このお話は作品集77『美鈴コーディネート』の続編になっています。
単品でもある程度は読めますが、『例の件』的な位置づけで何度か出てくるので先にそちらをお読み頂けると幸いです。
+α
タグ通り。苦手な人は、回れ右。
……一句出来た。
では。以下本編。
「あー、もう!どうして相も変わらずこんななのよ!」
「相も変わらずって咲夜さん達が暴走しちゃったからじゃないですか!」
結局部屋は、殺風景だった。
そもそも、紅美鈴のこの部屋は結構前にリフォームされている筈だったのだ。
主に言い出しっぺの咲夜の手によって。
しかしその試みは言い出しっぺの咲夜によって見事に打ち砕かれ、小悪魔という犠牲を受けて新しい感動の世界を作り出した。
のだが結果として咲夜が「殺風景だから変えよう」といった筈の美鈴の部屋自体には何の変化もなく、未だに必要最低限の物が置いてあるだけだった。飾りっ気も何もない。
咲夜はその部屋の惨状(と咲夜は言う)を見渡して、もう一度美鈴を見た。
「ねえ、少しは哀しくならないの?女の子なんだし、もう少し位お洒落とか綺麗な物とかそういうのをさぁ…ね?」
「ならないですねぇ…だってほら、私普段は門の前ですし。部屋使うのなんて寝てる時くらいなもんですから。着替えさえ出来ればそれでいいんですよ?」
美鈴の言っている事は尤もなのだが、咲夜は別にそういう事を言いたいのではないのだ。
そう、自分でも分かっている理不尽な想い。
いわば感情論だ。全く瀟洒ではない感情論。まあ瀟洒な感情論があるなら聞いてみたいものだが。
それは『好きな人の部屋が殺風景なのは寂しい』というもの。
それはどう考えても自分勝手であるし、何よりそんな事を大胆に宣言出来るほど“そっち方面”に手慣れている訳ではない。瀟洒と呼ばれても無理な物は無理なのだ。
「とにかく!貴女が嫌じゃないなら部屋を飾りつけるわよ!」
「前みたいな事にさえならなければ構いませんよー」
咲夜が部屋に入る。美鈴も当然付いていこうとして、
「隊長!!」
呼びとめられた。
それは一人の門番妖精。
「侵入者が来ています!人数は多く、個々の能力が高いので私達では手に負えません!!」
「あ…咲夜さん、ちょっと待ってて頂けますか?」
必死に現状を伝える妖精の頭を撫でて、美鈴は咲夜を見た。
「ちょっと待ってるのは構わないけどそれよりも私も手伝った方が…」
「駄目です!咲夜さんは人間なんですよ!?どんなに強くても一度の失敗で命を落としてしまうかもしれないんです!敵は出来る限りに私達が抑えます!」
突然すぎるその凄い剣幕に、ただただ押される。自分は何かそんなにまずい事を言っただろうか。
分からない。
分からない、だけど。
咲夜の心に悪戯心が小さく芽生えた。
『しばらくの間美鈴は部屋に戻ってこない』
なら、ちょこっと位部屋のコーディネートを勝手にやってみても構わないのではないか?
「――――隊長」
「ん?」
門へと走るその道中、美鈴に声をかける門番メイド。
「咲夜様は……弱くないですよ?隊長が心配するような事じゃ…」
その言葉に美鈴は苦笑する。
「はは、…うん。その通りだよ……みんな!」
門へと到着する。
侵入者は三人組の妖怪で、妖精メイドを圧倒している。
「怪我してる子は下がって!!陣形はS!」
美鈴の一声で妖精達は綺麗な陣形を描く。
それだけの筈なのに急に妖精達に攻撃が当たらなくなる。
「ロード!」
その声に合わせて弾幕を放つ。しかしその弾幕の目的は相手の被弾ではない。
そもそも紅魔館に襲いかかるような妖怪など余程戦闘能力が高いか余程頭が弱いかだ。
美鈴が来た時にまだ誰一人動けなくなっている妖精が居なかった時点でこの三人組は前者。頭が弱くて少しばかり腕が立つからと調子に乗るタイプだ。
されどそこは妖怪。そこそこの強さともなれば妖精達の弾幕など取るに足らないものである。そして頭が弱いから弾幕のルールを無視しがちである。
そんな輩をまともに相手していたらどうしようもなく疲れるので、そういう相手には美鈴も弾幕ルールを無視した攻撃に転じる。
妖精達の弾幕は、即ち目くらまし。
そしてスキマを作らせロード、つまり道を作る。
この道は相手を誘導し、美鈴が突っ込んでいくスキマ。つまり―――――
「残念、でした!」
侵入者の三人は避けたつもりで美鈴が攻撃してくる所に自ら入っていったのだ。
「どうってことなかったですね」
「さっすが隊長!」
「ううん、貴女達も頑張ったわ。それに三人も居たのに私が来るまでしっかり持ちこたえたじゃない。偉いわ!」
そう言って近寄ってくるメイド達の頭を撫でる。
「隊長、さっきの続きですけど…咲夜様は」
「あら。結構気になってた?」
さりげなく流したつもりだったのだが。甘かったか。
そう、確かに咲夜は強い。
今の幻想郷において、弾幕勝負で彼女に勝てる者などそうはいないだろう。
スキマ妖怪にすら打ち勝つ事の可能な彼女に、自分の様な平凡な妖怪が気にかけることなど何もないかもしれない。
実際今回の侵入者如き、ほんの一瞬でおそらくは全員始末した事だろう。
「―――なら…どうしてですか……。隊長はいつも頑張ってます。私、知ってるんですよ?隊長は私達を休ませても自分では殆ど休んでないの。だったら偶には咲夜様にお任せしたって…咲夜様も分かって下さると思いますよ?」
―――ああ、そういうことか。彼女が食い下がっていた理由がやっと分かった。
でも、そうじゃない。
彼女の言いたい事は分かるし、とても嬉しい。でも、そうじゃないんだ。
ゆっくりと、口を開く。
「咲夜さんは、人間です」
「でも妖怪より妖怪じみてます」
「本人に言ったら大変だよ…分かって欲しいの。咲夜さんは如何に強くても、人間です」
彼女は、人間。
それが大して強くもない妖怪である私が戦って、とても強い咲夜さんが戦わない、一番の理由。
「どういう事ですか…?」
「つまりね、」
咲夜さんは、大怪我を負ったら助からないんです。
「咲夜さんは人間です。そう言うと咲夜さんはあんまり良い顔しませんけど。でも、私は咲夜さんが大事だし、好きだから、絶対に危険な目にあって欲しくはないんです」
「あ…隊長…」
「あはは、何からしくなく喋っちゃいましたね。今の話、咲夜さんには内緒ですよ?」
「あ……え…はい…」
門番隊員の彼女は言えなかった。最後まで言えなかった。
咲夜様……すぐ後ろで聞いてます……!!
「咲夜さんは人間です。そう言うと咲夜さんはあんまり良い顔しませんけど。でも、私は咲夜さんが大事だし、好きだから、絶対に危険な目にあって欲しくはないんです」
その言葉が私の脳髄を貫いたのは言うまでもなかった。
部屋のコーディネートを終えた私は美鈴を迎えに行っていた。
部屋を早く見て欲しいというのもあったし、侵入者の事も気にはなっていた。
美鈴の事だからもうとっくに始末し終えているとは思っていたが、まさに偶然、私は美鈴のその言葉を聞いていた。
別に、何かネタになる事は言わないかと立ち聞きしていた訳ではない。断じて。
「美鈴が私を好きって言った……確かに言った…………私は聞いた…」
若干自分の頭が空回りしている気は否めないがそれでも事実は事実。これは何?既成事実を作れば万事OK?
よっしゃ待ってなさい美鈴今夜にでも私が既成事実を作りに夜這いしてあげるからね大きめのベッド用意しておいたから何にも心配要らないわ!
「あの―――、咲夜様?」
「―――――――――――ハッ!!」
意識が素敵なトラベルから帰ってきたのは美鈴が話し終えてから実に15分を経過してからだった。
「いけないいけない、美鈴追わなきゃ…」
追ってどうするかは決めてない。きっとすぐに決まる。
私が美鈴の部屋へと向かおうと動いたのと同時に、―――声が聞こえた。
厳密には、美鈴の声が。
「きゃああああああああああああっ!!」
あら…美鈴ったら悲鳴まで可愛らしい……じゃなくて、何事?
「まさか…美鈴に昼間っから誰かが既成事実を作りに……?」
あり得ない……いや、あり得ない話ではない。此処は幻想郷。マナーも常識も知った事じゃない世界だ。そこに美鈴みたいに可愛らしくて美しくて……な美女がいたら誰だって、それこそ昼間にだって押し倒したくなるのは至極当然というもの。
私は瀟洒で何より美鈴の立場を尊重したいから夜にするけれどそういう事も考えられない愚か者は十二分に居そうだわ。
「美鈴!!」
思案に明け暮れるよりも走って救出!
私が美鈴の部屋に辿り着くと、そこにはドアの前に座り込んでいる美鈴。
「美鈴!どうしたの!?」
「どうしたのじゃないです!咲夜さんこれは何の惨状ですか!!」
そう言って彼女が指さすのは彼女の部屋。私がコーディネートしたばかりの。
「何って…そりゃ、私達がしっかりと愛を育めるように、って想いを丹念に織り交ぜてコーディネートした美鈴の部屋よ?」
「何ですかその雨が降ったんだから地面が濡れてて当然でしょうとでもいうような顔は」
「濡れてるの?」
「馬鹿な事言ってないでください!ちょっとこれは、その…」
美鈴は何を困っているのだろう。
私は確かに部屋をコーディネートしたがそれは根本的に違う。
だって、
「書いてあるでしょ?貴女の部屋は此処じゃなくなったの」
「はい、ここに書いてありますね」
「言葉通りにとらえればいいの。裏なんてないわ」
「裏がないんじゃなくて咲夜さんの表が普通なら裏に隠すような内容なんですよ」
美鈴は何を言っているのだろうか。まさかさっきの侵入者に頭を打たれたんじゃないだろうか。だって、そう思いたくなる私は正常極まりないのだから。
私は美鈴の部屋の中に書置きをしておいたのだ。紙一枚、大きな、見やすい字で。
『美鈴の部屋の場所を変更しました。
新しい部屋は私と同じ部屋、つまり今日から相部屋です』
と書いておいただけなのに。
何もおかしい所なんてないではないか。美鈴、本当に頭打たれてないよね。
「美鈴、大丈夫よ?ちゃんと部屋は広げておいたし、二人でも広すぎるくらいにはスペースは作ってあるから。ね?安心して?」
「そうじゃない…そうじゃないんですよぉ……」
そう言いつつも美鈴は私の…間違えた、私達の部屋に足を運んでいる。何だ、照れてたのね。恥ずかしがり屋さんね。
「む…?」
部屋の前で、美鈴が足を止める。
私を庇うように腕を伸ばして、囁く。
「咲夜さん…中に、誰かいます。それも、複数」
「え…誰か?」
誰か、なんていたかしら。
……侵入者?いや、私達の部屋だもの。私が生半可な警備で済ますと思ってるの?
だとしたら、ってああ、さっき私が自分で――――
「何奴だっ!!咲夜さんを傷つけるのなら私が相手してやるっ!!」
Q,もしも絶大なる力を誇る強大な敵が部屋に居たら?
A,それでも私は、この紅魔館の門番として戦います
美鈴が私への愛の言葉を声高に叫びながら扉を大きく開く。
「美鈴、敵じゃなくて…」
その中に居たのは、
Q,では、悪夢を超越した、そんな『何か』があったら?
A,泣いても良いですか
「こぁちゃん……」
ああ……デジャヴ。
そこには涙を両眼一杯に溜めて、某所から仕入れたのであろう色々とアレな衣装を身に纏った小悪魔の姿が。当然、服はところどころが破かれている。
「お嬢様……あんまりでは――、ないで、しょう…か?」
「ん?」
部屋に居た気配は4人分。となれば、やはりそこにはレミリアがいた。
ただし、横に小悪魔と同じような末路となったフランドールを佇ませながら。
「お姉様っ!離してってば!ちょおっ!!馬鹿こらひやぅ!?」
小悪魔はパチュリーにあちこちを触られている。
「パチュリー様タンマタンマ…ってああぅっ!」
「……咲夜さん、これ……どういう?」
顔色が青ざめていくのをありありと感じる。
「ああ、前回に私達は学習したのよ」
「何にも学べてないように見えるのは気のせいですか」
「気のせいね。私達は、やっぱり出来る限りに長い時間愛でていたい」
「学び直してください」
はっきりと言わなければ。瀟洒なメイド長は現在行方不明ではないか。
「だから、一人につき一人、つまり一夫一妻制!女同士だけど!」
「意味分かりませんて!!」
「そういう訳だから早速この服を着なさい!」
「いやそれは服とは言えない気がします露出まみれじゃないですかあああああ」
「私が斬ったのよ!露出多くなるように!!……えい!」
「時間止めて服着せないでください!!」
「貴女また胸大きくなったわねこの馬鹿!!」
「私の知った事じゃないですうわあああああああ!!」
叫び、暴れては取り押さえられ、ついに組み伏せられる。時間を止められては為す術がない。苦し紛れに、こぁちゃんとフランドール様に顔を向ける。
「美鈴さん、後で図書館に来ませんか?良い転職情報誌が、あるんですよ」
「めいりん、後でお姉様達に仕返しね」
目で語るお二人の姿は、眩しかった。
「さぁフラン貴女の全てを私に捧げなさいほら遠慮は要らないの」
「来るなっ!何で妹に欲情してんのこの馬鹿姉!!へたれみりあ!」
「あらやだ。姉に向かってへたれだなんてそんな失礼な事はないわ。お仕置きが必要ね」
「あ、馬鹿!いや謝る!謝るから地下に引きこもらせてええええ!!」
「駄目よこんなに可愛らしい貴女を地下に閉じ込めるなんてそれこそ狂気!!」
「紅魔館壊すよ!?ねえ!?離してえええええ!!」
「こぁ~、この前こんな本読んでね、ちょっと実験させて欲しいんだけど…」
「パ、…パチュリー様?それは世にいう『官能小説』ですよ?何でそんなもん読んでるんですか――!」
「表紙見ただけで官能小説だって分かる貴女が今更何を言うの?私と二人できゃっきゃうふふしましょ」
「ここにある本は全部覚えろって言ったのは貴女じゃないですかあああ!!何で今日は喘息の発作がないんですか!!」
「そりゃ気合で抑えてるに決まってるでしょう?貴女の胸を触ってると落ち着くわー」
「馬鹿言うなああああああああ!!」
「さぁ美鈴行きましょう私達の秘境へ!新しい世界へ!」
「全力でもってお断りさせていただきます!」
「うふふふふふ、残念だわ、すごーく残念過ぎて貴女の服がはだけちゃう!」
「ひい!いや意味分かんないです!!時間止めて人の服いじらないでください!!」
「時間止めなければいいのね分かったわそぉれ!」
「どこの酔っ払いですか!!って何処触ってるんですか!!」
「何処って決まってるじゃない『自主規制』を触ってるのよ」
何時間が経過しただろうか。
カオスを具現化したその空間は、前日まではメイド長咲夜の部屋。
そして数時間前まではメイド長咲夜と門番長美鈴の部屋。
今は、スキマなんて比にもならない奇跡の世界。
「ぜー…は、―――死ぬ……」
息も絶え絶えに美鈴が発した声に、横の人影が反応する。
「流石ね美鈴……誰一人動く気力を失ったこの空間でただ一人言葉を発するなんて!」
「そう…言える咲夜さんを…見てると、妖怪である自分の、…体力を…疑いますね…」
咲夜はまだ余裕らしい。
レミリアはフランドールに折り重なるように倒れ、フランドールは息苦しそうにしながら眠り、パチュリーは小悪魔の服の内側に腕を突っ込みながら意識を失い、小悪魔はまだ荒い息遣いのまま気絶。
「ああ、もう何か何も言う気が起きないです」
「それでいいのよ。少しやりすぎたなーとか思ってるから」
「集団の心理って怖いですね。で、一つだけ言いたかったんですが」
ごろん、と寝がえりをうって咲夜の方を向く。
「あら、苦情は受けないし、またこれからもこういう事はやるつもりだけど」
「言いたい事が増えました。そうじゃなくて、あんなに私の部屋を飾りたがってたのに、別段飾られてないじゃないですか。咲夜さんの部屋だってそこそこに物はありますけどそんなにではないんじゃないですか?」
つまり、自分の部屋だとやらないんですか?という事。
ずるいですよ私ばっかり。そんな視線を向けてみると、
「別に……最初はすんごいのにするつもりだったんだけど」
「え?」
咲夜は真っ赤になって顔を陰らせる。表情が読み取れなくなった美鈴は首をかしげる。
言えないわよ、馬鹿。
思っている通り、言えない事なので心の中で言う。
あんな事言うほどに頭がお花畑な美鈴に、これ以上飾りをつける必要なんてないじゃない。
そんな事、誰が言うものですか。
「だったら私をこんな服で飾らないでください」
「嘘っ!?私口に出してた!?」
一句思い付くなwww
めーりん、漢前ですね。そりゃ悪魔の狗だって惚れるってもんです。
>可愛らしくて美しくて……な美女
この三点リーダ2つには「美味しそう」が入ると推測w
しかしなんとゆー桃魔館。小悪魔のアイコンタクトは被害者三人組の家出フラグ?
6>
ふっ…紅魔館は常時カオス!カオスの権化!
オールデイズこのテンションが保てたら人生に退屈が無い。
15>
前書きは その場のノリで 作ったの
前書きだって何か注意書きばっかりじゃ疲れちゃうのです。楽しくしたいじゃないですかふふふ。
16>
咲夜さんは美鈴にフルパワーで愛を語る。だって美鈴はこんなに美味しそうなんだもの。
……何故…俺の『……』を見破る事が出来たっ!!
家出話…。アリだな。もしかしたら地道に書いてみるかもしれません。
だってこれじゃあ家出したくもなりますわ。
ありがとうございましたー!これからものんびり書いていきますのでどうぞよしなに。
これははやく逃げるべきwww
19 >
美鈴、よくこの職場で頑張ってんなぁ……
今更ながらに自分は美鈴に試練を与えまくっていると思う。止める気はない。