あれは──
一人の少女が、樹にもたれかかっていた。 空は青く、一点の陰りもない。眼前には、僅かばかりの芝生と、白い砂浜。
サファイアのような透き通る青みをもつ海が、ざざんと小さく波打つ。
少女は目を凝らす。すると、何者かがぱちゃぱちゃと水を飛ばし、はしゃいでいるのが見て取れた。
あれは何者だろうか。もっとよく目を凝らす。
──リア、おいでよ
大きな麦わら帽子。その中からきれいに流れる黒い髪。水に濡れて艶めかしい。
白い薄手のワンピースが風に揺れている。それは、風に吹かれて飛んでいってしまいそうなほどに儚くて。
彼女の心はどこか透明で、在り処がわからなかった。眼前にあるそれすら、目を凝らしていないと、見失ってしまいそう。
だって、とてもきれいで透明な蒼海だから。
びゅぅっと強い風が吹いた。
あっ、と切れたような声とともに、麦わら帽子が宙を舞う。
それは木陰でその少女を見つめていた彼女の手元へ舞い降りた。
少女は海から上がって、彼女のもとへぱたぱたと走り寄る。
「ありがと、飛ばされちゃった。──リアもおいで?楽しいから」
「そうね、霊…」
木陰より出でた瞬間、くらっと思考が揺れる。
次の瞬間、ふっと視界が閉ざされてしまった。
◇◇◇
神社に、他愛のない話をして、時の流れを愉しむ少女達がいた。
ざぁざぁ降る雨はあまり好ましくなかった。
「ふくらぎってしってる?ちっちゃいぶりはふくらぎっていうんだって」
「へぇ。大きくなれば名前が変わるんだ。まるで立場みたい」
「知っていたかのような返答ね。この魚、出世魚って言うんだって」
う、ちょっと用を足しに。そう呟いた彼女は部屋を後にした。
残された少女は待った。
他人の部屋に一人ぼっちというのは中々落ち着かないもので、そわそわした。
壁にかけられている、簡素な飾り気の無い時計の縁が気になる。
天井の木目のひとつが、顔に見えた気がする。
湯飲みの中はもう空っぽ。
降りしきる雨の地を打つ音が耳障りだ。
押し入れの中を覗いてみたくなったが、いつ帰ってくるか分からない彼女をおそれ、動くことは出来なかった。
相当な時間が流れた気がする。さっき押入れを覗いても気付かれなかったな、と後悔した。
どれほど待ったろうか。3分か。3時間か。
痺れを切らした少女は、神社のどこにもいない彼女を探しに外へ飛び出した。
雨に打たれた少女は、かくんと崩れ、地面に縫い付けられ、やがて視界を閉ざされてしまった。
◇◇◇
がやがやとけたたましいまでの喧騒の街。
隣にはいつぞや夢で見た人。今は紅と白のコントラストが印象的。
どんな格好をしても美しい。引き込まれてしまいそう。
頑張り屋な太陽は強い日差しを放つ。暑い。日傘を差していないと、きっと真っ黒になってしまう。夜になったら見分けがつかない。
けれど、ぴったり寄り添う彼女達は離れることはできなかった。
ここらもずいぶん石色が増えた。
辺りを見回せば、白くて角ばった建物。それと、小さな旗に少しばかりの色。
旗には、還元セール中と書かれていた。
あっちの建物にはたくさんの果物が置いてある。
あれは…梨か。りんごもある。バナナや、オレンジ。あの大きいのは、メロンじゃないか。
その近くに、チョコレートの流れる塔と大きな手製と思しき看板が立っていた。
チョコレートフォンデュに。カットフルーツあります
「あれ、美味しそうね」
ちょっと寄ってみようよ、と引き込まれるように塔に近寄った。
オブジェのようなチョコレートの塔に、彼女らは驚きと好奇のまなざしを隠さずにはいられなかった。
受け取った果物をその塔へ挿し込んだ。
黒くまみれたバナナは、濃厚な甘みと爽やかな甘みが個々の味を主張して、面白い味になった。
黒くまみれたイチゴは、濃厚な甘みの中に仄かな酸味がきいていて、とてもよく調和していた。
満足した彼女らは、もと目指していた場所へと再び歩みを進める。
やがて辿り着いた洋服店では、あれでもないこれでもない、と取っては変え取っては変えを繰り返す少女達が見られた。
「これ似合うんじゃない?ほらっ、これ」
「そ、そうかしら?」
「うん、可愛い!鏡見てみたら?」
そっと鏡を覗き込んだ。
くらっと思考が揺れた後、ふっと視界が閉ざされてしまった。
◇◇◇
まんまるの月が夜空に君臨している。
冷たい夜風が吹き、木々の葉を揺らす。
魔空に点々と煌く星々は手を伸ばせば届きそうなほどに近かった。
「私は小さな星に用はない。あの大きな月がほしいの」
「ゴーマンなこと言うのね。私とあの月、どっちが綺麗?」
「太陽のように眩しすぎて、触れられないよ」
言って紅く火照った顔を冷ますように、滑空するスピードを上げる。
吹き抜ける風が気持ち良い。風を切る音が心地良い。生い茂る木々を紙一重で避してゆくのは悦楽の極みだ。
キリキリと軋む弦から解き放たれた紅晶の矢のようだ。
「そう思うだろう?霊──」
「樹をぶち抜きながら言う台詞じゃあないわね」
「まったくだ」
樹の片側から脚を生やし、もう片側からは胸から上を生やした少女が笑う。
少女は大樹の拘束など空気ほどにしか思わぬという様子で、するりと抜け出すと再び羽を羽ばたかせ滑空を始めた。
「でも、矢は刺さってこそ」
「ふふっ、言い訳にしか聞こえない」
くくっ、と笑い、くるくると旋回を繰り返し、錐揉み状態で落ちてゆく。
この、肌着の中に氷を放り込まれたような感覚。少女は悦楽に浸る。
「ねぇ、私があなたの傍に近寄ったらどうなるの?」
「どうなるかな」
「試してみるね」
ぴたりと静止した彼女らは、ぴったりと体を寄せ合って、互いの瞳を見つめる。
互いの心音が感じられた。
小さな胸の中で心臓が大きな音を立てる。とても力強い音。
「太陽は、熱すぎる」
「あなたも熱いわよ」
「もっと熱くてもいいかもしれない」
目をぴったり閉じた少女は、恋し黒髪の頭に手を回し、口を寄せる。
「ま、待って、今日の夜ギョーザ食べっ…
唇と唇が触れ合った瞬間、くらっと思考が揺れる。
次の瞬間、ふっと視界が閉ざされてしまった。
「おはようございます。お嬢様」
「夢も現も、残酷だ」
レミリアお嬢様は嫁(こあレミorパチュレミ)であって欲しい。です。
ですがサディスティックお嬢様も良いモノですよねあぁんもっt(ry
次回こそはくるとん×こあさんフラグが立つと信じてポケモンしながらお待ちしておりまするるるるる。
俺としてはがっつり読んでみたいなと思ったものの、それはおいといて。
この淡々と流れるような文もいいですね。レミィの夢(妄想)…死んだら先は見れないとw
レミィの恋は波乱万丈だ。
長い話も読んでみたい。そう思わせてくれる作品でした。
あと、無駄に間を空けすぎているし―を使いすぎていると思います。
―は要所で使ってこそ効果的なものなので、使いすぎると返って読みづらくなってしまいます。
どうぞ気をつけてください。
しかも、ドジっ子デビューとは……凄い技です。
火忍さんの今後にさらなる期待。
ドジっ子にも期待。
久し振りにあなた様の作品が読めて楽しかったです。
夢見るお嬢様…いいぜ。