Coolier - 新生・東方創想話

星に想いを

2009/07/28 19:58:10
最終更新
サイズ
3.35KB
ページ数
1
閲覧数
1122
評価数
6/32
POINT
1690
Rate
10.39

分類タグ


暗闇の中に一筋の線が生まれ、それがゆっくりと開くと、その中には美しい星空が広がっていた。
八雲紫は、縁側に腰かけてそれを眺めていた。その表情は、喜怒哀楽のどれに当てはめたら良いのかがわからない、不思議な表情だった。

ありとあらゆる境界を自由に操れる、幻想郷の生き字引とも言える彼女が、一体何を思い星空を見上げるのか。
境界の中にある彼女の屋敷から、ひょっこりと一つ、影が現れる。
「藍?」
紫はすぐにその気配を察知すると、振り向きもせずに訊いた。
「すみません、お部屋の扉が開いておりまして、姿が見えなかったので」
藍は深々と頭を下げると、そっと紫の一歩後ろに立った。そんな様子を見て紫は、
「そんなに畏まらなくてもいいから、ちょっとここに座りなさい」
と、自分の隣をぽんぽん、と叩いた。
藍は暫く考え込んでから、何も言わずに紫の隣に座った。

たとえどんなに遠慮するなと言われても、少し緊張はしてしまう。
藍は少しだけ自分の身体が堅くなっている事を感じながら、しかし主の隣に座るだけで幸せな気持ちになった。
「うわぁ……」
そこから見上げた星空は、眩暈を覚える程に美しく光り輝き、藍の瞳にキラキラと反射して。
そんな藍を見て、紫は優しく微笑んだ。
「長く、本当に長く生きているとね」
「え?」
突然口を開いた紫に、藍は驚きながらも、彼女の口から発せられる言の葉を、一語一句漏らさず聞こうと耳をすませた。
そんな彼女の真剣さが、紫は好きだった。
「長く生きていると、全ての事が本当にどうでも良くなる事がたまにあるわ。確かに、私達が居るのは妖怪達の夢の国、幻想郷。
 だけど、何故かしら。とても憂鬱な時間が私にはある。それが何故やって来るのかも、どうすればいいのかも、私にはわからないわ」
藍は、自分が紫の言っている事の半分も理解できない事をわかっていた。
しかしそれでも、藍は考える。
自分の主とは。
膨大な能力を持ち、頭脳の良さもあり、長く生きた経験もある者が、一体何を考えるのか。
わからない。
だけど、それをわかりたい――。

「だけど、そんな時にこの星空を見るとね。心がとても透き通った様に感じるのよ」
「そう、なのですか」
やはり良くわからない、といった風な仕草を見せる藍を見て、紫はそっと天の星を指差した。
「あれは妖精座、あれは化猫座、あれは人形座……」
「そう言えば紫様は妖怪用の星座を作られた方でしたね」
「そうよ。天体は境界の無い世界。どこまでも広がり、終わりも始まりも無い。だからね、好きなの」
全てにおいて絶対的な力を持つ、幻想郷最古参の妖怪は、自らの力を超えた世界に想いを寄せているようだった。
藍はそんな主人を、少し悲しそうな眼で見つめる。
自分は、やはり主人の気持ちをわかる事が出来ないのだろうか。そしてその気持ちを分かつ事が出来ないのだろうか。
そして藍は、何気無く主人に訊いてみた。

「私の……私の星座はあるんでしょうか」

その問いに紫は眼をぱちくりとさせて、思い出したかの様に空を指をさした。
その先には、一際光り輝く星があり、紫は楽しそうに言った。
「あれが藍、貴女よ。星座なんて曖昧なものじゃなくて、あそこに光る星そのものがラン。貴女の名前の星」
藍はその言葉を聞いて、目を輝かせながら身を乗り出した。

「あれが、私――」
「そう、蒼白く輝く光。私の一番好きな星」
「紫様」
振り向いて藍は紫に笑いかける。
「星空は、幻想郷なのですね」
「どういうことかしら?」
紫は本当に意味がわからない様で、藍にその意味を訊く。
「だって、幻想郷には沢山の美しい命の光があって、無限に広がっていくじゃないですか」
その言葉に紫は目を見開いて、何かに気付いたようだった。
紫の瞳から、涙が溢れてくる。
ああ、そうか。
幻想郷はこんなにも暖かかったのか。
紫の中の永遠とも取れる長い孤独は、一瞬で消えた気がした。
「そうね――。藍、貴女の言う通りだわ」
そう言った紫の表情を見て、藍は思った。
主は、長い苦しみから解放されたのだと。

空には光る青い星。

地上にも並んで二つ、光る星が見えた。
どうも初めまして。Sanryuです。
以前から興味を持っておりました東方創想話の方に、ちょっと勇気を出して参加させてもらいました。
短く、そして拙い話だとは思いますが、楽しんで頂けたらなあと思います。
またちょくちょく書いてみたいと思っておりますので、宜しければまたその時は読んでやってくださったらありがたいです。
Sanryu
http://koti.0web.cjb.net/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1180簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
惚れた!!
いやー、綺麗なショートショートですわ。
5.80名前が無い程度の能力削除
雰囲気がとてもARIAに近い。恥ずかしいセリフ禁止。
6.60名前が無い程度の能力削除
誤字報告:橙→藍ではないでしょうか?
内容的には好みだったので、けっこうこのミスは残念でした。
7.無評価Sanryu削除
>惚れた!!
ありがとうございます!!本当に嬉しいです!!
これからも頑張りたいので是非よろしくお願いしますね!!

>雰囲気がとてもARIAに近い。
そうなんですか、ARIAは読んだ事無いのでこういう話ならぜひ読んでみます。
読んでくださってありがとうございました!!

>誤字報告:橙→藍ではないでしょうか?
>内容的には好みだったので、けっこうこのミスは残念でした。
修正させて頂きました。ご指摘ありがとうございました。
何故橙と打ったし…本当に申し訳ございません。
特に内容が好みと言う事で大変残念な気持ちにさせてしまったと思います。
これからはこのような事が無い様精一杯頑張りますのでよろしければまた見てやってください。
11.80名前が無い程度の能力削除
綺麗な話だね。
13.90名前が無い程度の能力削除
綺麗ないい話だ…
強いて言えば短いのが残念
18.100名前が無い程度の能力削除
24.無評価Sanryu削除
>奇麗な話だね。

>綺麗ないい話だ…
>強いて言えば短いのが残念
ありがとうございます!!奇麗なだけでなく複雑な話も書いてみたいと思っていますので
その時はまた読んでやってください。
ボリュームは気にせず書いてみました。無理に長引かせる話ではなく、ちょっとした話というイメージだったので。
長い話も書きますのでよろしくです!!

>可
えっと……良かったのでしょうか?w
100点ありがとうございます。これからもがんばりますのでよろしくです!!