お久しぶりです。突如・・・でもないですが電波を受信し書きなぐってみました。一応注意書きをつけておきます。
・オリキャラあり(セリフは数種類のみ)
・独自解釈あり(全国の妖怪・伝説を調べれば出てくるけど、東方では未出)
・キャラ崩壊してるかも・・・こんなのオレの○○じゃねえ!!!とか思うかも
以上、思いつく限り。それでも気にしないという方、気にするけど読んでやるという心の広い方どうぞ・・・↓
伊吹萃香は鬼である。
しかし、鬼のわりには自分勝手で不誠実という困ったちゃんである。
何百年も前から酔っ払いをやっており。今日も今日とて酔っ払いながら幻想郷の中を徘k・・・ではなく散歩していた。たまたま無縁塚によってふらふらしていると、猫の
鳴き声のような音がした。
「んにゃ~。何の音~?」
答えるものなど居ないことをまったく気にせず。音のほうへと向かっていく。そこで彼女が見つけたものは
「だぁ~、ぶぅ~」
小さな赤子であった。
鬼の本分とは・・・
幻想郷は外の世界から忘れられたもの・消え去ったものや、いまだ想像の域を超えないものなどが流れ込んでくる。しかしながら時として、現在進行形のものが流れ込ん
でくることも・・・まあある。その中でもっとも目立つのが、外来人と呼ばれる人々だ。
彼らは主に神隠しという現象によって幻想境の中にランダムで出現する。主犯としては某妖怪の賢者などが上げられるが・・・
「あいつはあんまり意味のないことはしないよなぁ」
妖怪の賢者は一見ふざけたことばかりしているようだが、幻想郷にプラスにならないイレギュラーは起こさない。となれば・・・
「やっぱり捨て子かねぇ」
先にあげたように幻想郷は『忘れられた』モノが流れてくる。当然、捨てられてしまったものなども大量に流れ込んでくる。その中のひとつが悲しいことだが・・・捨て子
だ。親や周囲の人間の(勝手な)事情で捨てられた子供たちも流れてくることがある。ほとんどは『幻想郷の人間』ではないことから妖怪の食事になってしまうことがほと
んどだ。さて、この子は・・・
「他の妖怪ならパクッといっちゃうんだろうね。でも、私は誇り高い鬼。他人が捨てたものを拾って食べるなんて真似はしない!」
「だぁだぁ」
「だ、だからかわいそうなんて思っちゃいないけどここでお別れだ・・・よ」
「だぁだぁ」
「つ、つぶらな瞳で見つめても・・・・だ、だめ!せいぜい他の妖怪においしく食べてもらうことだね!」
彼女は赤子の無邪気な笑顔に気圧されつつも残酷な現実を突きつける(もちろん相手は分かるわけがない)。その場から歩き去ろうとしたが、
「ふ、ふぇ・・・」
「うっ」
「ふぇえええええええええええ」
赤子は立ち去る萃香の背に思いっきり泣き叫んだ。
「な、泣いたって・・・」
「ふえええええ、ふええええん」
「うぐ」
ついつい赤子のほうに近寄っていってしまう。なんというか、可愛さや愛らしさも行き過ぎると一つの罪である。
「だぁ」
萃香の顔を見るや否や一転し得て笑顔に変わってしまった。その笑顔を見ていると、酔っ払った頭が妙な結論をはじき出した。
「そ、そういえば私は鬼!鬼の本分は人攫い。よって今からお前を攫うよ!!まあ、かわいそうだとは思うけどこんなところにあんたを置いてった親を恨みな!」
「あぶぅ!」
萃香は腰に手を当て、無い胸をそらせておどろおどろしく(本人はそのつもり)宣言するが、赤子は知ってかしらずか、無邪気に笑うばかり。結局彼女はその赤子を連れて
今宵の宿を探すことにした。
彼女はしばらく幻想郷を彷徨ったが、人里から十分に距離もあり水場も近くにあるという、今は使われていない小屋に今宵の宿を定めた。適当に布団を萃めて、その他赤
ん坊の世話に必要なものを知識の限り萃めた。しかし、
「この子のご飯どうしよう・・・」
人間の子供が母親の乳で育つことは知っていても子供を生んだことが無い、そもそも人間でない彼女にはどうしようも無い。不幸なことに彼女は粉ミルクというものを知
らなかった。どこからか適当に人を攫っても良いが、『攫った子供の乳を必要としてまた人を攫った』などという不名誉な二度手間などどうしてできようか。
結局彼女はある意味とんでもない選択をしてしまった。
さて、ここで話を少し横にそらす。昔栄養不足のため乳が出ない子供のために米を煮た煮汁を使ったそうだ(炊くわけではない)。米はでんぷんを多く含み栄養の補給に
ちょうどよかったのだろう。
閑話休題。この話を知っていた萃香は、あろう事か自分の瓢箪『伊吹瓢』で出した酒を水で薄めて与えてしまったのだ。米を集めてもよかったが今の時期は品質が悪いの
で断念した。
「酒も元は米だから問題はあるまい。おいしいか?そうかそうか」
「あぶぅ。ヒッ」
早速酔っ払う赤子をみて微笑む萃香。読者諸兄の中にはご存知の方も多いと思われるが、
酒の持つ栄養素≠米の持つ栄養素
である。これは、米のでんぷんがいくつかの反応の後アルコールになるためもっとも重要な糖分が害となるアルコールに変化してしまうためである。
「旨いものには毒はない。遠慮せずにたーんと呑め飲め」
彼女はそれを知らずに赤子に、嫌な予感を感じつつ、勧め続けた。
コレが・・・コノ行為がどういった結末を呼ぶのか知らず。嫌な予感を黙殺しつつ飲ませた。
幸い鬼の酒は栄養にも配慮してあったらしい。赤子の成長に何の必要な栄養は何の問題なく摂取された。また、萃香が赤子を気遣ってアルコールを薄めて飲ませたことも
幸いしたのか、赤子はしばらく何の問題もなくすごした。日々笑い・泣き・また笑い、疲れれば眠るという生活を送った。
萃香もまたそんな赤子に心奪われたかのように浮かれ、大好きな宴会にも姿を現さないほどだった。気が付けば、あの日すみ始めた小屋に定住し、赤子が泣けばうろたえ
右往左往し、笑顔を見せれば自分も笑い、眠たそうにすれば抱き上げゆすった。
それから数日のち、宴会にすら姿を見せない萃香をいぶかしんで友人である妖怪の賢者・八雲紫が彼女を訪ねてきた。
萃香の様子を見て紫は言った。
「情でも移ったの?鬼のあなたが人間の子供を養うなんて」
扇で口元を覆いつつ横目で萃香をみやる紫。彼女の視線を気まずげに受け止めつつも、萃香は鬼の本分は人攫いだから攫ったモノを見殺しにするなんて事はできないと主
張をする。
「分かってないのね。見殺しに出来ないのなら・・・タ ベ テ シ マ エ バ イ イ ノ ニ 」
それは当然の理屈。妖怪は人間を食い、人間は妖怪を退治する。自然の摂理にのっとった理屈を突きつけられた萃香は一瞬動きを止める。反論しようとして・・・できなか
った。鬼は嘘を嫌う、自ら嘘を付くなどいくら鬼の中では不誠実とされた萃香にも出来なかった。赤子を拾ったときに自分は言った。
『他の妖怪ならパクッといっちゃうんだろうけど、私は誇り高い鬼。他人が捨てたものを拾って食べるなんてしない!』
しかし、その赤子を育ててしまえばそれは彼女のモノになってしまい、『他人が捨てた』というのはもはや過去の事情になる。彼女が赤子を食べる事を拒む理由になり得
なかったのだ。
追い詰められた彼女に出来たのは、癇癪を起こして紫を追い払うことだけだった。
夜、萃香は赤子に寄り添いながら紫が去り際に言った言葉をおもいだした。
『ま、いいわ。あなたの勝手になさい。私としても止める必要をかんじないから』
『だけど、覚悟しておきなさい。あなたの行為はいずれ破滅を呼ぶわよ。あなたとその子の運命に』
ここにきてやっと彼女は自覚した。あの時赤子を拾ったときから、自分はこの子を愛おしいと感じていたのだと。それでもその感情を理解できなかっただけなのだと。
でも、今は違う。理解できた否、理解してしまった。自分は鬼であるのに、人間の赤子を愛おしいと思ってしまった。自覚した今なら分かる。この子のためなら自分は他
の妖怪すべてを敵に回せてしまう。たとえ紫であろうと、この子を奪おうとするのなら・・・
そこまで考えたところで彼女は顔を上げた。辺りから夜の音が消えていた事に気づいたのだ。
無音のまま大気が震えている。微動だにせず木々が震えている。萃香が表へ出て同時に無数の針と札が彼女に襲い掛かった。鎖を振り回し針をはじき、まとわり付く札を
鬼火をもって焼き尽くす。
横に飛ぶ。いまや彼女にとってかけがえの無いものになった、なってしまった小屋への被害を抑えるために。
動きを止め宙を見る。
「いつかは来ると思っていたよ」
「来る気は無かったんだけどね。紫の奴が巫女の本分を忘れるなってうるさいから」
そこには、楽園の巫女・博麗霊夢が心底どうでもよさそうな顔をして浮かんでいた。
「妖怪は人を食う。人は妖怪を退治する」
これは当然の慣わしであり、一種の義務である。人の数を調節し、妖怪の数を調節し双方がバランスよく生存するための行為である。しかし、幻想郷では両者の数はちょ
うどよい位置に保たれている。下手に一時の感情で手を出せば、そのバランスが崩れ一気に崩壊の一途をたどる。そのため本来幻想郷にすむ人間を妖怪が何の理由も無く殺
すことはありえないし、その逆もまたしかりである。
このことによる妖怪の弱体化や、互いの義務の忘却に対するカウンターメジャーとしてスペルカードルールなどが採用されたわけだ。
しかし、例外は存在する。
両者のバランスを崩そうとするものには容赦なく調停者たる巫女の裁きが(閻魔のそれとは別に)下る。
萃香の行いを聞いて最初、霊夢は萃香は幻想郷のバランスを崩そうとしているのではないかと考えた。人間が妖怪を育てるなど今まで聞いたことも無い。いつもはチャラ
ンポランな萃香も名高き鬼の一人。なんだかんだでそれくらいの知恵は回ってもおかしくは無い。
しかし彼女自身は、いつもの勘が働かなかったことに加えて今の幻想郷ではそこまで厳しくする必要性を感じなかった。そのため、萃香が何をしているか聞いても結局彼
女は動く気は無かった。
しかし妖怪の賢者は彼女に言った。
『妖怪が人間を食うのは当然ですが、育てるなど幻想郷のバランスを崩そうとしているに間違いない!』
妙に力説していた事が気にかかったが、友人である萃香の暴挙が許せなかったのだろうと考えることにした。まだ納得していないが。
音が響き、光が舞う。幻想的な光景のなか鬼と巫女は幾度と無く攻防を交える。この戦いは互いにスペルカードを用いなかった。コレは決闘ではなく巫女による審判。幻
想郷のルールを破った萃香に対する罰だからだ。神聖な結界が広がれば巨大な力で粉砕し、光でさえ飲み込む大穴が出来上がれば無重力の力で無意味と化す。長い長い攻防
の中最初に膝を突いたのは霊夢の方だった。
両者の差はひとえにモチベーションの差であった。方や納得もしていない心にもやがかかったまま、方や大切な物を守るという固い意志を持ったもの。博麗の巫女とはい
え、ここまで目的意識に差があれば鬼には勝てなかった。
「どうする、まだやるかい!」
鬼気迫るとはまさにこの事といわんばかりの萃香に、彼女はすっかりやる気をなくした。あきれ返ったといってもいい。
まったくこの鬼らしくない態度が気になった。構えを解いて萃香に尋ねた。
「いつも余裕に構えているアンタが珍しい。何でそんなに必死になるのかしら?」
「うるさい!お前には関係の無いことだ」
「確かに関係の無い・・・って」
「・・・!!」
霊夢が言葉を続けようとしたところで萃香は突然振り返り小屋に向かい走り出した。人ならぬ彼女にはかすかに響く赤子の泣き声が聞こえたのだ。
それはいつもの泣き方とはぜんぜん違っていた。泣いているだけではない、ひどく汗をかき、呼吸は浅く、顔色は真っ青だった。
「ど、どうしたんだよ!?いつもはいい子に寝てるじゃないか。何でこんなに苦しそうなんだよ!!」
追いつき萃香の小屋に入った霊夢が見たものは苦しそうな赤子とうろたえる童のような萃香であった。もはや酔いも完全に吹き飛んだといわんばかりの顔である。ただ事
ではない様子に駆け込んだ霊夢は赤子の顔を覗き込んで、一気に血の気が引いた。
彼女とて、ものの分別が付くくらいには人生を過ごしている。だから、病人がどんな表情をするか位は知っている。その中でもコレは最上級の危険な状態だった。努めて
冷静な声で萃香に告げる。
「萃香。この子は病気よ。それもかなり危険な状態」
「な、何だ・・・びょ、病気か。だったら私の力で病気の元を疎にすれば」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!!人間のこんな小さな子にアンタの力なんて使ったらどうなるのよ!普通の状態でだったらいざ知らず、弱った体でアンタの妖気をまともに
受けることになるのよ!!」
「じゃあ、じゃあどうすればいいんだよ!!このままじゃこの子・・・」
霊夢は唇をかみ締めた。今は他に手が無い。自分の力なら少しは何とかできる。それくらいの修行っぽいことはしている(紫に言われて)。
でもそれじゃあ足りない。この子は救えない。いかに無重力の巫女といえども目の前で死んでいく人間を無慈悲に見捨てられるほど人を捨ててはいない。頭をめぐらせる
いつもならポンといいアイディアが浮かぶはずなのになかなか・・・いや思いついた。思い出した。
永遠亭
あそこの薬師なら何とかできる!
「萃香、今すぐ永遠亭へ行くわよ!」
「永遠亭?って竹林の中にある月人が住んでる?」
「そう、あそこの薬師なら人の病気なら間違い無く治せるわ」
そういって何度も会っているあの銀髪の薬師を思い浮かべる。彼女がもう手の施しようも無いような病人を治した姿は人里に下りた際見かけた。彼女ならば・・・。
そこで萃香に有無を言わせぬように一息に言う。
「この子の体に妖気は毒だから私が抱えていく。アンタは余計なちょっかいを出してくる奴がいないようにして頂戴」
萃香は他人に赤子を預けることに戸惑いを覚えながらもそれしかないことを悟り素直に従った。
永遠亭に付いたのはそれから10分たつか否かの時間だった。そこまで距離が開いていなかったことに加え、妖怪や妖精すら攻撃してこなかった事が大きかった。
幻想郷最強の一角を占める鬼が全力の殺気を放ちながら威嚇し進む中、邪魔するものは皆無だろう。近くに記事を求めて彷徨う烏天狗が居たが、気配を感じるや否や幻想
郷一の俊足をもって速やかに立ち去るほどだった。
血相を変えて飛び込んできた二人から事情を聞き、赤子を見た永琳は大急ぎで薬を作り赤子に処方した。
見る見る顔色がよくなり呼吸も落ち着いた事を確認し、やっと萃香と霊夢は一息ついた。そのまま床を借りてさっさと寝入った霊夢をよそに、萃香が永琳の話を聞く。
「コレは成長痛の一種ね。少し違うのは成長するのではなく変化しかけていること」
「どういう事?」
「あなた、この子に自分の食料とかを与えなかった?」
「そ、そりゃああげてたけど・・・」
「それが原因よ!」
自分の行動を思い返し『しまった』と思うが時すでに遅し。
自身の行いを反省する萃香を置いて、永琳の講釈が始まった
「妖怪の食料は多かれ少なかれ妖気をまとっているの。その妖気を食料を通して少しづつ体に取り込んでいったら人間だったモノは妖怪に変わっていくわ。特に昔から人と
鬼は比較的近しい存在だから、より影響を受けやすかったのね」
自分の行動を反省しつつも、赤子がだんだん鬼に近づいていくことを聞き、新たに同胞が出来ることと赤子が名実ともに我が子となることに喜びかける萃香に、永琳は続
ける。
「だけど、与える食事がすべてあなたの食料だったの?この子、急激な変化のせいでかなり疲労しているわ」
天国から地獄。
こんな言葉が頭に浮かんだ。じゃあなにか、自分が育てたせいでこの子は危険な状態になったのか?紫の言葉が再度思い浮かぶ
『だけど、覚悟しておきなさい。あなたの行為はいずれ破滅を呼ぶわよ。あなたとその子の運命に』
どうすればいい。どうすればこの子は助かるんだ・・・。真っ暗になった頭で考える萃香をよそに、永琳は話を続ける。
「せめて3歳くらいからなら、最初の急激な成長が終わるころだったからよかったのだけど。でも手遅れね、今回はいったんあなたの妖気を散らせる薬を飲ませて解決させ
たけど、これからずっとというわけにも行かないでしょう?そこで提案。」
「何だい?この子を助ける方法があるのかい」
永琳に飛びつき肩を揺さぶるが、彼女は表情を変えずに続けた。
「この子を私が引き取り人として育てる。もちろん悪いようにはしない。不当な扱いなど絶対しないし、させない。八意永琳の名と姫の名をかけて誓うわ」
「え、どういう」
「あなたの妖気はこの子を急激に変化させすぎる。下手をすればこの子を死なせてしまう。もちろん永遠亭にも妖怪ウサギはいるけれどあなたに比べれば影響は0といって
もいいくらい小さいはずよ」
「わた、わたしが手を引けばこの子は、助かるの?」
今は寝台の上に眠る赤子をみて永琳に訪ねる。
「ええ、保障するわ。私は自分の患者を見捨てるような真似はしない。それは薬師としての誇りよ?」
じっと萃香のほうを見つめて静かに告げる。
萃香は・・・答えられなかった。
「一晩だけ、考えてもいいかい?」
「もちろん、すぐに決めろとは言わないわ。あ、一晩くらいならあなたがこの子と寝ても問題ないわよ」
そう告げて永琳は診察室を出る。
あとは、苦悩する子鬼と穏やかに眠る赤子が残された。
その後、鈴仙の手により永遠亭の客室に通された萃香は赤子に添い寝しながら考えた。大好きな酒さえ呑まずに。
「私が手を引けばこの子は助かる・・・」
「だけどこの子と会えなくなる・・・」
「どっちがいいんだろう?」
彼女は迷っていた。この子を思うのならば手を引くべきである。幸いあの薬師は嘘は付いていない。嘘を付かない決意を持った目だった。信用してもいい、この子を預け
ても間違いなく立派に育て上げてくれる。でも、なぜだか答えが出せない
「わから・・・いいや、分かるよな。私は嘘はつけない」
自分はこの子と離れたくないだけだ。絶対に離れたくない、絶対に・・・。
彼女の苦悩が深まるように、夜も更けていった。
翌朝、萃香は永琳の前に座り深々と頭を下げた。鬼の彼女がそのほかのものに頭を下げるなど、よほどの事態だけだ。
「この子のこと、宜しくお願いする」
悩みに悩んだ末、結局萃香は永琳に赤子のことを託すことにした。自分の感情より赤子のことを気遣ったのだ。
鬼として否。親として礼を尽くし丁寧に頼んだ。
「委細承知しました。必ずやこの子は立派に育てましょう」
永琳もその礼に答える。数多の知識を持つ彼女は鬼が頭を下げるという行為がどれほど重いかを知っていた。
その後もくれぐれもと頼むと、萃香はあの小屋へと帰っていった。
萃香が去ったあと、永遠亭の一室で永琳・鈴仙の師弟が茶を飲んでいた。永琳の脇には、ゆりかごで眠るあの赤子がいた。
「ねえ、ウドンゲ?鬼子母神という言葉を知っているから?」
「確か西のほうの国のお話ですよね?自分の子供以外の子供を食べて生きていて、それをお釈迦様に見咎められて末の子供を奪われたっていう」
「そう、自分の子供以外には何の感情も与えられなかった不幸な女。だけど、彼女は自分の子供だけは本当に愛していたの。周りが見えなくなるくらいに」
「それがどうしたんです?」
「いえ。あの鬼、伊吹萃香。彼女ももう少しでそうなっていたということよ。わが子に対する執着が強すぎてもう少しですべてを壊してしまうところだった。
巫女に聞いたわ、何があったのか。彼女、制裁に現れた霊夢を本気で潰そうとしたそうだから」
「え゛・・・本当ですか?下手をすれば幻想郷が滅びますよ!?」
萃香のあまりの暴挙を聞き本気で驚く鈴仙。それほどまでに巫女の存在は幻想郷の根幹にかかわるものなのだ。
「それでも、その行動がどのような結果を招くか知っていながら、彼女は巫女に立ち向かった。自分の子供以外はどうでもいいとまで思ってしまった行動ね。狂おしいほど
にわが子を想いすぎた結果・・・」
「そうですか。でも、悲しいですね。それだけ想っているのにもう会えないだなんて」
うつむき呟く弟子に永琳は言った。
「あら?誰が二度と会えないなんて言ったかしら?」
「え、でもさっき・・・」
「鬼子母神のお話には続きがあるの。釈迦に帰依したあとはわが子を返してもらって子授け、安産、子育ての神として祀られたそうよ。あの鬼がもしこれから先もこの子を
想い続ける心を忘れず、分別をわきまえられるようになれば。そしてこの子が・・・」
そういって赤子を抱き上げる。
「鬼への変化を受け入れられる強さを得たなら親の元に、伊吹萃香の元に返すつもりよ。もちろん、まだ内緒だけれど」
イイ笑顔を見せて笑う永琳にあきれながらも、鈴仙は
「スキマが黙っちゃいませんよ?」
と苦笑する。自分の師であれば『仮にあのスキマが何かしてきても絶対に手出しさせない』と言うことを予想しながら。
しかし・・・
「それは無いわよ」
永琳は鈴仙にそう告げると同時に、赤子を連れて診察室へと歩いていった。「え、どういうことですか~?」という、ある意味期待を裏切られた弟子の声を黙殺して。
「ふふ、独り立ちまではもう少しかかるかしら?でも、もう少し心を磨けば・・・フフッ」
二人(+赤子一人)が去った部屋の中に胡散臭い声が響く・・・
「そのとおり、私はもう何もする気はありませんわ」
数年後・・・
迷いの竹林からそれなりに離れた小屋に二人の鬼が住んでいた。
方や元四天王の一人(?)伊吹萃香。もう一人は名乗るほどにはまだ力のない、元人間の鬼であった。後者の鬼は萃香を母上と呼び付いて回っていた。萃香もそんな鬼を可
愛がり、数年間会えなかった分の愛情をこめていた。とても仲むつまじい親子の姿であった。
それを遠く無縁塚から覗きつつ八雲紫はそっと息を吐いた。
「妖怪の賢者とも呼ばれる貴方が覗きとは。関心しませんね?」
彼女が振り向くと、そこにはいつ現れたのか楽園の閻魔四季映姫・ヤマザナドゥが浮かんでいた。
「いえいえ、私が行ったことの結果を見ていたのですわ」
内心いつ逃げ出そうか隙を見計らいつつ、話を続ける。一方の映姫は逃すものかと目を光らせつつ話を進めた。
「あの子をあの無縁塚において鬼に拾わせようとしたのは・・・あなたですね?しかも巧妙に妖気を隠しながら。何が目的だったのですか?」
「ここのところ幻想郷では人が妖怪に変化するという現象が起こってなかったでしょう?古き理を再現するための1ステップですわ」
古来、ある種の妖怪は子を作れなかったため人に子を生ませたという。また、他の妖怪でも攫った子供をわが子とすることはあった。子までいかずとも弟子とすることも
あったが、最近はどうも妖怪と人間のすみわけが整いすぎてそのような事も起こらない。妖怪に対する恐怖が捕食者という一点のみだったのだ。
「どうしたものかと頭を悩ませていると、たまたま外の世界で孤児となった赤子がいましたの。あとは、萃香が現れるタイミングをねらって赤子を送り込んだのですわ」
「なるほど、あの鬼を使うことにしたのは鬼の本分たる『人攫い』と、彼女個人の性情を見定めてのことですね。あとは貴方の謀略どおりというわけですか」
「あらあら、謀略だなんて人聞きの悪い」
扇で口元を隠しつつ、聞こえないように舌打ちをする。
「しっかり聞こえてますよ」
「あら、コレが本当の地獄耳・・・」
くだらない冗談を言う紫を半眼で見つつ、話を進める。
「解せないのは貴方の行動の細部です。
まず、最初から問題なく妖怪化できる年齢の子供を攫ってこ無かったこと。
次に、あえてあの鬼を挑発するような真似をした事。
そして最後に・・・彼女を刺激するだけのタイミングで巫女をけしかけた事。
この三点が貴方の行動の不審点です」
「あら、どれもちゃんと筋はとおしてありますわ」
「巫女に関しては勉強不足を反省させるためですわ。ほんとに修練を積んでいれば私の話に明確な不審を嗅ぎ取ったはずですから」
確かにそのとおり。人が妖怪になる・妖怪が子供を養うなど古くからあることを知らないなど、巫女としては拙かろう。
「ですが、巫女の勉強不足はそのとおりだとしても、他の質問の答えになってはいませんよ?」
半ば答えを予想しながら訊ねる。その問いに紫は正面から閻魔を見据えて堂々と言った。
「それはもちろん・・・私の友人ですもの。策略に利用したとは言え幸せになってもらいたいではありませんか」
「なるほど、苦難を乗り越えてこそ幸せがつかめる、と。あの鬼に自分の心を自覚させ真に愛情を注げるように・・・」
答えの変わりに、いつもの胡散臭い笑みを見せる。閻魔はため息をついて。
「本来ならもう少し聞きたいこともあるのですが・・・まあ、一つの善行に免じて目をつぶりましょう・・・」
そうして紫が去り、そこには映姫だけが鬼の親子の住処を眺めつつたたずんでいた。
無縁塚で映姫は鬼の親子に、聞こえないことは知りつつも、一言呟き姿を消した。
「互いを慈しみ、感謝の心を忘れないこと。それがあなた方の積める善行よ」
『お母さんしてる萃香』って!可愛いにも程がある!
また、アドバイスという程のもんじゃないですが、萃香の台詞に、
>この子のためなら自分は他の妖怪すべてを敵に回せてしまう。
とあり、永琳の台詞に、
>わが子に対する執着が強すぎてもう少しですべてを壊してしまうところだった。
とありますが、具体的にどんな問題があるのか分かり辛かった印象があります。
幻想郷最強クラスの妖怪の娘をどうにかできる人物はそういないと思いますし。
あと、改行が所々おかしくなってますよ。
紛れもなく良作です。堪能させていただきました。
>>4様
ちっさいのにお母さんしてる萃香の姿が浮かびました。可愛くてしょうがないので筆をとりました。
えー、厳しい突っ込みありがとうございます。
たとえばアレです。
①いわゆる○○○○○ピアレント状態になった萃香+その他の人々。
②きっとゆかりん達と衝突することになりそうです。
③幻想郷大混乱で最後には排せk・・・という状況になりそうです。
こんな情景を思い浮かべてみてください。
と、こんな感じで答えになるでしょうか?
改行に関しては・・・すいません不足の事態です。もう一回読み返してみたら大幅な修正が必要そうなのでそのときに一緒に直そうと思います。
>>6様
あ、やっぱりありましたか。似たようなお話。それでもお褒めの言葉をいただいたことに感謝しつつ精進いたします。
>>9様
いえいえ、まだまだ3本目です。慢心せぬよう今後とも精進いたします。
>>11様
もちろん私もそう思います。萃香は可愛い! OK!?
ちなみに、私の脳内ではまだちっさい自分の子供を連れて幻想郷を散策したり、宴会に参加する萃香。という外伝がありますが今のところ書く予定
がありません。
>>13様
じょ、序盤・・・すいませんそんな肝心なところで。でも、すいません今のところどこか分からないorz
次回の修正時までに見つけて修正しておきます。なおってなかったらご指摘お願いします。
P.S.
実は赤ん坊の性別や名前(伊吹○○となるのは間違いないんですが)は最後まで不明のままにしてあります。(そのほうが想像の余地が広がるかなぁ?とか考えました。)
娘に見えたのであればそれが貴方の世界です。息子に見えたのであればやはり貴方の世界です。存分に楽しんでください。
P.S.のP.S.
次回の修正が終わったらタグに何かつけておきます。
萃香お母様…
これはいい!
なんじゃないかと思われ
間違ってたらスマン
いい話でした
しかし幻想郷の一般里人が、妖怪とかかわらない理由の一つに
このような妖怪転化への恐れがあるのかもしれない
ある意味考えさせられる一面もありました
説話だと外道になる例が大半を占めてます
英雄以外が妖怪とかかわるのはやはり重いのかもしれない
>>19様
萃香お母様・・・良いですねこの響き。なんだか続きが書きたくなりましたが自重します。
>>21様
誤字通報ありがとうございます。修正しておきました。
>>23様
確かに私が参考にした話も、最後は理性を失い暴れるだけの妖怪とも呼べないけだものになってました。
しかし・・・あまり不幸な話を書きたい気分じゃなかったんです。今回はゆかりんとかえーりんが介入していたので事なきを得ましたが果たして次回は?
とか、考えていたりします。
コメントありがとうございます。まだまだ待ってますんでヨロシク
100点を入れますかw