Coolier - 新生・東方創想話

Garden Speller 美鈴 固形物大作戦

2009/07/02 00:47:44
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 紅美鈴は悩んでいた。
 どうして自分の弾幕はこうも易々と避けられてしまうのか?
 スペルカードルールになって以来、美鈴の能力は宝の持ち腐れになりつつある。
 鍛えられた下半身、圧倒的な運動神経
 そのどれもがこのルールの前ではあまり役にたっていない。
 肉弾戦ができるという異変の時に出張れば良かったと今更ながら後悔しているが
そのときはシエスタの途中だったことを思い出した。

 初夏を彩る湿気が織りなすすこし重い空気が支配する紅魔館。
 朝露の臭いが当たりを支配するいつもの朝がやってくる。
 この日、美鈴はメイド長に酷く叱られてしまった。
 泥棒魔法使いの侵入を許した上、本だけでは飽きたらず調度品を盗まれたという苦情が舞い込んだからだ。

 陰鬱な気分になりながらも美鈴は自分のもつカードを裏返してまじまじと見てみた。
 スペルカードの裏面には、自分が放つ弾幕の挙動の一部始終が書かれている。
 無数の言霊と計算式と呼ばれる記号
 この計算式によって導き出される弾幕はフラクタル図形となって観るものを魅了する。
 本来カードを使わなくても弾幕を放つことはできるが、カードを使うことは彼女にとって縛りであった。

 紅魔館を襲う魔法使いは、八卦炉に触媒を投入して弾幕を生成しているらしい。
 自分の身体能力はそんな魔法使いよりもはるかに上なのに、このルールの前では自分は弱い妖怪のままである。
 しかしながらカードルールを遵守することは、お嬢様との契約によりきつく申し付けられている。
 なら、自分は一体なにができるのか? 体を鍛えれば解決するのなら簡単である。

「カードに手を加えよう」

 延々考えて出てきた答えがこれだった。 

 本来スペルカードは高度に編み上げられたシステムの集合体である。これを無計画に改変したら
 最悪の場合カードから生じた弾幕が自分に襲い掛かる可能性があった。
 人間たちがよほど自信のある者、または命知らず以外カードを扱わないのはそのためである。

 美鈴は、紅魔館でノーレッジ女史が見せてくれた技法を試すことにした。
 この技法を使えば、カードの中身を編集することができるようになる。
 美鈴が拍子抜けするほどその技法は簡単だった。 
 いともあっさり弾幕を構成する言霊が空間に表示されていた。
 言霊に手を触れると一文字一文字がぱっと花開くように破裂して違う意味になった。
 どういう仕組みでそうなっているのかはわからないが、とりあえず作業をすることができそうだと分かった。

 しばらく弾幕を弄っているといつの間にか太陽は真上を向いていた。

 いけない。 

 美鈴はここで自分のミスに気がついた。
 紅魔館の庭の植物に水をあげるタイミングを誤ったのだ。 
 気温が上がりきらないタイミングで水を撒かないと、暑さで茹だり植物が萎びてしまう。

 植物が萎びないようにするには 
 思案した美鈴の目に初夏の空気にあてられ動きが鈍くなった氷妖精が映っていた。

 そこからの美鈴の行動は早かった。
 美鈴は氷妖精の背後を取るとむんずと襟を掴んでそのまま紅魔館へと連れ去った。
 氷妖精は何が起ったのか分からず、ギャーギャー騒ぐばかり、
 しかし緊急事態である。 もしも植物が萎びてしまったら大目玉では済まない。
 そしてその大目玉は周辺の湖、即ち氷妖精の住処まで影響してしまう。

 美鈴は氷妖精に非礼を詫びて、事情を説明した。 
 周辺の気温を数度下げれば十分だった。 その間に水をあげれば間に合う。
 しかし、今日の氷妖精は様子が違った。 いつもの元気が見られない。
 初夏とはいえ外はかなりの暑さ。 夏の照りつける暑さならさっさと逃げ場所に隠れればいいのだが
 この時期はその見極めが難しい。 彼女が弱っているのも仕方が無いことだった。
 それでも彼女は精一杯の力で冷気を飛ばしてくれた。 だが長くは保たないことは明白だった。

 その間になんとか植物に水をあげなければ。
 カード構成が開いたままのグラフに目がいった。

 弾幕を使って植物に水をやろう。

 美鈴は闘いの時の集中力そのままにスペルカード構成の調整を行うと
 大仰なポーズを取りカードを実行させた。 
 狙うは 紅魔館前の湖。

 大量の弾幕の集中砲火は湖の水を打ち上げ、紅魔館に降り注いだ。 
 大量の打ち水は周辺の気温を下げるのには十分だった。
 ずぶ濡れになったが、なんとか水をあげることに成功した。

 美鈴の行為に感謝したのは氷妖精だった。
 周辺温度が下がったので彼女の体も大分楽になったようだった。
 美鈴は気づいた。 
 そうかスペルカードは直接相手をなぎ倒すだけだけではないのだと。

 美鈴はスペルカード作成に没頭した。
 芝生に空気の穴を付けるためのカード
 弾幕の代わりに小さな肥料を均等に撒くスペルカード
 植物を避けながら綺麗に舞い降りるように、図書館にある魂魄家の弾幕挙動も参考にしながら
 やさしく植物を扱えるように配慮した弾幕が完成した。

 本来の目的は外れていったが美鈴は満足だった。
 雑草を刈り込むカードのお陰で、ほかの植物の根を切ることなく草取りができるようになり
作業効率もどんどん上がっていった。


 だが、そんな彼女の喜びはやっぱりあの魔法使いの出現で崩されようとしていたのである。


 「今日も本を借りに来たぜ」
 いつもの魔法使いだった。 
 美鈴は彼女の前に立ちはだかった。 とにかく追い返さないといけない。
 勝負は不利なのは分かっているがここで引き下がったら、お嬢様に首にされるかもしれないからだ。


 焦る美鈴は、スペルカードを早々と実行した。
 しかし弾幕は魔法使いの横を通り過ぎて湖へ向かってしまった。

 「しまった」

 美鈴は自分のミスに気がついた。 既存のカードを改造してしまったため肝心の戦闘用カードが
 無くなっていたのである。
 次いで、たたきつけるような雨が紅魔館に降り注いだ。 力を入れすぎたのだろう。
 魔法使いは呆然とした表情をしていたが、すぐに気を取り直して手持ちの八卦炉に触媒をたたき込む。
 八卦炉が発動すれば、カードを使った直後に隙だらけになった美鈴を守る物は何もない。

 「これで決めてやるぜ」

 魔法使いが八卦炉を掲げ、力有る言葉を唱えた が
 何も起らない。

 「不発!? 」

 八卦炉はあくまで炉、急に水に濡れれば一時的にしても機能不全に陥るのは当然のことだった。
 美鈴はこの隙に下半身のバネを全力で用いて距離を置く。
 魔法使いは視界から消えた美鈴に一瞬戸惑った。時間稼ぎには十分。

 しかし美鈴の不利は変わらない。
 カードは改造されて戦う為のカードは何も残っていなかった。
 だが、美鈴は何となく勝てるのではないかという自信が蘇るのを感じていた。
 
 機能を回復した八卦炉をに再び触媒を入れようとする魔法使い。
 触媒の形状から、スターダストレヴァリエが飛び出すことを察知した美鈴は再びカードを実行した。
 目標は魔法使いではない、触媒を入れる"あの"場所である。 

 美鈴は幾つかの囮の弾幕を放ち、相手の動きを限定させる。
視界の外から放たれた弾幕は相手の動きを少しの間止めるのに成功した。
 が、魔法使いがこのカードを実行したら自分は避けきることはできない。
 時間との勝負。

 そして美鈴の弾幕、魔法使いにはすんでのところで避けたように見えた。
 勝利を確信したであろう魔法使いが触媒を投入
 
 発動

 だが、八卦炉はうんともすんとも言わなかった。

 「なんで?」

 魔法使いは呆然とした。
 どうやら八卦炉が故障したらしい。 
 香霖のメンテが不十分だったのだろうか。
 一生懸命発動を試みると、中から何とも言えない悪臭が立ちこめてきた。
 これには魔法使いも退散するしかなかった。
 この先、図書館を守る魔法使いが控えている。 
 二度も発動しない八卦炉では仮に門番を倒しても、勝てる見込みが薄かったからだ。

 美鈴が放った物それは肥料だった。
 元から植物を守る為にピンポイントで当てるよう設計されている。
 彼女が入れる触媒を邪魔するように八卦炉の中にたたき込んだのだ。
 そして肥料の材料は、もちろんあの香しい固形物である。

 「勝った」

 美鈴はすごすごと退散する魔法使いを見て、一気に体に力が抜けるのを感じた。
 課程はどうあれ、美鈴は自分の仕事を全うしたのだ。
 美鈴は自分の奥底からわき出る衝動を抑えきれなくなって小躍りしてしまった。
 その姿を高いところから見守る氷妖精を見つけて、美鈴はガッツポーズを見せた。

 不意に氷妖精が墜落した。

 「ええっ?」

 湿気過多のこの陽気。 沢山の雨、そして魔法使いを追い返すためとはいえ大量に撒かれた肥料。
 当たりはものすごい臭気で満たされていた。
 美鈴は肥料を扱っている故に気づかなかったのである。



 結局、臭いを感じて駆けつけたメイド長に大目玉を食らった。
 臭いの除去はノーレッジ女史の魔法でどうにかすることになった。
 項垂れる美鈴にメイド長はそっと声を掛けた。

 「でも、よくやったわ」

 美鈴は自分が救われていくのを感じた。


後日、香霖が八卦炉に香しい固形物を入れたという噂が幻想郷中に広がったのだがそれはそれである。
はじめまして、普段は幻想郷ではたらくひとたちという小話を書いているいぬいぬと申します。
よろしくお願いいたします。
プロットが一部かぶった悟さんと黄金のかすていらをもとい共謀して書いてみました。
ちょっとした笑いと実用性を感じていただければ幸いです。
いぬいぬ
http://d.hatena.ne.jp/InuInu_for_SS/
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コメント



0.900簡易評価
3.30名前が無い程度の能力削除
地の文で1から10まで説明しているので話に抑揚が無く、ダラダラとしたものに感じました。
11.70名前が無い程度の能力削除
美鈴はあれだな。
農民になった方がいいな。
22.90名前が無い程度の能力削除
肥料って日々使ってる側からは中々臭いに気が回りませんよねえ
それはともかくミニ八卦炉が不憫不憫