『貴女達の従者って貴女達が初めての相手なの?』
それは毎度の博麗神社での宴会の席のこと。
夜も深まり始め、飲み会の本番はこれからだという頃合い。満月の下、酒を片手にそう言葉を紡いだのは月の姫。
彼女の言葉にぴくりと反応したのは、彼女と酒卓を囲む五人の人間達。否、実際には妖怪やら神やら幽霊やらなのだが。
彼女達は今宵の宴会に各々が従者達を連れて来ているのだが、珍しいことに今はその従者達の誰一人として
彼女達の傍についていない。そんな折に、まるで何でもないように月の姫が発したのが先ほどの言葉であった。
「質問の意図が掴めないわね。初めての相手って何のことだい? まさか夜伽という訳でもあるまい?」
「当り前じゃない。この面子の従者ってみんな女でしょう。何が悲しくて同性相手に夜伽を命じなきゃいけないのよ」
山の神の問いに、呆れるように答える月の姫。その彼女の質問内容を最初から理解していたのか、
少しも表情を変えない境界の妖怪と華胥の亡霊。表情こそ変えないものの、『え、今の質問ってそういう意図だったの?』と
内心少しばかり焦ってる紅い悪魔。そんな彼女の内心を『視て』微笑ましく思っている地底の主。
「そんなアブノーマルな経験談なんかじゃなくて、私が聞きたいのは貴女達に仕えてる従者達が今のように
誰かに仕えるのは貴女相手が初めてなのかってことよ。従者にとって貴女達が最初の主なのかってこと」
「フン、突然何を訊いてきたかと思えば下らない質問ね。永い年月を生き過ぎると生物の頭は退化するものなのか。
そんな事を訊いて一体何がどうなると言うの。本当、つくづく人間とは度し難い生き物だわ」
「あら、私をまだ『人間』と見てくれるのね。それは実に嬉しい言葉だわ」
「弁えろよ、人間。お前達が不死になろうと力を得ようと、積み上げられた積木は決して覆ることはないのだから」
つんけんと言い放つ紅い悪魔に、月の姫は口元を押さえてにやにやと笑みを零すだけで反論しようとしない。
その態度が少しばかり気に食わなかったものの、余裕がない自分自身はもっと気に食わない。
そう結論付けた悪魔は何も言わずに手元のワインを口元に運ぶ。それはまるで濁った空気の口直しでもするかのように。
「訊いてなんになる…ねえ。まあ、何にもならないわね。
強いて言うなら酒の肴になるといったところかしら。ただ少しばかり興味が沸いたから訊いてみたかっただけ」
「酒の肴にか。まあ、悪くないんじゃないかい。
折角用意された酒に宴場だ、無言で延々と酒を垂れ流すばかりが能でもないからね」
「私は別に構わないわよ? 別に隠す事でも話したくない事でも無し。ねえ、紫」
「そうねえ。まあ、私も構わないわよ?そこのプライドの高いお姫様が頷いてくれたら、ね」
面白そうに微笑みながらトスを出す境界の妖怪に、紅悪魔はクッと表情を少しばかり顰める。
何だこれは。これでは自分がまるで空気の読めない奴みたいではないか。何処ぞの天人でもあるまいに。
別に自分とて話す事が嫌な訳ではない。ただ月の姫の思惑通りに会話が進むのが癪なだけだ。
しかし、こうまでされては退く訳にはいかない。何より、売られた喧嘩は利子をつけて叩き返す主義だ。それが彼女、レミリア・スカーレットなのだから。
「…良いだろう。お前の挑発に敢えて乗ってやるよ、月姫」
「いや、別に私が挑発した訳でもなんでもないんだけどね?まあ、いいわ。折角だし乗って頂きましょうか。
それじゃ、貴女の従者は誰かに仕えるのって貴女が初めてなの?」
「当然よ。私の従者は私だけのモノ。あの娘達が私以外のモノだったなんて有り得ないわ。
咲夜も美鈴も私に仕える為に生れてきたの。他ならぬ私の傍でこそ彼女達の運命も恒星のように光り輝くのだから」
フフンと胸を張り、自信気に語る紅悪魔。そんな彼女に思わず笑みを零してしまう五分の三。
従者の独占欲、潔癖のなんと強いことか。そしてその姿がなんと微笑ましいことか。
そんな彼女の話を聞いていた月の姫だが、ふーんと相槌を打ちつつもポロリと余計なひと言一つ。
「もしかして貴女ってあれ? 『自分以外に仕えていたなんて不潔!気持悪い!』ってタイプ?」
「…月の民は頭に蛆でも湧いているのかしら?私の話をちゃんと耳に入れて頭で理解する努力をしてるのかしら?」
「一応は努めたつもりなんだけどねえ。ふーん、そうなんだ。紅魔館の主は潔癖のきらいがあるのか」
「潔癖だのなんだの…良い? もう一度だけ言うわよ?
私の従者は私だけのモノ。私のモノに他人の手垢などついてる筈がないだろう? 許される筈がないだろう?
個人の趣向の問題ではなく、これは在り方の問題よ。私に仕える者は、私だけを見ていればいい。違うか?」
「…どう聞いてもただの潔癖少女です。本当にありがとうございました」
「終いには磨り潰すわよ、永遠」
椅子から立ち上がり、紅悪魔がグングニルを持ち出したところで『はいそこまで』と山の神から仲裁が入る。
ニタニタと笑う月の姫に、彼女を睨みつける紅悪魔。そんな二人に山の神が『子供の喧嘩か』と呆れているところに、
横から亡霊姫が会話に参加する。
「その娘みたいに意識した訳ではないけれど、妖夢も初めて仕える主が私よ。
ただまあ、私は妖夢が赤ちゃんの頃から見てきてるし、あの娘は最初から私に仕えることが決まってたからね」
「そこに貴女の趣向は入らないと?」
「勿論入ってるわよ? 私は妖夢のことが好きだから自分の傍に置いているもの。
じゃなきゃ自分に仕えさせたりなんかするものですか。あの娘の愚直なまでの生真面目さ、実に可愛いでしょう?」
「それじゃ、IFの未来を想像するとして、もしあの庭師が貴女の前に別の誰かに仕えてたりしたら?」
「う~ん、少し嫌かもしれないわねえ。きっとあの娘、私以外の主じゃ駄目なのよ」
「庭師が駄目なの?貴女が駄目なのではなくて?」
「そう、妖夢が駄目なのよ。月に叢雲花に風、在るべき姿は今永久に。万物には収まるべき物が存在するのよ?」
「そういうモノなの?」
「そういうモノなの。と言う訳でお嬢さん、私は貴女のお仲間ということになりそうよ」
「近寄るなっ! というか一緒にするなっ!」
擦り寄ろうとする亡霊姫を本気で嫌そうに一蹴する紅悪魔。
拒否された亡霊姫は『よよよ』とワザとらしく泣き真似をして隙間女の方へと頭を寄せていたりした。
そんな姿を横目に、会話のバトンを受け取るように山の神が月の姫に口を開く。
「私…の場合は従者なんていないんだけど、お前達にとっての『それ』は早苗が当たるのかい?」
「あら? 可笑しなことを言うのね。古来より巫女は神の従者と決まっていますわ」
「正確には風祝なんだが…まあ、良いわ。早苗にとって仕える相手、その初めてが私とは言えないかもね。
私だけじゃなくて、あの娘には諏訪子もいる。そうさね…早苗の初めては私と諏訪子の二人になるんだろうね」
「初めてが二人なんて素敵ね。それはそれは風祝も奉仕のし甲斐があると言うものですわ」
「あらあらまあまあ。初めてが二人なんてウチの妖夢なら顔を真っ赤にして『不埒です!!』って怒りそう」
「…いや、待て。これは従者としての経験の話よね? 私は間違ってないわよね?」
「成程、地上の吸血鬼とは随分とまあ耳年増な…年頃ですね」
「急に会話に入ってきたかと思えば人の頭を勝手に覗くんじゃない!私はそんな妄想なんてしてないわよ!」
目を細めて優しい表情をする地底の主の襟元を掴み、ガクガクと強く揺する紅悪魔。それはまあ、何とも滑稽な光景である。
元はと言えば、話を脱線させ始めた隙間妖怪と亡霊の姫に原因があるのだが、当人は知らぬ存ぜぬとばかりなり。
地底の主と紅魔館の主、そんな二人の争いに割って入ったのは勿論永遠亭の主。当然、今までの流れと同様の方向性でだが。
「地底の貴女は? 貴女も過去に経歴の無い従者を手にしたい派?」
「私はペットの過去なんて気にしませんよ。どの娘も私がその辺りから拾ってきた娘ですもの。
過去なんて私にとっては細事に過ぎません。大切なのは私が拾ったというただの一点だけなのですから」
「…良い事言ってるように聞こえるけど、いまいち納得出来ないのは従者をペットって言ってるからかしら」
「それは仕方のないこと。私にとって従者とはペット。彼女達にとって私は飼い主。それだけの関係なのですから」
「飼い主…なんていうか凄い響きね」
「というかアブノーマルね、紫」
「ええ、アブノーマルだわ、幽々子」
「…いや、だからこれは従者としての経験の話よね? 私は間違ってないわよね?」
「成程、地上の吸血鬼は随分とまあオマセな…激しいですね」
「だから人の頭を勝手に覗くんじゃない! 私はそんなアブノーマルプレイなんて妄想してないわよ!」
再び取っ組み合いになる二人(地底の主はされるがままにされているだけなのだが)に、他の四人は今度は誰も止めようとはしなかった。
その二人を余所に、先ほどの会話中に口を閉じていた山の神が、ふと月の姫へと疑問を投げかける。
「私達に色々聞いてるけど、肝心のアンタはどうなのよ? 聞いた話だが、従者とは随分と長い付き合いなんだろう?」
「ん。まあ、長いと言っても貴女達の年齢程じゃないけどね。永琳は別に私が最初の主って訳じゃないわよ?
私の前も、その前の前も、その前の前の前も…それこそ数えきれないくらいの人間に仕えてるわ」
「ほう? 私達に散々聞いてたが、そのことにお前は何も感じないのかい?」
「何にも。むしろ永琳が色んな奴と一緒になっててくれたおかげで随分助かってるわ。
経験豊富だし、いつでもリードしてくれるし。その全ての経験が私の為だけに使われてると思うと嬉しく感じない?」
「経験豊富でリードしてくれるらしいわよ、紫」
「経験豊富でリードしてくれるのね、幽々子」
「……………………」
「成程、地上の吸血鬼は随分と破廉恥な…流石の私もそれは引きます」
「ちょ!? 今のは私何も言ってないだろう!? というか人の頭を勝手に覗いて勝手に引いてんじゃないわよ!?」
もはやお決まりの流れとでも言うように二人の喧騒を加齢…もとい華麗スルーする四人。実にカリスマである。
永琳の話題に花を咲かせ、話もようやくまとまろうかというところで、月のお姫様は話の総括へと移る。
「まあね、結局この話題で何が言いたかったかと言うと。
――この幻想郷で従者として最高なのは誰より経験豊富なウチの永琳ってことね」
「「「「ちょっと待ちなさい」」」」
これで話はおしまい…そう纏めようとしたところで、他の面子からストップとばかりの制止の声がかかる。
その待ったに不思議そうな表情を浮かべる月姫に、今夜はからかわれてばかりで散々の吸血姫が食ってかかる。
「さっきから黙って聞いていればペラペラと勝手な戯言を。
最高なのはウチの咲夜や美鈴に決まっているでしょう? あの娘達の何処がお前のところの薬剤師に劣ると言うのよ?」
「何処って…え? 普通に全部じゃない? むしろ勝てるところを探す方が酷じゃない」
「ハッ! 人間は本当につくづく度し難い頭をしているわね。お前は宝石を選ぶ時に大きさしかみないのか?
違うだろう? 宝玉に必要とされるは傷物かどうかこそが肝要。お前のところの輝きなんてとうの億年前に失ったような
石ころとウチの宝石を一緒に並べられることすら不快だわ」
「お嬢さんに同意する訳ではないけれど、私も異議を申し立てさせて頂くわ。
幻想郷で一番の従者はうちの妖夢よ。経験? リード? そんなものは後でどうとでも身につくものよ。
けれど、妖夢の持つ可能性という未来、現在の輝きを考慮に入れれば、貴女の従者なんて相手にもならないわよ?」
「永琳の経験や巧さは確かに素晴らしいのかもしれないけれど、それはお前さんの為に身につけたものでもないだろう?
経験は確かに無いかもしれない。けれど、それを心でカバーして誠心誠意尽くしてくれる姿こそ最高の従者だと私は思うがね。
主の為に努力をする姿、昇り詰めようとする姿、そこに心を打たれるんじゃないか」
「…最初から全てを持つ者をペットにして何が楽しんですか? 本当に理解に苦しみますね。
何も知らぬ無垢なペットに一から十を全てこの手で教え込むことこそが最高の楽しみと言うのに。
最高の従者を自身の手で作ろう…そう考えが及ばない時点で私は貴女と相容れませんね。主失格です」
「え、嘘、ちょっと本当? 永琳が最高だって理解出来ないの? うわ…本当、潔癖って理解に苦しむわ」
月の姫が着火した口論に終着駅はなく。各々が自分の従者を押し付け合う姿に終わりはなく。
一人が自分の従者の素晴らしい点を謳えば、他の者達も負けじと追随しあう始末。声を上げれば別の者が上げ。
各々の頭に熱が篭り始め、口論が今まさに弾幕勝負へと移り変わってもおかしくはないというこの状況。
そんな空気を一発で霧散させたのは、これまで五人の口論に交ることなく口を閉ざしていた最後の一人。
「いい加減になさいな、五人とも。幻想郷の一角を担う者達が揃いも揃って愚かしい。
貴女達の無様な行動は従者の名声にも泥を塗ることを理解してるかしら?」
最後の一人こと境界の妖怪の言葉に、五人は不満そうな表情を浮かべながらも渋々と押し黙る。
そんな皆を見て、クスリと小さく微笑みながら隙間妖怪はゆっくりと再び口を開く。
「幽々子。貴女の庭師は実に実直で素敵な従者だわ」
「紫…」
「レミリア。貴女の門番は紅魔館の盾として名声高く、メイドの瀟洒な佇まいは幻想郷の誰もが知るところ」
「…フン、当然よ」
「八坂様。貴女の風祝は霊夢と同様、この幻想郷の未来を築かねばならぬ掛け替えのない娘ですわね」
「当然だ。早苗はそれだけの価値に値する娘だよ」
「さとり。貴女のペットはこの幻想郷にちょっとした混乱を。
フフッ…けれど、後に幻想郷革命への第一歩を。そして何より、貴女の背をしっかりと支えてくれる素敵な素敵な娘達」
「…お燐もお空も大切なペットですから」
「そして輝夜。貴女の薬師はいつだって貴女の傍に居てくれた。貴女が世界を知る以前…いいえ、貴女が生を与えられる以前から
貴女の為に多くの研鑽を積んできてくれた。そして今、その全てを貴女に何一つ惜しむことなく与え続けている。違うかしら?」
「…違わないわ」
各々の返答に満足したのか、隙間妖怪は軽く息をついて言葉を続けていく。
それはまるで我が娘を諭すように。語りかけるように。隙間妖怪は優しく口を開くのだ。
「そう、貴女達の従者の素晴らしさは誰もが既に認めるところなのよ。
その中で一番を決めようとしたところで、実に不毛なだけ。何故なら彼女達は誰もが自身を『貴女達の一番』になろうと
研鑽しているのだから。妖夢は幽々子にとっての一番の姿で在りたいように。風祝が八坂様の一番の姿で在りたいように。
貴女達の従者は皆が貴女達だけの一番を目指しているのです。それを第三者に優劣を判別させようなどとは、
それこそ彼女達に対する最大の侮辱ではありませんこと? 貴女達にとっての一番が自身の従者であるならば、
それで良いではありませんか。少なくとも私はそう思うのですが、如何でしょう?」
隙間妖怪の言葉は重く。そして何よりも心に響いて。実にその通りであって。
気づけば、誰かが笑いだしていた。実に下らないことを言い争っていたものだと。本当に可笑しいと。
そして、それは皆に伝播して。いつの間にか、その場の誰もが笑っていた。ああ、本当に馬鹿らしいと。
そうだ。他の誰かの評価なんてどうでも良いではないか。自身の従者が一番など自分自身が分かり切っていること。
自身が分かっているならば、他者の考えなどどうでも良い。自身が愛する従者達の事を認めていれば、それでいい。
最高の従者。それが自分に付き従ってくれる者のことだということは、誰より自身が理解しているのだから。
「フフフッ、本当にごめんなさいね。思えば私が下らない話をしたせいね。
自分の前に従者が誰に仕えていたかで、そこから従者の優劣を競うなんて実に馬鹿らしいもの」
「気にするな、月の姫。何だかんだ言いながら、結局は盛り上がったんだ」
「まあ、その点だけは認めてあげるわ。その点だけはね」
「成程、これが今地上で流行りのツンデレというモノですか…勉強になります」
「ちょ!? だからアンタは人の頭を覗くなと「覗いてませんよ?」あ、ああ…そう」
ワイワイと雑談に興じ始める中で、隙間妖怪は一件落着とばかりに息をつく。
そんな彼女の傍に、先ほどまでは口論の輪に入っていた亡霊一人。楽しげに微笑みながら、そっと小声に話しかける。
「見事に纏めちゃったわね。面倒くさがりな貴女の事だから放置すると思ってたわ」
「ええ、実に面倒でしたわ。でも、このまま放置するともっと面倒なことが起こりそうでしたので止めさせて頂きました。
というより幽々子、貴女まで口論に交っちゃってどうするのよ?」
「フフッ、必ず紫が止めてくれると信じてたからこそ、よ」
「調子の良いこと。まあ、従者で誰が幻想郷で一番かなんて実に下らないことよ。答えなんて決まりきってるもの」
「そうね。答えなんて初めから決まりきってたわね。紫の言う通り…」
「ゆかりさまーっ!! 頼まれていたデザートをお持ちしましたーっ!!」
亡霊の姫が言葉を言い終わろうとした刹那、彼女達の下に近づいてくる影二つ。
それは隙間妖怪の従者、もとい式とその式の式である二人の姿。その姿を視認し、隙間妖怪は表情を崩す。
「私も藍様と一緒にフルーツを切ったり頑張りましたっ!」
「そう、橙は本当に良い娘ね。藍もありがとう」
「いいえ、勿体無きお言葉。紫様のご命令とあらば如何な命令でも」
「フフッ、本当に藍は真面目なんだから。貴女達は幻想郷一の従者よ。他の従者なんて比べ物にならないわ。
いいえ、貴女達と比べるなんて他の連中が可哀そうだわ。それくらい貴女達は優秀よ。いつもいつも本当にありがとう」
「もう、紫様ってば大袈裟ですよっ!それでは失礼しました~!」
「では、何かありましたらまた」
そう言葉を言い残し、去っていく二人を隙間妖怪は笑顔をもって見送った。
受け取ったデザートをテーブルの上に置き、皆が食べやすいところに配置する。
だが、隙間妖怪の用意したデザートに誰一人手を伸ばそうとしない。というか、先ほどまで騒がしい程に続いていた会話が全く聞こえないではないか。
不思議に思った隙間妖怪は、首を小さく傾げながら、五人に訊ねかけるように口を開く。
「どうしたの? このデザートは『幻想郷一の従者』である『私の可愛い式達』が用意したものよ。
遠慮なんかせずに食べて良いのよ? 大丈夫、味の方は私が保証するわ。なんといっても私の式が作ったんだから。
『幻想郷一の従者』である私の可愛い可愛い式達がね」
何の悪びれることもなく言ってのける隙間妖怪。彼女が口を開いた瞬間、周囲の温度が五度は下がったことだろう。
そして、次に始まったのは隙間妖怪を除く五人による内緒話。どうやら彼女の言動は審議対象に入ったらしい。
『あれは何? もしかして私達があいつの言葉に怒らないかどうか試してる訳?』
『分からん…だが、先ほどのあいつの従者、あれはどう見る?』
『…年齢を重ねて経験も豊富。先主も居そうな妖狐に、天真爛漫で無邪気無垢。汚れを知らなそうな化け猫ですか』
『そう言えば紫の従者はそうだったわねえ…へ~え…経験豊富と手付かずの両方ねえ…』
『正直グングニルを頭に突き刺したい気持ちはあるけれど…もしかしたら小さな勘違いかもしれないわ』
やれこうだ、あれこうだと作戦会議を重ねた末、どうやら結論に至ったらしく。
不思議そうな表情を浮かべる隙間妖怪に、ニコニコと不自然なまでに笑顔を振りまいて彼女に近づく五人。
何事かと眉を顰める境界女に、皆を代表して質問を投げかけたのは亡霊の姫だった。
「ねえ、紫? 先ほどの貴女の言葉に関して質問があるのだけれど」
「何? さっき私何か変な事を言ったかしら」
「いえ、変なことというか、言葉の意味をね?
貴女が先ほど自分の式達に向かって言った『幻想郷一の従者』って、一体どういう意味かしら?」
「意味? 幽々子ったら不思議なことを訊くのね。意味なんて言葉の通りよ?
私の式達が幻想郷一の従者であることは誰もが知る周知の事実でしょう?」
隙間妖怪の言葉に、五人の額にぴきりと怒りマークが浮かび上がる。
けれど彼女は気付かない。得意げに胸を張る彼女に、最後通告とばかりに亡霊の姫は言葉を告げる。
「へえ…それじゃ紫、最後の質問。さっき私達に言った『一番を決めるのは不毛なだけ』って言葉は…」
「不毛でしょう?だって私の式が従者として幻想郷一だってことは絶対不変なのだから。
いくら貴女達が争って勝者を決めたところで、それは所詮幻想郷二でしか在り得ないの。
だから貴女達の従者は自分自身の一番ってことで満足…」
彼女が口を聞けたのはそこまでだった。
何故ならその先の声は彼女の声を上回る激しい音によって掻き消されたから。ちなみにその音はというと勿論…
「神槍『スピア・ザ・グングニル』!!!!」
「死符『ギャストリドリーム』!!!!」
「神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』!!!!」
「想起『夢想封印』!!!!」
「神宝『ブリリアントドラゴンバレッタ』!!!!」
…言うまでも無かったりする。
カリスマ六人によるこの大馬鹿騒ぎ、六人全員の従者達が制止の声を上げるまで続いたとか続かなかったとか。
この騒ぎで博麗神社が倒壊しなかったこと、それだけが唯一の救いである。本当にこれだけである。
ちなみにこの騒ぎをじっと眺めていた天人とその連れが
「…ねえ、衣玖。貴女って私の」
「何か仰いましたか? 総領『娘』様」
「…む~! 別に私の従者ってことで良いじゃない! 衣玖のケチんぼ!
したいしたい! 私もあれに参加したい~! 参加して大暴れしたい~!」
などと騒いでいたのはまた別の話である。
Congratulations! Ending No.7
やっぱりゆかりん親馬鹿だけは変わらないですねぇ。
>>輝夜が書きたい
ありがとうお告げありがとう。
次回は是非地底と緋想にスポットライトが当たって欲しいです。ですです。
空気読めてない、期待通りのことを平然とやってのける!
そこにしびれるぅ、憧れるぅ!
お久しぶりの投稿ですね。
またにゃおさんの作品が読めて良かったです。
言い争いを止めた紫様がさらに爆弾を投げつけましたね……。
面白いお話でした。
やっぱり!でしたねw
個人的には、1の方と同じく従者視点の主自慢希望しますw
…結果は絶対に似たようなものになると思いますがw
面白かったー
それにしてもゆかりんが天然策士すぐるww
爆笑させていただきましたw
さとりとレミリアの掛け合いが面白かったですw
彼女の目指した~後編もいつまでも待ってますm(__)m
さとりとレミリアの漫才にニヤニヤさせられ、主たちの従者を思う気持ちにニヤニヤさせられ、紫の従者バカにやっぱりかとニヤニヤさせられました。
結論。みんな可愛いよ!
にゃおさんが帰ってこられた!
今日はなんと良き日か!
うん、おもしろかったです
紫が皆の従者を評価する所のお空のくだりって安西先生ですよね?みっちゃんに対しての。
ゆかりんさすが!!
あと、乙です。お疲れ様です
良いわー主人の寄り合いいいわー
にゃおさんは良いシーンでさらっとパロディ入れるからたまらない(主に腹筋が)