、あなたはどう?」
「楽しかったー」
元気よく答えるフランドールにレミリアはよしよしと頭を撫でる。
「パチュリーは、どうかしら」
「小悪魔、帰ったら後夜祭をやるわよ。ビニールプールを用意しなさい」
「何に使うんですか?」
「取った金魚を解き放ってループ金魚すくいをやるの。取ってはプールに戻し続ける不毛なゲームよ」
「楽しかったみたいね」
友人の言動に高まったテンションを感じて、レミリアは満足げに頷いた。
「それでは帰りましょうか」
「はい、お嬢様」
紅魔館の面々は連れ立って里の出口へと向かった。
太鼓の音、笛の音、祭りの喧騒が、だんだんと遠ざかっていく。
それらは静かに、細く、幽けく、消えていく。
咲夜は何故だか、奇妙に寂しい気持ちに襲われた。
途中。
「――ああ、そうそう、咲夜」
レミリアが、ふと思い出したように言った。
「私たちは飛んで先に帰らせてもらうわ。少し眠くなってしまったから」
「え、突然どうされたんですか?」
パチュリーと小悪魔が、ピン、ときたような表情になる。
「そういえば私たちも疲れたわね。飛んで帰りましょうか」
「ええ、パチュリー様」
「小悪魔にパチュリー様まで、一体……」
「フランも一緒に帰るわよね」
「ん、いいよ」
すぐに察して笑顔になるフランドール。
「私たちもお供します」
「咲夜と美鈴はダメよ」
パチュリーは指を立てて咲夜に言う。
「そんな、何で」
「あなた達には私の金魚を運んでもらうんだもの。金魚は弱いから、飛んだりしたら死んでしまうわ」
「よろしくお願いします」
ここぞとばかり、小悪魔が咲夜の手に袋を押し付ける。
「フランの取った景品もあるしね。大事に運びなさい、咲夜」
有無を言わさぬ調子でレミリアが言った。
「お嬢様……」
「まあ、歩きと飛ぶのでは早さもはるかに違うでしょう」
レミリアは一つウインクする。
「少しくらい遅くなっても、まあ、仕方のないことよね」
「お嬢様」
レミリアはくるりと振り返った。羽を動かして飛ぶ体勢に入る。
そのまま、付け足すように呟いた。
「ああ、それと、咲夜」
「はい」
「この国の浴衣はとてもかわいらしいわ。咲夜、今度私とフランの分も作って頂戴」
首だけ軽くひねり、レミリアは咲夜を見る。
「今日のあなた達、とっても似合っていたわよ」
そのまま、レミリアは空に舞い上がった。
一泊遅れて、二つの意味で言われたことに気づき、咲夜が顔を赤くする。
「じゃーねー、二人とも」
「咲夜、結果報告楽しみにしているわ」
「もー、パチュリー様、それ言ったら台無しじゃないですか」
三人とも思い思いの挨拶をして、空に舞っていった。
あっという間の出来事に、咲夜と美鈴はぽつんとつっ立っている。
「……………」
「……………」
やがて、思わず互いの顔を見合わせた二人は、ばっちり目が合ってしまい慌てて明後日の方向に顔をそらした。
「な、なに赤くなっているのよ!」
「さ、咲夜さんこそ!」
変にどぎまぎして互いの顔を見れなくなる二人。
やがて調子を取り戻した咲夜が、コホンと咳払いする。
「もう、か、帰るわよ!」
「は、はい」
「……………」
「……………」
紅魔館までの暗い道。
二人は沈黙したまま歩いていた。
「……な、何か話しなさいよ」
突然、沈黙を破るように咲夜が言う。
振られた美鈴はしどろもどろに答える。
「え、え? そんな突然言われても」
「全く、雰囲気読みなさいよ。バカ」
「そんなあ、ひどいですよ」
「うるさい中国」
理不尽な叱責に困った顔をする美鈴。
困った思いでは、咲夜も同じだった。
やがて、ふと呟くように美鈴が言った。
「来年も……」
「え?」
「来年も、またこうやって咲夜さんと来たいですね」
そう言って、ニコリと、いつもの笑みを向ける。その屈託のない笑顔に見惚れて、咲夜はすぐに返事を返すことができなかった。
顔をそらして、なんでもないように言う。
「……ふん、まあ、そのときは付き合ってあげてもいいわよ」
「えへへ、ありがとうございます」
周りが暗くてよかった、と咲夜は思った。
「ああ、そうだ荷物持ちますよ咲夜さん。重いでしょう」
「……ああ、そういえば」
咲夜は、ちょっと考えた後、片方の金魚袋を掲げた。
「じゃあ、半分だけ持ってもらおうかしら」
「え? 全部持ちますよ。私力持ちですから」
「いいのよ、半分で」
「でも、片手あいてますよ」
「こうするのよ」
ギュッ。
(おわり)
>盆踊りをと
盆踊りと
台詞主体で、それぞれの人物の味わいを楽しむことができました。
反面、会話に頼りすぎている印象があります。地の文による描写をさらに加えれば、バランスのいい文章になると思います。
浴衣を着た咲夜さんと美鈴を想像したら鼻から何やら赤いものが・・・!
>13、名前が無い程度の能力さん
おぜうさまは欲望に忠実です。
>16. あさん
誤字報告ありがとうございます! 恥ずかしい……。
会話文に頼りすぎてる……たしかに。次はもっと注意して書いてみます。ありがとうございます。
>17.名前が無い程度の能力さん
めーさくはかなり好きなカップルです。ありがとうございます。