──キライ、キライ、キライ、スキ、キライ、キライ、スキ、キライ……
心の中で念じるたびに、花びらが一枚ずつ壊れてゆく。ところどころにスキを挟みながら、最後は必ずキライで終わる花占いは、何もやることがないときの定番の遊び。この部屋には、花が多すぎだ。お姉様は何を思ってか、ここを花で埋め尽くそうとする。どうせ、自分がそれだけ気にかけていることの実績づくりに違いないんだ。いつだって体面が一番大事。それこそ、体面のためなら恥も外聞もなくしそうなぐらいに。
しばらく花で遊んでいると、だいぶ少なくなってきた。そうそう、これぐらいがちょうどいい。どうせまた無駄に増やされるんだろうけど。
そろそろ飽きてきたから、今日は部屋の外にでも出てみようか。表に出ることが許されていないとはいえ、特にこの部屋が厳重に封印されているわけではない。だって、そんなものは、私にとっては何の意味もないから。私を縛るのは、お姉様が私が外に出ることを許していない、というただそれだけのこと。それだけのことなのに、どうしてか、私の心は縛られる。でも、その拘束具は、それでも、ばらばらになりそうな心をかろうじてつなぎとめているのかもしれないのだけれど。
「行ってきます」
誰に言うでもないが、儀式のようなものとして、外出の意を表現する。扉に手をかけ、押し出そうとしたが、なぜか手応えがない。それもそのはず、扉が勝手に開いたのだ。開いた先にはとある人物がいて、そいつが私より先に扉を動かしたようである。いつだって、少し私に先んじる。まったくもって、忌々しい。
「あら、お姉様」
「フラン。貴方は、おはようかしら」
「こんにちは、お姉様」
「どこかへ行こうとしていたの?」
「当てはなかったけど」
「そう。それなら、ついていらっしゃい」
そう言うと、お姉様は背を向けて行ってしまった。叱りでもするのかと思ったが、どうしたことだろう。四九五年で初めての展開に、少々面食らいながら、とりあえず後をつける。
「私に何か用があったの?」
「私は何も用はなかったよ」
「じゃあ何で」
「美鈴がね、見せたいものがあるんだとさ」
美鈴が? 見せたいものが何かは気になるけど、気になるといえば、お姉様はわざわざそれを伝えるためだけに私の部屋まで来たのだろうか。知らないうちに下剋上が起きて、紅魔館の元主は元門番の使いっぱしりに身をやつしたとか……はないだろうし、まあ単なる気まぐれだろう。
「お姉様も暇人ねえ」
「人じゃないし。それに、門番を門から引き離すほどの用事じゃないのよ」
「暇なのは否定しなかった」
「暇だもの。咲夜は出かけているし、図書館には魔理沙が来ているわ。美鈴はフランに用があるとなれば、私は神社にでも行こうかしら」
「暇吸血鬼ねえ」
「何だそれ。まったく、相変わらず姉に対する口のきき方がなってない」
「お姉様はお暇な吸血鬼ですわね?」
「はいはい」
手をひらひらさせて全く取り合ってくれない。『姉に対する口のきき方』なんか教わったこともない。でも、良く考えれば、何も教わったことはなかった。何かをやっては、禁止されるばかり。どうすれば良いのかなんて、知らないし、考えない。聞かないから判らないままだけど、できないことに対しても、もう、何も言われない。「ない」ばかりあっても、面白くないのに、その、面白くないという思いさえ、私にとっては一時的なものでしかない。
「美鈴は何を見せてくれるのかな」
「大人しくしているのよ」
「はいはい」
手をひらひらさせてみる。ひらひら、何か儚い感じが気に入った。ひらひら、その軽さが今の私には心地よい。
「何も壊さないことと、美鈴の言うことを聞く。この二つぐらいは守りなさい」
「はいはい」
手の動きに一捻り加えてひらりひらり。こんな感じの弾幕つくれないかなぁ。そんなことを考えていたら、どんどん周囲が気にならなくなって、頭の中でパターンづくりに没頭していた。お姉様が何か言っているような気もするけど、やっぱり気にならない。
いつの間にか、館の入り口近くまで来ていたらしい。妖精メイドが手に何かを持って待っている。お姉様はそれを受け取ると、私の方に突き出した。
「これを持っておきなさい」
「日傘?」
「そうよ」
「見たことない柄」
「新しいものだからね。貴方のものよ」
「うえぇ、珍しい」
思わず変な声が出てしまった。お姉様からまともなものを貰ったのなんて、もしかしたら初めてかもしれない。これは豪雨でもくるんじゃないか。だとしたら、雨傘も貰わないといけないかな。
「何よ、その顔は」
「何でもない。ありがとう、お姉様」
照れ隠し失敗。ちょっと怒った感じになってしまった。こういうところをそつなくこなせたら、もうちょっと上手にコミュニケーションがとれるのに。まぁ、終わってしまったことはどうしようもない。それより、この新しい日傘のなんと素晴らしいことか。レーヴァテインのように振り回してみると、びゅんびゅん回って、とても楽しい。弾幕の一つや二つ、打ち返せるような気もしてきた。
お姉様は、そんな私を見て、ため息を一つ。そのまま、妖精メイドを連れて館の中に引っ込んでいった。バイバイ、私のお姉様。
それよりも、お外が私を待っている。傘をふりふり、羽をぱたぱた。光に向かっていくのは少し勇気がいるけど、今の私には日傘がある。いつでも開くことのできるように準備をしておいて、覚悟を決めて駆け出す。
それっ……!
ぽすっ。
影の外まであと一歩のところで、柔らかい衝撃に包まれる。それ以上に進むことができなくて、しばし混乱したけれども、どうやら誰かに抱きついているような体勢になってしまっている。見上げてみたが、服が邪魔をして、顔が見えない。
「顔なし妖怪だ」
「失礼ですね」
「声は美鈴なんだけどなあ」
「美鈴ですよ」
体が離れる。そこには、確かに美鈴がいた。
「怒った?」
「そうですね。今度咲夜さんに同じことをして『咲夜は顔が見えるね』って言ってくださるなら怒りません」
「わかった。そうする」
さて、咲夜は言わんとするところがわかるだろうか。いや、わかるようにやらなきゃいけないんだろうなぁ。きちんと美鈴のせいにすることも忘れちゃいけないし、これは思ったより大変かもしれない。
「楽しみですねえ」
「それで、何を見せてくれるの?」
「実は決めていなかったのですが……とりあえず、紅魔館でも見ていただこうかと」
「んー、今でも見てるけど」
「見るといっても、ただ目に映すというわけではありません。知るというか、何というか、ですね」
うむ、言いたいことはわかる。確かに、そういう意味でいえば、目には映っていても、見ていたわけではなかった。仮にも自分の家だし、悪くない。
「それじゃあ、何を見せてくれるの?」
「とりあえず、私の管轄からにしましょうか。別に、今日一日ですべて見る必要もないですし」
「ん、いいよ」
日傘を開いて、太陽を遮り、自分専用の影を作る。自分が動くのに合わせて影が追いかけてくるのは、わかっていても楽しい。この薄い薄い、すぐに破れてしまいそうな生地が一枚あるだけで、普通に歩きまわれてしまうというのもどうかと思うけど、ただ、これがなければ私の身は焼き焦がされてしまうというのも事実。いや、信じられないよね。ちょいと試しに陽光を浴びてみようか。もしかしたら少し痛いぐらいで大したダメージ受けないかもしれないよ。
そう思って、試しに日傘を傾けて自分の体を影から外してみることにしたけど、何故か私の体はどうともならず、それもそのはず、いつの間にか美鈴が太陽と私の間に立ちふさがって影を作っていた。
「何でよ」
「フランドール様には自殺願望でもあったのですか」
「いや、試しに」
「そんな理由で目の前で灰にでもなられたら気分悪いじゃないですか。気にかかって夜しか寝られなくなります」
「十分じゃない」
「あはは、そうでした。でも、気分悪いのは本当なので、私の前ではしないでくださいね」
「美鈴の前じゃなければいいんだ」
「まあ、駄目なんですけど。そこまで口出しすることじゃないですから。あ、そこ左です」
言われたとおりに曲がる。いつの間にか、日傘は美鈴に取り上げられていた。でも、差してもらうのも悪くないな、と思う。歩きながら、いま美鈴が言ったことについて考えてみる。今日は初めて体験することばかりで、これもその一つ。これまで、誰かに怒られたりするときに、必ずつきまとってきた一言があって、それは『貴方のため』という言葉。これによって私のためを思って言ったという体裁になるけど、実際はそんなことない。それに比べて、美鈴は自分が嫌だからするな、と言った。しかも、自分の見ていないところなら何をしてもいいらしい。こういう言い方のほうがずっと効果があるような気がする。自分で言うのもなんだけど、多分に私には捻くれたところがあるから。
左に曲がったところは、花畑になっているらしく、色とりどりの花が咲いていた。あ、私の部屋にあるものと同じだ。ここから来てたんだ、というか、美鈴が育てていたんだ。
「美鈴が余計なことしてたんだね」
「何ですか、急に」
「ここの花たち、壊しちゃダメ、だよねえ」
「そうですねえ」
「美鈴が嫌だから?」
「それもありますし、可哀想じゃないですか」
「花が?」
「そうですよ。今もフランドール様が邪な気をだしているから嫌がってます」
「そっか。じゃあ、やめる」
「ありがとうございます」
「ねえ美鈴、花を壊すのがダメで、どうして摘むのはいいの?」
「難しい質問されますね。あえて説明するなら、花に対する思いの違いじゃないでしょうか」
「そっか。美鈴は物知りだね」
「フランドール様も、花を育ててみるとわかるかもしれませんよ」
「自信ないねー」
私はずっと、花を邪魔だと思っていたし、さっきもそう思っていた。そもそも、私の部屋に運ばれるのは既に摘まれた、いわば死んだ花ばかり。私が壊したとしても、殺すことに比べればずっとマシだろう、そういう言い訳も用意していた。でも、美鈴によると、そこには違いがあったらしい。花を良いと思って、その花の良さを誰かに伝えたくて、だから花を摘むのは許される。花を邪険に扱って、その花を消し去りたくて、だから壊すのは許されない。
少しだけ、花に対する認識を改める。だから、これまで知らなかったことを取り返すように美鈴にそれぞれの花々について質問していって、そして、美鈴はその一つ一つに丁寧に答えてくれた。こんなに多くのことを教えてもらったのは、初めてかもしれない。美鈴がこんなに教えてくれる人だなんて、知らなかった。
「お、そろそろ日が落ちてきましたね」
「それがどうしたの?」
「今日一番見ていただきたい場所にご案内しようと思いまして」
そう言うと、美鈴は私の手を取って歩き出した。館の影がだいぶ長く伸びているおかげで、日傘はもう必要ない感じ。閉じた傘をくるくる回しながら、今度はどこへ連れていかれるのか楽しみにしていると、前方に門が見えてきた。
「門だよ」
「門ですねえ」
「見ていただきたい場所って、ここ?」
「ここと言えないこともないですが、もう少し先です」
段々と門が近づいてくるなー、と思っていると、突然ぱっくりと左右に開きだしたから、思わず羽がぴんとなってしまった。
「おおお、自動だ」
「いえいえ、そんな代物ではありませんよ」
美鈴の言葉を裏付けるように、妖精メイドが二匹現れた。
「私が花畑の方にいる間は、彼女たちに見張りを頼んでいるんです」
「そうなんだ」
「お二人とも、お疲れ様でした」
館へと帰って行くメイドに手を振る。バイバイ。
「さ、フランドール様。私が見せたかったものがこちらです」
美鈴に促されて、門をくぐると、そこは紅く染まった景色があった。自然といえば緑か青か、そう勝手に思い込んでいたため、面喰ってしまって言葉も出ない。羽をばたばたさせながら美鈴と景色を交互に見る。
「驚いてくれました?」
首を縦にぶんぶん振る。目を丸くするっていうのはこういうことなんだろうね。
思わず駆け寄ってしまいそうになったが、それは美鈴に優しく止められる。
「まだ日が当たっていますから、影の外に出ないように気をつけてくださいね」
「ん。わかった」
建物の影が湖面にまで届こうとしていたので、影の外に出ないようにしながら、湖の手前まで行く。まるで鏡のように真っ平らな表面に、湖畔の樹が映っていたり、それが時折吹く風によって波打ったり、何より水上を通り抜けてきた風はひんやりとして気持ちいい。振り返ると、夕陽を背負った館が見える。一つの情景として紅魔館を見たのも初めて。でも、一度見てしまうと、もう夕暮れ時の紅魔館を見ないと紅魔館を見たとは言えない気になってくる。
しばらく立ち尽くしていると、空が紅から紫に近づいてきた。やっと我に返って、門まで戻る。門柱に軽く寄り掛かっていた美鈴もこっちに歩いてくる。
「どうでした?」
「最高だった」
「それは良かったです」
「何だか興奮してきちゃった」
「ま、フランドール様にすれば、これからが本領ですからねぇ」
「ね、しよ?」
「そういうセリフは誤解を招きますからやめてください」
「あれ、前に図書館に忍び込んで読んだ本にはこう言えばだいたいオッケーって書いてあったのに」
「何読んでるんですか」
「今度持ってくるね」
「あ、お願いします。って、じゃなくてですね」
「えー」
「弾幕ごっこなら、今日は無しです」
「何で?」
「今日は勝負ごとをするような日じゃないでしょう」
「まぁ、そうだけどさぁ。でも少しぐらい」
「そうですね……。では、フランドール様はノーショットということなら」
「避け切ったら私の勝ち、ってこと?」
「その代わり、被弾したら負けです。当然攻撃を仕掛けてもいけません」
「うー、わかった。それでもいい」
「あらら。それならいい、という答えを期待していたのですが。まぁいいでしょう」
もうすっかり日は落ちて、代わって月が顔を出している。まだ出てきたてのためか、輪郭が少しはっきりしない。
美鈴は門を背にして、カードを二枚取り出した。
「『彩虹の風鈴』と『虹色太極拳』です。どちらからにしますか?」
彩虹の風鈴は知ってる。霊夢が来たときにも使ってたしね。もう一つは聞いたことがないなぁ。私は好きなものは後に取っておく派だから、まずは知っている方から。
「じゃあ『彩虹の風鈴』で」
「わかりました。それでは、虹符『彩虹の風鈴』」
宣言とともに、虹色の弾幕が放たれる。七色の弾幕は目にも楽しい。これは基本的に固定弾幕だから、記憶している限りだと、大きく動かずに少しずつ避けていけばいいはず。隙間がそんなに大きくないときもあるから、なるべく美鈴の正面を取るようにして、角度がつかないように注意する。
しばらくは慎重にちょんちょんと避け続ける。そのうち慣れてくると視点を少し前方に持っていって、まず頭でどこへ動けばいいかを考えて、そこへ体を移動させる、という作業に入る。すいすいと移動できるようになったら、周りを見る余裕が出てきた証拠。弾幕に目を奪われてちょっと危ないときもあったけど、被弾せずに避け続ける。集中力を切らさないでいられるかが一番の問題で、私は何度も弾幕を出したい誘惑に駆られていた。思わず日傘を握る手に力が入って、ああ、こいつで思いっきり弾幕を打ち返せたらなぁ、などと思ってしまう。
葛藤と闘いつづけながらも何とか弾幕を避け切ることに成功したけど、何だか胸がもやもやした感じ。耐久スペカは精神衛生上は良くない、ということがよくわかった。
「続いていきますよ。彩華『虹色太極拳』!」
さあ、初めて見る弾幕だ。まず、宣言と共に美鈴の周りを七つの弾幕の輪が取り囲む。ざっと色を見ると紫、藍、青、緑、黄、橙、赤で、なるほど虹色。その虹色の輪がくるくる回りながら美鈴の周囲に円を描いて、それぞれが弾列を放ってゆく。そして、くるくるによって遠心力を得た弾列は渦を形作るように広がる。これを避けるなら、回転に合わせて美鈴の周りを回っていくのがセオリーかな。そう思って、一度は列の隙間に飛び込もうとしたのだけれど、でも、セオリー通りの避け方なんてつまらない。ここはやっぱり、気合いで避ける!
美鈴から少し距離を取って、その分広がった隙間に無理やり体をねじ込んでいく。頭の中が変なことになってるのか、テンションは上がりっぱなし。どんどん感覚が研ぎ澄まされて、まるで弾幕がスローモーションになったかのような錯覚がし始める。そして、やっぱりノーショットだなんて我慢できない。一発ぶちかますには何がいいだろうと考えていると、ふとお姉様のスピア・ザ・グングニルが頭に浮かんで、これはもう日傘を力一杯投げつけるしかないだろうと結論付ける。頭の半分は相変わらず弾幕をよけるために使いつつ、残りの半分を使って日傘を魔力でコーティングしつつ投げるタイミングを探す。
幸か不幸か、弾列には時計回りのものと反時計回りのものがあって、それが切り替わるところで数瞬の間ができる。次にそれが来たタイミングで投げよう、そう決意して体勢を整える。来た!
可能な限り大きく振りかぶって、美鈴の体の中心目掛けて私の神槍を投げつける。猛スピードで美鈴目掛けて突進していくが、正直にいうと、どうせ美鈴は避けるだろうとたかをくくっていた。
しかし、次の瞬間に、私はその考えが間違っていたことを知る。美鈴は、美鈴に向かってくるものを確認すると、弾幕を消して、その場に立ち尽くしてしまった。目も閉じて、完全に無防備な状態になっている。やばい、このままだと、直撃しちゃう。いくら美鈴が鍛えているといっても、無傷ではすまない可能性が高い。
まさかの展開にびっくりするが、私に残された選択肢はほとんどない。そうこうしているうちに日傘が美鈴を貫通してしまう。私は急いで日傘の「目」を探す。こうなったらキュッとしてドカーンするしかない。あったっ、来い!
間一髪、何とか日傘が美鈴に到達する前に壊すことができた。ほっと胸をなでおろすと、今度は美鈴に対して怒りがわいてくる。
「美鈴! どうして!」
すっとんで行って睨みつける。美鈴は、ちょっと困った顔をした。
「フランドール様が、約束を破ったから、でしょうか」
「……」
「約束を破ったら、罰を受けてもらわなければいけません」
「何が罰なのよ」
「フランドール様が、私を傷つけてしまった、ということですよ」
そんなものが罰になるのか、と言おうとしたが、同時にそれが罰になることもわかっていた。最悪の場合、私は美鈴を失ってしまったかもしれないのだ。
「美鈴、怒った?」
「そうですね。次は約束を破らない、って約束してくれるなら怒りません」
「わかった。約束する」
「ありがとうございます」
美鈴はそう言うと、私をぎゅっと抱きしめて地面に寝転んだ。されるがままにしていると、流石に息苦しくなってきて顔を上げる。美鈴と目が合うと、にっこり笑って解放してくれた。隣に寝転ぶと、星が輝いているのが見えた。
美鈴は唄を歌い始め、それは私が聞いたことない、ゆっくりと、落ち着いた調べで、だんだんとわたしはねむくなっていった……。
そして次に私が目覚めたときは、いつもの地下室のベッドの上。
思わず夢オチなのかと焦って、どこかに昨日自分が何をしたのかわかるものがないかと探してみるけど、もちろんそんなもの見つからなくて、どんどん不安になっていったときに、お姉様がやってきた。
「おはよう、フラン」
「おはようございます、お姉様」
「フラン、結局、美鈴の言うことも聞かず、日傘も壊してしまったのね」
夢オチの危機は回避されたけど、こうやって改めて自分のやったことを聞かされるというのも辛い。
「そんなことじゃ、貴方を外に出すのも先延ばしにしなきゃいけない」
「……」
お姉様を失望させてしまった。でも、仕方ないよね。
「まったく……」
「……」
何だか泣きたくなってきちゃった。
「フラン」
「……はい」
「これ、美鈴から」
「えっ?」
お姉様の後ろから、鉢植が一つ現れる。そこにはカードが一枚刺さっていて、そこには『また来月お会いしましょう 美鈴』と書かれていた。
「それじゃあ、渡したから」
お姉様はそれだけ言うと行ってしまった。扉が閉まる音で我に返る。ちょっと遅いかもしれない。それでも、私はこう言わずにはいられなかった。
「ありがとう!」
やっぱり何だか泣きたくなってきちゃって、鉢植にやった初めての水は、たぶん、少し塩からかった。
どうにも不器用になってしまうレミリアとの対比も、見事ですね。
レミリアの、一所懸命にフランの事を考えてはいるけれど、不器用で原則に拘り過ぎ気味な対応。
どちらもフランには大切で必要な事ですよね。
フラン自身も、さすがレミリアの妹というべきか結構不器用気味なのが、読んでいて、もどかしくも愛しいです。
夕暮れの紅魔館の美しい風景の中の優しい物語をありがとうございました。
レミリア……不器用な娘……(ぶわっ
そんな俺を喜ばせるにはこの作品は十分過ぎた
実に綺麗なお話でした。
……が、それ以上に『咲夜は顔が見えるね』と言われた咲夜さんと、その後の美鈴が気になります。
むしろ自殺願望があるのは美鈴じゃないかと思う昨今w