※シリーズ物ですが、前作を読んでいただく必要は特にございません。
※何か過去話っぽいところは「そーなのかー」で聞き流してくださって大丈夫です。
※ダークな早苗さんに抵抗力のない方は戻るを。
こんにちは、守矢神社在住の風祝、東風谷早苗と申します。
この幻想郷に住み始めて、かれこれ二年以上の月日が流れました。
二年という月日はあっという間で、それでも私はいろいろな事をこの幻想郷で学びました。
この幻想郷では外の世界の常識なんて通用しない。
まず挨拶の仕方から違いましたからね。
『出逢ったらとりあえず弾幕』
これで何も間違ってないと思います。反論があるならばどうぞ。
霊夢さんや魔理沙さんと初めて出逢った時も、最初は弾幕でしたからね。
この世界では挨拶に言葉なんていらない。いるのは弾幕なのですね。
流石は外の世界で幻想になったものが来る世界。私に色々な事を教えてくれます。
また私は、異変などを通して色々な人に出逢い、そして関わるようになっていきました。
この間も空に浮かぶ大きな船や巨人と霧の異変なんかもありました。その辺の話はまた今度にしましょう。
他にも沢山の方々と出逢い、私も漸く幻想郷の住民としての心得というものが出来てきたんだと思います。
…でも、そんな私にもやっぱり判らないことはあるわけでして…。
「痛い痛い!!幽香さんもうやめてくださいいいぃぃぃぃ!!!!」
「あらあらリグるん?こんな事で音を上げてたら立派な妖怪になんてなれないわよ?」
「立派な妖怪になる前に死んじゃいます!!」
「大丈夫よ、私のやってる事は全て死なないように計算されてるから」
「余計性質が悪い気がするんですけど!?」
「あら、じゃあ死んじゃったほうがいいかしら?」
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
…えっと、今私の目の前で起きている事を簡単に述べるとですね…。
『向日葵畑で日傘を差した人が虫を虐めてる』
ですかね。日傘を差した人の方が、虫の妖怪っぽい人を踏みつけてぐりぐりしてます。
うん、流石の私でもいったい何が起きているのかがよく判りません。
常識なんてものは捨て去ったはずなんですが、それでも判りません。
そもそも何で私はこんなところにいるんでしょうか。
落ち着く意味も兼ねて、ちょっと事の始まりを思い出してみますか。
* * * * * *
今より遡るほど一時間ほど前の守矢神社。
「早苗ー」
部屋でド○クエ3をやっていた私のところに八坂様が。
「何でしょうか八坂様ゲームの邪魔をしないでください声を掛けるくらいならば死んでください」
「…どうして声を掛けるくらいで死ななくちゃならないのか説明してもらってもいいかしら?」
「いやだなぁ、冗談に決まってるじゃないですか」
どうして本気にとるんでしょうか八坂様は。
大好きな八坂様に死んで欲しいだなんて思うわけないじゃないですか。
家でゴロゴロして家事はしない、宴会開いて酔って暴れる、人のゲームを勝手にやって挙句壊す。
そんな事で八坂様を嫌いになるわけないじゃないですか。
うふ、うふふふふ、うふふふふふふふふ…!!
…九字刺したい。
「…早苗、私が悪かったからそんな黒い眼して笑うのはやめて…」
「それより、何か御用ですか?」
さっさと用件伝えて帰ってください。
「ああ、そうだったわ」
思い出したように手を叩く八坂様。
たった数十秒前のことも忘れるなんて、やっぱり歳ですかね。
子供の世話をするのは好きですけど、老人の世話はあまり好きじゃないんですから呆けないでください。
本格的に呆けが始まったら、山に捨ててきてもいいですよね。
「今度神社に色々花を植えてみようと思うのよ」
…はい?
「彼岸花ですか?」
「どうしてそういう発想が出てきたのか聞かせて」
「いえ、そろそろご自分の死期を覚られたのかと」
「そんなわけないでしょうが!!そもそも神は死なないわよ!!」
あー、そうでしたね。神様は死なないんでしたね。
「でしたら、洩矢様と結婚する気にでもなったんですか?」
「彼岸花を結婚相手に送ったら即破局ね。幾らなんでも発想が常識に囚われなさすぎよ」
「この幻想郷では常識に囚われてはいけないのです」
「少しくらい常識を取り返してみない?」
「遠慮します」
せっかく常識を捨て去ることが出来たんですから、今更取り戻すなんて出来ませんよ。
そもそも八坂様は常識に囚われすぎなのです。
常識外れの存在の神様が、常識に囚われていてどうするんですか。
八坂様を倒して、私が守矢神社の神になったほうがいいんじゃありません?
まあ、面倒なのでやりませんけど。
「で、結局何故そのような事を?さっさと理由を教えてください」
「あなたが話を逸らしたんでしょうが!」
「人のせいにしないでください」
「…早苗、逞しくなってくれて私は嬉しいわ…」
顔を沈める八坂様。
人間に言い負けるなんて、やっぱりこの人はダメ神様ですねぇ。
今度色々と調教しないとダメでしょうか。○的な意味で。○の中はご想像にお任せします。
「とにかく、守矢神社は山の上にあるから、結構殺風景でしょう?」
うーん。
山の上にあるから、というのは端的に言いすぎな気もしますが、言いたい事は判ります。
気圧が高く、地上に比べて気温が低いために、植物が育ちにくいですからね。
樹に囲まれた山奥にあるというイメージが強い守矢神社ですが、実際は周りにはそんなに樹が生えてないんです。
花なんてもっての外で、高山植物がたまに生えている程度ですかね。華やかにはほど遠いです。
「だから、もっと花に溢れた神社にすれば、物珍しさに参拝客も増えるんじゃないかしら?
美しい花には人を引き付ける魔力がある、それは昔からの習わしよ」
「却下です」
「そんな一秒足らずで否定しなくてもよくない!?」
いえ、そう言われましても、却下せざるを得ないですよ。
八坂様にしては珍しいまともな発言だった、それは認めますけどね。
「八坂様、そんな事を私が考えてないとでもお思いだったんですか?」
神社とは元々殺風景なものが多いです。
私としては神が降りる神社というのは厳かなもので、華やかなものではないというのが常識でした。
だから殺風景でも違和感はなかったんですが、常識に囚われなくなってからは違いました。
花を植えて華やかな場所にすればと、まさに八坂様のような事を考えまして…。
人間の里でいろいろな花の種を貰ったり買ったりして植えてみたんですが…。
結果は全滅でしたね。植えた種はことごとく、花を咲かせる前に力尽きていきました。
当然と言えば当然だったんですが、幻想郷では常識は通用しない可能性もあったので。
そんな事はどうでもいい。結局失敗したという事なんです。
高山植物の種を植えると言うのもまた、とある理由から挫折しました。
「まったく今更になって私が失敗したことをやろうとするだなんて、どうかしてますよ」
しかも私がそれをやっていた事を知らないとは。観察眼もないですね。
普段から家に引き籠ってるからですよ。本当にダメ神様なんですから。
「ふふふ、甘いわよ早苗」
…と、何時もならば正論を言われて引き下がるはずの八坂様が、珍しく言い返してくる。
うん?この自身は一体…?
「実は鴉天狗から、幻想郷には花に詳しい妖怪がいるという事を聞いたのよ。
その妖怪に詳しい話を聞けば、この山奥を花満開に出来るんじゃないかしら?」
…八坂様のもの凄く意外な発言に、私は暫く声を出せませんでした。
まさか八坂様が、ちゃんとそこまで考えていただなんて…。
行き当たりばったりで地獄に核エネルギーを送り込む八坂様だから、どうせまた行き当たりばったりで物を言ったと思っていたのに。
ちゃんと勝算(?)があって話をしていただなんて、そんな…。
「…幻滅しました、八坂様」
「ええっ!?何でそこで幻滅するの!?」
「だって彼氏いない歴数千年の空気読めないダメ神様が八坂様のアイデンティティじゃないですか。
そのアイデンティティを自ら潰すとは、最低ですね生きてる価値がありませんよ」
「私の評価はそこまで低かったの!?昔の可愛い早苗は何処へ行っちゃったの!?」
「いえ、割かし昔からこうだったと思います(シリーズ的な意味で)」
「それと彼氏いないとか言うな!!
これでも幻想郷に来る前は建御名方っていう夫がいたのよ!?」
「ぶっちゃけその可能性が高いってだけで、原作設「ストップそれ以上は禁則事項よ!!」
むぅ、本当に常識に捉われ過ぎですね八坂様。
守矢神社にはパソコンもニン○ンドーDSもあるんだからいいじゃないですか。
いい加減に常識を捨てるという事を覚えてください。
「まあ、八坂様がそこまで考えていたと言うのであれば、風祝としては無碍にするわけにもいきませんね」
「…風祝としての信仰心が残ってないような気もするけどね…」
うん?何を言っているのですか八坂様。
風祝としての信仰心を失ってるわけではありませんよ。ちゃんと八坂様の事は信じています。
ただ常識に捉われなくなっただけです。ですから八坂様への関わり方も常識に捉われていないのです。
ああ、常識を捨て去る事がこうも気持ちのいい事とは。
私は幻想郷に残る道を選んで、本当に良かったと思います。
「要するに、その花に詳しい妖怪のところに行ってきてほしいという事ですね?」
「そう言う事よ。行ってくれるかしら?」
そう問われて、私は少し考え込む。
そうですね、いいかもしれません。
ここ最近は、異変解決でしか外に出ていない気がしますからね。
嘗て幻想郷の色々な人と出会った時のように。
香霖堂で、紅魔館で、人間の里で絆を手にいれ、そしてその果てに出会った最強の妖怪と誓った約束。
気になった方は過去作へどうぞ。
私は、幻想郷に吹く、新しい風になりたい。
幻想郷の人々、そして妖怪たちの、心を繋ぐ架け橋になりたい。
だからもう一度、幻想郷の空を飛び回ってみましょうか。
新たな出会い、新たな絆を求めて。
* * * * * *
…で、射命丸さんや椛さんにその妖怪の事を聞いて、こうしてこの向日葵畑『太陽の畑』にきたわけなんですが…。
到着した傍からこんな訳の判らない光景を見せつけられて、ちょっと困っているわけなんです。
うーん、幻想郷では不思議な事がよく起こるものですね。
とりあえず、黄緑色の髪の大人の女性な感じの方が幽香さん。
頭に触覚の生えた緑髪の人が…リグるんさん?
「ゆ、幽香さん本当にもう死んじゃいます…!!」
「大丈夫よ、何時もそう言って死んでないでしょう?」
「だからそれが逆に性質が悪いんですってばぁ!!私の身にもなってください!!」
「…リグるん?」
「いだぁ!!」
日傘でリグるんさんの頭をひっぱたく幽香さん。
「言ったでしょう?私の前では『私』とは言わずに…」
「…ぼ、僕の身にもなってください…」
「それでいいのよ。まああなたの身にはならないけど♪」
「うわあああぁぁぁぁぁぁん!!!!」
号泣するリグるんさん。そんな姿を見て素敵な笑顔を見せる幽香さん。
なんと言うか、完全に虐めです。これ以上ないってくらい虐めです。
外の世界でも、こうも露骨な虐めは珍しいですね。
人とは違う能力を持つが故に人から嫌われていた私。そんな私でも、その時の自分がまだ幸せに見えるくらいです。
…間違いない。幽香さんはあれだ。
真性のドSだ。
「うん?そこにいるのは誰かしら?」
と、幽香さんが私の方を見ながらそう言う。
しまった気付かれたか。まあ覗いてたのは悪いと思いますけど、実際に用事があってきたのは確かだし…。
そろそろ出て行こうかな、と思ったんですが…。
幽香さんが徐に、差していた傘を私の方へと向けて…。
…傘の先端に、光が集まって…。
あれ?これってどこかで見たような…!!
「サーチ・アンド・デストローイ♪」
どおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん
「………」
…あと一秒思い出すのが遅かったら危なかったかもしれませんね…。
そう言えば、今の動作は魔理沙さんの「恋符『マスタースパーク』」とほぼ同じ…。
あんな極太レーザーをまともに食らったら、正直生きて帰れる自信がありません。
弾幕ごっこで死にたくはないですよ流石に。
「あら、初見で避けられるとは思わなかったわ。珍しい人間ね」
ええ、まあ、一応似たような弾幕を見たことがあったので。
私が腰を抜かしている間に、ゆっくりと歩み寄ってくる幽香さん。
その奥で、漸く解放されたとほっと一息吐いているリグるんさん。
安心してるくらいなら逃げた方がよくありません?ああ、幽香さん相手からは逃げられないってことかな?
「で、あなたは誰かしら?」
私の姿を見るなり、素性を訪ねてくる。普通の反応ですけど。
「あ、あの、私は東風谷早苗と申します。覗き見していたのは申し訳ありませんでした」
自分が悪いとは判っているので、素直に頭を下げる。
だからってあんな極太レーザーをぶっ放してくるのも多少問題があるとは思いますが。
「別に怒ってるわけじゃないからいいわよ」
怒ってはいないんだ。怒ってないのにあのレーザー?
…ああ、人間みたいに怒りと殺戮が結びついてるわけじゃないんだなこの人は。
流石に、見ただけで判るドSは格が違いますね。
「私は風見幽香。で、あそこにいるのは奴隷のリグルよ」
「奴隷!?せめてもうちょっとまともなポジションはないんですか!?」
奴隷という言葉に過剰反応するリグるんさん改めリグルさん。
私としては、奴隷でもまだいいポジションだったと思いますけど。
「で、此処に何の用かしら?此処は人間が来るべき場所じゃないわよ?」
リグルさんの言葉を華麗にスルーする幽香さん。
確かに人間の来るところじゃないですね。幽香さんのドSレベルは人間にはちょっとルナティックそうです。
それでもご褒美な人々は沢山いるのでしょうが。
「えっと、この辺りにとても花に詳しい妖怪がいると聞いてきたのですが…」
そう言えば此処の位置しか聞いてなかったからなぁ。
気が利かないですね射命丸さん。後でお仕置きですかね。
「あら、私に用事の人間とは、尚更珍しいわね」
…えっ?
いえ、別にあなたに用事があると言ったわけでは…。
…って、違う。ひょっとして、幽香さんが…?
「どういう事って言いたそうな顔ね。改めて自己紹介しようかしら?
私は風見幽香、二つ名は『四季のフラワーマスター』よ」
…どうやら私の目的の人物とは、この風見幽香さんだったようです。
* * * * * *
「あら、飲まなくていいのかしら?」
目の前に広げられたテーブルセットと、香り豊かな紅茶。
向日葵に囲まれたラウンジでお茶をするという、和の中で生きてきた私には憧れでもある優雅な情景。
幽香さんはどうやら紅茶を入れるのが得意なようです。見れば見るほど美味しそうです。
ティーカップを傾ける幽香さんの姿もまた美しく、普通の状況であれば歓迎すべきシチュエーションなのでしょう。
…普通の状況ならね…。
「「あの、幽香さん…?」」
私とリグルさんの声が見事にダブる。リグルさんの声は非常に震えていましたが。
「どうしたのかしら?」
そしてこの状況を当然と言わんばかりに、平然としている幽香さん。
凄いですねこの方は。ドSを超越したドS、まさにサディスト神です。
風見幽香のSはドSのS。何処にSが入ってるのかって?そんなのは瑣末です。
「なんで僕がこんなこと…!」
「椅子が私用のしかないから仕方ないじゃない。それともお客様を立たせるつもり?」
「いや、それは確かにそうですが…」
私は普通の椅子に座っているのですが、幽香さんはリグルさんに座っています。
これまた見事な虐めです。今度八坂様への罰の参考にさせていただきますか。
「幽香さん」
私は幽香さんに呼びかける。
さっきから黙ってみていれば、幽香さんは私の理念に反する事をしているのです。
私が信じる道を、幽香さんは目の前で踏み躙っているのです。
そればかりは、どうしても許せません。
「あら、そんな怖い眼をしてどうしたのかしら?」
私が精いっぱい睨みつけても、その笑みを崩さない幽香さん。
幽香さんの下で恐怖半分期待半分の中途半端な表情を見せるリグルさん。
大丈夫ですよリグルさん。これでも私はいろいろな茨の道を歩いてきたんです。
確かに幽香さんは物凄い力を持っています。そんなのはさっきの攻撃を見れば判ります。
ですが、私は幽香さんとほぼ同じくらいの力を持つ、あるいはそれ以上の力を持つ神や妖怪と触れ合ってきたのです。
あなたの苦しみ、少しでも開放できればと思います。
「この際ですから言わせていただきますが…!!」
私は勢いよく立ちあがり、幽香さんを指さす。異議ありぃ!!
「ショタっ子は虐めるものではなく、世話を焼いて愛するものです!!!!」
「誰がショタだ誰がぁ!!!!」
あれ?完全に決まったと思ったのに、なんでリグルさんが声を荒げるんでしょうか?
「…えっと、何か不満な点でも?」
「大ありだよ!!私は女だから!!しょっちゅう間違えられるけど女だから!!」
…えっ?いや、何の冗談でしょうか?どっからどう見ても男性にしか…。
「リグるん?」
「いだいっ!!」
私を睨みつけるリグルさんの後頭部を、傘の先で思いっきり突く幽香さん。物凄く痛そうです。
「何度言えば判るのかしら?『私』じゃなくて…」
「…ぼ、僕は…女だから…」
幽香さんの椅子になっているために手が使えず、痛いところを抑えられない恐怖。
誰でも手軽に出来る拷問の一つですね。よい子は絶対に真似しちゃ駄目ですよ。
「でもそうね、あなたの言いたい事も判るわ。
確かにか弱い男の子ほど、丁寧に扱わないといけないわね」
「だから女ですってば!!」
リグルさんの言葉はスルーして、ゆっくりと立ち上がる幽香さん。
いえいえ、判ってくださるのであれば結構です。
「早苗、だったわね」
と、立ち上がった幽香さんは、さっきとはまた違う表情で私を見る。
なんと言うか、新しい玩具を見つけた子供のような瞳です。
「あなたも子供が好きなのかしら?」
「ショタコンとロリコンは褒め言葉です」
「あなたとはいい友達になれそうだわ」
「ええ、私も一目見た時からいい友達になれると思いました。
ですから、子供は虐めるものではなく愛するものだと知って頂きたかったんです」
「あなたのその言葉に免じて、リグるんは奴隷から下僕に昇格させるわ」
「それってあまり変わってなくないですか!?」
「「うっさい黙れ」」
ああ、完全に息がぴったりですね私と幽香さん。
此処まで心を通わせられたのは、あなたを含めて3人目です。
「それに、いくらリグルさんが打たれ強いからって、そんなに虐めては可哀想ですよ。
なんだかんだで何億年も前からしぶとく生きている生物なんですから」
「ちょっと待てやコラ!!それ何の虫の事言ってる!!」
「なにって、勿論春先になると台所とかで見かけるあの…」
「あんた子供を愛でる気ないだろ!!幽香さんとやってる事全然変わってないよ!!
そもそもわt…僕はあんたよりも年上だから!!」
うーん、何でリグルさんはこんなに怒っているんでしょうか。
えっと、私さっきから変なこと言ってますか?見た通りの事を言っているだけなのですが…。
やっぱり幻想郷では常識に囚われてはいけませんね。
そして私にとっての子供を愛でる、とはですね。
ショタは可愛がり、ロリは泣かせる事です。あなたが自分を女であると言うのでしたら、対応も自ずと変わってきますよ。
「こうも自然にリグるんを手玉に取るなんて…。
あなた、サディストの才能もあるのね。素敵だわ」
「ええ、まあ、上が役に立たないと下はどうしてもこうなってしまうのですよ。
今では神様やパパラッチを矯正する方法を考えるだけで、一日時間を潰せますよ」
「てゆー事は完全に判ってやってたよね!?完全に悪意があって言ったよね!?」
「ロリは泣かせるものなんです」
「小さい女の子の泣き顔、可愛いわよねぇ」
「判ってますねぇ幽香さん」
「あなたも判ってるじゃない。此処まで気が合う人間はあなたが初めてよ」
「ドSが二人に…」
手を取って新たな友情を結ぶ幽香さんと私。
そんな私達とは対照的に、物凄く沈み込むリグルさん。
いいですよその表情。ぞくぞくしますね。きっと今私は最高の笑みを浮かべていると思います。
見れば幽香さんも同じような笑顔を浮かべていました。
やはりこの人とは何か通じ合うところがありますね。
「…で、結局早苗は何しに来たの…?」
リグルさんの言葉で、私はそのことを思い出す。
とりあえず、声から物凄く「さっさと帰れ」の気持ちが溢れていますよ。
そんな風に物を言われると、もっと泣かせたくなっちゃうじゃないですか。
でもまあ、用件済まさないと帰れませんし。帰らずにリグルさんを泣かせるのも面白いでしょうが。
「ああ、そうでした。幽香さんにちょっとお願いしたい事が…」
「あら、何かしら?あなたの頼みならば何でも聞いてあげるわ」
ありがとうございます。此処に新たに結ばれた絆に、心の中で乾杯しましょう。
茨と茨が絡み合う絆って言うのも、またいいですよね。
「実はですね、私は妖怪の山の上の神社に住んでいるのですが…。
この度、神社をもっと華やかにしようと、花を沢山植えてみようと思ったんです。
ですが、どうも上手くいかなくて…。花に詳しい幽香さんならば、どうにか出来るのではないかと相談に来たんです」
「へぇ、霊夢と違って神社の事をちゃんと考えてるのね」
ああ、幽香さんは霊夢さんの事を知っているのですか。
まあ、幻想郷に住んでいれば大体の人は霊夢さんと知り合うでしょうが。
別にあの人は、神社の事を考えてないわけじゃないと思うんですけどね。やる気がないだけで。
「だけど、あの山の上じゃそう簡単には花は育たないわよ。
温度が低いって言うのもあるけど、あの妖怪だらけの山じゃねぇ」
そうですね。そうでしょうね。
仮にちゃんと育っても、粗暴な妖怪に踏み荒らされたり食べられたりしそうですから。
判ってたからこそ私は投げ出したんですが、八坂様のせいで…。
「まあ、高い山でも育つ花を植えるのが一番簡単な方法でしょうね」
「いえ、それは判ってるんです」
私は即座に言い返す。
そんな事は判り切ってるんです。別に高山植物が生えてないわけじゃないですから。
なんと言うか、それ以前の問題がありまして。
「花を植えるにも、種がなくてはどうしようもありません。
高山植物の種なんか里じゃ売ってませんし、自分で集めるにもそんなに数がありませんから…」
それが、私が高山植物を植えるのを挫折した理由。
自然に生えている分が少ないと言うのもあり、どうしても大量に種が確保できないのです。
ちょっとずつ増やすと言うのも考えたのですが、そこはやっぱり環境がよろしくないです。
種が増えて、華やかな姿になる前に全滅しそうですから。
「そうねぇ…」
そこまで言うと、幽香さんは少し考え込む。
正直な話、私としては割とどうでもいい話なんですがね。
うちの神様のせいでご迷惑をおかけしました。
でも、八坂様が我儘でなければ、あなたに出逢えなかったんでしょうね。
…毎度毎度、八坂様は此処まで見越して私にいろいろ頼んでいるのでしょうか。
だとしたら、八坂様を見る目を少し変えなくてはいけませんが…。
…有り得ませんね。
「そうね。友情の証に、私が直接そっちに行って花を咲かせてあげるわ。
花であれば、それは全て私が支配出来る。花で境内を埋め尽くすなんて一瞬よ」
幽香さんの頼もしい言葉に、まるで私の心にも花が咲いたような気持ちになりました。
「あ、ありがとうございます!」
深々と頭を下げる。ああ、本当に幻想郷はいい人だらけですね。
持つべきものは友達。やはり友情に勝る宝物などありはしないのです!
「そんなにしなくてもいいわよ。あなたみたいな人間は初めてだから、サービスよ」
「いえ、それでもありがとうございます。神社に来た時は是非諏訪子様で遊んで行ってください」
「…諏訪子?」
「うちに住んでいる神様です。見た目はリグルさん並に幼い上に虐めがいがある人ですよ」
「…耐久力は?」
「神様だから相当なものです」
「可愛いかしら?」
「私が神社に奉仕する理由の9割は諏訪子様目当てです」
「本当にあなたは素晴らしい人間だわ、早苗」
「泣かせた時の表情は天下一品ですよ」
「楽しみにしているわ」
「諏訪子さん逃げてえええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
* * * * * *
「あうっ…!?」
「ん、どうした諏訪子?」
「いや、なんか今物凄い寒気が…」
「風邪かい?まったく夏に風邪ひくとは情けないねぇ」
「いや、そう言う訳じゃない気がするけど…」
「それじゃあ、誰かがあんたを殺そうと企んでるんじゃないかい?」
「あーうー!気味の悪い事言うのは止めてよ神奈子!!」
「はははは、悪い悪い」
「まったく、これだから野蛮な中央の神は…」
* * * * * *
「では、私はこの辺で失礼します」
その後ちょっとだけ会話をして、私は幽香さんとリグルさんに頭を下げる。
「あら、もう帰っちゃうの?」
少しだけ残念そうにそう言ってくださる幽香さん。いい人ですね貴方は。
ドSな人ほど、しっかりと友情というのを理解してくださるものですね。
「ええ、帰るまでには時間も掛かりますし、里で買い物もしていきたいので」
この辺は割と本気の理由。
幽香さんともう少し話していきたいのは山々なのですが、私とてやらなくてはならない事も沢山ありますので。
「そう、ならまた今度ね。なにかあるなら何時でも頼ってくれていいわよ」
ああ、本当に優しいですね幽香さんは。
リグルさんと私に対する態度が違い過ぎると言うか…。
…きっと、それが本当の幽香さんなのかもしれませんね。
…幽香さんがリグルさんをああも虐めるのも、ひょっとして…。
そうですね、私は幻想郷に吹く新しい風。
人々の心を繋ぐ架け橋になりたい。それが私の願い。
…よし、ちょっと試してみましょうか。
「幽香さん、最後に一つだけ頼みを聞いてもらっても良いでしょうか?」
「何でも言ってちょうだい」
ありがとうございます。
「リグルさんを少し貸してもらえませんか?1~2時間したら返しますので」
「そんな物みたいに言わないでよ!!」
リグルさんのその叫びは無視して、私は幽香さんの目を見続ける。
幽香さんの眼は少しだけ揺らいだものの、すぐに今までのような笑みを浮かべ…。
「いいわよ、ただし殺したりしないでね?」
「善処します」
「いやいやいや!!善処じゃなくてちゃんと保証してよ!!」
「殺虫剤は厳禁だからね?」
「大丈夫ですって、多分」
「多分って何!?いい加減にしないと本気で怒るよ!?」
「「五月蝿い黙れ」」
「あうぅ…」
これで何度目でしょうねリグルさんが沈み込むのは。
ですがまあ、今は許していただけると助かります。幽香さんに悟られるわけにはいきませんので。
…気付いてないんですかね、リグルさん。
今の会話の中に、幽香さんのあなたへの気持ちが隠れている事に。
「ではまた後日伺いますね。神社の件、よろしくお願いします」
「任されたわ。ほらリグるん、何時までも泣いてないで早く行ってきなさい」
「もう何でもいいですよ…」
幽香さんに背を向けて歩き始める私の後ろを、沈んだ表情で付いてくるリグルさん。
大丈夫ですよリグルさん。あなたが気付いていないならば、私が気付かせて差し上げます。
それが幽香さんへのお礼であり、
勿論、リグルさんが幽香さんの傍にいる理由が、また幽香さんがリグルさんを虐める理由が、私の想像通であるならの話ですが…。
* * * * * *
太陽の畑から暫く歩き、人里も少しずつ近づいてきました。
此処まで来れば、何があっても幽香さんに気付かれる心配はありませんよね。
一応辺りの妖気を探ってみましたが、ストーカーはしてないみたいですね。
「リグルさん」
足を止めて呼びかけると、リグルさんの肩がびくりと跳ねる。
いや、道中一回も話しかけなかったとは言え、そこまで驚かなくてもいいじゃないですか。
「は、はい、なんでしょうか…?」
「敬語なんて使わなくてもいいですよ。別に頭から塩かけでガリガリ食べようってわけじゃないですから」
「…の割にはやけに具体的だね…」
うーん、私がこう言うとなぜかみんな本気にするんですよね。何ででしょうか。
そこまで怯えなくてもいいじゃないですか。今は幽香さんもいないんですから。
まあいいや、そんな事を気にしていては始まりません。本題に入りましょうか。
「リグルさんはドMですか?」
「いきなり何の質問!?そんなわけないでしょうが!!」
大声を出して否定するリグルさん。
そんな大声で否定されると逆に怪しいんですが、まあ大体は予想通りなのでそう言う事にしておきましょう。
というか、そうでないと今までのリグルさんの態度の説明がつきませんから。
ドMならもっと喜んでるはずですし。幽香さんの虐めに対してね。
「そうですか、では聞きたいのですが…」
此処からが本題。
まずこれを聞かない事には、私はあなたと幽香さんの掛け橋にはなれません。
「どうしてリグルさんは、幽香さんの傍にいるのですか?」
…リグルさんの表情が、一瞬にして固まる。
やっぱり、想像通りの答えが聞けそうですね。
「虐められる事に快感を覚えるわけでもないなら、どうしてリグルさんはわざわざ辛い思いをしてまで、幽香さんの傍にいるのですか?
幽香さんが強すぎて逆らえない、そんな答えは聞きたくありませんからね?
私が聞きたいのは、あなたの幽香さんへの思いです」
それにそんな事を言われても、それが嘘である事はすぐに判りますので。
幾ら幽香さんが怖いからって、極端な話、霊夢さんに助けてもらうとかの手段はあるわけです。
幽香さんと関わらない方法はあるのに、リグルさんはあえて幽香さんと関わっている。
…幽香さんへの特別な思いなくして、そんな事は出来ませんよ、普通。
「…それは、その…」
ちょっとだけ顔を赤くして、何かを言い淀む。
この反応だけでも、ちょっとずつ私の想像は確信へと変わっていく。
「大丈夫ですよ。幽香さんには言いませんから。それは約束します」
「………」
今度は黙り込んでしまう。
うーん、あまり時間を掛けて欲しくもないんですがね。幽香さんに怒られちゃいますから。
「…早苗、本当に幽香さんに言わない?」
いや、言わないって言ったじゃないですか。
そこまで信用なかったんですかね?これからはちょっと気を付けますか。
「約束しますよ、風祝の名に掛けて」
私がそう言うと、リグルさんは少しだけ笑みを浮かべる。
少しでもリグルさんが笑った顔を見たのは、今日を通してこれが初めてですね。
「…早苗、花はどうしている時が一番綺麗だと思う?」
うん?
質問をしたのに逆に質問されて、私は少しだけ戸惑う。
「それはまあ、満開に咲いている時が一番だと思いますね」
「そうかな。僕は違うと思う」
「私でいいですよ。幽香さんはいませんから」
私にはそんな趣味はありませんので。あれは幽香さんの趣味でしょう。
しかし、リグルさんの言っている事が少し理解出来ない。
満開に咲いている時以上に、美しい花の姿…?
「…私は、笑っている時が一番綺麗だと思うんだ」
リグルさんは曇りない笑顔で、静かにそう語る。
「花は咲いているだけじゃ駄目。花が笑って咲いている事で、初めて本当に美しいんだ。
開いていても美しくない花は、笑っていないから。私はそう思ってる。」
何処か遠いところを見ながら、リグルさんは話を続ける。
その姿には、リグルさんが女性である事を素直に思わせる美しさがあった。
「私が幽香さんに最初に逢ったのは、別に大したきっかけじゃなかった。
ただ私が太陽の畑の虫を見に行って、たまたま幽香さんと出逢っただけ。
それからまあ、さっきみたいな状況に、出逢って早々なったわけだけど…」
流石幽香さん、重度のドSは違いますね
初対面の時からルナティックなプレイをしていたわけですか。
「そりゃ最初はさ、どうしてこんな目に遭うんだろうって思ったよ。
でもさ、その時見ちゃったんだよ。幽香さんが笑ってるところをさ」
くすり、とリグルさんは小さく笑う。
「…幽香さんが笑ってるところが、本当に綺麗だな、って思ったんだ。
私を虐めてる時の幽香さんの顔が、私が今まで見たどんなものよりも綺麗だった」
そうでしょうね。
幽香さんはもともと凄く綺麗な方ですし、先ほど見た笑顔は私も見惚れてしまいそうでしたから。
「この笑顔を見ていられるなら、どれだけ痛くても、どれだけ辛くても頑張れる気がする。
幽香さんが笑ってくれるなら、私はどんな事でもやってあげたい、本気でそう思ったから…」
そこまで話し終えて、リグルさんは言葉を止めた。
成程、あなたの気持ちはよく判りましたよ。私の想像通りで助かりました。
「ははは、やっぱり変なのかな、こんなの。幾ら幽香さんのためだからって、そんなの…」
いえいえ、そんな事はありませんよ。
寧ろ、その気持ちは称賛されるべき事だと思います。
…自分の事よりも、あなたは幽香さんの事を優先出来るのですから…。
「リグルさんは、本当に幽香さんの事が大好きなんですね」
私がそう言うと、リグルさんの表情がまた固まる。
…そして、一瞬にして真っ赤に。リグルさんの頭から湯気が上がるのが見えた気がした。
「な、ななななななな…!!」
慌てふためくリグルさん。その姿もまた可愛いですね。
「大丈夫ですよリグルさん、その気持ちは全然変なことじゃありません。
それに、幽香さんだってリグルさんの事が大好きですから」
私はさらに追い打ちを掛けてみることにする。
そして、リグルさんの顔はこれ以上ないと言うくらいに真っ赤に。
「そ、そんな!!そんなのは流石にないってば!!
ゆ、幽香さんが私の事をそんな、ないってば!!」
大きく手を振って否定するリグルさん。
だけどですね、私にはそれだけの確信があるからそう言っているのですよ。
さっき私がリグルさんを連れ出した時、幽香さんはなんて言ってたか覚えてますか?
『ただし殺したりしないでね?』
『殺虫剤は厳禁だからね?』
…どっちも、あなたを心配する発言だったじゃないですか。
それに私がそう言った時、幽香さんはかなり躊躇っていましたからね。
それまで凄く調子付いていた幽香さんの目が、私がリグルさんを借りたいと言った時、物凄く揺らいでいましたからね。
多分幽香さんは、あなたと離れたくなかったんだと思いますよ。
きっと幽香さんも、一人でいる事が嫌なんだと思います。
その気持ちは、私もよく知っています。一人になる事は辛い事であり、そして一人でなくなった時、本当の幸福を知る。
だから、リグルさんと一緒にいる時に笑顔を見せてくれるんですよ。
誰かと一緒にいる時間の楽しさを、素晴らしさを、幽香さんは知っているはずですから。
勿論、本人の性格と言うのもあるでしょうが。ドSなのは本当でしょうし。
「リグルさん、幽香さんと仲良くしたいと思いますか?」
「ふえっ!?」
私はそんな質問を投げかけてみる。
「幽香さんと仲良くなれるちょっとした魔法、教えて欲しいですか?」
幽香さんの性格は、さっきの話だけでも何となく判りましたからね。
幽香さんと同じような恋愛感情を持つ人を、私は何人か知っています。
だから、この魔法はきっと効果覿面ですよ。
「え、えっと、その、そんなのがあるんだったら…」
リグルさんもそういう話にはちょっと弱いのかな?
でも大丈夫。幽香さんと仲良くしたいと言うその気持ちがあれば、何とでもなりますよ。
ふふっ、と、私も笑みを浮かべる。
そうですよ、私はこんな存在になりたいんです。
誰かと誰かの、心を繋ぐ掛け橋に。
「それじゃ、里に行きましょうリグルさん」
「ふえっ?わっ!ちょっ!!」
リグルさんの手を引っ張り、私は人間の里へと駆け出す。
あとはあなた達次第です。でもきっと、素敵な友達になれると思いますよ。
私はそんな二人の繋がりの、切欠になれればいい。
私の掛ける恋の奇跡を、あなた達二人のために。
* * * * * *
えっと、私はどうすればいいんだろう…。
人間の里で早苗と買い物をして、別れる際に“これ”を貰ったんだけど…。
幽香さんにこれを渡して、幽香さんが早苗が言った通りの事を聞き返してきたら、ある言葉を言えって…。
そんな事で、本当に幽香さんと仲良くなれるのかな?
うーん、本当に早苗はよく判らないなぁ。幽香さんの言う通り、珍しい人間だ。
何はともあれ、私は太陽の畑へと戻ってきた。
「あら、遅かったわねリグるん?」
目が合うなり、幽香さんは何時もの笑みを浮かべてそんな事を言ってくる。
いや、そんなに時間掛かってないと思うんですけど。
「…あら?それは…?」
幽香さんが、私の抱えているものを見て、そう聞いてくる。
「ああ、これは幽香さんへのプレゼントです」
早苗から言われた事は、何を言われても動揺しないで返答すること。
また、決して早苗に言われてやっていると言う事は言わない事だ。
なので私は、自分で選んできたかのように“これ”を渡す。
「これって…スプレーマム?」
ああ、そう言えば早苗がそんな名前だって言ってたっけ。
幽香さんに渡したのは、人間の里で買ってきたスプレーマムという黄色い花。菊の一種らしい。
花にはそれなりに詳しい心算だったけれど、この花がこんな名前だとは知らなかったな。
…と、その花を手渡した瞬間、幽香さんの顔が真っ赤に染まった。
「リ、リリリリリリリリリリリリグるん!?」
何故か物凄く慌てる幽香さん。
あれ?こんな幽香さんの表情を見るなんて初めてだよ?
「こ、こ、この花を私にって、ど、どういう意味か判ってるの!?」
いや、正直な話が判ってないんです。
だけど早苗には、判らないと言ってはいけないと言われた。
そして早苗曰く、これが幽香さんと仲良くなるための“奇跡の言葉”だそうだ。
「絶対に負けません。だから、私は幽香さんの傍にいます」
ちょっと言うのが恥ずかしかったけれど、少しだけすっきりした。
どうしてこれが奇跡の言葉なのかはよく判らないけれど、自分の気持ちを少しだけ言えたような気もする。
私はどんな事があっても、幽香さんの傍にいたい。
幽香さんを思う気持ちは、早苗に言ったとおり本当のものだから。
「うっ…」
…何故か幽香さんは涙を浮かべている。
えっと、さっきから幽香さんの見た事ない顔が多すぎて、流石にちょっと困ってきたんだけど…。
早苗ー、本当に大丈夫なのー?
私がそうやって不安になっていると…。
「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」
幽香さんは滝のように涙を流しながら走り去って行きました。
あまりの出来事に、私は暫くの間思考が停止。
「えっ?ちょ!?幽香さん!?幽香さーん!!」
幽香さんが走り去ってから十秒後くらいに、私は漸くその後を追う事が出来た。
えっと、本当にどういう事なの?私が何か悪いことした?
ちょっと待ってくださいよ幽香さん!!本当にどうしたんですか!?
「こ、来ないでリグるん!!そんな事言われたら私は、私はあああぁぁぁぁぁ!!!!」
「何を言ってるんですか!!どういう事なのか教えてくださいよおぉぉぉぉ!!!!」
何で仲良くなるための言葉が鬼ごっこの始まりの言葉になるんだよおぉぉぉ!!!!
* * * * * *
ふふっ、大体予想通りの結果になりましたね。
空から見下ろしてみれば、幽香さんとリグルさんが鬼ごっこ。
幽香さんは真っ赤な顔して走ってますし、リグルさんは何が何かも判らないといった表情を浮かべています。
結局のところ、もう一歩踏み出す切欠がなかっただけなんですよね。
だから私は、その切欠を与えただけです。
リグルさんが、スプレーマムの花言葉を知らないと言う事も前提だったんですがね。
虐めという形で愛を示していた幽香さんと、それを耐える形で愛を示したリグルさん。
私の知る限りでは、スプレーマムがあの二人にはぴったりだったと思います。
きっとあの二人は、とても仲良くなれると思います。
ほら、二人ともあんなに必死になってるじゃないですか。
幽香さんは恥ずかしさのあまりに、リグルさんは幽香さんと話がしたいために。
お互いがお互いを少なからず思っているから、こんな結果が生まれるんですよ。
幽香さんがリグルさんの事を思っていなければ逃げたりはしませんし、リグルさんが幽香さんを思っていなければ後を追ったりはしません。
どんな形であれ、二人が仲良くなるきっかけを与えられたのであれば、私はそれでいいんです。
ああ、私にも何時か、こうも思い合える人が出来るのかな。恋をする事が出来るのかな。
友達という輪を越えた、私の運命の人に出逢えるのかな。
そしてそんな人がいるならば、いったい誰なんだろうな。
今まで出逢ってきた人の中にいるのか。
それとも、これから出逢う人の中にいるのか。
どちらにしても、早く出逢ってみたいですね。
「待っていますよ、誰かさん。いつか出逢えるその日まで」
さて、それでは帰りますか。私の家に…。
そして幽リグのリバに激しく萌えた、GJ。
また闇早苗さんが見られるぜ!
やっぱ早苗さんは黒いのがいいですよねぇ…
いつか酢烏賊様とは闇早苗さんについて語り合いながらデュエルしたいもんです
兼ね備えた早苗さんは
ただのドSじゃなくて、
スーパードS人だと思いますwww
いろいろな意味でヤバいww
このドS共め!
マダガスカルジャスミンかぁ・・・
覚えておこう!w
小傘さん逃げてえぇぇ!!
素晴らしい。
個人的にはもっと内に秘めた黒さの早苗が好きです