「お空、なんで猫缶が欲しいんですか。あぁ、お燐の為。優しい子ですね。でも缶のまま食べさせてはいけません。折れるから、歯が折れるから。そうです、缶切りで開けるんです。違います、それは缶切りではありません。眼鏡です。あぁ、フレーム歪むから力掛けちゃ駄目、レンズ握っちゃだめぇ! 指紋が! あ、いえ、今日の夕飯はホットケーキではありません。ホットケーキ眼鏡で食べちゃ駄目ぇ! バターがぁ!」
かつては心を読んだ私が挙動不審になるほどお馬鹿さんだったお空も、今じゃ立派な放射性物質。
はぁ、扱いに困るわ。
みなさん初めまして。私からすれば。
私の名前は古明地さとり。みなさんの名前には興味ありません。憶えられるかこのやろうというお話です。
こほん。私についての紹介を……いるのかな、いらないかな。まぁいいかな。
私は覚りという妖怪で、あなたの心を文字通り覚ってしまう、プライバシー侵しちゃうゾ☆な能力を持っています。
ただまぁ、そんな力を持っているので基本的には忌避される存在。そりゃ嫌よね。心を読まれるのなんて。
でも、よく考えてみたらあれだわ。一人称のSSだったら私の心を読まれっぱなしじゃない。しかも私は読み手の心が読めない。恥ずかしいわ。照れるわ。見ちゃいやんだわ。
そんな私です。
というわけで、今日も今日とて他人のプライバシーを侵すことを悪いなぁなんて思いながら心をガン見する日々。
充実した日常に、いつも通りの声が響く。心の声も肉声と同じ音で聞こえるのだから不思議なもの。
そんな私の心の耳に、今日はどんな声が聞こえてくるやら。←ここの思考は山○康雄ボイスで読んでください。
『これ綺麗だなぁ。無縁塚まで散歩に行ったかいがあった……これさとり様に見せたら、喜んでくれるかな』
おや、お空ですか。もう起きて出かけて帰ってきたのでしょうか。何を拾ってきたのでしょう?
『褒めてくれるかな。こんなに光ってるし』
あらあら。一体どんな……
『このトリチウム』
「捨ててきなさいっ! いえ、処分してきますから寄越しなさい!!」
「わぁ!? さとり様のえっち!?」
「疑問系で言わない! えっちじゃない!」
慌てたお空のエネルギーで、ガタンガタンと揺れる部屋。発ガン性物質を飛ばしてないでしょうね。
私の乱入に驚いた空は、手にしたトリチウムを抱きかかえるように丸くなる。蹴りたい背中。
しかし、お空もどこでそんなもの拾ったのか。外界の輩が川に流して幻想郷に至ったのは間違いないでしょうが。おのれ。そんな悪党には、いつか夢いっぱいな心の中を覗いて、その妄想をテープレコーダーに吹き込んで、子供の給食の時間に放送してやる。
まぁ、それはそれ。
「お空。それは危険な代物なんです。だから私に渡しなさい」
「そういうの、悪党の科白です! 駄目です! 私の胸の輝きは誰にも見せるわけにはいかないの!」
「あながち間違ってませんが誤解されそうなので普通にトリチウムといいなさい。というか良く知ってましたねその名前」
「これに書いてありました」
※産業廃棄物・トリチウム
「これ捨てた奴祝い殺す」
「誤字ですよ」
「仕様です」
出会ったら、そいつが風俗嬢に言われたい言葉を同僚や家族の前で叫んでやる。
恥じらいがない私を嘗めるな。
「それより、出て行ってください。ここはお空のプライベートビーチですよ」
プライベートルームと言おうとしたのかもしれない。
「いつからここがヌーディストビーチになったのですか」
「そこまで言ってません。そして私、服着てます」
お空からそんなツッコミが入るとは思ってもみませんでした。
「服なんて些末なものに縛られて……じゃなくて、それは危険なのよ。それ、最悪の場合はお燐の身を危険にさらすことになるのよ」
「えっ!? なんで!」
「坊やだからさ」
あれ? 言葉を間違えたわ。
「そうなんだ……」
……納得されちゃった。さすがね。
はやく幻想入りしないかしら、等身大ガ○ダム。したら地霊殿の玄関口へ飾るのに。
「そういうことなのよ。だからそれを渡しなさい」
「うん、わかりました」
結果オーライ。
死語じゃありません。
私はそれを受け取ると、どう処分しようか考えを巡らせた。竹林の医者に渡すか、河童に渡すか。旧地獄に落とすのはちょっとなぁ。
そんなことを考えていると、私の服をお空がついつい引っ張る。微妙にこそばゆい。
「なんです、お空」
「さとり様」
私を見る目が潤んでいる。あら眩しい。
「私、感動してます」
「はぁ?」
何にと問うのは無粋なんでしょうね。だけど、訊かなくても心を読めば。
『さとりさとられさとさとれ』
「お空、意味不明です」
「はい?」
つい言葉を待たずにツッコミを入れてしまった。いけないいけない。せっかちは敵よ。
「なんでもないわ、それで何かしら」
「あ、えっと、さとり様」
「はい」
どこか緊張した面持ち。まるで告白場面ね。
なるほど、そういう展開ならいつでもウェルカムよ。
「好きです」
「待ちなさい私たちは女同士じゃないというか何を突然」
待つのよ待ちなさい落ち着きなさい私。確かにウェルカムとは言ったけどそれはあくまで唇を潤わせる些細な大人の心の余裕であって決して願望であったりするわけでなくむしろそういうのはえっと飼い主としてあでも断るのは……
くーるだうーん。
「ど、どうしたんですか?」
「なんでもないのよなんでもないの少し待ってね良い子よお空」
冷却中。
冷却中。
「大丈夫ですか?」
「もうちょっとよ」
大幅にクールダウン。
「待たせたな」
「おぉ、声が大塚○夫だ……」
「そこをぼかされると蛇なのか鼠なのか判らないわ」
「うに?」
「……蛇の方しか知らないのね。そう、ちょっとショックだわ」
クールダウンしすぎたかもしれない。
「話を戻すわ。それで、なんだったかしら」
「えっと、さとり様」
まずい、このままで同じ展開になってしまう。NOと言えない日本人でもあるまいし、ここは辞退しなければ。ペットとのラブなんてゴシップ一直線だわ。
……落ち着くのよ私。そもそも好きが恋の方面だとは言ってないじゃない。心を読んでみましょう。
『好き好き好き好き好き好き』
狂気じみた純愛が見えたわ。
「好きです」
「ですよね」
言うと思ってました。心の声通りですよかわいいな。
「そこで、その、いつものお礼に、ものをあげたくて」
「はぇ?」
「本当はそれと一緒にしようと思ったんですけど、今はこっちだけ」
お空が手を伸ばしたので、私はその手の下に手を沿えて受け取る。
「これは……」
「えっと、日頃のお礼です」
頬を赤らめ、照れたように視線を逸らすお空。
「本当はお燐と渡そうと思ったんだけど、抜け駆けしちゃいました」
「お空、あなた」
それを見ると、私は覚ったわ。
心をじゃない。その行動から。
ふふ、私の観察眼と勘も嘗めないで。
「そう。我慢できなかったのね」
「はい」
「……そうなのね。判ったわ。それじゃ、こいしや、後はそうね、勇儀かパルスィでも誘ってきましょう」
「あぁ……嬉しいです」
私が背を向けると、お空は歓喜の声を上げた。
「そうだわ。お空」
「はい」
「ボンバー○ン4でいいのよね」
「はいっ!」
お空に手渡されたのは、スー○ーファミコンのマルチタップであった。
その後のプレイ中、お燐が帰ってきて文句を言ったが、すぐにお燐は機嫌を直してゲームに参加した。
ちなみに、お燐がくれたプレゼントはHI-TENボンバー○ンでした。PC-エンジンなら二台あるし……大画面で十人対戦できるわ。今度大会でもやろうかしら。
はて。ある意味これも、爆発オチなのかしら。
まぁいいわ。
それじゃあまたね、人の心を読む、ハレンチな読者さんたち。
縁があれば、またどこかで。
私もちょっとトリチウムを探してさとり様に告白してきますね。
さてトリチウム探してきます
ぜひとも祝ってください!
トリチウムなんて台無しじゃないかwww
だからこのプルトニウムは僕がさとりさんの所へ持っていきますね
取り合えずコーヒーでも飲んでクールダウン…
あれぇ?
一週間前淹れた奴がカップの中でトリチウムにn(ry
知らない間になくしていたもの、見たくないものなんかは幻想郷に流れて行ってしまうのかも知れませんね。
いい時代になったものだ
さとりんかわいいよさとりん