別れを感じたのは何時だっただろう?
自分が年齢を重ねたから?
終わりが迫ってきていると思ったのは何故だろうか?
力が弱くなったから?
結論なんて出るものではない
でもそれを黙って受け入れるなんて気はない
冬の終わり 春の手前のある日
柔らかい日差しの中で美鈴は少しの眠気と戦いながら門の前に立っていた
そこへ妖夢がスイッと降りてくる
それを見た美鈴が目をこすって眠気を払いながら対応する
「おや、妖夢さんこんにちは」
「こんにちは」
「今日はどうかしたのですか?」
「咲夜さんにお茶に呼ばれてまして」
「そうですか。一応確認してきますのでちょっと待っててくださいね」
「わかりました」
一連の会話を終えて美鈴が門を通っていくのを見送った後、ふう、と妖夢は息を吐いた
今日はいつもより陽が暖かい そのためか吐いた息は雲を作ることは無かった
(いつもこのくらいなら過ごしやすいんだけどな)
叶わないだろう願いを頭の片隅に思い浮かべなんとなく自分の訪れた場所を見上げる
赤、いや紅を湛える紅魔館、そしてその門は白玉楼とは違った荘厳さを持っていた
それを何をするでもなくぽーっと見上げていた
「妖夢さん、確認できたので入っていいですよ」
「っ!」
呼びかけられてはっと顔を下げる
そこには美鈴が微笑みながらこちらを見ていた
(み、見られた?!)
思い出してみれば自分でも驚くほどであろう呆け顔を見られた
常にシャンとしているイメージのありそのようにあろうとしている妖夢にとってそんな顔を見られるのはすごくまずい
そのことに気づいて色々と恥ずかしくなってきた妖夢はしどろもどろに答えながら美鈴の横を抜けていく
妖夢の様子に?を浮かべていた美鈴はあぁ、と理解して言った
間違った理解ではあったが
「かわいかったですよ」
本人にとっては慰めであっただろう言葉
それは見事に妖夢に止めを刺した
顔を真っ赤にした妖夢はうわーーんと叫びながら走っていってしまった
「あれ、違った?」
それを呆然と見送って美鈴は頭に汗を貼り付けた
「あはははははっ、なぁにそれでここまで走ってきたの?」
「そんなことでみたいに言わないでくださいよ、すごく恥ずかしかったんですからー」
ここは紅魔館の一室、咲夜に割り当てられた彼女の自室になる
内勤のメイドに妖夢が来たことを伝えてもらい咲夜はお茶の準備をしていた
妖夢が部屋に着くちょうどいいタイミングで紅茶が準備できるであるように動いていた彼女はドアをドバンッと勢いよく開けて息を切らしながら飛び込んできた妖夢を見て驚いた
顔を真っ赤にしていた妖夢に経緯を聞いて咲夜は大笑いしたのだ
「くっくっくっ、まぁ貴女にとっては大変かもね」
「うぅ、帰り美鈴さんの顔見れるかなぁ」
ショボンとしている妖夢を見やりながら咲夜はお茶の準備を進める
「まぁそれはおいおい考えるとして、始めましょうか」
「あ、はい」
準備を終えた咲夜がテーブルに着く
妖夢に紅茶を渡し落ち着きながら切り出す
「最近そっちはどうなの?」
「そうですねぇ、幽々子様が…
二人は近況から始まって世間話、果ては愚痴などを話しこんだ
このお茶会、実は基本的に普段言えないような事を話したりする集まりである
参加する者は皆どこかの従者であり不定期に誰かが発端になって集まる
最初のうちは咲夜や妖夢、永遠亭の鈴仙だけだったりしたがどこで広まったか里の人間や他の妖怪の従者も最近では集まったりしている
咲夜はともかく一般の人間が妖怪と席を同じにするのは当初危険じゃないかとも考えもあったが従者としての不満は種族の壁を飛び越せるようで見事に意気投合して話をしていたりする
自ら望んで誰かに仕えていても、長く共にいれば少なからず不満も溜まってしまう
だからと言って主にはっきり言うことも憚られる
しかしこのお茶会が始まり自分と共感を得られる者と出会えて愚痴なんかを話せるようになったそうだ
結果このような場は彼女達にとって格好のストレス発散場所となり広まったのだ
「そうよねぇ、もう少し考えてくれればね」
「やっぱりそう思いますよね」
「「ふぅー」」
二人も同様に自分の主の愚痴などを一通り話し込みお茶を飲んで落ち着いた
「お茶、新しいの入れるわね」
「お願いします」
咲夜がポットに湯を入れるために席を立つ
妖夢は外を眺めながらふと思いついたことを聞いてみた
「そういえば美鈴さんはお茶会には参加しないんですか?」
「そうね、美鈴は前に聞いたけど仕事があるしいいって断られたわ」
「ふーん。…ねぇ咲夜さん、美鈴さんってどんな人なんですか?」
「はい?何よ突然?」
ポットを手に戻ってきた咲夜は妖夢の質問に不思議そうに答える
「いや、ふと思ったんですけど私美鈴さんの事あんまり知らないなぁ、と」
「気になるなら本人に訊いてくれば?」
「直接はどうも…。だから咲夜さんに訊いているんです」
知り合いであるとはいえいきなり「貴女は何ですか?」と訊くのは気が引ける
妖夢は少し内気な所があるのでなおさらだ
咲夜はふぅ、と少し息を吐いて
「別にたいしt「いいですねぇ、私にも聞かせてください」…」
適当に答えようとしたのを闖入者に止められた
「…何であなたがここにいるのかしら?呼んでないのだけれども」
「そんな事言わないでくださいよ。ネタあるところ射命丸ありです」
「傍迷惑だわ」
横目で睨みながら不機嫌そうにフンッと息を吐く咲夜に笑顔を浮かべながら射命丸文は続ける
「前から気になっていた事でもあるんですよ。美鈴さんはあんまり素性がはっきりした方ではないので」
「そうですよね、妖怪とは聞いてますがどんな妖怪かは知りませんし」
嬉々として話す文に乗ってきた妖夢も一緒になって訊いてくる
そんな二人の様子に呆れながら咲夜はしぶしぶ口を開いた
「まぁ、いいけど。実際の所私もあまりわからないし」
「あれ、そうなんですか?」
「そ、じゃあそうね、貴方達は美鈴についてどこまで知ってる?」
訊かれた文が指折りをしながら答える
「そうですね、紅魔館の門番であること、気を扱う能力であること、武芸を身に付けている事、後大陸の出であることですかね。あぁでも大陸の出、というのは服装から判断したものですが」
「そうね、私も知っているのは同じようなものよ。ただ、お館様がここに居た頃からいるらしいって事位かしらね」
「らしい、というのは?」
「私がその頃からいたってわけじゃないからね、人づてなの。お嬢様から聞いた事だから確かではあるでしょうけど」
「そんなもんですか」
「そんなもんよ、だから言ったでしょうに。美鈴もあんまり言いたがらないしね。言うほどのことじゃありませんよ、って」
「そうですか」
「もういいかしら?」
「はいどうもー。んーでもほんとにそれだけなんですか?」
「何度も言わせない、これだけよ」
「あんまり収穫はありませんでしたが仕方ありませんね」
「ならさっさと帰んなさい、邪魔だから」
「はいはい、また取材させてくださいねー」
しっしっとやる咲夜を気にもせず文は軽やかに入ってきたであろう窓から飛び立っていった
「二度と来るな」
「あははは」
窓を閉めて咲夜がテーブルに戻る
「ほんとにあんまり知らないんですね」
「あら、疑うの?」
「いいえ、ただ不思議で」
「なにが?」
「咲夜さんは幼い頃にここに来て、美鈴さんはその頃の世話役だったんですよね」
「えぇ、時間を止める力のせいで色々あってね。その頃であったお嬢様につれられて。まぁ世話役だっただけじゃなくて教育係でもあったから、館の管理についても教えられたわ」
「それだけ親密な関係ならもっと知ってても変ではないなぁ、と」
「さっきも言ったけど美鈴自身があまり自分のことを言うほうじゃないからね。私も気にしてなかったし私自身も昔のことを細かく訊かれたくはないし」
「なるほど」
「でも、強くなりたいって最初に思ったのは美鈴の影響ね」
「え、レミリアさんのためじゃないんですか?」
「それも間違ってはいないわ。お嬢様に仕えるものとして主を守る術を持つことは必要なことだし、お嬢様に全てをささげる意思もあった。今もだけどね。でも何が何でも強くなろうって思ったのは美鈴を見ていて思ったことよ」
間を挟むように少し冷めたお茶を飲む
「まだ外側に紅魔館があった、私も小さかった頃はね、今よりずっと危険だったの。金目当てや名声が欲しい連中、英雄気取りなんてのもいたわ。それに対してこっちの守備は今と比べると脆弱でね。メイドも戦闘のできるものが少なかった。あなたは知らないでしょうけど妖精のメイドってかなり優秀だったりするのよ?まぁ従わせるのは難しいけど上手に教え込めればちゃんとしたものになる。そうね、美鈴の傍にいる門番隊って呼ばれる子たちが例になるかしら」
そう言われて妖夢は納得した
確かにあの子たちは自分のような存在よりかは弱いがそこらの妖怪よりは強い
何より統制がきっちり取れている。あれなら自分達より多少強いものが現れても十分戦えるだろう
「その頃は美鈴も何日間も出ずっぱりなんてこともあったし、よく怪我もしてたわ。ひどい時なんか腕が千切れかかってたりもした」
「ある時ね、連日で畳み掛けるように攻めてきた連中がいたの。強さはそこまでだったけどいかんせん数がね、美鈴はそれをしのぐのにぼろぼろになりながら戦ってたわ」
「体中包帯だらけで出て行くのを見て、本気でとめた。『これ以上戦わなくていい』『今行ったら本当に死んでしまう』って」
「その日は言葉にできた。でもね、いつだって怖かったわ、出て行く美鈴の後姿を見るのが。今度こそいなくなるんじゃないかって、もう私に笑ってくれなくなるんじゃないかって」
「それと一緒に悔しくもあった。美鈴が出て行くのを見ているしかなかった自分が、ね」
「なのにね、そんな風に考えてるのなんか知りもしないで私の頭を撫でて、『大丈夫』って。行ってしまったわ。結局なんとか追い払って事なきを得はしたんだけど私はおお泣きしてね、その時に言ったのよ、『強くなる』って」
「勢いで言ったようなものだったけどそれが始まり、誓いって言ったほうがそれっぽいかしら」
一通り言い終えて咲夜が息をついて紅茶を飲んだ
「へー」
「へーって貴女、他にないの?」
「いえ、色々感じるところはあったわけです。私も師匠がいますので。ただこういう話は慣れてないのでなんというか、良い言い方が見つからなかったもので」
「いいけどね。それで?ほほう、気になるわね、貴女はどうだったの?」
「いや、私はその、そこまでたいした理由も無くですね?」
「私だけ暴露させて終わらせる気?そうは問屋がおろさないわ」
「ま、またの機会でということには?」
「駄目よ、逃がさないからね」
「え、あ、あの」
「さぁ、色々吐いてもらうわよ」
頭に汗を張り付かせてたじろく妖夢に咲夜は意地悪な笑みを浮かべながら迫る
逃げ場は 無いようだ
「ふふっ、面白いことが聞けたわ。ありがとう」
「ありがとうじゃないですよ。私は精神的に疲れました」
「あら、私も自分のことはなしたんだから、これでおあいこよ」
「割に合わない気がします」
椅子に座り足を組み優雅に紅茶を飲む咲夜に対し妖夢はテーブルに突っ伏してしまっている
その背中は煤けているようにも見える
やがて妖夢はため息をついた後体を起こして立ち上がった
「はぁ、それじゃそろそろ帰りますね」
「あら、そう?」
「はい。お休みをもらっているとは言ってもそろそろ帰って夕飯の準備をしないと」
窓からさす夕陽の様子を見ながら妖夢は言う
「そうね、私も動かないと」
咲夜も時計を見て時間を確認して立ち上がる
「またしましょう。今度はよければそっちで」
「はい。そのときは言いお茶を用意します」
「それは嬉しいけど…、あなたのとこの主が飛び込んでこないようにね」
「それは、その、善処します」
「クスッ、お願いね」
なんとも言えないような妖夢の顔を見て笑いながら二人で廊下に出て歩いていく
「あ、見送りはいいですよ。ちゃんと道もわかりますし」
「いいの?じゃあまた」
「ええ、また」
そう言って妖夢は行こうとする
「そういえば」
「どうしたの?」
妖夢が足を止めて振り向く
「美鈴さん、最近病気とか怪我をしたりしませんでしたか?」
「いや、特に大きなのはなかったと思うけど、それが?」
「ええっとですね、美鈴さんとはたまに手合わせをさせてもらってるんですけど」
「ええ」
そのことについては知っている
種類は違っても幻想郷では珍しい同じ武を磨く者として二人はしばしば手合わせをしていた
「この頃ですね、美鈴さんが弱くなってきているような気がして」
「あなたが強くなったのではないの?」
「それもあるかもしれません。でも、えーっとですね、上手く言えないんですが」
「……」
「技術とか別のものじゃなくて、もっと根本的な、地力のようなものが弱くなっている感じがするんです」
「そう?私はよくわからないけど」
「んんー気のせいなんですかねー?」
「じゃなかったらたるんでるのかもね、私からも言っとくわ」
「あーそんなつもりはなかったんですが…。ごめんなさい美鈴さん」
「あら、どういう意味かしら?」
「い、いいえ。それでは!」
妖夢は慌ててドアから出て行った
パタパタと足音が遠ざかっていく
「全く、人を何だと思ってるのかしらね」
軽くため息をつきながら後に続くようにしてドアから出て窓から外を見る
ちょうど妖夢が飛んでいくのが見えた
門のほうに目を移す
門越しになるので姿は見えないが美鈴はそこに立っているのだろう
眼を閉じる あの時のことは今でとちゃんと思い出せる
今に至るまでの始まり あの時の誓い
『バーカメイリンのバーカ。死んじゃったらどうするつもりだったのよ。』
グスッ べちべち
『痛い痛いまだそこ治ってないよ。大丈夫だったんだからいいじゃない、ね?』
『うるさいうるさいメイリンなんか死んじゃえ』
『そんな無茶苦茶な』
ぺちぺち…
『…ねぇメイリン』
『なあに?』
『何で?』
『?』
『何であんなに無理するの?』
『……』
『いつもそうだよ。どれだけぼろぼろになっても行っちゃうんだもん』
ギュッ
『ほんとに死んじゃうよ、そんなのやだよぅ』
『大丈夫よ』
『うそだよ、今だって痛いの我慢してるんでしょ?』
『大丈夫だって、ね?』
『う~…』
『ほらほら、機嫌直して』
クシャ スッ スッ
『撫でても駄目。今度は怒ってるんだから』
『あらあら、じゃあどうしよう』
クスクス
『む~……。じゃあ!』
『ん?』
『じゃあ私強くなる!強くなってメイリンも守れるようになる!』
『へ?……ぷっ、アハハハハハ』
『なによぅ!何で笑うのよぅ!変な事なんか言ってないよ!』
『ゴメンゴメン、そうじゃなくてね。強くなって守ってくれるのは嬉しいんだけどさ』
『うん』
『そうなったら門番の私の仕事がなくなっちゃうなって』
『あ…』
『クスクス やっぱりそこまで考えてなかったのね』
『な、なら同じくらいなら一緒に戦えるよね!?』
『そうね』
『うん、じゃあそうする!メイリンと同じくらい強くなる!あ、でもそんなに強くなれるかな?』
『なれるよ』
『ほんと?私メイリンみたいに妖怪じゃないよ?』
『人か妖怪かなんて関係ない。大事なのは心、本当に強くなろうとする思いがあれば誰であろうと、何であろうと強くなれるよ』
『うん。頑張る!』
『咲夜には心も力もあるからね、きっと強くなる。もしかしたら私なんてあっという間に追い越しちゃうかも』
『そうなったらメイリンの仕事がなくなっちゃうよ』
『クスクス、そうなったら咲夜に守ってもらおうかな』
『うん!えへへっ』
簡単な約束だった もしかしたら美鈴はもう忘れてるかもしれない
でも自分にとってはとても大事な誓いだった
あの後からたくさん頑張ってきた
メイドとしての仕事を覚え
館を守るものとしての術を覚え
主を守るために力をつけた
あの時の美鈴の言った事が現実になった
負けていた訓練が引き分けになり勝てるようになった
いつのまにか手加減しても勝てるくらいになった
メイド長の役目を任された
使われるのではなく使う立場になった
強くなったと思う 本当に
あのときの誓いを確かに果たせるくらいに
でも代わりに遠くに来てしまった感じもする
いつも傍にいたあの時と違い美鈴から色んな意味で離れてきた
そして今あることに恐れを感じている
『美鈴さんが弱くなってきているような気がして』
先ほど妖夢が言った言葉が反芻される
妙なところで察しがいいものだ
気のせいだと思う
だって彼女は今でもちゃんと門番としてあそこに立っていて 門番隊を率いて向かってくる者を退けている
魔理沙は通しているが最近ではその時はほぼ通過儀礼のようなものだ
居眠りしているのを見つけて罰にナイフを投げるとそれを取ってしまうくらいなのだ
だから大丈夫
本当はとっくに気がついているくせに
気のせいだと思いたい
でも彼女は今ではあまり最前線には立たなくなった 門番隊が向かってくるものを退けることが多い
魔理沙が通る時くらいしか出ずに最近ではその時も突破される時間も短くなっている
居眠りしているのを見つけることが多くなった罰と称して投げるナイフも増えた
だから不安
自分を安心させるために図書館で沢山調べた
でも出てきたことはどれも求めるものとは正反対のもの
自分を納得させるために持っているものを考察してまとめた
でも完成したものは自分の望むものとは正反対のもの
私の欲しかった答えは「彼女はなんでもないただの妖怪だ」というものなのに
出てきた答えは「彼女は普通の妖怪のような存在ではない」でしかなかった
いろんな事柄から目をそらした 自覚できるほどに
調べれたことは少ない
天狗にも言ったがあまり美鈴のことを詳しく知らないのも事実だ 今まで接してきて知ったこと予測される所から取っ掛かりにするしかなかった
名前から考えるに大陸の出だろう
気を操るもので龍という存在がいるらしい 時として天気さえ操るとか
でも美鈴はそんな大物ではないしもとよりあちらは神として扱われてることが多いようだ
気を操るものはいくらか見つかったが美鈴のように全般を扱うようなものではない
そんな妖怪はいなかった
『体が丈夫なだけのどこにでもいる妖怪ですよ』彼女はそう言っていた
それはよく知っている 今まで近くでその壮健さ(生命力といったほうがいいかもしれない)を見てきたのだから
でもそれならおかしい 話と現実にずれがあるのだ
確かに妖怪は人間と比べ丈夫だと言える 人なら死ぬような怪我からも復活するし速度も速い
それでも時間は必要なのだ 治ってもすぐに本調子になることもない それは大妖怪と呼ばれる存在[八雲 紫]でもそうだ
ひどい怪我なら少なくとも1日は動けなくなるのが普通なのだ
さらに回復させるならそのためのエネルギーが要る 急速にならなおさらだ いろいろあるが妖怪にとってのそれは人間の肉が基本として挙げられる
空腹になれば理性の箍が緩むのは人も妖怪も同じだ
しかし美鈴にそれは当てはまらなかった
腕が皮一枚でつながっていただけのような状態から瞬時とまではいかないが恐ろしいほどの速度で回復していた
そのときでも自分のことをそんな目で見なかった いつもどおりの笑顔で私を安心させようとしていた
普段からもそうだ 人を食べるところなど見ない
食事に混ぜたりしているからそうなのかもしれないが それを抜きにしても美鈴は人肉を求めたりはしない
大切な部分が欠落していて あったとしてもどこか異常になっている
妖怪というにはその存在が妖怪からはかけ離れていた
「ねぇ、美鈴。貴女は本当h「さっくやー」っ妹様?」
急に声をかけられ咲夜がはっとして振り返るとそこにはフランがいた
「おはよー」
「どうなされたのですか、妹様?まだ今は…」
咲夜が窓に顔を向ける 外はまだ明るい フランがおきてくるにはまだ早い時間だった
「むー、咲夜。朝の挨拶はおはよう、だよ」
「あぁ、これは失礼しました。おはようございます」
「うん」
「それで、どうなされたのですか?いつもより早く起きられたようですが」
「ん?なんとなくだよ。すっきり目が覚めたからもう一回寝る気にもならないし、メイリンのところにでもいこっかなーってね」
フランはパタパタと元気そうに走りながら早く外に出たそうにうずうずしている
「そうですか。レミリア様にはもう挨拶されたのですか?」
「お姉さまには後で会いに行くからそのときにするよ」
本人が聞いたらさびしそうに方を落とすであろう言葉を聞いて咲夜はふっと笑った
「あまりはしゃぎすぎて館を壊さないでくださいね」
「そんなことしないもーん」
口を尖らせて文句を行ってくるフランを見てまた少し笑うと咲夜は一礼した
「では朝食の準備をしてまいります」
そういって咲夜はフランに背を向けて歩き出し
「 あぁ、そうだ咲夜 」
また不意に呼びかけられ足を止める
まだ何かあったのだろうかと思いながら振り向いて
「 ダメダヨ? 」
いつの間にか目の前にあった瞳にから出る視線に貫かれた
「な…に……「わかってるでしょう?」…」
息が止まりそうになる
すべてを見透かされている 気のせいでなく 本当に
「それを言ってしまうとアノヒトはいなくなっちゃうから」
フランは笑っていた 顔だけは
でもその目はまったく別の感情を示していた
「まだ早いの、まだ準備が整ってない。力も、知識も、物も」
目が離せない 離すことを許されない
「知ってたよ、咲夜が同じ事を調べてたのは。だとしたら仲間ってことになるのかな?」
何が?とは訊けない わかりきった 当たり前のことだから
「お姉様は見送る気だから、咲夜は手放す気はないくせにね」
クスクスと笑いながらフランが離れる
ようやく呼吸ができるようになった気がする
「私は…人間として…生きますわ……」
「そうだね、でもその後までは何も決めてないんでしょう?」
両手を広げてクルクル回りながらフランは返してくる
「お姉様にとってアノヒトがいなくなることっていうのは合格ってことだから、自分がここの主として認められたってことだから」
フランはこちらに背を向けた状態で回るのをやめて続ける
「だからきっと去ることを受け入れる。この館の主として誇りを持った姿で見送る」
広げていた手を下ろしてフランは話しつづける その表情をこちらから見ることはできなかった
「でもそんなことは私には関係ないから、私は絶対に嫌だから」
「たとえ嫌われるとしても、私はアノヒトを、メイリンを離さない」
「それを邪魔するのなら」
首が回る 顔がこちらに向く
「たとえお姉様でも咲夜、貴女でも」
その眼には 狂気と
「壊すからね」
それ以上の決意を持っていた
「はぁ、なんか疲れたわ」
フランが去った後咲夜はようやく落ち着いて息を吸えた
久しぶりに見た気がした 彼女があれだけ感情を荒げるのを
魔理沙が来るようになってから狂気を見せることは減っていたのに
「邪魔をするなら、か…」
窓の外に目を向ける 太陽はすでになく 藍色の空の中には月が輝き始めていた
「美鈴……」
わかったことがある
地面の下には地脈という川のようになっている気の流れがある 特に本流となる大きなものは竜脈と呼ばれることもあるらしい
大陸のほうではその力の恩恵を得るためにその流れの上に建物を建てるそうだ 名前は風水術と本には書かれていた
推測ではあるがこの館もおそらくその考えを基に作られたのだろう
名前が「紅魔館」であるからもしかしたら最初に建てられたのは大陸のほうで なのかもしれない
外からここに来たように何かしらの魔術によって必要に応じて館ごとあちこちに転移していたのかもしれない
それと美鈴について
傷を瞬時に治すことができる
気を扱える
人肉を必要としない
妖怪という存在からかけ離れていること
でも逆に考えるのなら 彼女は別の存在としてなら当てはまる可能性があるものがあるということ
そして1つ 思いつくものがある
妖精だ
彼女たちのあり方は妖怪や人間のそれとは異なっている
元が何かから出てきた思念体や名の通り精であるため たとえその体が吹き飛ばされても本体となる存在が無事ならまた復活できる
ただ存在として確立するには力が足りないせいで小さく思考も浅い
しかし年を経て成長し 本体となる存在が大きくなれば それに比例して その精もまた力を増やせる
長い時間を経た古刀のように 森に君臨する大樹のように
そうなった妖精は精霊と呼ばれるようになりそこらの妖怪や人間と同じかそれ以上の存在となる
そして時には自らの本体やそこにあるものを守護する役目をもつ
近い存在だと思う
だとすれば彼女は何に属する存在なのか
おそらく いや 間違いなく 名と同じ字を持つ館の
……
妖精 精霊にも消えるときがある
1つは存在を保てなくなったとき
本体が壊される 力の供給がなくなってしまう
理由はさまざまあるとしても結果としてその体を保てなくなったとき彼女たちは消える
人間や妖怪の死と同じ感覚だろう
そしてもう1つは
そのものが持つ役目を終えたときだ
こちらは主として何かしらの使命や役割を与えられたものに当てはまることだが
その役目を終えたとを判断したとき 彼女たちは消える
死ぬわけではない だがそこから消え いなくなるのだ
昔は美鈴はメイド長だった
でも自分が来て 交代してその役目から離された
昔は美鈴はお嬢様の世話役だった
でもお嬢様は成長して 自立してその役目から離された
昔は美鈴はフラン様のお守役だった
でも魔理沙が来て 開放されてその役目から離された
昔は美鈴はただ一人の門番だった
でも妖精たちが強くなって 門番隊となってその役目から離れようとしている
私たちが1つずつ何かができるようになるごとに
美鈴は1つずつ何かをすることはなくなっていった
そうやって彼女はゆっくりと役目を離れ やがて誰からも必要とされなくなったとき 私たちの前からいなくなるのだろう
役目を終えたことを みんなが成長したことを喜びながら
きっとそれは加速することはできても 止めることはできないだろう
ズキリと胸が痛む
私はそれを受け入れるのか
吸血鬼の姉がそれを誇りとして見送るように
私はそれを拒むのか
吸血鬼の妹がそれを認めず離さないようにするように
「私は……」
『だとしたら仲間ってことになるのかな?』
先ほどの言葉がリフレインされる
ああそうか
ストンと何かが落ちた感覚がした
心がすっと落ち着いていく
何だ 何のことはない 答えなんてもうすでに出ていたんだ
私が何で美鈴を妖怪だと決め付けようとしていたか
傍にいてほしかったからだ たとえ何もなくなっても 役目を終えて いる意味がなくなったとしても
ずっと傍にいてほしかったんだ 私は
「ぷっあははははははは」
なんだかわからないけど笑いたくなった
もう悩むことなんてない 後は動くだけだ
窓の外 門番のほうを見ながら誰に聞かせるでもなく告げる
「2対1、逃がさないんだからね」
自分の覚悟を 誓いを
そして歩き出す もうお嬢様を起こす時間だ
「とりあえず、お仕事お仕事」
咲夜の眼にはフランと同じ決意が含まれていた
すごい先の展開が気になるんですけど。
ともあれ、会話文主体で進む感じでしたが
ほのぼのしたり、シリアスだったりで楽しめました。
続こうが続くまいが、次の作品を期待して待ってます。
楽しい誤字報告
>怜仙
鈴仙
>写命丸
射命丸
以上、かな。
本文中に若干、脱字かなと感じる所がありましたので
見直しをおすすめします。
やると変になりそうな気もするんでこれで終わりと思っていただけるときが楽ですww
>精霊は妖精より下
( Д ) ゜゜
>美鈴を1番大事に想ってるのはフランだよ
いいや俺だね!!
続きに期待