――わたくし小悪魔は、最近になって、この道に興味を持ったのです。
きっかけは……そうですね。確かいくらか前に、パチュリー様のお供として博麗神社へ行った時だったように思います。
思います、というのも、その時の私にはいくらか衝撃的過ぎて、すぐにどうしよう、どうしたい、という事は思い浮かばなかったのです。
それでも、日に日に興味は募って行きます。
神社で紅白の巫女が、白黒の魔法使いが、それはそれは幸せそうな、照れくさそうな笑みを浮かべて隣り合っていた事を思い出してしまうのです。
あの時、パチュリー様と私にはあまり馴染みのない事でしたから、まずは戸惑ってしまいました。
そういえば、今思い出してみると、パチュリー様の表情がとても複雑だった様に思います。
それはやはり彼女たちの手元を見ての事だったのでしょう。私もそうです。だってあれはまるで……いえ、あんまり言ってみるものでもないでしょう。
でも、そこから視線を上げるとほら、そこには二人の幸せそうな顔。
なんだか羨ましいなって、今ではそうハッキリ感じています。
だから私も、と思って……。
少しだけ無理を言って、咲夜さんに台所を借りました。
これでも私、色々とお勉強したんです。
本も沢山読みました。
でもやっぱり、実践に移さなきゃ、駄目ですよね。
そうじゃなくちゃ、意味がないですもの。
大切なのはきっかけです。今日のこれがきっかけになれば、きっとこれからも、こんな事があるかもしれないですから。
……なんだかまるで恋に恋したオンナノコ、みたいですよね。ふふっ、冗談ですよ?
ちゃあんと、決まっています。
あぁ、パチュリー様。どんなお顔をしてくれるでしょう。あの時の魔理沙さんみたいな、そんな表情を、期待したいのです。
そして私は、あの時の霊夢さんのように――
少しくらいいきなりの方が、インパクトがあって良いと思うのです。それにこれは、あくまできっかけなんですから。
お料理をお盆において、目指すは地下の大図書館。
どきどきする。お料理が上手にできているかもちょっと不安だけど(味見しているから、大丈夫ですよ?)、それよりも不安なのは、パチュリー様。
ちょっとだけ、保守的なところもありますし……うぅ、突っぱねられちゃったら、どうしましょう。
一人寂しく、お料理食べますね……。
でもやっぱり、誰かに食べてもらおう。寂しいつながりで、門番さんとか。
そうこうしているうちに、図書館の扉はもう目の前。こうやってお盆を持っていると、自分まで瀟洒になった気がしちゃいます。
コンコン、って、別にノックする必要はないんですが、ね? 気持ちって、大切ですよね。気持ちは大事な大事な調味料です。(そういう風に、本にも書いてあります)
(もう夕食? ちょっと早くないかしら……まぁいいわ。どうぞ入って)
パチュリー様の声が耳に入ると、一気に心拍数が跳ね上がってしまう。
ドアを押す。きっとパチュリー様は、咲夜さんが来ると思っているでしょうからびっくりしているに違いないです。
「……小悪魔?」
「き、今日は、私、パチュリー様の為にお食事を作らせていただきました」
一瞬目を見開いてから、一息着いて、パチュリー様が口を開きます。
「どうしたの?」
「どうしたの、と言われましても……そ、それは」
それは、素直な気持ちで――
「まぁいいわ。こっちに持って来て」
私は奥の書斎へと歩いて行くパチュリー様について行きます。
席に着いたパチュリー様にお給仕を。小皿に盛った和食を順々に並べてゆく。
お刺身、煮物、冷奴、揚げ物、汁物、ご飯……多い? ふふっ、気のせいです。
「ちょ、これ全部貴方が作ったの?」
「え、そうですが」
「ふぅん、意外ね。って、これ……」
パチュリー様の目つきは、やはりあの時のものとおんなじでした。
「えぇ山葵、ですよ。しっかり擦り下ろせば、それだけ辛くていい味が出るんですって」
「……なんかこれの形って、いやらしいわよね…じゃ、じゃなくて!! 私、辛いのあんまり得意じゃないというか」
擦り金で山葵を擦る私を見ると、頬を赤らめてパチュリー様が言いました。だから私は、そんな事、言ってみるものじゃないって、そう思ったんですよ……?
「そうですか? それでは、ちょっとだけにしますね」
醤油さしの端っこにほんのすこしだけ、山葵を盛りつけると、パチュリー様はしみじみと並べられたお皿を眺めています。
「この黄色いのは、ショウガかしら」
タタキの横に盛られた小さな山を見ながらパチュリー様が言いました。
「いいえ、それはニンニクなんです。冷奴には、ショウガですよ」
私が冷奴を指して言うのを、パチュリー様は眉を寄せて眺めています。
「ネギって、苦手なのよね」
「あら……でも、せっかくですし、食べてみませんか? 我儘かもしれませんが……わざわざ里までいって買って来たんです。日差しが強かったものですから、眼鏡の上からサングラスしようとしちゃったくらいなんですよ」
「なによそれ」
「へへ、ちょっと、浮かれていたのかもしれません。おかしいですよね。私……」
「小悪魔……」
パチュリー様の気づかわしげな表情が、私を見つめていました。
私――
「私、目は四つもないのに」
「ちょっ! な、なんか、心配しちゃったじゃない。そういう問題じゃないでしょう! ……でも、分かったわよ。食べてあげるわ。結局この前、神社では食べなかったし」
「ありがとうございます!」
パチュリー様の箸が、豆腐をぷるりんっ、と掴みます。私はというと、その様子をお盆を抱いてジッと眺めていました。
ネギとショウガが髪の毛のようにちょこんと乗っているのは、そう――カツラみたい。
そんなカツラをかぶった色白なお豆腐さんを、パチュリー様のお口が、飲みこみました。
「……ど、どうでしょう?」
私は複雑な表情のまま咀嚼するパチュリー様を、不安で仕様がなしに見つめます。
「……これ」
勿体ぶるように、パチュリー様は首を傾げて口を開きました。
「案外いけるわね」
「ほ、本当ですか!?」
そう言うパチュリー様は、ちょっとだけ笑顔です。
「まぁネギもショウガも、ないよりはあった方がいいみたい」
「よかったです。和食にネギは欠かせないって、本にも載ってますもの」
「ふふっ、そう。私より詳しいのね」
「ネギもニンニクも、あぁ、あとらっきょも、ユリ科の薬味は万能選手です。欠かせない存在です」
「どこのセールスマンよ。それにしても、どうして和食なんて作ろうと思ったの? この前まで、見た事すらなかったんでしょう」
「あんまり深い意味はないですよ。でも神社に行った時、霊夢さんがお食事を作って、それを隣で食べている魔理沙さんは笑顔で、それを見てる霊夢さんも笑顔になって……私、それを見ていたら羨ましいなって、そう思ったんです」
「――それなら、たまにはこうやって和食を作ってもらおうかしら。いつも洋食なのだし」
そう言われると嬉しくて、ちょっとだけ照れてしまいます。慣れない事でしたが、お食事を作ってよかったです。
パチュリー様はほんのすこし意地悪そうに、それでも優しく笑っていました。
ふふっ、あの時の霊夢さんと、そして魔理沙さんと、一緒ですね。
食卓には、やっぱり笑顔がいいのです。
そしてそれがしあわせなのだと、気が付きました。
これは素直な気持ちです。
手作りの料理で、笑顔をプレゼントしたいという、素直な気持ちです。
カツラってw冷や奴の季節だなぁ
この小悪魔欲しいです!
吹いたwwww
貴方の作品の雰囲気が好きです。
冷奴食べたいです。
百合根が欠かせないお話
じゃないよなあと首を傾げてたがww
勉強になりました
カツラみたい‥‥おもしろい!!!
後でおもいっきり咲夜さんにしばかれるであろう小悪魔に神のご加護を…
私はシソ科の方が好みです。