村人の証言一
「里では一度も見たことのない格好をしておりました。姿は遠目には人間に見えるのですが、その顔は恐ろしかったです」
村人の証言二
「俺達には理解のできない言語で話しかけてきました」
村人証言三
「こちらの言葉は通じている感じではありました。ですが、兎に角怖くて怖くて、逃げてしまいました」
「と言う訳なんだが、お前達に協力を願いたい」
慧音は博麗神社について早々に事の次第を話した。
「いきなり村人の証言とか言われても困るんだけど」
ついて早々話し始めた慧音の内容は冒頭をすっ飛ばして話しているので、霊夢には意味が分からない。
「ああ、すまん。急いでいたものだから」
「ま、いいけど。それで?何をどう協力すればいいの?」
面倒臭そうではあるが、里の守護者が態々協力を願い出るほどの事だと霊夢は内心自分を納得させる。
「ああ、事の起こりは三日前の事なのだが、どうやら新しい妖怪が幻想入りしたらしい」
「らしい?」
「私も一度見て来たのだが、どうも妖気を感じないんだ」
「なら妖怪じゃないんじゃないの?」
「いや、確かに形は人の形だがあの顔は絶対に人間ではない」
「ふ~ん」
慧音の顔は恐怖の所為か少し引きつっている。
「それで話をしようと話しかけたのだが、何を言っているのかさっぱり分からないんだ」
「妖怪なんだから、言語くらい何とかなるものじゃないの?」
「私も最初そう思ったさ。こちらの言葉を理解は出来ているみたいだ。だが、あいつらの言葉を理解が出来ない。こちらの言葉の様な言語を使ったかと思えば全く知らない言語を使ってみせる」
霊夢は溜息を一つ吐いて慧音を見る。
「とりあえず、私もその妖怪を見に行けばいいわけね?」
「ああ、すまないな。それから、やつらは桶や箱を欲しているみたいだな」
「何それ?」
ますます妖怪の謎は深まった霊夢だった。
里から一里ほど離れた場所に、大きな空き家がある。
三年ほど前までは年老いた猟師が住んでいたが、猟師が亡くなり今は無人となっている。
そこに妖怪たちは住みついていた。
「で、あれがその妖怪な訳ね」
霊夢は妖怪たちを少し離れた位置から眺めるが、微妙な顔をする。
「確かに妖気の欠片も感じないわね。でも、あんな泣く子も裸足での下出しそうな顔を人間と言えないわね」
「だろう。実際奴らは既に怪我人を出しているし、攻撃意思を宣言している」
「とりあえず、私が一度話してみるわ」
そう言って霊夢は妖怪たちの住む小屋へと単身向かった。
それから五分もしない内に霊夢は戻ってきた。
「分からない。何を言っているのかさっぱり分からない」
霊夢の顔は困惑しきっている。
「それで、何か霊夢の方で奴らの事で分かった事はあるか?」
慧音は霊夢の心中を察しながらも、里の守護者として有益な情報を得ようとする。
「そうね。一つ分かった事は、こちらの言語を多少使った言語みたいね。それから蔵を盗みたいとか言ってたわ」
「何!?」
「でも、あそこから動く気はなそうだし、大丈夫なんじゃない?」
霊夢は疲れた顔をしながら、妖怪達から聞きとれた話を慧音にする。
「説得は無理そうだったし、一体どうすれば」
「とりあえず、何の妖怪か分からないと話にならないわ。慧音が分からないんなら、分かりそうな奴らの所に行って聞くしかないでしょう」
「ああ、とりあえず紅魔館に行ってみるか。あそこの書物に手がかりがあるかも知れない」
紅魔館にはちょうど、知識の魔女が七色の魔女と白黒魔法使い達とお茶をしていた。
「面白そうだな。ちょっと会ってくるぜ!」
話を聞き終えると直に飛び立つ魔理沙。
「なるほど、そんな妖怪がいるのね」
パチュリーはさして興味なさそうに、返事をする。
「ここの書物にそういった類の物がないだろうか?」
「それだったら、この前妖怪図鑑とか言うのを見たけど」
アリスが席を立ち、件の本を持ってくる。
「これだけど」
「どれどれ」
慧音と霊夢が一ページ一ページ確認していく。
「これは」
慧音が一つのページで止まる。
「何々…ホッチョバアに……呼び方は色々ある見たいだが」
「嘘よ!私絶対に認めないわ!!」
霊夢が妖怪の正体が分かったとたん、大声をあげる。
「だが、姿の特徴は捉えてあるし、他に該当しそうな妖怪はいないぞ」
「他に何か特徴とかないの?」
慧音の言葉に絶望する霊夢を見かねたアリスが、他に該当する妖怪が居ないか探す。
「後は桶や箱を欲しがっていた。蔵に盗みに入るとも言っていたらしい」
「桶か。一応それに近い物を欲しがる妖怪は居るけど、幻想郷では、無縁な妖怪ね」
「柄杓をくれか。確かに、あれは海の妖怪だと聞くからな」
どうにも他に該当しそうな妖怪は見つからず、アリスは他の提案をする
「そうだ。永遠亭に聞きに行くのはどうかしら?月の頭脳とまで呼ばれたのがいるんだから、何か知っているかも知れないわ」
アリスの提案を受け、永遠亭に赴く一行。
「そんな妖怪知らないわ」
返ってきた返答は、他の者たちと変わらなかった。
「そう言うのは、私より八雲紫の方が詳しいんじゃない?」
「それはそうなんだろうけど、あそこまで行くのが面倒なのよ。それに、私はあいつらを認めた訳じゃない!」
霊夢は未だに否定し続ける
「でも、他に該当するのが居ないのなら、早めに退治した方がいいんじゃないのかしら?」
薬品を袋に手早く詰めて、霊夢達に告げる。
「怪我人が既に出ているんでしょう?死人が出てからでは遅いわよ」
永琳の言葉に皆の頭に嫌な考えがよぎる。
「いくら私でも死んだ者は治せないもの」
「そうだな。だが、出来る事なら共存の道を選びたい。もう少しだけ情報を集めてみることにしよう」
慧音の提案に一同は頷くと、永遠亭を後にした。
「永琳、さっき巫女たちが来ていたみたいだけど」
「輝夜。大した事ではないわ」
永琳は輝夜の暇つぶしになればと、霊夢達から聞いた話をする。
「ふーん。永琳って、私が百歳くらいの頃は殆ど街には出なかったのよね?」
「?ええ。特に出かける用事もなかったし」
「後で出かけるから」
「まさか、その妖怪の所に行く気?」
「妖怪?違うわ。人間の所に行くのよ」
「ああ、藤原の娘ね。ほどほどにしなさいよ」
「ふふふふふふ」
輝夜は意味深な微笑みを浮かべ、部屋へと戻って行った。
「兎に角、八雲紫は捕まえられなかった」
あの後、すぐに迷い家に向かったが、八雲紫は愚か、八雲藍さえ居なかった。
「幻想入りしたのは最近なのよね」
アリスがブツブツと独り言を漏らす。
「最近……最近と言えば、妖怪の山の神が幻想りしたわね。もしかして、それと関係あるんじゃ?」
霊夢達は顔を見合わせた。
「何か知ってるかも知れないわね」
妖怪の山の神社では宴会が行われていた。
「桶を欲しがったり蔵に盗みに入ったり、箱を欲しがる妖怪何て聞いた事無いよ」
八坂神奈子は、霊夢達の話を聞いてくれたが、心当たりはない様だった。
「ねぇ、それって本当に箱って言ってた?」
洩矢諏訪子が何かを考えながら、霊夢達に尋ねる
「ああ、間違いない。保障しよう。それが何か?」
「ううん。それならいいんだけど」
慧音の言葉に偽りがない事を諏訪子は察し、考えを打ち切った。
「そう言う事なら、早苗を連れっていいよ。」
「いいのか?そちらは今、宴会の最中のようだが」
慧音が宴会会場を見て、再度確認する。
「いいのよ。どうせ早苗はお酒飲めないんだし。それに最近幻想りしたんだろう?なら、私達に身に覚えがなくとも、無関係とは言いきれない」
神奈子と諏訪子は互いに目配りをして、頷き合った。
「早苗」
神奈子が呼ぶと直に来た。
「何ですか?神奈子様」
「ちょっと里で問題が起きたらしいから、手伝っておいで」
「問題……ですか。またどう言った?」
「あはっはははははははははっ」
宴会会場には早苗の笑い声が響き渡っていた。
「ちょっ、いきなり何笑ってんのよ!?」
早苗の突然の笑いだしに霊夢は怯える。
他の者たちも、思わず引いてしまうほどだった。
「いえ、すみません。くふっふふふ……だって、本当に可笑しくて、あははははは」
「それで、何か知っているのか?」
慧音は早苗の様子から何かを知っている事を悟り、問いただす。
「ええ、とりあえず、大きな害はないです。それにその“妖怪”が直接攻撃した事はないですよね?怪我をした人も“転んで怪我をした”で間違いないですよね?」
「ああ、だが逃げなければ攻撃をされたかも知れないのは間違いない」
「蹴るって言われたんでしたね」
「そうだ。だから慌てて逃げた拍子に転んで怪我をしたんだ」
慧音が真剣に話している間も、早苗は笑いを一生懸命に堪えていた。
「わかりました。その妖怪の正体私知ってると思いますよ。準備してから行きますから、皆さん先にその“妖怪”の住み家に行っててください」
「準備って何?」
霊夢が皆を代表して訪ねる・
「多分言葉で言っても信じないかも知れないので、信じてもらうための準備です」
大丈夫ですからと言われ、一同は先に妖怪の住み家へと向かった。
「本当に大丈夫なのだろうか?」
慧音が不安を隠しきれず、言葉を漏らす。
「大丈夫だって言ってんだから、大丈夫じゃないの?」
もう、霊夢は面倒だと態度で示す。
「だけど、あの妖怪の正体は私たちも知りたいわ。今のところ知っているのはあの巫女だけなのだから」
パチュリーの言葉にアリスは頷く。
「妖気を感じない妖怪何て聞いた事無いもの」
全員が家から少し離れた所で見守るなか、ふと皆思い出す。
「そう言えば、魔理沙の姿が見当たらわないわね」
何処を見ても居ない。
家の中にも魔理沙の気配は感じない。
「一度家に戻ったのかも知れないわ。あれ?」
アリスが空を見上げて、指をさす。
その先には件の妖怪が空を飛んでいる。
しかも二匹も。
「あいつら空を飛べたのか?」
慧音が慌てて姿を現そうとするのをアリスとパチュリーが抑え込む。
「馬鹿!今出ってたらばれちゃうでしょう!」
妖怪は家の戸を叩き、中に入って行く。
「数が増えてるわね」
霊夢の呟きにアリス達が目を合わせる。
「二匹増えてるわ」
「あいつら増殖できるみたいだな」
「本気で退治した方がいいかも知れないわね。増えるのなら話は別よ。早苗の到着を待つつもりだったけど、仕方ないわね」
霊夢が懐からお札を取り出し戦闘態勢を取る。
「そうだな。万が一が里の者に起ってからでは遅い」
慧音もスペルカードを取り、体制を整える。
中から先程空を飛んでいた妖怪が霊夢達の方へと歩いてくる。
急いでアリス達も体制を整えるが、すぐに構えを解く。
「攻撃はしないでね。いくら不死の身とは言え、痛い物は痛いのだから」
声に聞き覚えがあった。
「その声、輝夜殿か!?」
「私もいますよ」
「その声は早苗!?」
声の様子から間違いなく二人だと確信できる。
「どう言う事だ!?お前たちはその妖怪と同類だったのか!?」
慧音が訳が分からず叫ぶ。
その叫び声を聞いて家の中に居た妖怪達も出てくる。
「超MY感じー?」
「せっかくウケてたのに」
「マジホワイトキック」
「ってか、オケりたんだけど」
「イイ気分でガン寝してたのに~!AYモードでMM5なんだけど」
妖怪達は、霊夢達に近づいてくる。
「チョー聞いてんの?さっきからオーマーばっか来るし」
一人が霊夢の胸倉を掴もうとした瞬間、早苗と思しき妖怪が割って入る。
「シャシャらないでくれる?アタシが今、ナシつけてるから。あんたらとはもう超MDだし、拗れて超DH買ったらどうすんの?ブーヤ戻ってプリクラ取りたんでしょう?」
「チョヅいてると、バラされるわよ」
輝夜の声音が恐ろしいほど低く響く。
「とりあえず、霊夢さん。博麗神社に向かいましょう。確かあちらから帰れるんですよね?外の世界に」
「え?ええ」
困惑したまま、一同は博麗神社に向い、妖怪達を外の世界へと送り返した。
「それで、さっきのやつらは?」
霊夢達は頭を抱えて、早苗達に尋ねる。
「ちょっとその前にいいかしら?」
輝夜が手拭いに液体を駆けそれで顔を拭くと、何時もの日本人形のような整った顔立ちが露になる。
早苗も同様に手拭いで顔を拭く。
「それよそれ!一体何なの!?」
早苗と輝夜は顔を見合わせ声を揃えて
「「ガンメイク」」
「「「「は?」」」」
「「別名、ヤマンバメイク」」
一同はますます困惑する。
「先ほどの人たちは妖怪ではなく正真正銘人間です。恐らくこちらに着てしまったのは、ヤマンバが絶滅に瀕している所為でしょう」
「月では何千年も前に絶滅したけれど」
「質問してもいいでしょうか?」
アリスが丁寧な口調で話し掛ける。
「何かしら?」
「そのメイクの意味は?」
「意味なんてないわよ。強いて言うなら流行っていたのと、それがおしゃれだと考えられたと言うだけの話」
「私の時は殆ど流行っていませんでしたけど、ギャル語は未だに健在で安心しました」
「分かるわ、あの言葉を聞くと何処か落ち着くのよね」
「ですよね。こちらでは全然聞きませんもん」
「ギャル語?日本語とは違うのか?」
慧音が頭を一生懸命に整理する。
「日本語ですよ。ただ、それに英語とか混ぜてたりして色んな意味の言葉にしただけです。方言みたいなものが、全国区に広がってるみたいなものと考えてもらったらいいです」
「つまり、我々が騒いだのは無駄だったと言う事か?」
「簡単に言えば。霊夢さんだけで十分解決したかと」
全員が肩を落とした。
「なるほど、外の世界は興味深いわね」
一人の知識の魔女を除いては。
後日
「輝夜、そろそろ出かけま……」
「もっと驚いてくれるかと思ったのに、残念」
永琳の反応に輝夜は心底残念そうな顔をして、顔を洗いに行く。
「それが例の言ってた、妖怪のメイク?」
「ええ、でも絶対に驚いてくれると思って期待したのに」
「残念ね。長く生きていると、大抵の事では驚かないのよ」
「今度はもっといい事を思いつくわ」
「そうして頂戴」
永遠亭では微笑ましい一日が始まった。
(本当は心臓が一瞬止まったけれどね)
「どうしてこの前正直に言わなかったんだよ、神奈子」
「そう言う諏訪子だって」
山の上の神社では二人の神が言い争いをしていた。
「だって、言える訳ないじゃない!早苗が番ギャルやってたなんて!!」
「私だってそうよ!!早苗が学校中のギャルをシメてあげく退学になったなんて。その所為で、幻想郷に来たなんて知られたら、私達に命が危ないんだから!!!」
神社内に響く二人の声。
「神奈子様、諏訪子様」
襖が静かに開く。
「言ったよな?チョづくなって。この前の宴会の事でナシあるから逃げんなよ?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
二人の神の絶叫が幻想郷中に響き渡ったそうな。
「里では一度も見たことのない格好をしておりました。姿は遠目には人間に見えるのですが、その顔は恐ろしかったです」
村人の証言二
「俺達には理解のできない言語で話しかけてきました」
村人証言三
「こちらの言葉は通じている感じではありました。ですが、兎に角怖くて怖くて、逃げてしまいました」
「と言う訳なんだが、お前達に協力を願いたい」
慧音は博麗神社について早々に事の次第を話した。
「いきなり村人の証言とか言われても困るんだけど」
ついて早々話し始めた慧音の内容は冒頭をすっ飛ばして話しているので、霊夢には意味が分からない。
「ああ、すまん。急いでいたものだから」
「ま、いいけど。それで?何をどう協力すればいいの?」
面倒臭そうではあるが、里の守護者が態々協力を願い出るほどの事だと霊夢は内心自分を納得させる。
「ああ、事の起こりは三日前の事なのだが、どうやら新しい妖怪が幻想入りしたらしい」
「らしい?」
「私も一度見て来たのだが、どうも妖気を感じないんだ」
「なら妖怪じゃないんじゃないの?」
「いや、確かに形は人の形だがあの顔は絶対に人間ではない」
「ふ~ん」
慧音の顔は恐怖の所為か少し引きつっている。
「それで話をしようと話しかけたのだが、何を言っているのかさっぱり分からないんだ」
「妖怪なんだから、言語くらい何とかなるものじゃないの?」
「私も最初そう思ったさ。こちらの言葉を理解は出来ているみたいだ。だが、あいつらの言葉を理解が出来ない。こちらの言葉の様な言語を使ったかと思えば全く知らない言語を使ってみせる」
霊夢は溜息を一つ吐いて慧音を見る。
「とりあえず、私もその妖怪を見に行けばいいわけね?」
「ああ、すまないな。それから、やつらは桶や箱を欲しているみたいだな」
「何それ?」
ますます妖怪の謎は深まった霊夢だった。
里から一里ほど離れた場所に、大きな空き家がある。
三年ほど前までは年老いた猟師が住んでいたが、猟師が亡くなり今は無人となっている。
そこに妖怪たちは住みついていた。
「で、あれがその妖怪な訳ね」
霊夢は妖怪たちを少し離れた位置から眺めるが、微妙な顔をする。
「確かに妖気の欠片も感じないわね。でも、あんな泣く子も裸足での下出しそうな顔を人間と言えないわね」
「だろう。実際奴らは既に怪我人を出しているし、攻撃意思を宣言している」
「とりあえず、私が一度話してみるわ」
そう言って霊夢は妖怪たちの住む小屋へと単身向かった。
それから五分もしない内に霊夢は戻ってきた。
「分からない。何を言っているのかさっぱり分からない」
霊夢の顔は困惑しきっている。
「それで、何か霊夢の方で奴らの事で分かった事はあるか?」
慧音は霊夢の心中を察しながらも、里の守護者として有益な情報を得ようとする。
「そうね。一つ分かった事は、こちらの言語を多少使った言語みたいね。それから蔵を盗みたいとか言ってたわ」
「何!?」
「でも、あそこから動く気はなそうだし、大丈夫なんじゃない?」
霊夢は疲れた顔をしながら、妖怪達から聞きとれた話を慧音にする。
「説得は無理そうだったし、一体どうすれば」
「とりあえず、何の妖怪か分からないと話にならないわ。慧音が分からないんなら、分かりそうな奴らの所に行って聞くしかないでしょう」
「ああ、とりあえず紅魔館に行ってみるか。あそこの書物に手がかりがあるかも知れない」
紅魔館にはちょうど、知識の魔女が七色の魔女と白黒魔法使い達とお茶をしていた。
「面白そうだな。ちょっと会ってくるぜ!」
話を聞き終えると直に飛び立つ魔理沙。
「なるほど、そんな妖怪がいるのね」
パチュリーはさして興味なさそうに、返事をする。
「ここの書物にそういった類の物がないだろうか?」
「それだったら、この前妖怪図鑑とか言うのを見たけど」
アリスが席を立ち、件の本を持ってくる。
「これだけど」
「どれどれ」
慧音と霊夢が一ページ一ページ確認していく。
「これは」
慧音が一つのページで止まる。
「何々…ホッチョバアに……呼び方は色々ある見たいだが」
「嘘よ!私絶対に認めないわ!!」
霊夢が妖怪の正体が分かったとたん、大声をあげる。
「だが、姿の特徴は捉えてあるし、他に該当しそうな妖怪はいないぞ」
「他に何か特徴とかないの?」
慧音の言葉に絶望する霊夢を見かねたアリスが、他に該当する妖怪が居ないか探す。
「後は桶や箱を欲しがっていた。蔵に盗みに入るとも言っていたらしい」
「桶か。一応それに近い物を欲しがる妖怪は居るけど、幻想郷では、無縁な妖怪ね」
「柄杓をくれか。確かに、あれは海の妖怪だと聞くからな」
どうにも他に該当しそうな妖怪は見つからず、アリスは他の提案をする
「そうだ。永遠亭に聞きに行くのはどうかしら?月の頭脳とまで呼ばれたのがいるんだから、何か知っているかも知れないわ」
アリスの提案を受け、永遠亭に赴く一行。
「そんな妖怪知らないわ」
返ってきた返答は、他の者たちと変わらなかった。
「そう言うのは、私より八雲紫の方が詳しいんじゃない?」
「それはそうなんだろうけど、あそこまで行くのが面倒なのよ。それに、私はあいつらを認めた訳じゃない!」
霊夢は未だに否定し続ける
「でも、他に該当するのが居ないのなら、早めに退治した方がいいんじゃないのかしら?」
薬品を袋に手早く詰めて、霊夢達に告げる。
「怪我人が既に出ているんでしょう?死人が出てからでは遅いわよ」
永琳の言葉に皆の頭に嫌な考えがよぎる。
「いくら私でも死んだ者は治せないもの」
「そうだな。だが、出来る事なら共存の道を選びたい。もう少しだけ情報を集めてみることにしよう」
慧音の提案に一同は頷くと、永遠亭を後にした。
「永琳、さっき巫女たちが来ていたみたいだけど」
「輝夜。大した事ではないわ」
永琳は輝夜の暇つぶしになればと、霊夢達から聞いた話をする。
「ふーん。永琳って、私が百歳くらいの頃は殆ど街には出なかったのよね?」
「?ええ。特に出かける用事もなかったし」
「後で出かけるから」
「まさか、その妖怪の所に行く気?」
「妖怪?違うわ。人間の所に行くのよ」
「ああ、藤原の娘ね。ほどほどにしなさいよ」
「ふふふふふふ」
輝夜は意味深な微笑みを浮かべ、部屋へと戻って行った。
「兎に角、八雲紫は捕まえられなかった」
あの後、すぐに迷い家に向かったが、八雲紫は愚か、八雲藍さえ居なかった。
「幻想入りしたのは最近なのよね」
アリスがブツブツと独り言を漏らす。
「最近……最近と言えば、妖怪の山の神が幻想りしたわね。もしかして、それと関係あるんじゃ?」
霊夢達は顔を見合わせた。
「何か知ってるかも知れないわね」
妖怪の山の神社では宴会が行われていた。
「桶を欲しがったり蔵に盗みに入ったり、箱を欲しがる妖怪何て聞いた事無いよ」
八坂神奈子は、霊夢達の話を聞いてくれたが、心当たりはない様だった。
「ねぇ、それって本当に箱って言ってた?」
洩矢諏訪子が何かを考えながら、霊夢達に尋ねる
「ああ、間違いない。保障しよう。それが何か?」
「ううん。それならいいんだけど」
慧音の言葉に偽りがない事を諏訪子は察し、考えを打ち切った。
「そう言う事なら、早苗を連れっていいよ。」
「いいのか?そちらは今、宴会の最中のようだが」
慧音が宴会会場を見て、再度確認する。
「いいのよ。どうせ早苗はお酒飲めないんだし。それに最近幻想りしたんだろう?なら、私達に身に覚えがなくとも、無関係とは言いきれない」
神奈子と諏訪子は互いに目配りをして、頷き合った。
「早苗」
神奈子が呼ぶと直に来た。
「何ですか?神奈子様」
「ちょっと里で問題が起きたらしいから、手伝っておいで」
「問題……ですか。またどう言った?」
「あはっはははははははははっ」
宴会会場には早苗の笑い声が響き渡っていた。
「ちょっ、いきなり何笑ってんのよ!?」
早苗の突然の笑いだしに霊夢は怯える。
他の者たちも、思わず引いてしまうほどだった。
「いえ、すみません。くふっふふふ……だって、本当に可笑しくて、あははははは」
「それで、何か知っているのか?」
慧音は早苗の様子から何かを知っている事を悟り、問いただす。
「ええ、とりあえず、大きな害はないです。それにその“妖怪”が直接攻撃した事はないですよね?怪我をした人も“転んで怪我をした”で間違いないですよね?」
「ああ、だが逃げなければ攻撃をされたかも知れないのは間違いない」
「蹴るって言われたんでしたね」
「そうだ。だから慌てて逃げた拍子に転んで怪我をしたんだ」
慧音が真剣に話している間も、早苗は笑いを一生懸命に堪えていた。
「わかりました。その妖怪の正体私知ってると思いますよ。準備してから行きますから、皆さん先にその“妖怪”の住み家に行っててください」
「準備って何?」
霊夢が皆を代表して訪ねる・
「多分言葉で言っても信じないかも知れないので、信じてもらうための準備です」
大丈夫ですからと言われ、一同は先に妖怪の住み家へと向かった。
「本当に大丈夫なのだろうか?」
慧音が不安を隠しきれず、言葉を漏らす。
「大丈夫だって言ってんだから、大丈夫じゃないの?」
もう、霊夢は面倒だと態度で示す。
「だけど、あの妖怪の正体は私たちも知りたいわ。今のところ知っているのはあの巫女だけなのだから」
パチュリーの言葉にアリスは頷く。
「妖気を感じない妖怪何て聞いた事無いもの」
全員が家から少し離れた所で見守るなか、ふと皆思い出す。
「そう言えば、魔理沙の姿が見当たらわないわね」
何処を見ても居ない。
家の中にも魔理沙の気配は感じない。
「一度家に戻ったのかも知れないわ。あれ?」
アリスが空を見上げて、指をさす。
その先には件の妖怪が空を飛んでいる。
しかも二匹も。
「あいつら空を飛べたのか?」
慧音が慌てて姿を現そうとするのをアリスとパチュリーが抑え込む。
「馬鹿!今出ってたらばれちゃうでしょう!」
妖怪は家の戸を叩き、中に入って行く。
「数が増えてるわね」
霊夢の呟きにアリス達が目を合わせる。
「二匹増えてるわ」
「あいつら増殖できるみたいだな」
「本気で退治した方がいいかも知れないわね。増えるのなら話は別よ。早苗の到着を待つつもりだったけど、仕方ないわね」
霊夢が懐からお札を取り出し戦闘態勢を取る。
「そうだな。万が一が里の者に起ってからでは遅い」
慧音もスペルカードを取り、体制を整える。
中から先程空を飛んでいた妖怪が霊夢達の方へと歩いてくる。
急いでアリス達も体制を整えるが、すぐに構えを解く。
「攻撃はしないでね。いくら不死の身とは言え、痛い物は痛いのだから」
声に聞き覚えがあった。
「その声、輝夜殿か!?」
「私もいますよ」
「その声は早苗!?」
声の様子から間違いなく二人だと確信できる。
「どう言う事だ!?お前たちはその妖怪と同類だったのか!?」
慧音が訳が分からず叫ぶ。
その叫び声を聞いて家の中に居た妖怪達も出てくる。
「超MY感じー?」
「せっかくウケてたのに」
「マジホワイトキック」
「ってか、オケりたんだけど」
「イイ気分でガン寝してたのに~!AYモードでMM5なんだけど」
妖怪達は、霊夢達に近づいてくる。
「チョー聞いてんの?さっきからオーマーばっか来るし」
一人が霊夢の胸倉を掴もうとした瞬間、早苗と思しき妖怪が割って入る。
「シャシャらないでくれる?アタシが今、ナシつけてるから。あんたらとはもう超MDだし、拗れて超DH買ったらどうすんの?ブーヤ戻ってプリクラ取りたんでしょう?」
「チョヅいてると、バラされるわよ」
輝夜の声音が恐ろしいほど低く響く。
「とりあえず、霊夢さん。博麗神社に向かいましょう。確かあちらから帰れるんですよね?外の世界に」
「え?ええ」
困惑したまま、一同は博麗神社に向い、妖怪達を外の世界へと送り返した。
「それで、さっきのやつらは?」
霊夢達は頭を抱えて、早苗達に尋ねる。
「ちょっとその前にいいかしら?」
輝夜が手拭いに液体を駆けそれで顔を拭くと、何時もの日本人形のような整った顔立ちが露になる。
早苗も同様に手拭いで顔を拭く。
「それよそれ!一体何なの!?」
早苗と輝夜は顔を見合わせ声を揃えて
「「ガンメイク」」
「「「「は?」」」」
「「別名、ヤマンバメイク」」
一同はますます困惑する。
「先ほどの人たちは妖怪ではなく正真正銘人間です。恐らくこちらに着てしまったのは、ヤマンバが絶滅に瀕している所為でしょう」
「月では何千年も前に絶滅したけれど」
「質問してもいいでしょうか?」
アリスが丁寧な口調で話し掛ける。
「何かしら?」
「そのメイクの意味は?」
「意味なんてないわよ。強いて言うなら流行っていたのと、それがおしゃれだと考えられたと言うだけの話」
「私の時は殆ど流行っていませんでしたけど、ギャル語は未だに健在で安心しました」
「分かるわ、あの言葉を聞くと何処か落ち着くのよね」
「ですよね。こちらでは全然聞きませんもん」
「ギャル語?日本語とは違うのか?」
慧音が頭を一生懸命に整理する。
「日本語ですよ。ただ、それに英語とか混ぜてたりして色んな意味の言葉にしただけです。方言みたいなものが、全国区に広がってるみたいなものと考えてもらったらいいです」
「つまり、我々が騒いだのは無駄だったと言う事か?」
「簡単に言えば。霊夢さんだけで十分解決したかと」
全員が肩を落とした。
「なるほど、外の世界は興味深いわね」
一人の知識の魔女を除いては。
後日
「輝夜、そろそろ出かけま……」
「もっと驚いてくれるかと思ったのに、残念」
永琳の反応に輝夜は心底残念そうな顔をして、顔を洗いに行く。
「それが例の言ってた、妖怪のメイク?」
「ええ、でも絶対に驚いてくれると思って期待したのに」
「残念ね。長く生きていると、大抵の事では驚かないのよ」
「今度はもっといい事を思いつくわ」
「そうして頂戴」
永遠亭では微笑ましい一日が始まった。
(本当は心臓が一瞬止まったけれどね)
「どうしてこの前正直に言わなかったんだよ、神奈子」
「そう言う諏訪子だって」
山の上の神社では二人の神が言い争いをしていた。
「だって、言える訳ないじゃない!早苗が番ギャルやってたなんて!!」
「私だってそうよ!!早苗が学校中のギャルをシメてあげく退学になったなんて。その所為で、幻想郷に来たなんて知られたら、私達に命が危ないんだから!!!」
神社内に響く二人の声。
「神奈子様、諏訪子様」
襖が静かに開く。
「言ったよな?チョづくなって。この前の宴会の事でナシあるから逃げんなよ?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
二人の神の絶叫が幻想郷中に響き渡ったそうな。
つか月にヤマンバ居たのかwwww
懐かしいなwww