ぱらぱらぱっぱらぱらぱっ!
ぱらぱらぱっぱらぱらぱっ!
ぱらぱっぱー!
深夜。ベッドで横になり本を読んでいた私に聞こえてきたのは勇壮なトランペットの音色。
地底中のあらゆる場所に自身の手を伸ばそうと唸りを上げるその音は、大音量を伴って真夜中の地霊殿を揺らす。
最近はあまり来なかったので私自身は完全に油断していたが、私のペット達の反応は中々のようだ。
「さとり様、敵襲です!」
バンッ、と大きな音を立てて開かれた扉の向こう、息を切らしながら叫んだのは私のペット、お燐。
今の爆音で起きたばかりなのだろう、お気に入りの猫缶パジャマに身を包んだ彼女はそれだけ伝えると、すぐさま隣の部屋へと向かう。
そこには私の妹がいる。大切な、こんな戦いに巻き込むにわけにはいかない愛する妹だ。
「こいし様、こちらへ!」
「んー、なにー?どっか行くのー?」
「えーと、あれですよ、今日はあたいとお空と一緒に寝ましょう」
「ホント!?それなら行くわー」
タタタ、と走り去って行く音が聞こえる。
核施設の建設以来、鉄壁の守りで固めた地獄の炉。あそこならばこいしも襲われることはないだろう。
こいしが向こうで寝付くまでおそらく20分程、といったところか。今のうちに準備をしておかなければ。
パジャマを脱ぎ捨て、地霊殿の主としてのいつもの正装に着替える。
部屋を出るとちょうど廊下の奥、入り口の方から歩いてくる人影が見えた。
人影はこちらに気付いたのか、軽く手を振りながら歩み寄ってくる。
「さとり!」
「ヤマメ、来ましたね」
やって来たのは旧都に住む土蜘蛛のヤマメ。
こういった戦いの際には地霊殿に避難してくることも多いため、その来訪に私は驚くことはなかった。
「あいつら相手じゃあたしもキスメもきついからね。よろしく頼むよ」
ヤマメの能力は病を司る。それは今を生きる者たちにはあまりにも大きな脅威である。私やこいしでさえ、正面きって戦えば何の対応策もないまま死に至るであろう、それほどの能力だ。
だがこの敵、私達がいつも戦う相手にだけは彼女の能力は微塵たりとも働かない。
なぜなら彼等は既にある種の治しようのない病気にかかっているからであるし、そして何よりも彼等の命の灯火はとうの昔に消えてしまっているからだ。病を恐れる死人など存在しない。
「キスメを炉心へ。こいしもあちらにいるはずです」
「ん、わかった。それから途中で勇儀を連れてきたよ。今は屋根上から敵陣を観察してる」
「本当ですか!」
勇儀を!それはまさに朗報と言う他ない。
「流石ですね」
「貸し1、今度ご飯ね」
そう言って彼女も炉心へ。
この状況が奢りの一回で済むのなら安いものだ。この戦い、勇儀なくして勝利を得るのはほぼ不可能。こちらから彼女を呼びに行く時間すらも惜しいこの状況で、ヤマメが連れて来てくれたというのはとてつもない幸運だ。
勇儀がいなければ絶対的に不利な、言わばこちらにはチョキしかないジャンケンのような状況だった。
だが勇儀が、このジャンケンにおけるパーが来た以上は絶対に負けることはない。そう、パーさえあればいいのだ。なぜなら相手の手札もまた、グーしかないのだから。
私は廊下の窓へと取り付き、開いたそこから頭上に声をかける。
「勇儀、聞こえてますか?」
「あぁ聞こえてるよ、さとりの可愛い声と、それを遮る亡者の呻き声がね」
屋根の上から聞こえてくる勇儀の声。
勇儀に聞こえるという敵、亡者達の声は私の耳には届いていない。
敵はかつて地底が地獄の一部であった頃からの古参の者達。
そう、地獄の罪人だ。
地霊殿のロビーで一堂に会した仲間達。先程やってきたパルスィも含めて、集まったのは六人。
「戦闘準備はどうですか?」
「まぁ適当にー」
「どうせすることもないしいつでもいいわよ……」
「私に任せといてくれりゃ大丈夫さ」
「あたいは一応準備してあります」
思い思いに返事をするヤマメ、パルスィ、勇儀、お燐、そして……お空?
辺りを見渡してみてもあの特徴的な三本足は見当たらなかった。
「……お空はどこへ?」
「あー、こいし様と一緒に寝ちゃいました……」
そういうことか。まぁ仕方ない。いつものように勇儀が来るまでの時間稼ぎが必要な状況ではないし、今回は指示を出す私と勇儀がいればいい。
この戦いは始まる前からして既に掃討戦の様相を呈している。
敵陣からは今も私の体を貫くような激しい気勢が発せられているが、それも時間の問題だ。勇儀がいるとわかればで相手の勢いは雲散霧消するだろう。
「動きました!」
窓から外を見ていたお燐が声を上げる。
さぁ、開戦だ。私は箱にしまわれた法螺貝をヤマメに手渡した。
ぱぉぽーぱぉぽー、と開戦の合図がヤマメの口元から響いた。
「戦闘開始!」
掛け声とともに勇儀は窓から飛び出してゆく。地霊殿の外壁に取り付いたばかりの無防備の敵にとって、その姿はまさに悪鬼。
持った二つの武器、彼等のグーに対するパーで敵兵をなぎ倒してゆく勇儀。
外壁を垂直に走り抜けながら、ブルンブルンとその武器を振るう。
一振りごとに吹き飛んでゆく敵兵と、その中心でクルリと回転する彼女はまるで舞いを踊っているかのようだ。
敵兵達は目の前に舞う旋風に対しなすすべも無く沈んでゆく。
ただし、相手は死人。ただ十数メートルの距離を落下したくらいでは倒れることはない。彼等はすぐに蘇ってくる。それを完全に消滅させようと思ったら、エクソシストを呼んでくるしかない。
だが、消滅させずとも敵を再起不能にする手はある。それは相手の心を折ることだ。
勇儀の持った武器は、相手の心をヘシ折るのに余りある一品。伝説級、と言って差し支えないほどのそれに勝るものは、この地底には存在しない。
広い地上でさえ、数える程しか見たことがない、そんな最強の矛だ。
「鬼だ! 鬼がもういやがる!」
「こっちはダメだ! 別の壁に回れ!」
「やめろぉっ! 後ろから押すんじゃない! こっちは死門だ!」
予想通りに敵はすぐに潰走し始めた。
だが勇儀は撤退する敵を追わない。敵兵の一人一人を相手にしている暇などないからだ。
必要なのは恐怖を植えつけること。そしてそれは彼女が舞った北門の壁では、完全に達成された。
「今逃げてなんとする! 俺達の目的はこの先にしかないんだぞ!」
敵影の中で一人、陣を鼓舞し統率を回復する者。おそらくあれが指揮官なのだろう。
別の壁へと向かいかけた勇儀が目ざとく見つける。
勇儀、駄目です。それだけはいけません。
「大将首、もらっていくよ!」
叫んで彼女を制止したい気持ち、そう叫ばなければいけない気持ちと、叫ぶことで新たな脅威を生み出してしまう、そんな予感がせめぎ合う。
そして、私の口からついぞ言葉が零れることはなかった。
敵の指揮官は勇儀の前に倒れた。
指揮系統を失った敵軍、北側の壁からそれは全軍へと伝播する。
私は第三の目を見開く。周囲から聞こえてくるのは混乱、不安、恐怖。
―――おい、もうやられちまったのかよ!
―――どうなるんだよ、こっから……
―――目の前だってのに畜生!
これは、まずい。
指揮官を失った軍の行動とは大別して二種類。
思い思いに撤退するか、それとも。
―――もう、もうやるしかねぇ!
特攻するかだ。
指揮官を失った相手の行動は、全軍突撃。
うおおおおおおお、と鬨の声が随所から上がる。その振動に、カタカタと背後の花瓶が揺れた。
自身の選択を悔やむように、苦い顔をして勇儀が窓から舞い戻る。
よかった。これなら大丈夫だ。あのまま勇儀が汚名返上と敵軍に飛びかかっていたら、間違いなくこちらの手が足りなかった。
勇儀さえいれば突破できる。逃げるなら今だ。
「お燐、炉心の三人を起こして……お燐?」
お燐は信じられないものを見る目で、廊下の奥を見ている。まるでこの場にあってはならない、いてはならない誰かが―――まさか?
お姉ちゃん、と大きな声が地霊殿に響いた。辺りの声をかき消すような、いや実際にかき消したその声は、周囲の全ての敵兵に私達の存在と、居場所を知らせた。
「お姉ちゃん、一体どうなってるの!?」
「こいし、落ち着きなさい。まずはゆっくりと深呼吸を―――
瞬間。怒号、と言うことすら生ぬるいほどの叫びが、先程の鬨の声の数倍のエネルギーを持って地霊殿を襲った。
「いたぞ!あの部屋だああああああああああ!」
「今の声はさとり妖怪の妹だ!間違いなく姉妹揃ってるぞ!」
「押し寄せろぉおおおおおお!」
「ひっ!なに!?なんなの!?」
状況を把握できずに廊下にへたり込んでしまったこいし。
仕方ない。こうなったらこいしにも伝えるしかない。はるか昔から地底で続く、この戦いのことを。
「お姉ちゃん、何なのこれ、怖いよ、お姉ちゃん」
「こいし、まずはどうしてここに?」
「お空の寝相が悪くて、蹴っ飛ばされて起きちゃって、そうしたらすごい音がして……」
そういうことか。道理で一度寝たら自力では起きれないこいしが廊下を歩いているわけだ。
「お空は?」
「多分まだ寝てると思うけど……」
お空の寝相の悪さは神がかっている。おそらく今頃炉心の隣の温泉部屋にでも転がっているだろう。
まぁそんなことはどうでもいい。
「こいし、聞きなさい」
神妙な顔の私に気付いたのか、こいしは息を呑んでこちらを見つめている。
外壁をよじ登る敵は勇儀が蹴落としている。そしておそらく門が破れるまでは多少時間があるだろう。これならなんとかなる。
「これははるか昔、ここが地獄の一部であったころから続く戦いの一部です」
もはや1000年にもなるだろうか。長いものだ。
勇儀が来てくれてからはかなり楽にはなったが、それまでは閻魔に頼んで死神を連れてきてもらわなければならなかったりと、一杯一杯だった。
「相手は地獄の亡者。彼等は……そう。皆が皆ある理由によって地獄に落とされた者たちなのです」
「理由……? 罪じゃなくて?」
「そうですね、罪といえば罪でしょう。ですが大悪ではない。ただ、なんというか、閻魔の心象が悪かったのです」
「え、あの閻魔様が!?」
公明正大をモットーに掲げ、事実その通りに静粛に裁判を行うことで有名な閻魔、四季映姫。
だが、彼女とて一個の人格を持った女性。私心を交えてこの結果をもたらしてしまったとはいえ、恨むことなどできようか。
「あの閻魔ですら感情に身を任せて彼等を地獄に落とした理由、それは……」
「それ、は……?」
ドゴォォン、という盛大な音。門が破れた。
「彼等は、筋金入りのロリコンだったのです」
訪れたのは瞬間の静寂。亡者達は一斉に息を吸い、そして。
「さとりんとちゅっちゅしたいおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「こいしたん結婚してくれええええええええええええええええええええええええええ!!」
「お燐ちゃん可愛いよお燐ちゃああぁぁぁぁん」
「さとりんのあのジト目で見下されたい! 夢が叶う時は今!」
「何にもわからないこいしたんに無邪気な瞳で見つめられたい! たい!」
「キスメちゃんが一番、あの桶に入ったかわいらしい姿が、もう目の前にぃぃぃぃぃいい」
「パルスィの橋!!パルスィの橋かわいいよぉぉぉおお」
「閻魔様のあの嫌悪感に満ちた顔がまた見たい! でも我慢! 我慢してさとりん!」
こいしは頭を抱えてしゃがみこんだ。
まぁ、無理もない。今まで普通に接してきた地底の住民の半数近くが幼女愛好家だなどと信じたくない気持ちもわかる。
私もここに来たばかりの頃にお隣のお爺さんに貰ったゴボウ、キュウリ、ナスがあんな邪悪な意図で渡された物だとは思いもしなかったものだ。一年毎に野菜が大きくなるから何かあるのかとは思ったけれど。
「さとり!こっちへ」
「お願いしますね、勇儀」
壁際の一角に全員を集めると、その前に立ちふさがる勇儀。
亡者達が踏み鳴らすその音は益々大きくなり、この階へ到達するのも目前と言ったところだろう。
「ちょ、ちょっと待って、お姉ちゃん!」
「なんですか?」
「いくら勇儀でも無理だよ!あんなに変態が一杯いるのに!」
こいしちゃんに変態呼ばわりされてしまった、と興奮する心の声が随所から伝わってくる。
これだから変態は困るのだ。ジト目で見つめられてる、などと言われてもこっちはこれが素なのだ。
「こいし、人を変態呼ばわりしてはだめですよ。興奮した豚達には逆効果です」
「豚はいいの!?ってそうじゃなくて、勇儀もあいつらにやられちゃうよ!」
はぁ。まったく、我が妹ながら無邪気なものだ。勇儀の持つあれに全く勘付きもしないとは。
「こいし、見なさい勇儀のあの武器を。あれがある限り負けはしませんよ」
「……?武器なんて持ってない!素手じゃいくらなんでも無理よ」
「すぐにわかりますよ」
「でも……!」
「大丈夫、こいしにもすぐにわかるさ」
「勇儀……」
涼しげな顔をした当の本人に、こいしもとうとう黙りこくる。
それと同時にドカドカと土足で踏みにじる音がピタリと止まった。
扉の向こうから聞こえてくるのは呼吸音。はぁはぁ。はぁはぁ。幼い頃はこれが頭に残って眠れなかったものだ。
カチャリ、とドアノブが捻られる音がし、一瞬の間。
ドアは大きく開け放たれた。
「さとりいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃ……いいいん!?」
「こいしちゃあああああああああぁぁぁぁぁ……あ、あぁぁぁぁ……」
一番に入室した二人の顔が一瞬でゆがみ、その場で凍ったように動かなくなった。
その後ろから部屋を覗き込んだ数人は、勇儀が構えた抜き身の武器を見るなり一瞬で逃げ出した。
勇儀が両手に構えた武器。それは――――
「さぁ、そろそろお前等にもこの巨乳の良さをわからせてやろうじゃないか!」
まさに天下無双、抜き身の一品であった。
堰を切ったように転進してゆく亡者達。
情けなくも逃げ出した彼等だが、一つだけ彼等の言い分の中で私が認めることがある。それは彼等の捨て台詞だ。
「おっぱいお化けが来る!逃げろぉぉぉぉぉ!!」
「乳なんて無駄な脂肪なんだよ!バカヤロー!」
「変なもんぶらさげやがって!さとりんを見ろ!何一つ無駄の無い完璧なボディーだろうが!」
あと何度繰り返すかわからないこの戦いの中で、私は今日も思うのだ。
あぁ、おっぱい欲しいなぁ。
うん。
まさに俺だ。
裁判時は小町が付きっ切りだったのか
亡者たちは俺だ。
無駄に気遣ってんじゃねえよバカチンがw
野菜自重ww
激しく大爆笑したwwww
戦場カメラマンだったころが懐かしい。
成程 w
あ、なんだ俺か
さて、空から降ってきた幼女は俺のものだ!
あれ、何で俺がいるんだ…?
勇儀姐さんの相手は俺が引き受けたッ!
あ、地底からこのSS投稿してるんですね。わかります。
〉「さぁ、そろそろお前等にもこの巨乳の良さをわからせてやろうじゃないか!」
ゆうぎたん!!俺におしえてくりぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!
ひっっっやっふううううううううううううううううううううううううううううええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!
「おりんのお爺さんに貰った」に脳内変換した自分もビョーキ。
ジト目は好きだがwww
俺ぁいつでも出撃OKだ!!
まったく、お前らと来たら…
ん?俺は死んでも紅魔館に居座るぜ。
こんな非力な俺でも…足止めくらいは出来るはずだ!!勇儀姉さん!!今行くぜ!!
ロリコン界最大の掟を破るとはなんと情けない
ロリと思わせておいて、俺は勇儀さんのツインキャノンに突貫する!
さて、野菜畑を耕してくるか…。
なんてこったwww
だがさとり様で我慢すると言った奴は表に出ろ、お前は俺を怒らせた。
いいと思います。なにしろ「かわいいは正義」ですから!
前半のシリアスなシーンから一転し突っ走る悪霊たち 作者の意気込みが感じられました。
次回は私も参加しないと
あとあとがきで吹きました いやはや幻想郷は幼い女の子たちが多いから他の子たちも地霊殿に応援に行かないと いや行ってください。
点数入れ忘れてたので今更だけどポチリ