「・・・妖怪退治?」
「はい!」
「・・・・・・あんたが?」
「はい!!」
地下世界での異変もようやく片付き。
神社に沸いた温泉で一儲けしようと彼是画策していた霊夢の前に早苗が現れたのは、つい先程の事であった。
「神奈子様がおっしゃったんです!」
誰も聞いてないのに話始めた早苗の言葉を流しながら、霊夢は彼女が来たときのことを思い返す。
縁側でお茶を飲みながら、霊夢は温泉の有効活用について考えていた。
「旅館・・・は芸がないわね、今の神社じゃ狭すぎるし。あの天人に改装させたら紫がうるさいし・・・
こんなときに限ってあの鬼はいないし・・・」
―――第一、楽園の素敵な女将じゃしまらないわよ。
「だからといって銭湯にしても・・・わざわざこんなところまで来る物好きもいないしね・・・」
それは旅館も一緒ではないか?と気付いたが、どちらにせよ二つとも現段階では実用性がない。
「集まるのは変なのばっかりだし・・・あいつらが素直にお金払うとも思えない。むしろあいつらが来るから里の人たちが来ないのよ!」
自分の普段の行いや博麗神社の立地を棚に上げ、いつものメンバーに怒りをぶつける霊夢。
彼女達のもたらす差し入れという名の食物が霊夢の空腹を救ってきた過去など、温泉成金を目指す霊夢に取っては振り返るべくもないことであった。
「向うから来ないならこっちから行くしかないわね。いっそのことお湯を竹筒にでも入れて売ってみようかしら?温泉を飲む健康法もあるみたいだし」
あんな不味いものよく飲めるわね―――と思いつつ、他に案もないので霊夢はこれで行くことに決めたようだ。―――なぜ不味いか知っているかは聞いてはいけない、巫女だって腹は減る。
「博麗の神聖なお湯・・・か。効能は・・・悪霊退散とかでいいかしら?『飲んでよし!掛けてよし!今なら安産祈願のお守りも付いてきます!・・・あらそこのおばあちゃん。悪い霊が付いているわ!でも大丈夫、この博麗の湯があればどんな悪霊も一発退散よ!一家に一本、いや一人に一本『博麗の湯!』今なら分割払いもOK!詳しくは博麗神社まで―――』・・・意外と行けそうね」
神社の巫女自ら霊感商法を行うことに関しては、微塵も罪悪感がないようだ。
霊夢には温泉成金となった己の姿しか見えていないのであった。ウッハウハである。
「ウッハウハよ!」
己の立てた計画の成功を確信した霊夢は喜びを表現しようと立ち上がり・・・
「・・・なにしてんですか?」
いつの間にやら目の前にいた少女に現実へと連れ戻された。
「・・・いつからいたのよ?早苗」
ふと現実に戻されてみれば、先程の自分の行動が人に見られたくないものの類だと気付く。
人間の、それも同業者の彼女に見られていたとなると、それなりの対応をしなければならない。
「神に仕えるものとして言わせてもらいますが・・・霊感商法はどうかと」
聞かれていたらしい。
「それに霊夢さんも年頃の乙女なんですから。あまり奇怪な行動を取られるのも・・・」
――――消さなければ。
なにやら巫女が物騒なことを考えてるとも知らずに、風祝は言葉を続けた。
「まぁそんなことはどうでもいいんですが」
「私にとってはどうでも良くないんだけど・・・大体何しにきたのよ?」
己の恥態をどうでもいいと斬り捨てられた霊夢であったが、とりあえず早苗が来訪した理由を尋ねようと思った。消すのは後からでも遅くはない。―――まぁくだらない理由だったらその分ではないが―――
「私の貴重な思考時間を割いてまで来ているんですもの。くだらない理由だったら・・・消すわよ?」
心の中をそのまま出してしまうあたり。未だに動揺しているのかもしれない。
「なんでそんな物騒な話になるんですか!?」
「良いから話して見なさいよ?」
「いやまぁ大したことないと言ったら大したことないんですが・・・」
「良いから言って見なさいな?冥土の土産に聞いてあげるわ」
「だから何でそんな風にいうんですか!?はぁ・・・じゃあ話しますよ」
早苗は少し息を吸い込むと、霊夢の目を見据えた。
雰囲気が変わった事を霊夢も感じたのか、早苗の目を見つめ返し―――
「妖怪退治ってどうすればいいんですか?」
「・・・へ?」
予想外の質問に呆けてしまうのであった。
ともあれそんな回想をしているうちに、早苗の話もひと段落ついたようだ。
なにやら途中から自分の神様のすばらしさに付いて語っていたような気がしてならないが、なんとなく話の内容は分かったのでよしとしよう。
「とどのつまり・・・妖怪退治をして里の人間達から謝礼金を毟り取りたい。そういうことね?」
「違いますよ!何聞いてたんですか!?」
「その考えは悪くないけど、私から仕事を取ろうとするのは戴けないわね」
霊夢はそういいながらゆらりと立ち上がり、早苗の眼前へと迫る。
「だからなんでそうなるんですか!?ちょっ!ちょっと霊夢さん!?目が怖いですよ!?」
「あなたにはさっきの礼もあるし・・・大丈夫、ちょっと此処二・三日の記憶やら何やらを消してもらうだけだから・・・」
「記憶の他にもいろいろ失いそうなんですけど!?なんでお払い棒を振りかぶってるんですかーーー!?」
早苗は思う。
『私、何か悪いことしたっけ?』
そして何を言っても無駄だと悟った早苗は、懐からあるものを取り出した・・・
「もひひゃひんひゃにふうふぁんぱいひゃふのへいふぉ?」
(守矢神社に来る参拝客の警護?)
「そうですよ!だから霊夢さんの仕事を奪うとかそんなんじゃないんです!というか饅頭食べながら喋らないでください!」
「ひゃって・・・―――だって久しぶりの甘味なんですもの。あぁっ!糖が体に行き渡っていくわ!!」
早苗が先程懐から取り出したものにより、霊夢の怒りは沈静化されたようであった。
博麗神社に来る途中に人間の里で買ってきたお饅頭。所謂土産物といったものである。久しく甘味を口にしていない霊夢に対して予想以上効果を上げたそれに、早苗は今深く感謝をしていた。
『あとで奇跡起こしておきますから・・・』
なんとなく安っぽい奇跡を想像しながら、早苗は話を戻した。
「おかげさまでうちの神社にも信仰が増えまして。いつもは人里に下りて布教しているんですが、最近皆さんわざわざ参拝に来ようとして下さってるんですよ。・・・でもさすがに里の方々だけで妖怪の山に入るのは危険じゃないですか?そしたら神奈子様が『早苗が案内人になってあげたら?』とおっしゃったので。」
「私に妖怪退治のコツを聞きに来たと?」
「はい」
「・・・めんどくさい。だいたいなんで私があんたの神社の手伝いしなくちゃいけないのよ?」
「良いじゃないですか?分社も置いてあることですし」
「あんたらが勝手に作ってったんでしょ!?」
「細かいことはいいんですよ。」
「細かくない!!それにあんたを手伝って何の得があるってのよ?」
「私達に感謝されます」
「いらんわっ!!」
「落ち着いて下さいよ?ほら深呼吸深呼吸」
「うぎぎぎぎぎっ」
幻想郷にきた当初より明らかに図太くなった早苗に憤慨しながら、霊夢は思う。
―――こいつ、これが素か?
「―――ハァ。ともかく私は無償で手伝ってあげるほど暇じゃないの。わかったらとっとと帰りなさい」
これ以上付き合っていられないとばかりに、湯飲みを片付け始める霊夢。
どうやらこれ以上話を聞く気がないらしい。
「・・・さっきお饅頭あげたじゃないですか?」
「あれはあれ、これはこれよ。」
「えーー」
「えーー、じゃない!私は『博麗の湯』の商品化に向けていろいろやらなくちゃいけないんだから。」
「あれ本気で売るつもりだったんですか!?」
早苗は驚いた。まさか先程の妄言を実行する気だったとは。いや、実行されたらもはや妄言ではないのだが。
「本気よ!せっかくの温泉、有効活用しないでどうするのよ?」
「だから霊感商法はどうかと・・・あっ!」
突然何かに気付いたように声を上げる早苗。彼女の頭の中にある一つの案が浮かんだ。
「霊夢さん!!」
「なっ、なによ?」
急に大声で名前を呼ばれた霊夢は、吃驚しながらも何とか言葉を返すことが出来た。
「あの温泉飲んだんですよね?」
「飲んだわよ。不味かったけど」
「その後どこもおかしくなってませんよね?」
「まぁ此処こうして居られるってことはそうなんでしょうね」
なにを聞いているんだこいつは?といった表情を浮かべる霊夢。仮にも飲料用として売ろうとしていたものである。さすがの霊夢もそこまでは鬼畜ではない・・・と思う。
「わかりました」
早苗が次に放った言葉に、霊夢はまたしても驚くこととなった。
「そのお湯。私が買い取ってあげます!」
「・・・・・・へ?」
早苗の言ったことが理解できず、間抜けな声を出す霊夢。
『早苗が私から『博麗の湯』を買う?何故?』
瞬時に早苗の思惑を悟ろうとする霊夢。
少しだけ地霊殿の主がうらやましくなった瞬間でもあった。
『―――あぁ、「買ってあげるから妖怪退治のコツを教えろとでも言うつもりか。いやこんなもん買った結果が妖怪退治のコツだけなんていったらあまりにも利がない。早苗はこう見えて意外としたたかな筈・・・!ッ、なるほど!そうか!この女、私から買ったお湯を倍の値段で里に売る気だわ!悔しいけれど里での信仰はあちらのほうが上・・・となれば私が売るより早苗が売ったほうが格段に売りやすい!私には霊感商法などと罵って置いてなんて奴!!早苗・・・恐ろしい「違いますよ!」
「・・・心を読まないでよ。さとりにでも弟子入りしたの?」
「だから違いますよ!途中から声に出してたじゃないですか!」
「あらそう?気付かなかったわ?でもじゃあなんでこんなもん買うわけ?まさかあんたが飲むってわけじゃないんでしょ?」
「始めからそう聞いて下さいよ・・・」
まったく悪びれず返す霊夢に対して、呆れたように項垂れる早苗。そして彼女の口から、その目的が語られた。
「それはですね・・・・・・・・・・・・・・・参拝客の方に配るんですよ」
「―――どういうことよ?」
「つまりですね?まず私がその~なんでしたっけ?あぁ、『博麗の湯』でしたっけ?まぁそれを私が買い取ります。毎回日を決めて参拝客の方を連れてこようと思ってるんで・・・いわゆるツアー見たいなことをやろうとしてるんですよ。そこで集まってくれた方々に御利益のあるものとして無償で配ろうと思うんですよ。」
「それってあんたの言ってた“霊感商法”になるんじゃないの?」
「無償なんで大丈夫です。里の人たちも参拝目的で来てくださってるわけですし。お湯はまぁお土産みたいなものと考えて頂ければ良いんじゃないでしょうか?味のほうは・・・良薬口苦しってことで何とかなりますし。こうすれば霊夢さんはお湯が売れてウッハウハ!私はあわよくば更に信仰が増えてウッハウハ!というわけです。参拝客の方々を騙すようですが・・・お互いの利益のためには些細なことですよね」
なかなかに黒いことを考えている早苗であったが、霊夢の頭の中にはある一つの単語しかうかんでいなかった。
「ウッハウハなの!?」
「ウッハウハです!!」
お互いにいい笑顔を向ける少女達―――
商談はここに成立した。
「それでは霊夢さん。妖怪退治のコツを教えていただけますか?」
「そうね・・・妖怪退治のコツね・・・」
「妖怪退治のコツです」
「妖怪退治のコツは・・・」
「妖怪退治のコツは?」
霊夢は思い返す。己がいつも妖怪退治の時に何を思うのかを・・・
そして霊夢は一つの結論にたどり着いた。
「・・・ないわね」
「・・・・・・ふぇ?」
霊夢の言ったことが理解できず、間抜けな声を上げる早苗。
「だからないのよ。妖怪退治のコツなんて」
そう―――
霊夢が妖怪退治において意識していること。それはしいて言えば何も意識しないこと。
何も考えず自由に飛び回り、自由に弾幕を打つ。
そして気付けば相手は倒れており、妖怪退治は完遂している。といった具合である。
その自由な様が霊夢らしいといえばらしいのだが・・・
「えっ・・・じゃっ、じゃあ私はどうしたらいいんですか!?」
「好きにやったら良いんじゃない?」
早苗が納得できるはずもなく・・・
「好きにって・・・それがどうしたらわからないから聞きに来たんじゃないですか!!」
「そんなこといわれてもねぇ~・・・あぁ、勘とかどうかしら?直感的なアレでサッとしてピチューンよ」
「そんなの出来たら苦労しません!!」
「簡単よ。現に私やってるし」
「一緒にしないでくださーーーい!!!」
―――この日組まれた商談は。わずか数刻で破棄された。
結局無駄な時間をすごした早苗であったが。そもそも妖怪の山に住む妖怪たちが、その山に住んでいる神さまの風祝を襲うべくもなく。せいぜい麓の妖精にいたずらされるくらいで、無事参拝ツアーを執り行うことが出来た。
神奈子曰く―――
「案内をしろとは言ったけど、妖怪退治をしろとは言ってないんだがねぇ。でも早とちりする早苗もかわいいなぁ」
との事である。親馬鹿・・・いや神馬鹿である。
そして霊夢の『博麗の湯』であるが・・・
言わずもがな―――
仕方がないので一日一本自分で飲んでいるらしい。
まぁ、なぜか最近肌がツルツルしてきている様だが・・・
「霊夢さん」
「なに?」
「やっぱそのお湯売ってもらえますか?」
霊夢が温泉成金になるのも、そう遠く無いのかもしれない。
「はい!」
「・・・・・・あんたが?」
「はい!!」
地下世界での異変もようやく片付き。
神社に沸いた温泉で一儲けしようと彼是画策していた霊夢の前に早苗が現れたのは、つい先程の事であった。
「神奈子様がおっしゃったんです!」
誰も聞いてないのに話始めた早苗の言葉を流しながら、霊夢は彼女が来たときのことを思い返す。
縁側でお茶を飲みながら、霊夢は温泉の有効活用について考えていた。
「旅館・・・は芸がないわね、今の神社じゃ狭すぎるし。あの天人に改装させたら紫がうるさいし・・・
こんなときに限ってあの鬼はいないし・・・」
―――第一、楽園の素敵な女将じゃしまらないわよ。
「だからといって銭湯にしても・・・わざわざこんなところまで来る物好きもいないしね・・・」
それは旅館も一緒ではないか?と気付いたが、どちらにせよ二つとも現段階では実用性がない。
「集まるのは変なのばっかりだし・・・あいつらが素直にお金払うとも思えない。むしろあいつらが来るから里の人たちが来ないのよ!」
自分の普段の行いや博麗神社の立地を棚に上げ、いつものメンバーに怒りをぶつける霊夢。
彼女達のもたらす差し入れという名の食物が霊夢の空腹を救ってきた過去など、温泉成金を目指す霊夢に取っては振り返るべくもないことであった。
「向うから来ないならこっちから行くしかないわね。いっそのことお湯を竹筒にでも入れて売ってみようかしら?温泉を飲む健康法もあるみたいだし」
あんな不味いものよく飲めるわね―――と思いつつ、他に案もないので霊夢はこれで行くことに決めたようだ。―――なぜ不味いか知っているかは聞いてはいけない、巫女だって腹は減る。
「博麗の神聖なお湯・・・か。効能は・・・悪霊退散とかでいいかしら?『飲んでよし!掛けてよし!今なら安産祈願のお守りも付いてきます!・・・あらそこのおばあちゃん。悪い霊が付いているわ!でも大丈夫、この博麗の湯があればどんな悪霊も一発退散よ!一家に一本、いや一人に一本『博麗の湯!』今なら分割払いもOK!詳しくは博麗神社まで―――』・・・意外と行けそうね」
神社の巫女自ら霊感商法を行うことに関しては、微塵も罪悪感がないようだ。
霊夢には温泉成金となった己の姿しか見えていないのであった。ウッハウハである。
「ウッハウハよ!」
己の立てた計画の成功を確信した霊夢は喜びを表現しようと立ち上がり・・・
「・・・なにしてんですか?」
いつの間にやら目の前にいた少女に現実へと連れ戻された。
「・・・いつからいたのよ?早苗」
ふと現実に戻されてみれば、先程の自分の行動が人に見られたくないものの類だと気付く。
人間の、それも同業者の彼女に見られていたとなると、それなりの対応をしなければならない。
「神に仕えるものとして言わせてもらいますが・・・霊感商法はどうかと」
聞かれていたらしい。
「それに霊夢さんも年頃の乙女なんですから。あまり奇怪な行動を取られるのも・・・」
――――消さなければ。
なにやら巫女が物騒なことを考えてるとも知らずに、風祝は言葉を続けた。
「まぁそんなことはどうでもいいんですが」
「私にとってはどうでも良くないんだけど・・・大体何しにきたのよ?」
己の恥態をどうでもいいと斬り捨てられた霊夢であったが、とりあえず早苗が来訪した理由を尋ねようと思った。消すのは後からでも遅くはない。―――まぁくだらない理由だったらその分ではないが―――
「私の貴重な思考時間を割いてまで来ているんですもの。くだらない理由だったら・・・消すわよ?」
心の中をそのまま出してしまうあたり。未だに動揺しているのかもしれない。
「なんでそんな物騒な話になるんですか!?」
「良いから話して見なさいよ?」
「いやまぁ大したことないと言ったら大したことないんですが・・・」
「良いから言って見なさいな?冥土の土産に聞いてあげるわ」
「だから何でそんな風にいうんですか!?はぁ・・・じゃあ話しますよ」
早苗は少し息を吸い込むと、霊夢の目を見据えた。
雰囲気が変わった事を霊夢も感じたのか、早苗の目を見つめ返し―――
「妖怪退治ってどうすればいいんですか?」
「・・・へ?」
予想外の質問に呆けてしまうのであった。
ともあれそんな回想をしているうちに、早苗の話もひと段落ついたようだ。
なにやら途中から自分の神様のすばらしさに付いて語っていたような気がしてならないが、なんとなく話の内容は分かったのでよしとしよう。
「とどのつまり・・・妖怪退治をして里の人間達から謝礼金を毟り取りたい。そういうことね?」
「違いますよ!何聞いてたんですか!?」
「その考えは悪くないけど、私から仕事を取ろうとするのは戴けないわね」
霊夢はそういいながらゆらりと立ち上がり、早苗の眼前へと迫る。
「だからなんでそうなるんですか!?ちょっ!ちょっと霊夢さん!?目が怖いですよ!?」
「あなたにはさっきの礼もあるし・・・大丈夫、ちょっと此処二・三日の記憶やら何やらを消してもらうだけだから・・・」
「記憶の他にもいろいろ失いそうなんですけど!?なんでお払い棒を振りかぶってるんですかーーー!?」
早苗は思う。
『私、何か悪いことしたっけ?』
そして何を言っても無駄だと悟った早苗は、懐からあるものを取り出した・・・
「もひひゃひんひゃにふうふぁんぱいひゃふのへいふぉ?」
(守矢神社に来る参拝客の警護?)
「そうですよ!だから霊夢さんの仕事を奪うとかそんなんじゃないんです!というか饅頭食べながら喋らないでください!」
「ひゃって・・・―――だって久しぶりの甘味なんですもの。あぁっ!糖が体に行き渡っていくわ!!」
早苗が先程懐から取り出したものにより、霊夢の怒りは沈静化されたようであった。
博麗神社に来る途中に人間の里で買ってきたお饅頭。所謂土産物といったものである。久しく甘味を口にしていない霊夢に対して予想以上効果を上げたそれに、早苗は今深く感謝をしていた。
『あとで奇跡起こしておきますから・・・』
なんとなく安っぽい奇跡を想像しながら、早苗は話を戻した。
「おかげさまでうちの神社にも信仰が増えまして。いつもは人里に下りて布教しているんですが、最近皆さんわざわざ参拝に来ようとして下さってるんですよ。・・・でもさすがに里の方々だけで妖怪の山に入るのは危険じゃないですか?そしたら神奈子様が『早苗が案内人になってあげたら?』とおっしゃったので。」
「私に妖怪退治のコツを聞きに来たと?」
「はい」
「・・・めんどくさい。だいたいなんで私があんたの神社の手伝いしなくちゃいけないのよ?」
「良いじゃないですか?分社も置いてあることですし」
「あんたらが勝手に作ってったんでしょ!?」
「細かいことはいいんですよ。」
「細かくない!!それにあんたを手伝って何の得があるってのよ?」
「私達に感謝されます」
「いらんわっ!!」
「落ち着いて下さいよ?ほら深呼吸深呼吸」
「うぎぎぎぎぎっ」
幻想郷にきた当初より明らかに図太くなった早苗に憤慨しながら、霊夢は思う。
―――こいつ、これが素か?
「―――ハァ。ともかく私は無償で手伝ってあげるほど暇じゃないの。わかったらとっとと帰りなさい」
これ以上付き合っていられないとばかりに、湯飲みを片付け始める霊夢。
どうやらこれ以上話を聞く気がないらしい。
「・・・さっきお饅頭あげたじゃないですか?」
「あれはあれ、これはこれよ。」
「えーー」
「えーー、じゃない!私は『博麗の湯』の商品化に向けていろいろやらなくちゃいけないんだから。」
「あれ本気で売るつもりだったんですか!?」
早苗は驚いた。まさか先程の妄言を実行する気だったとは。いや、実行されたらもはや妄言ではないのだが。
「本気よ!せっかくの温泉、有効活用しないでどうするのよ?」
「だから霊感商法はどうかと・・・あっ!」
突然何かに気付いたように声を上げる早苗。彼女の頭の中にある一つの案が浮かんだ。
「霊夢さん!!」
「なっ、なによ?」
急に大声で名前を呼ばれた霊夢は、吃驚しながらも何とか言葉を返すことが出来た。
「あの温泉飲んだんですよね?」
「飲んだわよ。不味かったけど」
「その後どこもおかしくなってませんよね?」
「まぁ此処こうして居られるってことはそうなんでしょうね」
なにを聞いているんだこいつは?といった表情を浮かべる霊夢。仮にも飲料用として売ろうとしていたものである。さすがの霊夢もそこまでは鬼畜ではない・・・と思う。
「わかりました」
早苗が次に放った言葉に、霊夢はまたしても驚くこととなった。
「そのお湯。私が買い取ってあげます!」
「・・・・・・へ?」
早苗の言ったことが理解できず、間抜けな声を出す霊夢。
『早苗が私から『博麗の湯』を買う?何故?』
瞬時に早苗の思惑を悟ろうとする霊夢。
少しだけ地霊殿の主がうらやましくなった瞬間でもあった。
『―――あぁ、「買ってあげるから妖怪退治のコツを教えろとでも言うつもりか。いやこんなもん買った結果が妖怪退治のコツだけなんていったらあまりにも利がない。早苗はこう見えて意外としたたかな筈・・・!ッ、なるほど!そうか!この女、私から買ったお湯を倍の値段で里に売る気だわ!悔しいけれど里での信仰はあちらのほうが上・・・となれば私が売るより早苗が売ったほうが格段に売りやすい!私には霊感商法などと罵って置いてなんて奴!!早苗・・・恐ろしい「違いますよ!」
「・・・心を読まないでよ。さとりにでも弟子入りしたの?」
「だから違いますよ!途中から声に出してたじゃないですか!」
「あらそう?気付かなかったわ?でもじゃあなんでこんなもん買うわけ?まさかあんたが飲むってわけじゃないんでしょ?」
「始めからそう聞いて下さいよ・・・」
まったく悪びれず返す霊夢に対して、呆れたように項垂れる早苗。そして彼女の口から、その目的が語られた。
「それはですね・・・・・・・・・・・・・・・参拝客の方に配るんですよ」
「―――どういうことよ?」
「つまりですね?まず私がその~なんでしたっけ?あぁ、『博麗の湯』でしたっけ?まぁそれを私が買い取ります。毎回日を決めて参拝客の方を連れてこようと思ってるんで・・・いわゆるツアー見たいなことをやろうとしてるんですよ。そこで集まってくれた方々に御利益のあるものとして無償で配ろうと思うんですよ。」
「それってあんたの言ってた“霊感商法”になるんじゃないの?」
「無償なんで大丈夫です。里の人たちも参拝目的で来てくださってるわけですし。お湯はまぁお土産みたいなものと考えて頂ければ良いんじゃないでしょうか?味のほうは・・・良薬口苦しってことで何とかなりますし。こうすれば霊夢さんはお湯が売れてウッハウハ!私はあわよくば更に信仰が増えてウッハウハ!というわけです。参拝客の方々を騙すようですが・・・お互いの利益のためには些細なことですよね」
なかなかに黒いことを考えている早苗であったが、霊夢の頭の中にはある一つの単語しかうかんでいなかった。
「ウッハウハなの!?」
「ウッハウハです!!」
お互いにいい笑顔を向ける少女達―――
商談はここに成立した。
「それでは霊夢さん。妖怪退治のコツを教えていただけますか?」
「そうね・・・妖怪退治のコツね・・・」
「妖怪退治のコツです」
「妖怪退治のコツは・・・」
「妖怪退治のコツは?」
霊夢は思い返す。己がいつも妖怪退治の時に何を思うのかを・・・
そして霊夢は一つの結論にたどり着いた。
「・・・ないわね」
「・・・・・・ふぇ?」
霊夢の言ったことが理解できず、間抜けな声を上げる早苗。
「だからないのよ。妖怪退治のコツなんて」
そう―――
霊夢が妖怪退治において意識していること。それはしいて言えば何も意識しないこと。
何も考えず自由に飛び回り、自由に弾幕を打つ。
そして気付けば相手は倒れており、妖怪退治は完遂している。といった具合である。
その自由な様が霊夢らしいといえばらしいのだが・・・
「えっ・・・じゃっ、じゃあ私はどうしたらいいんですか!?」
「好きにやったら良いんじゃない?」
早苗が納得できるはずもなく・・・
「好きにって・・・それがどうしたらわからないから聞きに来たんじゃないですか!!」
「そんなこといわれてもねぇ~・・・あぁ、勘とかどうかしら?直感的なアレでサッとしてピチューンよ」
「そんなの出来たら苦労しません!!」
「簡単よ。現に私やってるし」
「一緒にしないでくださーーーい!!!」
―――この日組まれた商談は。わずか数刻で破棄された。
結局無駄な時間をすごした早苗であったが。そもそも妖怪の山に住む妖怪たちが、その山に住んでいる神さまの風祝を襲うべくもなく。せいぜい麓の妖精にいたずらされるくらいで、無事参拝ツアーを執り行うことが出来た。
神奈子曰く―――
「案内をしろとは言ったけど、妖怪退治をしろとは言ってないんだがねぇ。でも早とちりする早苗もかわいいなぁ」
との事である。親馬鹿・・・いや神馬鹿である。
そして霊夢の『博麗の湯』であるが・・・
言わずもがな―――
仕方がないので一日一本自分で飲んでいるらしい。
まぁ、なぜか最近肌がツルツルしてきている様だが・・・
「霊夢さん」
「なに?」
「やっぱそのお湯売ってもらえますか?」
霊夢が温泉成金になるのも、そう遠く無いのかもしれない。
作品は悪くない。けど改行はもっと少なくても良かったかな?ここまで行の間をあけすぎると逆に読みにくくなっちゃう。
あと……突っ込みどころも少ないけど、突出したところもないって感じ。起承転結を意識してプロットを組んでみるといいかも。