「……お?」
状況を一言で説明すれば、家の前に輝夜が倒れている、
ただそれだけのことだった。
「おーい、生きてるかー?」
外出しようとしていた魔理沙にとってそれは突然過ぎる出来事、
心配になって声をかけるが、帰ってくるのはお腹の鳴る音のみ。
「腹減ってるのか」
「……うん」
幸いにも輝夜を助けるのには朝食の余りの食材で事が済んだ、
お茶をすすって一息つく輝夜に、魔理沙は問いを投げかける。
「ついに追い出されたのか」
「ええ」
「そうか……」
問いの答えはほんの一言、それを受け取った魔理沙はやれやれといった表情で頭をかく、
輝夜はテーブルの上に湯飲みを置くと、両袖で口元を隠しながら魔理沙に視線を注ぐ。
「あー、ちょっとこれから外出するから……まあ、好きにくつろいでてくれ」
「ありがとう! やっぱり持つべきは収集家仲間よね!」
輝夜の目から放たれるウルウル光線の前に、魔理沙の心は折れた。
「じゃ、行ってくるぜ」
「いってらっしゃいませ」
「(……まぁ、ゴロ寝ぐらいさせてやるか)」
魔理沙の予想では、輝夜のすることは精々昼寝か書物を読み漁るか、その程度のものだった、
その輝夜はというと、魔理沙を見送った後、室内を振り返って何やら考え事をしているようだ。
「(うーん、昼寝でもしようと思ったんだけど……)」
魔理沙の予想は半分ほど当たっていた、少なくとも魔理沙邸のとある状態さえなければ、
輝夜は予想通りの行動を送っていたはずなのだから。
それから二刻の後、魔法の森に少女の絶叫が響いた。
「……な、な、な、なんじゃこりゃー!!」
帰宅した魔理沙が玄関の戸を開けば、その向こうにはすべてが光り輝く眩い世界、
帰ってくる家を間違えたと思いかねないほどの、完璧に清掃された魔理沙邸があった。
「あら、おかえりなさい」
「輝夜! これはお前の仕業か!?」
「そうよ、随分散らかってたから掃除してみたの」
「掃除……だと?」
魔理沙は戦慄した、腰こそ抜かさなかったものの、
輝夜の口から自発的に飛び出る掃除という言葉に冷や汗が頬を伝う。
「ああっ! わ、私の研究が!」
「それならそこの大きなテーブルの上に纏めておいたけど」
「そうじゃないって! 勝手に整理なんかされたら何がなんだか――」
魔理沙は急いでテーブルに駆け寄り、本や資料を確かめる、
しかしそこで魔理沙に二度目の戦慄が走った。
「な、なんなんだこれは……!」
完璧、その二文字だけでテーブルの上とその周りは言い表すことができた、
研究に現在進行形で必要とされる書物は、テーブルの上にしっかりと並べられ、
たまに必要な程度の書物は、椅子の周りの手が届く範囲に積み重ねられている、
研究結果を纏めた用紙は、ただ重ねられるだけではなくしっかりと区分されており、
勿論、研究材料がゴミと間違われて捨てられていることなどありはしない。
「私のカオス理論による研究領域を整理整頓理論によって超えただと!」
「昔は永琳の研究を手伝ってたりしてたから、これぐらいはお手の物よ」
「負けた……完璧に……負けたぜ……」
もはや魔理沙に抵抗する力は無かった、
あとはなすすべなく輝夜の蹂躙を受け入れるのみ。
「はい、晩御飯できてるわよ」
「馬鹿な……和食御膳だと……!」
お味噌汁から御膳まで、ひっくるめて和食とはよく言ったものだ、
そもそもどこから漆塗りの膳など調達したのか。
「ヒノキのお風呂がなんとか完成したわ! 一緒に入りましょ!」
「そんなもんいつ作った!?」
頭にシャンプーハットを装着した輝夜に誘われれば、
それを断れる人間の数など片手で足りるやもしれぬ。
「えーと、洗濯は終わったし、ゴミも出したし、次は裁縫ね」
「うふ、うふ、うふふふ……」
魔理沙は真っ白に燃え尽きた、むしろ燃え尽きたあとから
新しい服に着替えさせたりと好き放題である。
「はい、あーんして」
「あーん」
そしてとうとうきゃっきゃうふふを始めた二人の姿が。
「ん、おいしい」
「それは良かったわ、ところで……どちら様?」
「アリス・マーガトロイドと申します」
「……はい、あーん」
「あーん」
黒白だと思っていたらいつの間にか七色だった、
しかし輝夜はこれしきでうろたえるほどやわではないようだ。
「……ふぅ、床下に潜んでいるアリスを見つけてなかったら危なかったぜ」
一方、うまく摩り替わった魔理沙は、全速力で永遠亭へと向かっている真っ最中であった。
「(早く輝夜を引き取ってもらわないと私の精神がもたない……!)」
全てをなぎ払うかのようにブレイジングスターで竹林を突き抜ける、
途中、蓬莱人を一人轢いたかもしれないかもしれない。
「永琳!」
「どうしたの? ニート姫なら引き取らないわよ」
「くぅ……やっぱりお前の仕業なんだな!」
診療所に駆け込んだ魔理沙を見ても、永琳は普段どおりのまま軽く言い放つ。
「私の? 違うわ、単に姫がお邪魔できるような場所が、あなたの家ぐらいしか無かっただけの事」
「そこまで予想付いてるならお前の仕業も同然じゃないか!」
「いいじゃない、愛玩用に適当に転がしておけば」
「適当に転がってくれるだけならまだいいさ……」
「……どういうことかしら?」
食いついてきた永琳に、魔理沙は輝夜との生活を詳しく説明した、
主に世話を焼かれたりとかお節介をやかれたりとか茸を焼かれたりとか。
「あれ輝夜じゃないだろ! なんかこう……てるよとかいう別人だろ!?」
「いいえ、それは姫よ、間違いないわ……むしろ、それこそが本来の姫の姿なのよ!」
『な、なんだってー!?』
鈴仙が天井裏から飛び出し、てゐが障子を突き破って現れる、
永琳から放たれた言葉のあまりの衝撃に永遠亭が地盤が三度傾いた。
「あれが輝夜の本来の姿だと?」
「そうよ、月の歴史上最高のお節介焼き、地上に落とされて
老夫婦に拾われてからも、たったの二ヵ月半で逆に介護しかえす世話焼き本能、
私自身も月にいた頃は色々と助けてもらったことがあるわ」
「……そんなにお節介焼きならなんでニートに?」
「それがこの私の頭脳でも分からないから困ってたのよ」
永琳の視線が宙に浮かぶ、魔理沙もあごに手を当てて悩み始めた。
「つまり、それさえ分かれば輝夜を永遠亭に突っ返しても?」
「いいわよ、でも今の姫を傍に置いておくのもいいと思うけど」
「……勘弁してくれ、つい求婚したくなるんだ」
「ああ、それは納得だわ」
それから半刻もの間、二人は悩み続けた、しかし答えは出ない。
「急にお節介を焼かなくなったわけねぇ」
「焼く必要が無くなった? 違うな、永遠亭なら兎とかで焼き放題のはずだ……」
「――逆に考えるんだよ――」
「え、誰?」
「今の声は……魅魔様!」
「――世話を焼かなくなったんじゃない、ずっと世話を焼いていたと――」
どこからか響いてきた謎の声は、それきり何も聞こえなくなった、
しかしその声によって、二人はついに輝夜がニートになった真実に到達する。
「世話を焼いていた……? まさか、あのパソコンとかいう物の事かしら?」
「きっとそれだ! 今どこにあるんだ!?」
「たしか適当に倉庫に放り込んだわ」
「倉庫かよ、あれ結構貴重な物じゃなかったか?」
「だって……その、機械とかよく分からないから」
月の頭脳は機械音痴、それはちょっとした衝撃の真実でもあった、
永琳が今でも医者ではなく薬師なのはその辺が多分関係しているのだろう。
「とりあえず持ってきたけど……あなた分かるの?」
「私はわからんがとりあえずにとりが分かる、だろ?」
「あいあーい、任せてー」
パソコンを元の場所に戻したところで、プレデターのごとく現れる河童、
河童は人間が好きなのだから人間の傍にいるのは別に不自然なことではない。
「壊れてはないね……このままコードを繋いで電源を入れれば……付いた!」
『おおー』
ブラウン管が光り、永琳と魔理沙が感嘆の声を上げる。
「んーと、話を聞く限り多分これかな、ザナドゥオンライン」
「ザナドゥオンライン?」
「幻想郷で一番大人気のネトゲだよ、この中にもう一個小さな幻想郷があると考えればいーよ」
「この中に!? 馬鹿な、理論的にありえないわ!」
「あんたの頭はどれだけオールド?」
にとりは画面に映し出されたアイコンをクリックして、ゲームを起動させる、
いくつかの絵と効果音の後、ザナドゥオンラインとでかでかと表示された画面が映る。
「あっと、パスワード覚えてないなぁ……新しく作ろうか、霧雨魔理沙と」
「待て、何で私の名前なんだ」
「いいじゃんいいじゃん、これを機にデビューすれば、それじゃログインするよー」
霧雨魔理沙がログインしました。
エターナルフォースブリザード、あなたは死にました。
「あれれ?」
「……おい、なんか早速死んだぞ」
「パソコンに薬をかけたら蘇るかしら?」
頭を捻った三人が画面を見つめる、
画面内では幾百ものキャラクター達が弾幕を飛ばしあって戦っている最中のようだ。
「うわー、新規の人が出てくる場所で戦争とか、マジKY」
『(KY?)』
「あ、個茶飛んできた」
『(個茶?)』
もはやにとり以外の二人は何がなんだか分からないようだ。
「究極加虐生物:大丈夫? 今戦争の真っ只中だから、ヒューマンシティに飛んだほうがいいわよ?」
「霧雨魔理沙:一体何が起きてるの?」
「究極加虐生物:少し前に最大手のギルドのギルマスが突然行方不明になったのよ、
究極加虐生物:その混乱に乗じて他のギルドが覇権を取りに乗り出したってわけ
究極加虐生物:【サードアイ】とか、【アンノウン】とか、【謙虚な天人】とかね、
究極加虐生物:おかげでほとんどの都市で戦争状態よ、迷惑にも程があるわ」
「うわー、武闘派ばっかりじゃん、そりゃ大戦争になるよ」
「ギルド? ギルマス?」
「ああ、チームみたいなもんだよ、幻想郷で言う天狗達とか、紅魔館とかね、
ギルドマスターはそれのトップ、天魔様とか、レミリア・スカーレットとかがその位置だね」
共に死んでいた他のプレイヤーからの情報提供、
そしてここでついに永琳が一連の核心を付いた。
「はっ! 思い出したわ!」
「な、何をだ?」
「確か姫が言ってたわ、自分は一番大きなギルドのマスターだから、色々と大変なんだって」
「ええっ!? もしかして永遠亭のお姫さんがギルド【ムーンパレス】のギルマスなの?!」
「知っているのかにとり!」
「知ってるも何も……ザナドゥオンラインで一番有名なプレイヤーじゃないか!」
にとりは拳を握り締め力説する。
「一日のプレイ時間はおよそ三十時間、超貴重な五つの宝物と呼ばれるレアアイテムを全て集め、
自らのギルドは他全てのギルドと併せてようやく互角、さらに初心者に優しく、
あーだこーだうんぬんかんぬんかくかくしかじか……な神と呼ばれる方だよ!!」
「わかった、とりあえず凄いということは分かった」
「つまり、姫はこのネトゲで世話を焼き続けていたから、ニートに見えてたのね」
「そういうことだね、あ、今度キーボードにサイン貰おっと」
そして魔理沙の頭に電球が浮かぶ。
「ということはだ、パソコンさえ取り上げれば輝夜は永遠亭に帰れるわけだな?」
「えー、駄目だよそれは、ザナドゥオンラインが世紀末オンラインになっちゃうよ」
「私の平和のためだ、ここはみんなに堪えてもらおうじゃないか」
「ちぇー」
こうして輝夜は無事に永遠亭に帰ることとなった、
ハッピーエンドである、多分、きっと、恐らくは。
「で、様子を見に来たのはいいが、何で輝夜が過労死しているんだ?」
「……師匠が、ネトゲにはまってしまって……永遠亭の家計が……」
ハッピーエンドである、間違いない。
状況を一言で説明すれば、家の前に輝夜が倒れている、
ただそれだけのことだった。
「おーい、生きてるかー?」
外出しようとしていた魔理沙にとってそれは突然過ぎる出来事、
心配になって声をかけるが、帰ってくるのはお腹の鳴る音のみ。
「腹減ってるのか」
「……うん」
幸いにも輝夜を助けるのには朝食の余りの食材で事が済んだ、
お茶をすすって一息つく輝夜に、魔理沙は問いを投げかける。
「ついに追い出されたのか」
「ええ」
「そうか……」
問いの答えはほんの一言、それを受け取った魔理沙はやれやれといった表情で頭をかく、
輝夜はテーブルの上に湯飲みを置くと、両袖で口元を隠しながら魔理沙に視線を注ぐ。
「あー、ちょっとこれから外出するから……まあ、好きにくつろいでてくれ」
「ありがとう! やっぱり持つべきは収集家仲間よね!」
輝夜の目から放たれるウルウル光線の前に、魔理沙の心は折れた。
「じゃ、行ってくるぜ」
「いってらっしゃいませ」
「(……まぁ、ゴロ寝ぐらいさせてやるか)」
魔理沙の予想では、輝夜のすることは精々昼寝か書物を読み漁るか、その程度のものだった、
その輝夜はというと、魔理沙を見送った後、室内を振り返って何やら考え事をしているようだ。
「(うーん、昼寝でもしようと思ったんだけど……)」
魔理沙の予想は半分ほど当たっていた、少なくとも魔理沙邸のとある状態さえなければ、
輝夜は予想通りの行動を送っていたはずなのだから。
それから二刻の後、魔法の森に少女の絶叫が響いた。
「……な、な、な、なんじゃこりゃー!!」
帰宅した魔理沙が玄関の戸を開けば、その向こうにはすべてが光り輝く眩い世界、
帰ってくる家を間違えたと思いかねないほどの、完璧に清掃された魔理沙邸があった。
「あら、おかえりなさい」
「輝夜! これはお前の仕業か!?」
「そうよ、随分散らかってたから掃除してみたの」
「掃除……だと?」
魔理沙は戦慄した、腰こそ抜かさなかったものの、
輝夜の口から自発的に飛び出る掃除という言葉に冷や汗が頬を伝う。
「ああっ! わ、私の研究が!」
「それならそこの大きなテーブルの上に纏めておいたけど」
「そうじゃないって! 勝手に整理なんかされたら何がなんだか――」
魔理沙は急いでテーブルに駆け寄り、本や資料を確かめる、
しかしそこで魔理沙に二度目の戦慄が走った。
「な、なんなんだこれは……!」
完璧、その二文字だけでテーブルの上とその周りは言い表すことができた、
研究に現在進行形で必要とされる書物は、テーブルの上にしっかりと並べられ、
たまに必要な程度の書物は、椅子の周りの手が届く範囲に積み重ねられている、
研究結果を纏めた用紙は、ただ重ねられるだけではなくしっかりと区分されており、
勿論、研究材料がゴミと間違われて捨てられていることなどありはしない。
「私のカオス理論による研究領域を整理整頓理論によって超えただと!」
「昔は永琳の研究を手伝ってたりしてたから、これぐらいはお手の物よ」
「負けた……完璧に……負けたぜ……」
もはや魔理沙に抵抗する力は無かった、
あとはなすすべなく輝夜の蹂躙を受け入れるのみ。
「はい、晩御飯できてるわよ」
「馬鹿な……和食御膳だと……!」
お味噌汁から御膳まで、ひっくるめて和食とはよく言ったものだ、
そもそもどこから漆塗りの膳など調達したのか。
「ヒノキのお風呂がなんとか完成したわ! 一緒に入りましょ!」
「そんなもんいつ作った!?」
頭にシャンプーハットを装着した輝夜に誘われれば、
それを断れる人間の数など片手で足りるやもしれぬ。
「えーと、洗濯は終わったし、ゴミも出したし、次は裁縫ね」
「うふ、うふ、うふふふ……」
魔理沙は真っ白に燃え尽きた、むしろ燃え尽きたあとから
新しい服に着替えさせたりと好き放題である。
「はい、あーんして」
「あーん」
そしてとうとうきゃっきゃうふふを始めた二人の姿が。
「ん、おいしい」
「それは良かったわ、ところで……どちら様?」
「アリス・マーガトロイドと申します」
「……はい、あーん」
「あーん」
黒白だと思っていたらいつの間にか七色だった、
しかし輝夜はこれしきでうろたえるほどやわではないようだ。
「……ふぅ、床下に潜んでいるアリスを見つけてなかったら危なかったぜ」
一方、うまく摩り替わった魔理沙は、全速力で永遠亭へと向かっている真っ最中であった。
「(早く輝夜を引き取ってもらわないと私の精神がもたない……!)」
全てをなぎ払うかのようにブレイジングスターで竹林を突き抜ける、
途中、蓬莱人を一人轢いたかもしれないかもしれない。
「永琳!」
「どうしたの? ニート姫なら引き取らないわよ」
「くぅ……やっぱりお前の仕業なんだな!」
診療所に駆け込んだ魔理沙を見ても、永琳は普段どおりのまま軽く言い放つ。
「私の? 違うわ、単に姫がお邪魔できるような場所が、あなたの家ぐらいしか無かっただけの事」
「そこまで予想付いてるならお前の仕業も同然じゃないか!」
「いいじゃない、愛玩用に適当に転がしておけば」
「適当に転がってくれるだけならまだいいさ……」
「……どういうことかしら?」
食いついてきた永琳に、魔理沙は輝夜との生活を詳しく説明した、
主に世話を焼かれたりとかお節介をやかれたりとか茸を焼かれたりとか。
「あれ輝夜じゃないだろ! なんかこう……てるよとかいう別人だろ!?」
「いいえ、それは姫よ、間違いないわ……むしろ、それこそが本来の姫の姿なのよ!」
『な、なんだってー!?』
鈴仙が天井裏から飛び出し、てゐが障子を突き破って現れる、
永琳から放たれた言葉のあまりの衝撃に永遠亭が地盤が三度傾いた。
「あれが輝夜の本来の姿だと?」
「そうよ、月の歴史上最高のお節介焼き、地上に落とされて
老夫婦に拾われてからも、たったの二ヵ月半で逆に介護しかえす世話焼き本能、
私自身も月にいた頃は色々と助けてもらったことがあるわ」
「……そんなにお節介焼きならなんでニートに?」
「それがこの私の頭脳でも分からないから困ってたのよ」
永琳の視線が宙に浮かぶ、魔理沙もあごに手を当てて悩み始めた。
「つまり、それさえ分かれば輝夜を永遠亭に突っ返しても?」
「いいわよ、でも今の姫を傍に置いておくのもいいと思うけど」
「……勘弁してくれ、つい求婚したくなるんだ」
「ああ、それは納得だわ」
それから半刻もの間、二人は悩み続けた、しかし答えは出ない。
「急にお節介を焼かなくなったわけねぇ」
「焼く必要が無くなった? 違うな、永遠亭なら兎とかで焼き放題のはずだ……」
「――逆に考えるんだよ――」
「え、誰?」
「今の声は……魅魔様!」
「――世話を焼かなくなったんじゃない、ずっと世話を焼いていたと――」
どこからか響いてきた謎の声は、それきり何も聞こえなくなった、
しかしその声によって、二人はついに輝夜がニートになった真実に到達する。
「世話を焼いていた……? まさか、あのパソコンとかいう物の事かしら?」
「きっとそれだ! 今どこにあるんだ!?」
「たしか適当に倉庫に放り込んだわ」
「倉庫かよ、あれ結構貴重な物じゃなかったか?」
「だって……その、機械とかよく分からないから」
月の頭脳は機械音痴、それはちょっとした衝撃の真実でもあった、
永琳が今でも医者ではなく薬師なのはその辺が多分関係しているのだろう。
「とりあえず持ってきたけど……あなた分かるの?」
「私はわからんがとりあえずにとりが分かる、だろ?」
「あいあーい、任せてー」
パソコンを元の場所に戻したところで、プレデターのごとく現れる河童、
河童は人間が好きなのだから人間の傍にいるのは別に不自然なことではない。
「壊れてはないね……このままコードを繋いで電源を入れれば……付いた!」
『おおー』
ブラウン管が光り、永琳と魔理沙が感嘆の声を上げる。
「んーと、話を聞く限り多分これかな、ザナドゥオンライン」
「ザナドゥオンライン?」
「幻想郷で一番大人気のネトゲだよ、この中にもう一個小さな幻想郷があると考えればいーよ」
「この中に!? 馬鹿な、理論的にありえないわ!」
「あんたの頭はどれだけオールド?」
にとりは画面に映し出されたアイコンをクリックして、ゲームを起動させる、
いくつかの絵と効果音の後、ザナドゥオンラインとでかでかと表示された画面が映る。
「あっと、パスワード覚えてないなぁ……新しく作ろうか、霧雨魔理沙と」
「待て、何で私の名前なんだ」
「いいじゃんいいじゃん、これを機にデビューすれば、それじゃログインするよー」
霧雨魔理沙がログインしました。
エターナルフォースブリザード、あなたは死にました。
「あれれ?」
「……おい、なんか早速死んだぞ」
「パソコンに薬をかけたら蘇るかしら?」
頭を捻った三人が画面を見つめる、
画面内では幾百ものキャラクター達が弾幕を飛ばしあって戦っている最中のようだ。
「うわー、新規の人が出てくる場所で戦争とか、マジKY」
『(KY?)』
「あ、個茶飛んできた」
『(個茶?)』
もはやにとり以外の二人は何がなんだか分からないようだ。
「究極加虐生物:大丈夫? 今戦争の真っ只中だから、ヒューマンシティに飛んだほうがいいわよ?」
「霧雨魔理沙:一体何が起きてるの?」
「究極加虐生物:少し前に最大手のギルドのギルマスが突然行方不明になったのよ、
究極加虐生物:その混乱に乗じて他のギルドが覇権を取りに乗り出したってわけ
究極加虐生物:【サードアイ】とか、【アンノウン】とか、【謙虚な天人】とかね、
究極加虐生物:おかげでほとんどの都市で戦争状態よ、迷惑にも程があるわ」
「うわー、武闘派ばっかりじゃん、そりゃ大戦争になるよ」
「ギルド? ギルマス?」
「ああ、チームみたいなもんだよ、幻想郷で言う天狗達とか、紅魔館とかね、
ギルドマスターはそれのトップ、天魔様とか、レミリア・スカーレットとかがその位置だね」
共に死んでいた他のプレイヤーからの情報提供、
そしてここでついに永琳が一連の核心を付いた。
「はっ! 思い出したわ!」
「な、何をだ?」
「確か姫が言ってたわ、自分は一番大きなギルドのマスターだから、色々と大変なんだって」
「ええっ!? もしかして永遠亭のお姫さんがギルド【ムーンパレス】のギルマスなの?!」
「知っているのかにとり!」
「知ってるも何も……ザナドゥオンラインで一番有名なプレイヤーじゃないか!」
にとりは拳を握り締め力説する。
「一日のプレイ時間はおよそ三十時間、超貴重な五つの宝物と呼ばれるレアアイテムを全て集め、
自らのギルドは他全てのギルドと併せてようやく互角、さらに初心者に優しく、
あーだこーだうんぬんかんぬんかくかくしかじか……な神と呼ばれる方だよ!!」
「わかった、とりあえず凄いということは分かった」
「つまり、姫はこのネトゲで世話を焼き続けていたから、ニートに見えてたのね」
「そういうことだね、あ、今度キーボードにサイン貰おっと」
そして魔理沙の頭に電球が浮かぶ。
「ということはだ、パソコンさえ取り上げれば輝夜は永遠亭に帰れるわけだな?」
「えー、駄目だよそれは、ザナドゥオンラインが世紀末オンラインになっちゃうよ」
「私の平和のためだ、ここはみんなに堪えてもらおうじゃないか」
「ちぇー」
こうして輝夜は無事に永遠亭に帰ることとなった、
ハッピーエンドである、多分、きっと、恐らくは。
「で、様子を見に来たのはいいが、何で輝夜が過労死しているんだ?」
「……師匠が、ネトゲにはまってしまって……永遠亭の家計が……」
ハッピーエンドである、間違いない。
まあ輝夜に負けず劣らずの引きこもりだからなあ
でも、実際地上に来て二ヶ月ぐらいで、じーさんとばーさんの世話してたはずだから、ある意味納得でした。
HNMLSに所属する者の主流。トイレに行く手間も惜しんでペットボトルで用を足しつつ、
HNM狩りにいそしむ、漢の中の漢。孤高の存在。世間からは概ね理解を得られぬが、そのひたむきな姿に一部からは熱狂的な支持を得ている。
( ゚д゚ )
氏にしては珍しく毒の少ない作品かな、と。しかしすっきりしていてそこがまたおもしろくもあり。
UNオーエンってアンノウンのもじりだったね、そういえば。
つーかみんな何やってんだよ!w
てか何処から沸いてくるんだみんなw
すごいなーあこがれちゃうなー
きっとリアルでは可憐で純真で心優しい美幼女なんだろうな
サクサク読めて面白かったです。
あと、コメにコメになってしまうけど
13氏のセンスが素敵。
一日のプレイ時間が約30時間……
さすが姫様、永遠と須臾を操る程度の能力は伊達じゃないですね^^
あれ、俺いつの間に指輪なんて……
実ははじめ輝夜が頑張りすぎたせいで相手がニートになる話かと思いました
まあPCゲームメーカーとしてのファルコムは幻想境入り確定ですが…
そしてにとりんが出てくれて本当に嬉しいです。
それができるんだから本物の神だw