K 慧音
Y 紫
E 永琳
S スカーレット
Y 幽々子
この五人こそが幻想郷を守る、異形にして剣「ケシー」。
彼女らこそが幻想郷の支配者なのだ。
~稗田阿求著「幻想郷縁起 稗田家秘伝編」~
~寺子屋 教室~
「だから、何故あなたがたがここにいるのか!」
慧音は教卓を叩きながら憤慨していた。
「くそっ……秘密が漏れぬよう最新の注意を払ったはずなのに……!」
基本的に伝達手段は口頭のみ、もし相手が断ったならば歴史を食す、
本日行われる会合は誰にも気づかれぬように、そういう予定であった。
「まぁまぁ、落ち着きなさいな、私達がこうして集った以上、問題は無いはずでしょう?」
「あなた方が集まっているから問題なのだろう!!」
「……私達だって、好きで集まったわけではないわ」
「その言いたくなる気持ちは分からないでもないが……」
横に長い机に並んで座る四人の女性達、
その中の一人、紫は慧音を落ち着かせようと話しかける、
しかし慧音は両手で頭を抱えながら色々と訴え続けた。
「私は……平和な花嫁修業がしたいのだ……!」
花嫁修業、それはいいお年頃を迎える女性達にとって大切なこと、
本日ももうすぐ成人を迎える里の者達との合同修行会の予定であった。
「酷いわね、私達がいると平和に修行ができないとでも?」
「今までにあなたがたがしでかした出来事を覚えているのか!」
「っ……!」
紫が黙り、場を沈黙が包む、他の招かれざる参加者達である、
永琳、レミリア、幽々子の三名も一様に口を閉じていた。
「過去三回の参加者四十二人の内、修行中の事故による怪我人が三十八名、
その全ての事故の原因となったのが、怪我をしなかった残りの四名によるもの」
その四人の視線が何も無いほうへと動く、
わずかに流れる冷や汗がなんとも言いがたい。
「そんなに……嫌か?」
慧音のその言葉に、四人がぴくんと反応する。
「そんなに自分以外の女性が結婚していくのを見送るのが嫌か?」
しばらくの静寂の後、紫が両手で顔を覆う、
永琳は机に突っ伏し、幽々子は涙を浮かべ、レミリアはひたすらに歯を噛み締めていた。
「嫌なのか……」
幻想郷独身女性の会、会長八雲紫、副会長西行寺幽々子、
顧問八意永琳、理事レミリアスカーレット、いずれも屈指の独身女性たちである。
「……私だって、嫌だ」
慧音が振り絞るように放ったその言葉に、四人の視線が一同に注がれる、
そう、彼女達は敵対する必要のない、同志だったのだから。
「わかった、一緒にやろう」
『慧音……先生』
「そして結婚するんだぁぁぁ!!」
『おおおおおっ!!』
そして彼女達のつらく苦しい修行が始まるのだった。
◆
「それではまず家事の基本中の基本、炊飯から始めよう」
花嫁修業第一の難関、美味しいご飯を炊こう、
一同は台所に移り、かまどの前に集った。
「では紫殿から」
「わかったわ」
最初の挑戦者は八雲紫、彼女は日本で長く生きている妖怪なだけはあり、
慣れた手つきで器に米をすくい、そのまま釜へといれた。
「あとは手の甲が浸るかどうかまで水を入れるだけ」
「待て待て待て待て!」
当然ながらここで止めが入る、俗に言う慧音ストップである。
「紫殿、大事なことを忘れていないか?」
「大事なこと?」
「まずお米を洗おう」
「……はっ!!」
一億二千万の日本人の中で、およそ六百万人がやってしまうといわれる研がずに炊飯、
通称『こいつはくせえ! ヌカの臭いがプンプンするぜ!』である、
最近は無洗米が業界を荒らしているため、熟練者でもついやってしまうとか。
「危なかった、私としたことが……ご飯入れて、お水入れて、洗剤っと」
「待てぇぇぇぇ!!」
慧音ストップ。
「何故だ! 何故洗剤を入れる!」
「え? だって洗うんでしょ?」
「悪かった! 研ぐと言わなかった私が悪かった! だけど米は水洗いだけでいいんだ!」
「……ほ、本当に?」
「本当だ!」
米を洗剤で洗ったことのある日本人はおよそ百二十万人と言われる、
そしてその中のさらに一厘にも満たない者は、洗剤をも超える漂白剤で米を洗うそうだ、
通称『医者と胃洗浄の準備はよろしいか?』である。
「と、とりあえず紫殿はここまでにしておいて、次はレミリア殿に炊いていただこう」
「洋食派なんだけど」
「結婚したくないんだな」
「炊かせていただきます」
今度はレミリアが米びつから米をすくう、そしてそこからの手つきは非常に慣れたものであった、
しっかりと研ぐように洗い、釜にいれた後の水の分量も申し分ない。
「洋食派といいながら、しっかりと勉強しているようだな」
「た、たまたま図書館で手に取った本が家事の本だっただけよ! それだけなんだから!」
「分かった分かった、さて釜戸の火だが……」
始めちょろちょろ中ぱっぱ、これが炊飯のセオリーである、当然幻想郷でも変わらない。
「分かってるわ、任せて頂戴」
「そうか、ではお手並み拝見するとしよう」
「いくわよ……点火と書いて」
レミリアは自分の手のひらに炎を作り出すと、そっと釜戸の中に手を入れた。
「イグニッション!!」
そして釜は空を飛んだ。
「……無事に周回軌道に乗ったわ」
「乗せてどうする!!」
「大丈夫、太陽光線によってきっと美味しいお米に炊き上がるはずよ」
「ほう……で、それをどうやって食べるんだ?」
「レミちゃんわかんなーい」
「せいっ!!」
「ぐっ!?」
鈍い音が台所に響き渡る、慧音の金剛石頭による頭突き、
通称『グランドバスター』そう命名したのは生徒である、
勿論吸血鬼であろうとも数分ほど流れ続ける痛みに苦しむ他はない。
「こうなれば幽々子殿、日本舞踊すら極めた大和撫子であるあなたに見本を……」
「げふっ」
「……待て、げふっとはなんだ、げふっとは」
「米は生で食すもの?」
「食べた後に疑問系で言うなぁぁぁぁぁぁ!!」
米を生で食べる、そんなことはありえないと世の人間は言うだろうが、本当にそうだろうか?
ほんの一粒や二粒、興味本位で食べたことがないとはいわせない、
通称『最初はちょっといけると思ったけど、やっぱ駄目だ』である。
「永琳殿、あなたが、あなただけが頼りです……!」
「任せなさい、月の頭脳の全てを駆使しておいしいご飯を炊き上げてみせる」
その頭脳はもっと別なことに使われるべきなのだが、突っ込む余地はない。
「米をすくい、水で洗い、釜に仕掛ける、水をいれ、蓋をし、火をつける」
それは単純にして完璧、言葉どおりに彼女は動いた、ただそれだけのこと、
だが必要なのはその単純さである、洗剤や爆発など必要ないのだ。
「始めは弱火、そして……一気に火力を上げる!!」
釜戸の火が荒れ狂い、釜へと襲いかかる、
それはその場にいた五人が求めていた夢の光景でもあった。
「美しい……これが、ご飯を炊くということなのね」
「なんて幻想的……私の故郷では知ることのできない日本の文化……」
「死してなお、私はこの生の食欲から逃げられない」
「ああ、姫、私はこの境地にたどり着くまで何億年かかったのでしょうか」
流れる涙を拭おうともせず、食い入るように見つめる四人、
ただ、慧音だけは四人とは違った目つきで釜戸を睨んでいた。
「だが、本当の戦いは……これからだ」
『――!?』
それは究極の難関、今までに幾多もの炊飯家を葬ってきた罠。
「赤子泣いても――蓋取るな!」
蒸らし、それは炊飯の最後を飾る工程、決して蓋を開けてはならないパンドラの箱、
これを守れずに、米の食感を気づかぬ内に崩してしまった者の数は数千万。
「あ、開けたい……中を確かめたい!」
「駄目だ! こらえるんだ永琳殿! 今開けてしまえば何が起きるか分からない!!」
釜戸に近づこうとする永琳を後ろから羽交い絞めにして止める慧音、
それでも永琳は何かに取り付かれたかのように、釜戸の蓋へと手を伸ばし続ける。
「お願い放して! ちょっとだけ! ちょっと見るだけだから!!」
「初めて炊き上げたご飯だ、その気持ちはわかる! だけどここを堪えなければいけないんだ!!」
「いやぁ! 見たいの! 見せて! 私に中を見せて!!」
「駄目だ! 行ってはいけな……はっ!」
その時慧音は気づいた、この場にいるのは五人、
そして蓋の中を覗きたがるのは自分以外に四人もいることを、
そして釜戸の傍に残りの三人がすでに立っていることを。
「白米……藍が作るような綺麗なご飯……」
「1、2の3で開けるわよ、いいわね?」
「任せて~、い~ち、にぃ~」
「や、やめるんだーーー!!」
『さんっ!!』
後のお米異変である。
参りました
この作品を皮切りに、いろいろな作家がケシーを書くことになったりして。
後のケシー異変である。
色々な意味で
どんな進化だと思ってたら作者が違って二度ビックリ。
最高だ!
5分前は正常だった私の腹筋を返せwww
早く結婚できるといいな幻想郷独身女性の会!
重箱の隅突きになりますが誤字を
>あなただけが便りです
頼りかな?
しかしなんでご飯炊くだけでこんなに大騒ぎできるんだよこいつらwww
いつもの混ぜ人さんで安心しました。
シ……したい
|……!
ですね、分かります
結婚イエスイエアですね
手遅れになる前に何とかしないと!
いやあ、原作とは異なったケシー's コミカル・ワールドをありがとうございます!大変面白く有意義な作品でした!私も、大いに参考にさせていただきたく思います!
今回はフリーレスで失礼します。
お話も面白かったです、特に周回軌道に乗ったで吹きました。
次回にも期待しています!