満月の夜と言うのは心が躍る。何年経っても何百年経っても、私が吸血鬼である限りそれは変わらないのだろう。無論生きている間は、だが。
それにしても何故吸血鬼は満月になるとハイになるのだろうか。現に、こんなにも輝いている月を尻目に、館の中で燻っているのは勿体ないと思えたので、今こうして目的もなく外に出ている。
まあしょうがないか。月には魔力がある、強大な者ほどその魔力にあてらてしまうのだろう、きっと。難しい事はよくわからないが、そう考えると何だか楽しくなってくるからそういう事にしておこう。それに、こんな下らない事を考えてしまうなんて、やっぱり月にあてられてるんじゃないだろうか?
まあとにかく、今日は良い月だ。本当に。
人生で三十分の一しか味わうことの出来ない貴重な日。せっかくなのでのんびりと月光浴をすることにした……のだが、5分も経たないうちに、私の気持ちを無視するかのごとく、体が動きたくて動きたくてたまらないと言っている。過充電気味な私の体、どう落ち着かせてやろうか。
とりあえず思いっきり踊ってやろう。なぜかはわからないが、今は踊るのが一番いい気がしてきた。それに最近、踊る機会がなくなってきてるし。幻想郷に来る前は貴族たるもの云々で嫌でも踊らなければならなかったが、環境が変われば生活も変わるものなのだなぁ。
そんなことはどうでもいいか。今は、この体の火照りをとめなければ。
……疲れた。踊るのってこんなに疲れたっけ。最近たいして運動してなかったからなぁ、たまには自分で身の回りのことをしなくては。
……しかし、まだ足りない。体は満たされたようで、さっきまで動きたくて動きたくてたまらなかったのが嘘みたいに静まりかえっているが、心がいまだ乾いている。
なぜだろうか。幻想郷に来るまでは、心が乾いていると感じることなどなかったのに。
……いや、もしかするとずっと乾きっぱなしだったからかも知れない。
外にいた時は、両親がいなくなったときもそんなに悲しくならなかった。むしろやっとうるさいのがいなくなったと喜んだほどだ。
今思うとあの時の自分にぞっとしてしまう。なぜだろう、あのワタシはこの私と同じはずなのに。
環境というのはすごい。生活はおろか個まで変えてしまうのだから。ワタシの時はわざわざ館を抜け出して踊るなんてことはなかった。それに、こんなにさびしい気持ちになることも。
―――なぜさびしくなっているのだろう。やはり一人だからだろうか。ではなぜ一人だとさびしくなるのか。わからない……と思いたいところだが、残念なことにもう答えはでている。
甘えたいのだ。誰かに。
両親がいなくなった時、自動的に自分が紅魔館の頭首になった。あの時は、やっと自分が長になったと飛んで喜んだ。よく考えなくても無理をしていたんだと思う。両親がいなくなり、館を一人で支えなければならなかったのだ、多少無理をしなければ館が潰れてしまう。自分がしっかりしなければ、しっかり、しっかり……。そんなことばかり考えていた。
しかし、幻想郷にきてからはそうする必要がなくなった。外では吸血鬼というだけで恐れられ、蔑まれ、殺されようとしていた。だから常に気を張らなければならず、心身ともに疲れ果てていた。それが、ここではどうだ。吸血鬼よ、と言ったら、ああそうかいで終わり。
私の周りがおかしいだけかもしれないが、とにかくその一言が妙に嬉しかった。もう気を張る必要はないんだと、その時実感した。
実感したら、今まで必要なかった感情がわいてきた。巫女やら魔法使いやらによくくっつくようになった。でも、一番甘えたり、なでてもらったりしたのはこの二人ではない。つらい時も、うれしい時も、巫女にいじめられた時も、常にそばにいてくれた。必要になった感情を、全てみたしてくれた。多分、もうすぐ―――
「……お嬢様、やっぱりここにいらしたんですね」
ほら、やっぱり。いつも通り音もなくいきなり隣に現れた。最初の頃はいちいち心臓が止まるかと思うほどびっくりしていたが、今ではどうということはない。慣れというのは怖い。
「……相変わらずね」
本当に、相変わらずいいタイミングで現れる。しかし、外にいた間、監視されているという感じは全くしなかった。
そんなに私は行動パターンが読みやすいのだろうか。少しくやしい。
「完全で瀟洒ですから」
ふてくされ始めた私を見て、にやけながらそう答えられる。考えてることまでおみとおしのようだ。凄くくやしい。
「そういうのは自分で言うもんじゃないわ」
一矢報いようと考えるのだが、顔を赤くしながらだと、皮肉は皮肉にならないだろう。
「お嬢様公認なので」
ぐう。これ以上会話を続けるのは色々とまずい。……そうだ。
「……そんなことより、ちょっといいかしら」
ぐだぐだと会話を続けるよりも、二人ならもっといいことが出来るではないか。
「はい、なんなりと」
体力も回復してきたことだし、なにより―――
「……私といっしょに、踊りましょう?」
こんなにいい月の下、こんなに大切な人と踊るなんて、これより贅沢なことはないじゃない?
運命を操ることは難しい。私は意識して能力を使えたわけじゃなかった。自分の知らないところで、自分のわからないことが変わることもある。この能力のせいで、運命に踊らされていた時期があった。
でも今は違う。意識しなくても知ることができる。わかることができる。ようは無意識の持ち方だったのだ。運命を踊らせるのではなく、運命と一緒に踊ればよかったのだ。それに気づかせてくれたのは、幻想郷の者たち、紅魔館のみんな。そして、私の大切な従者。世話になっていくだろう。
ずっと、ずっと。これからも。
それにしても何故吸血鬼は満月になるとハイになるのだろうか。現に、こんなにも輝いている月を尻目に、館の中で燻っているのは勿体ないと思えたので、今こうして目的もなく外に出ている。
まあしょうがないか。月には魔力がある、強大な者ほどその魔力にあてらてしまうのだろう、きっと。難しい事はよくわからないが、そう考えると何だか楽しくなってくるからそういう事にしておこう。それに、こんな下らない事を考えてしまうなんて、やっぱり月にあてられてるんじゃないだろうか?
まあとにかく、今日は良い月だ。本当に。
人生で三十分の一しか味わうことの出来ない貴重な日。せっかくなのでのんびりと月光浴をすることにした……のだが、5分も経たないうちに、私の気持ちを無視するかのごとく、体が動きたくて動きたくてたまらないと言っている。過充電気味な私の体、どう落ち着かせてやろうか。
とりあえず思いっきり踊ってやろう。なぜかはわからないが、今は踊るのが一番いい気がしてきた。それに最近、踊る機会がなくなってきてるし。幻想郷に来る前は貴族たるもの云々で嫌でも踊らなければならなかったが、環境が変われば生活も変わるものなのだなぁ。
そんなことはどうでもいいか。今は、この体の火照りをとめなければ。
……疲れた。踊るのってこんなに疲れたっけ。最近たいして運動してなかったからなぁ、たまには自分で身の回りのことをしなくては。
……しかし、まだ足りない。体は満たされたようで、さっきまで動きたくて動きたくてたまらなかったのが嘘みたいに静まりかえっているが、心がいまだ乾いている。
なぜだろうか。幻想郷に来るまでは、心が乾いていると感じることなどなかったのに。
……いや、もしかするとずっと乾きっぱなしだったからかも知れない。
外にいた時は、両親がいなくなったときもそんなに悲しくならなかった。むしろやっとうるさいのがいなくなったと喜んだほどだ。
今思うとあの時の自分にぞっとしてしまう。なぜだろう、あのワタシはこの私と同じはずなのに。
環境というのはすごい。生活はおろか個まで変えてしまうのだから。ワタシの時はわざわざ館を抜け出して踊るなんてことはなかった。それに、こんなにさびしい気持ちになることも。
―――なぜさびしくなっているのだろう。やはり一人だからだろうか。ではなぜ一人だとさびしくなるのか。わからない……と思いたいところだが、残念なことにもう答えはでている。
甘えたいのだ。誰かに。
両親がいなくなった時、自動的に自分が紅魔館の頭首になった。あの時は、やっと自分が長になったと飛んで喜んだ。よく考えなくても無理をしていたんだと思う。両親がいなくなり、館を一人で支えなければならなかったのだ、多少無理をしなければ館が潰れてしまう。自分がしっかりしなければ、しっかり、しっかり……。そんなことばかり考えていた。
しかし、幻想郷にきてからはそうする必要がなくなった。外では吸血鬼というだけで恐れられ、蔑まれ、殺されようとしていた。だから常に気を張らなければならず、心身ともに疲れ果てていた。それが、ここではどうだ。吸血鬼よ、と言ったら、ああそうかいで終わり。
私の周りがおかしいだけかもしれないが、とにかくその一言が妙に嬉しかった。もう気を張る必要はないんだと、その時実感した。
実感したら、今まで必要なかった感情がわいてきた。巫女やら魔法使いやらによくくっつくようになった。でも、一番甘えたり、なでてもらったりしたのはこの二人ではない。つらい時も、うれしい時も、巫女にいじめられた時も、常にそばにいてくれた。必要になった感情を、全てみたしてくれた。多分、もうすぐ―――
「……お嬢様、やっぱりここにいらしたんですね」
ほら、やっぱり。いつも通り音もなくいきなり隣に現れた。最初の頃はいちいち心臓が止まるかと思うほどびっくりしていたが、今ではどうということはない。慣れというのは怖い。
「……相変わらずね」
本当に、相変わらずいいタイミングで現れる。しかし、外にいた間、監視されているという感じは全くしなかった。
そんなに私は行動パターンが読みやすいのだろうか。少しくやしい。
「完全で瀟洒ですから」
ふてくされ始めた私を見て、にやけながらそう答えられる。考えてることまでおみとおしのようだ。凄くくやしい。
「そういうのは自分で言うもんじゃないわ」
一矢報いようと考えるのだが、顔を赤くしながらだと、皮肉は皮肉にならないだろう。
「お嬢様公認なので」
ぐう。これ以上会話を続けるのは色々とまずい。……そうだ。
「……そんなことより、ちょっといいかしら」
ぐだぐだと会話を続けるよりも、二人ならもっといいことが出来るではないか。
「はい、なんなりと」
体力も回復してきたことだし、なにより―――
「……私といっしょに、踊りましょう?」
こんなにいい月の下、こんなに大切な人と踊るなんて、これより贅沢なことはないじゃない?
運命を操ることは難しい。私は意識して能力を使えたわけじゃなかった。自分の知らないところで、自分のわからないことが変わることもある。この能力のせいで、運命に踊らされていた時期があった。
でも今は違う。意識しなくても知ることができる。わかることができる。ようは無意識の持ち方だったのだ。運命を踊らせるのではなく、運命と一緒に踊ればよかったのだ。それに気づかせてくれたのは、幻想郷の者たち、紅魔館のみんな。そして、私の大切な従者。世話になっていくだろう。
ずっと、ずっと。これからも。
でもちょっと尻切れ感がな~
寂しいという本音が出たのならガッツリ甘える所もちょっと見たかったです。