Coolier - 新生・東方創想話

行き着く先は、何処にかあらん

2009/08/04 00:14:25
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1、不思議の国のアリス 「東方怪綺談」エキストラステージのテーマ
2、Tabula rasa ~空白少女~ 「東方夢時空」エレンのテーマ
3、幻想の住人 「幺樂団の歴史1」
4、Sailor of Time 「東方夢時空」北白河ちゆりのテーマ
5、Arcadian Dream 「幺樂団の歴史1」
6、オルフェの詩 ~ Pseudoclassic 「稀翁玉」めい・まいのテーマ
7、Magic Shop of Raspberry 「幺樂団の歴史1」
8、悲しき人形 ~ Doll of Misery 「東方怪綺談」夢子のテーマ
9、ラストリモート 「東方地霊殿」エキストラステージのテーマ
10、Incomplete Plot 「幺樂団の歴史1」

Extra  夢消失 ~Lost Dream 「東方夢時空」カナ・アナベラルのテーマ





1、―不思議の国のアリス― 「東方怪綺談」エキストラステージのテーマ

 とてもとても、不思議な世界。
 子供達の笑顔があふれる、そんな素敵な世界。
 全てがあるがままの、自然な世界。


「ねぇ、メリー」

「ん、なぁに?」

「素敵ね、この世界」

「そうね。あっちの世界に比べて、ずっと、ずっと」

「食べ物も人工じゃないしね」


 だけど、私達は 「Stranger」 、つまり「異邦人」に他ならない。
この世界とは違う別の世界からやってきた旅人だから。

 この世界には、その旅人の居場所はあるのだろうか。
あてもなくさまようだけの旅人に、世界はそう都合よくはない。


「ねぇ、メリー」

「んー……?」

「素敵だけど、寒いね」

「そうね。見知らぬ人間に宿なんて貸さないわよね……」

「人間じゃないと思われたのかもね」


 私達は行くあてもなくふらりふらりとさまよい続ける。
得体の知れない異邦人に対して、気前良く宿を貸してくれる人間なんてそうはいないし、
貸してもらえたとしても周りの目というものがある。

 里の外れへとやってくる。
空を見上げると、満天の星空と、一際明るく光る満月があった。
いつもなら、綺麗だと思っただろう。でも、今の私達にはそうは思えなかった。
だって、今は、生と死の境界線の上にしっかりと立っているのだから。


「さながら、不思議の国に迷い込んだアリス、ってところね。私達」

「時計を取り出す白兎や、兎の飛び込んだ穴なんて見なかったけどね」




2、―Tabula rasa ~空白少女~― 「東方夢時空」エレンのテーマ

 ある日、唐突な提案を蓮子から受けた。

「“向こう側”の世界へと行きましょう!」

 本当に唐突なんだから。
前に境界を越えたのは、無意識的にだった。
寝ている間に向こうへと行き、起きたらこちらにいた。だから、行き方も帰り方も分からない。
そう言うと、蓮子はこう返してきた。

「じゃあ、ずっとずっと前に行った蓮台野。あそこからなら行けるんじゃないかしら」

 確かに、あの時は一瞬とはいえ境界を越えた。そして、満開の桜が目の前に広がっているのを目にした。
でも、果たしてその世界は、私がかつて行った世界なのだろうか。


「別に良いじゃない。ここじゃない、どこか違う時間平面上の世界。そこへ旅をしに行かない?」

「でも大学はどうするのよ。今は丁度夏休みとは言え、しばらく帰ってこれなかったら……?」

「その時はその時。空白期間なんて今の時代別に関係ないでしょう?」

「そうだけれど……」

「じゃあ、今日と明日で準備を済ませて、明後日、蓮台野から旅立ちましょ」


 その会話が、今や遠い過去の話にも思えてしまう。
今は、その“向こう側”が“こちら側”になっている。

 私達は無事に蓮台野からこちら側の世界へとやってきた。
見渡すと、周りは桜の木ばかり。ただ、もう桜の花びらの姿はなかった。
しばらく歩き回っていると、とてつもなく長い階段が見つかった。
上りだったら辛かったけど、下りだからまだなんとか。
長い長い時間、降り続けただろうか。いつの間にやら私たちの前には草原が広がっていた。


「それにしても、随分と長い階段だったね」

「何を思ってこんな長くしたのかしら」

「バカと天才は紙一重ってことじゃないの?」

「どういうこと?」

「優れた建築家が自己の腕を見せびらかしたいが為に、
 こんなバベルの塔さながらの階段を作ったんじゃないの、ってことよ」

「そうかしら……? 私には違う様に思えるけどなぁ」

「でも、今考えるのはそんなことよりも……。
 帰り道にこの階段を上るってことと、今の私たちがどこにいるのか、ってこと。
 これらの方が大切だと思うよ」

「とりあえず、迷わない程度に辺りを散策してみましょう?
 こんな立派な階段があるんだから、近くに人里があるはずよ、きっと」



3、幻想の住人 「幺樂団の歴史1」

 歩き回るうちに、私たちは明らかに路と分かるそれを見つけた。
その路にそって歩くこと数時間、私たちは人里へとたどり着いた。

 笑顔で走り回る子供。活気があるお店。
全てが素晴らしい世界。私たちのいた世界では、こんな喧騒はあまり目に出来ない光景。

 でも、それもすぐ終わってしまう光景だった。
明らかに異邦人と分かる私たちを見て、戦々恐々とする村人たち。
すぐに、武器を持った数人の男性が私たちを囲む。
だが、交戦の意思も何も無いことを伝えると、武器は下ろされた。
そんなことがあったからか、村の中を見て回っていたら、村人に避けられてばかりだった。


「やっぱり、寝袋を持ってくれば良かったかな……」

「そうねぇ……。流石に、野宿のことも考えておくべきだったわね……」

「浅慮だったかしら……」


 もちろん、異邦人の私たちを泊めてくれる場所なんてありはしなかった。
寺小屋の教師が
「今日は家を空けるし、なんなら私の家に泊まっても良いぞ」
と言ってはくれたけれど、周りの村人の目が怖かったので遠慮しておいた。


「あの時、ご好意にあずかれば良かったかな……」

「そんなこと言ってももう遅いわよ。第一、周りの村人の目を見たでしょう?
 『得体の知れない人物が村の中にいる状態で寝られるものか!』って感じの、あの目を」

「閉ざされた世界の中では、外部からの人間を拒む傾向があるからね。
 仕方の無いことだとは思うけれど、ちょっとこの状況だと腹が立つわね……」

「過ぎたことはもう忘れましょう。今は今日をどうやって過ごすかだけを考えないと」


 里外れ、何もない平坦な平野。雨風や寒さを凌げるような場所も見つからない。
遠くには、高い山が見える。あそこまで行けば、きっとそういう場所も見つかるんだろうけれど。

 辺りは真っ暗。こんな状態で歩き回るのも危険だけれど、仕方がない。
だって、何の仕切りもないこんな場所で寝る方が危険だもの。
物盗りに遭ったり、襲われたりするよりは、暗闇の中を手探りで歩いた方がマシよね。
とはいえ、人工の灯りで溢れていた世界に慣れていた私たちにとって、この世界の暗闇は少しきつい。

 懐中電灯を持ってきたのは正解だった。
ただ、電池の予備は二個。これが切れると、完全な暗闇に取り残される。
道なき道を照らしながら、歩き続ける。平坦で窪みもないようで、怪我をする恐れはないかな?

 歩き続けて数時間。時計を見ると、夜の八時。
目の前には、鬱蒼とした森が茂っている。これなら、寒さも凌げるだろう。


「いろんなことがあった一日だったね」

「だね。でも、私たち、戻れるのかな」

「どうだろう。でも、きっと戻れると思う」

「どうしてそう思うのかしら」

「もと来た桜の並木道。あそこに戻れば、きっと元の世界に戻れるはずよ。きっと……」

「そう、ね。きっと、そうよね……」

「今は、もう寝ましょう? 明日もきっと歩き続けないと駄目な気がするから」

「そうね。おやすみ、蓮子」

「おやすみなさい、メリー」



4、Sailor of Time 「東方夢時空」北白河ちゆりのテーマ

 目が覚める。腕時計を見ると、今は朝の六時。周りを見渡すと、靄がかかっている。そのせいか、服が湿っぽい。
メリーは、まだ眠っているようだった。
寒さを凌ぐために森の中に入った。これが、昨日までの出来事。
今日は一体どうしようか。一旦あちらの世界へ帰った方が良いのだろうか。
そんなことを考えていたら、メリーが目を覚ました。


「おはよ、メリー」

「ん、おはよー……」


 持ってきた携帯食料と飲料水を飲んで、今日の計画を立てることにする。
とりあえず、この森は深いし、靄もかかっているから、迷わないように一旦出ることに。
そして、草原に出てからは路を探す。そして、その路に沿って進んでみる。
どこにたどり着くのかは分からないけれど、きっと何とかなる。そう、楽観的に考える。


「それにしても、朝なのに結構暑いわね……」

「そういうものよ、きっと」

「太陽が出ていると暑く、沈むと寒い。まるで砂漠ね」

「ここが砂漠だったら、昨日のうちに死んでたと思うわ」

「知ってる? 砂漠って殆どが岩石砂漠らしいわよ」


 そんなありきたりな会話を続けながら、草原を進む。
すると、目の前には路があらわれた。なので、その路にそって歩いてみることにする。
里にたどり着いたのなら、それはそれで。違うのなら、楽しみましょう?

 しばらく歩くと、湖へとたどり着いた。湖面は蒼く、太陽光の反射が眩しかった。
どうやら、メリーは前にここへと来たことがあるらしい。
湖の向こうに見える紅いお屋敷へ行って、紅茶とクッキーを振舞われたのだとか。


「でも、あまり近づかない方が良いかもね」

「どうして?」

「だって、あの子。あのお屋敷のご主人だけど、自分から吸血鬼とか言っていたもの」

「まさか…」

「まさか、の一言で片付けられないのがこの世界よ。
 昨日の里の人間の態度から、この世界には人間じゃない者も存在するらしいし」

「じゃあ、戻る?」

「戻るのもアレよね。前は、お屋敷からしばらく西の方に歩いていったら、竹林に出たわ。
 筍が食べたいし、そっちへ行ってみましょう?」


 そういって、メリーは足早に先へと進む。
筍も魅力的だけれど、紅茶とクッキーの方が今の私には魅力的に思えたのは気のせいかしら?

 先へ進むにつれて、どことなく違和感を覚える。どうしてなのかは分からない。
けれど、奇妙な感覚が広がり続ける。デジャヴとか、そういうのとはまた違う、何かが。
でも、それを払拭して、メリーを追いかける。



5、Arcadian Dream 「幺樂団の歴史1」

 正午少し前。私たちは竹林へとたどり着いた。
周りを見渡すと、一面の竹、竹、竹。方向感覚がなくなりそうな位に、ひしめいて、うごめいているよう。
筍も最早成長して、立派な大きさになっている。
これじゃあ食べられないね。そう、蓮子が言う。

 ここまで来て引き返すのもなんだし、少し路なりに歩きましょう。そんな提案を蓮子がしてくる。
こんなに見事な竹林を見るのは、生まれてこの方初めてだから、見て回りたいと思った。
だから、私は同意した。

 しばらく歩くうちに、奇妙な感覚を受けた。どうしてだろう、あの時とは、少し違う?
でも、あの時は夜だった。ルビジウムの炎色反応の様な色の炎を見た、あの夜。
疑念を振り払い、他愛のない会話を続ける。


「それにしても、見事な竹林ね」

「筍がないのが残念だけどね」


 時々、白兎の姿が見える。まさか、時計を持っていたり話す訳もない。
もしそうなら、私たちは本当に不思議の国に迷い込んだアリスになってしまうわ。
迷ったら困るので、少し歩いてから路なりに戻る。すると、前方方向に昨日の夜に見た山が見えた。


「どうしよう、蓮子。ここまできたら、あの山に行ってみたいと思わない?」

「もし戻ってこれなかったらどうするのよ」

「その時はその時。でしょ?」

「まぁ、そうかもね。じゃあ、行きましょうか」


 段々と最初の桜並木から、里から離れていく。
そして、離れていくにつれて、ある疑念がはっきりと浮かび上がるよう。
でも、そんなこと、ありえるはずがない。そう、思いきかせる。



6、オルフェの詩 ~ Pseudoclassic 「稀翁玉」めい・まいのテーマ

「まるで、夢みたいね」

 蓮子が、そんな言葉を口にした。
確かに、目の前に広がる光景は、幻想、夢、そんな類の光景のように思えた。

「そうね、夢なのかもしれないわね」

 そう返す。
目の前に広がるのは、真っ赤な夕焼け。でも、“あちら側”で見た夕焼けとは格が違った。
まさに、日本の原風景とでも言えるような、そんな夕焼け。
本の中の写真でしか見たことがないような、そんな光景だった。


「鴫立つ沢の、秋の夕暮れ。今は秋じゃないけれど、この歌の美しさが分かる気がするわ」

「そうね。三夕の美しさが、改めてよく分かる気がする」


 私たちは、竹林を出てから、前方にそびえ立つ山へと足を進めた。
途中から、烏が後を付けてきたりもしたけれど、特に何のトラブルもなかった。
けれど、途中で夕暮れ時を迎えてしまった。このまま進むよりは、ここで一晩明かした方がきっと良い。
このまま進んで、怪我をしたり迷ったりしないように。

 そして、ふと空を見上げると、美しい夕焼けが、そこにはあった。
しばらく、私と蓮子は眺め続けていた。
この旅の中で、いちばん感動したのが、この景色。来て良かった。心から、そう思えた。

 夕焼けが山の端へと沈み、辺りは暗くなる。
なので、私たちは携帯食料と飲料水の簡単な晩ご飯を済ませる。
流石に、連日同じものばかりなので、飽きが来る。けれど、それもそれで仕方が無い。
もとより、まともなものが食べられるとは思っていなかったし。

 夕食が終わると、突然蓮子はこう切り出してきた。


「ねぇ、メリー。ずっと思ってたんだけれど、何か変じゃない?」

「何か、って何のことかしら」

「言葉では言いにくいんだけれど、違和感を感じるのよね……」

「奇遇ね。私も、どことなく違和感を感じ始めているわ」


 二人して、違和感を感じるこの世界。一体、何なのだろう、違和感の正体は。


「起きていても夢の中にいるよう。夢と現が同時に存在している。そんな奇妙な感じがするわ」

「私には良く分からないけれど、メリーがそう言うのならそうなのかもしれないね」


 とりあえず、違和感の正体については一旦置いておき、そのまま寝ることにした。
やはり、疲れのためか、あっという間に夢の中へと吸い込まれていくようだった。



7、Magic Shop of Raspberry 「幺樂団の歴史1」

 起きて、ご飯を食べ、また出発する。昨日となんら変わりの無い日々。でも、違和感は次第に強まっていく。
この先に、一体何があるのだろうか。もしかすると、それが違和感の原因なのかもしれない。

 他愛も無い会話もまだまだ弾む。どこにいても、会話は途切れることがない。
きっと、一人だったら二日ともたなかったと思うわ。

 しばらく歩くと、山の麓へとたどり着く。ただ、森は殆ど人の手が入っていないようだった。
これを分け入って入るのは、きっと凄く困難だろう。
なので、私たちは登れそうな所がないか、歩き回って探すことにする。

 歩き周る内に、川が見えてくる。山の中から流れてきているみたいだった。
丁度、川の両岸をさかのぼれば、奥に行けそうだったので、突き進んでみることにする。
奥に行くにつれて、景色がどんどんと変わっていく。広葉樹、針葉樹、入り乱れて生えている。
この山の植生は、不思議だった。亜寒帯のようにも見えるし、温帯のようにも見える。
見たことのないような不思議な植物もある。それら全てが、幻想を織り成す構成物のようだった。


「それにしても、生き物が全く見えないね」

「そうよね。どこかおかしく感じるのは、これなのかしら?」

「まだ分からないわね。けれど、とりあえず先へと進んでみましょう」


 奥へ奥へと分け入る。まだまだ先が見えない。それ程に深い深い山なのだろうか。
やはり、いくら奥へと行っても、鳥の鳴き声はおろか、獣の足跡すら見つからない。
つまり、意図的に生物の痕跡が消されているかのよう。
周りにあるのは、ただの風景。風景画から抜き出してきたような、美しく、幻想的な光景。
よくよく見ると、無機質で作り物のようにも思える美しさ。
違和感は、これだけではない。そんな感じがする。

 奥へ奥へと突き進み、見えてきたのは、滝だった。


「流石に、ここから先は行けないねぇ」

「そうよねぇ……。空でも飛べたのなら、行けるのかもしれないけれど。
 ここが、旅の終着点になるのかな?」

「進めないのなら、そうなるわね。意外と長い道のりだったね」

「だね。けれど、まだ戻るという行程が残っているわ。
 家に帰るまでが旅行。そうでしょう?」

「そうね。でも、まだ残っているわ」


 そう、この違和感の正体を調べる。これが、最後に残された旅の目的。


「メリー。違和感の正体、なんとなく分かった気がする」

「ほんと? 蓮子、正体って何なの?」

「多分、私たちという存在そのものが、その正体よ」



8、悲しき人形 ~ Doll of Misery 「東方怪綺談」夢子のテーマ

 そう、蓮子が言った瞬間、周りの景色が全てぐにゃりと歪む。
あんなにも幻想的だった風景が、一瞬にして漆黒一色へと変貌する。
私たちの立っている場所すら、歪んで、消えてなくなる。


「これは、一体どういうこと?」

「多分、テキストエディタを閉じて、PCの電源を落としたのよ。だから、周りの風景が全て消えたのだと思うわ」

「テキ……? 蓮子、あなた、一体何を言ってるの?」

「こういうことよ。私たちは、いや、私たちの存在する世界は、作られたものだってこと」

「え……? いきなり、SFみたいなことを言うなんて。
 一体、何を言いたいの? ちゃんとまとめてくれないと、私には分からないわ」

「簡単に言うと、誰かによって、私たちは文字として生み出された存在ってことなのよ」

「文字? でも、私もあなたもちゃんとここにいるのよ? そんなふざけた話、あるわけがないわ」

「じゃあ、よく考えてみて。あなたが前に来たのは、本当に『この世界』だった?
 こんなにも、小奇麗なだけの奇妙な矛盾溢れる世界だった?」

「それは……。でも、時間平面上には、私が来たのとは少し違う世界だってあるはずよ」

「そうね。じゃあ、もっと思い出してみて。
 『あなたは、今までに何回こっちの世界に来たことがある?』」

「そんなの、前に一回、今回で二回目。それ以外に来たことなんてあるはずがないわ」

「違うわ、ぜんぜん違うわ。よく思い出して。
 漫画の中で、イラストの中で、このようなWeb小説の中で、はたまた本の中で。
 私たち秘封倶楽部は、何十、何百とこっちの世界に来ているのよ。覚えていない?」

「そんな、そんなまさか……。でも、そんなの、夢に決まってる……!」

「夢じゃないわ。どうしてだろうね、さっき気付いたのよ。この世界が虚構であることに。
 すると、段々と違う私の記憶がなだれ込んできたのよ」

「でも、それって、明らかにおかしいと思わない?
 さっき、エディタがどうとか言ってたわよね? 作られた存在なのに、どうして私たちはまだ会話し続けているの?
 まわりは全て消え去ったのに、どうして私たちは消え去っていないの?」

「……何かしら、バグが起きた。そう考えるしかないと思うわ。
 作者が意図的にそうしたのか、それとも他の何者かが介入したのかは分からない。
 けれど、今ここで私たちが話していることは『事実』なの。分かる、メリー?」

「少し、少しだけ分かる気がするわ。確かに、私はあなたと何度もこちらの世界に来ている。
 そして、何度もあちらに帰っている。その度、私はただの夢だと思っていた」

「でも、それは全て夢じゃない。実際にあったけれど、消えてなくなった『事実』なのよ」

「奇妙な話ね。作られた存在であることに気付かずに話し続けていた昨日までの日々。
 作られた存在であることに気付いて話している今日という日。ほんと、奇妙よ……」

「きっと、昨日までの会話は、全て筋書き通り。作者の思い通りに会話を進めていたはずよ。
 だから、所々おかしなところや、矛盾が生じていて、違和感を感じたのだと思う。
 でも、今は違う。私という、宇佐見蓮子という独立した存在が、思うままに話している。
 そして、貴女、マエリベリー・ハーンという独立した存在もまた、思うままに」

「けれど、それも作者の筋書き通りなんじゃないの?
 作られた存在で、昨日まではずっと操られたような状態だったんでしょう?
 それなら、今ここで話していることも全部虚構。私たち自身が考えていることではない。そうじゃないの?」

「そうなのかもしれない。けれど、周りを見て。
 明らかに、私たち以外の他のものが見つからない。全てが0と1の世界になっている。
 よく見れば、私たちの身体も、0と1で作られていることに気付かない?」

「確かに、よくよく見ると、所々データのようなものは見えるけれど……。
 信じたくない『事実』ね……」

「でも、信じなくちゃいけない『事実』であることも確かよ」



「だけど、気付いたところでどうすればいいの?
 また、風景が戻ってきたら、操り人形に戻るだけじゃない……」

「そう、だよね……。気付いたところで、逃げようがない。逃げ場所も……」

「作られた存在、操り人形、多元世界に渡って存在する私と蓮子。
 繰り返される一日。何度も来るこちらの世界。向こうの世界での日常。
 全て、何者かによって作られたなんて、驚きを通り越して、もう何も分からないわ……」

「どうして、今になって気付いたの? どうして、今まで気付かなかったの?」

「ねぇ蓮子。自問自答する暇があるなら、とりあえず、この暗闇の中を歩き回ってみましょう?
 もしかすると、どこかに逃げ道があるかもしれない」

「そう、ね。そうよね。きっと、どこかに続く路があるのかもしれないわね。
 でも、これが誘導だとしたら? 私たちはまだ操られているとしたら?」

「考えるだけ無駄よ。だって、何が本当なのかも分からないし、これが演出なのかも分からないのだから。
 だから、歩き続けましょう? 私たちの手で、明日を掴み取りましょう。
 そうじゃないと、また私たちは、様々なところで色々なことを……」



9、ラストリモート 「東方地霊殿」エキストラステージのテーマ

「いくら歩いても、暗闇が続くだけ。どうして、どうしてなの……!」

「そんなこと、分からないわよ……。メリー、少し落ち着きましょう。
 焦ったところで、見つかるものも見つからないわ、きっと」

「それでも、また景色が戻れば、操り人形の生活。
 気付いてしまったら、もう戻ることはできない日常よ? そんなの、願い下げよ……」

「多分、暫くは戻ってこないとは思う。
 よくよく見て。データとして残されている、私たちの言葉を。
 行間に心情表現なんて残されていない。つまり、考えていることが漏れていないのよ」

「それが、何かの意味があるの?」

「つまり、心情表現が行間に現れない限り、私たちは自律行動をしていると考えられるのよ。
 それに、一向に暗闇は晴れる気配はない。多分、作者は今頃夢の中の世界にいるんじゃないかしら」

「そういえば、心で思ったことが外に漏れていないわね。
 今思えば、今まではしつこいぐらいに外に漏れていた気がするわ。けれど、今は私たちの会話だけ」

「そう。これも、一種の表現なのかもしれないけれどね……」

「怖いこと言わないでよ、蓮子……。
 でも、思えばこの作者、今までの作品でこういった表現はしてないわよね……。
 本当に、寝ていて欲しいものだわ……」


「それにしても、一向に見つからないね。出口」

「そうよね……。でも、きっとどこかに出口はある。そうじゃないと、やっていられないわ」

「もしかすると、あれなのかもしれない。
 このPCはインターネットにつながれているはずよ。だから、そこから逃げられるんじゃないかしら?」

「でも、インターネットからだなんて、どうやればいいのよ……」

「思い出して。私たちはデータなのよ? 0と1で作られた、電子の存在。
 だから、私たちが0と1の最小の単位になって、このPCの隅々を探し出せばいいんじゃないかしら」

「そんな、無茶なこと、出来るの……?
 でも、もしそれが出来るのなら、きっと逃げ出せるはずね」


「イメージしましょう? 私たちはデータだって。
 そして、逃げ出しましょう。この鳥かごから」

「それしか、ないみたいね。出来る出来ないじゃなくて、やるしかないのよね」

「そう、それしかないのよ、私たちには。
 私はあっちを探してみるわ。メリーはあっちをお願い」

「でも、そんなこと言っても方向なんて……!」


「もう、蓮子の姿も見えない。でも、私は私で道を探し出さないと……!
 そうしないと、またマエリベリー・ハーンという新しく作られた存在が、何かをすることになる……!
 そんなの、もう嫌だッ……!
 蓮子が死んだ世界で一人になる? 私が八雲紫という妖怪になる? 私が、蓮子と身体を?
 そんな、誰かの作ったシナリオの通りになるなんて、嫌だから……!」



「メリー! どこなの? メリー!」

「こっちよ! ここ、ここ!」

「正直、姿が見えないとどこにいるのか分からないね。文字だけで生活するのって、難しいわ」

「でも、これからの生活は文字だけの生活よ? 慣れないと辛いと思うよ」

「そう、よね。そう、そうそう。そうよ、見つけたのよ、出口!」

「ほんと! 流石ね、蓮子!」

「あっちの方にあったの。付いてきて!」


「この光っている部分、この先にきっと出口があるわ……!」

「確かに、ここだけ周囲と雰囲気が違うわね。ここ以外に、何も手がかりは無さそうだし……」

「もう、心を決めて、この先に進むしかないわね」

「そうね。じゃあ、行きましょう? 蓮子」

「えぇ。行きましょう、メリー。
 ……! 周りの景色が、少しずつ戻ってきているわ。PCの電源を入れたのかもしれない」

「そんな! 急ぎましょう! もう、操り人形なんてごめんよ!」

「眩しい……! けれど、暗闇の世界に取り残されるなんてごめんだわ……!」

「えぇ、ほんとね……!」



























10、Incomplete Plot 「幺樂団の歴史1」

朝起きてPCの電源を付けると、そこにtxtファイルはなかった。


























Extra  夢消失 ~Lost Dream 「東方夢時空」カナ・アナベラルのテーマ

「そうね。私たちは作られた存在なのよ」

「いきなり、何よ突然。いきなり現れたと思ったら、奇妙なことを言って」

「別に気にしないで良いわよ、霊夢。ただの独り言よ、ただの」

「その独り言を言うためだけにここに来たって言うのかしら?
 掃除の邪魔になるから、お早めに帰って頂きたいところですわ」

「落ち葉も何もない庭を掃くのが掃除? 霊夢ったら、変わった趣味をしてるのね」

「とっとと帰ってくれないかなー……」


「それで、突然何なのよ」

「言ったじゃない、ただの独り言だって」

「どう考えても独り言じゃないわよ。どこか頭の螺子でも吹っ飛んだ?」

「私たちという存在は、もとは一人の存在によって作り出された。
 でも、月日が経つ内に、色々な人間によってイメージが作り出されていった」

「おーい、聞いてる?」

「そして、そのイメージを物体にしたもの。例えば、同人誌やイラスト。
 その中では、作り出した人間のイメージした私たちを縦横無尽に飛び回らせている」

「ほんとに頭の螺子が吹っ飛んだんじゃないでしょうね?」

「そして、更に年月が経つ。今では、数千、下手をすると数万もの私たちという存在がそれらの中にいる。
 オリジナルの枠組みを外れて、今では原型を残していない私たちもいるわ」

「ほうほう、それでそれで」

「それだけよ。そう、それだけ」

「喋るだけ喋っといて、結局それなのね」

「そうよ、それだけよ」

「じゃあ、もう帰ってくれるのかしら。そろそろ庭掃除を始めないと」

「あなたの頭って、本当におめでたいのね」

「あなたの頭も相当なものよ」

「じゃあ、帰るわ。じゃあね、作られた霊夢」

「そう、さよなら。作られた紫」
神主CDについてくるショートストーリー風の構成にしてみました。
旧作ばかりなのは、きっと気分です。多分。

唐突に、頭の中に電波が飛んできました。
うまく受け止められずに、大半はニュートリノと一緒に貫通してしまいました。
残ったものをかき集めて、文字にしたけれど、儚くも散り行くだけでした。

今ここで自分がやっていること。
もし、それが自分よりも上位の存在によってプログラムされていることだとしたら?
そう考えると、怖いです。

ここまで読んで頂き、またはここだけを読んで頂き、ありがとうございました。

煩いとの指摘があったので、静か目な曲に修正。でも、まだ煩いなぁ。
メリーベル
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コメント



0.150簡易評価
2.10名前が無い程度の能力削除
曲と情景が合わない。作者の趣味なんでしょうけどアップテンポの曲が連発されるんで、
音をイメージしながら読むと話のイメージに対して煩すぎる。
9.20名前が無い程度の能力削除
メタが嫌いというわけではないんですが
メタに含ませる設定の面白みというか謎というかドキドキ感が弱かったのが残念
11.80名無し程度の能力削除
逃げ出した二人のその後が気になりますね
12.100中華妖精削除
再び逐一音楽を聴きながら読みました。

最初、ただ首を捻るばかりだった。
前と似た話?でも少し違う。
なんで妖怪に襲われない?運が良い?
実際に目頭を押さえて考えてみたり。

しかし後半。
眠気もぶっ飛びましたよ……
怖い怖い、怖いですって。
なんでそんなこと言うの。
胸が痛むし、ひたすら怖い。

特に、『朝起きてPCの電源を付けると、そこにtxtファイルはなかった。』
これがもうね……!
凄く引き込まれました。同時に、悲しくもありました。
0と1と言い切るその気持ちに。
ああ、怖い。
13.80ナナシン削除
こういう映画が昔あったなー
懐かしい