紅魔館の主、レミリア・スカーレットは不機嫌であった。
今日は朝から雨が降っている。
昨日も朝から雨が降っていた。
一昨日は少し晴れたかと思ったら、昼過ぎから雨が降ってきた。
三日目も朝から……。
そう、幻想郷は梅雨の真最中であった。
梅雨を好きな人間や妖怪はあまりいないであろう。
ましてや、レミリアは吸血鬼である。流れる水に晒されると身動きが取れなくなるという弱点があるのだ。
しかし、スカーレット家の当主たる者、梅雨ごときで腐っていていいものだろうか。
いや、よくない。
レミリアは梅雨を克服する努力をしてみることにした。
傘はダメだ。
普通の傘の場合、少しでも雨が強いとき、風が強いとき、すぐに雨粒はレミリアの肢体に襲いかかる。一度侵入を許したが最後、体が硬直し、手は傘を握ることができなくなり、後は悲劇が待つだけだ。
大きい傘を試してみた。
直径10mほどの傘だ。これならば左右から雨が侵入してくることはない。ご丁寧にスカーレット家の紋章が記されている。巨大ゆえにかなりの重さだが、吸血鬼の腕力を持ってすれば軽いものである。
「見なさい、咲夜。これで怖いものな……へぶぅ!?」
門に引っかかった。
飛んでみた。
「空なら引っかかるものなんてぇぇぇぇぇぇぇぇ……!?」
風をモロに受けて飛ばされた。
河童を用意した。
「さあ、にとり。あなたの知恵を借りるわよ」
雨には河童という話をどこかで聞いたことがあるからだ。
しかし、雨に当たることが好きな河童に、雨を避ける方法を聞くことなどできるはずもなかった。
雨が当たらないようにすればいいという考えを発展させ、全身を包帯でグルグル巻きにした。
咲夜に見つかり、ベッドに移送された。
「……! ……!? ……//////」
文句を言おうにも、包帯で口が塞がっていたので何も言えなかった。
お姫様抱っこされたのは少し嬉しかった。
せっかく時間をかけて巻いた包帯がもったいなかったので、たまたま遊びに来ていたアリスに思い切り引っ張ってもらい「お戯れを~」と言ってみた。
ちょっと興奮した。
アリスも同意した。
いっそのこと大元を断ってみようか。
雨は空から降ってくる。
ならば……。
「フラン! 空を破壊しなさい!!」
「OK、お姉様! きゅっとして……!」
咲夜に止められた。
滅茶苦茶怒られた。
「しゅん……」
へこんだ。
「ああ、もう! このレミリア・スカーレット、ここまでコケにされて黙っているわけにはいかないのよ!」
レミリアはついに本気を出すことにした。
雨は無数の雨粒が空から降ってくる現象だ。
無数の雨粒を無数の弾幕と考えれば……?
「やってみせる……!」
レミリアは不適に笑った。パターンがなく、密度の高い無数の弾幕、これらを全て避けるという難行に対し、レミリアの戦士としての本能が強く刺激されたのだ。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
レミリアはまばたき一つせず上を睨みつけ、ひたすら雨粒を回避しながら進んだ。
雨粒弾幕はとても濃く、全てを紙一重にかわさなければ先が続かない。
レミリアはひたすら回避した。
「不夜城レッド!」
避けきれないときはスペルカードで雨粒を蒸発させた。
ひたすら避ける、避ける、そして避ける。
その動きは、もはや華麗な舞そのものであった。
(見える……! 雨粒の動き一つ一つがはっきりと! 今、私は天と一体化した……!)
半日かけ、レミリアは博麗神社にたどり着いた。
狂ったように踊りながら近づいてくるレミリアを発見した霊夢は、全力で夢想封印を撃とうとしたが、レミリアに凄い形相で睨まれたのでやめておいた。
(もう春はとっくに終わったのに……)
霊夢がぼんやりとそんなひどいことを考えていると、ついにレミリアはノーミスで博麗神社の縁側までたどり着いたのであった。
「やった……! やったわ、霊夢! 私はやりとげたのよ! もう梅雨なんて怖くないわ!」
感極まって抱きついてくるレミリアを迷惑そうな表情で抱きとめながら、あまりに喜んでいるレミリアを無下に扱うのも気が引けるので、とりあえず「よしよし」と背中を軽く叩く。
ひとしきり興奮が冷めた後、レミリアははたと気づいた。
雨はやむ気配がなく、また同じことをして紅魔館に戻る気力はもはやない。
「ねえ、霊夢……」
体をもじもじ動かしながら、視線をちらちら霊夢に送る。
「今晩……泊まっていい?」
翌日、霊夢の部屋で夕方近くに目が覚めたレミリアは、ぼんやりとした頭で枕もとに置いてあった「文々。新聞」最新号を手に取った。
その一面で高らかに宣言されていた。
「本日、梅雨明け!」
今日は朝から雨が降っている。
昨日も朝から雨が降っていた。
一昨日は少し晴れたかと思ったら、昼過ぎから雨が降ってきた。
三日目も朝から……。
そう、幻想郷は梅雨の真最中であった。
梅雨を好きな人間や妖怪はあまりいないであろう。
ましてや、レミリアは吸血鬼である。流れる水に晒されると身動きが取れなくなるという弱点があるのだ。
しかし、スカーレット家の当主たる者、梅雨ごときで腐っていていいものだろうか。
いや、よくない。
レミリアは梅雨を克服する努力をしてみることにした。
傘はダメだ。
普通の傘の場合、少しでも雨が強いとき、風が強いとき、すぐに雨粒はレミリアの肢体に襲いかかる。一度侵入を許したが最後、体が硬直し、手は傘を握ることができなくなり、後は悲劇が待つだけだ。
大きい傘を試してみた。
直径10mほどの傘だ。これならば左右から雨が侵入してくることはない。ご丁寧にスカーレット家の紋章が記されている。巨大ゆえにかなりの重さだが、吸血鬼の腕力を持ってすれば軽いものである。
「見なさい、咲夜。これで怖いものな……へぶぅ!?」
門に引っかかった。
飛んでみた。
「空なら引っかかるものなんてぇぇぇぇぇぇぇぇ……!?」
風をモロに受けて飛ばされた。
河童を用意した。
「さあ、にとり。あなたの知恵を借りるわよ」
雨には河童という話をどこかで聞いたことがあるからだ。
しかし、雨に当たることが好きな河童に、雨を避ける方法を聞くことなどできるはずもなかった。
雨が当たらないようにすればいいという考えを発展させ、全身を包帯でグルグル巻きにした。
咲夜に見つかり、ベッドに移送された。
「……! ……!? ……//////」
文句を言おうにも、包帯で口が塞がっていたので何も言えなかった。
お姫様抱っこされたのは少し嬉しかった。
せっかく時間をかけて巻いた包帯がもったいなかったので、たまたま遊びに来ていたアリスに思い切り引っ張ってもらい「お戯れを~」と言ってみた。
ちょっと興奮した。
アリスも同意した。
いっそのこと大元を断ってみようか。
雨は空から降ってくる。
ならば……。
「フラン! 空を破壊しなさい!!」
「OK、お姉様! きゅっとして……!」
咲夜に止められた。
滅茶苦茶怒られた。
「しゅん……」
へこんだ。
「ああ、もう! このレミリア・スカーレット、ここまでコケにされて黙っているわけにはいかないのよ!」
レミリアはついに本気を出すことにした。
雨は無数の雨粒が空から降ってくる現象だ。
無数の雨粒を無数の弾幕と考えれば……?
「やってみせる……!」
レミリアは不適に笑った。パターンがなく、密度の高い無数の弾幕、これらを全て避けるという難行に対し、レミリアの戦士としての本能が強く刺激されたのだ。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
レミリアはまばたき一つせず上を睨みつけ、ひたすら雨粒を回避しながら進んだ。
雨粒弾幕はとても濃く、全てを紙一重にかわさなければ先が続かない。
レミリアはひたすら回避した。
「不夜城レッド!」
避けきれないときはスペルカードで雨粒を蒸発させた。
ひたすら避ける、避ける、そして避ける。
その動きは、もはや華麗な舞そのものであった。
(見える……! 雨粒の動き一つ一つがはっきりと! 今、私は天と一体化した……!)
半日かけ、レミリアは博麗神社にたどり着いた。
狂ったように踊りながら近づいてくるレミリアを発見した霊夢は、全力で夢想封印を撃とうとしたが、レミリアに凄い形相で睨まれたのでやめておいた。
(もう春はとっくに終わったのに……)
霊夢がぼんやりとそんなひどいことを考えていると、ついにレミリアはノーミスで博麗神社の縁側までたどり着いたのであった。
「やった……! やったわ、霊夢! 私はやりとげたのよ! もう梅雨なんて怖くないわ!」
感極まって抱きついてくるレミリアを迷惑そうな表情で抱きとめながら、あまりに喜んでいるレミリアを無下に扱うのも気が引けるので、とりあえず「よしよし」と背中を軽く叩く。
ひとしきり興奮が冷めた後、レミリアははたと気づいた。
雨はやむ気配がなく、また同じことをして紅魔館に戻る気力はもはやない。
「ねえ、霊夢……」
体をもじもじ動かしながら、視線をちらちら霊夢に送る。
「今晩……泊まっていい?」
翌日、霊夢の部屋で夕方近くに目が覚めたレミリアは、ぼんやりとした頭で枕もとに置いてあった「文々。新聞」最新号を手に取った。
その一面で高らかに宣言されていた。
「本日、梅雨明け!」
>霊夢の部屋で夕方近くに目が覚めたレミリア
同衾…!
梅雨は確かにじめじめして辛いけど、この時降った雨が後々役に立つのです。
夏を楽しみにしつつ、我慢しましょう。
雨粒回避は幼少期から実行しようとしては1秒足らずで被弾してたっけ。
思いつきで動いて、尚且つそれを実行できるだけの能力。やっぱりレミィは見てて楽しいなぁ
このレミリアなら霊夢や魔理沙にも負けませんね
おぜうの努力に思わず涙がw
先生! 私もおぜうに悪代官ごっこがしたいです!
どうやって帰るんだろう
自然だろうが、気象だろうが物怖じせずに喧嘩を売りやがる
>>2さん
>同衾…!
色々ご想像に任せます。想像は無限大です。
>>7さん
確かに、梅雨は大事な時期です。この雨がないと夏に大変なことになりますものね。
>>8・25さん
僕の脳内では、傘を貸せばいいだけなのに、レミリアを背負って傘をさし、ふよふよと紅魔館まで飛んでいく霊夢の姿が。
>>9・13さん
やっぱりやりますよね、雨弾回避。僕もやって、すぐ挫折しました。でも、レミリアなら、レミリアなら何とかしてくれる……!
>>東雲一葉さん
僕もレミリア相手に悪代官ごっこがやりたいです!
>>19・23
ありがとうございます。オチとして弱いのではないかと不安だっただけに嬉しいです。
>>27さん
そんなかっこいいレミリアが大好きです。
>>32
レミリアが主人公の話はこの後もいくつか書いていっているのでよろしくです。
>>40
スラスラと読まれる作品を目指しているので嬉しいです。
>>42
レミィはとても書きやすいです。さすがカリスマ。
爽やか!