「お~す香霖。いるか~?」
エプロンドレスを身に着けた白黒魔法少女・霧雨魔理沙。
彼女が今いるのは香霖堂の前。魔法の森の入口にあり、ちょうど森と人里との境界地点とも言える。
そんな店の主人である森近霖之助は半妖であり、店と同じく人間と妖怪の境界にいるような男だ。
「お~い、いないのか~?」
魔理沙はドアノブを握り、やさしくドアを開け
「まぁいなくても入るけどな」
…るはずもなくいつものように豪快に開けた。
魔理沙が店に入ると勘定台にいつもいるはずの男はいなかったが、代わりにある物体が置かれていた。
「ん?何だこれ?」
それは茶碗と呼ぶには少々歪な形をしており、コップと呼ぶにはサイズが大きすぎた。
「外の世界の道具か?また香霖は変なもん集めてるのか」
光に照らしても、水に濡らしても、何も起こらない。
もしかしたら外の世界のマジックアイテムなのかも。そう思って魔力を注入してみるも、結果はただ単に疲れただけだった。
「一体なんなんだ?これは」
道具の考察(自称)に飽きられたその物体は、魔理沙の手の上で跳ね上がる仕事についた。
「せっかく私が来てやったのに、あいつは一体どこで何してるんだぜ」
暇をつぶす程度の能力として生まれ変わったその物体は、15度目の上昇を最後にその役目を終えた。
パリーン
「あ」
粉々である。それはもう、修復不可能なレベルで。難易度ルナティック。
「ああ~、やっちまったぜ」
持ち主が帰ってくる前に隠そうとするが、そんなタイミングで帰ってくるのがお話というものである。
カウベルの音と共に、先程まで待ち焦がれ、今は一番会いたくない人物が帰ってきた。
「ふぅ疲れた。おや、魔理沙。来てたのかい?店主のいない店に勝手にはいるなんてまるで泥棒のようだね」
「あ、ああ。来てたぜ…」
「?」
いつもなら軽口を返してくるはずの魔理沙に霖之助は違和感を感じた。
「じゃ、私は帰るぜ」
「もうかい?一体何しに来たんだか」
「私だって忙しいんだ。それじゃあな」
「全く、落ち着かない子だ。…待ちなさい魔理沙!!」
ビクッ!!
突然の大声に思わず直立してしまった。
「な、なんだぜ!?」
「これは、なんだい」
いつもの無表情な顔に見えていつもと違う霖之助の指さす先には、最早粉々のゴミですらないものがあった。
「あー、変身だ」「魔理沙」
頭を掻きながら答える魔理沙に霖之助は再び尋ねる
「知らないのか?物だって形を変えたいときだってあるんだぜ?いわば進化だ」「魔理沙」
夏真っ盛りだというのに、室内には冷たい空気が流れている。
「もうなんだよ!どこで拾ったか知らないが、こんな物が壊れたくらいで怒んなくたっていいだろ!」
パァン
先程の声よりも大きな乾いた音が、店内に響いた。
魔理沙は訳が分からない、と言った表情を浮かべながら頬を押さえている。
一方の霖之助は破片をすべて拾い上げ、語る。
「これは、昔ある人から貰ったんだ。その人の気持ちのこもった大切な物だよ」
ズキン
「ああそうかよ!そんなに大切ならまたそいつに作って貰えばいいだろ!香霖のバカ!!!」
言うやいなや店から飛び出した魔理沙は最高速度で箒を飛ばした。
どんどん小さくなる魔理沙を、霖之助はただただ見つめていた。
瞳から流れる涙の理由は、頬の痛みか、はたまた別か、魔理沙には理解できなかった。
それから、なんとか数日がたった。
というのも、森近霖之助は人間とは寿命が違うのである。故に、である。
そう本人は結論づけたが、その答えは霖之助にもわからなかった。
カランカラン
「いっしゃ…君か」
久々の客。霖之助はそう思い入口を見やると、トンガリ帽子が入店してきた。
そのトンガリ帽子は後ろ手にドアを閉めると、再び深く俯き、ばつが悪そうに手をもじもじとさせている。
青年と帽子の間に流れる、静寂。
「何か、ご入り用かな?」
もじもじ
はぁ
ため息一つ。
「あの、さ」
「うん?」
俯いたまま話す帽子。いや、少女。それを見下ろしたまま聞く青年。
「大事な物、だったんだろ?これ、代わりにならないかもしれないけど」
そう言った少女の後ろ手には小包があった。
再び流れる沈黙。
そして、
「魔理沙」
男は口を開いた。
「僕が何故君を怒ったかわかるかい?」
「…大事な物だったから」
「たしかにあれは大事だったし、後に高価になる物だった。でもそれだけならあんなに怒りはしないよ。と言うか、君自身もう気づいてるんじゃないかい?」
「…謝らなかったから」
霧雨魔理沙には収集癖がある。
マジックアイテムや魔導書といった類を集める癖があるのだ。
集めるという言い方だと少し語弊がある。魔理沙の場合人から借りている。いや、もはや盗んでいるようなものだ。
勉強のため。といえば聞こえはいいだろうが、人様の物を拝借していることに変わりはない(「死ぬまで借りてるだけだぜ」とは彼女の弁だが)。
今のところ大きな問題になっていないのは、やはり彼女の人懐っこい性格のおかげだろう。
実際香霖堂も度々被害にあっているがやはり許されてしまう。
が、霖之助は思う。このままではいけないのだ。と。
「ふむ。それで、他に言うことは?」
「あー、その、ごめん、なさい」
ぺこり、言葉と共にお辞儀を一つ加えて。
「まぁ、いいだろう。次からはしっかりと謝るんだよ。ほら、もう顔をあげなさい」
帽子が顔をあげると、中からほっとした表情を浮かべる少女が出てきた。
「なんだ、泣いてたのかい?」
「な!泣いてなんかないぜ!!何言ってんだ!?」
「目が赤いよ」
「え!?」
「嘘だけどね」
「しかし、惜しいものを無くしたな」
「なぁ香霖。アレは誰からもらったんだ?」
「アレかい?アレは僕がまだ霧雨店で修業してた時だ。その時にそれはそれはとても可愛い少女が作ってくれたんだよ」
途端、魔理沙の顔が青くなる。まるでこの世の絶望を味わったかのような表情だ。
「そ、そうか…ちなみにそいつは今何やってんだ?」
「ん?今は目の前で青くなってるよ。目は赤いのに器用だな」
キョロキョロ
「わ、私!?」
「やっぱり覚えてなかったか。確か僕が修業を始めて…何年目だったかな?とにかくそんな感じの記念日に君が作ってくれたんだよ。
幼い小さな手をボロボロにしてね」
思い出す魔理沙を置いて続ける。
「しかし君の感性は少々変わっててね。普通の人なら茶碗かコップ言っただろう。しかし僕は商人だからね、自信を持って答えたよ。「素敵な壺をどうもありがとう」と。
そうしたら君は僕の頬に紅葉を付けてこう言ったよ。「それは花瓶だ!!」ってね。僕の能力が間違えたのは最初で最後だよ。」
「へぇー、昔から可愛かったんだな。私は」
「ああ、昔は可愛かったよ」
ケタケタと、さっきまでの表情が嘘のように笑う。いつもの魔理沙に戻ったようだ。
そして、いつも通り霖之助の膝に座る。
「でも、私が作ったものなら全然高価じゃないだろ?ましてガキの頃作ったものなら、ガラクタだ」
「そんなことはない。君が将来大魔法使いになった場合、あの商品は幻想郷が誇る魔法使い・霧雨魔理沙が初めて作ったいわば処女作だ。
当然価値は上がるし、君が有名になればなるほどそれを置いてる香霖堂も名が売れるってわけさ。それとも、もう大魔法使いになるのは諦めたのかい?」
「何言ってやがる。これからだぜ!」
「そうかい。それは楽しみだ。ところで、これは開けても?」
振り向く魔理沙が見た霖之助の手には先ほど魔理沙からもらった袋があった。
「ああ!自信作だぜ!!」
「ほぉどれどれ。…これは!!」
霖之助は中身を出した。そこに現われた物は…
「やあ魔理沙。素敵な花瓶をどうもありがとう」
「それは壺だぜ…」
エプロンドレスを身に着けた白黒魔法少女・霧雨魔理沙。
彼女が今いるのは香霖堂の前。魔法の森の入口にあり、ちょうど森と人里との境界地点とも言える。
そんな店の主人である森近霖之助は半妖であり、店と同じく人間と妖怪の境界にいるような男だ。
「お~い、いないのか~?」
魔理沙はドアノブを握り、やさしくドアを開け
「まぁいなくても入るけどな」
…るはずもなくいつものように豪快に開けた。
魔理沙が店に入ると勘定台にいつもいるはずの男はいなかったが、代わりにある物体が置かれていた。
「ん?何だこれ?」
それは茶碗と呼ぶには少々歪な形をしており、コップと呼ぶにはサイズが大きすぎた。
「外の世界の道具か?また香霖は変なもん集めてるのか」
光に照らしても、水に濡らしても、何も起こらない。
もしかしたら外の世界のマジックアイテムなのかも。そう思って魔力を注入してみるも、結果はただ単に疲れただけだった。
「一体なんなんだ?これは」
道具の考察(自称)に飽きられたその物体は、魔理沙の手の上で跳ね上がる仕事についた。
「せっかく私が来てやったのに、あいつは一体どこで何してるんだぜ」
暇をつぶす程度の能力として生まれ変わったその物体は、15度目の上昇を最後にその役目を終えた。
パリーン
「あ」
粉々である。それはもう、修復不可能なレベルで。難易度ルナティック。
「ああ~、やっちまったぜ」
持ち主が帰ってくる前に隠そうとするが、そんなタイミングで帰ってくるのがお話というものである。
カウベルの音と共に、先程まで待ち焦がれ、今は一番会いたくない人物が帰ってきた。
「ふぅ疲れた。おや、魔理沙。来てたのかい?店主のいない店に勝手にはいるなんてまるで泥棒のようだね」
「あ、ああ。来てたぜ…」
「?」
いつもなら軽口を返してくるはずの魔理沙に霖之助は違和感を感じた。
「じゃ、私は帰るぜ」
「もうかい?一体何しに来たんだか」
「私だって忙しいんだ。それじゃあな」
「全く、落ち着かない子だ。…待ちなさい魔理沙!!」
ビクッ!!
突然の大声に思わず直立してしまった。
「な、なんだぜ!?」
「これは、なんだい」
いつもの無表情な顔に見えていつもと違う霖之助の指さす先には、最早粉々のゴミですらないものがあった。
「あー、変身だ」「魔理沙」
頭を掻きながら答える魔理沙に霖之助は再び尋ねる
「知らないのか?物だって形を変えたいときだってあるんだぜ?いわば進化だ」「魔理沙」
夏真っ盛りだというのに、室内には冷たい空気が流れている。
「もうなんだよ!どこで拾ったか知らないが、こんな物が壊れたくらいで怒んなくたっていいだろ!」
パァン
先程の声よりも大きな乾いた音が、店内に響いた。
魔理沙は訳が分からない、と言った表情を浮かべながら頬を押さえている。
一方の霖之助は破片をすべて拾い上げ、語る。
「これは、昔ある人から貰ったんだ。その人の気持ちのこもった大切な物だよ」
ズキン
「ああそうかよ!そんなに大切ならまたそいつに作って貰えばいいだろ!香霖のバカ!!!」
言うやいなや店から飛び出した魔理沙は最高速度で箒を飛ばした。
どんどん小さくなる魔理沙を、霖之助はただただ見つめていた。
瞳から流れる涙の理由は、頬の痛みか、はたまた別か、魔理沙には理解できなかった。
それから、なんとか数日がたった。
というのも、森近霖之助は人間とは寿命が違うのである。故に、である。
そう本人は結論づけたが、その答えは霖之助にもわからなかった。
カランカラン
「いっしゃ…君か」
久々の客。霖之助はそう思い入口を見やると、トンガリ帽子が入店してきた。
そのトンガリ帽子は後ろ手にドアを閉めると、再び深く俯き、ばつが悪そうに手をもじもじとさせている。
青年と帽子の間に流れる、静寂。
「何か、ご入り用かな?」
もじもじ
はぁ
ため息一つ。
「あの、さ」
「うん?」
俯いたまま話す帽子。いや、少女。それを見下ろしたまま聞く青年。
「大事な物、だったんだろ?これ、代わりにならないかもしれないけど」
そう言った少女の後ろ手には小包があった。
再び流れる沈黙。
そして、
「魔理沙」
男は口を開いた。
「僕が何故君を怒ったかわかるかい?」
「…大事な物だったから」
「たしかにあれは大事だったし、後に高価になる物だった。でもそれだけならあんなに怒りはしないよ。と言うか、君自身もう気づいてるんじゃないかい?」
「…謝らなかったから」
霧雨魔理沙には収集癖がある。
マジックアイテムや魔導書といった類を集める癖があるのだ。
集めるという言い方だと少し語弊がある。魔理沙の場合人から借りている。いや、もはや盗んでいるようなものだ。
勉強のため。といえば聞こえはいいだろうが、人様の物を拝借していることに変わりはない(「死ぬまで借りてるだけだぜ」とは彼女の弁だが)。
今のところ大きな問題になっていないのは、やはり彼女の人懐っこい性格のおかげだろう。
実際香霖堂も度々被害にあっているがやはり許されてしまう。
が、霖之助は思う。このままではいけないのだ。と。
「ふむ。それで、他に言うことは?」
「あー、その、ごめん、なさい」
ぺこり、言葉と共にお辞儀を一つ加えて。
「まぁ、いいだろう。次からはしっかりと謝るんだよ。ほら、もう顔をあげなさい」
帽子が顔をあげると、中からほっとした表情を浮かべる少女が出てきた。
「なんだ、泣いてたのかい?」
「な!泣いてなんかないぜ!!何言ってんだ!?」
「目が赤いよ」
「え!?」
「嘘だけどね」
「しかし、惜しいものを無くしたな」
「なぁ香霖。アレは誰からもらったんだ?」
「アレかい?アレは僕がまだ霧雨店で修業してた時だ。その時にそれはそれはとても可愛い少女が作ってくれたんだよ」
途端、魔理沙の顔が青くなる。まるでこの世の絶望を味わったかのような表情だ。
「そ、そうか…ちなみにそいつは今何やってんだ?」
「ん?今は目の前で青くなってるよ。目は赤いのに器用だな」
キョロキョロ
「わ、私!?」
「やっぱり覚えてなかったか。確か僕が修業を始めて…何年目だったかな?とにかくそんな感じの記念日に君が作ってくれたんだよ。
幼い小さな手をボロボロにしてね」
思い出す魔理沙を置いて続ける。
「しかし君の感性は少々変わっててね。普通の人なら茶碗かコップ言っただろう。しかし僕は商人だからね、自信を持って答えたよ。「素敵な壺をどうもありがとう」と。
そうしたら君は僕の頬に紅葉を付けてこう言ったよ。「それは花瓶だ!!」ってね。僕の能力が間違えたのは最初で最後だよ。」
「へぇー、昔から可愛かったんだな。私は」
「ああ、昔は可愛かったよ」
ケタケタと、さっきまでの表情が嘘のように笑う。いつもの魔理沙に戻ったようだ。
そして、いつも通り霖之助の膝に座る。
「でも、私が作ったものなら全然高価じゃないだろ?ましてガキの頃作ったものなら、ガラクタだ」
「そんなことはない。君が将来大魔法使いになった場合、あの商品は幻想郷が誇る魔法使い・霧雨魔理沙が初めて作ったいわば処女作だ。
当然価値は上がるし、君が有名になればなるほどそれを置いてる香霖堂も名が売れるってわけさ。それとも、もう大魔法使いになるのは諦めたのかい?」
「何言ってやがる。これからだぜ!」
「そうかい。それは楽しみだ。ところで、これは開けても?」
振り向く魔理沙が見た霖之助の手には先ほど魔理沙からもらった袋があった。
「ああ!自信作だぜ!!」
「ほぉどれどれ。…これは!!」
霖之助は中身を出した。そこに現われた物は…
「やあ魔理沙。素敵な花瓶をどうもありがとう」
「それは壺だぜ…」
なによりあとがきが素敵です。マドモワゼル。
魔理沙が生まれる前に既に霧雨店の元を離れて独立していたはずだけど
香霖って呼ぶようになったのも父親?に香霖堂に連れられて来た事が由来だし
やはりこの2人はこういう関係がいいですね
こーりん殺す!!
やっぱり魔理沙は霖之助との組み合わせで魅力が三百パーセント増しになりますな。
さっくり読める実に良い魔理霖でした。
吹いたwww
やっぱ香霖と絡むとかわいいなー魔理沙
さとりんナイス! 解せぬw
ただし魔理沙は可愛い生き物ということは分かります
>>24
こまけぇこたぁいいんだよ。
魔理沙は可愛い、それでいいじゃないか。
それと>>75
コメにレスつけんのは規約違反。これは細かいことじゃないぜ?
まぁ、俺もだが。
妄想する魔理沙に対してか、妄想の中のこーりんの言動に対してか、
はたまた妄想する魔理沙と一緒の空間いることに対してなのか
そんなことに悩んだ自分の三分間はおそらく時間の無駄の極致であったと思う。
魔理沙が乙女である、以外に何がありましょう。