Coolier - 新生・東方創想話

生真面目な忘れ物

2009/07/11 09:35:50
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 紅魔館の主、レミリア・スカーレットはいらいらしていた。この表現は少しばかり、語弊を生むので訂正すると、呆れていた。そして、その呆れが一周期してイライラへ変わった。
 その人間の幼女の成りの体躯には、不釣り合いな大きな椅子に偉そうに座り、短い足を組み、頰杖を付き、嫌そうに目を細めながら、雨日のため薄暗くなっている窓の外を見つめている。
 いや、見つめていたかった。しかし、それが今できていないのである。なぜなら、レミリアよりも窓に近い所から、心配そうに外を眺める一人の銀髪のメイドがいるからだ。
 メイドの名前は十六夜咲夜。ここ、紅魔館のメイド長を勤めている極めて瀟洒な従者だ。
 普段はその整った顔立ちで、きりっとした切れ長の目で多くの人々の人気を博しているらしいが、今はそんな目も心配そうにたたれ目になっている。
 無論、そうやって外を眺めている行動が一時的なものならば、レミリアもそこまで口を尖らせることはないだろう。しかし、今回はちょっと違う。
 幼き吸血鬼レミリアは、咲夜が淹れた『五時間前』の紅茶を含み、すっかり冷めてしまったそれを飲み込む。
「咲夜」
 返事がない。
「さーくーやー」
 またしても返事がない。
 無視――をしているわけではない。普段の咲夜ならば、あのように一文字一文字伸ばして呼ばれなくとも、主であるレミリアのお呼びには、すっ飛んで来る。
 レミリアはぽりぽりと頭をかくと、どっこいせと年寄り臭そうに椅子から立ち上がり、すたすたと咲夜の真後ろまで近づき、すーと息を吸うと、
「さくやっー!!」
「うひゃぁ!」
 びくびく~と体を震わせて、咲夜が驚いた。全く、何がうひゃぁだ。散々呼びかけに気付かなかったくせに。
 レミリアはそう言ってやろうかと思ったが、面倒なのでやめた。長いこと生きているとそこら辺の区別も分かってくる。
「もう、お嬢様一体なんですかっ!」
「なんですかはなんですか」
 なぜか逆ギレした咲夜の言葉をあしらうと、自分も窓の外を眺めた。
 ははーん。
 レミリアはすぐに咲夜の長時間展望の理由がわかり、嫌らしそうに笑うと、
「なーるほど。咲夜は心配なのね~」
「~~~~~~~っ」
 竹林に住む蓬莱人の炎のように顔を真っ赤にする咲夜は、年頃の女子のような感じで慌てて言った。
「べっ、別に美鈴の事が心配だなんて思っていません!!」
 その答えにまた、レミリアはにやけると、
「あら? 私はまだ美鈴の名前なんて一言も言ってないわよ」
「あ……いや、それは……えっとあのそのえとどのあの~うー」
 あうあうと口を開閉する咲夜を見るとやはりまだまだ年頃の乙女だと思う。
 レミリアとしては、もう少し普段から、これぐらい感情に従順承知してくれると弄りがいがあるというもんだ。
 彼女が心配そうに眺めていたのは、紅魔館の門番紅美鈴の事だった。
 普段は居眠りしたり簡単に侵入を許したりと、門番としては始末書ものなのだが、彼女もまた、咲夜同様変なところで真面目な性格で、こうやって大雨の日でも傘一つささずに、門番をやっているのである。
「そんなに心配なら、傘の一つでも持って行きなさいよ」
 レミリアはちょっとお節介をしてみた。どうせまた、頬を染めるに違いないと踏んでいたのだが、意外にも冷静だった。
「しかし、ここには傘は日傘しか無くて雨傘はございませんが……」
「それホント?」
「ええ。普段外に出るのは晴れの日だけですし。ていいますか、お嬢様が雨の日は外に出たがらないので、必要ないじゃないですか」
 しまった。まさか、普段の自分の思想がこのような事で壁になってしまうとは……。レミリアは頭を押さえる。
 考えろ、考えろ。どうにかして、このにやにや展開を進展させたいぞ。
 そうだ!
「ティンときたわ」
「はあ……」
 レミリアは、不思議そうな顔をしている咲夜に向かって、
「咲夜、というわけだから雨傘を買ってきてくれるかしら?」
「どういうわけですか?」
「どうもこうもないわ!」
 さあ、行ってきて! と戸惑っている咲夜の背を押して部屋の外に出すと、
「それじゃ、頼んだわよ! あと、紅茶もよろしく!」
 そう言って、扉を閉めた。
「さて、どうなっているのやら……おやおや、早速ね」
 咲夜は時を操ることが出来る。
 おそらく、一時的に美鈴の周りの時を止めて、その間に門をくぐったのだろう。相当意識しているらしい。
 にやにや。とその様子をレミリアは眺めている。そして、冷めてまずくなった紅茶をもう一杯。
「ちべたいわ……」


 全く、我が主は一体なんなのだろうか。
 少し不平不満があったのだが、さっさと事をこなして帰ろうと思い、時間を操ってものの数分で紅茶と雨傘を買って、今紅魔館の門の前にいる。
 帰りは買ってきた傘をさしていたため、咲夜は濡れなかったが彼女は違っていた。
 長時間雨に打たれたせいで、服は体にくっつき、美鈴の抜群のプロポーションをあらわにしている。また、濡れた紅髪が艶めいており、色っぽい。
「!?」
 咲夜は再び頬を染める。こんなにも美人がいたからだ。
 美鈴は咲夜に気付くと、つらそうな顔一つせず、にっこり微笑むと
「あっ、咲夜さんお買い物でしたか? 雨の中お疲れ様です」
 この雨の中門番をすることに文句一つ言わず、逆に咲夜を気遣ってくれた。
 咲夜はその言葉に何も返すことができなかった。否、なんと言えばいいのかよくわからなかった。
 もちろん彼女の事は心配した。いくら体が丈夫な妖怪とはいえ、風邪を引いてしまうのではないか。とか、寒くないだろうか……とかだ。
 こんな時何をすればいいのだろうか……。
「あの……咲夜さん?」
 立ち止まりうつむいている咲夜を心配しているのか、不安げな顔で彼女に近づく美鈴。
「!」
 咲夜は一歩一歩近づく足音に、震えた。
 そして――。
「えっ?」
 今までずっと美鈴を打っていた雨が止んだ。
 そう、咲夜は自分がさしていた傘を差し出したのだった。
「えっと……咲夜さん?」
「……って」
「えっ?」
「持ってって言ってるのよ。黙ってもちなさいよ!」
「は、はあ」
 言われるがままに、咲夜が差し出した傘を持つ。そして、人一人分出来たスペースに、咲夜が入ってきた。
「あのーこれは一体……」
「今日は私も一緒に門番をします!」
 言い放つと、真っ正面を見て、つーんとすました顔をした。
「なんでまた」
「別に、理由なんてどうでもいいでしょ!」
 なんて言うもんだから、美鈴は困った用に頭をかく。
「わっかりました。では、頑張りましょうね!」
 とりあえず、出来る限りの笑顔で答えることにした。
 咲夜のこの行動が何を意味しているのかよくわからないけど、まずは受け入れよう。照れ隠しのつもりか、咲夜を見て微笑んでいる美鈴に対して、なによーな顔で答える咲夜。
 いいえ、とだけ言って美鈴は再び門前へ目をやった。
「あっ、そういえばこの雨傘どうしたんですか? 新しく見えるのですが……」
 ぼっ。
 再び咲夜の顔が燃えた。
「べっ、別になんでもないわよ。この間買い物に行ったときに忘れたのよ! そう、忘れたの忘れた傘だったの」
 何度も何度も「これは忘れ物、これは忘れ物……」とつぶやく咲夜にこれ以上詮索はしなかった。


「なんとかなったみたいね。と、思ったら……おやおや」
 レミリアは窓際から二人の様子を見ていると、雨が止み虹が出来たのに気がついた。
「せっかくの相合い傘だったのに、残念ね」
 まっ、これで新しい紅茶が飲めるわ。と独り言を言って、曇った窓に相合い傘を描いてみた。右に美鈴左に咲夜が入るように……。

 これで紅茶が飲める。
 はずだったのだが……。
「いつまで、二人仲良く相合い傘してるのよ!」
 レミリアはわなわなと震えており、怒髪天を衝く勢いだった。とにかく、冷静に冷静にと近くにあったティーカップに口を近づけ中に入っていた液体を含む。
「うわ、まずっ!」
 レミリアは思わず口から、淹れてから『7時間後』の紅茶をはき出した。
お久しぶりですtotokoです。

今回はまあ見ての通りの美咲ですね。
僕としては、咲夜さんはあれぐらいのツンデレがいいなーと思っちゃってる自分がいますw

んでもって、レミリアの立ち位置ってあんな感じが一番いいなーって思います。


ちなみにトトコは紅茶は飲めません緑茶は飲めますがw
totoko
[email protected]
http://staphi.ehoh.net/
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コメント



0.950簡易評価
1.60名前が無い程度の能力削除
「ティンときたわ」
これで頭の上に!マークが出るのを連想したのは俺だけでいい。

それにしても何という乙女。……ただ、ここまで咲夜がレミリアの扱いをひどくするとは思えないのでこの点数。レミリアを忘れるほど美鈴に惹かれる理由が語られなかったから違和感が強かったのかな?
13.70名前が無い程度の能力削除
乙女な咲夜さんだなw
お嬢様が不憫ですわw
15.90名前が無い程度の能力削除
これはいいめーさく
17.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしい